二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 140話 「森の中の研究所」 ( No.541 )
- 日時: 2017/02/22 15:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ミリンを追うルミスに、恋と浬。
結局、ミリンの歩を止めることはできず、ルミスが見つけたという【鳳】の拠点らしき研究施設まで辿り着いてしまった。
「ミリンさん、本当にやめましょうよ。ザキさんやウッディ君もいないですし、恋さんや浬さんがいる現状で【鳳】と接触するのはリスクが高すぎますって……」
「リスクリターンだけでは計れないものもあるのだよ、ルミス。それに、私の推測が正しければ、ここに奴らの実戦部隊はいない。仮にいたとしても、相手が音速隊や獣軍隊でなければ、我々で対処できなくもないだろう」
「でも……」
ルミスは最後までミリンを引き留めようとするも、まるで効果はなかった。
物陰に隠れる四人。目の前にそびえる建物は、確かにそれほど大きな建造物というわけではないようだ。しかし入口と思しき付近には、ステレオタイプの青く四角いロボットが鎮座している。
「ガチャロボ……?」
「警備ロボットだろう。随分と原始的なセキュリティだな」
「あれで原始的なのか」
「こんなところにいたら見つかっちゃいますし、やっぱり逃げた方が……」
「問題ないな」
そう言ってミリンは、白衣のポケットから、ラジコンに使うようなリモコンを取り出した。なにやらポチポチと操作をしている。
「妨害電波だ。これであのデカブツは機能停止。ただのジャンクだな。行くぞ」
「ミリンさんっ! 中の方が危険ですし、一人で勝手に行かないでください!」
リモコンをしまうと、またしても一人でスタスタと歩いて行ってしまうミリン。あまりに強引すぎる言動。なにが彼女をそうさせるのか。
ミリンが建物の中に入り、ルミスがその後を追う。恋と浬も二人の後に続いた。
建物の中は、白い空間が広がっていた。天井も、壁も、床も、すべてが白い。しかしどこも灰色っぽくくすんでおり、真っ新というわけではなく、それが事務的な感覚を与える。室内の至る所には使用用途のわからない機械が大量に設置され、あらゆる箇所から光を発していた。他にも、なにを計測しているのかわからないメーター、なにを表示しているのかわからないディスプレイ。見上げれば、白面を覆い尽くさんばかりの大量のコード。
その内装は、ここが研究所であるという推測を裏付けるかのようだった。
ミリンは入口を潜ってすぐ。吹き抜けのように高くなっている正面の高場に向けて、声を張り上げる。
「いるんだろう。出て来たまえ——発明王!」
その声の直後。
奥から、小柄な男が姿を現す。
ややあどけなさが残るが、陰気な顔立ちの男。ともすれば少年にも見えたかもしれない。
男は白衣のポケットから眼鏡を取り出すと、鋭い眼を誤魔化すかのように装着し、睨むようにこちらを見下ろす。
「まさか【フィストブロウ】自らここに乗り込むとは思わなんだが……お前がいるなら、まあ、納得か。ノミリンクゥア博士」
「久し振りかね? 君とこうして対面するのは」
「顔つき合わせるのも嫌だかなね。結果的にそうなるのは自然だろ」
「それもそうだ」
高いところから発せられる、高圧的に響く声。
ミリンはその高圧さに臆することなく、どこか熱のこもった言葉で返す。
そんな剣呑とした空気で言葉の応酬が繰り広げられる中、浬は男を指して、ルミスに問う。
「何者なんだ、あいつ」
「……私も一度しか対面したことはないのですが、確かあの方は、【鳳】の開発部長……発明王さん、ですね」
「発明王?」
エジソンみたいな名前だと思った。
聞くに、実際彼は【鳳】において大きな技術的貢献をしているらしく、その結果、実戦部隊を支える開発部隊で最も高い地位に着いているとのこと。
「【鳳】の幹部には、男性なら“王”、女性なら“姫”という名をつけられると聞いたことがありますが、開発部隊で“王”の名を持つのは彼だけだったはずです。それに、そもそも開発部隊自体、武闘派な【鳳】では少数派らしいので、幹部クラスは三人しかいないと聞きますね」
要するに、発明王は冴えない見た目でも、かなりの実力者だということらしい。
もっともそれは開発部隊における実力であって、実戦だとどうなのかは、ルミスも知らないようだが。
後ろで三人がそんなことを言っているうちに、ミリンと発明王の口論はヒートアップしていた。
「ところで、まだ君は不毛な研究を続けているのかい? 可能性なんて言葉に逃げて完璧と究極の果てにある最終を目指さないのは、甘えだと思うがね」
「不毛とは言ってくれるな。終わりと対となるのは始まりだ。その過程にあるものは成長だ。これらは同列に連なるものだろう? 終わることばかりを見て、誕生と成長を見失うのは、視野が狭いと言わざるを得ないな」
「君の論は、君が単なる幼女趣味であることを隠すための詭弁にしか聞こえないね」
「お前の勝手な思い込みで僕の趣味嗜好を決めつけるな」
なにを言っているのかはよくわからないが、二人が険悪で、その間には不穏な空気が漂っていることだけは、浬らにもわかった。
「不毛と言うのなら、お前との口論の方が不毛だな。結局、僕と君は相いれない。【鳳】と【フィストブロウ】、組織としてもそうだった」
「それに関しては私も認めざるを得ないところだな。君と同意見というのは非常に癪だがね」
「それは僕とて同じだ……ところで、後ろの二人は見ない顔だな」
と、そこで。
初めて発明王が、恋と浬に目を向けた。
眼鏡越しに二人を睨むように見下ろし、そして、彼らの横に侍るキュプリス、エリアスを見遣る。
「……成程。語り手か」
「見ただけでわかるんだ」
「語り手はついさっきサンプルを解析したから、マナの感覚で大体わかるんだよ」
「サンプル……?」
どことなく不穏な響きの言葉。
しかしそれを言及する前に、発明王は視線を別の方向へと向けていた。
「おっと、忘れていたよ。キキちゃん」
キキ。
その名前に反応したのは、浬とミリンだった。
そして発明の呼びかけに対し、彼の後方の陰から、小柄な人影が現れる。
「もー、せっかくいいタイミングで出てきて驚かそうと思ったのにー。わたしのドッキリ計画が台無しですよ! 開発ブチョーさんは空気読めないんですから!」
「あぁ、ごめんよ」
口では謝りつつも、誠意もなにも感じさせない発明王。
浬は、現れた小柄な少女の存在に、目を見開く。
「お前は……!」
「どうもー、お久しぶりです! またお会いしましたね」
それは、砂漠で戦ったばかりの、【鳳】の幹部。
奇天烈隊長、奇々姫だった。
「なんで奇々姫がここにいるのかね?」
「そんな怖い顔しないでくださいよー。今回は、わたしは戦うつもりはないんですよ? ただの運び屋なので!」
「運び屋?」
「我らが実戦部隊長に届け物さ。こいつをね」
そう言って発明王は、白衣のポケットから一枚のカードを取り出す。
それに、浬はさらに目を見開いた。浬だけではない。普段は寡黙で感情を出さない恋さえも、動揺を隠しきれず、瞳を揺らしている。
「! あれって……!」
「コルルさん……!?」
発明王が持つカード。
それは紛うことなき《太陽の語り手 コルル》のカードだった。
本来ならば、暁が持っているはずのカード。暁の相棒たるクリーチャー。
それがここにある意味。理由とは。
浬と恋。二人の目つきが、キッと鋭くなる。
「なんであいつがここに……!」
「……あきらに、なにした……」
「僕らはなにも知らないよ。実戦部隊長殿からこいつを受け取っただけだからね」
睨みつける二人の眼光など気にする風もなく、飄々としている発明王。
この様子からすると、本当に知らないようだ。
発明王は殺気立つ恋らへの興味は微塵も存在しないとでも言わんばかりに視線を奇々姫に移す。そして、手にしている《コルル》のカードを、ピッと彼女に投げ渡す。
「じゃ、奇々ちゃん。解析諸々は終わったから、これ、お願いね」
「承りました! しっかり受け取りましたよ!」
奇々姫は、己のことを運び屋と称していた。
そして発明王は、《コルル》のカードを実戦部隊長への届け物と言っていた。
その運びの現場がここで、その時が今この瞬間だということは、すぐに理解できた。
「うん。それじゃ、よろしく」
「っ、待て——」
「お前らこそ、待った、だ」
ガシャン!
と、浬たちが動き出す直前。
室内のシャッターが、一斉に降ろされた。
- 140話 「森の中の研究所」 ( No.542 )
- 日時: 2017/02/22 21:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ガシャン、という音と共に、シャッターが下ろされる。
四方八方すべてが銀色の壁で閉ざされてた。前に進むことができなければ、後戻りもできない。
奇々姫は姿を消し、進路も退路もすべて断たれてしまった。
「まさか、入口の警備ロボットを機能停止させた程度で、防犯機能すべてを停止させたと思っていたわけじゃあるまいな? 侵入を防ぐのは当然だけど、侵入された後、逃げ道を塞ぐのも立派な防犯対策だ。キキ ちゃんの邪魔はさせないよ」
「相変わらず、幼い女にだけは甘いのだね」
「甘いのではない。幼少は僕の興味の対象であり、希望そのものだ。幼いということは、まだ色に染まり切っていないということ。淡い色はさらなる色を重ねることもできる。伸びしろがあり、数多に分岐した可能性がある。どのような未来をも創り出すことができる。幼いということには、それだけの素晴らしい希望が秘められているんだ。お前にはそれがわからないか」
「ただのロリコンじゃないか」
「いい加減にその侮蔑的かつ差別的表現をやめないとぶっ殺すぞ」
耐えかねたように、言葉が乱暴になる発明王。素が出たのだろうか。
怒気どころか、こちらも殺気が立ち始めた発明王だが、ミリンも臆さない。
「自分の幼女趣味を擁護するために、やれ希望だとか、やれ可能性だとか、ちゃんちゃらおかしいと言わざるを得ないな。結局のところ追求というのは、完璧なる完成形を目指すものだ。幼少も、成長も、その先の可能性も、すべては完璧と完成の過程にすぎない。過程が如何に素晴らしかろうと、完成された最終形に到達できなければ失敗作だ。それが習作となるならば無意味ではないが、君の姿勢は完璧を求めず、ただひたすら幼少を追っているだけの幼女趣味だ。そんなものに意味はない」
「意味がないだと……?」
「たとえばだ。ここにいるルミスを見てみろ」
ぐいっと。
急にルミスの腕を引くミリン。さらに彼女の背後に回ると、ガウンの襟元を下のシャツごと開いて、胸元を露出させる。
透き通るような白い柔肌が露わになる。ゆったりとした衣服だっただけにわかりにくかった、彼女の豊満な胸が晒される。激しい自己主張はせず、それでいて瑞々しく実った果実を思わせる彼女の身体は、異性どころか、同性の目で見ても魅惑的と言えよう。
「ちょっ……ミリンさん!?」
突然、肌を露出させられ、たじろぐルミス。
しかしそんな彼女の抵抗を完全に無視して、ミリンは声を張り上げる。
「見るがいい! この完成された肉体美! 女体という一点においては、彼女の身体はその完成形の一つだ。機能的、造形的、及び生殖的な美は、完璧にして至高だと思わないか!」
「や、やめてくださいミリンさん! その、男の子人がいるところで……!」
ミリンの手を振り払って、慌てて胸元を隠すルミス。
しかし、
「やめろ、そんなものを見せるな。熟し切って可能性の欠片もない女の身体など、汚いだけで反吐が出る」
彼女が羞恥に顔を赤らめているのに対し、発明王は酷く冷ややかだった。
「そう言われると、それはそれでとても傷つくのですけど……なんで私、なにもしてないのにこんな目に?」
はだけた服を直しつつ、ルミスは理不尽を漏らす。
「そんな汚物で僕の目を眩ませようだなんて、落ちぶれたな、ノミリンクゥア。その程度では僕からは逃げ切れないぞ」
「逃げるつもりはない。私たちは逆境に立った時こそ、立ち向かうのだよ。それが【フィストブロウ】の生き様さ」
そんな中、やはりミリンと発明王の二人は、睨み合っていた。
いよいよもって二人の諍いも、物理的な接触へと発展しそうな雰囲気を醸し出しているが、
「と、いうわけでルミス。彼の相手を頼んだ」
「この流れでなぜ私なんですか!?」
またしても唐突に、ミリンはルミスを前に押し出す。
両者の間でこれでもかというくらいに火花が散っていたので、てっきりミリンが発明王と直接戦うのかと思ったが、そうではなかった。
どころか、ルミスを代理に指名する。流石に予想外だった。
「君なら事前に聞いていたかもしれないし、そうでなくともここまでの会話からわかるだろう。彼はロリコンなのだ」
「はぁ……それがどうかしましたか?」
「彼は私を嫌悪しているものの、私は見ての通り、今は彼の嗜好と合致した容姿をしてしまっている。嫌悪だろうと嗜好の合致だろうと、どう転んでも彼は私への“興奮”という作用が働いてしまう」
好意でも、怒りでも、プラスであれマイナスであれ、興奮というものは生まれる。
興奮はエネルギーだ。肉体と意志を連動させ、働かせる原動力となり得る概念。
「それを生み出すのは得策ではないのでね。そこで君だ」
「あの、彼は私のことも嫌いなのでは……? 嫌悪が興奮なら、私も当てはまる気がするのですか……」
「強い憎悪と、興味関心の無さから生じる侮蔑では、興奮の度合いは後者の方が格段に低い。彼は君の方が興奮しない」
非常に誤解を招きそうな表現だが、ミリンがそう言うのであればそうなのだろう。ルミスはもう、なにがなんだかわからない。半ば思考を放棄していた。
「それに、私は他にすることがあるからね……頼まれてくれるか?」
「ミリンさんがそう仰るのであれば、私に断る理由はありませんが……なんだか、腑に落ちない点がいくつか……」
「僕はなんでもいい。戦闘は開発部の管轄外ではあるけど、【鳳】を滅するという目的とは無関係ではないからな」
そもそもこの包囲網も、ミリンらを一網打尽にするための仕掛けだ。
最初から発明王は、彼女らを討ち取るつもりでいたのだろう。
いまだ困惑から抜け出せないものの、戦うと決めたなら、それ相応の覚悟を決めなければならない。
ルミスは悠然と、高みに立つ発明王のまでに進み出た。
「……それでは、不肖、【フィストブロウ】サブリーダー、クルミスリィト。参りましょう」
「かかってくればいいさ。僕の研究の中で育まれた、僕の可愛い我が子たちを見せてやる」
発明王の敵意の視線は、ミリンからルミスへと移っていく。
両者の戦う意志が合致した、その時。
歪んだ空間が、二人を包み込む——
「……しかしお前、あんだけあいつを焚き付けておきながら、自分では戦わないんだな」
「本来、戦闘は専門外なのでね。それに焚き付けたと言うが、私は本音と真実をそのまま述べただけさ」
「率直すぎるだろ」
「発明王とは、同盟を結んでからの付き合いだが、奴の理念にはまったく賛同できなくてね。なまじ優秀な奴だけにもったいないというかなんというか……人格的に気に喰わないから、なんでも言ってやるさ」
さらりと人格否定をしていたが、それほどに折り合いが悪いということは、ここまでのやり取りからすでに分かっていたことだ。
ミリンはルミスと発明王が神話空間の中へと入っていったのを見届けると、彼女らに背を向けるように振り向いた。
「さぁ、浬君、恋君。ルミスが時間を稼いでいるうちに——やるぞ」
- 141話 「発明王」 ( No.543 )
- 日時: 2017/02/23 22:10
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ルミスと発明王のデュエル。
ルミスの場には《牛歩の玉 モーギュ》。シールドは五枚。
対する発明王の場には《ミセス・アクア》と《アクア・ソニックウェーブ》が並んでおり、シールドは五枚ある。
「私のターン。《魔法の玉 タルー》を召喚」
魔法の玉 タルー 光文明 (4)
クリーチャー:ジャスティス・オーブ/革命軍 3000
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに置く。
球状の身体を持つクリーチャー、ジャスティス・オーブ。
聖なる力が込められた球体は、守護の盾を構築する。
「《タルー》の能力でシールドを追加します。そして、《モーギュ》で攻撃です!」
「ニンジャ・ストライク! 《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚し、《モーギュ》をバウンス、攻撃はストップだ」
《テンサイ・ジャニット》が手札から飛び出し、《モーギュ》を激流で押し流してしまう。
ルミスの攻撃はあえなく止められ、ターン終了を宣言するルミス。
「僕のターン。《ミセス・アクア》で攻撃、能力発動だ!」
ミセス・アクア R 水文明 (3)
クリーチャー:リキッド・ピープル/ハンター 3000
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から3枚を見る。それがすべて同じコストであれば、すべてのプレイヤーに見せてから自分の手札に加えてもよい。同じコストでなければ、好きな順序で山札の上に戻す。
《ミセス・アクア》は攻撃する時、山札を捲る。こうして捲った三枚がすべて同じコストのカードであればそれらすべてを手札に加えられるのだ。
そうして捲られた三枚は、
「《斬隠テンサイ・ジャニット》《アクア闘士 サンダーボルト》《終末の時計 ザ・クロック》……すべて3コストのカードなので、手札に加える!」
「やはり……そういうデッキですか」
かなり珍しい構築の仕方だが、ルミスは既に発明王のデッキがどういうものか、分かっていた。
「そのデッキは、中身を3コストのカードに絞ったデッキですね」
「……まあ、概ね正解だ」
デッキの中身を3コストのカードで絞ったデッキ。それは、一般的なデッキ構築とは一線を画する構築だ。
まず、当たり前だが、デュエル・マスターズのカードは基本的に、コストが高いほど強力だ。強いカードを使うためには、多くのマナが必要。これが基本原理だ。
勿論、低コストのカードにも強いカードはあり、高コストだからといってすべてが強力なカードとも限らないが、前提としてはそうなっている。
そして普通デッキを組む時は、高いコストのカードを切り札にして、そのカードを中心とした構築をする。
この場合で言えば、マナコストを分散させるのだ。低コストカードを多めに、高コストカードは少なめに、バランスよく配分する。マナカーブを考えて、スムーズな動きができるように、カードを選定する。
それが、普通の構築というものだ。
だが、この発明王のデッキは違う。デッキ内のカードを3コストのカードで埋め尽くしている。速攻と言うには遅く、しかし3コストではフィニッシャーになり得るほど強力なカードパワーをを持ち合わせてはいない。
しかしそこに意義を持たせるカードがある。それが、《ミセス・アクア》。
山札の上を三枚捲り、すべて同コストなら手札に加える。最大三枚の手札補充ができると考えたら強力だが、すべてが同じコストになるだなんて、そう簡単には起こり得ない。だがそれを必然的に起こすために、発明王はデッキ内のカードのコストを統一している。3コストなのは、《ミセス・アクア》自身が3コストだからだろう。
「しかし、そんな小型クリーチャーばかりで、果たして勝てるのでしょうか?」
「あまり僕を、そしてこの子たちを舐めるなよ、クルミスリィト。確かに単独では、この子たちは弱い。だが、数を増やし、それぞれの連携を高めあい、大群となることで、この子たちの力は発揮される。単体ではない、他のカードとの連携で無限の可能性を、この子たちは秘めているんだ! 一体で完結し、完成された大型クリーチャーにはない、発展の可能性が、この小さなクリーチャーたちにはある!」
そんな風に力説しながら、《ミセス・アクア》は《タルー》にブロックされて相打ちになり、、ターン終了。
「なんだか、怒らせてしまったようですね……とりあえず、その攻撃は《タルー》でブロックします」
「相打ちだな。これで僕はターン終了だ」
「私のターン。《一撃奪取 アクロアイト》《信頼の玉 ララァ》を召喚です。ターン終了」
コストを軽減するクリーチャーを二体展開するルミス。
ルミスのデッキは、光単色の、精霊龍による連鎖デッキ。横に横にクリーチャーを展開していくことを得意としており、その布石だ。
しかし、展開が得意なのは、なにもルミスだけではない。
「僕のターン。《クロック》をチャージし……これで6マナだ」
発明王もまた、大群を形成することで戦う者であるのだ。
6マナすべてを使い切り、彼の切り札が、戦場に降り立つ。
「さぁ、行くぞ——《ガチャンコ ガチロボ》!」
- 141話 「発明王」 ( No.544 )
- 日時: 2017/02/25 14:27
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ズシンッ、と着地と同時に地響きが起きる。
それは巨大なロボット。鋼鉄でできた、青く四角形のボディ。両腕は太い剛腕、脚部はキャタピラ。
そして、胸に描かれた【鳳】のシンボルが、怪しく煌めいている。
《ガチャンコ ガチロボ》。
発明王が有する、【鳳】の陸戦型兵器だ。
「僕の、僕らの真の力はここからだ! 《ガチャンコ ガチロボ》は登場時と攻撃時、山札から三枚捲り、その三枚がすべて同コストのカードならば、そのまま場に出せる!」
「ば、場に出せる……っ!?」
《ミセス・アクア》の能力をさらに拡張したようなクリーチャーだった。同コストのカードを参照するという点では同じだが、登場時にも使用可能になり、捲ったクリーチャーを手札ではなく直接場に出せる。
発明王のデッキはコスト3のクリーチャーで固めたデッキ。《ミセス・アクア》で成功した例を考えると、不発はまずあり得ないといっていい。
場に出せるということは、それだけ大きなアドバンテージになるということ。小型クリーチャーとはいえ、それらが群れを成して襲い掛かってきては、溜まったものではない。
《ガチロボ》は腹部の射出口を開いてカタパルトを出すと、そこから自分とよく似た小柄ロボットを三機、発射した。
「出て来い! 《ガチャンコ ミニロボ1号》! 《ガチャンコ ミニロボ2号》! 《ガチャンコ ミニロボ3号》!」
ガチャンコ ガチロボ SR 水文明 (6)
クリーチャー:グレートメカオー/侵略者 6000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時または攻撃する時、自分の山札の上から3枚を見せる。それがすべてコストが同じクリーチャーであれば、バトルゾーンに出す。それ以外なら、好きな順序で山札の一番下に置く。
相手のシールドが2つ以下なら、自分の水のクリーチャーは攻撃もブロックもされない。
W・ブレイカー
ガチャンコ ミニロボ1号 UC 水文明 (3)
クリーチャー:グレートメカオー/侵略者 1000
相手の呪文を唱えるコストは2多くなる。
ガチャンコ ミニロボ2号 UC 水文明 (3)
クリーチャー:グレートメカオー/侵略者 1000
S・トリガー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札を見る。その中から《ガチャンコ ミニロボ2号》を1体選び、相手に見せてから手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。
ガチャンコ ミニロボ3号 UC 水文明 (3)
クリーチャー:グレートメカオー/侵略者 3000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のシールドをひとつ選んで見る。そのシールドを持ち主の山札の一番下に置かせてもよい。そうしたら、相手は自身の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとしてシールドゾーンに置く。
捲られたカードが《ガチロボ》の腹部から放たれる。放たれたのは、小型の《ガチロボ》。
《ガチロボ》をサポートするために生み出された、《ガチロボ》の支援機。その名も《ミニロボ》。
三種の《ミニロボ》は、それぞれの力で《ガチロボ》が戦いやすいよう支えるのだ。
「《ミニロボ1号》がいる限り、相手の呪文を唱えるコストは2多くなる。さらに《ミニロボ2号》の能力で、山札を見て二体目の《ミニロボ2号》を手札に加えられるけど、見るだけだ。最後に《ミニロボ3号》の能力で、お前のシールドを見て、山札の下へ。減ったシールドは山札から補充させる」
「……見るだけなんですね」
「まあな」
「それにシールドを補充って言いますけど、トリガーだったんですか」
「さあな」
素っ気なく返す発明王。
《ミニロボ2号》でサーチしなかったのは、《ガチロボ》で直接出せる上に、《ミセス・アクア》がいるため手札補充の必要がないから。それに、デッキ内の3コストのクリーチャーが減ると《ガチロボ》の成功率も落ちてしまうためだろう。
シールドの中身はわからないが、トリガーだったか、そうでないにしても発明王にとって、あっては困るカードだったのだろう。
呪文も唱えにくくなってしまい、ルミスはこれで一気に動きづらくなってしまった。
「これで僕のターンは終了だ」
「相手クリーチャーは五体……ここは耐えますか。《アクロアイト》と《ララァ》の能力で、2マナで《音感の精霊龍 エメラルーダ》を召喚します。シールドを一枚手札に加え、手札を一枚シールドに置きます。続けて4マナで《超過の翼 デネブモンゴ》を召喚。一枚ドローして、《ララァ》をバトルゾーンへ……ターン終了です」
《エメラルーダ》と《デネブモンゴ》で守りを固め、二体目の《ララァ》でさらに展開の補助。
シールドも入れ替え、大量展開してくる発明王の攻撃に備える。
「僕のターン。《アクア闘士 サンダーボルト》を二体召喚。そして、《ガチロボ》で攻撃!」
「本格的に攻めてきましたか……」
「《ガチロボ》は攻撃する時にも山札を捲ることができる! さぁ、出て来い! 《ガチャンコ ミニロボ1号》《アクア操縦士 ニュートン》《アクア・スーパーエメラル》!」
捲られた三枚のカードが《ガチロボ》に吸収され、腹部からそれらのクリーチャーが出撃していく。
二体目の《ミニロボ1号》が現れ、妨害電波で呪文のコストを増幅させる。
《ニュートン》がマナ武装で手札を増やし、《アクア・スーパーエメラル》がルミスと同じように手札とシールドを入れかえる。
一度に三体のクリーチャーが増える。それだけでも厳しいが、こちらへの妨害、後続の確保、防御まで固めていき、発明王は隙のない布陣を築き上げていく。
侵略による高速攻撃、高速制圧を得意とする【鳳】にしてはゆっくりとした立ち上がりではあるが、それでも、彼も【鳳】の一員。
常にその姿勢は、攻めることに向いている。
「喰らえ! 《ガチロボ》でWブレイクだ!」
「《デネブモンゴ》でブロック!」
《ガチロボ》の剛腕から繰り出される拳が、《デネブモンゴ》を粉砕する。
すべての攻撃を防ぐことはできないが、大きな一撃だけでも防がなければ、耐えきれない。
幸い、展開されているのは小型クリーチャーだ。細かい攻撃ならなんとか捌ける。
そう思っていたのだが、
「その程度では防ぎきれると思うなよ! 《ミニロボ2号》で攻撃する時——侵略発動!」
「っ、侵略……!」
【鳳】の有する特異な能力、侵略。
コマンドを指定して進化することが多い侵略だが、中にはそうでないものもいる。それに、発明王自体、侵略という速攻特化の力を使う素振りが見られなかったので、失念していた。
研究者だろうと、やはり彼も【鳳】。
侵略の力を有する、王の名を冠した者なのだ。
「僕のコスト3以上の水のクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーは侵略できる。さぁ、侵略進化だ!」
《ミニロボ2号》がドリルを構えて突撃するその瞬間、《ミニロボ2号》は《ガチロボ》から追加パーツを与えられ、変形合体する。
ボディは一回りも二回りも巨大になり、《ガチロボ》と比べて腕はスマートに、キャタピラは二本の脚に。そして、背中にはジェット機能を有する翼が装着された。
両翼から放たれるジェット噴射によって、侵略した《ミニロボ2号》は、大空へと発進する。
「飛び立て! 《ガチャンコ ガチスカイ》!」
ガチャンコ ガチスカイ R 水文明 (5)
進化クリーチャー:グレートメカオー/侵略者 6000
進化—自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—コスト3以上の水のクリーチャー
W・ブレイカー
このクリーチャーの攻撃の終わりに、カードを1枚引いてもよい。
《ミニロボ2号》が侵略し、空戦型兵器《ガチスカイ》へと変形、合体、進化する。
《ガチスカイ》は両手の指先、さらに両足の裏から何発ものレーザーを放ち、ルミスのシールドを狙い撃とうとする。
「くっ、《エメラルーダ》でブロックです!」
二打点の攻撃は、まだ受けたくない。《エメラルーダ》を消費するのはもったいなかったが、仕方ない。捨て身でブロックし、攻撃を防いだ。
「攻撃後、《ガチスカイ》の効果で一枚ドロー! 《ソニックウェーブ》《ミニロボ1号》《ミニロボ3号》でもシールドブレイクだ!」
「っ……トリガーは、ありません……!」
一気に三枚もシールドを突き破られた。小型ばかりとはいえ、その増殖スピードは計り知れない。早く《ガチロボ》を退かさなければ、クリーチャーは増える一方。防御が追いつかなくなる。
「しかし私、除去は苦手なんですよね……」
光文明の性質上、相手クリーチャーを直接除去する手段が乏しい。呪文は《ミニロボ》二体でほぼ封殺、殴り返すにしてもブロッカーが邪魔。
コスト3のクリーチャーばかりだが、思った以上に厄介な布陣だった。
となるとやはり、こちらも自分のやりたいことを押し付けるしかない。
「……では、お見せしましょうか。奇跡を起こす、魔法のような、輝く革命の力を」
「なに……?」
怪訝な面持ちで、目を細める発明王。
侵略と対を成す革命の力。
ルミスが有する光の革命が今、解き放たれようとしている。
「参ります。《アクロアイト》でコストを1少なくして、3マナで《魔法の玉 タルー》を召喚。シールドを一枚追加します。さらに《ララァ》二体の能力でコストを4少なくして、2マナで《指令の精霊龍 コマンデュオ》を召喚! 一枚ドローして、《エメラルーダ》をバトルゾーンへ! 手札を一枚シールドへ加えます」
クリーチャーを並べつつ、シールドも増やして守りを固めるルミス。
とはいえその守りは、発明王の築いた大群の前にでは、焼け石に水程度でしかない。
しかしその脆弱な状態こそが、彼女に革命の力をもたらす。
「最後に2マナ! 《タルー》を進化!」
二体の《ララァ》が光のコマンド・ドラゴンのコストを、合計で4も下げる。
その力によって、緩慢な革命をもたらす精霊龍が、降臨する。
「聖なる光は懺悔の枷。緩やかな時間すらをも支配し、雷を翔ける龍の閃きとなって——さぁ今こそ、革命の時!」
雷に包み込まれた《タルー》が、その中で姿を変え、進化した。
「時よ緩やかに(time delay)——《聖霊龍王 スタルリード》!」
- 141話 「発明王」 ( No.545 )
- 日時: 2017/02/25 21:16
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
雷の中で進化した《タルー》は、光の革命を起こす精霊龍、《スタルリード》となり、戦場へと降り立つ。
その瞬間、発明王の《アクア・スーパーエメラル》に稲妻が落ちた。
「《スタルリード》の能力です。登場時に相手クリーチャーをタップします。なので今回は《スーパーエメラル》をタップです」
「ブロッカーが寝かされた……」
「さらに攻撃する時にも、能力発動! 《ニュートン》をタップです! 《ガチロボ》を攻撃します!」
「くっ、《ガチロボ》が……!」
一気に三体ものクリーチャーを踏み倒す可能性のある《ガチロボ》だが、本体のパワーは決して高いとは言えない。
《スタルリード》の雷撃を喰らい、内部機構がすべて通電、クラッシュし、破壊されてしまった。
「ターン終了です。これで、展開は一旦落ち着きますかね……」
とはいえ、発明王の場に並んでいるクリーチャーの数は膨大だ。ブロッカーを出したり、シールドを増やしてはいるものの、《ガチロボ》を倒したとはいえ数で押されてしまう。
しかも、
「僕のターン! 二体目の《ガチロボ》を召喚!」
「うっ、二体目がいましたか……」
「出さなくても打点は十分だが、一応出しておく。山札の上から三枚を捲り、出でよ! 《ミセス・アクア》! 《アクア・ソニックウェーブ》! 《アクア操縦士 ニュートン》!」
捲った三枚は、当然のようにすべてコスト3のクリーチャー。
またしても、三体のクリーチャーが横に並ぶ。
「《ソニックウェーブ》の能力で《ララァ》をバウンス! 《ニュートン》のマナ武装は使わない」
《ガチロボ》の能力は強制で、山札を大きく消費するため、今回は《ニュートン》でのドローは控えたのだろう。
また、デッキ内のコスト3のクリーチャーを保持する意味もあると思われる。
「さぁ、《ガチスカイ》でWブレイクだ!」
「《エメラルーダ》でブロックします!」
「ならば《サンダーボルト》二体でそれぞれブレイク!」
「受けます……トリガーはありません」
「《ソニックウェーブ》でブレイク!」
「こちらもノートリガー……」
「《ミニロボ》!」
大群を形成したコスト3のクリーチャーが、一気に攻めてくる。
防ぎきれない怒涛の大波。ルミスの場にいるクリーチャーだけでは、その大波を防ぎ切ることはできないが、
「来ました、S・トリガーです! 《DNA・スパーク》! 相手クリーチャーをすべてタップです!」
「ちぃ……!」
「さらに、私のシールドが一枚だけなので、シールドを追加します」
「……ターン終了だ」
いくらクリーチャーを並べても、クリーチャーを問答無用でタップするスパーク呪文の前では無力だ。
攻撃を止められ、発明王はターンを終える。
しかし、いくら攻撃を止めても、シールドを増やしても、ルミスがいまだ不利なことに変わりはない。
「後手に回ってしまった以上、厳しい状況ですが……なんとしてでも、巻き返して見せますよ。展開力なら私も負けません! 私のターン!」
ルミスはカードを引くと、潤沢な手札から、クリーチャーを解き放つ。
「まずは《アクロアイト》でコストを軽減、2マナで《ララァ》を召喚。次に2マナで《コマンデュオ》を召喚します。能力で一枚引き、手札から《真紅の精霊龍 レッドローズ》をバトルゾーンへ! 《レッドローズ》のマナ武装3で一枚ドロー、《デネブモンゴ》を場に出します。最後に《デネブモンゴ》の能力でドロー、手札から《モーギュ》をバトルゾーンへ!」
「光の連鎖か……」
「まだ続きますよ! 三体目の《コマンデュオ》を召喚! 一枚ドロー。《レッドローズ》を出して、さらにドロー。マナ武装3で《革命の精霊龍 ローズダカーポ》を連鎖してバトルゾーンへ!」
《コマンデュオ》を始点とした連鎖は、止まらない。
次々と、革命の光龍たちが、戦場へと押し寄せる。
「まだまだ終わりません! 四体目の《コマンデュオ》を召喚!」
「っ! まだ続くのか……!」
そこからさらに《レッドローズ》《ローズダカーポ》と連鎖して、クリーチャーを展開するルミス。
ルミスの連鎖によって、さらに盤面が凄まじいことになってきた。
ルミスの場には《スタルリード》を筆頭に、《アクロアイト》《モーギュ》が一体ずつ、《ララァ》《デネブモンゴ》《ローズダカーポ》が二体ずつ。《レッドローズ》が三体、《コマンデュオ》に至っては四体だ。その数、計十五体。
発明王の場には《ガチロボ》を筆頭に、《ガチスカイ》《ミセス・アクア》《スーパーエメラル》《ミニロボ3号》がそれぞれ一体ずつ。《ソニックウェーブ》《サンダーボルト》《ニュートン》《ミニロボ1号》が二体ずつ。こちらは十三体だ。
シールド枚数では負けているが、クリーチャーの数ではルミスが上回った。お互いに凄まじい展開力を見せ、場が埋まっている。
「問題はここからですね……クリーチャーを減らすべきでしょうか」
「それは無理だ。《ガチロボ》の侵略モード発動中だからな。お前のシールドが二枚以下だから、僕の水のクリーチャーは攻撃もブロックもされない」
「あ、そうなのですか。なら……決めます。《コマンデュオ》で攻撃、Wブレイクです!」
クリーチャーへの攻撃が不可能だとわかった瞬間、ルミスは標的を発明王に定める。
このターンに攻撃できるクリーチャーは、《アクロアイト》《ララァ》《コマンデュオ》《スタルリード》がそれぞれ一体ずつ。
ギリギリ、とどめを刺すだけの打点は揃っている。
まずは《コマンデュオ》から、発明王のシールドを叩き割ったが、
「S・トリガー発動! 《ミニロボ2号》を召喚!」
「あらら……ですが、そのクリーチャーでは止まりませんよ。二枚目もブレイクです!」
「もう一枚S・トリガー《クロック》だ! お前のターンを終了する!」
二枚目のブレイクで《スーパーエメラル》で仕込んだシールドを狙ったのだが、やはりトリガーだった。
《クロック》が現れ、ルミスのターンを強制的に飛ばしてしまう。
そして、発明王のターン。
発明王はブロックされないクリーチャーの大群に物を言わせて、圧殺しようと、寝ているクリーチャーたちを起こそうとするが、
「……?」
そこで、異変を感じ取った。
なにかが聞こえる。
鳴り響いている。遥か高みから、轟くような爆音。
これは——
「っ!?」
——刹那。
轟音と共に、爆雷が発明王のバトルゾーンへと放たれた。
激しく爆ぜる雷鳴と、地中から空気中、縦横無尽にスパークする雷撃、幾度とフラッシュする閃光。
互いに築き上げた大群が睨み合う戦場に現れた、明らかな異変に、発明王はたじろぐ。
「な、なんだこれは!?」
「革命ですよ」
ルミスが、静かに言う。
微笑を讃えた聖女の如く穏やかで、革命を起こす戦士の如く凛々しい眼差しで、
「それとも、魔法、と言ってあげた方がいいですか?」
「魔法だと……!」
一転して冗談っぽく笑みを見せるルミスは、最後の言葉を革命の龍に捧げる。
それは魔法の言葉であり。
革命の合図だった。
「お披露目しましょう。私の輝く魔法、時の停滞(time delay)——とくとご覧あれ!」
パチン!
ルミスが指を鳴らすと同時に、《スタルリード》が咆哮する。
「革命発動!」
その瞬間、雷光は発明王の場全体へと飛散し、すべてのクリーチャーを電撃で縛りつける。
まるで枷のように纏わりつく雷に、発明王のクリーチャーは起き上がることができない。
「これは……クリーチャーが、アンタップしない……!?」
身体が痺れ、雷光の鎖で縛られ、革命の枷がクリーチャーを拘束している。
それらすべては、《スタルリード》へと繋がっていた。
「《スタルリード》の革命2……相手ターンの初めに、相手は一体しかクリーチャーをアンタップできません」
聖霊龍王 スタルリード 光文明 (6)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン/革命軍 8500
進化—自分の光のクリーチャー1体の上に置く。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時または攻撃する時、相手のクリーチャーを1体選んでタップする。
革命2—自分のシールドが2つ以下なら、相手のターンのはじめに、相手は自身のクリーチャーを1体しかアンタップできない。
「な……なんだと!?」
いくら大群を築いても、攻撃できなければ意味がない。
発明王のクリーチャーはアンタップができない。ゆえに、ここまでに形成した大群も、烏合の衆へと成り下がってしまった。
「……いや。だが、それでも打点は足りている! 《ガチロボ》をアンタップし、《スーパーエメラル》を召喚! 手札とシールドを入れかえ、さらに《ジャニット》召喚! 《ララァ》をバウンス!」
「…………」
それはルミスにもわかっていた。
いくらクリーチャーを縛り付けても、一体は起き上がる。起き上がるのは、Wブレイカーの《ガチロボ》。
トリガーで出た《ミニロボ2号》と《クロック》がいて、《ガチロボ》の能力でブロックはできない。
発明王の場には、ルミスのシールドを突き破り、とどめを刺す打点がギリギリ揃っているのだ。
「攻撃だ! 出て来い! 《ミニロボ2号》《サンダーボルト》《テンサイ・ジャニット》! 《ジャニット》の能力で、《ララァ》をバウンス! 《ガチロボ》の侵略モードで、僕の水のクリーチャーはブロックされない!」
《ガチロボ》が、ルミスの残った二枚のシールドを粉砕する。
これでルミスのシールドはゼロ。ブロックもできず、このままではダイレクトアタックを受けて終わりだが、
「しかし残念でした、S・トリガー《Rev.スパーク》! 革命2発動で、相手クリーチャーをすべてタップします!」
「クソッ……!」
寸でのところで、トリガーで耐えられる。
互いに処理しきれない数のクリーチャーを展開しているものの、発明王は《スタルリード》によって攻撃クリーチャーを大きく制限されてしまっている。
《スタルリード》一体によって、今の状況は圧倒的に発明王が劣勢だった。
「私のターン……《エメラルーダ》を召喚して、手札を一枚、シールドに追加します。クリーチャーは……まあ、もういいでしょうかね」
手札を一枚シールドにして、ギリギリの守りを確保するルミス。
攻めては守られ、攻められては守り、次はこちらが攻める番だ。
「《コマンデュオ》で攻撃! シールドをWブレイクです!」
「……トリガーはない」
「では次に、《スタルリード》で攻撃します! 最後のシールドをブレイク!」
《スタルリード》で割るシールドは、《スーパーエメラル》によって仕込まれたシールド。
なので、恐らく、
「S・トリガー! 《終末の時計 ザ・クロック》!」
「やっぱりそうですよね……!」
予想通りのS・トリガー、《クロック》。
これでまたしてもルミスのターンは終了。発明王のターンだが、
「《スタルリード》の革命2発動です! アンタップするクリーチャーを選んでください」
「小癪な……《ガチロボ》をアンタップ!」
発明王の場に残っているアタッカーは、《ガチロボ》と《クロック》の二体。
ルミスにとどめを刺す打点はギリギリ足りているが、《エメラルーダ》で置いたシールドが、明らかに怪しい。
「だが、シールドゼロ。後がない以上、ここで決めるしかない……!」
いくら罠が仕込まれているとわかっても、蓋を開けなければ観測できない。
シュレディンガーの猫。箱の中身を観測するため、そして、革命軍を制圧するため、発明王はさらに戦場へ、兵器を送り出した。
「行くぞ! 《ガチャンコ・ガチロボ》を召喚!」
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