二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿1日目 「陽光の下に大海あり5」 ( No.420 )
- 日時: 2016/08/11 22:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
恋と流の対戦。
互いにシールドは五枚。
恋の場にはなにもない。《エンジェル・フェザー》と《ジャスティス・プラン》で手札を整えているだけだ。
対する流の場には《龍覇 メタルアベンジャー》と、それによって呼び出された《龍波動空母 エビデゴラス》。《フェアリー・ライフ》《フェアリー・シャワー》と順調にマナを伸ばして、綺麗に6マナ域へと繋いでいる。
だが、それだけではなかった。
「《霞み妖精ジャスミン》を召喚。破壊してマナを加速」
まずは、山札から一枚。
「さらに呪文《再誕の社》。墓地の《ジャスミン》と《フェアリー・シャワー》をマナへ置くぞ」
次に墓地から二枚。
「続けて呪文《セブンス・タワー》。メタモーフで山札の上から三枚をマナへ」
最後にまた山札から三枚。
流はスイッチが入ったかのように、一気に凄まじい勢いでマナを加速していく。
《ジャスミン》《再誕の社》《セブンス・タワー》と、1ターンで一気に6マナも増やした。
「すごいマナ加速です……わたしでも、あんなにふやすのは、むずかしいですよ」
「でもこの加速の仕方。お相手のお兄さん、見たところ青緑のターボか、ビマナっぽいわね」
「《エビデゴラス》があるからな。どっちかっていうとビマナな気がするが……」
しかし、なにか妙だった。
「私のターン……《音感の精霊龍 エメラルーダ》を召喚……手札とシールドを、交換して、ターン終了……」
「俺のターン。《エビデゴラス》の効果含め二枚ドロー。呪文《フェアリー・シャワー》だ。山札の上二枚から、《母なる星域》をマナへ、もう片方を手札へ。さらにそれぞれ5マナ払い、《キング・シャルンホルスト》《キング・ケーレ》を召喚。《キング・ケーレ》の能力で《エメラルーダ》をバウンスだ」
現れた二体のクリーチャーを見て、暁が首を傾げた。
「《キング・シャルンホルスト》に《キング・ケーレ》? なんか、見たことのないカードだね」
「マイナーどころではあるわね。特に《キング・シャルンホルスト》はただの準バニラブロッカーだし、普通のデッキじゃ採用しないようなカードだけど……どうなのかしら」
「どっちもリヴァイアサンのクリーチャーだけど、リヴァイアサンの種族が生きるカードって言うと、進化クリーチャーくらいだよね」
「進化クリーチャーはありそうだな。マナに《母なる星域》が見える……が、わざわざ《星域》を使い、過剰にターボしてまで、リヴァイアサンの進化クリーチャーを使うものか……?」
どのようなデッキなのか、底が見えてこない。
カード捌きや使用カードから見て、初心者というわけでもなさそうだ。ジャンクデッキはないだろうから、そうなると後は、ファンデッキという可能性くらいしかない。
「私のターン……やっと6マナ……呪文《ヘブンズ・ゲート》」
しかし相手がファンデッキであろうがなんだろうが、恋は全力だった。
相手とのマナの差を倍以上に付けられたが、ここで遂に、天国の門を開く。
「手札から《蒼華の精霊龍 ラ・ローゼ・ブルエ》と《音感の精霊龍 エメラルーダ》をバトルゾーンに……《エネラルーダ》の能力で、シールドを一枚、手札に……」
恋は、前のターンに《エメラルーダ》でシールドに置いたカードを、手札に加えた。
そこから、新しい扉が開かれる。
「S・トリガー……《ヘブンズ・ゲート》」
「おぉ!」
「こいちゃん……!」
二連続の《ヘブンズ・ゲート》に、周りが沸き立つ。リソースに大きな差を付けられた代わりと言わんばかりに、恋はクリーチャーを展開していく。
「手札からさらに《ラ・ローゼ・ブルエ》と、《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》をバトルゾーンへ……《ヴァルハラナイツ》の能力で、《シャルンホルスト》をフリーズ」
そして恋は、ターンを終える。
「……俺のターン。《エビデゴラス》の能力で二枚ドロー。4マナで呪文《フェアリー・シャワー》だ」
大量のマナをまだ伸ばすつもりなのか、流はさらに《フェアリー・シャワー》を唱える。
そして残り少なくなってきた山札を二枚見て、小さく溜息を漏らした
「……ここまで掘り進んでも出ないか。これは、盾落ちの可能性があるな……」
「……?」
小声でなにか呟いている。よく聞き取れなかったが、盾落ち、という言葉だけは聞き取れた。
流のデッキはなにかしらのコンボデッキで、そのためのキーカードがシールドに行ってしまい、手札に来ないのだろうか。もしそうなのだとすれば、それは殿堂カードの可能性が高い。コンボデッキだろうことを考えると、《ヒラメキ・プログラム》あたりか。
しかし流の取った選択肢は、諦めではない。
進路変更だ。
「仕方ない。こちらでいくか。《キング・ケーレ》をマナに落とし、もう片方を手札へ。そして、12マナをタップ」
「12マナ……」
そのまま出すには重すぎるマナコスト。しかし今の流には、それを支払うだけのマナがある。そして、それだけのマナを得て使われるカードともなると、かなり限定される。
だが、どのようなカードが出てこようとも、今の状況を、流れを大きく引き寄せるだけの力を発揮することだけは、間違いなかった。
「捲りの時間だ——《超絶奇跡 鬼羅丸》」
- 番外編 合同合宿1日目 「陽光の下に大海あり6」 ( No.421 )
- 日時: 2016/08/12 13:07
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
現れたのは、究極のゼニスの一体、《超絶軌跡 鬼羅丸》。
出されるカードとしては予想の範疇ではあったが、だからこそ、その恐ろしさが理解できてしまう。
《鬼羅丸》の能力は、召喚して場に出せば山札の上から三枚、ガチンコ・ジャッジで勝ったカードを使うことができる。強いカードはそれだけマナコストが高く設定されていることが多いため、強いカードを踏み倒して使うという点では、理に適っている能力と言えるだろう。
「どうやら今の俺のデッキは相当、中身が偏っているようだからな。覚悟した方がいい」
「…………」
流のデッキは、恐らくビマナ系のデッキ。増やした大量のマナから、重い大型カードを連打して、盤面を制圧するデッキ。しかしここまでの対戦で、リソースを得るためのマナ加速やドローカード、防御を固めるカードは今までいくらでも見たが、肝心のフィニッシャーとなり得るカードはまったく見えていない。
流がぼやいていたように、盾落ちしている可能性はあるが、すべてがそうであるとは考えにくい。切り札級のカードは、山札の底に眠っている可能性が高いだろう。
「ガチンコ・ジャッジ三連戦……行くぞ」
「……ん」
そして二人は、それぞれ山札を捲る。
一戦目。
流はコスト2《霞み妖精ジャスミン》、恋はコスト3《エンジェル・フェザー》。
二戦目。
流はコスト4《フェアリー・シャワー》、恋はコスト5《音感の精霊龍 エメラルーダ》。
三戦目。
流はコスト8《偽りの名 イージス》、恋はコスト7《護英雄 シール・ド・レイユ》。
「一勝だけか……だが、十分な成果だ。《偽りの名 イージス》をバトルゾーンへ!」
大きく出たわりに、勝った回数は一度のみ。
しかしその勝利カードには、大きな意義があった。
「《イージス》がバトルゾーンに出た時、バトルゾーンからアンノウン以外をすべて山札に送り込む!」
偽りの名(コードネーム) イージス SR 水文明 (8)
クリーチャー:リヴァイアサン/アンノウン 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーはバトルゾーンにあるアンノウン以外のクリーチャーをすべて自身の山札に加えてシャッフルし、こうして山札に加えたクリーチャー1体につき1枚カードを引く。
「っ……」
一瞬でバトルゾーンのクリーチャーが消し飛んだ。
《偽りの名 イージス》。大型種族であるアンノウンに相応しく、豪快な盤面リセット能力を有している。その山札へ除去する一方で相手に手札を与えてしまったり、その被害は自分にも向けられるなど、決して良いことばかりではないが、二連打された《ヘブンズ・ゲート》から展開した恋のクリーチャーを一掃できたことは大きい。
「俺の《鬼羅丸》はエターナル・Ωで手札に戻る。そして山札に戻されたクリーチャーの数だけドローだ。これで俺はターン終了だな」
「もう一度……《ヘブンズ・ゲート》……《ヴァルハラナイツ》と《ラ・ローゼ・ブルエ》をバトルゾーンへ……」
「残念だが、無駄だ。《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》を召喚。相手クリーチャーをすべてバウンスだ」
続けて流は、新たなゼニスを繰り出す。それも、恋にとっては非常に痛手となるゼニスを。
《VAN・ベートーベン》。召喚時に相手クリーチャーをすべてバウンスするだけでなく、ドラゴンとコマンドの登場をも禁止するクリーチャーで、ちょうど暁の《ドラゴ大王》とロックする範囲が対極だ。
恋のデッキのクリーチャーは、ほとんどエンジェル・コマンド・ドラゴンだ。サポートとしてジャスティス・ウイングもいるとはいえ、この盤面を覆す可能性のあるフィニッシャークラスのクリーチャーが封じられたのは大きい。
「私のターン……《聖龍の翼 コッコルア》を召喚して、ターン終了……」
「《「智」の頂 レディオ・ローゼス》を召喚。カードを五枚までドロー、その後、相手の手札を五枚、捨てさせる」
「んぅ……」
恋が小さく呻く。
盤面をリセットされ、クリーチャーの登場も制限され、その上で手札まで叩き落された。
もはや、打つ手はないに等しい。
「俺はこのターン、五枚以上のカードを引いたので、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解だ」
「私のターン……終了」
手札がなく、クリーチャーが出せない恋は、使えるカードがない。なにもせず、ターンを終えるしかなかった。
「悪いが、さらに詰ませてもらうぞ。《「祝」の頂 ウェディング》を召喚。場と手札のカードをそれぞれ、シールドに置いてもらう」
「…………」
最後に手札に残されたカードも、シールドへと埋められる。
「……ターン、終了……」
「《オリーブオイル》を召喚。俺の墓地をすべて山札に戻すぞ。そして、《ウェディング》でTブレイク。ブレイクしたシールドは墓地へ」
逆転の余地などまるで与えない。《ウェディング》でシールドを焼き払い、トリガーの可能性、増えた手札からの巻き返しすらも潰していく。
「《コッコルア》を召喚……ターン終了」
「《キング・ケーレ》を召喚だ。《コッコルア》をバウンス」
苦し紛れに出した《コッコルア》も、捨て石にすらならず、手札に送り返される。
「《ウェディング》でTブレイク」
そして、《ウェディング》によって恋のシールドはすべて墓地へと落ちていった。
完全に、詰んだ形だ。
恋はゆっくりと目を閉じる。
この対戦は、これで終わりだ。
「《偽りの名 イージス》でダイレクトアタック——」
対戦が終わると、勝者である流を称えて、また子供たちが彼に集っていた。やはり彼はここの人気者のようだ。
「構築に妙なところはあったが……強かったな」
「えぇ。天門二連打からの最後の巻き返し。トップの強さもあったとは思うけど、終盤の爆発的な制圧は見事だったわ」
恋のデッキは場をクリーチャーで制圧してから攻めに移るのだが、盤面を固める前にすべて押し流されてしまった。
一枚もシールドを割れず、完膚なきまでに完封負けした対戦だ。
しかし、それでも、
「……よかった」
「恋? どうした?」
「対戦できて……よかった」
静かに言って、恋はデッキをケースに戻した。
「……なかなか良かった。《エメラルーダ》から暴発して天門を二回撃たれた時は、少し焦った」
「まったくそんな風には見えませんでしたけど……」
「返しの《シャワー》で《鬼羅丸》を手札に加えていなければ、負けていたかもな」
「あー、やっぱりあれ、ほぼトップ解決だったのね」
「まあ手札に握ってるなら、とっとと使っていただろうからな」
ともあれ対戦は終わった。恋も満足している様子で、これからどうしよう、というところで、一騎が流に尋ねる。
「あの、この後、なにか用事とかありますか?」
「この後? ここの店じまいをした後という意味か?」
「はい、そうです。俺たち、近くのお屋敷に宿泊しているんですけど、都合が合えば、もう少し一緒にいられないでしょうか?」
唐突な質問。それに、そんな話は聞いていなかった。
しかし一騎からしても、間接的に彼は恩人のようなものだ。それに、こうして奇跡的に再会できた。すぐに別れたくないという気持ちも、理解できる。
それが分からない相手ではなさそうだが、流は重く口を開いた。
「……ないとは言い切れないな。荷作りがまだ終わっていない」
「荷作り? どこかへ行かれるんですか?」
「あぁ。もうすぐ、この地を去ろうと思ってな」
その一言に、衝撃が走る。
特に強く衝撃を受けたのは、一騎と恋だった。
「っ!? ど、どうしてですか?」
「俺が今通っている高校が、廃校になることが決定した。夏の終わりには、転校する。それに合わせて他県に移ることになる」
「そ、そうなんですか……」
廃校。
縁遠いようで、案外身近に存在する現象。
多くの学童が集い、様々な知識と経験を得て、成長する場所。
一騎や恋にとって烏ヶ森がそうであるように、暁たち遊戯部にとって東鷲宮がそうであるように、自分が育ち、成長し、学んできた場所が廃れ、潰えるということが、どれほど悲哀なものか。
それは経験していない自分たちには分からない。それでも、流の重い口振りから、推察できた。
「……しかし、この時期に廃校って、なんか中途半端だな?」
「そうね。普通は学年末を区切りにするものだけど」
「学校の運営が停止するのは学年末だが、移り住むことになる家の管理について少し揉めていてな。他にも諸々の事情はあるが、細かいうえに込み入っている。説明は遠慮したいところだ」
はっきりとしていながらも曖昧に濁す流。言いにくいことなのだろうか。
流はこの地を去る。こうして再会したのも偶然だが、しかし、どこか物寂しさを覚えるのも、確かだ。
「でも、そっか……ここから出るんですね……」
「あぁ。名残惜しさもなくはないがな」
微塵もそんなことを感じさせない口振りだが、本心ではそう思っているのだろう。
「まあ、俺の用事と言えばそんなところだ」
「そうですか……すみません、お時間を取らせてしまって」
「構わない。またこの地に来ることがあれば、ここに寄ればいい。少なくとも夏の間は、俺はいるからな」
「……はい。また、いずれ」
流はあの店長に呼ばれ、店に戻る。
去り際。彼は恋に言った。
「では、またな」
「ん……また……」
恋も、その言葉に応えた。
また再会できる時が来ることを、願って。
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線1」 ( No.422 )
- 日時: 2016/08/13 16:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「ふぃー……つかれたよー……」
「おつかれですね、あきらちゃん。でも、わたしも、ちょっとねむいです……」
「充電切れ……」
「あんなにはしゃぐからよ……まあ、かくゆう私も、かなりキツイんだけど……」
時刻的には夕方と言ってもいい頃。夏ゆえにまだ日は高いが、このように、エネルギーをほとんど使い切った者が続出したため、早々に切り上げて屋敷に戻ってきたのだった。
男の目など露程も気にせず、畳敷きの広い居間で豪胆なまでに四肢を投げ出して寝そべる暁は、思い出したように半身を起こし、ぐるりと居間を見回す。
「そういえば一騎さんは?」
「……つきにぃ、消えてる……どこに行った……?」
「あぁ。剣埼さんはシェリーたちを駅まで迎えに行ったわ。もうそろそろ帰ってくると思うけど……」
と思ったら、外から微かな話声と、玄関先で扉が開く男が聞こえてきた。
「帰ったよー!」
「噂をすればなんとやら、ね。行きましょう」
残った五人は玄関へと出向き、烏ヶ森の面々を出迎える。
広い玄関には、まだ荷物を持った烏ヶ森の四人——四天寺ミシェル、黒月美琴、焔空護、夢谷八——がいた。
「流石に県を跨ぐと疲れるな……誰だよ、この合宿を企画したのは」
「私よ」
「そうだったな……荷物はどこに置けばいいんだ?」
「向こうに男女で分かれて寝室を用意しているので、そこに……えと、案内しますね」
「助かる」
見るからに疲れ切った表情のミシェル。烏ヶ森が普段なにをしているのかはあまり知らないが、仕事というからにはそれなりの作業かなにかをしてきたのだろう。そこから県境を越えての移動なのだから、彼女たちの疲労も頷ける。
しかしこの面子には、どことなく違和感を覚える。暁はキョロキョロと見回したり、人数を数えたりして、疑問をぶつけた。
「氷麗はいないの?」
この場にいる烏ヶ森の面子は、恋と一騎を合わせても六人。しかし烏ヶ森にはもう一人、葛城氷麗という、クリーチャーの少女がいる。
クリーチャーではあるが、仮にも部員として扱われている彼女がいないのはどういうことだろうか。
「ごめん、そういえば言ってなかったね。氷麗さんは、リュンさんの介護をしないといけないからって、今回は不参加だよ」
「介護ってなによ……あいつ、今どんな状態になってるのよ」
恐らく、なにか比喩か誇張表現なのだろうが、介護という言葉に疑念を募らせる沙弓。
柚と『蜂』の一件以来、彼とは音信不通になっており、まったく音沙汰がない。あの時も、どこかおかしな様子で、慌てたように転送され、元の世界に戻されたが、向こうでなにかあったのか。
「リュンさん、だいじょうぶでしょうか……?」
「まあこっちからは確かめようがないし、リュンか氷麗か、いずれどっちかから連絡があるでしょう。それまで待ちましょう。それより今は、合宿よ合宿」
「うーん、でも氷麗いないのかぁ……」
残念そうな表情を見せる暁。
とその時、思い出したように沙弓が口を開いた。
「そういえば、まったく考えてなかったんだけど……」
「ん? なんだ、部長」
浬が尋ねる。まったく考えていない、という言葉の響きにどことなく恐ろしさを感じた。
そしてその恐ろしさは、ある意味では、的中してしまう。
「晩ご飯、どうしましょうか?」
「一番大事なこと考えてねぇな!?」
ややオーバー気味だが、驚愕、と表現しても良さそうな表情でツッコまれる。
まったく考えてなかったということは、夕食の用意はない。ここは旅館ではないのだ。待っていても飯が出て来るはずなどない。なので自分たちで用意しなくてはならないのだが、それを考えていないとは。
この合宿を計画した人物は、想像以上の無計画さを持っているようだ。
「てっきり、ご飯は既に用意しているものと思ってましたねー」
「夏だし、バーベキューとかかなって、勝手に思ってたっすけど……」
「はぁ……ないならないで、先に言っとけよな。駅近くにコンビニもあったし、ここ来る途中に弁当なりなんなり、なにか買って来たっていうのに……」
そして烏ヶ森からも苦言が発生する。しかし当人の沙弓はあっけらかんとしていて「まあないものはないんだし、仕方ないわよ」などと言って浬に殴られていた。
だが、確かに困った。ここから駅まで歩くとなると、それなりに時間がかかる。先発の六人も、後から合流した四人も、皆一様に疲弊しているため、今からコンビニまで買い出しに行くのは、できれば避けたい。
とはいえこのまま食べずにいるというわけにもいかない。どうしたものか、頭を悩ませていると、ふと一騎が尋ねる。
「……食べるもの、なにもないの?」
「あ、えっと……なくは、ないですよ? 冷蔵庫があるので、その中に三日分の食材を、人数分用意してるって、言ってました」
「じゃあ最悪、野菜をそのまま丸かじりすれば生き残れるわね。マッチがあるから、肉は直火で焼きしましょう」
「あんたはもう黙ってろ」
食料調達においてまるで役に立たない部長を会話から追いやる。
そんな二人をよそに、ならばと一騎が提案した。
「だったら、俺がなにか作るよ」
「……まあ、そうなるよな」
作られてはいないが、食材はある。買い出しに行くという選択肢を省けば、残るのは断食か調理の二択だ。前者は文化的で最低限度の生活を営む一般的かつ常識的な市民としてあり得ないとするならば、取れる選択は後者。
つまり、ないなら作るしかない、ということになる。
全員が分かっていたことではあるが、誰かが言いださなくては始まらなかった。
しかしまだ、問題が残っている。
「それは助かるわ。でも一人で大丈夫かしら?」
「うーん、十人だよね……流石に、この人数を一人ってなると、大変かも……」
調理する人数に対して、それを受ける人数だ。
一人で十人分の料理を作るとなると、それだけ作業量も多くなる。二人や三人分程度なら、まとめて作ってもそれほど手間にはならないが、十人ともなると、流石に一人でこなすには辛い。
せめてもう一人くらいはまともな人手が欲しい。そう思っていると、意外なところから声が上がった。
「あー……それじゃあ、私も手伝いますよ」
暁だ。
全員の目が彼女に向けられる。好奇というか、不思議なものを見ているような視線だ。
それらの代表者のように、沙弓が言った。
「……暁って料理とかできたの?」
「失礼な、できますよ。これでも空城家の台所を仕切ってるのは私なんですよ!」
口を尖らせる暁。
しかし、無理もないと言えば無理もない。ガサツで、男っぽくて、なにも考えずに体だけが動き回っているような彼女と、料理という一種の女性を象徴するような概念を結びつけることが誰にできようか。
とはいえ、理解者もいないわけではなかった。
「あきらちゃんの作るお料理は、とってもおいしいんですよ」
「いいな……食べたい」
幼馴染の柚はそのことを知っている。恋も疑いや好奇の目は向けず、純粋に欲望を膨らませていた。
「でも、作れるならもっと早く名乗り出ても良かったのよ?」
「えー、だって面倒くさいもん。作らないならそっちの方がいいし」
なんとも正直な怠惰だった。正直すぎて窘める気も失せる。
ともあれ一騎と暁、二人がメインとなって調理をするということで決まりだろう。
「それじゃあ暁さん、お願いできるかな?」
「お任せですよ! 面倒くさいけど!」
「ぶっちゃけたなこいつ……」
「でも、二人でも大変そうですね。これだけの人数だと」
「あ、あの、それなら、わたしもなにかお手伝いします」
「そうだな、タダ飯食うのもなんだし、手くらいは貸すぞ」
「なら私も……」
「あんたは座ってろ」
「皆、ありがとう。じゃあ、とりあえず冷蔵庫になにがあるかを確認しないと——」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線2」 ( No.423 )
- 日時: 2016/08/15 15:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「——リュンさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、氷麗さんか……ありがとう」
「また、随分とボロボロになりましたね……」
「まったくですよ……けほっ。連中ときたら、隙を見ては僕のところに押しかけて来るんだ。相手をするのも大変ですし、逃げ回るだけでも精一杯です。その逃げ回るにしたって、連中はどんな鼻をしているのか、すぐに嗅ぎ付けて来るんですけど」
「確か、ウルカさんが向こうにいると仰ってましたよね。なら、端末に発信器のようなものがつけられているとか……」
「ごほっ……その可能性もありますね。だから、こうして逃げる合間に調べてるんですけど、専門外だからなかなか上手くいかないんですよね。時間も少ないですし」
「なら一度、向こうに戻ってもいいのではないでしょうか? 座標を特定しているのは私たちだけですから、流石にあちらの世界にまでは来れないでしょうし」
「いや、なにがあるか分かりませんからね。かふっ……暁さんたちになにかあったら困るから、最低限のことはこっちで解決しないと」
「……ところで、風邪ですか? さっきから咳き込んでいますが?」
「さぁ、どうでしょう。免疫力には自信あるから、ただの風邪だとは思わないけど……まあ、些事ですよ、この程度。それに、これだけボロボロにされたら、多少のウイルスは関係ないです……ごほっ、ごほっ」
「そうですか? まあ、リュンさんがそう言うなら、そういうことにしておきますけど……でも、逃亡生活もそろそろ限界では?」
「確かにそうですね。いい加減、どこかで見切りをつけないと……って、言ってる傍から、来たようですね」
「応戦しますか?」
「僕はね。氷麗さんは逃げてください。今、あなたがやられる方がまずい」
「……このことは、皆さんに伝えますか?」
「いや……まだ、よしておきましょう。落ち着いたら、ちゃんと説明します。そこまで緊急でもないですからね」
「その様子で言われても、説得力ないですよ」
「ははは、そうですね……それじゃあ、また後で。」
「はい。次は、なにか食べられるものを持って行きます」
「ありがとうございます。連中を切り抜けたら、東の方——火文明の山を超えて、水文明の沿岸地域の方に移動する予定です」
「了解です。では、お気を付けて——」
急ごしらえの夕飯は、それなりに成功だった。
調理器具はほとんど揃っており、暁がピザ生地とオーブンを、一騎がパスタと大皿を見つけたので、皆で取り分けられるような料理にしようということになり、一品一品にあまり時間をかけず、それでいて量を作るという課題もクリアできた。洗い物は大変だったが、そこは人数がいて、台所もやたらと大きかったので、特に問題はなかった。
そうして夕飯を終え、今で皆が自由時間を謳歌している時だった。
「そういえば、風呂ってどうなってるんだ?」
ふと浬がそう言った。
「なによカイ、そんなにお風呂に興味あるの? やらしいわね」
「ぶん殴るぞ」
沙弓の軽口にいちいち反応しても仕方ないと思いつつも、拳を握る浬。今日だけでも実際に何度か殴っているので、その拳は見せかけではないことが既に証明されている。
しかし、入浴の問題があるのも確かだ。
海に行く時には、暁があまりにも急かすのでこの屋敷の設備確認を怠っていた。そのため、この屋敷の風呂事情がどうなっているのかは分からない。
一人ずつ入らなければいけないのか、それとも大浴場のようなものがあって、男女で分かれているのか。ここは銭湯ではないので、流石に後者はないだろうが。
「この屋敷の施設説明は柚ちゃんに一任するわ。はい、柚ちゃん。どうぞ」
質問を受けた沙弓は、そんな風に柚へとバトンを投げ渡す。
確かに、この屋敷については沙弓によりも柚の方が詳しいだろうが、あまりに投げやりな態度で、少し腹が立つ。
しかしその立腹も、柚の言葉ですべて吹き飛んだ。
「は、はひっ。えっと、このお屋敷には、温泉が湧いてるそうです……」
『温泉!?』
その場にいた全員の声がはもる。それらの声は一様に、吃驚に満ちていた。
「屋敷に温泉だなんて、極道って凄いのね」
「絶対そういうことじゃないと思うがな……」
「誰が管理してるんだろう……」
「えっと、でも、混浴らしいので、時間をずらして入らないと、ダメですね……順番、どうしましょう?」
流石に旅館などではないので、男湯、女湯と分かれているわけではないようだ。
時間をずらせば問題ないが、ならば問題となるのは、どちらが先に入るかだ。
正直なところ、多くの者は先だろうが後だろうがどちらでもいいし、どちらになったところで不平も不満も出ないのだが、とはいえ温泉などという言葉を聞いてしまえば先に入りたいと思うわけで。
結論を出すなら、どちらかと言えば先がいいが、後になっても不満はないという、順当かつ調和的で単調極まりない回答が返ってくるだけだ。
それでも、その調和を乱しそうな人物がいるので、問うてみるが、
「あきらちゃんは、どっちが……って、あれ? そういえば、あきらちゃんはどこですか?」
「ん? 言われてみればいないわね。どうりで静かだと思ったわ」
「恋もいないな」
気づけば、暁と恋、両部の問題児二人の姿が見えなかった。
「二人でどこかに行ったのかな?」
「……あり得る話なのが怖いわね」
「? どこが怖いんすか?」
「まあ、もしもそうなったら手遅れってことで。柚ちゃんとの一件以来、あの子も大人しくなったし、大丈夫だと信じましょう」
無情だった。
しかしそうだった場合はもう手の施しようがないことも事実なので、仕方ないことなのかもしれない。
「じゃあ、順番はどうする?」
「どうするって、そんなの決まってるじゃない」
スクッと立ち上がる沙弓。
彼女は最初からそうであると決めっているかのように、声高に宣言した。
「女子と男子でそれぞれ代表を立ててデュエマをすればいいのよ」
「……いや、意味わからんし、デュエマする必要はないだろ」
もっともな指摘だ。
しかしそんな当たり前の指摘を無視して、沙弓は続ける。
「でも、そのままデュエマしても面白くないから、こうしましょうか」
「まずデュエマを確定させんな」
浬の抗議も虚しく響くだけ。沙弓は止まらない。
反論を続けようか少し考えたが、このままだと無視され続けるだけだと半ば諦めることにした。とりあえず今は、口をつぐんでおく。
「今この場には、ちょうど女子四人、男子四人いるわ。それぞれの代表者が、その四人のデッキを“合わせて”対戦するっていうのはどう?」
「……意味が分からん。つまりどういうことだ?」
「じゃあ具体的に言うわね。それぞれ代表者を立てる……まあこれは、遊戯部から私、烏ヶ森から剣埼さんでいいかしらね。この二人でデュエマする」
もはやデュエマで入浴順を決めることは確定事項となっているようだ。異を唱えたそうにしている者は浬の他にも見受けられるが、とりあえず今は黙っている。
「で、デッキだけど、女子は私、柚ちゃん、シェリー、黒月さんの四人のデッキを全部混ぜて一つのデッキとする。男子は剣埼さん、焔君、夢谷君、カイの四人のデッキを一つにするの」
「……つまり、40枚×四人で160枚のデッキを使うってことか?」
「そうよ。混沌としてて面白そうじゃない?」
「馬鹿じゃねぇのか?」
四人のデッキを合わせるだなんて、どれほど荒唐無稽なことだろうか。
まず、四人のデッキの方向性が同じとは限らない。いや、バラバラであるとさえ言えるだろう。コンセプトだけでなく、文明だって違うのだ。特に遊戯部の面子は単色デッキを使用しているので、特に調和性がない。そのうえ、いつもの四倍の枚数で対戦を行うとなれば、今まで通りの効率計算もできないし、そんなジャンクデッキがまともに動くわけがない。それに、他人のデッキを混ぜるなど、マナーの面でも問題だ。自分のデッキを他人に握らせるだなんて、ましてやそれを他のデッキと混ぜるだなんて、好ましく思わない人もいるだろう。それどころか、嫌悪感を示すことも十分あり得る。
そう、思っていたのだが、
「楽しそうだね。いいんじゃない?」
「自分も面白そうだと思うっす」
「他人が自分のデッキを動かしているところは、確かに見てみたいかもしれませんねー」
「わ、わたしは、その……ぶ、ぶちょーさんがいいと言うなら……」
「……マジか」
「諦めるしかないな、これは。あたし個人としては、別に問題はないが……」
思った以上の好感触。まともそうなミシェルも抗議を放棄している。
同じく諦念の滲んだ雰囲気を出している美琴が、浬に尋ねた。
「ねぇ、あなたたちのところの部長って、いつもこんなんなの?」
「今日はいつにも増して暴走してるっぽいな……流石に止めたいところだが……」
「止まらないでしょうねぇ。ああいう人が、ああなったら」
「……なんか場慣れしてますね?」
「去年の部長が、今のあなたたちの部長に似てたのよ」
「それは……大変でしたね」
あんなのに似た部長がこの世に何人もいると考えると、ぞっとしない話だ。
「それじゃあ、各々準備しましょうか。今からデッキを弄るのはなしね」
と沙弓が言い出して、もはや逆らえない雰囲気。
浬も完全に諦めて、大人しくデッキを出すことにした。
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線3」 ( No.424 )
- 日時: 2016/08/16 00:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「で、デッキを合わせるのはいいが、これだと一つのデッキに一種四枚以上のカードが入ったり、殿堂ルールを順守できないぞ?」
「は? そんなの守るわけないじゃない。160枚のデッキを使う時点で既存のルールなんてくそくらえよ。あなたはなにを言っているの?」
「…………」
お前がそれを言うか、と言い返したかったが、浬は黙った。
「とりあえずデッキはできたけど……えぇっと、俺と卯月さんがこれを使って対戦する、ってことでいいのかな?」
「そうね。でもこれは女子と男子の一番風呂を賭けた対戦だから、女子は女子内、男子は男子内での相談も可能にするわ」
「まあ、あたしらのデッキも入ってるわけだしな……動きは読めないが」
「超次元ゾーンの扱いはどうするの?」
「八枚なんてちゃっちぃ制限は取っ払うわ。無制限よ」
「まあそうだよな……」
殿堂ルール無視の時点で分かっていたことだ。今更なにも言うまい。
というわけで、160枚のデッキをシャッフルして、シールドを展開。手札を持ち、対戦の準備を始める。
「対戦中のルールに変更はないよね……?」
「そこは流石にないわね。これ自体が思いつきだし、そこを弄るとカオスになるわ」
「今も十分カオスだがな」
まず160枚のデッキが非常にシャッフルしにくい。後で本人に返す時に大変そうだった。
「じゃあ、とりあえず超次元ゾーンの確認からね。私たちはこれよ」
超次元ゾーン(女子陣:沙弓、柚、ミシェル、美琴)
《始原塊 ジュダイナ》×1
《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》×1
《卵殻塊 ジュラピル》×1
《龍棍棒 トゲトプス》×1
《神光の龍槍 ウルオヴェリア》×1
《革命槍 ジャンヌ・ミゼル》×1
《無敵剣 プロト・ギガハート》×1
《熱血剣 グリージー・ホーン》×1
《時空の悪魔龍 ディアボロス ZZ》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《ヴォルグ・サンダー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
「自然のドラグハート……それに、闇メインのサイキックだね」
「霞と部長のだけか」
「四天寺先輩も黒月さんも、超次元は使わないデッキですからねー」
枚数はいつもの倍だが、それぞれがまったく別個に独立しているので、枚数が多い、程度の感想しかない。
それに、柚のものと思われるドラグハートも、実際に使うのは上の三種類が精々だろう。超次元を使う人数が少ないということは、それだけドラグナーと超次元呪文が少ないということ。つまり、それらのカードを引く確率も、通常デッキと比べて格段に落ちる。超次元から強襲される危険度は低いと言えるだろう。
「えっと、じゃあ、こっちの超次元はこれだよ」
と言って、一騎も超次元ゾーンを公開する。
超次元ゾーン(男子陣:一騎、空護、八、浬)
《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》×1
《真理銃 エビデンス》×1
《龍波動空母 エビデゴラス》×1
《銀河大剣 ガイハート》×1
《将龍剣 ガイアール》×1
《大いなる銀河 巨星城》×1
《魂喰いの魔狼月下城》×1
《天守閣 龍王武陣 —闘魂モード—》×1
《最前戦 XX幕府》×1
《立体兵器 龍素ランチャー》×1
《悪夢卍 ミガワリ》×1
《熱血爪 メリケン・バルク》×1
《無敵剣 プロト・ギガハート》×1
《激天下!シャチホコ・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×2
《ヴォルグ・サンダー》×1
《流星のフォーエバー・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×3
《ブーストグレンオー》×1
《勝利のプリンプリン》×2
《剛腕の政》×2
《時空の踊り子マティーニ》×1
《ドラゴニック・ピッピー》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
《ウコン・ピッピー》×1
《サコン・ピッピー》×1
「うわ……」
「これは……凄いな」
「い、いっぱいあります……」
「これが超次元ゾーンとは思えないわね……」
相手の反応は、概ね予想通り。
男子は四人全員が超次元ゾーンをフルで使う。ゆえに、8枚×四人で32枚のサイキック、ドラグハートが超次元ゾーンに詰め込まれている。割合で言えば通常デッキの80%だ。
しかし、それぞれ使う超次元の中身が微妙に違うので、ドラグハートが浮いてしまっている。サイキックは汎用性の高い勝利シリーズが詰め込まれているが、正直、《勝利のリュウセイ・カイザー》は三枚もいらない。
またこの超次元を見て、沙弓はなにかに気付いたようだった。
「カイ……あなた、サイキックを使うの?」
「……なんでそんなことが言えるんだ?」
「だって、水のドラグハートが三枚しか見えないんだもの」
「一騎さんの可能性もあるだろ。《グレンモルト「覇」》はサイキックも出せるんだ」
「火のドラグハートは八枚見えてるわよ。焔君や夢谷君が、火のドラグハートを使うとは思えないし……あなたが単体のカードパワーを補うために入れたと思うけど?」
「なんだよ……悪いか」
「いえ、別に」
一体なにが言いたかったんだ、ともやもやした気持ちを残しながら、互いに超次元ゾーンに指定のカードを戻す。
これで準備はすべて整った。
対戦開始だ。
先攻は男子陣。
「…………」
一騎が五枚の手札を持つ。それを見て、浬は絶句した。
(《ヤッタレ・ピッピー》《暴龍事変 ガイグレン》《龍覇 メタルアベンジャー》《アクア呪文師 スペルビー》《アクア・サーファー》……なにがしたいのか、なにをすべきか分からん手札だな)
ハンターサポートの《ヤッタレ》、マナ武装9で無限アタッカーになる《ガイグレン》、水のメインドラグハートを呼ぶ《メタルアベンジャー》に、墓地肥やしと呪文回収を行う《スペルビー》。ものの見事に方向性がバラバラだ。《アクア・サーファー》が調和して見えるほど混沌としている。
「とりあえず、これはいらないよね。《ガイグレン》をチャージして終了だ」
一騎は、まっさきに自分の切り札をマナに置いた。
今のデッキは四人の混成デッキ。その文明の割合を大雑把に算出するなら、一騎のデッキが火100%、浬が水100%、空護のデッキが闇と火50%ずつ、八が水、火、自然33%ずつといったところ。火のカードの枚数は、160枚中およそ70枚程度。実際は、一騎のデッキには少量の自然が入り、空護のデッキは闇の割合の方が多く、八のデッキは火の割合が多いため、もう少し変動するのだが。
どちらにせよ、デッキの火文明のカードの割合が50%以下なのだ。そんなデッキでマナ武装9という大きな壁を越えられるとは思えない。マナに置いて正解だろう。
「じゃ、私たちのターンね。ドローして……うーん」
「偏ってんなぁ」
「そうね。でもとりあえずは……《クロスファイア》をチャージして終了」
「《クロスファイア》か……こっちのターンだね。ドロー」
あれはミシェルのカード。ミシェルは黒赤緑と青黒赤、二種類のデッキを使うが、どちらも墓地を利用し、《クロスファイア》や《5000GT》といったカードがあるので、まだどちらとは断定できない。
一騎たちのターン。カードを引くと、《アクア・サーファー》が来た。
「二枚目が来ちゃったか……これもマナかな。《アクア・サーファー》をチャージ。終了だよ」
「私たちのターンね」
沙弓がカードを引く。すると、引きが悪かったのか、彼女らは顔をしかめる。
「……この手札、大丈夫なの?」
「あまり大丈夫とは言えないわね。とりあえず、《ドルバロムD》をチャージして、終了よ」
沙弓のカードだ。出されたらかなり苦しいが、このタイミングで引かれたらマナに置かれるだろう。
もっとも、柚の自然のカードでマナ回収も可能だと思われるので、終盤に出される危険がないわけではないが。
そう思いながら、一騎が次に引いたのは、《龍覇 グレンモルト》。
「動ける気がしないね……《サーファー》をチャージして終了」
「んー……《デスゲート》をチャージ。終了」
しかし、動けないのは向こうも同じ。
ここまでのターンはまるで動きがなかったが、ここでやっと、一騎たちが動き始める。
「《イフリート・ハンド》をチャージして……浬君、使わせてもらうよ」
「あ……はい!」
「よし、じゃあ4マナタップして、《アクア呪文師 スペルビー》を召喚だ」
呼び出すのは《スペルビー》。強力な能力とは言い難いが、堅実に、次の一手に繋げていく。
「《スペルビー》の登場時能力で、山札の上から三枚を墓地に置くよ」
墓地に落とされたのは、《英雄奥義 バーニング・銀河》《フェアリーの火の子祭》《天守閣 龍王武陣》の三枚。
すべて呪文。その中から、一枚を回収できる。
「俺のカード偏ってるなぁ……とりあえず、《火の子祭》を回収して、ターン終了」
とりあえず、先んじて動くことができた。先攻としてのアドバンテージは得られたと言えるだろう。
そして、相手のターンへと渡る。
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