二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

81話「対局開始」 ( No.274 )
日時: 2015/11/03 02:15
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「《アクア鳥人 ロココ》を召喚! ターンエンドだよっ」
「呪文《連唱 ハルカス・ドロー》。カードを一枚引き、ターン終了だ」
「《スペルブック・チャージャー》発動! 《龍素知新》を手札に加えて、チャージャーをマナに!」
「《ブレイン・チャージャー》を唱え、カードをドロー。チャージャーをマナへ」
 浬と風水のデュエル。
 浬からすれば、負ければこの少女とつきあうこととなり、ふざけるなと言って突っぱねたい対戦ではある。
 だが、相手は語り手のカードを所持しており、このまま無視するわけにもいかない。なんとしてでも、なにかしらの情報は掴まなければならない。
 ならばどうすればいいか。答えは簡単だ。勝てばいい。
 浬は己が勝利を証明すべく、一つずつ方程式の解を導き出していく。
 しかし、最初に動き出したのは風水の方だった。
「ふふっ、いい風来てるね。さぁいくよっ! 《龍覇 トンプウ》を召喚!」
 陰陽師のような意匠の、閃くリキッド・ピープルが現れる。
 龍素に眠る隠された神秘の力、龍脈術を解明したドラグナー、《トンプウ》。
 浬の使役するリキッド・ピープル閃とは異なる力を持つ《トンプウ》能力は、コスト3以下のドラグハートを呼び出すというものだ。
「さあ来てっ、《龍芭扇 ファンパイ》! 《トンプウ》に装備だよっ!」



龍覇 トンプウ 水文明 (5)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃/ドラグナー 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。



龍芭扇 ファンパイ 水文明 (3)
ドラグハート・ウエポン
これを装備したクリーチャーが攻撃する時、相手は自身の山札の上から1枚目を墓地に置く。それが呪文であれば、自分がコストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、その後、その呪文を相手の墓地に戻す。
龍解:自分のターンの終わりに、相手の墓地にカードが5枚以上あれば、このドラグハートをフォートレス側に裏返してもよい。



 超次元の彼方より、青いドラグハート・ウエポンが飛来する。
 それは、透き通る海のように美しい扇だった。羽は鮮やかな水の色をしており、派手な装飾によって彩られている。
 《トンプウ》は、その扇を掴み取った。
「ドラグナーか……だが、ドラグハートを使うのはお前だけじゃない」
 そう言って浬は、風水に対抗するかのように、そのカードを繰り出す。
 自分にとっての、武器を。
「《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚!」
 浬のドラグナー、《メタルアベンジャー》。
 龍素を科学として扱う一派の中核を担うリキッド・ピープル閃。
 その能力で、水文明に限り《トンプウ》よりも高いコスト——コスト4以下のドラグハートを呼び出せるのだが、
「…………」
 浬は思案する。
 《メタルアベンジャー》で呼び出せるドラグハートの候補は、《エビデンス》《エビデゴラス》《エウクレイデス》辺りだが、この状況ではなにを出すべきか。
 手札をしばらく眺め、浬は結論を出した。
「……《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンへ!」
 浬がこの場面で選んだのは、置きドローとなる《エビデゴラス》。
 現在の手札の状況からして、《エビデンス》の龍解はすぐには達成できない。なので今はまだ出さないでおく。同様の理由で《エウクレイデス》もだ。
 ゆえにここでは、長期的にアドバンテージを取れる、汎用性の高い《エビデゴラス》を選択した。
「ターン終了だ」
「じゃあ、あたしのターンっ! 《アクア工作員 シャミセン》を召喚! お互いにカードを三枚まで引いて、三枚捨てられるよ」
 《シャミセン》の能力は、お互い引くかどうかを決められる。引くならばカードを三枚捨てなければならないが、引かないとう選択肢もある。
 だが、先ほど《エビデンス》の龍解を諦めてたように、今の浬の手札はお世辞にも良いとはいえない。ここで三枚もカードを引けば、良い手になる可能性は十分にある。
 なので、浬はカードを引いたのだが、
「……くっ」
 引いたのは、《ブレイン・チャージャー》二枚と《龍素開放》。引いたカードもあまり良くない。
 これならばまだ手札のカードを握っていた方が良いと判断し、浬はその三枚をそのまま墓地へ投げ捨てた。
「いいねいいね、いい風向きだよ」
 風水は、そんな浬を見つつ、楽しそうな表情を見せる。
 そして、場の《トンプウ》に手をかけた。
「《トンプウ》で攻撃するよ! でもそのとき、《ファンパイ》の能力が発動!」
 《トンプウ》は《ファンパイ》を大きく振るう。すると、水飛沫とともに一陣の風が吹き抜けた。
 その風が、浬の山札を飛ばす。
「《ファンパイ》の能力で、浬くんの山札の一番上を墓地に置くよ。そして、それが呪文なら、あたしがタダで唱えられる!」
「なにかと思えば、相手依存の呪文詠唱か。そんな運に任せたプレイング、そう上手くいくはずが——」
 と言って、浬の飛ばされた山札が舞い落ちてくる。
 落ちてきたカードは、《龍素遊戯》。
「っ!」
「チー! 喰い取るよっ! 呪文《龍素遊戯》!」
 浬から奪い取ったスロットが回る。
 《龍素遊戯》は、山札の上から三枚をめくり、その中からドラゴン、ドラゴン以外のクリーチャー、呪文をそれぞれ一枚ずつ手に入れる呪文だ。
「だが、《龍素遊戯》にしても、手に入れられるカード枚数は不安定。それも運任せだ」
「そうだね。でも、今のあたしにはいい風が来てるから、最高の結果になるよっ!」
 高らかに豪語して、風水はスロットを止めた。
 めくられた三枚は、《術英雄 チュレンテンホウ》《アクア鳥人 ロココ》《龍脈術 水霊の計》。
 ドラゴン、非ドラゴン、呪文の三枚だ。
「な……っ」
「三連続で有効牌をツモれたね。この三枚を手札に加えるよっ」
 風水はその三枚のカードを手札に入れつつ、得意げな表情を見せる。
「だから言ったでしょ? いい風来てるって」
「なにをわけのわからないことを……ただの偶然だ」
 負け惜しみのようなことを言いながら、浬はシールドをめくるが、S・トリガーはなかった。
「さて、それじゃあ、これであたしのターンは終わりだけど……」
 どこかもったいぶるように微笑みを浮かべる風水。まだなにかを隠しているのか、と浬は身構える。
 だが、その姿はすぐに明らかになる。
「浬くんの墓地にカードが五枚以上あるからー……《ファンパイ》を龍解させるよっ!」
 《トンプウ》は《ファンパイ》を振るう。水飛沫が飛び散り、風が吹き荒れ、やがて《ファンパイ》は空を舞う。
 そして、その姿を変えた。

「2D龍解っ! 《龍脈空船 トンナンシャーペ》!」

 現れたのは、龍脈術の粋を結集して生み出された、龍の魂を宿す空船。
 しかも、2Dで現れたドラグハート・フォートレスだ。
 さらにこの時、浬は悟った。
「……嵌められたか」
 《ファンパイ》の龍解条件は、相手の墓地にカードが五枚以上ある時と言っていた。
 つまり、浬が《シャミセン》で手札を交換しなければ、龍解はまだ達成されなかった。
 あの《シャミセン》は誘いだったのだ。そして浬は、迂闊にその誘いに乗ってしまい、こうして相手の龍解に貢献してしまった。
「……いや、まだだ。まだ立て直せる。俺のターン、《龍素記号Og アマテ・ラジアル》を召喚! その能力で、山札から《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》を唱える!」
 刹那、渦巻く水流が、嵐のようにバトルゾーンに吹き荒れた。
 その風はすべてのものを吹き飛ばす。さらに、浬のマナが青色の光を帯び、そこからさらなる力を供給している。
「《スパイラル・ハリケーン》のマナ武装7発動。おまえのクリーチャーをすべて手札に戻す!」
「うわ……っ!」
 嵐が収まる頃には、風水の場にはなにもいなくなったいた。
「たった1ターンでクリーチャーを全部手札に戻されちゃった……でも、まだ風はあたしに吹いてるっ! あたしのターン!」
 場のクリーチャーをすべて除去され、少しは驚いたような表情を見せるが、風水はすぐに気を取り直して、次なる一打を打つ。
 それは、彼女の英雄を呼び起こす一手だった。

「天衣無縫の英雄、龍の力をその身に宿し、連なる龍脈で武装せよ——《術英雄 チュレンテンホウ》!」

82話「九蓮天和」 ( No.275 )
日時: 2015/11/06 02:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

 光り輝く水晶の中から、一体の龍が現れる。蛇のようにうねる身体を、結晶という鎧で包んだ、龍が。
 《術英雄 チュレンテンホウ》と、彼女は言った。
 その名前から理解できる。これは、ただの龍ではない。
「英雄のクリーチャーか……!」
「最近ゲットしたばっかりのクリーチャーだよ。この子、本当にすっごいんだから。九蓮と天和のダブル役満みたいにすごいよ。だから、よーく見ててよねっ!」
 英雄。それは、一体一体が強大な存在であり、マナから各文明の力を纏い、武装することで真価を発揮するクリーチャーたち。
 まさかドグハートだけでなく、英雄のクリーチャーまで所持しているとは思わなかった。
「……だが、英雄の力は俺にもある! 海里の知識を得し英雄、龍の力をその身に纏い、龍素の真理で武装せよ——《理英雄 デカルトQ》!」
 風水に対抗するかのように、浬も自身の英雄、《デカルトQ》を呼び出す。
 すると、浬のマナが光を放ち、《デカルトQ》はその力を武装する。
「マナ武装7を発動! カードを五枚ドローし、場に出た時の能力も発動だ。手札を一枚、シールドと入れ替える。そして」
 このターン、浬はカードを五枚以上引いた。
 それにより、《エビデゴラス》が鳴動する。
「勝利の方程式、龍の理を解き明かし、最後の真理を証明せよ!」
 多くの知識を吸収し、龍波動を充填した《エビデゴラス》は、浬の求めた解の通りに、その姿を証明する。

「龍解——《最終龍理 Q.E.D.+》!」

 これで浬の場には、三体のクリスタル・コマンド・ドラゴンが並んだ。呪文では選ばれない《メタルアベンジャー》もおり、攻撃手は十分だ。
「ここは攻める……《Q.E.D.+》で攻撃だ!」
 駆動音を響かせ、砲にエネルギーを充填する《Q.E.D.+》。
 だが、その様子を見て、風水は含みあり気に笑みを浮かべる。
「攻撃かぁ……本当にいいのかな?」
「なに、どういうことだ?」
「ふふふっ、実はねー、その攻撃で《チュレンテンホウ》の能力が発動するんだよねっ!」



術英雄 チュレンテンホウ 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
相手のクリーチャーが自分を攻撃する時、「S・トリガー」を持つ呪文を1枚、自分の手札からコストを支払わずに唱えてもよい。
マナ武装 7:自分の手札から呪文を唱えた時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、その呪文を墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー



 《Q.E.D.+》の龍波動のエネルギーは最大まで充填され、その力を砲撃として解き放つ。
 だが、その時、《チュレンテンホウ》が咆哮した。
「《チュレンテンホウ》の能力で、あたしが攻撃されるとき、手札からS・トリガー呪文をタダで唱えられるっ! 呪文《龍脈術 水霊の計》! 《Q.E.D.+》を山札送りだよっ!」
「な、ぐ……っ! だが、龍回避で《Q.E.D.+》はフォートレス側に裏返る——」
「まーだだよっ! 《チュレンテンホウ》は、二つの役満級の能力がある! その二つ目っ、マナ武装7発動! あたしが手札から呪文を唱えたとき、もう一度その呪文を唱えられるっ!」
 風水のマナが水色に輝いた。
 すると、《チュレンテンホウ》はその力を纏い、武装する。反射鏡のような水晶を装着した。
 風水の唱えた呪文は墓地へと送られるが、その水晶に当たり、反射する。
「もう一度、呪文! 《龍脈術 水霊の計》! 今度は三枚ドローするよっ!」
 反射した呪文は、今度は山札へと飛んでいき、風水に新たな知識を与える。
 《龍脈術 水霊の計》は、龍脈術の力を多様な形に変化させ、扱うことができる。一度は《Q.E.D.+》を封じ、要塞の姿へと変えさせた。そして二度目は、風水にさらなる知識を与える。
「今のは迂闊だったな……攻め急いだか……!」
 《チュレンテンホウ》が存在する限り、風水は手札のS・トリガー呪文で浬の攻撃を止められる。また、浬も風水の手札を警戒し続けなければならない。
 加えて、《チュレンテンホウ》のマナ武装でその呪文の効力は二倍になる。
 見え透いているとはいえ、常に罠を張られているようなものだ。それを攻略する術は浬には乏しく、風水の牙城を突き崩すことは困難。だが浬は《チュレンテンホウ》を除去しなければ、迂闊に攻めることもできなくなってしまった。
 そうしてもたついている間に、風水は攻めてくる。
「さーて、それじゃあ、手役をそろえていきますかっ! 呪文《転生プログラム》! 《デカルトQ》を破壊!」
 クリーチャーを転生するプログラムが起動し、その動力として、《デカルトQ》が破壊される。
 浬の山札がめくられていき、《デカルトQ》は転生し、《龍素記号X2 アーマ・フランツ》へと成った。
「さらに、《チュレンテンホウ》のマナ武装7で、もう一度《転生プログラム》を唱えるよ! 今度は《アマテ・ラジアル》を破壊!」
「……《アクア忍者 ライヤ》をバトルゾーンへ。そのまま《ライヤ》を手札に戻すぞ」
 浬のクリーチャーは連続で破壊され、打点を一気に下げられてしまう。
 だが、そのプレイングも、非常に奇特なもの。浬は眉根を寄せずにはいられなかった。
「なにが出るかもわからないというのに、リスキーな……」
 《転生プログラム》は、クリーチャーを破壊する代わりに、山札から進化以外のクリーチャーを問答無用で場に出す呪文。
 普通に使うなら、自分の小型クリーチャーを巨大クリーチャーに変換させたり、逆に相手の大型クリーチャーを小型クリーチャーに弱化させて攻めを遅らせたりと、そのような使い方をする。
 だがそれには、山札を操作することがほぼ前提になっている。確実に切り札を呼ぶためにも、山札にカードを仕込んでおくという下準備が必要で、逆に相手に使う場合にも、さらに大型のクリーチャーを呼んでしまわないような工夫が必要だ。
 だが、今の風水は、山札操作なんてしていない。なにが出て来るかも分からないというのに、完全に運任せで浬のクリーチャーを破壊し、変換したのだ。
 結果的には戦力は半減以下に落とされてしまい、大成功ではあったが、それにしたって危険な賭けだ。リスキーで、不可解なプレイングである。
 浬はその不可解さに疑念を抱くが、風水はそれが当たり前とでも言うかのように笑って見せた。
「ふふっ。今、風はあたしに吹いてるからねっ。まあ、当然の結果かなっ? だから有効牌はぜーんぶあたしのとこに来る。逆に風が吹いてない浬くんのとこには、不要牌ばっかだと思うよ?」
「またわけのわからないことを……!」
 風水の言葉の端々に散見される、理解不能な言葉が耳に障る。現状が浬劣勢で、しかも浬の行動のほとんどが後手後手かつ裏目になってしまっているため、なおのこと癇に障る。
 だがそんなことまったく気にする風でもなく、風水はターンを進めていくのだった。
「とにかく、まだあたしのターンは終わってないからねっ! 今度は呪文《龍素知新》! 墓地から呪文《龍脈術 落城の計》を唱えるよっ!」
 今度は《落城の計》による水流が巻き起こり、《エビデゴラス》を包み込む。
 知識を供給し続ける、難攻不落の要塞であったはずの《エビデゴラス》は、その計略によって超次元の彼方へと飛ばされてしまう。文字通り、知識の要塞は陥落し、落城したのだった。
「フォートレスが……!」
 本来ならば除去の難しいドラグハート・フォートレスだが、《落城の計》はクリーチャーではなくカードを選択してバウンスする呪文。
 ゆえに、ドラグハート・フォートレスでも関係なく引き剥がすことができる。
「そして、まったまた《チュレンテンホウ》のマナ武装7が発動! もう一度、呪文《龍素知新》!」
 幸いにして、《チュレンテンホウ》の能力は手札から唱えた場合にしか発動しないので、《落城の計》を連続で唱えられることはない。
 だが、さっきは《落城の計》を唱えた《龍素知新》は、再び唱えられる。
「今度は、墓地から呪文《龍素解析》! 手札をすべて山札に戻して、カードを四枚引いて——」
 ——手札から、クリスタル・コマンド・ドラゴンを呼び出す。

「積んで、鳴いて、揃えて、待って——染め上げるよっ、緑一色(リュウイーソウ)! 《龍素記号Sb リューイーソウ》!」

83話「緑一色」 ( No.276 )
日時: 2015/11/06 02:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

龍素記号Sb リュウイーソウ 文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
自分が呪文を唱えた時、カードを1枚引いてもよい。
自分の手札にある呪文はすべて「S・バック—同文明」を得る。
W・ブレイカー



「っ、また面倒なクリーチャーが……!」
 ただでさえ《チュレンテンホウ》の手札から放たれるS・トリガーが厄介だというのに、さらにトリガーでなくてもS・バックを付加する《リュウイーソウ》まで出てくると、いよいよもって攻撃できなくなる。
 しかも《リュウイーソウ》は呪文を唱えるたびにカードを引ける。彼女が普通に呪文を唱えても、《チュレンテンホウ》の能力で唱えても、《チュレンテンホウ》の放つ弾が装填されてしまう。
 二重に攻め手を遮断されてしまった浬。そして、そんな浬に対して、風水は容赦なく押してくる。
 今の彼女に、押し引きの引きはない。
「《チュレンテンホウ》で攻撃! そのとき、《トンナンシャーペ》の能力発動! 浬くんの山札の一枚目を墓地へ!」
 龍脈術の空船が唸る。
 空から海へ、海から地へ、龍脈を通じて、神秘の力が浬の山へと流れ込む。
 そうして、山札の一枚目が墓地へと置かれた。それが呪文であれば、風水はその呪文をタダで唱えられる。
 果たして、墓地に置かれたカードは、
「……呪文、《ホーガン・ブラスター》! そんでもって……《龍素記号Ea パーレンチャン》をバトルゾーンに!」
「また呪文か……!」
 《ファンパイ》に続き、風水の運は相当いい。彼女は今まで、ギャンブル性の高いカードを多く使用しているが、ほとんど外れを引いていない。
 最初のギャンブルは、《龍芭扇 ファンパイ》で呪文を引き当てたこと。次は、引き当てた《龍素遊戯》。他にも、《シャミセン》を利用した2D龍解、山札操作なしの《転生プログラム》、先ほどの《トンナンシャーペ》に、直前に放った《ホーガン・ブラスター》もそうだ。
 自分で運に身を任せたカードを使う時もそうだが、こちらのカードを使った場合も、それは必ず良い方向に向いている。
 確率的に信じがたいほどに。浬にとって不可解なほどに。
 彼女は、浬の解く確率の、さらに上を行っていた。
「そりゃあね。だって、この場で風が吹いてるのはあたしの方だもん。今の流れはあたしのものだよ」
「だから、なんだその風とか流れとかいうものは。まさかイカサマじゃないだろうな?」
「あはは、まさか! 積み込みなんてしなくても、あたしは勝てるときには勝てるんだよ。いい風が来てるからねっ」
 また“風”だ。
 その意味不明なワードを耳にするたびに、浬の中でなにかが沸騰しそうなほどに沸き上がってくる。
「……なんか、そろそろお相手さんがブチギレそうだから、アタシが説明するわね」
 と、そこで。
 アイナが、ひょっこりと顔を出した。
「でも、なんて言ったらいいのかしらね。なんというか、風水はね……その場の空気というか、流れが読めるのよ」
「だからなんだ、その流れというのは!」
「これが説明が難しいのよね、この子独特の感覚だし……うーん、まあ、分かりやすく言えば、運気、かしら?」
 アイナはなんとか言葉を絞り出すようにして、その流れを表現する。
 そして出てきた言葉に、浬は顔をしかめた。
「運……だと?」 
「エリアスのご主人さん、アンタみたいな人には理解できないかもしれないけど、この世には“運がいい”とか“運が悪い”ってことがあるのよ。どうにもならない、定められた運命、みたいなのがね」
 人は良いことがあると運がいいと、悪いことがあると運が悪いと言いがちだ。
 それは特に根拠のない言い分だが、人という生き物は、その根拠のないことを平然と受け入れる。実際にそれが起ってしまっているのだから。良いことが起ったり、悪いことが起ったり、それを身を持って体感しているのだから、それは信じずにはいられない。
 そういった運気の流れを、彼女は——風水は、“風”、と呼んでいる。
 抗いようのない、運命的要因。起こり得ることは起こり、確率を超越したとも言える、気運の存在。多くの人間が受け入れる定め。
 だが、中にはそれを信じず、受け入れない人間もいるのだ。
 たとえばそれは、霧島浬という少年だ。
「……なにが運だ。そんなもの、定められた確率で当たる数値をたまたま引き当てたにすぎない」
「そのたまたまを何度もいいタイミングで当てちゃうから、運がいいっていうのよ。まあ、風水は流れが読めるだけだけどね」
 別に運を自分で良くできるわけじゃないわ、とアイナはそこで説明を打ち切った。
 つまり、アイナの言うことを信じるならば、風水はこの場の運気が分かるらしい。それによると、今その運気が良いのは、風水ということになる。それも、かなり良い運が来ていると推測できる。
 確かにこれまでの風水は“運が良かった”。それは、彼女が今の自分の運が良いから、あえて運任せになるような道を選んだのだ。
 浬のカードを使用する時にしたって、相手依存になる能力を用いたのは、“運良く”有用なカードを使えると確信していたから。
 今までの風水のプレイングについては、そのように考えることができるが、浬はそれを否定する。
「馬鹿馬鹿しい。そんな得体の知れない、観察も観測もできない事象で、なにが説明できる。誰が納得する。そんなもの、ただの思い込みだ。そんなオカルトはありえない」
「信じる信じないはアンタの自由だけどね。でも、今のこの子は相当運がいいから、この“流れ”を変えるのは、難しいわよ」
 一度吹いた風の風向きは、そう簡単には変わらない。運とは、一個人の力で簡単に操作できるような類のものではないのだ。
 それゆえに、大きな流れを味方につけた風水は強い。その運気は、浬では対抗できないほど強大なものなのかもしれない。
 だが、浬には浬のスタイルがある。浬はそれを曲げるようなことはせず、むしろ、真っ向から風水のスタイルを否定する。
「流れなんて関係ない。式を組み立て、その通りに事を進めれば、自ずと勝利は見えてくる。そこにあるのは計算の過程と、そこから導き出された結果のみ。それが俺の求める、俺の勝利の形だ」
「わ……今のセリフ、すっごいカッコイイ……っ!」
「なに感心してんのよ、アンタは」
 相手のことはひとまず無視して、浬はカードを引く。
 場のクリーチャーは軒並みやられたが、《デカルトQ》のお陰で手札は潤沢だ。そして今のマナ数ならば、十分達成できる。
 一度は諦めた、龍解を。
「《龍覇 M・A・S》を召喚! 《チュレンテンホウ》を手札に戻し、《真理銃 エビデンス》をバトルゾーンへ! 《M・A・S》に装備!」
 浬が呼ぶドラグハートは《エビデンス》。
 《メタルアベンジャー》を召喚した時は手札の状況的に龍解が遅れそうだったので敬遠したが、今回は違う。
 今の彼の手には、龍解を達するための鍵が揃っている。
「俺が組み立てた、確率を求める計算式を、お前に叩き込んでやる。《アクア忍者 ライヤ》を召喚 ! そして《ライヤ》の能力で、《ライヤ》自身を手札に戻す!」
「え……? 出したクリーチャーを戻すの? 意味なくない?」
「どうだかな。分からないなら、黙って見てろ。もう一度《ライヤ》を召喚、そして《ライヤ》を手札に戻す!」
 浬は《ライヤ》を召喚するも、自身の能力で手札に戻ってしまう。
 無意味に《ライヤ》を連続召喚したかのように見える浬の行動だが、これにはれっきとした意味がある。
 浬がターンを終える、その時。
「俺はこのターン《M・A・S》を一体、そして《ライヤ》を二体、合計で水のクリーチャーを三体召喚した。よって、《エビデンス》の龍解条件成立!」
「あ……っ!」
 なにも浬は、無意味に《ライヤ》を出し入れしていたわけではない。
 《ライヤ》は召喚すれば自分のクリーチャーを手札に戻さなければならないが、言い換えれば、《ライヤ》はわずか1コストで何度でも召喚できるクリーチャーだ。
 その性質を利用し、浬は《エビデンス》の龍解条件を満たすために、《ライヤ》を召喚していたのだ。
 龍素のエネルギーが充填され、《M・A・S》は《エビデンス》を、砲身そのものを、空高く撃ち出す。
「勝利の方程式、龍の素なる解を求め、王の真理を証明せよ!」
 そして、撃ち出された《エビデンス》は、その内に秘めた龍素の力とともに、龍の魂を解放する。

「龍解——《龍素王 Q.E.D.》!」

 《エビデンス》は己の存在を証明し、証明が終了した時には、その証左として《Q.E.D.》が現れる。
「わ、うわー、すっごい。まさか1ターンで龍解しちゃうなんて……配牌で聴牌して、ダブリー一発でアガられた感じ……」
 風水は感心したように、すべての龍素を統べる王を見上げていた。
 だが、それでもなお、彼女は不敵に微笑む。
「でもでもっ! あたしだって、もう龍解条件は成立してるんだよっ!」
 1ターンで龍解を達成した浬に対抗するかのように、風水も自分のドラグハートに手をかける。
 ゆっくりじっくり、最初にできた《ファンパイ》の一飜役から育て上げ、東南西北の風牌を掻き集め、そして今、その飜数は最大まで達した。
 即ち——役満だ。
「《トンナンシャーペ》の龍解条件は、ターンの初めに相手の墓地のカードが十枚以上あること! 浬くんの墓地には、カードがピッタリ十枚!」
「っ……!」
 確かに、見れば浬の墓地には、ちょうど十枚のカードが落ちている。こんなにカードを使った覚えはないが、それでも《トンナンシャーペ》に2D龍解されてから、何度か呪文を撃ったり、《転生プログラム》でカードを墓地に送られていたりしたので、思えばそれは必然だったのかもしれない。
 しかしそんなことは、今更どう思おうが関係ない。相手の手役は完成してしまった。パオで責任払いを要求されるかのような、失態の恥辱が込み上げてくる。
 だが、これも、この嘆きも無意味なのだろう。
 役満を聴牌した風水の手は、一撃必殺の破壊力を備えている。それが今、解き放たれるのだ。
「積んで、鳴いて、揃えて、待って——みんな飛ばすよっ、大四喜(ダイスーシー)!」
 龍脈術の空船《トンナンシャーペ》が、変形する。
 浬の墓地に眠る水の力を吸い上げて、そのエネルギーを龍脈術の力に変換する。
「龍脈術の神髄を見せてあげるっ! 3D龍解——」
 そして、現れる。
 現存する空間を捻じ曲げ、亜空間を生み出す殺法を編み出し、爆発的な龍脈術の力を流し込む。
 そして、それによって生じた流れをすべて、我が身に引き寄せた。
 そうして歪んだ亜空間を巻き起こす、艦船の結晶龍が、その姿を解き放つ——

「——《亜空艦 ダイスーシドラ》!」

84話「大四喜」 ( No.277 )
日時: 2015/11/06 02:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

亜空艦 ダイスーシドラ 水文明 (8)
ドラグハート・クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 11000
W・ブレイカー
このクリーチャーが攻撃する時、いずれかのプレイヤーの墓地から呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、その後、その呪文を持ち主の墓地に置く。



 龍脈術のすべてが注ぎ込まれた結晶龍、《ダイスーシドラ》。
 その神秘の力は亜空間さえも歪ませ、あらゆる術法を意のままに操る。
 そう、時として失われた魔術さえも蘇らせ、禁忌とされる呪術にすらも触れるほど、強大な力を持つのだ。
 《ダイスーシドラ》は、水流を巻き起こし、結晶を輝かせ、静かに戦場に鎮座する。
「3D龍解、かんりょーうっ! そんでもって、とりあえず《チュレンテンホウ》を召喚! さらに《アクア・ソニックウェーブ》を召喚だよ! 《M・A・S》を手札に!」
 バウンスした《チュレンテンホウ》が、《アクア・ソニックウェーブ》を引き連れて戻ってきた。
 だが、そんなことが些事に思えるほどに、次の一撃は強烈だ。
 空間を歪ませ、《ダイスーシドラ》は咆哮した。
「いくよっ! 《ダイスーシドラ》で攻撃! そのとき、《ダイスーシドラ》の能力発動だよっ!」
 《ダイスーシドラ》が咆える。その怒号が、再び空間を歪ませ、その歪から亜空間を生み出す。
 そして、その雄叫びに呼応するかのように、お互いの墓地が水色に光った。
「《ダイスーシドラ》が攻撃するとき、自分か相手の墓地から、好きな呪文をタダで唱えられるんだよ! すごいでしょ!」
「っ、なんだと……っ!?」
 流石は3D龍解したドラグハート・クリーチャーと言わざるを得ない派手な能力だ。下準備が必要とはいえ、無条件で使い終わった呪文を再利用、あわよくば相手の呪文すらも逆利用してしまうその力は、強力無比である。この歪んだ空間だからこそできる芸当であり、その破壊力はドラ爆のドラゴンロード級。
 この状況で唱える呪文となると、浬の《スパイラル・ハリケーン》で一斉除去か、《龍素解析》で援軍を呼ぶといったことが考えられる。この能力で唱えた呪文は山札などには戻らず、墓地に置かれたままなので、どれだけ強力な呪文でも使いたい放題だ。
 だがこの時、風水が唱える呪文は《スパイラル・ハリケーン》でも《龍素解析》でもない。
 再び、墓地が水色に光る。
 光ったのは——浬の墓地だ。
「浬くんの墓地から呪文を唱えるよっ! 呪文《ホーガン・ブラスター》!」
「《ホーガン・ブラスター》だと……?」
 ここで風水が唱えるのは、《ホーガン・ブラスター》。
 増援を呼ぶという意味では《龍素解析》と同じだが、しかしかなり運任せな一枚である。
 ゆえに、浬はこのカードチョイスには、多大なる疑念を抱く。
 だが風水にとっては、この選択が当然だった。
 偶然に身を委ねることは、今の彼女にとっては必然なのだ。
「どうするのか、どうやるのか……なーんて、そんなのどーでもいいよ。大切なのは、最後に勝つこと。オカもウマも関係ない。プラマイゼロなんて面白くない。ラス落ち論外、三チャは嫌だ、二チャもまだまだ、目指すはトップの一人浮き! 聴牌崩してフリテンリーチしても、役なし裏ドラ期待しかなくても、最後にアガってまくれれば、それでいいんだよっ!」
 風水のデッキがシャッフルされる。その勢いたるや、海流の中の渦潮の如く、彼女の山札がかき混ぜられた。
「……出番ね」
 そして、
「進化——」
 渦中に眠る人魚姫が、目を覚ます——

「——メソロギィ・ゼロ!」












 大渦が止まる。
 そこにあるのは、三叉の槍。
 しなやかな流線型。
 そして、義を重んじる、受け継がれた神話の力。
 かの者は《海洋神話》の継承者。
 かつての神話の如く大儀を抱き、全てを飲み込む海洋となりて、新時代の荒波を巻き起こす。
 そう、かの者こそは——

『——《海洋神槍 トリアイナ》!』

85話「海洋神槍」 ( No.278 )
日時: 2016/03/15 02:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

海洋神槍 トリアイナ 水文明 (8)
進化クリーチャー:リヴァイアサン/ポセイディア・ドラゴン 9000
進化—自分の《海洋の語り手 アイナ》1体の上に置く。
メソロギィ・ゼロ—バトルゾーンに自分の《海洋の語り手 アイナ》または《トリアイナ》と名のつくクリーチャーがおらず、自分のリヴァイアサンまたはコマンド・ドラゴンを含む水のカードのコストの合計が12以上なら、進化元なしでこのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーはバトルゾーン以外のゾーンにある時、進化でないクリーチャーとしても扱う
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または攻撃する時、カードを3枚まで引く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはバトルゾーンを離れた時、バトルゾーンにあるクリーチャー、またはカードを3枚まで選び、持ち主の手札に戻す。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分または相手のシールドゾーンからカードを合計3枚選び、見てもよい。こうして自分のシールドを見た場合、そのカードを手札に加えてもよい。そうした場合、手札に加えたカード1枚につき、自分の手札から1枚を新しいシールドとしてシールドゾーンに加える。相手のシールドを見た場合、そのカードを相手の手札に加えてもよい。そうした場合、相手の手札を見て、手札に加えた枚数、相手の手札をシールドに置く。(この能力で手札に加えたシールドの「S・トリガー」は使えない)。
W・ブレイカー



 激しい渦の中から現れたのは、人魚姫。
 アイナの時と、姿はそう変わらない。人間と変わらぬような、ほぼ半裸の上半身。そして、魚の尾びれのようなしなやかさを持つ下半身。その姿は正に、童話に出てくるような、半魚人の姫君だった。
 人間的な流線型の肉体美。瑞々しく膨らんだ乳房、流れるようにくびれた腰部。なめらかな肌を伝う水滴が、さらに彼女を扇状的に彩る。
 そして、背徳的な非人間さ。尾びれに鱗、水掻きという異種族的な部位は、彼女の美貌と相まってどことなく蠱惑的で、見る者を魅了し、誘われてしまいそうだった。
 もっとも、鋭く、そして長大な三叉の槍を携えていなければ、だが。
「《トリアイナ》……」
『あたしが先にこの姿を見せることになるとはね、エリアス……まあでも、あたしもあの方の力を受け継いだ者。私が姿を現したからには——』
 《トリアイナ》は、ゆっくりと槍を構える。だがそれは、突くための構えではない。
 まるで大海原に呼びかけるように、《トリアイナ》は槍を天高く掲げていた。
 彼女はスッと目を細める。
 そして、一言。
 告げる。
『——一瞬でカタはつくわ』
 刹那。
 浬のクリーチャーが、消し飛んだ。
「……なに!?」
「《トリアイナ》の能力発動! 《トリアイナ》がバトルゾーンに出たとき、相手クリーチャーを三体、手札に戻すよっ!」
 《トリアイナ》が巻き起こした大波が、浬のクリーチャーをすべて飲み込んでしまう。
 一瞬のうちに、浬はクリーチャーを失ってしまった。
「さーらーにっ! カードを三枚ドロー! さらにさらにっ! あたしのシールドを三枚見るよっ!」
 水面に映される、風水のシールド。浬からは光の反射で、その中身は見えない。
 だがその水面が、揺れるように動く様子は見えた。風水はそこに手を入れる。
「そして、手札のカードと、この三枚を入れ替えるねっ!」
「……仕込んだか」
 明らかにトリガーをシールドに埋めている。彼女は手札が切れていたが、今は運がいいらしい風水のことだ、事前の3ドローでシールドに埋めたいカードを引いていてもおかしくはない。最初からシールドに埋まっている可能性も加味すれば、罠が仕掛けられたことはほぼ明白である。
 登場するだけで、場のクリーチャーを三体バウンス、自分は三枚ドロー、シールドも三枚入れ替え。理不尽すぎるほどのアドバンテージを叩き出すクリーチャーだ。
 攻めるための突破口をこじ開け、守るための盾を張り直し、双方を円滑に進めるための知識を蓄える、《海洋神槍 トリアイナ》。
「この完璧主義者っぷり。微に入り細を穿つような、抜け目ない布陣。流石は《海洋神話》の語り手……いえ、《海洋神話》を継承しただけのことはありますね、《トリアイナ》」
『お褒めに預かり光栄の至りです、とでも言っておきましょうか。まあ、あれよ。あたしに託されたのはこの“槍”だけだから、あんまり驚くようなことはできないけど……あの方と同じように、己の義に誓って、使命は果たすわ』
 それが、今の場だ。
 なんであれ彼女も語り手であり、風水が今の主人。彼女のために尽くし、浬にその三叉の槍を向けることは、自然な理であった。
「さぁさぁさぁ! トビ寸前に役満直撃、きついと思うけどガマンしてねっ! 48000点分の包による責任払い、受けてもらうよっ! 《ダイスーシドラ》でWブレイク!」
 《ダイスーシドラ》が、またも咆哮する。だがその雄叫びは、ただ空間を歪ませるものではない。
 むしろ、それは結果だ。
 咆哮と共に、龍脈術の力が爆発する。その破壊的なエネルギーによって、空間が歪み、軋むように轟音を上げていた。
 亜空間を生み出し、既存の空間を崩すほど莫大な破壊的エネルギーが、浬へと押し寄せる。
「っ、ぐ……!」
 その一撃は、とにかく凄まじいの一言に尽きる。その破壊力、エネルギー質量の大きさ、あらゆる強大さを、身をもって感じる。眼鏡もどこかに吹き飛んでしまった。
 しかし、その大きな一撃は、予測していた。
 ウエポンからフォートレスへの龍解を許した時点で、3D龍解を達成される可能性も考えていた。
 だからこそ、その対策も当然、浬は打っている。
「……S・トリガー発動!」
 一枚目のシールドが吹き飛び、二枚目のシールドに亀裂が入る。
 その刹那、盾の割れ目から光が迸った。
「調子に乗るなよ。親の役満がなんだ、お前がいくら連荘しようとも、これで完全にストップだ。お前の親番は、とっくに流れてるんだよ」
 そして、そのシールドから、無法者が姿を現した。

「——《終末の時計 ザ・クロック》」

 時流を操る無法者。そして、終末の時を刻む者、《クロック》が現れた。
 彼の前では、時間すらもルールから外れる。
 そして、時が止まった。
 同時に、時が加速する。
 気づけば風水のターンは過ぎ去り、浬のターンへと移行していた。
「……あ、あれ? あたしの攻撃は……」
「とっくに終わっている。言っただろう、お前の親は流れた、と。ノーテン罰符はきっちり貰ったぞ。ここからは——」
 と、浬は風水に対して、意趣返しのように、言い返す。
「——俺の連荘で終わりだ」
「っ……!?」
 ここにきて、初めて風水の表情が変わった。
 いや、多感で表情豊かな彼女に対してその表現は適切ではない。より正確に言うなら、彼女の纏う、空気が変化した、と言うべきか。
 風水自身もそれを感じ取ったのだろう。それに伴い、彼女の顔つきも、初めて見せる、焦燥感に駆られたようなそれへと変わっていく。どれだけ喫驚しても、根底にあった余裕が、完全に消え失せていた。
 そして、ぽつりと、声が漏れる。

「風向きが、変わった……!?」

 目を見開き、信じられない、と言うように口を開いている風水。驚きのあまり、軽く放心状態だ。
「自分の感覚に踊らされたな」
「え……?」
 呆けて立ち止まっている風水に、浬は鋭い言葉を投げかける。
 そしてその言葉は、彼の従者が引き継いだ。
「私の見立てでは、《トリアイナ》の能力は三つ。ドロー、クリーチャー除去、シールド入れ替え……このうち、シールド入れ替えは、相手に対しても行える能力です。そうでしょう、《トリアイナ》」
『……えぇ、そうね』
 《トリアイナ》は首肯する。
 かつての《海洋神話》になぞらえた三つの能力。知識の充足、敵の処理、罠への理解。《トリアイナ》の力がこれらを雛形にしていることは、エリアスには察しがついていた。
 そこから推測して、《トリアイナ》の能力も、彼女の発言も踏まえて、ほぼ真実へと辿り着いていたのだった。
 完全に相手を見切った浬たちだが、実際のところ、それはただ理解しただけにすぎない。知識を増やしたところで、運命は変わりようがないのだ。むしろ運命の分岐路を決定づけたのは、ルールをぶち破る《クロック》あってのことだろう。
 そして同時に、風向きが変わった一番の原因。それは、風水自身にあった。
「自分の感覚に頼りすぎたせいで空回ったな。あそこはどう考えても、俺のシールドからトリガーを排除して、確実に決めるべき場面だ。要するに、お前は詰めが甘いんだよ」
「そ、そんなぁ……」
 このターンに勝負をつけるなら、不確定要素を排除する必要がある。不確定要素とは、この場合はS・トリガーやニンジャ・ストライクなどの、相手ターンに発動する防御手段だ。
 少し考えればわかることだ。このターンでとどめを刺せる打点があるのだから、それを邪魔されないよう、ダイレクトアタックを阻害するトリガーを取り除く。それは誰もが望むことで、それができるのであれば、誰だってそうする。《デカルトQ》でシールドを入れ替えていたのだから、尚更だ。
 そもそもこのターンで勝負を決めるつもりなら、自分のシールドにトリガーを仕込む意味はない。トリガーを仕込むということは、耐えられることを前提としているのだから、倒しきる目的であれば、相手のトリガーを廃することを優先させるべきだ。
 これが、感覚ばかりで打っていた、風水の致命的なミスであり、弱点だった。
「俺はわけの分からないオカルトなんかに負けるつもりはない。今度は、こっちが決めにかかるぞ。《アクア忍者 ライヤ》を召喚。能力で、《ライヤ》を手札に戻す」
「またそれ? もうドラグナーを出しても遅いよっ! さっきのターンはダメだったけど、次のターンこそ、あたしの勝ち! 流局前に決めちゃうからっ!」
「言ってろ。もう、お前が和了ることはない。俺の水のクリーチャーが手札に戻ったことで」
 《ライヤ》のセルフバウンスを活用する手段は、なにも《エビデンス》の龍解だけではない。
 浬の手札から、飛沫と共に、“彼女”が飛び出す。
「手札から、《賢愚の語り手 エリアス》をバトルゾーンに!」
『参ります、ご主人様! 私の能力で、山札の上から四枚を閲覧できます』
 そして、その中からカードを一枚手札に加え、残りを好きな順序で山札の上と下に、好きなように配置できる。
 たった一枚のカード、たった一つの知識だが、それは浬の組み立てる式に必要な、大事な鍵。
「呪文《龍素知新》。墓地から《龍素解析》を唱える」
 その鍵を、浬はすぐさま行使する。
 知識は復活する。かつての記録を遡り、イノベーションを果たす。
 そうすることで、新たに見えてくる真理が、そこにはあった。
「手札をすべて山札に戻し、四枚ドロー。そして……現れろ! 《龍素記号Og アマテ・ラジアル》!」
 《龍素解析》が成され、一つの答えが導き出される。
 その解に従い、原初の龍素記号“Og”から《アマテ・ラジアル》が生み出される。
「《アマテ・ラジアル》の能力で、山札から《ヒラメキ・プログラム》を起動! 《アマテ・ラジアル》を破壊し、山札からコスト8のクリーチャーをバトルゾーンに!」
 《アマテ・ラジアル》は閃く。次なる力を与えるするために。
 語り手を、さらなる存在へと、昇華させるために。
 残り少ない浬のデッキ。その中で残っている、コスト8のクリーチャーと言えば、一体しかいない。
「《エリアス》を進化——」
 閃く《アマテ・ラジアル》の身が変化する。
 賢愚を受け入れた、たった一人の錬金術師へと。

「——《賢愚神智 エリクシール》!」


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