二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

76話 「月影神銃」 ( No.264 )
日時: 2016/03/15 03:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

月影神銃 ドラグノフ 闇文明 (8)
進化クリーチャー:ダークロード/ドラゴン・ゾンビ 9000
進化—自分の《月影の語り手 ドライゼ》1体の上に置く。
メソロギィ・ゼロ—バトルゾーンに自分の《月影の語り手 ドライゼ》または《ドラグノフ》と名のつくクリーチャーがおらず、自分のダークロードまたはコマンド・ドラゴンを含む闇のカードのコストの合計が12以上なら、進化元なしでこのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーはバトルゾーン以外のゾーンにある時、進化でないクリーチャーとしても扱う。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手の手札を見る。その中から1枚選んで、持ち主の墓地においてもよい。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から3枚を見て、その中からカードを3枚まで選んで持ち主の墓地に置き、残りを好きな順序で山札の一番上に戻してもよい。こうしてカードを墓地に置いた場合、墓地にあるコスト7以下の闇の呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。その後、その呪文を持ち主の山札の一番下に置く。
自分の闇のクリーチャーが破壊される時、自分の墓地にあるそのクリーチャーと同じコストの闇のカードを1枚、山札に戻してシャッフルしてもよい。そうした場合、そのクリーチャーは破壊されるかわりにバトルゾーンにとどまる。
W・ブレイカー




 月光を浴び、月影より出ずる者がいた。
 黒い外套を纏い、身の丈を超えるほどに長大な銃を携えた狙撃手。
 その姿は、正に影。光の中に、明瞭な闇を浮かび上がらせるほどの、黒い影となる存在だった。
『なにをしたかは知らぬが、それがどうした! 今更なにが出て来ようと、俺の渇望を妨げさせはしない! その女は——俺が頂く』
 刹那。
「っ!」
 沙弓に巻き付いていた鎖が急激に蠢く。そのまま足首を磨り潰さんばかりの勢いで彼女の身体を這い、太腿を辿り、さらに上へと昇っていく。
 さらには他の鎖までもが、沙弓の腕、肩、胸、腹へと取りつき、彼女を取り込まんとばかりに、そして犯さんとばかりに締め、縊り、引きこんでいく。
「っ——」
 思わず、手を伸ばす。
 圧倒的で凌辱的な邪淫の力。とても抗えないほどに強大な力。
 万力のように締め上げ、とても沙弓一人では抜け出すことはできない、渇望の束縛。
 だが。
 影が、閃く。
『————』
 一瞬にして、沙弓を縛る鎖はすべて切り落とされていた。
 その先にいるのは、黒き狙撃手。
 長く、太く、そして巨大な狙撃銃の銃身、その先端には刃が屹立している。
『……おい』
 低い声が響く。
 射抜くような声。そして、射殺すような視線が、《アスモシス》に突き刺さる。
『俺の女に手を出すな』
 そして彼は、銃を構えた。

パァンッ

『ッ!?』
 狙撃銃から放たれた一発の弾丸が、《アスモシス》の手元を撃ち抜く。
 その手を掠め、そして彼の知識たる手札を、撃ち落とした。
『今のはほんの威嚇射撃だ。次は、頭をぶち抜くぞ』
 銃口から黒煙を吐き出し、彼は吐き捨てるようにそう言って、銃を下した。
「あ、ありがとう……」
『気にするな。俺はただ、俺のすべきことをしただけだ』
 背をそむけたまま、彼は言う。
 なにかを言いたげな表情。しかし、今はまだその時ではない。
 今すべきことは、ただ一つ。
「……それじゃあ、やりましょうか、《ドラグノフ》。今までの仕返しをね」
『あぁ。主人をここまで傷つけた罰は、あの淫乱野郎に受けてもらわないとな』
 互いに顔を見合わせ、頷き合い、動き出した。
「まずは《ドラグノフ》で《アスモシス》を攻撃!」
 主が攻撃を命じる。
 その瞬間《ドラグノフ》は狙撃銃を構えた。スコープを覗き、トリガーに手をかけながら、撃つべき敵を見据える。
『標準設定、目標補足。重力、風向、湿度、その他要因による補正零……最高のショットだ』
「《ドラグノフ》で攻撃する時、能力発動! 《ドラグノフ》は攻撃時、山札の上から三枚を見て、その中の好きなカードを墓地に落とせる……《ロマノフ・ホール》と《デッド・リュウセイ》を墓地に置くわ。そして、こうした場合——」
 ガコン、と《ドラグノフ》はレバーを引き、弾丸を装填する。
 真っ黒に染まった、一発の弾丸を。
『さぁ、行くぜ。次弾装填! 発射!』
 そして、トリガーを引いた。
 狙撃銃から一発の弾丸が放たれる。だが、それはただの銃弾ではない。
 闇の力が込められた魔弾。失われた魔術を取り戻す、魔法の弾丸だ。
「——墓地からコスト7以下の闇の呪文を、タダで唱えられる! 墓地から呪文《超次元ロマノフ・ホール》!」
 《ドラグノフ》が放つ魔弾は、暗黒の銃弾となり、戦場を飛来する。
 その弾丸は自害の意志を持つものを貫き、射殺す魔弾。そしてその意志は、否応なしに持たされる。
「さあ、破壊するクリーチャーを選びなさい」
『チィ……俺も奴もパワーは9000、相打ち狙いか』
 苦い顔をする《アスモシス》。だがその口元は、すぐ淫らに歪む。
『ならば、《タイガマイト》を破壊だ!』
 《アスモシス》の命によって《タイガマイト》が爆散する。
 そして、その余波が超次元の穴を生み、新たなクリーチャーを呼び込むのだった。
「超次元から出て来なさい! 《時空の悪魔龍 ディアボロス ZZ》!」
 《ドラグノフ》の放つ《ロマノフ・ホール》から出るのは、別世界を支配する最悪の悪魔——それがまた別の世界で、龍としての存在する姿。
 まだその凶悪さは内に秘めているが、それでも滲み出る禍々しい空気が、アスモシスを威圧する。
 それでも《アスモシス》は己の罪を忘れない。
 その罪を放出し、死をもたらす。
『俺の能力によって、俺のクリーチャーが破壊されるたびに、貴様は自身のクリーチャーを一体破壊しなければならない! さあ、生贄を選べ!』
 《アスモシス》もタダでは死なない。彼の渇望が再び牙を剥き、沙弓たちへと襲い掛かる。
 一度は恐怖した、邪淫への渇望という大罪。
 数多の悪霊たちが押し寄せ、死を要求する。悍ましく果てない渇望の死を。恐怖を喚起する邪淫の死罪を。
 だが今は、その恐怖も消え失せた。その程度の渇望は、取るに足らない軽罪である。
「あんなこと言ってるけど、どうする?」
『生贄か。そんなもののために、仲間を見殺しにできるものか——“俺が”生贄となろう』
 仲間の死を否定し、《ドラグノフ》が、その身を捧げる。
 《アスモシス》の渇望の毒牙が、罪深き邪淫が、《ドラグノフ》を死へと追いやる。
 大罪の力が、押し寄せる。
『さぁ死ね! 《ドラグノフ》!』
『死ぬ? なにを言っているんだ』
 数多の悪霊が、縛鎖が、そして大罪が、《ドラグノフ》を包み込む。
 その先に待つのは、死という顛末。
 如何なるものでも逃れることのできない運命が、加速する——

『俺はもう、誰も死なせやしない……仲間も、主も、そして——俺自身さえも』

 ——その時だ。
「《ドラグノフ》の能力発動!」
 大罪に包まれた瘴気の中で、《ドラグノフ》は銃口を向ける。
 《アスモシス》に、ではない。己にだ。
「さぁ、訪れる死に抗いましょう……墓地の《ガナルドナル》を、山札へ」
 沙弓は墓地に落ちていた《ガナルドナル》を拾い上げ、山札に押し込んだ。
 そして、光が差す。
 決して煌びやかではない。どこか陰りを感じ、それでいて穏やかな光。
 その光と共に瘴気が消え、そしてそこには、《ドラグノフ》が立っていた。
『な……なに……!? どういうことだ!?』
『俺は一人じゃない。死んだ仲間たちの無念も背負って、こうしてここに立っている。そしてそれは、俺だけでない。俺たちは、戦死した仲間たちと共に、戦っている』
 彼は欠けた月を満ちさせるべき、影。欠けた三日月を、半月を、満月フルムーンに成すべき存在。
 それゆえに、
「《ドラグノフ》は墓地の同コストのカードを山札に戻せば、クリーチャーの破壊を無効化できる……誰も、死なせはしないわ」
 《ドラグノフ》のコストは8。沙弓は墓地の《ガナルドナル》——コスト8のカードを山札に戻すことで、《ドラグノフ》の破壊を無効化した。
 《アスモシス》の渇望は、月影を語り、その神話を受け継ぐ者には、届かなかった。
 直後に月影の継承者と邪淫の悪魔龍の戦闘が起こる。銃の先端に黒い刃を装着し、銃剣を《アスモシス》へと突き込む。《アスモシス》も鎖を伸ばし、《ドラグノフ》を縛り首にするが、
『墓地の《デストロンリー》を山札へ! 《ドラグノフ》は破壊させないわ』
「ぐぬぅ……!」
 訪れる死を、《ドラグノフ》は否定する。
 いくら《アスモシス》が死を渇望しようとも、それは彼らの下へは訪れない。《ドラグノフ》の魔弾は、あらゆる生命を救い、死を超越する。
 死に抗い、欠けた月を満たすかのように。
「ぐ、ぐぅ……クソッ、クソが! せっかくいいところまで満たされた俺の渇望が! 俺の欲望が、快楽が! すべて台無しじゃねえか! 畜生が!」
 不満を、鬱憤を、満たされない情欲と渇望を、アスモシスは半狂乱になりながら、叫び散らす。
 あと一歩で彼の渇望は満たされたことだろう。しかし、それが達成される直前で、邪魔された。
 この上なく、不服であることだろう。
「墓地進化! 《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》を召喚! その能力で、《クラクランプ》破壊!」
『させねぇっての』
 《ドラグノフ》は、銃を《クラクランプ》へと向ける。
 《ヴァーズ・ロマノフ》によってその身を破砕された《クラクランプ》。その身に向けて、銃口を向け、引き金を引いた。
『死なせてたまるかよ、俺の仲間をな』
「墓地の《超次元リバイヴ・ホール》を山札に戻して、《クラクランプ》は破壊させないわ!」
 死にゆく《クラクランプ》は、《ドラグノフ》魔弾によって一命を取り留める。散った身体は再生し、魂はとどまり、戦場へと立ち続ける。
『ぐ、くそが……!』
『俺の魔弾は、神話の命の代替にすらなる。お前程度の雑魚が、その生を塗り潰せるものか』
 意趣返し、と言わんばかりに《ドラグノフ》は、アスモシスに高圧的に言い放つ。
 《ドラグノフ》が存在する限り、沙弓のクリーチャーを破壊することは困難だ。どうしたって、その破壊は防がれてしまう。
 このまま攻めようにも、《ディアボロス ZZ》が睨みを利かせており、攻め込めない。
 ここに来てアスモシスは、防戦を強いられることとなってしまったのだった。
「《ブラッディ・メアリー》を召喚し、ターン終了……!」
「私のターン……この時、マナゾーンから闇のカードを三枚、墓地に落とすわ」
 沙弓のターンが訪れる。
 マナゾーンにあった《ボーンおどり・チャージャー》《魔狼月下城の咆哮》《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の三枚を墓地へと落とす沙弓。
 これは単なるディスアドバンテージではない。これは儀式だ。
 最凶最悪の悪魔龍が、究極の姿へと覚醒するための、生贄だ。
「これにより、《ディアボロス ZZ》の覚醒条件が満たされたわ」
 《ディアボロス ZZ》の覚醒条件。それは、ターン初めに自分の闇のクリーチャー、またはマナゾーンにある闇のカードを、合計で三枚墓地に落とすこと。
「《時空の悪魔龍 ディアボロス ZZ》——覚醒」
 墓地へと落ちた三つの闇の力を糧に、破壊の悪魔は覚醒する。
 時空を超え、神話の力すらも受け入れ、究極の姿へと成る——

「——《究極の覚醒者 デビル・ディアボロス ZZ》!」



時空の悪魔龍 ディアボロス ΖΖ ≡V≡ 闇文明 (10)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 9000
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
相手のクリーチャーの能力によって、相手がバトルゾーンにあるクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。
覚醒—自分のターンのはじめに、バトルゾーンとマナゾーンにある自分のカードの中から合計3枚選び、墓地に置いてもよい。そうした場合、このクリーチャーをコストの大きいほうに裏返す。



究極の覚醒者 デビル・ディアボロス ΖΖ ≡V≡ 闇 (20)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 23000
このクリーチャーが攻撃する時、相手の光のクリーチャー、水のクリーチャー、闇のクリーチャー、火のクリーチャー、自然のクリーチャーを1体ずつ破壊する。
Q・ブレイカー
解除



「《デビル・ディアボロス ZZ》で攻撃! その時、相手の各文明のクリーチャーを一体ずつ破壊! 《ブラッディ・メアリー》を破壊よ!」
 すべてを無へと還す、破壊の咆哮が轟く。
 あらゆる文明を消滅させる破滅は、《ブラッディ・メアリー》を跡形もなく消し飛ばした。
「そして、シールドをQブレイク!」
 さらにその力は強大無比。クリーチャーを破壊するだけでなく、アスモシスのシールドすらも、すべて消し去ってしまう。
「クソッ、クソッ、クソがぁ! 俺の、俺の渇望は、まだ満たされてねぇんだよおぉぉぉぉぉぉぉっ! S・トリガー! 《魔狼月下城の咆哮》! 《地獄門デス・ゲート》! 《凶殺皇 デス・ハンズ》!」
 《デビル・ディアボロス ZZ》の一掃したシールドが、光の束となり収束する。
 そこから現れるのは、魔狼の雄叫びで、獄門からの誘いで、死神の魔手である。
 これほどまでに追いつめられてもなお、渇望するアスモシス。邪淫の大罪の深さは、思っていた以上に深淵だった。
「死ねぇ! 《ドラグノフ》ッ!」
『……だから、何度も言ってんだろうが』
 だが、それでも、
『俺はもう、誰も死なせねえって決めたんだよ』
 月影の光は、その深淵を照らし出す。
「墓地の《フォーエバー・オカルト》《デッド・リュウセイ》《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を山札に戻して、《ドラグノフ》は破壊させない!」
 《ドラグノフ》に死が訪れる。
 しかしそれは、墓地より這い出した闇の霊魂が塞ぎ止めた。
『サンキュー、リュウセイ。恩に着るぜ』
『気にするな、ネバーマインド。それよりも、俺の分もあいつをぶっ飛ばして来い! クラッシュ!』
 咆哮を掻き消し、獄門を閉ざし、魔手を受け止めるリュウセイ。
 その魂を乗り越え、《ドラグノフ》は再び銃を構える。
 今度は遮蔽物の存在しない、目標を直接狙える、絶好の位置を望み、狙いを定める。
 あとは仲間がそこまで敵陣を突破し、誘導するだけだ。
「《デス・ゲート》の能力で、《ブラッディ・メアリー》を復活だ! まだ、まだ俺の渇望は満ち足りねぇ! まだ終わらねぇんだよ!」
 地獄の扉から、自分が犯した悪夢の人形を呼び戻す。
 罰を受けた彼女は、罪に従わなくてはならない。しかし、主たる罪の思い通りにはならず、罰を受ける彼女の望みは果たされる。
 その顛末は、既に見えていた。
「《ウラミハデス》で攻撃!」
「《ブラッディ・メアリー》でブロック!」
「なら《クラクランプ》で攻撃! 最後のシールドをブレイクよ!」
 アスモシスを守る最後の盾が砕かれる。
 これで条件は揃った。狙撃手にとって最も好都合なフィールドが出来上がる。
 あとはただ、撃つだけだ。
 罪を滅する、罰の魔弾を。
「《ドラグノフ》で攻撃! 山札の上から三枚すべてを墓地に置いて、墓地から呪文《魔狼月下城の咆哮》! 《デス・ハンズ》のパワーを−3000! さらにマナ武装5で《ヴァーズ・ロマノフ》を破壊よ!」
 ガコン、とレバーを引き、魔弾を装填。
 すぐさまトリガーを引き、魔弾を射出。
 まっすぐ飛ぶ弾丸は、沙弓のマナゾーンの闇の力を得て、魔狼の咆哮となり、《デス・ハンズ》と《ヴァーズ・ロマノフ》を消滅させる。
「が、ぐ……クソッ! こんな……こんな、俺の渇望が満たされないようなこと、やってられっかよ!」
「っ、逃げた……!?」
 突如、アスモシスが飛び立つ。
 魔弾から、戦いから、現実から——そして、あらゆる罰から、逃れるように。
『——逃がすかよ』
 しかし即座に《ドラグノフ》が動く。
 レバーを引き、ガコン、と弾丸を装填する。
 引き金を素早く引き、一発の銃弾が飛ぶ。
 その弾は、アスモシスの翼の根元を、撃ち抜いた。
「ぐは……っ!」
『もう一発だ』
 ガコン。
 装填、そして直後に射出。
 今度は、もう片方の翼を撃ち飛ばす。
 両翼を破られ、もはやアスモシスは動くことができない。
 そんなアスモシスを、《ドラグノフ》は踏みつける。
『敵前逃亡は銃殺刑……それに、後ろから撃たれても文句は言えねぇ、ってな』
「が、ぐ……!」
『俺はアルテミスの神話を受け継ぐ。ライの奴じゃねぇが、その引き継ぎとして、あいつの罪だけでも贖っておくべきだろう。つまりは……そう、断罪だ』
 罪を裁き、罰を与える。
 すべてを渇望する、邪淫の大罪を、断罪する時だ。
『沙弓……いいか?』
「……えぇ、いいわ」
 主の許可も下りた。
 それにより、正式にアスモシスの断罪が始まる。
『俺としては、沙弓を嬲ったお前には個人的な恨みもある……だからちっとばかし、手荒く裁かせてもらうぜ』
 《ドラグノフ》は手にした銃の銃口をアスモシスに向け、銃身をその口に突っ込んだ。
「っ、む、がぁ……!」
 即座に昇天する構図。痛みは一瞬、苦しみはない。
 それが、罪とはいえかつて彼女の心の一部だったものに対する、敬意だった。
『……あばよ』
 そして、引き金を引いた。
 カチリ、という音に導かれ、銃声が響き渡る。

「《月影神銃 ドラグノフ》で、ダイレクトアタック——」

77話 「部長」 ( No.265 )
日時: 2015/10/13 04:22
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「——ん……?」
 眩しい。瞼の裏からも分かる妙な感覚。闇に閉ざされたはずの視界が、明かりを感じている。光を感じる感覚器が塞がっているにもかかわらず、その存在を感知できるのはなぜなのだろうか。機能を塞いでいるはずなのに、機能している。真に不思議なことだ。
 などとぼんやり思いながら、ぼんやりと瞼を上げる。
「ここは……」
「目が覚めたか」
 声がする。鋭くも荒々しい、しかしそれでいて柔らかな、男の声。
 その声を聞いて、安心している自分がいた。
「ドライゼ……っ、いたた……」
「無理をするな。あの時は責任感と使命感が勝って、気力で耐えていたんだろうが、お前の身体は相当ボロボロだ。大人しくしていろ」
「……むぅ、あなたにそう言われると、ちょっと癪ね」
 とは言うものの、全身が痛いのは確かだ。ここは大人しくしていることにする。自分が寝ているベッドに、体重を預けた。
 しかし、それにしても痛い。
 喜ばしいくらいに、痛みが走る。
 痛いと感じることができる。それは、自分が生きている証左。
 痛みは生の証だ。それを実感できていると思うと、幸福すら感じる。
(でも、なんだかマゾっぽい思考ね)
 自嘲気味に心中で呟きつつ、隣でカードのままでいるドライゼを見遣る。こちらに気を遣っているつもりなのか、その状態のまま黙っている。
 このまま沈黙を続けようかと思ったが、しかし彼には言いたいことがある。今は二人きり、言うなら今しかない。
 そう思った矢先、口を開く。
「ねぇ、ドライゼ」
「なんだ?」
「ごめんなさい」
 まず、頭を下げる。いや、寝た体勢なので頭を下げてはいないが、謝罪の言葉を口にする。
 とにかく、謝らなければならないと思った。
 あの時、感情に流されて彼を墓地へと叩き落したのは確かで、それをしたのは紛うことなく自分である。
 結果的に、自分はこうして生きている。しかし、あの一手のせいで、自分も、彼も、傷つけたことに変わりはない。
 それだけは、謝らなければならない。そう、思ったのだ。
「……俺もすまない」
 直後、彼からも同じように、謝罪の言葉が出た。
 まるで懺悔するかのように。
「俺は、俺の忠義が間違っていたとは思わない。俺は自分の死さえ受け入れる覚悟で主を守る。アルテミスを救えなかった俺は、そう決意を固めた。それは覆ることのない、俺の確固たる誓いだ」
 たとえ今の主がそれを望んでいなくても、過去に起きた己の悔やみは、そう簡単には消せはしない。
 かつての後悔は、己の非力さへの戒めで、決して忘れてはいけない過去を刻み込む鎖だ。
 しかし、
「俺はその重責にこだわりすぎていたのかもしれない。そのせいで、本当に大事なことを見失っていた」
 それは、自分自身。
 主の意志。
 どこか自分が特別な存在だと驕っていたのかもしれない。自分は、彼女を語る者で、彼女に近しいものである。
 ゆえに自分は彼女を守り、救わなければならない。そんな意識が募りすぎて、自分自身を見失っていた。
 それが自分の使命であることは、譲る気はない。それだけは自分の意思として貫き通す。
 だが、自分自身という存在を二の次にしていたのは確かだった。
 自分を守れない奴が、他人を守れるものか。
 自分を身を滅ぼす奴が、他人の身を救えるものか。
 それが許されざる罪だと、自覚した。
「……分かったわ」
 それを聞き、ゆっくりと言葉を吐き出す。
 そして、答えた。
 今の彼の主として。
 自分自身の告白と、彼への宣告を。
「私も少し熱くなってた。私こそ、かつての恐怖からあなたを追いやってしまった。そこは、私の弱さで、とても申し訳なく思ってる」
 でも、と続ける。
 これだけは譲れない。
 彼が、己の誓った忠義を譲らなかったように。
 たとえ主従の関係であろうとも、そんなものは関係なく、己の意志を貫く。
 抗いと逆らいの意志を。
 自分から命じる、絶対的な御言葉。
 それは、心の底から念じる、ただ一つの願いだった。

「もう二度と、勝手に死ぬだなんて言わないで……!」

「……承知した」
 ドライゼは静かに、そして重く、頷いた。
 それっきり、二人とも黙り込む。これ以上、伝えるべきことはないと言うように。
 言葉にしないと分からないことは、すべて伝えた。もう言葉にすることはない。
 長い長い、静寂だった。
「——あ、部長……!」
 と、その時だ。
 小さく扉が開く。ひっそり開いたその隙間から、見慣れた彼女の顔が覗く。
 同時に、その後ろから、同じく見慣れた顔が入ってくるのも見える。
「……起きたのか」
「ぶちょーさんっ」
 仏頂面の顔と、今にも泣き出しそうな幼い顔。
 その顔ぶれをみるなり、少しホッとする。
「部長!」
「おっ、と……暁、どうしたの?」
 暁が飛びついてくる。全身に軋むような痛みが走ったが、なんとか抱きとめた。
 彼女が上目遣いで見上げる。その瞳を見つめ返して、息を飲んだ。
 いつも溌剌としていて、笑顔だったり不機嫌だったり、それでもやはり笑みを絶やさない彼女の目元から、一筋、光が流れる。
 感情豊かな彼女が見せる、涙の雫が零れ落ち、胸を濡らす。
「心配したんだよ、部長! 目が覚めたら、血だらけになってて、死んじゃうかと思って……うぅ……」
「分かった、分かったから、泣かないで……」
 流石に泣かれたら弱る。特に、泣き姿なんて見せそうにない暁が、泣いているのだ。どう慰めればいいのか分からない。
 それに彼女は、自分のために泣いている。泣いてくれているのだ。
 それだけ、自分のことを思ってくれていたのだ。
「ぶ、ぶちょーさん……よかったです、本当に……」
「ゆずちゃんまで……もう、みんな泣かないでよ。ほら、私はこの通り生きてるし、ピンピンしてるから」
「ピンピンはしてないだろ。下手したら、出血多量で死んでたかもしれないんだぞ」
「……ごめんなさい」
 強い語調で、窘めるように浬に言われる。
 確かに危なかったのかもしれない。今も、体が痛むだけでなく、少しバランスがおかしい。貧血のせいだろうか。
 そんな、ふらふらになって暁の黒髪を撫でつつ、部員たちを見つめる。
「本当に、ごめんなさい……でも、ありがとう」
 自分のために泣いてくれて。
 これほど自分のことを考えてくれているのだ。生を諦めず、死に抗った甲斐があるというものだ。
(私は、幸せものね。こんなに良い部員に恵まれて……)
 この子たちのために頑張って良かった
 心の底から、そう思えた。
(ここが私のいるべき場所で、私の生きる場所なのよね)
 改めて、そう思える。
 今まで考えもしなかったが、しっかりと自覚することも大事だ。自分が生きる場所、そしてその目的と、意味。
 自分居場所、仲間、存在理由はここにある。それは、自分が一番分かっていなくてはならない。
 なぜなら、
(私が“部長”だからね——)

78話 「浮沈」 ( No.266 )
日時: 2015/10/18 17:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「——ダイレクトアタック!」
「……終わった」
「《術英雄 チュレンテンホウ》か……九連と天和なんて、すっごい名前。ダブル役満だねっ」
「でも、それに見合うだけの強さはあったわね。流石英雄、強いわ」
「ほんとにねー。でも、それに勝ったんだし、つまりあたしの方が強いってことだよねっ?」
「自惚れないの。アンタはそういうところが本当に……」
「んー、でも、この辺は大体回ったなぁ。もっと面白いとこないかなっ!?」
「あ、ちょっと、人の話は最後まで聞きなさい!」
「いいじゃんいいじゃん。せっかくこんなところに来てるんだし、楽しまないと!」
「アタシとしては、もっとアンタにはやるべきことをやって欲しいんだけど……」
「でもここ、カッコイイ男の子とかはいないよね」
「アンタの格好良いの基準は、アタシらには絶対通じるとは限らないしね……というか、この世界でそんなの期待しないで。種族が違うんだから」
「でもでも、あたしも彼氏とか欲しいしなー」
「前にクラスの男子がどうこう言ってなかった?」
「あー、あれね。すぐ別れちゃった。結局、どこにも遊びに行かなかったなー。やっぱ合わないよね。同い年の男の子って、子供っぽいからさ」
「アンタがそれを言う?」
「付き合うなら年上がいいなー、カッコイイお兄さん。顔はカッコよくて、背も高くて、ちょっと細くて、あとあと、頭良さそうな」
「アンタにはもったいない男ね。そんなのがそう見つかるとは思えないし、それに、仮に見つかっても人間じゃないわよ」
「んー、でも、探せばいるって! 絶対にねっ!」
「その根拠はいったいどこから……」
「今、すっごくいい“風”が吹いてるからっ! 絶対いいことあるよ!」
「はぁ……あっそ。だったら頑張りなさい」
「うんっ! それじゃあ行くよ、アイナ!」
「はいはい……分かったわよ、カザミ」



 不沈没船ナグルファール。
 浸水し、水没し、もはや浮上もできず、沈没しつつありながらも、決して沈まない奇跡の船。不沈の沈没船。
 なぜこのような現象が起こっているのかは分からない。しかし、科学的要因、物理的要因、海洋学的要因、魔術的要因——様々な要因が複合的かつ複雑に絡み合い、噛み合い、重なり合うことで、この奇跡が起こったとされる。
「おぉ! 海だよ海! すごい青いしきれいだよ!」
「あきらちゃん、あんまり走ると、その……ゆ、ゆれます……」
「海……でも、水着シーンに持っていくには、ちょっときびしい場所……浜辺ならよかったのに……」
「確かに綺麗な海だけど、この船、大丈夫なの……?」
 パタパタと暁が走るに合わせて、揺れが強くなっているように感じる。
 浮沈船とはいえ、この船は航行不可能なほどに水没している。今はただ、波風の気の向くままに流れているにすぎない。
 そこで暴れられたら、決して小さくない恐怖が沸き上がってくる。
「あはは、まあ大丈夫だよ。よほど大きな力を加えない限り、今のバランスは保たれ続けるはずだよ」
「ほ、本当ですか……?」
「うん。それに、それ以前にこれは浮沈の船としてここにあるんだ。そう簡単には沈まないよ。仮に沈むとしても、僕がすぐに送り戻すから、安心していいよ」
 軽く笑うリュンだが、微妙に安心しきれない。彼を信用していないわけではないが、不安なのものは不安なのだ。
「それにしても、ここに本当に人間がいるのかしらね……」
 ぽつりと、沙弓は呟く。
 なぜ今、自分たちはこんなところにいるのか。それは、リュンがいつものように遊戯部の部室に来たところから始まる。
 彼は部室に来るなり、一言、言い放った。

「僕らの世界で、君ら以外の人間が確認されたよ」

 最初、それは烏ヶ森の面々と間違えたのではないかと思ったが、どうやら違うようだ。
 自分たち以外の人間。最初に、ラヴァーと名乗っていた頃の恋と同様に、なんらかの手段を用いて、こちらの世界に来ている人間。
 普通はこの世界の存在すら知らない地球人が、こちらの世界にいることはありえない。しかし現に、そのありえないは起っている。
 問題があるなら、それを確認する必要があった。
 もし恋のように語り手のクリーチャーを連れていれば、自分たちの新たな仲間となるかもしれない。そうでなくても、どこにいるかもわからない語り手の所在が判明するだけでも十分だ。
 とにかく今は、その人間が本当なのか、見極める必要がある。
 そのため、もはや恒例、いつものように恋もやってきて、遊戯部の面々はこうして、不沈没船を探索しているというわけだ。
「人間……いても……不思議じゃない」
「最近はこの船で目撃されてるって話だけど、噂は噂だしね。氷麗さんが手に入れた情報だから、正確性は高いと思うけど」
「こんな海のまっただ中で、噂もなにもないような気もするが……」
「まあともかく、これだけ広い船だし、全員で固まって動くと効率が悪いわ。だから、手分けして探しましょう」
 クリーチャー世界は規模が地球と比べて段違いだ。この船だって、地球に存在する同じ形の、およそ船と呼べるような代物と比べても、何倍も差がある。
 以前の図書館のように、クリーチャーが出て来ないという保証はないため、できるだけ固まっていた方が安全ではある。しかし、今回の目的は、人間だ。
 自分たちの同胞、仲間とも言える存在。そんな者と邂逅できるかもしれないという、千載一遇の好機を逃すわけにはいかない。
 ゆえに、今回は効率重視だ。自分たちの力量も決して低くはない。いざという時にはクリーチャーたちもいる。もはや場慣れもして、野良クリーチャー程度に後れを取ることはないはずだ。
「とりあえず、女の子は二人組になって、男子二人は一人で動きなさい」
「なんか凄い差別的なものを感じるんだけど……まあ、僕は一人でいいけどさ」
「俺も一人か」
「そうよ。カイ、あなたは前回の図書館で、一人で勝手に動いたからね。その罰として、今回はハブられなさい」
「どんな罰だ……それに別に誰かと組みたいわけじゃない。むしろ好都合だ」
「ツンケンしながらぼっち体質なこと言うわね、あなたも。そんなんんだから、友達ができないのよ」
「余計な世話だ、ほっとけ」
 なんにせよ、浬とリュンはそれぞれ単独行動となる。そうなれば、
「それじゃあ、残った私たちで組みましょうか」
 残る女子四人が、それぞれ二人組に分けるわけだが、
「んー、どしよっかなー……」
「あ、あの、あきらちゃ——」
「あきら……一緒に、行こう」
「おぉ!?」
 恋に腕を引かれ、引き摺られるようにして、暁は彼女に連れて行かれた。
 一瞬の出来事だった。瞬く間に、二人の姿は見えなくなる。
「あ……」
「行っちゃったか。相変わらず、あの子は暁のことになると、凄い力を発揮するわね」
 半ば呆れるように言う沙弓。仲が良いのはいい。今まで他者から避けていた恋が、誰かに対して積極的になるというのは、良い変化ではあると思うのだが、それにしても少し暴走しがちに感じる。
 それでもまだ、沙弓は呆れる程度で流していた。
 だが柚は、そんな彼女たちを——彼女を、悲しそうな目で見遣る。
 もうこの場から去ってしまった、“彼女”を。
「……あきらちゃん……」

79話 「青洞門」 ( No.267 )
日時: 2015/10/26 03:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「ご主人様は、誰かと一緒にいるのがお嫌いなのですか?」
「なんだ、藪から棒に」
「いえ……その、ふとそう思ったので……」
 不沈没船内を散策する浬。そしてエリアス。
 しばらくはカードの中で黙っていた彼女だが、しばらくして、周囲に誰もいないことを確認して、おもむろにそう尋ねた。
「ご主人様、いつも一歩引いているというか、あまり迎合する姿勢を見せないので……」
「……まあ、確かに大人数でなにかをするのは、苦手だな。付き合いも悪いと自覚はしている」
 身長のことなどを抜きにしても、クラスでも若干浮いているのだ。普段の部活動でも、和気藹々としている中にはあまり入らない。無粋で野暮な皮肉を言うこともしばしばだ。
 とはいえそれは彼の性格——もしくは気質に由来するものであり、また彼がこれまでの人生で構築したキャラクターだ。それはそう簡単には覆せない。
「それに、あんな女っぽいところにいるのは、居心地が悪い」
「あぁ……ご主人様も、そういうところは普通の男の子なんですね」
「どういう意味だ?」
「え、あ、いえっ。別に、深い意味はないですよ……?」
 露骨に焦った様子を見せるエリアス。いくら浬が歳不相応な面があっても、そんなに捻くれていると思っていたのだろうか。もしそう思われていたのであれば、流石に心外だった。
 浬が一般的な男子中学生の枠から多少ははみ出しているだろうことは、本人も自覚しているところだ。だが、だからといって、奇人変人扱いはされたくない。
 ただ、少し人付き合いが苦手で、無愛想なだけだ。だから人も寄り付かず、そういう扱いを受けるのだろうけれども。
 そう考えると、そんな浬とここまで一緒にいる暁や柚も、案外、一般の括りから外れているのかもしれない。
 そして、ここにいるエリアスも。
「——ご主人様!」
「っ、なんだ? どうした?」
 ふとそんなことを考えていると、突然、エリアスが慌てたように声を張り上げた。
 あまりに突然だったので、声が少し上ずってしまったが、彼女はそんなことなど気にする風もなく、そもそも気にしている場合でもないというように、焦っていた。
 先ほどまでの焦りではない。もっと、危機を察知したかのような、せわしさだ。
「なにか、感じます……クリーチャー……?」
 眉根を寄せて、首を傾げながら進むエリアス。
 なにかを感じる。そして、それはクリーチャーであるかどうか、判断がつかない。
 だが、それでも思い当たる節はあった。
(まさか、リュンの奴が言っていた人間が、本当にいるのか……?)
 彼の言葉を疑っていたわけではないが、本当に出会えるとは思わなかった。それも、こんなにすぐに。
 まだそれが人間だと決まったわけではないが、その可能性の高さを考えると、自然と心臓の鼓動が早くなる。
「気配は……向こう、でしょうか……?」
「こっちか?」
 朽ちかけた階段を下る。その先にあるのは、不沈没船の浸水部。
 足元まで水に浸かる。靴が濡れて若干不快感があるが、そんなことはどうでもよかった。
 そこにある、“なにか”を見てしまった以上は。
「なんだ……あれは?」
 それがなんなのかは、浬には分からなかった。
 それでもあえてその物体を、既存の名称で呼称するのであれば、ロボット、と言うのが正しいのだろう。
 流れるような線を描くフォルム。しかしその表面はメタリックな光沢があり、ボディから伸びる手足のようなコード、アンテナ、アームが、その物体が機械的なものであることを証明している。
「エリアス、あいつは一体……」
「分かりません。私も、あんなものは初めて見ました……クリーチャー、なのでしょうか……?」
 あらゆる知識を有する《賢愚神話》の語り手たる彼女のデータバンクにも存在しないなにか。
 クリーチャーかどうかすらも分からない。
 正体不明の存在だ。
「————」
「おい、こっちを向いたぞ」
「私たちを認識したのでしょうか……あれがどういうものかが分からないので、対処法が分かりません……」
 謎のロボットはこちらを向いたまま——もっともどの面が前なのかすらも分からないので、もしかしたら後ろを向いているのかもしれないが——ジッとして動かない。
 だがやがて、ピピピ、と機械的な電子音を鳴らす。
「————」
「動いたぞ……!」
「こっちに来ます! に、逃げた方がいいのでは……!?」
「そうだな。とりあえず、部長たちと合流を——」
 と、思ったその時だ。

 世界が歪んだ——



「——神話空間?」
 浬はそう呟く。
 目の前には五枚の盾。手元には五枚のカード。真横には自分のデッキ。
 そして、正面には先ほどのロボットが、自分と同様の状態で、スタンバイしていた。
「これは、敵と認識されてしまったのでしょうか……? どうします、ご主人様?」
「どうするもこうするも、こうなってしまった以上、やるしかないだろ。」
 状況はふざけているとしか言えないが、しかしだからといってそう言っているだけでは、思考停止も甚だしい。
 何事も対応しなければならない。己の持ちうる知識と経験をすべて生かして。
 それが賢愚を語る者、その主としての役目でもあるのだから。
 ゆえに浬は、手札を取る。
 デュエルの、始まりだ。



 浬と、正体不明の謎のロボットとのデュエル。
 シールドは、浬が四枚。相手が五枚。
 浬の場には何もなく、相手の場には《一撃奪取 マイパッド》が一体。先ほどまでは《フェイト・カーペンター》がいたが、S・トリガーで踏んだ《スパイラル。ゲート》によって手札に戻されている。
「俺のターン。《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚し、《真理銃 エビデンス》を装備だ!」
 超次元の彼方から真理を追究する銃、《エビデンス》が現れ、《メタルアベンジャー》の手元へと渡る。そして、《エビンデス》カードを引きつつ、浬はさらなる弾を放った。
「呪文《セイレーン・コンチェルト》。マナゾーンの《龍素力学の特異点》を手札に戻し、手札の《スペルサイケデリカ》をマナゾーンへ。そして、G・ゼロで呪文《龍素力学の特異点》を発動。カードを二枚引き、手札を一枚、山札の下へ」
 《メタルアベンジャー》の召喚。そして、《セイレーン・コンチェルト》と《龍素力学の特異点》の詠唱。
 これでこのターン、浬は水のカードを三回使った。
「それにより、《エビデンス》の龍解条件成立!」
 水の力を充填し、《メタルアベンジャー》は《エビデンス》を銃身ごと発射する。
「勝利の方程式、龍の素なる解を求め、王の真理を証明せよ。龍解——」
 放たれた《エビデンス》は、中空でその身を変形させる。計算によって揃えられたパーツから、勝利を導く方程式を組み立てるかの如く、真理を求め、龍の魂が解き放たれた。

「——《龍素王 Q.E.D.》!」

 そして、これにて証明が完了した。
「————」
 だが相手のロボットは、なんの反応も見せない。そもそも表情が窺えるようなものでもないので、反応を求めるだけ無駄というものだろうが。
 しかしそれでも、相手は明確に動きを見せてくる。
 ピコピコと様々な色に発光し、溜めこんだエネルギーを放つかのように、それは動き出した。

「——《海帝 ダイソン》」

79話 「青洞門」 ( No.268 )
日時: 2015/10/31 03:50
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

海帝 ダイソン 水文明 (7)
クリーチャー:アースイーター/侵略者 8000
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを5枚引き、その後、相手のシールドの数と同じ枚数、自分の手札を捨てる。



 大地を喰らい、海洋に侵食させる存在、アースイーター。
 その姿はあまりにも凶悪で、禍々しさに溢れていた。まるで、欲望に憑りつかれたかのような、衝動に駆られた単眼を、ギョロリと開いている。その姿はまるで、あらゆる陸地を喰らい尽くす侵略者のようだった。
 海と一体化した液状の身体に、都市を背負ったかのようなかのクリーチャーは、大渦を発生させる。
 それは凄まじい吸引力で、山札からカードを引き寄せる。
 かと思ったら、今度はその引き寄せたカードを含めた手札から、墓地へと一気にカードが吐き出された。
「なんだ、なにをしている……?」
「カードを五枚ほど引きましたけど、四枚も捨てましたよ?」
 五枚引いて四枚捨てる。それによって得られたものは、実質的に一枚ドローしたのと同じという結果。7コストもかかるクリーチャーのすることとしては、些か地味だ。
 だがこの時、相手にとって重要なのは、最終的に得られたアドバンテージではない。
 この場合、重視すべきは、引いたカードの枚数と、それによって捨てられたクリーチャーの数だ。

「——《百万超邪 クロスファイア》《天災超邪 クロスファイア 2nd》」

「な……っ!」
 それは、正に唐突な出現だった。
 現れたのは二体の《クロスファイア》。今まで水単色のデッキだと思っていたところに、嵐の如く荒々しく、そして急激に出現した火のスピードアタッカー。
 カードを大量に引くことで《クロスファイア 2nd》の、《フェイト・カーペンター》と組み合わせ大量のクリーチャーを墓地に送り込むことで《クロスファイア》の、双方のG・ゼロを一度に満たしてしまった。
 そしてこれで、相手の打点はWブレイカーが二体と、《マイパッド》が一体。浬のシールドは四枚。
 次の瞬間、暴風雨のように二体の《クロスファイア》が通り過ぎた。
 気づけば、四枚あったシールドはすべて割られている。
 最後の一撃、《マイパッド》の攻撃が届き、浬はとどめを刺される——
「くっ……S・トリガー《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7で、お前のクリーチャーをすべてバウンスだ!」
 ——が、《マイパッド》の攻撃が届く寸前、浬は割られたシールドから《スパイラル・ハリケーン》を発動させた。
 水のマナの力を取り込んだ大渦は嵐となり、相手のクリーチャーをすべて飲み込み、手札へと送り返す。
「あ、危なかった、完全に油断していた。まさか、ほぼ水単色で《クロスファイア》を投げて来るとは……いや、《フェイト・カーペンター》の時点で気づくべきか……」
「九死に一生を得られましたね……でも、まだ相手の手札には、《クロスファイア》と《ダイソン》が……」
 なんとか攻撃は凌いだものの、水文明の除去は一時凌ぎのバウンス。相手の手札には《クロスファイア》が残ったままだ。
 墓地には六体のクリーチャーが溜まっているので、《クロスファイア》のG・ゼロ条件は揃っている。さらに《ダイソン》もいるので、それを再び出してカードを引けば、《クロスファイア 2nd》のG・ゼロ条件も達成できる。
 シールドゼロの浬では、その連撃を防ぐこともままならない。ゆえに万事休すだが、しかし。
「まだ、活路は途絶えていない。見せてやる、ここから勝利を手繰り寄せる式をな。《Q.E.D.》の能力で、手札から水のクリーチャー一体目を、コストを支払わずに召喚だ。海里の知識よ、結晶となれ——《龍素記号IQ サイクロペディア》!」
 《Q.E.D.》によって解明された龍素。あらゆる煩雑な過程を省き、一瞬にして凝固した“IQ”の龍素から、《サイクロペディア》が生み出される。
 “IQ”の龍素の持つ意味。それは、さらなる知識を得ること。その意味に従い《サイクロペディア》は力を行使する。
 即ち、浬に新たな知識を授けるのだった。
「……よし。続けて4マナを支払い、《パクリオ》を召喚。お前の手札から、《ダイソン》をシールドへ!」
 《サイクロペディア》から得た知識を、浬はクリーチャーに変換する。
 今度は通常のマナを払い、《パクリオ》を呼び出す。《パクリオ》は相手の知識を隔離し、鍵をかけるサイバーロード。
 相手の手札を覗き見ると、その中から《ダイソン》という知識を選び抜き、盾の中へと閉じ込め、鍵をかける。
「もう一体《パクリオ》を召喚。今度は《クロスファイア 2nd》をシールドへ!」
 続けて二体目の《パクリオ》を呼び出し、今度は《クロスファイア 2nd》を閉鎖する。
 だがこれでは、《クロスファイア》のG・ゼロ条件が満たされたままだ。火のマナがなくても、タダで場に出されてしまう。
 しかし勿論、浬もそのことは分かっている。分かったいるため、次なる手を打つ。
「さらにG・ゼロ! お前の墓地にカードが五枚以上あるため、《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》を召喚!」



龍素記号Xf クローチェ・フオーコ 水文明 (5)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
ブロッカー
G・ゼロ—相手の墓地にカードが5枚以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
このクリーチャーは攻撃することができない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーは自身の墓地のカードをすべて山札に加えてシャッフルする。



「能力で、俺とお前の墓地のカードはすべて、山札に戻る」
 対墓地戦術対策のクリスタル・コマンド・ドラゴン、《クローチェ・フオーコ》。
 かつての世界で戦い抜いた無法者の力を宿した龍素記号“Xf”から生み出された結晶龍。その力は、宿した力に対する反作用を起こし、あらゆる死をなかったことにすること。
 それにより、お互いの墓地は綺麗にリセットされた。これで、《クロスファイア》も出て来れなくなる。
「ターン終了だ」
「——《フェイト・カーペンター》《一撃奪取 マイパッド》《一撃奪取 マイパッド》」
 《ダイソン》と《クロスファイア 2nd》はシールドに埋まり、《クロスファイア》はG・ゼロの条件を達成できないため、小型クリーチャーを並べていく相手ロボット。
 しかしそのようにちまちまクリーチャーを並べていては、もはや浬には追いつけない。

「海里の知識よ、累乗せよ——《甲型龍帝式 キリコ3》!」

 今度は、さらに強大なクリスタルのドラゴンが現れる。
「《Q.E.D.》の能力で、《キリコ3》召喚、《クローチェ・フォーコ》から進化! 手札をすべて山札に戻し、山札から呪文を三発放つ! 来い! 《龍素遊戯》《スパイラル・ゲート》《幾何学艦隊ピタゴラス》!」
 浬の持つありったけの知識を注ぎ込み、《キリコ3》は呪文の砲弾を放つ。
 失った知識を回復させ、そして展開した相手のクリーチャーも一掃する。
 クリーチャーは消し去った。打点は十分。条件は整った。
 あとは、攻めるだけだ。
「《理英雄 デカルトQ》を召喚。そして、《キリコ3》でTブレイク!」
 まずは《キリコ3》が、三枚のシールドを撃ち抜く。
「さらに、《サイクロペディア》でWブレイク! 続けて《Q.E.D.》でもWブレイクだ!」
 その後、二体の結晶龍が続き、残りのシールドをすべて打ち砕いた。
 S・トリガーで《スパイラル・ゲート》を喰らおうと関係ない。魔術を跳ね除ける装甲に包まれた戦士は、呪文による大渦などものともせず、突き進む。
 そして、既に龍と成った銃を手放した拳を握り、振りかざす。

「《メタルアベンジャー》で、ダイレクトアタック!」



 神話空間が閉じる。
 目の前のロボットは、浮遊したまま動く気配がない。フリーズでもしてしまったのだろうか。
「機能停止したか。危なかったな。しかし、なんなんだ、こいつは」
「それは、一度解体するなどして調べてみなければ、なんとも言えませんね……ですが、未知の存在であることは確かです。表面だけでも凄いですよ。こんな合金は、見たことがありません」
 やや興奮気味なエリアス。《賢愚の語り手》としての、道へと知的好奇心だろうか。それとも、元々こういうものが好きなのか。
 兎にも角にもこのロボットはどうにかしなければならない。
 解体するかどうかはさておき、このロボットを調べる必要はあるだろう。どのような存在なのか、誰が造ったのか。如何なる目的で動いているのか。それが、なにかに繋がるはずだ。
 なんにせよ、この巨体は浬たちだけの力ではとても運ぶことはできないので、リュンにでも手伝ってもらう他ない。
「ひとまず部長たちに連絡するか。人間は見つからなかったが、代わりに妙なロボットがーー」
 と、言いかけたところ。
 浬が、ふとそのロボットへ視線を戻したその時。
 「————」
 ピー、ピー、と機械音を鳴らし、今まで微動だにしなかったロボットは、非常に機敏な動きで船内の奥へと行ってしまう。
「な……! おい! 待て!」
 慌てて浬が叫ぶが、待てと言って待ってくれるものでもない。
 瞬く間にロボットの姿は見えなくなってしまった。
「くそっ、なんだったんだ、今のは……?」
「分かりません。ですが、なんだか、とても嫌な予感がします。取り逃がしてはいけなかったような……」
 そんなことは言っても、逃がしてしまったのは覆らない事実だ。あのロボットは既に、姿を消している。
 もはや後の祭り。覆水は盆には返らない。
「ちっ……とりあえず、このことだけでも、部長やリュンに報告するか。それに、もしかしたらあいつらのところに向かったという可能性も——」
 と、その時だ。また音が鳴り響く。
 だが今度は、バタバタという慌ただしい足音。そして何者かの声が、、浬らの耳へと届く。

「——こっちこっち! 絶対こっちだって! なんか変な風が吹いてたもん! あいつが来た時に感じたのと、同じ風だよっ!」
「はいはい、ちょっと待ちなさいってば。そんなに慌てて走ると転ぶわよ。アタシには知ったこっちゃないけど」

「……なんだ——?」


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