二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

32話「牙英雄」 ( No.124 )
日時: 2014/06/21 22:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 かくして始まった、柚とオトマ=クット(とその頭の上に乗ったサソリス)とのデュエル。
 互いにシールドはまだ五枚あり、柚の場には《エコ・アイニー》《緑神龍バルガザルムス》。オトマ=クットの場には《龍鳥の面 ピーア》《青銅の面 ナム=ダエット》。
 どちらも序盤からマナを加速し続けており、それぞれ準備を整えているが、そろそろ動き出す頃合いだ。
「わたしのターンです。《バルガザルムス》で攻撃し、能力発動ですっ」
 《バルガザルムス》はドラゴンの攻撃時、山札を捲り、それがドラゴンなら手札に加えられる。自然、特にドラゴンをメインとしたデッキでは貴重なドローソースとなるクリーチャーだ。
「山札を捲って……《緑神龍ミルドガルムス》を手札に加えます。そしてシールドブレイクですっ」
「S・トリガー《フェアリー・ライフ》だ。マナを増やすよ……じゃ、僕らのターンだね」
 オトマ=クットの頭に乗ったサソリスが、陽気に言う。
 基本的なデュエルの流れはオトマ=クットも理解しているようだが、今回の進行は主にサソリスが行っていた。彼の方が知能が発達しているからだろうか。
「そろそろこっちも攻めていくよ。まずは3マナで呪文《野生設計図》、山札を捲るよ」
 そして、こうして捲った3枚の中のコストの違うクリーチャーをそれぞれ手札に加えられる。
 サソリスが捲ったのは《龍覇 サソリス》《牙英雄 オトマ=クット》《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》。ちょうどコスト6、7、8のクリーチャーだ。
「おっと、いい感じに来たね。だったらこちらで攻めようか。この三枚を手札に加え、《ピーア》の能力でコマンド・ドラゴンの召喚コストが1下がる。よって6マナで《牙英雄 オトマ=クット》を召喚」
 と、その瞬間、サソリスが跳躍する。そしてそれに合わせ、オトマ=クットも前へと直進し、バトルゾーンへと進出した。それから、サソリスが着地する。
「英雄さんが出ちゃいました……」
 サソリスは何度もフォローしていたが、その恐ろしい形相を前にしては、やはり戦慄せずにはいられなかった。
「《オトマ=クット》の能力、マナ武装7、発動」
 サソリスが静かに告げる。一体なにが飛んでくるのかと身構える柚だったが、しかし《オトマ=クット》が取った行動——というより、サソリスが取った行動、そして《オトマ=クット》がされたことに、吃驚するのだった。
「よいしょっと」
 サソリスは地面に手を突っ込んで——というより、地面を叩き割って——地中より身の丈ほどもあるハンマーを引っ張り出した。酷く原始的な作りで、正に原始人が使っていそうな槌だが、どこか神秘的で、言葉にできない力を感じる。殴打部が龍の顔のようになっているのも、気にかかった。
「あれは……?」
 疑問符を浮かべる柚。あのハンマーがなんなのかも疑問だが、それ以前にここでサソリスがハンマーなどというものを引っ張り出す意味が分からない。
 だが、その意味もじきに分かる。そしてそれは、柚が吃驚する理由にもなった。
「——えいやっ!」
 そんな掛け声と共に、サソリスは手にした槌を振り下ろした——
「っ!?」
 ——《オトマ=クット》に対して。
 聞くだけで痛みが走りそうな、鈍い音が響いた。
 思い切り殴られた《オトマ=クット》は顔を伏せ、身体を前のめりにした状態で静止する。
「な……なにしてるんですかっ!?」
「ん? なにって、これで殴ったんだけど? ……ああ、大丈夫だよ。こう見えて、腕力には自信がある方でね」
「そういうことじゃなくて……そんな、かわいそうじゃないですかっ。そんな、いきなり殴るなんて……」
「可哀そう……?」
 柚の主張に対し、首を傾げるサソリス。最初は本気で柚がなにを言っているのか理解できなかったようだが、彼はビーストフォークの中でもかなり聡明だ。彼女の言い分も、すぐに理解した。
「そうか……君は、彼らのことを知らないんだね。じゃあいい機会だから、教えてあげるよ。古代龍——ジュラシック・コマンド・ドラゴンについて」
 サソリスは手にした槌を肩に担いで、説明を始める。
「まず言っておくと、古代龍なんて銘打ってるけど、彼らが遥か昔、この世界に生きたという記録はない。実際は最近——君らの時代感覚ではかなり昔になるけど——生まれたような種族なんだ」
 古代に生きたわけでもないのに、古代龍と呼ばれる。それはなぜか。その理由は彼らがどのようにして生まれたのかに、関わってくる。
 彼らの力は太古からあったのではなく、太古の力を持つものによって、与えられた力なのだ。
「彼らはジュダイナ——このハンマー——に殴られることで、古代の力に目覚めるのさ。そしてこの《オトマ=クット》は——」
 そう言ってサソリスは、ジュダイナをどこかに放り投げ、視線を《オトマ=クット》に向ける。
「——殴られた箇所から、原生林を発生させる」
 刹那、《オトマ=クット》が起き上がり、カッと目を見開く。そしてマナから、大量の自然の力を身に纏った。
 すると身体の各所に民族的な装飾が施される。頭部には鳥の頭のような飾り、そして肉体——ジュダイナに殴られたところからは、鬱蒼と植物が繁茂する。
「……!」
「ここで対戦に戻ると、《オトマ=クット》の能力はマナ武装7、マナゾーンに自然のカードが七枚以上あれば、マナゾーンのカードを七枚アンタップするのさ」


牙英雄 オトマ=クット 自然文明 (7)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 8000
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに自然のカードが7枚以上あれば、マナゾーンのカードを7枚までアンタップする。
W・ブレイカー


 《オトマ=クット》から広がる植物は、このターン使われたマナに覆い被さり、そこに新たなエネルギーを流し込む。すると、マナが一気に起き上がった。
「マナがアンタップされるなんて、すごい能力です……」
 単純に考えても、7マナの《オトマ=クット》を召喚するマナを復活させるので、マナ消費なしでパワー8000のWブレイカーが出ると考えれば強力である。
 だがこの《オトマ=クット》は、《ピーア》の能力でコストを軽減して出て来ているのだ。さらに、
「《ピーア》のもう一つの能力、自分のコマンド・ドラゴンが出たことで、マナを一枚追加だ。これで残り9マナだね。残ったマナでこの僕を召喚するよ」
 続けてサソリスが再び跳躍し、《オトマ=クット》と同じようにバトルゾーンへと出て来る。そして、
『僕の能力発動。僕が場に出た時、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートを呼び出す。呼び出すのは、さっきも見せた《ジュダイナ》だ』
 《サソリス》は再び地面を叩き割って、地中より身の丈とほぼ同じ大きさの土を引きずり出す。
『そして、こうして呼び出したドラグハートがウエポンなら、ドラグナーたる僕に装備するよ』
「ドラグハート・ウエポン……かいりくんも使ってたカードです……」
 浬の使用していたドラグハート・ウエポン《真理銃 エビデンス》は、水のカードを三回使用することで龍解したが、その前のウエポンの状態では、カードを引くだけの地味な効果だった。
 ドラグハートの真価は龍解にある、しかしすべてのドラグハートがそうであるとは言い切れない。
 特に《ジュダイナ》は、それ単体でも非常に強力なカードなのだ。
『《ジュダイナ》の能力で、僕は1ターンに一度、マナゾーンからドラゴンを召喚できる。よって、マナゾーンから《養卵類 エッグザウラー》を召喚するよ。これでターン終了だ』
「マ、マナゾーンからも召喚ですか……っ!?」
 序盤に溜めたマナからドラゴンを展開する《サソリス》。このターンだけでも三体もクリーチャーが並んでおり、この状態が続くとまずい。
「わ、わたしのターン……」
 《サソリス》が、というより《ジュダイナ》が存在する限り、《サソリス》は毎ターンマナゾーンからドラゴンが出て来る。豊富なマナを生かした展開が可能になるのだ。
「とりあえず、あの武器のカードをなんとかしないとです……呪文《父なる大地》! 《サソリス》さんをマナゾーンに送って、マナゾーンから《ナム=ダエット》を出してください。さらに《ミルドガルムス》も召喚ですっ。マナを増やして、マナゾーンの《サソリス》さんを墓地へ!」
「もう戻されちゃったよ、しかもマナから墓地に落とすなんて、君も結構やるじゃないか。ドラゴンを三体並べられなかったし」
 《サソリス》と《ジュダイナ》、セットで除去されてしまったが、サソリスの場数は変わっていないので、サソリスの有利も変わらない。
(とりあえずマナゾーンからドラゴンは出ませんけど……やっぱり、強いです……)
 気さくなサソリスもどこか怪しげで、目の前にそびえる《オトマ=クット》には威圧感で気圧されそうになる。
(でも、あきらちゃんも、かいりくんも、ぶちょーさんも……みんな、同じだけ頑張ってきたんです)
 なら、自分だけ頑張らないわけにはいかない。
 なんとか気を強く持ち、柚はサソリスの次なる一手に、身構えるのだった。

32話「牙英雄」 ( No.125 )
日時: 2016/03/11 23:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「さて、それじゃあ少し、攻め方を変えてみようかな」
 サソリスは、自身が除去されたために、そんなことを言い出す。そして、次なる古代龍が目覚めるのだ。
「《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》を召喚」
 地面から引っ張り出したジュダイナを、広大な大地へと振り下ろす。
 すると次の瞬間、地中より新たな古代龍が復活した。
「お、大きいです……!」
 現れたのは、ティラノサウルスにも似た恐竜型の巨大なドラゴン。しかし紫色の毒々しい爪や、尻尾から伸びる刃、緑色の鱗から蝙蝠の如き小さな翼まで、《オトマ=クット》以上に凶暴で禍々しい容姿をしている。
「《ティラノヴェノム》がバトルゾーンに出た時、マナゾーンからコスト6以下の自然クリーチャーを呼び出すよ。出て来るんだ《連鎖類大翼目 プテラトックス》!」
 再びサソリスがジュダイナを振り下ろす。すると地中から、巨大な翼と《ティラノヴェノム》と同じ紫色の刃を備えた尻尾を持つ、翼竜が大空へと舞い上がる。
「ま、またですか……っ!?」
「これだけじゃ終わらないよ。《プテラトックス》の登場時能力で、マナゾーンからコスト4以下の自然クリーチャーを呼び出せる。外の世界に出ておいで《連鎖庇護類 ジュラピ》!」


連鎖類覇王目 ティラノヴェノム 自然文明 (8)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはこのクリーチャーが攻撃する時、コスト6以下の、進化でも多色でもない自然のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー
このクリーチャーが、このクリーチャーよりパワーの大きいクリーチャーとのバトルに負けた時、相手クリーチャーを持ち主のマナゾーンに置く。


連鎖類大翼目 プテラトックス 自然文明 (6)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト4以下の進化でない自然のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーが、このクリーチャーよりパワーの大きいクリーチャーとのバトルに負けた時、バトル相手のクリーチャーを持ち主のマナゾーンに置く。


連鎖庇護類 ジュラピ 自然文明 (1)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーを召喚することはできない。
W・ブレイカー


 連鎖類目のジュラシック・コマンド・ドラゴンは、マナゾーンから同類のクリーチャーを呼び出すことで、その名の通り“連鎖”してクリーチャーを展開することができる。
 現にサソリスは、《ティラノヴェノム》の召喚だけで三体ものドラゴンを並べた。さらに、サソリスの場には《ピーア》と《エッグザウラー》がいる。そしてこのターンにサソリスが並べたのはすべてパワー5000以上のコマンド・ドラゴン。
 つまり《ピーア》と《エッグザウラー》の能力が発動し、三体並んだことで3マナ加速、手札も三枚補充されたのだ。
 クリーチャーの展開に必要なマナと手札を、展開するという行動で補充するサソリスは、さらなる追い打ちをかける。
「増えたマナで《連鎖の面 ブルザッソ》《矢毒の面 イロケロ》を召喚。これでクリーチャーが十体だ」
「あ、あうぅ……」
「そして、《オトマ=クット》でWブレイク!」
 唐突に、今まで大人しかった《オトマ=クット》が大きく咆哮する。そしてその勢いのまま、柚のシールドを二枚、引き裂いた。
「っ、S・トリガーです! 《大きくて小さな農園》! パワー3000以下のクリーチャーをすべてマナゾーンへ送りますっ!」
 幸運にも全体除去のS・トリガーを引き当てた柚。一気にサソリスのクリーチャーはマナゾーンに送られ、場数が半減したが、それでもまだ五体だ。
「ふむ……じゃあターン終了だ」
「わ、わたしのターン……」
 それ以上サソリスは攻めてこなかったが、しかし柚の劣勢、サソリスの圧倒的有利は変わらない。
「とりあえず……呪文《リーフストーム・トラップ》で、わたしの《ミルドガルムス》とサソリスさんの《ティラノヴェノム》をマナゾーンへ! さらに」
 大地が揺れる。しかしそれは、サソリスが呼び覚ます古代龍の胎動ではない。
 なにもジュラシック・コマンド・ドラゴンを使うのは、サソリスだけではないのだ。柚もまた、古代龍を切り札としている。

「増殖します、帝王様——《帝王類増殖目 トリプレックス》!」

 大地を揺るがし現れたのは柚の切り札、《トリプレックス》。
 召喚された《トリプレックス》は、大地を割ってしまいそうなほどの咆哮を放つ。
「《トリプレックス》の能力で、マナゾーンから《幻想妖精カチュア》をバトルゾーンへ! そして《バルガザルムス》でシールドブレイクですっ!」
「……へぇ」
 《トリプレックス》と《カチュア》。柚の二体の切り札がどちらも並んだが、しかし盤面的には今更出て来ても遅い。
「なかなかやるね。でも、もう手遅れだよ。僕のターン」
 今でも十分な戦力を揃えているサソリスは、柚を威圧するかのように、さらにクリーチャーを展開する。
「《陽動の面 ヒッヒー》《護鏡の面 ミラレス》《長鼻類 マンモスドン》《節食類怪集目 アラクネザウラ》を召喚」
 大量のマナを得て次々と召喚されるビーストフォーク號とジュラシック・コマンド・ドラゴンたち。その様子に、ただでさえ劣勢で心が折れそうな柚は、さらに圧倒されてしまう。
「……っ」
 もはや声も出ない柚は、ぱくぱくと口を開閉するだけだった。
 そして、
「まずはクリーチャーを掃除しておこうか。《オトマ=クット》で《バルガザルムス》を攻撃」
 再び雄叫びを上げる《オトマ=クット》は、《バルガザルムス》に鋭利な爪を立て、引き裂いた。
「《バルガザルムス》……!」
「まだだ。《ジュラピ》でWブレイクだよ!」
 他のクリーチャーに庇護される《ジュラピ》は、《プテラトックス》に運ばれ宙を舞う。
 そして《プテラトックス》から離れると、落下しながらその小さな爪を柚のシールド目掛けて振り下ろした。
「っ……!」
「《プテラトックス》、最後のシールドをブレイクだ!」
 《ジュラピ》を運んできた《プテラトックス》が空中でターンし、折り返しながら柚のシールド目掛けて突撃。最後のシールドを叩き割った。
「さあとどめだ。《エッグザウラー》でダイレクト——」
「まだですっ! S・トリガー発動っ!」
 《プテラトックス》が砕いたシールドは、光の束となり収束する。そして収束した光は、大量の葉を巻き上げる木枯らしを発生させた。
「《リーフストーム・トラップ》! わたしの《カチュア》とサソリスさんの《エッグザウラー》をマナゾーンへ!」
「止められた……でも、せっかくのアタッカーを潰しちゃったね。《トリプレックス》だけじゃあ、僕にとどめは刺せないよ」
 《エッグザウラー》を除去することで柚はダイレクトアタックを防げたが、しかしその代償として、アタッカーを一体失ってしまった。これではとどめまで、一手足りない。
 だが柚には、その一手を埋める手段があった。
「大丈夫です、わたしには《トリプレックス》だけじゃないんです……っ! お願いします、プルさんっ!」
「ルー!」
「っ!?」
 仮面の下でだが、初めてはっきりとサソリスが驚きを見せた。
「わたしの自然クリーチャーがマナゾーンに送られたことで、《萌芽の語り手 プル》をバトルゾーンへ!」


萌芽の語りペタル・ストーリー プル 自然文明 (4)
クリーチャー:スノーフェアリー/アース・ドラゴン 1000
自分の自然クリーチャーがバトルゾーンからマナゾーンに置かれた時、このクリーチャーを手札からバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、山札の上から1枚目をマナゾーンに置いてもよい。その後、カードを1枚、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。


 《カチュア》の抜けた穴を埋めるようにして、柚の手札から《プル》が飛び出した。
「《プル》さんの能力発動です! 山札の上から一枚をマナに置いて、マナゾーンの《ハックル・キリンソーヤ》を回収します。そして、私のターンですっ!」
 なんとかサソリスの攻撃を凌ぎ切った柚。このたった1ターンで、柚の起死回生の一撃が繰り出される。
「マナ進化《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》を召喚! 《トリプレックス》で、Tブレイク!」
「っ、S・トリガー《ナチュラル・トラップ》! 《ハックル・キリンソーヤ》をマナゾーンに送るよ!」
 《トリプレックス》がサソリスのシールドを三枚、喰い千切るようにして粉砕する。サソリスはS・トリガーで、このターン出て来た《ハックル・キリンソーヤ》こそ除去できたが、
「……ふむ」
 ここまでだ。
 仮面の隙間から、どこか納得したような、認めたような瞳をの覗かせるサソリス。
 そして彼には《語り手》の妖精が、とどめの一撃を放つ。

「《萌芽の語り手 プル》で、ダイレクトアタックです——っ!」

33話「界王類絶対目」 ( No.126 )
日時: 2014/06/24 04:26
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「…………」
 デュエルが終わり、神話空間が閉じる。
 虚空を見つめ、意識がないようにボーっと立ち尽くす柚。そんな彼女に、一枚のカードがひらひらと舞い落ちて来た。
「《牙英雄 オトマ=クット》……プルさん」
「ルー?」
「わたし……勝てたんですね……!」
「ルー!」
 柚の頭の上で、称賛するように声を上げるプル。そして、
「やっぱり僕の見込み通りだったよ。わざわざこんなまどろっこしいことする必要なんてなかったのに。ねぇ、《オトマ=クット》?」
 サソリスは、カードと化した《オトマ=クット》に呼びかける。
「まあ、なにはともあれ、君は《牙英雄》の力を手に入れることができたよ、良かったね」
「サソリスさん……」
「これで君がここにいる理由もなくなった。こんな黴臭くて古臭い場所から早く出た方がいい——と、言いたいところだけど」
「……?」
 サソリスは、どこか別の場所を見つめるように視線を逸らす。
「どうしたんですか?」
「ちょっと派手に暴れすぎたかも。君や僕の使役する龍の持つ古代の力に、“彼”が触発されたみたいだ」
「彼……?」
 と、その時。

 大きな地揺れが起こった。

「わっ……な、なんですかっ!?」
「彼が目覚めたんだよ。ちょっとやばいかもね、僕の力だけじゃ、彼を制御しきれない」
 ここが崩れたらまずい、とりあえず外に出ようと、サソリスに誘導されて柚とプル神殿跡の外へと飛び出す。
「ゆず!」
「あきらちゃん……ぶちょーさんも……」
 飛び出した矢先、柚を追っていた暁たちと遭遇した。しかし彼女たちの表情は、どこか焦っているようだった。
「二人とも、どうしたんですか……?」
「なんか、やばい感じのクリーチャーがいきなり現れてね……今、カイが応戦してるわ」
 言われてみれば、浬だけがいない。
「ふむ、大丈夫かね」
「うわっ!? なにこの仮面つけたリスみたいな生き物!」
「サソリスさんです。ドラゴンさんたちの……通訳、でしたっけ……?」
「概ねそんな感じだよ。それより、彼と応戦してるという人間は、彼のことを知ってるのかい?」
「あのクリーチャーのことを指して言っているのなら、たぶん知らないと思うわ。初めて見るクリーチャーだったし」
 沙弓がそう答えると、サソリスは少しだけ目を細める。
「そうか……じゃあ厳しいかもしれないね。彼の力は恐ろしい。この世界では神話の力が強かったから特に問題はなかったけど、彼は世界が変われば天頂の存在すらも飲み込んでしまうほどの力を持っている。力こそがすべてという、古代龍の理念を一番体現しているクリーチャーだ」
「そ、そんな強いクリーチャーなの? 浬、大丈夫かな——」
 と、暁が声を漏らした刹那。
「暁! 浬のデュエルが終わったぞ!」
「神話空間が閉じる気配がする……」
「ルールー! ルー!」
 《語り手》の三名が、口を揃えて言う。そしてそれと同時に、少し離れた位置の神話空間が閉じた。
 そして現れたのは、巨大なクリーチャー。
「……!」
 その姿に圧倒され、絶句する柚。
 巨体とか巨躯とか、そんな言葉が陳腐に思えてしまうほど大きい。巨大すぎて、そのクリーチャーがどのような存在かがつかめない。
「クリーチャーがカードに戻ってない、ってことは……」
「カイ!」
 真っ先に沙弓が駆けだした。その後に、暁と柚も続く。
 遺跡を飛び出し、森の中へと入る一行。木々に遮られてもなお、あのクリーチャーの絶対的な空気感が伝わってくる。さらに、移動しているのか、木々が押し倒されていく音も聞こえてきた。
 少し走ると、浬を背負ったリュンが見える。
「リュン! カイは?」
「生きてはいるけど、意識はまだはっきりしてないね。神話空間内でとはいえ、あれだけ巨大なクリーチャーの攻撃を受けて外傷がほとんどないなんて、相当上手く攻撃を避けてるよ」
「そんなのはどうでもいいよ! リュン、あのクリーチャーなんなの?」
「ワルド・ブラッキオだ」
 暁の問いの答えたのは、リュンではなかった。
 いつの間にかついてきていた、サソリスだ。
「《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》。《豊穣神話》が自ら封印をかけた、ジュラシック・コマンド・ドラゴン最強クラスの化け物だよ」
「《豊穣神話》が、自ら……確かにやばそうだ」
 リュン曰く、《豊穣神話》は自身が使役するジュラシック・コマンド・ドラゴンのほぼすべてを、《萌芽神話》へと付けたらしい。
 《萌芽神話》があらゆるクリーチャーと心を通わせる神話らしく、普段は凶暴なアース・ドラゴンも、彼女は難なく手懐けた。ゆえに、その能力を見込んだ《豊穣神話》は、自分が使役するよりも《萌芽神話》と共にある方がいいと考え、古代龍たちを彼女に預けたのだ。
 しかし、例外も存在する。《豊穣神話》はすべての古代龍を《萌芽神話》に渡さなかった。というのも、《萌芽神話》はまだ幼く、感性や感覚的なものでクリーチャーを支配できていた。
 だが、圧倒的な力を有するクリーチャーを彼女の近くに置くのは危険と考え、一部の強力すぎる古代龍は自身の手で使役したか、もしくは危険すぎると判断し封印した。
 その一体が、ワルド・ブラッキオなのだという。
「彼もこの近辺に封印されていたんだけどね、長い年月が経って、封印が甘くなってたのかな。僕らが呼び出した古代龍の力に影響されて、目が覚めちゃったみたいだ」
「覚めちゃったって、そんな寝起きで機嫌が悪いから暴れてる、みたいな言い方されても困るわ。どうするのよ、あれ」
「止めるしかないね。僕が言うのもなんだけど、ジュラシック・コマンド・ドラゴンっていうのは頭が化石並に古くて固いんだ。しかも脳筋ときている。力はあるけどおつむが足らない連中ばかりだから、力ずくで鎮圧するしかない」
「でも、じゃあ誰が止めるの?」
 暁の発言の直後、全員が黙した。
 相手は浬を倒すほどの力を持っている。そう簡単に勝てる相手ではない。
「……よし、じゃあ私が」
「いや、私が行くわ。カイを倒すほどなら、私が適任でしょう」
「いやいや、柚ちゃんが行くんだよ」
「わたしですかっ!?」
 叫ぶように声を上げる柚。
 サソリスはさも当然というように柚に振ったが、柚は遊戯部のメンバーでは最も実力で劣る。単純に考えて、浬を倒したクリーチャーに勝てるわけがない。
 しかし、サソリスの考えはそんな単純ではなかった。
「龍と心を通わせる者は数おれど、古代龍とまで通じ合う者は数少ない。君はその少数に属するんだ」
「で、でも、それって別にデュエマの実力と関係ないじゃないですか……っ」
 柚の言うことももっともだ。古代龍と心を通わせられたからと言って、どうなるというのだろうか。
「うーん、それをどう説明したものかな……口では上手く説明できないんだけど、彼らは意外と単純でね。とりあえず心が通じれば、話が通じるんだ。話が通じれば、それは君の力になる。つまり、彼に一番対抗できるのは君なんだよ」
 はっきり言って意味不明だ。話が通じることが力になるなどという言葉の意味が分からない。
 やはりここは、より実力の高い暁や沙弓の方がいいと思うのだが、
「まあ、確かにジュラシック・コマンド・ドラゴンのことなら、私たちよりも柚ちゃんの方がよく知ってるわよね」
「ゆずなら大丈夫だよ! 私が保証する!」
「ぶちょーさん、あきらちゃん……」
「ほら、みんなもこう言ってるわけだし、僕も力を貸すよ」
「サソリスさん……」
 そう言って、サソリスはカードとなって柚の手元へと収まる。
 皆に背中を押される柚。率先して戦いに臨むほどの自信は彼女にはないが、このようにお膳立てされて、それを突っ撥ねるほどの勇気も、彼女にはなかった。
「……わ、分かりました……わたし、やりますっ」
「さーすがっ。それじゃあよろしく頼むわ」
「頑張れ、ゆず!」
 二人の声援を背に、一歩踏み出す柚。刹那、目の前の樹木が押し潰される。
「……っ」
 見上げれば、そこにはワルド・ブラッキオの姿。その圧倒的巨大さに圧倒されてしまうが、後には退かない。
「わ、わたしだって……プルさんっ」
「ルー!」
 プルが高らかに声をあげる。
 その瞬間、彼女を中心とした、神話空間が展開された——



「——って、あれ? これ、わたしのデッキじゃないです……」
『ああ、それなら僕が他の古代龍や仲間を読んできたよ』
「そんな、このデッキ初めてですよ……」
 デュエルが始まった直後、柚は自身の手札を見てそう泣き言を漏らすが、
「あれ、でも……」
 不思議とそのデッキに未知の感覚はなかった。このデッキにどのようなクリーチャーがいて、どう動かすのかが、感覚で伝わってくる。
『それが君の才能だよ。その才のままに、戦ってごらん』
「は、はひ……」
 サソリスに言われたように、感覚のままにデュエルを進める柚。
 ワルド・ブラッキオのターン。《爆進 イントゥ・ザ・ワイルド》から《再誕の社》を使い、一気にマナをブーストする。
「わたしのターン、呪文《フェアリー・ライフ》でマナを増やして、《龍鳥の面 ピーア》を召喚です」
 とりあえず下準備を整える柚。しかしワルド・ブラッキオの方は、既に準備が整っていた。
「……っ」
『来るね……』
「ルー!」

 刹那、世界を破壊するほどの、古代の雄叫びが響き渡った——

33話「界王類絶対目」 ( No.127 )
日時: 2014/06/24 22:46
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「う……」
「あ、浬。起きた?」
「あいつは……?」
「柚ちゃんが戦ってるわ」
「霞が……? 大丈夫なのか?」
「ゆずなら大丈夫だよ。それより、浬はどう?」
「大丈夫だ、問題ない」
 まだ軽く頭痛でもあるのか、頭を押さえる浬。しかし、特に大事はないようだった。
「それより霞だ。あのクリーチャーは、なにも知らずに戦ったらまずい……!」
「ねえカイ、あのクリーチャー——ワルド・ブラッキオは、どんなクリーチャーだったの?」
「浬が負けるほどなんて、よっぽどだよね。どんな風に負けたの?」
「…………」
 少しだけ口をつぐむ浬だったが、やがてゆっくりと言葉を紡いでいく。
「……俺のクリーチャーが、通じなかったんだ」
「は?」
「エリアスも、《サイクロペディア》も《ジャバジャック》も《スペルサイクリカ》も《デカルトQ》も《Q.E.D.》も……すべて通じなかった。《Q.E.D.》に至っては、《エビデンス》すら出せなかった」
「そ、それって、浬の切り札のほとんどが封じられてるじゃん……一体どんなクリーチャーなのさ……」
「《エビデンス》が出せなかったって言ってるけど、《メタルアベンジャー》も出せなかったのかしら?」
「いや……《メタルアベンジャー》までは出せた。だが、その後が続かなかったんだ。あいつの能力でな」
 サソリスはそのことをまったく触れなかったが、今ここで、浬が告げる。
 ワルド・ブラッキオの、恐るべき能力を。
「……あいつの、ワルド・ブラッキオの能力は——」



 大地を割る、砕くなんてものではない、すべてを消滅させてしまうのではないかと思うほどの雄叫びが響き渡る。その瞬間、古代の界王がその姿を現した。
「で、出ちゃいました……でも大丈夫です。わたしには、仲間がいます」
 過剰なほどの大量マナブーストから早期に呼び出された《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》。その圧倒的なまでの存在感に気圧されそうになる柚だったが、カードをき、気を強く持つ。
 その自信を裏付けるのは、彼女の仲間だった。
「お願いしますっ! 《龍覇 サソリス》を召喚です!」
『え、ちょ、待っ——』
 柚はこのターン引いてきた《サソリス》を召喚。その能力で、ドラグハートを呼び出そうとするが、
「あ、あれ……なにも起こりません……」
「そういえば言ってなかったっけ。《ワルド・ブラッキオ》が場にいる限り、僕らはクリーチャーがバトルゾーンに出た時の能力が使えなくなるんだ」
「えぇっ!? そ、そんな能力、ありですかっ!?」


界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ 自然文明 (11)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 27000
ワールド・ブレイカー
相手のクリーチャーがバトルゾーンに出て、そのクリーチャーの能力がトリガーする時、かわりにその能力はトリガーしない。(例えば、相手は「このクリーチャーをバトルゾーンに出した時」で始まる能力を使えない)


 しかもパワー27000のワールド・ブレイカー。単純な打点とパワーも凄まじい。伊達に力がすべてと謳ってはいない。
 結局《サソリス》の能力は不発し、ワルド・ブラッキオのターン。
 《二角の超人》でマナ加速とマナ回収を行い、マナ進化で《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》が現れる。さらに《古龍の罠》で、《サソリス》もマナゾーンに送られてしまった。
「《サソリス》さんが……これでアタッカーが二体です……あれ?」
 そこでふと、柚は気付いた。
「《ワルド・ブラッキオ》は、ワールド・ブレイカー……ワールド・ブレイカーって、確か……」
『一度の攻撃ですべてのシールドをブレイクする能力だ。S・トリガーでシールドを増やしても無意味だし、まずいよ』
 たった二体のアタッカーしかいない《ワルド・ブラッキオ》だが、その二体で十分だった。
 一撃でシールドをすべて粉砕するだけのパワーがあれば、後はとどめを刺すクリーチャーがいればいい。正に、力押しの攻めだ。
「わ、わわ……っ」
 《ワルド・ブラッキオ》が雄叫びを上げる。その直後、柚のシールドが一斉に砕け散った。
 この攻撃で柚のシールドはゼロ枚になる。よってこのターンにマナ進化した《ハックル・キリンソーヤ》が柚にとどめの一撃を叩き込むべく、突撃して来るが、
「し……S・トリガーですっ! 《古龍遺跡エウル=ブッカ》! アンタップ状態の《ハックル・キリンソーヤ》をマナゾーンへ!」
 砕かれた最後のシールドから、S・トリガーが発動する。
 《エウル=ブッカ》の能力で、攻撃していない《ハックル・キリンソーヤ》がマナに送られ、柚は九死に一生を得た。さらに、
「マナ武装5も発動ですっ! 《ワルド・ブラッキオ》もマナゾーンへ送りますっ!」
 古龍遺跡の力が自然のマナによって解放され、最も厄介だった《ワルド・ブラッキオ》をも土へと還す。
 なんとか攻撃を凌ぎ切った柚。しかも《ワルド・ブラッキオ》を除去できたのはかなり大きい。
 それにより、ここから彼女の反撃が開始されるのだった。
「わたしのターンです、お願いしますっ」
 シールドはないが、マナも手札も十分にある。
 しかも彼女には、心強い仲間ができたのだ。
「原始林の英雄、龍の力をその身に宿し、古の栄光で武装せよ——《牙英雄 オトマ=クット》!」
 地中より緑色の怪物——自然の英雄《オトマ=クット》が這い出て来る。
「《オトマ=クット》のマナ武装7発動! わたしのマナをアンタップして、《ピーア》の能力でマナを追加しますっ!」
 柚の使用したマナは《オトマ=クット》の能力ですべて起き上がった。そして、この起き上がったマナが、連鎖の力を発現させる。
「連鎖します、覇王様——《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》!」
 《オトマ=クット》に続き地中から蘇るのは、猛毒と連鎖の力を有する古代龍《ティラノヴェノム》。
 地に立った《ティラノヴェノム》が咆哮すると、再び大地が鳴動する。
「《ティラノヴェノム》の能力発動ですっ! 登場時にマナゾーンからコスト6以下の自然クリーチャーをバトルゾーンに出します。出て来てくださいっ、《サソリス》さん!」
『了解したよ。今度こそ、僕の力を見せる時だね』
 《ティラノヴェノム》の呼び声に応えたのは、前のターンにマナに送られたばかりの《龍覇 サソリス》。
「次は《サソリス》さんの能力発動ですっ。超次元ゾーンから、コスト4以下の自然のドラグハートを呼びます。呼び出すのは——《始原塊 ジュダイナ》ですっ!」


龍覇 サソリス 自然文明 (6)
クリーチャー:ビーストフォーク號/ドラグナー 4000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト2以下のドラグハート1枚、または、コスト4以下の自然のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す)
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分のマナゾーンに置く。


始原塊(ジュラシック・ハンマー) ジュダイナ ≡V≡ 自然文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
自分のターン中、ドラゴンを1体、自分のマナゾーンから召喚してもよい。
龍解:自分のターンの終わりに、バトルゾーンに自分のドラゴンが3体以上あれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。


『よいしょ、っと! さあ、どうしようか?』
 地中より《ジュダイナ》を引っ張り出す《サソリス》。身の丈ほどもある槌を担ぎ、柚に呼びかける。
「《ジュダイナ》の能力を発動させます」
『そっか。《ジュダイナ》はマナゾーンからドラゴンを召喚できる……なにを呼ぶ? マナはほとんど残ってないけど』
「そうですね、残りマナはわずか。なので……マナゾーンから《緑神龍ドラピ》を召喚ですっ!」
 少ないマナから召喚するドラゴンと言えば、これしかない。柚のマナはまだ九枚に達しているので、《ドラピ》も破壊されず、場にとどまる。
 そしてこれで、柚の場にドラゴンが三体並んだ。それは単純に打点が増えたというだけではなく、もっと大きな意味を持っている。
 そう——龍解だ。
「わたしの場にはドラゴンが三体。《ジュダイナ》の龍解条件をクリアしました。なのでターン終了時、《ジュダイナ》は龍解しますっ!」
 《サソリス》は空高くに《ジュダイナ》を投げ飛ばす。場の三体のドラゴンの力を受けた《ジュダイナ》は、そのまま落下し、地中へと潜り込む。
「古代の王様、大地を揺るがし、原始の力を蘇らせます。龍解——」
 刹那、大地が鳴動する。地震の如く大きく揺さぶられた。
 それは予兆だ。古代龍の頂点に立つ古代の王が、今ここに君臨する——

「——《古代王 ザウルピオ》!」

34話「ラヴァー再来」 ( No.128 )
日時: 2014/06/25 04:42
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 《始原塊 ジュダイナ》が龍解し、大地を割り、咆哮しながら現れるのは、古代龍の王——《古代王 ザウルピオ》。
 緑色の巨躯に、蠍のような毒針のある尾、頭部はゴーゴンの如く数多の赤い毒蛇が禍々しく蠢いており、古の王たる威厳と共に、どこか毒々しさも感じられる。
 しかし、なによりも目を引くのは、《ザウルピオ》が手にする巨大な槌だろう。打撃部から緑色の龍の尾が伸びており、原始的だが民族的で、どことなく神秘的な力も感じられる槌。
「龍解、完了です……っ!」
 《サソリス》に加え、三体ものドラゴンを展開した最後の締めにしては、この上なく上等だろう。これで柚のクリーチャーが一気に五体も増えたことになる。
 しかし忘れてはならない。今の柚にはシールドがなく、ワルド・ブラッキオの場にはまだ《二角の超人》が残っているのだ。
 ワルド・ブラッキオは万全を期すためか、二体目の《二角の超人》、そして《二角の超人》のマナ回収能力で手札に加えた《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》二体をマナ進化。これで柚がシノビを握っていようとも、ブロックはできず、《ハンゾウ》などで《ハックル・キリンソーヤ》一体を破壊しても対応しきれない。
 そして、《二角の超人》による、とどめの一撃が繰り出される——

 ——はずだった。

 《二角の超人》の拳が、シールドのない柚へと向けられる。その拳が柚に当たらんとする、その直前で弾かれたのだ。
 なににか。それは、《ザウルピオ》だ。
 《ザウルピオ》がまるでシールドの代わりであるかのように柚の前に立ち、《二角の超人》の——いやさ、主人たる柚に対する攻撃をすべて、力でねじ伏せてしまっているのだ。
 だがワルド・ブラッキオは一度では諦めない。《ハックル・キリンソーヤ》も突撃し、柚にとどめを刺そうとするが、
「無駄です。その攻撃は、わたしには届きませんっ!」
 《ハックル・キリンソーヤ》も、《ザウルピオ》によって弾き飛ばされ、攻撃が無効化されてしまった。
「《古代王 ザウルピオ》の能力……わたしのシールドが存在しない限り、わたしはクリーチャーの攻撃を受けません……っ!」


古代王 ザウルピオ ≡V≡ 自然文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
T・ブレイカー
自分のシールドが1枚もなければ、自分は相手のクリーチャーの攻撃を受けない。


 つまり、ワルド・ブラッキオは《ザウルピオ》を除去しなければ、いくら攻撃しようとも柚にとどめを刺すことはできない。
 そして、そうやってもたついているうちに、数多の龍が牙を剥くのだ。
「わたしのターン……これで、決めますっ」
 次の瞬間、柚に応えるようにすべての龍が咆哮する。
「《緑神龍ドラピ》でTブレイクですっ! 続けて《ティラノヴェノム》でWブレイク!」
 ついでにマナゾーンから《ブオン》を出しておき、シールドを二枚砕く。あっという間にワルド・ブラッキオのシールドはなくなった。
 そして最後に、古代龍の頂点に君臨する王が、界王をも押し潰す鉄槌を下す——

「《古代王 ザウルピオ》で、ダイレクトアタックです——っ!」



 神話空間が閉じる。森の中で佇む柚の手元には《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》のカードが収められていた。
 その事実が、今の戦闘の結果を物語っている。
「……勝てました、プルさん」
「ルー、ルールー」
「でも、わたしだけの力じゃありません……なんていうんでしょう、とても、“みんな”で戦っている感じが、しました……」
「ルールー! ルー!」
「そうですね……わたしはまだ、デュエマを始めたばかりですけど……やっぱり、楽しいです」
「ルー、ルー!」
「そうなんですか……だったら、わたしと同じですね」
 対戦後の感慨に浸っていると、木々の間に風が吹き抜ける。すると柚の手元の《ワルド・ブラッキオ》が、風に飛ばされてしまった。
「あ……待ってくださいっ」
 幸いにもカードは遠くまでは飛ばなかった。小走りで追いかけると、すぐに追いつき、柚はそれを拾い上げる。
 が、その時、《ワルド・ブラッキオ》のカードの下にあるものに、気が付いた。
「……? なんでしょう、これ……」
 先端の、少し尖った桃色の部分だけが突き出しており、タケノコのように見える。
「ルールールー!」
「えっと、これを掘り起こすんですか? わたしだけで、できるでしょうか……」
 そう思ったが、しかし柚が力を入れて引っ張ってみると、半ば地中に埋まっているそれは簡単に引っこ抜けた。
 それは蕾だった。淡いが鮮やかな桃色の花弁が閉じた、大きな蕾。
 どことなく、その蕾には見覚えがあった。細部は異なるものの、その姿はまるで、
「プルさんが生まれた時の、あの蕾みたいです……」
「ルー?」
「そういえば、あきらちゃんとかいりくんも、こういうの持ってました——」
「ゆず!」
 その時、森の奥から暁と、沙弓、それに浬やリュンも駆け寄ってくる。
「あきらちゃん……みなさん」
「やったんだね、ゆず! さっすが私の大親友!」
「わっ、あ、あきらちゃん……っ!」
 走って来た勢いのままに抱きつく暁。柚は少し戸惑いながらも、共に喜んでいるようにも見える。
「……ん? 霞、その手にあるのは……」
「これですか? わたしにも分からないんですけど、ここに埋まっていて……」
「なんか、私が《ドラゴ大王》に貰った奴っぽいね」
「俺も似たようなものを持っているが……なんなんだ、これは」
 《語り手》たちは、強い力を感じる、としか言わず、暁も《ドラゴ大王》本人に聞いてみたが、彼はあれを預かっていただけで、あれがなんなのかは知らないらしい。
「《語り手》のみんなが強い力を感じるってことは、十二神話が残したなにかだと思うんだけど……さて、なんなのか」
「リュンにも分からないなら、私たちが考えても分からないでしょうね。とりあえず持っておきなさいな」
「そうだな……知識の有無だけが関わることだ、考えて分かるものじゃないか」
 暁、浬に続き、柚も手にした謎の物体。
 これは一体なんなのか、どのような意味を持つものなのか、それは今だ判然としない。
(でも、本当になんなんだろうなぁ……)
 人並み程度の知識欲しかない暁だが、気になるものは気になるのだ。
 ふとそちらへ思考をシフトしかけた、その時。

「……まだいたの」

 背後から気配。そして声。
「大きな力を感じたから、来てみたけど……嫌なもの、見た……」
「まあまあ、そう言わないの」
 振り返れば、そこには一人の少女と、一体のクリーチャー。
「……!」
「お前は……!」
「はぅ……っ」
「ここで来るか……」
「…………」
 一同の反応は、総じて同じようなものだ。
 そんな中、真っ先に前に進み出て、彼女の名を叫んだのは——暁だった。
「ラヴァー!」
「……なに」
 目の奥に、メラメラと闘志を燃え上がらせる暁。対照的に、ラヴァーの目は冷ややかだった。
 だからと言って、暁の燃え盛る闘争心が消えるわけがないのだが。
「会いたかったよ、ラヴァー……今度こそ私たちが勝つ!」
「なんか勝手に勝負をとりつけちゃってるよ。どうする、ラヴァー?」
「…………」
 黙り込むラヴァー。ジッと暁を見据えながら、その手は自身の衣服の内にあった。
「……うん、分かった……その勝負、受けても、いい……」
 ちょうどその手の位置にあったデッキケースを取り出して、ラヴァーはそう告げる。
「キュプリス……」
「分かってる。主人の決定とあらば、ボクが拒否する理由はないしね。やろうか」
「よしっ、行くよコルル!」
「おう!」
 向かい合う暁とラヴァー、そしてその傍らに侍るコルルとキュプリス。
 一触即発の空気が流れ、同時に二人を神話空間が包んでいく——



「《不屈の翼 サジトリオ》、召喚……」
「呪文《メテオ・チャージャー》! 《サジトリオ》を破壊! チャージャーでマナを加速!」
「……《サジトリオ》の能力で、山札から……《栄光の翼 バロンアルデ》を、バトルゾーンに。マナを追加……さらに、呪文《ジャスティス・プラン》を、発動……」
「だったら! 《コッコ・ルピア》を召喚!」
「《聖龍の翼 コッコルア》《鏡面の翼 リブラミラ》を、召喚……」
 暁とラヴァーのデュエルは、まだまだ序盤。シールドも互いに五枚あり、大きな動きは見せていないが、
「私のターン! 《爆竜 バトラッシュ・ナックル》召喚!」
 暁が先んじて動き始めた。
「《バトラッシュ・ナックル》の能力で《コッコルア》と強制バトル! さらに私の火のドラゴンがバトルに勝利!」
 それにより、手札から暁の切り札が現れる。

「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」

 《バトラッシュ・ナックル》の勝利に雄叫びを上げ、続けて現れしドラゴン《バトライオウ》。
 これで盤面は、暁の優勢となる。
「……少しはできるようになった、みたい……」
「だね」
 ラヴァーとキュプリスは小さく言葉を交わす。
 そして、彼女はそっと自身のデッキに手を添え、ゆっくりとそのカードを繰る。
「……私の、ターン」


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