二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 29話「撃英雄」 ( No.114 )
- 日時: 2014/06/23 03:18
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
暁が不安に駆られている中、ふと声が聞こえてくる。落ち着きのある、静かな声だ。
「っ、《ガイゲンスイ》……」
——暁よ、儂のことを忘れられては困る。まだ勝機は残っているだろう。
《ガイゲンスイ》の声が、まるで暁の心に染み込むように響き、だんだんと暁も落ち着いて、冷静になってくる。
「……そうだ、まだ私は負けてない。まだ勝てるんだ! 私のターン!」
《ガイゲンスイ》の言葉を受け、弱りかけていた暁の心の炎が、再び激しく燃え盛る。そして彼女が引いたカードは、彼女の炎を燃え上がらせ、その心意気に応えた彼だった。
「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」
撃英雄 ガイゲンスイ 火文明 (7)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン 7000+
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに火のカードが7枚以上あれば、そのターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャーすべてのパワーは+7000され、シールドをさらに1枚ブレイクする。
スピードアタッカー
W・ブレイカー
爆炎の中から飛び出すのは、鎧を纏いし《ガイゲンスイ》。
「来てくれたんだね《ガイゲンスイ》。ありがとう」
『儂は主のために戦う道を選択しただけだ。礼には及ばん』
「そっか……だったら行くよ《ガイゲンスイ》!」
『ああ、いつでも行けるぞ』
刹那、《ガイゲンスイ》の周囲の大地が燃え上がる。そして燃え上がった炎が《ガイゲンスイ》の鎧や刀にまで燃え移り、より堅固な装甲と鋭利な刃を作り出す。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》のマナ武装7、発動!」
マナ武装とは、ドラゴン・サーガが生み出した力の一つだ。領土、即ちマナの力をその身に纏い、武装することで更なる力を得ることができる。
「私のマナゾーンに火のカードは七枚以上あるから、このターン《ガイゲンスイ》のパワーはプラス7000! 《フルボコ・ドナックル》を攻撃!」
《ガイゲンスイ》は、武装した力を持って《フルボコ・ドナックル》へと駆ける。マナ武装で強化された《ガイゲンスイ》のパワーは14000、《フルボコ・ドナックル》を一刀両断にした。
『ウ、ウォォォォッ!』
これでフルボコ・ドナックルの場のクリーチャーもいなくなった。手札もないので、数で攻められる心配もない。
「ウゥ……《熱血龍 クロブゼット》を召喚!」
「無駄だよ! 《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》召喚! マーシャル・タッチで《ガイゲンスイ》を手札に戻して、パワー4000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
《クロブゼット》のパワーはちょうど4000、《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》の炎に焼かれ、墓地へと焼け落ちる。
「ウゥゥ……! 《熱血龍 ジュリナレナ》を召喚!」
今度は素のパワーが5000、《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》では焼かれないとでも言いたげだったが、しかし今更そんなクリーチャーが出て来ても遅い。
「このターンで決めるよ! 出て来て《ガイゲンスイ》!」
前のターンに手札に戻した《ガイゲンスイ》を再び召喚する暁。スピードアタッカーでWブレイカーだが、フルボコ・ドナックルのシールドは残り三枚。ギリギリとどめまでは行けない、ように思われるが、
「もう一度マナ武装7、発動!」
『我らをさらなる高みへと昇華せよ!』
またもや大地が燃え盛り、その炎が《ガイゲンスイ》と《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》を強化する。これでパワーがプラス7000。さらに、
「このターン、私のクリーチャーのシールドブレイク数が一枚多くなる! 《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》で攻撃!」
本来《アブドーラ・フレイム・ドラゴン》が持つWブレイクに、《ガイゲンスイ》のマナ武装によるブレイク数増加が上乗せされ、フルボコ・ドナックルの三枚のシールドがすべて砕け散る。
「S・トリガー《天守閣 龍王武陣》! 《フルボコ・ドナックル》を手札に! そしてパワー11000以下のクリーチャーを破壊!」
「残念! そんなの効かないよ!」
最後のシールドから三枚目のS・トリガー《天守閣 龍王武陣》が飛び出し、《フルボコ・ドナックル》を手に入れたが、除去は発生しない。
確かに《フルボコ・ドナックル》はパワー11000で、除去できる範囲は広い。しかし今の《ガイゲンスイ》はマナ武装でパワー14000だ。《フルボコ・ドナックル》では倒せない。
「さあ、これでとどめだ!」
大空を浮遊する天守閣から撃ち出される《フルボコ・ドナックル》も、熱血の炎で武装した《ガイゲンスイ》に切り捨てられる。そして《ガイゲンスイ》は、大将たるフルボコ・ドナックルへとその刃を向けるのだ。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》で、ダイレクトアタック——!」
神話空間が閉じると、倒された《フルボコ・ドナックル》はカードとなり、暁の手元へと落ちて来る。
「《フルボコ・ドナックル》……強かったなぁ」
『そなたもだ、暁』
「《ガイゲンスイ》……」
カードの中から、《ガイゲンスイ》の声がする。
『やはり、儂の目に狂いはなかった。そなたの力ならば、儂や、他の龍たちも使いこなせるだろう。なにより、そなたといると心が安らぐ』
「そ、そうなの……?」
「ああ、そうだぜ。みんなそう言ってる」
「《ドラゴ大王》も?」
『ふん、そのようなことがあるものか。我は龍世界の大王ぞ。安らぎなど不要であり——』
『要約すると、同意する、ということだ』
『《ガイゲンスイ》! 貴様……!』
「……なんか、楽しそうだね」
ドラゴン同士の仲間関係。ただカードを操っているだけでは、そんなものは分からなかった。こうしてクリーチャーの声が聞こえるようになったからこそ、この温かで和やかな、それでいて熱い龍と共にあることができる。
「いいなぁ、こういうの……」
『暁』
暁がしみじみとしていると、《ガイゲンスイ》の呼びかけが再び聞こえてくる。
「あ……なに?」
『そなたは合格だ。これから儂は、正式にそなたの手足となろう。そなたの盾となり、刃となろう』
「いや、いいよそんな大袈裟じゃなくて……私たちは仲間、それか友達だよ」
『む……そうか。ならばそれでも構わない』
ただの認識の違いだが、暁にとっては部下とか配下とか、そんな関係は性に合わない。
クリーチャーは仲間だ。共に戦う戦友だ。上下の関係など、存在しない。
そんな関係性を確認すると、暁は姿勢を正して、まっすぐに《ガイゲンスイ》を見据える。
「それじゃあ改めて……これからよろしくね、《ガイゲンスイ》」
『ああ。こちらこそ、よろしく頼む』
こうして、暁は《撃英雄》に認められた。
空城暁の新たな仲間に、《撃英雄 ガイゲンスイ》が加えられたのだった。
残る英雄は、あと三体——
- 30話「理英雄」 ( No.115 )
- 日時: 2014/06/12 23:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
《撃英雄 ガイゲンスイ》が暁の仲間となった翌日。
この日もクリーチャー世界へとやって来た遊戯部が訪れていたのは、海底トンネルを抜けた先にある祭壇——つまり、エリアスが眠っていた小部屋だ。
「大丈夫なのか? また変に警備システムとかを誤作動させたりしないだろうな」
「任せてくださいご主人様。あの時は少し寝ぼけていただけです」
その小部屋の中で、エリアスは壁面にペタペタと触れていた。浬としては、彼女が目覚めた時と同じ轍を踏まないものかと、気が気でないが。
「あ、これですね」
「本当か?」
「私に間違いはありません」
そう断言して、壁の一面に手をかざすエリアス。すると、その一面から淡く青い光が漏れだし、一つの形となる。
水がうねり、蠢き、球状となって、それは浬の所へと向かっていき——その手に落ちた。
「……あれ?」
「…………」
手に落ちたカードを見つめる浬。そしてその後、視線はエリアスへと向いた。
「……おい」
「な、なんでしょう?」
「このカード《アクア忍者 ライヤ》とあるが、これが英雄と呼ばれるクリーチャーなのか?」
「……間違えました。えへへ、失敗しちゃいました」
「えへへじゃねぇよ。どの口が『私に間違いはありません』なんて言ったんだ? あぁ?」
「痛い痛い、痛いですご主人様! 頭を鷲掴みにするの話やめてくださいぃっ!」
エリアスの小さな頭部をアイアンクローする浬。頭身が低い分身体のサイズが小さいので、かなり掴みやすい大きさだった。
「……楽しそうだね、浬」
「あんなカイは初めて見たわ」
「なんだかんだで仲いいですよね、あの二人」
「ルー」
「プルさんもそう思いますか?」
「ルールー」
と、外野がそんなことを言っている間に、エリアスはなんとか浬の魔手から解放された。
「うぅ、酷いですよぅご主人様ぁ……」
「変な声を出すな」
アイアンクローの痛みに涙を浮かべながら、エリアスは再び壁面に手を触れていく。
ややあって、またエリアスの動きが止まった。
「見つけましたよご主人様! 今度こそ本当です」
「……本当か?」
「本当です! ……たぶん」
少し自信なさげだった。
「ま、まあ見れば分かりますよ」
そう言ってまた壁面に手をかざすと、その箇所が青く輝く。
その輝きは次第に強くなっていき、液状化する。と思ったら、直後には結晶となり、その結晶が飛び散っていく。
そして最後に現れたのは、機械的な暗青色のボディを持つドラゴンだった。
「これが英雄、なのか……?」
「……ヘルメス様の傑作の一つ、《理英雄 デカルトQ》です」
地に降り立ったデカルトQは、ジッと浬を見据えたまま、動く様子を見せない。
「どういうことだ、動かないぞ」
「デカルトQは、ヘルメス様が作り上げたクリスタル・コマンド・ドラゴンです。あの姿からも分かるように、身体のほとんどが機械化されていて、基本的にはプログラムに則って行動するはずです」
「プログラム……?」
と、その時。
ピピピ、という電子音がデカルトQから聞こえてきた。
「——状況認識。現在地確認。情報整理。機能準備。準備完了。索敵開始——」
「お、おい、なんかやばくないか……?」
「——外敵発見。排除開始」
刹那、デカルトQの目つきが変わる。
「どうも、私たちのことを敵だと思ってるようです」
「そんなことは分かってるんだよ!」
「だったらやることは一つじゃないですか」
珍しく、浬よりもエリアスの方が落ち着いていた。そしてエリアスの言葉で、浬もハッとする。
「……そうだな」
「そうです」
デカルトQが、機械的ながらもはっきりと見て取れる敵意をぶつけてくる。ならば、
「こっちも迎撃するぞ。エリアス!」
「了解です、ご主人様! 神話空間、展開します!」
刹那、エリアスを中心とした、浬とデカルトQを包む空間が歪み始める——
浬とデカルトQのデュエル。
互いにまだシールドは割られていないが、状況はやや浬の劣勢だった。
浬の場にはクリーチャーなし。しかしデカルトQの場には《アクア超人 コスモ》《アクア操縦士 ニュートン》《アクア隠密 アサシングリード》の三体がいる。
「なかなか鬱陶しい奴だな……!」
呻く浬。序盤に軽量クリーチャーが引けなかったのもあるが、やっと出せたクリーチャーも《アサシングリード》に即バウンスされてしまった。
「自ターン認識。ドロー。《アクア操縦士 ニュートン》召喚。マナ武装3、発動」
デカルトQは二体目の《ニュートン》を召喚。そしてマナ武装が発動する。
《ニュートン》のマナ武装は、自分のマナゾーンに水のカードが三枚以上あればカードを引くことができる。ブロックされない能力もあり、マナ武装の条件さえ満たせれば、殿堂入りの《アクア・ハルカス》を超える性能となるクリーチャーだ。
「カード、ドロー。《アクア戦闘員 ゾロル》召喚。ターン終了」
「俺のターン」
いまだにクリーチャーを並べられていない浬。だが、いくらなんでもそろそろ展開したいところだ。
「《アクア・ジェスタールーペ》を召喚! 連鎖発動! 山札を捲るぞ」
連鎖能力により、山札の一番上を捲る浬。《ジェスタールーペ》のコストは4なので、コスト3以下のクリーチャーが出れば場に出せる上に、《ジェスタールーペ》の能力でさらにカードを引ける。
そして、捲れたのは、
「っ! 《ザ・クロック》……!」
《終末の時計 ザ・クロック》だった。
コスト3で、確かに場に出せるカードだが、出した瞬間に浬のターンは終わる。
(もし《クロック》を出せば、カードは引けず、手札の2コストクリーチャーも出せない……)
だが、ここで出さなければトップデックが《クロック》となるのだ。はっきり言って、シールドにいない《終末の時計 ザ・クロック》なぞに価値はない。
出しても残しても邪魔になる《クロック》。その扱いを、浬はどうするのか。
「ここは少しでも手数を増やしておきたい……《ザ・クロック》をバトルゾーンへ! これで俺のターンは終わりだ」
しばらく逡巡した結果、浬はクリーチャーを並べる方を選択した。そのまま《クロック》を場に出し、自分のターンを強制終了させる。
「自ターン認識。ドロー」
デカルトQの場にクリーチャーは五体。数こそ多いが、アタッカーはうち三体で、しかも三体とも決して強力なクリーチャーとは言えない。なのでまだまだ対応はできるはずだ。
そう思っていた浬だが、その考えは次の瞬間には吹き飛ばされる。
「呪文詠唱。シンパシー発動。リキッド・ピープル数五。コスト軽減値5。5マナ使用」
(なんだ、なにか来る……!)
デカルトQは、自分の五枚のマナをすべて使い切る。そして、
「呪文《龍素開放》」
龍素開放(ドラグメント・フォーメーション) 水文明 (10)
呪文
シンパシー:リキッド・ピープル
自分のリキッド・ピープルをすべて破壊する。その後、山札の上から、進化ではないクリスタル・コマンド・ドラゴンが、破壊したリキッド・ピープルと同じ枚数出るまでカードをすべてのプレイヤーに見せる。こうして見せた進化ではないクリスタル・コマンド・ドラゴンをすべてバトルゾーンに出し、その後、山札をシャッフルする。
「なんだと……!?」
驚きを禁じ得ない浬。どうやらデカルトQの展開は、この呪文のためにあったようだ。
《龍素開放》は、端的に言ってしまえば、自分のリキッド・ピープルを山札にいるクリスタル・コマンド・ドラゴンに変換する呪文。つまりデカルトQのリキッド・ピープルはすべて、クリスタル・コマンド・ドラゴンとなるのだ。
「ご主人様、まずいです! クリスタル・コマンド・ドラゴンが大量に出て来ます!」
エリアスが叫ぶが、そんなことは分かっている。
デカルトQの五体のリキッド・ピープルがすべて破壊される。そして彼らは、龍素記号を生成するための糧となるのだ。
「山札確認。射出《龍素記号Pu フィボナッチ》《龍素記号St フラスコビーカ》——」
《フィボナッチ》と《フラスコビーカ》がそれぞれ二体ずつ現れる。そして最後、五体目の結晶龍は——
「——《理英雄 デカルトQ》」
- 30話「理英雄」 ( No.116 )
- 日時: 2014/06/14 03:03
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
ビリビリと電光を走らせながら、他の龍素記号と共に現れる《理英雄 デカルトQ》。
(遂に英雄が出たか……確か、《ガイゲンスイ》はマナ武装7を持っていたな)
リュンの発言と先日の《ガイゲンスイ》の能力から、恐らくマナ武装が英雄たちの持つ力なのだろう。
(奴のマナは五枚、もしマナ武装7が奴の能力なら、それは今発動できない)
だが、それ以外の能力があるとすれば、それは問題なく発動できる。
『《デカルトQ》能力発動。手札、シールド、交換』
「シールド入れ替えか……」
《デカルトQ》によって睨みつけられたシールドから、軽く火花が散り、電光が迸る。その動作で、シールドと手札が入れ替わったのだろう。
「都合よくS・トリガーを持っていなければいいが……俺のターン」
「ご主人様、どうしましょう……」
泣きそうになりながら、浬に縋りつくエリアス。
《デカルトQ》の場には、ブロッカーでWブレイカーを持つ《デカルトQ》自身を含め、ブロッカーが三体、アタッカーが三体。攻めも守りも準備万端だ。
だが、準備ならこちらもできている。
「聞いてますか? ご主人様ぁ……」
「変な声を出すな。大丈夫だ、俺に任せろ」
ゆっくりと、浬はカードを引く。ここであのカードが引ければ、まだ逆転のチャンスがあるはずだ。
「……来たか」
少しだけ、浬は微笑む。だがすぐに鋭い表情へと戻り、その手にしたカードを投げつけるようにして顕現する。
「さあ出て来い! 《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚!」
龍覇 メタルアベンジャー 水文明 (6)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃/ドラグナー 4000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト2以下のドラグハート1枚、または、コスト4以下の水のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す)
呪文の効果で相手がバトルゾーンにあるクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。
水流と共に飛び出したのは、閃くリキッド・ピープル、そして龍と心通わすドラグナー、二つの種族を併せ持つ《メタルアベンジャー》。
「《メタルアベンジャー》がバトルゾーンに出た時、超次元ゾーンからコスト4以下の水のドラグハートを呼び出す」
刹那、超次元の扉が開かれ、封じられていた龍の武器が呼び起こされる。
「来い——《真理銃 エビデンス》!」
真理銃 エビデンス ≡V≡ 水文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
このドラグハートをバトルゾーンに出した時、または、これを装備したクリーチャーが攻撃する時、カードを1枚引いてもよい。
龍解:自分のターンの終わりに、そのターン、自分の水のクリーチャーまたは水の呪文を合計3枚以上、召喚または唱えていれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。
結晶の檻に封じられた、水のドラグハート・ウエポンは銃。真理を求め、真理に辿り着くための銃だ。
その名も《真理銃 エビデンス》。
「《エビデンス》はウエポン、よって《メタルアベンジャー》に装備! さらにその能力でカードをドロー!」
《メタルアベンジャー》は、手にした《エビデンス》で浬のトップデックを撃ち、弾き飛ばす。そして浬は、そうして弾かれ、宙を舞い、落ちていくカードを掴み取った。
「狙い通りだ。さあ、まずは式を組み立てるぞ。呪文《セイレーン・コンチェルト》」
浬が残った1マナで唱えるのは《セイレーン・コンチェルト》。マナ回収をしつつ、手札を一枚、マナゾーンに置く呪文だ。
「マナゾーンの《ライヤ》を回収し、手札の《アヴァルスペーラ》をマナゾーンへ。そして、これで1マナ回復した。さっき回収した《アクア忍者 ライヤ》を召喚」
アクア忍者 ライヤ 水文明 (1)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃 2000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のクリーチャーを1体、バトルゾーンから手札に戻す。
「そのカードは……ご主人様」
それは、さっきエリアスが間違えて出したカードだった。
「お前の失敗を、正解の道に正してやる。《ライヤ》の登場時能力で、《アクア・ジェスタールーペ》を手札に戻すぞ」
《アクア忍者 ライヤ》は、召喚時に自分のクリーチャーを一体戻さなくてはならないクリーチャーだ。なので軽くても序盤のビートダウンには向かず、むしろ中盤以降にクリーチャーの登場時能力を使い回すために使われる。浬はその使用法に違わず、連鎖持ちの《ジェスタールーペ》を手札に戻した。
だがこの時、浬にとって重要なのは、“水のクリーチャーを召喚すること”だ。
「……式は組み上がった。ターン終了」
する時に。
このターン、浬は水のクリーチャーを二体召喚し、水の呪文を一度唱えた、つまり水のカードを合計三回使用したことになる。
なので、
「《真理銃 エビデンス》の龍解条件達成! 勝利の解を求める方程式は完成した、これより証明にかかる」
浬の号令のもと、《メタルアベンジャー》は遥か彼方の空に向けて《エビデンス》を構えた。
放出された水のマナより龍素を装填した《真理銃》は、銃弾ではなく銃身そのものが《メタルアベンジャー》の手を離れ、射出される。
「勝利の方程式、龍の素なる解を求め、王の真理を証明せよ。龍解——」
そして《真理銃 エビデンス》は、龍素を最大まで充填し、その力のすべてを解放する——
「——《龍素王 Q.E.D.》!」
龍素王 Q.E.D. ≡V≡ 水文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 11000
呪文の効果で相手がバトルゾーンにあるクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。
各ターン、自分の水のクリーチャー1体目を、コストを支払わずに召喚してもよい。
各ターン、自分の水の呪文1枚目を、コストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー
《真理銃 エビデンス》が龍解し、両肩に砲身の長い砲を装備した結晶の龍が姿を現す。その龍はすべての龍素の元となり、自身の記号を持たず、あらゆる龍素記号の頂点に立つ王となった。
「龍解——完了」
そして《龍素王》の顕現によって、今ここに、勝利の解を導く真理が証明された。
『——自ターン認識。ドロー』
驚きという概念がプログラムされていないのか、《Q.E.D.》の登場になんの反応も示さない《デカルトQ》。《デカルトQ》は、その行動信号に従って動き続ける。
『《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》召喚。山札確認。《ブレイン・ストーム》入手。呪文《ブレイン・ストーム》。再ドロー。山札設置』
ブロッカーを並べつつ、呪文を唱える《デカルトQ》。これで《フィボナッチ》の能力が発動し、《フィボナッチ》はパワー8000のWブレイカーとなった。
『《龍素記号Pu フィボナッチ》攻撃。Wブレイク』
「っ、ぐ……!」
呪文に反応して龍素を増大させた《フィボナッチ》二体の攻撃が炸裂し、浬のシールドが一瞬で四枚砕け散った。その衝撃で、何度目になるのか、眼鏡が吹っ飛ぶ。
「ご主人様!」
「少し視界はぼやけるが……大丈夫だ、問題ない」
「それ、シボーフラグって言うらしいですよ」
「そんなことは知っている」
こんな時にボケるなと言いたいが、浬は言わなかった。
この状況で軽口が叩けるだけの余裕があるのなら、それでいいだろう。
なぜなら、浬の組み立てた勝利の方程式は、今まさに証明されようとしているのだから。
『——ターン終了』
《デカルトQ》は自身では攻撃せずにターンを終える。このターンでは決めきれないので、もしものことを考えてブロッカーを残しておこうという魂胆だろう。
「その選択が、正解であればいいな。俺のターン」
《デカルトQ》のターンが終わり、浬のターン。
《Q.E.D.》が現れ、遂にその力を解き放つ時が来たのだ。それはつまり、
「さあ、そろそろ証明の最終段階に入るぞ——」
浬の勝利を導く方程式が証明が、完了に向かうことを意味していた。
- 30話「理英雄」 ( No.117 )
- 日時: 2014/06/15 22:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「《龍素王 Q.E.D.》の能力発動」
浬のターン。まず最初に《龍素王 Q.E.D.》を発動させた。
「《Q.E.D.》は各ターン最初に召喚する水のクリーチャーを、コストを支払わずに召喚できる。海里の知識よ、結晶となれ——《龍素記号iQ サイクロペディア》を召喚! その登場時能力で三枚ドロー」
一つの物事が証明されれば、それは次の証明の証拠となる。この場面で現れた《サイクロペディア》の能力も、次の繋がる布石となるのだ。
「さあ、次の証明を開始するぞ。《Q.E.D.》の能力は呪文にも適用される」
「つまり、各ターン最初に唱える呪文も、コストを支払わずに唱えられます!」
「そういうことだ。行くぞ、呪文《インビンシブル・テクノロジー》!」
インビンシブル・テクノロジー 水文明 (13)
呪文
自分の山札を見る。その中から好きな枚数のカードを選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。
コスト13の呪文サイクル、インビンシブル呪文。非常に重い呪文というだけあって、その能力は強烈だ。
水文明の叡智が結集したインビンシブル呪文《インビンシブル・テクノロジー》。このカードの能力は単純明快、山札のカードを好きなだけ手札に加えられるのだ。
普通なら13マナも払ってまで唱えるには割に合わない呪文だが、しかし《Q.E.D.》がいる今なら、その重いコストなど意味をなさない。
「山札から好きな数のカードを手に入れるぞ」
『認識——情報処理。認識情報入力。処理時間経過。読込中』
「お前の読み込みなんて待たないからな。勝手にやっていろ、その間に俺は、俺の証明を終わらせる」
浬が手札に加えたカードを公開し、その情報を自身のデータバンクに入力する《デカルトQ》だが、浬はその読み込みを待たない。
1ターンに重いカードを二枚も使用した浬だが、しかし忘れてはならないのが、そのカードの使用はどちらも《Q.E.D.》の能力によるもの。つまり、このターン浬のマナの支払いは今だゼロなのだ。
「ここからが本番だ。《Q.E.D.》と《インビンシブル・テクノロジー》で、俺は今、デッキに入れていたカードをすべて使うことができる。呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》!」
浬は《インビンシブル・テクノロジー》で手に入れた大量の手札から一枚を抜き取った。そして浬の背後に、無数の軍艦が浮かぶ。
「まずはタップされていない《デカルトQ》をバウンス! 続けてマナ武装5、発動! タップ状態の《フィボナッチ》をバウンスだ! さらに《アクア・ソニックウェーブ》を召喚し、《フラスコビーカ》もバウンス!」
「情報処理継続——処理速度上昇」
「行け《Q.E.D.》! 《フィボナッチ》を攻撃!」
「処理箇所変更。防御システム起動。《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》ブロック」
《Q.E.D.》のキャノン砲の一撃で、《アヴァルスペーラ》が消し飛んだ。結果としてデカルトQはアタッカーを残せたが、代わりにブロッカーを失ってしまった。
「ターン終了だ」
「情報処理——自ターン認識。ドロー。《理英雄 デカルトQ》召喚。能力発動。マナ武装7」
今度は普通に召喚される《デカルトQ》。機械的な蒼の身体に、複数のレーザーピットが付属された翼が装着される。
理英雄 デカルトQ(キュー) 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
ブロッカー
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、カードを5枚まで引いてもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、手札を1枚、新しいシールドとして、自分のシールドゾーンに裏向きにして加えてもよい。そうした場合、自分のシールドをひとつ選び、手札に戻す。ただし、その「S・トリガー」は使えない。
W・ブレイカー
『五枚ドロー。シールド交換』
「成程な。マナ武装で引いたS・トリガーを、シールドに仕込むわけか」
元々《デカルトQ》の手札には《フラスコビーカ》がいたはずなので、もしS・トリガーが引けなくてもそちらをシールドに埋められるが。
『《龍素記号Pu フィボナッチ》攻撃。シールドブレイク』
これで浬のシールドはゼロ。しかし、そんなことはなんの弊害にもならない。
もう、浬の組み立てた勝利の方程式の証明は、完了しようとしていたのだから。
「俺のターン」
「……ご主人様」
「ああ、このターンで証明終了だ」
《デカルトQ》を前にして、浬ははっきりと、そう宣言する。
「《Q.E.D.》の能力発動。最初に召喚する水のクリーチャーを、コストを支払わずに召喚する」
刹那、《Q.E.D.》の放出する龍素を触媒とし、巨大な結晶が生み出される。そしてその結晶から、魔術を再生する龍素記号が誕生した——
「海里の知識よ、再生せよ——《龍素記号Sr スペルサイクリカ》!」
龍素記号Sr(エスアール) スペルサイクリカ 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト7以下の呪文を1枚、自分の墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、唱えた後、墓地に置くかわりに自分の手札に加える。
W・ブレイカー
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分の山札の一番下に置く。
偶発的に発見された《龍素記号Sr》、その力は失われた知識を取り戻し、魔術の力として解き放つものであった。
この記号を割り当てられた結晶龍こそが《龍素記号Sr スペルサイクリカ》だ。
「《スペルサイクリカ》の能力で、墓地からコスト7以下の呪文を唱える。唱える呪文は《幾何学艦隊ピタゴラス》! 《デカルトQ》と《フィボナッチ》をバウンス!」
再び場に舞い戻って来た《デカルトQ》は、一瞬でまた手札に戻されてしまった。しかも、
「《スペルサイクリカ》の能力で唱えた呪文は手札に戻る。よってコストを払い再び呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》! 《フラスコビーカ》をバウンスだ! さらに《アクア忍者 ライヤ》を進化! 《超閃機 ジャバジャック》!」
ブロッカーをすべて排除し、アタッカーも並べられた浬。これで、すべての論拠は出揃った。
「行くぞ! 《ザ・クロック》でシールドをブレイク! 《ジャバジャック》でWブレイク! 《サイクロペディア》でWブレイク!」
浬のクリーチャーが一斉に攻撃を開始する。展開されたクリーチャーによる怒涛のシールドブレイクで、デカルトQのシールドは瞬く間になくなった。
だが、忘れてはいけない。いくら手札に戻されても、デカルトQにはシールドを入れ替える能力があるのだ。
最後に《サイクロペディア》によって砕かれた二枚のシールドが、光の束となって収束する。
「S・トリガー発動。《龍素記号St フラスコビーカ》《幾何学艦隊ピタゴラス》」
デカルトQによって入れ替えられたシールドは、どちらもS・トリガーだった。まず《フラスコビーカ》が登場し、守りを固める。そしてマナ武装も発動する《幾何学艦隊ピタゴラス》によって、浬の残るアタッカー《Q.E.D.》と《メタルアベンジャー》がバウンスされる。
そう、なるはずだったのだが。
数多の軍艦の砲撃を受け、手札に戻るはずの《Q.E.D.》と《メタルアベンジャー》は、いくら砲撃を受けても微動だにしない。
「——システムエラー、エマージェンシー。状況解析。認識不可。システムエラー、エマージェンシー——」
「残念だが」
ピー、ピー、と明らかに非常事態を知らせる音を鳴らしているデカルトQに向かって、浬は宣告する。
「《Q.E.D.》も《メタルアベンジャー》も、呪文では選ばれない。だから《幾何学艦隊ピタゴラス》で除去することはできないぞ」
なので仕方なく呪文の対象は《スペルサイクリカ》と《サイクロペディア》となり、肝心のアタッカーが残ってしまう。
「頼みの綱も、無意味だったな。行け《メタルアベンジャー》!」
「《龍素記号St フラスコビーカ》ブロック」
相打ちとなる《メタルアベンジャー》と《フラスコビーカ》。これでデカルトQの場にクリーチャーはいなくなった。
しかし、浬の場にはまだ、アタッカーが残っている。そのことが、彼の組み立てた勝利の方程式が、正しい解を導き出すということを証明していた。
最後に、すべての龍素を統べる王が咆哮し、力のすべてを発射する。
「《龍素王 Q.E.D.》で、ダイレクトアタック——!」
この瞬間、浬の証明は、終了した——
神話空間が閉じる。そこにいたのは、直立する浬と、その傍らのエリアス。そして浬の手の内に収まった、《理英雄 デカルトQ》のカード。
「……終わったか」
「はい。お疲れ様です、ご主人様」
「いつものことだし、慣れているが……また眼鏡が壊れたか」
そろそろなんとかしないとな、とぼやきながら、浬は自然な流れでカードとなった《デカルトQ》を仕舞い込む。
これでめでたく、浬も英雄のクリーチャーの力を手にすることができたのだ。
残る英雄は、あと二体——
- 31話「凶英雄」 ( No.118 )
- 日時: 2014/06/16 21:03
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
暁が《撃英雄 ガイゲンスイ》、浬が《理英雄 デカルトQ》を手に入れた。これで所在が判明している英雄は、半数を仲間にしたことになる。
そして三体目の英雄と出会うべく、次なる地にやって来たのだが、
「カイ……」
「……今更いくら嘆いても仕方ないだろ、ゆみ姉。こうなった以上、俺たちは、俺たちのできることをするしかない」
「それは、分かってるけど……」
向かい合う沙弓と浬。ただし、ただ向かい合っているわけではない。
異様な状態で、相対していた。
「始めるぞ、ゆみ姉。英雄の科した“罰”とやらを」
「…………」
少しだけ足場が揺れたような気がした。いや、実際に揺れてもおかしくない。
自分たちのすぐ下には、奈落の闇が広がっている。そして沙弓と浬は、
「ゆみ姉」
「……分かったわよ。始めましょう」
暗闇という監獄と、《凶英雄》の罪がもたらした檻の中で、今まさに戦おうとしているのだった——
「ドライゼー、まだなの?」
「もうすぐだ。恐らく、この辺りのはずなんだが……」
月魔館の最奥部、ドライゼが眠っていた小部屋を訪れる一同。やはり英雄が眠っているのは、この場所のようだった。
そしてドライゼは、その英雄の場所を、壁を触りながら探っている。
「しっかしさぁ、壁の中からクリーチャーやらカードやらが出て来るって、どうなってるんだろうね、ここの壁」
「さあな。そもそもこの世界の常識は、俺たちの定規じゃ測れないだろ」
「定規? 長さの話なんてしないよ。浬って実は馬鹿なの?」
「……お前に言われたくない」
少し青筋を立てながらも、平静を保つ浬。流石に今の発言は癪に障ったが、なんとか堪える。
「暁、その場合の定規っていうのは、私たちの感覚じゃこの世界の常識は理解できない、って意味よ」
「あ、そうなんだ。じゃあそう言ってくれればいいのに」
「……そうだな。お前の頭のレベルに合わせるべきだったな」
「そうだよ、まったくもう」
「あきらちゃん、かいりくんの言いたいこと全然分かってないです……」
浬の嫌味も暁には通用しない。なかなかに腹の立つ存在だった。
「お、見つけたぞハニー。たぶんこれだ」
「ハニーじゃないけどよくやったわ。どう? 目覚めさせることはできそう?」
「ああ、大丈夫だ。じゃあ今すぐに——」
と、ドライゼが壁の一ヶ所に手をかざした、次の瞬間。
突如、真っ黒な闇が広がり、ドライゼを飲み込んだ。
「っ!? ドライゼ——」
「部長!」
ドライゼが飲み込まれ、思わず手を伸ばした沙弓も、同様に闇の中へと引きずり込まれる。
「部長が黒いのに飲まれちゃった……部長!」
「あきらちゃんっ、危ないですよ。下手に近づいたら、あきらちゃんも……」
「それに、もう手遅れみたいだ」
そう浬が言う。最初は疑問符を浮かべていた暁と柚も、すぐにその意味を理解した。
「固まっている……この中に、部長たちはいるのか」
広がった闇は、小部屋の半分以上の体積を占めるドーム状となり、その場に鎮座した。触ってみると、なんとも言えない感触が手に伝わるが、その手が通過することはない。
「一体なんなの、これ……?」
「オレにも分からない」
「見たところ、闇文明特有の空間のようですが……」
推測できるのも、その程度だ。闇文明独自の現象だとすれば、それは闇文明ではないコルルやエリアスには分からない。肝心のドライゼも、沙弓と共に飲まれている。
「ルールー、ルー」
「なんて言ってるの?」
「えっと……ぶちょーさんはドライゼさんと一緒なら大丈夫、だそうです」
「まあ、これが闇文明のなにかだとすれば、ドライゼはこれがなんなのか知ってそうだからな。なにも知らないより安全かもしれないな」
そう言って、浬は再びそのドーム状の物体に手を触れる。すると、
「っ!」
「浬!?」
刹那、浬もそのドームの中に飲み込まれてしまった。
「ご主人様! 私もついて行き——」
ます、と言い切る前に、ガンッ! という鈍い音が鳴った。
「あうぅ……痛いです……」
「大丈夫、エリアス?」
「はい……」
暁はエリアスを取り上げると、今度は自身がドームに手を伸ばす。しかしその手は、黒い物体に遮られてしまった。
「私も入れない……どうなってるの?」
「もしかしたら、中に誰かいて、その誰かが、かいりくんを招き入れた、とか……」
「真実は分かりませんが、私たちはこの中に入れなさそうですね……」
このドームがどういうものなのかは分からないが、この中に入ることが容易でないということは、なんとなく理解できた。
だが、だからと言って手をこまねいてばかりの暁ではない。
「……とりあえず、やるだけやってみようか」
そう言って彼女が取り出したのは——デッキケースだった。
「……ハニー、無事か?」
「無事よ。それより、ここは……?」
沙弓とドライゼが飲み込まれた先。そこにあるのは、“闇”だった。
右も左も上も下もない。まるで星のない宇宙空間のように、四方八方に闇が続いている。天地がつかめず、今こうして自分が足を着けているところが地面なのかどうかすら怪しい。
「一体なんなのかしら、もう一人の自分みたいなのが出て来そうなこの場所は——」
——ここは罪の監獄だ——
と、沙弓の疑問に答えるように、声が聞こえた。
「っ? なに……? どこにいるのかしら?」
——ここにいる——
「どこだ、姿を見せろ。さもなくば撃つ」
——姿はない。これは、ただの意志に過ぎない——
闇の中から、声だけが聞こえてくる。いや、脳に直接語りかけてくるような感覚すら覚える。この狂った方向感覚のせいだろうか。
「意志? よく分からないけど、あなたは何者?」
——この監獄の獄卒だ——
「獄卒だぁ? さっきも監獄と言っていたが、一体なにを閉じ込めているんだ?」
——悪魔龍だ——
「悪魔龍……」
それはつまり、デーモン・コマンド・ドラゴンのことだろう。
——悪魔龍は、罪を重ねた存在。その存在そのものが罪であり、奴らの生は罪に縛られている。ゆえにその罰として、奴らはこの監獄に幽閉されている——
「待て、俺はアルテミス嬢——《月影神話》の封印したクリーチャーを解放したはずだ。なのに、なんでお前のような得体の知れない野郎がでしゃばるんだ?」
——それも《月影神話》の意志。お前たちが思う以上に、悪魔龍の罪は重い——
しかし、とその声は続けた。
——お前たちは、その罪深き悪魔龍の力を欲するのだろう。凶の罪を重ねし英雄の力を——
「……こっちの目的は分かってるのね。だったら話は早いわ。その英雄さんもこの監獄とやらにいるのかしら? だったら早く出所させてもらいたいのだけれど」
——構わない——
即答だった。
しかし、それだけでは終わらない。
——だが、お前にその罪を受け止められるだけの力がなければ、《凶英雄》を釈放することはできない——
「罪を受け止める——」
——お前たちの力、見せてもらうぞ——
と、その時。
闇の中から、一人の少年が飛び出してきた。
「カイ!? どうしてここに?」
「部長……いや、ゆみ姉。俺にも分からない。ゆみ姉たちが飲み込まれた後、黒いドームみたいなのができて、それに触ったら引きずり込まれた」
「エリアスはどうした? 一緒じゃないのか?」
「……そういえば」
どうやら、浬一人だけが、この空間に来たようだ。
——奴はお前への罰だ——
声は言った。
その声に、浬は疑問符を浮かべる。
「なんだ、この声?」
「私にも分からないけど、この監獄の獄卒だか、《月影神話》の意志だからしいわ」
——卯月沙弓、お前の罪に、罰を科す——
次の瞬間。
沙弓と浬の上から、なにかが降って来た。
『っ!』
ジャラジャラジャラと、金属が継続的にぶつかり合う音が響き終ると、沙弓と浬の周りには、巨大な鳥籠のような檻が囲んでいた。足元も、しっかりとなにかを踏みしめる感覚があり、閉塞感を覚える。
「なに、これ……?」
——お前の罪、それは罪の檻。そしてお前への罰、それがその少年の存在。罰の籠——
「罪の檻と……」
「罰の籠……」
正直、どちらも同じ鳥籠にしか見えないが、なにか違うのだろう。
——卯月沙弓。《凶英雄》の力を欲するのなら、裁きの時間だ——
「裁き……?」
——お前の罪に罰を科し、裁く。ただしお前に科せられる罰は、少年へと向く。お前たちの砕く盾の痛みは、少年への牙となるのだ——
比喩かなにかなのだろう。そのように声は表現するが、婉曲すぎて理解できない。
「どういうことよ」
「……俺の推測だが、恐らく、これからデュエマをしろということだと思う」
ドライゼが、重苦しい口調で語る。
「だが、その時にシールドブレイクによって発生するダメージは、ブレイクされたシールドのプレイヤーではなく、すべて浬に向けられるということだろう」
「えっ? なによそれ」
「闇の儀式や懲罰には、そういったものもある。奴の科す罰というのも、それに相当するんだろうな」
すべてのダメージが浬に与えられる。それだけでも納得しがたいものだったが、声はさらに
——そして敗者は、永遠にこの監獄へと幽閉する——
「っ、幽閉……!?」
「無茶苦茶だな……」
気づけば、目の前にはシールドが展開されつつあった。やはり、デュエマで戦えということらしい。
しかしドライゼの言う通りならば、シールドブレイクの際に発生するダメージはすべて、浬のものとなる。
しかも、負ければこの監獄とやらに投獄されるというのだ。それはほとんど、死と同義であった。
「負けたら投獄なんて、冗談じゃないわ」
「デメリットが大きすぎる。こんな対戦は受けられない」
はっきり言って、付き合ってられない。だが声は言う。
——お前は力を、《凶英雄》を欲した。罪を欲すること、それもまた罪。その罪は、後退を許さぬ罰となる。もう、引き返すことはできない——
「引き返せないって……私たちに死ねって言うのっ?」
少し、沙弓の口調が強くなる。
——お前たちの生に興味はない。しかし《凶英雄》の力には規律が存在する、その規律の中で生きられぬ者は、死ぬ他ない——
その死を投獄に置き換えているだけだ、と声は言うのだった。しかし、死であろうと投獄であろうと、それは沙弓たちにとって意味の変わることではない。
「ふざけないでちょうだい。こんなことをしないと手に入らない力なんて、私はいらない」
——今一度いう、これは罰だ。この監獄に足を踏み入れたその瞬間から、お前たちの一挙手一投足、発言、存在に至るまで、そべての事象に責務を負う。そして罪と判断した事象には罰が科せられる。取り消しは認められない——
「っ……!」
もし声の主の姿が見えていれば殴っていた。包丁か、なにか刃物があれば余裕で刺していたところだ。
「でも、こんな……!」
「ゆみ姉、もう諦めろ」
まだ噛みつく沙弓を制したのは、意外にも浬だった。
「あの声が、俺たちの言葉で主張を曲げるとは思えない。ここはあいつの世界なんだろ。だったら、あいつに従うしかない」
「カイ……でも……」
「忘れるなよ、ゆみ姉。これは俺への罰じゃない、ゆみ姉への罰なんだ。だからこの罰に干渉できるのも、ゆみ姉しかいない」
俺には無理なんだ、と浬は言った。
浬の言いたいことは、沙弓にすべて伝わっていたわけではないだろう。はっきり言って、沙弓よりも浬の方が頭はいい。それでもいつもの沙弓なら、十全に彼の言葉を理解できていたかもしれない。
だが、この異様で異端な状況の中に身を置くことで、彼女の中には小さくない不安と焦燥が渦巻いていた。それが、彼女の判断を狂わせる。
「…………」
誰になにをいくら言われようとも、沙弓はこの対戦を納得できない。しかし、だからと言ってそれを考慮してはくれない。シールドの展開が終わると、今度は山札がセットされる。その中から、五枚の手札が出来上がる。沙弓の意思に関係なく、デュエマはスタートしている。
賽は投げられた。後戻りはできない。
沙弓は、前に進むしかないのだ——
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