二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 100話「侵略」 ( No.309 )
- 日時: 2016/02/06 20:37
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
「なに、これ……?」
スプリング・フォレストに点在する集落の一つ。そこは、主に旧来のビーストフォークが拠点としている。
それなりに大きい集落で、他の種族の集落とも少しずつ吸収合併を繰り返して、自然文明の中では最も大きな集団となっていた。やがてはこの集団が軸となり、自然文明を支えていくだろうと思わせるほどに、大きな組織になりつつあった。
が、しかし。
そこは、今まさに、炎上していた。
比喩ではない。文字通り、燃え上がっているのだ。
めらめらと燃える炎。立ち込める黒煙は空を覆い、希望の光さえも断ち切るかのように、暗く渦巻いている。
そして、そこかしこから耳をつんざくような爆音が響いている。少しずつ遠のいていくが、まるで暴走族の集団が通り過ぎたかのような音で、非常に不快だ。
「……燃えてる」
「ひどいです……森が……」
「これはどういうことかしら。ねぇ、リュン?」
「……僕の嫌な予感が当たったっぽいね」
沙弓に振られて、リュンはぽつりとこぼすように言った。
「この音、間違いないよ。あの時の連中だ」
「あの時の連中?」
「君らを迎えに行く前に見つけた、バイクに乗った集団。エンジン音は随分と遠くなったけど、この音はあの連中だよ。そして目の前の惨劇と併せて考えると」
その集団が、この集落を襲ったと考えられる。
地面を見てみれば、くっきりとタイヤ痕が見て取れた。それだけで、あの集団の仕業であるという証明となる。
「で、でも、なんのために……」
「今のこの世界は不安定であると同時に、困窮している。皆その日を生きるだけで精一杯なんだ。田畑を耕して食いつなぐ者がいる一方で、他者を襲って生きようとする者もいる」
「略奪か。確かに、秩序もなにもない世界なら、あって当然と言えるな」
むしろ、今までそのような者と遭遇しなかったことが不思議なくらいだ。
火はだいぶ弱まり、鎮火しつつある。地面が抉れ、家々が崩れ落ちた集落へと、暁たちは踏み入った。
「……だれもいないです」
「いきなり襲われて、逃げたのかしらね」
誰かがいる気配はない。人影も見当たらない。
皆殺しにされた可能性もあったが、沙弓は口にしなかった。
しばらく歩いても、見えるのは荒らされた家々があるのみ。もう既に、すべてが終わってしまった後のようだった。
これ以上ここにいても、得るものはなにもない。そう判断し、早いが今日はもう引き上げようかと思った、その時だ。
「……なにか、来る……」
「え? 恋?」
「地鳴り……? それに、エンジン音……」
「これは、あの時の連中か……!」
遠くから聞こえてくる、空気と地面の振動。それはだんだんと大きくなっていく。
そして、やがて姿を現した。
土煙を巻き上げ、爆ぜるような轟音を響かせ、一台のバイクがこちらに向かってくる。
撥ねられる、と思わず身を引いたが、結果的にその反射的行動は無意味だった。
バイクは暁たちの前で、ドリフトするように急停車した。同時に砂埃がよりいっそう舞う。
砂埃が晴れる。バイクに跨っていた人物は、フルフェイスのヘルメットを付けたまま、バイクから下りた。
「——この集落の連中は、すべて潰したと思ったんだがな」
赤いヘルメット越しの、くぐもった声が聞こえてくる。
ヘルメット同様、ライダースーツもバイクも赤を基調とした、燃えるようなカラーリングだ。背は高く、細身だが、服の上からでも肉体が引き締まっているのが確認できる。
その人物は、ヘルメットを取ることなく、暁たちを見回して、言った。
「生き残りか? いや、違うな。迷い込んだのか?」
「この集落の惨状は、君がやったの?」
「だったらなんだと言うんだ?」
間髪入れずにリュンが問い返すが、相手は否定しない。それはつまり、そういうことなのだろう。
それはそれとして、納得することにして、リュンはさらに質問を重ねる。
「君は何者? 見たところ、火文明のクリーチャーのようだけど」
「【鳳】」
リュンの問いに対して、相手も間髪入れずに答えた。
しかし、その答えには首を傾げる。
「おおとり……?」
「そして、【鳳】が擁する音速隊を率いる者だ」
「音速隊……?」
「暴走族のヘッドってことかしらね」
この集落の惨状を見る限り、一人ですべてをやったということは考えにくい。ここに到着して時点で、遠くに複数のエンジン音も聞こえていた。となると、複数人でこの集落を襲ったと考えられる。
沙弓のおどけた表現も、あながち間違ってはいなさそうだ。
「その【鳳】っていうのは?」
「なんだ、興味があるのか? 仲間になるってんなら、考えてやらねーでもねーが」
「そんなつもりじゃない。ただ、僕は僕の役目として、この世界の秩序を乱すような連中を放置するわけにはいかないんだ」
「……秩序か。はんっ、クソくらえだな」
急に不機嫌そうな声に変わった。リュンの言葉を受けて、吐き捨てるように言う。
「完璧な秩序なんて存在しねーんだよ。そして、完璧じゃなきゃ統治は成り立たねー。つまり、ハナっから秩序なんてモンは破綻してんだよ」
「…………」
暴論だ。そんなことはない、と、否定しようとしたのかもしれない。
しかし、リュンは言葉を続けなかった。
完璧など存在しない。何事にも、必ずなにかしらの穴がある。そしてそれが、統治などという、時の流れや人々の意志など、様々な要因によって揺れるようなものであるなら、尚更だ。そして、それらすべてを覆い尽くし、完璧なものでなくては、いずれ統治は崩れてしまう。
崩れた統治の末路は、今の世界が物語っている。反論できるはずもなかった。
「【鳳】は、言うなればレジスタンス組織だ。クソみてーな今の世界を“侵略”して塗り潰し、“革命”を起こして創り変える。秩序とか統治とか、そんなキレイごとじゃねー。際限ない欲望と、己を突き動かす衝動がすべてだ。ま、革命は【フィストブロウ】の専売特許だがな」
「……【秘団】とかいう連中よりも、君みたいな連中の方が厄介かもね」
【神劇の秘団】は、根柢の考えではリュンと同じだった。不安定で乱れた今の世界では、新たな秩序が必要であると。ただ、誰が統治するかというだけの差でしかなかった。加えて【秘団】の頭であろうデウス・エクス・マキナは、どこまで本当なのかは定かではないが、最後まで同盟を求めていたほどだ。
しかし、【鳳】は違う。
今の世界どころか、旧来の体制、これから構築すべき秩序、リュンが目指す統治、すべてを否定する。あるがまま、なすがままの世界だ。
ここまで意見が対立してしまえば、辿る道は敵対以外には存在しない。
「十二神話に反発するような連中は昔からいたらしいけど、ここまで過激なのは初めてだ。ますます放っておけないね」
「お前らのことなんてどうでもいいし、どう思われようとも構いやしねぇ。どうでもいい奴らことなんて気にしてるほど、こっちも暇じゃない。今回の音速隊のノルマは達成した。今日はもう引き上げる……つもりだったが」
ギロリと。
ヘルメット越しに、喰らうような鋭い視線が向けられた。
「お前」
「え、私?」
——暁へと。
「なかなかいいツラしてやがる」
「な、なにさ……」
「ひたすらに強さを求めている。まだ芽が生えたみてーなレベルだが、欲望の強さは悪くねねぇ」
バイクのスタンドを立て、暁に近寄る。身長差があるため見下ろすような形となり、全身から放たれる威圧感が凄まじい。
今にも押し潰されてしまいそうなほどの圧迫感があり、暁は見上げた目を逸らせない。
「お前をもらうか」
「え……?」
目を瞬かせる暁。なにを言っているのか、理解できなかった。
「そっちの根暗そうな野郎も悪くはないが、どっちかつーとキキに近いか。性質は真反対そうだがな」
「ちょ、ちょっと……! もらうってなに!?」
やっとまともに言葉が出て来る。なにか不穏なものを感じ、サッと身を退くが、痛いほどに鋭い視線は、ずっとこちらを向いていた。
「【鳳】は、欲しいと思えばなんでも奪う。力ずくで、なにがなんでもな」
「強引ね……」
「その強引さが今の世界で生き抜くためには必要なんだよ。ま、要するにスカウトってわけだが。【フィストブロウ】ほどじゃないにしろ、【鳳】も人材不足気味だ。仲間は多いに越したことはない……もっとも、本当の仲間なんざ、同じ組織内に何人いるやらわかんねーがな」
「……?」
少しだけ、鋭い眼光が消えた。声もどこか憂いを帯びたように、尖りが消える。
ただしそれもほんの少しだけ。すぐさま、元のギラギラとした視線が襲ってきた。
「話が逸れそうだな。とにかく、お前の強さに向かって行く、欲望を宿した目が気に入った。最近、大きな負けでも経験したか?」
「う、うるさいなっ、関係ないじゃん」
「確かにお前の敗北はどうでもいいし関係ない。同時に、お前がいくら抵抗しようが、拒絶しようが、一切合切関係ない」
正に強引で、力ずくなスカウトだった。もはや拉致と言ってもいい。
この暴走族のような集団の頭が、自分のどこに目を付けてスカウトしているのか、正直よく分かっていない。それでも、いつものように直感で理解できる。
これはまずいと。
一歩、こちらに近づいてくる。暁が身を退いた隙間を埋めるように。
しかし、
「かってなことばかりいわないでほしい……」
その間に、小さな少女が割って入った。
「あきらは、わたさない……」
「こ、恋……」
「……あんだよ、てめぇ。てめーなんざ眼中にねーんだよ。外野はすっこんでろ」
「ぽっと出の新キャラこそさっさと退場すべき……もう出番は終わりでいい」
小柄で、華奢で、静かで、大人しい。争いを好むようには見えない恋だが、実際には、かなり気性が激しい。
特に暁が絡むと、なにがなんでも我を通そうとする。こうなると一騎でも手に負えない。
暁を除いて、二人の間で火花が散っているのが見えるかのようだった。
「はんっ、まあいい。ちっとばかし暴れたりなかったところだ。てめーで完全燃焼してやる」
暁に向けていた鋭い視線、切れそうな圧力が、より荒々しく、激しいものへと変化する。
同時に、殺気のようなものが溢れ出て、好戦的な眼光を飛ばしていた。
「てめーみてーな雑魚に時間を食うのもかったるい。手っ取り早く、3ターンで終わらせるぞ」
「……? 3ターンキル……?」
一触即発どころか、既に導火線に火が点いているような空気の中、指を三本立てて言った。
宣言されたのは、3ターンキル。
デュエル・マスターズでの正しいターン数のカウントの仕方は、一方のプレイヤーがターンを終えて1ターン目経過。もう片方のプレイヤーがターンを終えて2ターン目経過、となる。だが、交互にターンを進める形式になっているため、互いのターンが終了して1ターン経過、とカウントする者も少なくない。
今回の場合は、後者のカウント方法でターン数を数えた場合の、3ターンキルだろう。火文明単色のデッキなどで、最高の回りをした場合ならば、普通にあり得ることではあるが、
「それでも3ターンキルなんて、狙って起こせるようなものじゃない。最初の手札五枚とドローで、達成の如何が大きく左右される。対戦前に宣言することじゃないぞ」
「……なにかありそうね」
「大丈夫なのかな、恋……」
恋が乱入してくれたおかげで暁は助かったようなものだが、しかし心配だ。
彼女の実力に関しては、暁が一番よく知っている。そう簡単に恋が負けるはずがない。勝てるはずだと思う。そう思いたいが、しかし相手は、未知の敵だ。
リュンではないが、なにか嫌な予感がする。
「3ターンキル宣言……できるものなら、やってみればいい。私には通じないけど……」
「ほざいてろ。瞬間で終わらせてやる。んでもって」
火のついた導火線は、やがて火薬へと引火して、爆ぜる。
その瞬間が、今だった。
二人ともが神話空間に飲み込まれていく。
そして、レースが始まるようにして、開始された。
「てめーのすべてを奪い尽くして、“侵略”してやるよ——!」
- 100話「侵略」 ( No.310 )
- 日時: 2016/02/07 02:04
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
かくして始まった——否、今から始まる、恋と赤い侵略者のデュエル。
3ターンキルを宣言した相手は、対戦直前に、恋へと言った。
「先攻はくれてやる。いかにもトロそうなてめーへのハンディキャップだ」
「……その舐めプ、あとで後悔させるから……」
デッキがシャッフルされ、右横にセットされる。
山札の上から五枚がシールドとして展開され、さらに五枚が手札になった。
そして、二人の対戦は始まった。
「私のターン……」
先攻ゆえにカードは引かず、恋は手札を眺める。
《マスター・スパーク》《ヘブンズ・ゲート》《龍覇 エバーローズ》《聖龍の翼 コッコルア》《聖歌の聖堂ゾディアック》。
そしてその中から、《マスター・スパーク》を抜き取り、マナゾーンに落とした。
「……マナチャージ、ターン終了……」
先攻1ターン目にできることはないため、恋は手札に残す意義が薄い《マスター・スパーク》をマナに置き、ターンを終了する。
「ドロー——一周目」
恋がターンを終えた直後。
相手が、走り出した。
「《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚!」
1ターン目はなにもアクションを起こせない恋とは対照的に、こちらは1ターン目から仕掛けてくる。
だがその行動を見て、恋は、
「3ターンキルとかいってたから、予想してたけど……ただの赤単速攻……そんなの、私相手じゃつきにぃの下位互換……ただの雑魚……」
「うるせーな、ぺちゃくちゃくっちゃべってねーで、とっととてめーのターンを進めやがれ、ノロマ」
トラッシュトークにしても酷い、罵詈雑言の応酬だが、恋はそんなことなど微塵も気にせず、カードを引く。
「ドロー……マナチャージして、ターン終了……」
このターン引いたのは、《ヘブンズ・ゲート》。手札でダブったため、今は不要と判断し、マナへ。
2ターン目にも出せるカードがなかった恋は、このターンもなにもせずに終える。
「ドロー——二周目」
二度目の風が、吹き抜けた。
「《一撃奪取 トップギア》を召喚! 《ブレイズ・クロー》でシールドをブレイク!」
「……S・トリガー《マスター・スパーク》……一応、相手クリーチャーを全タップ……一枚ドロー」
「はんっ、なにが出たかと思えば、スカか」
早速一枚、恋のシールドが砕かれる。トリガーは出たものの、実質手札を一枚交換したようなものだ。
だが、まだ一枚だ。彼女のシールドはまだ四枚も残っている。それに恋の防御力は、シールドがゼロ枚でも強固なものである。
それは誰もがよく知ること。ただ単調に攻めていくだけでは、恋は倒せない。
それでも、相手は不敵に微笑む。
「私のターン……《聖龍の翼 コッコルア》を召喚」
恋の3ターン目。遂にクリーチャーを召喚することができた。
それもブロッカーだ。これで次のターンの攻撃が通りにくくなった。
(私の手札には《エメラルーダ》もある……次のターンで《コッコルア》のコスト軽減から出せば、シールドが増やせる……赤単速攻みたいな脳筋デッキじゃ、私は倒せない……)
次が相手の宣言した3ターン目。宣言通りなら、次のターンがファイナルターンになるはず。
ブロッカーを考慮しなくても、打点はまったく足りていない。2ターン目に《斬斬人形コダマンマ》から《デュアルショック・ドラゴン》が出てくればまだ分からなかったが、それすらない。この盤面では、3ターン目に恋のシールドを割り切ってとどめを刺すことはできないはずだ。《ラッキー・ダーツ》などを利用したコンボで仕留めるならともかく、相手の場とマナには赤いカードしか見えていない。コンボ性は皆無だ。殴り切って勝つしか道はないだろう。
どう考えても、次の3ターン目では決着はつけられない。
そして、仮に泣きついて対戦が延長されたとしても、恋は負けるつもりはなかった。
スピードに大きな差があるとはいえ、相手のデッキは、防御力に重きを置いている恋のデッキとは相性最悪だ。戦う前から、恋に有利が付いている。
そのため、この調子でいけば、恋が負ける要素はない。はずなのだ。
そして、相手のターン。
「ドロー——三周目」
来たる、宣言された3ターン目。
風がより強く吹き荒れる。
「さぁ、ファイナルラップだ!」
そして、爆走する。
轟音の響かせ、音速を超え、突き進む。
「点火(イグニッション)——!」
カードを引き、マナチャージ、マナをタップ。
赤い風が、カードを操る。
「ハンドルを握れ! クラッチを回せ! エンジンに火を点けろ!」
そのカードは一陣の風を切り裂き、音速を超えた轟速の彼方より、やって来る。
「行け——《轟速 ザ・レッド》、発進!」
轟速 ザ・レッド 火文明 (4)
クリーチャー:ソニック・コマンド/侵略者 4000
スピードアタッカー
轟くような爆音を響かせ、地平線の彼方より、音速ならざる轟速の侵略者がやって来た。
燃える炎のように真っ赤に染まったバイクを乗り回す、欲望と衝動に駆られた侵略者が。
《ザ・レッド》は急ブレーキをかけ、ドリフト気味に停止する。それを見た恋は、冷たく吐き捨てた。
「……なにかと思えば、ただの準バニラのスピードアタッカー……その程度じゃ、打点は足りない……」
「ノロマの癖に焦んなよ、まだ終わりじゃねーからな」
と言うものの、相手にはもうマナがない。
マナがないがゆえに、場のクリーチャーに手をかけた。
その刹那。
「加速(アクセラレーション)——!」
風は、加速する。
「《轟速 ザ・レッド》で攻撃——そして、侵略発動!」
「侵略……?」
恋が小首を傾げる。しかし風は、彼女を待たない。
己のスピードで、爆走を続ける。
危険域に達しても、何者にも囚われず、スピードだけを追い求め、突き抜ける。
「メーターを振り切れ! 限界を超えろ! 赤き領域よ、轟け! そして——侵略せよ!」
《ザ・レッド》は音速を超え、駆け抜ける。
赤い領域を、轟く速さで。
そして——
「突入——」
——侵略が、成し遂げられた。
「——《轟く侵略 レッドゾーン》!」
- 100話「侵略」 ( No.311 )
- 日時: 2016/02/09 07:52
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
轟く侵略 レッドゾーン L 火文明 (6)
進化クリーチャー:ソニック・コマンド/侵略者 12000
進化—自分の火のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—火のコマンド
T・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、一番パワーが大きい相手のクリーチャーをすべて破壊する。
赤き領域を突き抜けた《ザ・レッド》は、その姿を変えていた。
拳、脚関節、足、両肩はホイールによって接合され、駆動力となる。
赤い機体がベースとなり、機械的な体幹を備え、鋭角的な肢体を構築する。
炎を噴き上げ、鳥のシンボルを煌めかせ、音速を超える轟速のスピードで、フィールドを駆け抜ける。
そしてそれは、赤き領域として、轟くようにすべてを侵略する、伝説の侵略者の姿であった。
「《轟速 ザ・レッド》を、《轟く侵略 レッドゾーン》に侵略!」
「攻撃中に、進化……っ!」
感情をあまり顔に出さない恋だが、流石にこれには吃驚の色が見て取れた。
攻撃中でもクリーチャーを呼び出すギミックはあるが、進化クリーチャーが出て来るとなれば、その難易度は大きく上がる。それに、ただのスピードアタッカーだと思っていたクリーチャーが、いきなり大型の進化クリーチャーに化けたのだ。驚かないわけがない。
同時に、戦慄を覚える。
「これが侵略だ。味わう暇もねーくらいに瞬殺してやるから、今すぐ覚悟を決めな。周回遅れは待ってやらねーぞ!」
《ザ・レッド》が変形——否、侵略した《レッドゾーン》は、そのままの——否々、より増したスピードで、恋へと突貫する。
「《レッドゾーン》はTブレイカーだ! てめーのシールドを三枚いただくぜ!」
「まずい……《コッコルア》でブロック……」
「させねーよ! 《レッドゾーン》がバトルゾーンに出た時、相手の最もパワーが高いクリーチャーをすべて破壊する! てめーのクリーチャーは一体! そいつももらうぞ!」
《レッドゾーン》の侵攻を阻もうとする《コッコルア》だが、それは防御にもならない。爆走する《レッドゾーン》に撥ねられ、一瞬にして吹き飛んだ。
ブロッカーは轢き殺され、三枚のシールドも一瞬でまとめて吹き飛ばされる。めちゃくちゃな突破力だった。
いくら恋が防御に秀でているとはいえ、これほどの速度でこれほどの攻撃力を叩き出されては、防ぎきれない。あとはS・トリガーだけが頼りだ。
「……トリガー、ない……」
「おらよ! 《ブレイズ・クロー》で最後のシールドをブレイク!」
《ブレイズ・クロー》の爪が、恋に残された最後の一枚のシールドを切り裂く。
ここでS・トリガーを引かなければ、恋の負けが確定する。
「…………」
「どうした? トリガーで凌げればてめーの勝ちだ。ほら、出せるモンがあるならさっさと出せよ」
「……トリガー……ない……」
「なら終わりだな」
あっけなく終わりを告げる。
最後のシールドも光り輝かない。
宣言通りの、3ターンキルだった。
赤き侵略者の場に残った最後のクリーチャーが、恋にとどめを刺す。
「《トップギア》で、ダイレクトアタック——!」
- 100話「侵略」 ( No.312 )
- 日時: 2016/02/12 14:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
神話空間が閉じる。それはいつもよりもずっと早い。一瞬ですべてが終わったかのような錯覚に陥りそうだった。
そして、閉じた空間から、恋の小さな体が投げ出される。
「う……」
「恋! 大丈夫!?」
「あきら……ごめん……」
倒れた恋を、暁が抱き寄せる。
とんでもない攻撃力、そして速度だった。まさか本当に3ターンで決着がつくとは思わなかった。
それに、なによりも、あの恋がなにもできないままにやられてしまうだなんて、信じられなかった。
その事実に戦慄を覚える暁。そして彼女たちの前に、立ちはだかる影。
「さて、邪魔な奴は潰した。まだ邪魔するなら相手してやってもいいが……どうする?」
恋は睨むように見つめ返す。しかし、圧倒的に負けている恋がいくら強気になったところで、相手は気圧されない。
むしろ、その圧倒的なパワーとスピードに、遊戯部の一同は圧倒されていた。
それを好機とばかりに、追撃をかけるようにさらに荒い言葉が飛ぶ。
「轢き殺されたいなら名乗りをあげろ。名乗りがなければ、無理やりにでもこいつを連れていくだけだが」
有無を言わさぬほどの強烈な殺気が充満する。反抗すれば、文字通り即座に轢き殺されてしまいそうな雰囲気だ。
しかしそれでも、彼女は抵抗した。ゆっくりと口を開き、拒絶する。
「……誰がなにを言っても、私は遊戯部の部員だよ。他のどこにもいかない」
「ほぅ? さっきの“侵略”を見てねーわけじゃねーよなぁ。それでもまだ、抵抗するか」
答えは目で返した。
それを受け、相手は口の端を釣り上げる。
「いいぜ。そこまで抵抗するってんなら、縄で縛って引きずってでも連れて行ってやる」
一歩、近づいた。
そして——
「やめるんだ!」
——張り上げる声が響いた。
声の方を見遣ると、誰かがこちらに駆け寄ってくる。
それを見て、舌打ちを鳴らす音が聞こえた。
「ちっ……メラリヴレイムか」
体の向きを変え、暁たちから、その声の主へと顔を向ける。今までの鋭さや激しさとはまた違った、険しい顔つきだ。
さらに、苛立ったように声を荒げた。
「【フィストブロウ】のリーダーが、こんなとこに何の用だよ」
「音速隊の帰還を確認した。でも、そこに君の姿が見えなかった。君の帰還が遅れるのはいつものことだけど、今回は少し胸騒ぎがしてね。なにかしているのではないかと思って見に来たが、案の定か」
「うるせぇ。てめーには関係ねーよ」
「関係大ありさ。【フィストブロウ】は【鳳】と同盟を結んでいる。君ら【鳳】の問題は、【フィストブロウ】の問題でもある」
そしてなにより、と締めるように言う。
「私の個人的な意思によって、君の行動を見過ごすことはできない。これ以上、無関係な者に危害を加えようものなら、私が相手をしよう」
ぼぅっ、とその手に炎が宿る。
それは小さな灯だが、それでも確かな熱と勢いを持っている。恐らくはただの威嚇だろうが、それを見るなり、相手は露骨に顔をしかめた。
「……けっ。てめーら、命拾いしたな」
そう吐き捨てると、スタスタとバイクに戻っていった。スタンドを蹴り、跨る。イグニッションキーを差し込んで、ハンドルを握った。
そして、もう一度吐き捨てるれる。
「てめーなんざに負けるつもりは毛頭ねーが、“革命”の力を持つ【フィストブロウ】、しかもそのトップのメラリヴレイム相手じゃ分が悪ぃのも確かだ。ここはお前に免じて、素直に引き下がってやる」
そう言い残すと、エンジンの音を轟かせ、瞬く間に去った。
その姿が完全に消えたのは、本当に一瞬だ。一同は軽く呆けている。
そして、残された一人が、頭を下げた。
「……すまない。私の仲間が無礼を働いた」
「あ、あなたは……?」
「私はメラリヴレイム。メラリーと呼んでくれ」
メラリヴレイム——メラリーは、下げた頭を上げると、そう名乗った。
「仲間って、さっきのやつと?」
「あぁ。私は【フィストブロウ】という組織に属していて、【鳳】とは同盟を結んでいる。だから、名目上は、仲間と言える」
名目上は。
それはつまり、実際には仲間とは言えない可能性を孕むということ。
「私は同盟を組んだ者として、【フィストブロウ】のリーダーとして、【鳳】とは良好な関係を結びたいと思っている。しかし、どうも方向性というか、考え方が噛み合わなくてね……同盟を組んだものの、さっきのように衝突ばかりさ」
確かに、先ほどの二人のやり取りは、仲間というには剣呑な雰囲気があった。少なくとも、メラリーの言うような良好な関係には見えない。
「過激なところはあるが、根は悪人ではない。許してくれと言うつもりはないが、禍根を残さないでくれると助かる。恨みは悲しい負の連鎖しか生まないからね。君たちがどのような集団なのかは私には分からないが、【フィストブロウ】の意向としては、この世界に住まうすべてのものとは、できうる限り良好な関係でいたい」
暁たちはこの世界に住んでいるわけではないが、メラリーの思いは多少なりとも伝わってきた。
この世界のすべてのものと良好な関係でいたい。非現実的な理想も甚だしいが、理想を掲げること自体は悪いことではない。それが完全に達成されなくとも、そうあろうとすることが大切なのだ。
「……だってさ。どうするの、暁?」
「いや、そんなこと言われても……私は、なにもされてないし……恋は?」
「……あいつは気に食わないけど……あきらが無事なら、それでいい……」
ぷいっ、と恋はそっぽを向いて答える。これもこれで本心なのだろうが、やはりどこか腑に落ちない様子ではあった。
それでもとりあえずは、今回の件は深く考えないようにする。考えなくてはいけないところは考えなくてはならないのだろうが、生憎、暁は考えるということが苦手だ。綺麗さっぱり忘れて水に流すなんてことはできないが、できるだけ気にしないことにした。
「ありがとう。それでは、私はこれで退散するよ」
用は済んだからね、と言って、メラリヴレイムは踵を返す。
砂煙に紛れ、その姿はすぐに見えなくなった。
——この時が、暁たちが初めて“侵略”の力を目の当たりにし、“革命”の予兆を感じ取った時だった。
そして、今はまだ、知らない。
やがて自分たちもその渦中に放られ、そしてそれらの力が、この世界に解き放たれること——
「——よぅ」
「君か」
コツ、コツ、と床を叩く音が無機質に響く。
メラリーは相手の言葉が投げかけられる前に、自分の言葉をぶつける。
「どうしてあんなことを? 彼女は確かに強さに飢えているようではあったが、君が求めるような性質ではないようにも思えた」
「別に。ただの気まぐれだ。手駒を増やすに越したことはねーしな」
ぶっきらぼうに答える。本心なのか建前なのか、はっきりしない。それくらいにどうでもいいということか。
「んなことよりもよぉ。メラリヴレイム」
「なんだい?」
「ずっと思ってたんだ、てめーのことが気に食わねぇ、ってな」
「また唐突だね」
自分で言っておきながら、しかしそれが唐突なんかではないことを理解する。
【鳳】と【フィストブロウ】。同盟を組んでからまだ日が浅いが、生まれた溝はどんどん深くなっていた。
そのため、【鳳】か【フィストブロウ】か。いつか、どちらかがどちらかに火種を投げつけて来ることは、予感できていた。
「最初こそ、利害の一致から同盟を組んだ。【鳳】も【フィストブロウ】も、成立の経緯は概ね同じ。求めるもの、世界に望むものも、ほぼ変わりはない」
「けれど、私たちと君たちじゃ、手段が違う。生きるために奪い、衝動に突き動かされることで、世界を塗り替えようとする君たちのやり方は、私たちとはそぐわない」
ふぅ、とメラリーは息を吐く。一呼吸おいてから、この際だからすべて言ってしまうよ、と前置きして、口を開いた。
「ずっと思っていた。君たちは過激すぎる。そして、間違っている」
「あん?」
「私は君たちの“侵略”という力に希望を見出していた。今の世界を新たに塗り替えるほどの、強大な力には、可能性が広がっていると思っていた。私が君たちに同盟を持ちかけたのも、そのためだ」
けれど、とメラリーは続ける。
「君たちはその力を、略奪に使う。私はそれが許せない」
「なにを今更。てめーらだって同じことしてんだろうが。奪わなけりゃ生き残れねぇ。今はそういう世界だ」
「だが、君たちの略奪行為は度が過ぎている。あそこまで奪い尽くす必要はどこにもない。それに、こんなことばかりを繰り返しても、それは私たちがされたことと同じじゃないのか?」
「……だからどうした」
声が低くなる。鋭く尖った声が、突き刺すように放たれる。
分かっていた。自分たちに、【鳳】にも【フィストブロウ】にも共通する、“暗部”に触れたことを。
だが、それでもメラリーは続けた。
「私は君たちの力の使い方に失望している。これでは組織を立ち上げた意味がない。私たちと同じ目に遭うようなものは、もういらないんだ。なぜそれが分からない」
「分かんねーのはてめーの脳みそだぜ。てめーらの方針なんざ知ったこっちゃねぇ。奪われたからには奪い返す、それがこの世の理ってやつだろ」
「それは違う。悲しみの連鎖は、負の螺旋は、断ち切らなくてはならない。報復でさえも虚無の所業なんだ。無関係なものへの略奪に、いいことはないよ」
その言葉を聞き、押し黙る。返す言葉がなくなったから黙ったのではない。どこか呆れたように、黙っていた。
呆れたというよりも、諦めた、と言った方が正しいかもしれないが。
「……もう無理だな。水と油っつーか、火と油だ。てめーらといると、油を注がれた気分になる」
「あぁ、残念だけど、そうみたいだ。君のような人には、最初だけでも無理やり納得してもらうしかない」
「最初だけ? ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞ。てめーの言葉なんざ、未来永劫、金輪際、納得できるわきゃねぇ」
侵略の【鳳】と、革命の【フィストブロウ】。
思えば、最初から相容れない存在だったのかもしれない。
できれば、争いたくはなかった。双方が円満に解決できる策を講じたいところだった。
しかし相手は聞く耳を持たない。血の気の多い【鳳】の者たちが、大人しく話を聞いてくれるとも思えない。
それに、侵略者が言葉を、己の意思を伝える手段は、非常に激しく、粗暴で、荒々しいものである。
彼らがなにかを伝える手段。それは、侵略者の名が示す通り——侵略だ。
ダイレクトに欲望をぶつける、これ以上ない意思伝達手段であった。
「今から同盟は破棄だ。てめーをぶっ潰すぜ、メラリヴレイム」
「せっかく結んだ同盟を、こんな形で潰してしまうのは誠に遺憾だ。けれど、私もこれ以上看過できない。君を、君たちを止める」
その時だ。
二人の全身から、殺気が溢れ出す。
いや、それはただの殺気ではない。それすらもエネルギーを持っているかのような、オーラ。
それに包み込まれるようにして顕現する、クリーチャーの姿が、それぞれの背後に立つ。
それは、轟くような駆動音を響かせる機体と、燃えるような長大な剣を携えた龍。
「轢き殺してやるよ。行くぜ、レッドゾーン」
「迎え撃とう。力を貸してくれ、ドギラゴン」
二人は、それぞれ相棒の名を呼ぶ。共に戦う仲間。共に“侵略”し、共に“革命”を起こす同志の名を。
そして、
『——!』
侵略者と革命軍が、衝突する——
- 101話「柚の憂い——部室にて」 ( No.313 )
- 日時: 2016/02/12 23:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
「《ジャックポット・バトライザー》で《プテラトックス》を攻撃! バトルに勝ったから山札を捲って、《バトラッシュ・ナックル》をバトルゾーンに! 火のドラゴンがバトルに勝ったから《バトライオウ》を出して、《バトラッシュ・ナックル》で《ティラノヴェノム》とバトルだよ! でもって、そのバトルは《バトライオウ》が引き受ける!」
「はぅ……で、でも、《プテラトックス》と《ティラノヴェノム》はバトルに負けても、相手クリーチャーをマナに送りますっ! 《ジャックポット》と《バトライオウ》をマナゾーンに!」
「でもこれでゆずのクリーチャーは全部倒したよ。《バクアドルガン》でシールドブレイク! 山札を捲って……《GENJI》を手札に!」
「S・バックです! 《オチャッピィ》をバトルゾーンに!」
夏休みも中盤に差し掛かってきた頃。
毎日のように部室に集まる遊戯部員たちは、リュンが来るまでの暇つぶしとして、雑談したり、デュエマをしたりしていた。
「やってるわねぇ」
「夏休みに部室に来てまでやることがデュエマっていうのもな……他にすることないのかよ」
デュエマ組の暁と柚の対戦を、雑談組の沙弓と浬が気怠そうに観戦している。
「超弱小部だけど部室は貰ってるし、僅かながらも部費はある。遊べるものはいっぱいあるわよ? トランプ、UNO、将棋、チェス、リバーシ、ジェンガ、ダイヤモンドゲームにジグソーパズル、牌とマットがあるから麻雀もできるわね。一応、面子も足りてるし」
「麻雀はもういい……もっとこう、遊戯部としての活動はないのか? 俺、あんたに引き込まれてから、ここでデュエマしかしてないぞ? 去年まではなにやってたんだよ」
「んー、そうねぇ。各人が好き勝手にやってたけど、去年は麻雀好きな三年生がいたから、その辺から面子集めてよく打ってたわね。逆にデュエマはあんまり流行ってなかったわ」
「……なんでこんな部活が成立してるんだ? 誰だよ承認したのは……」
思い溜息を吐く。家から近く、姉貴分気取りの居候も通っているからという考えなしの理由でこの中学に通うことにしたが、実はその選択は失敗だったのではないかと、時たま思う。
中学生になってからの生活と環境の変化が激しすぎて、困惑することばかりだ。浬としてはもっと平穏に過ごしたかったのだが、遊戯部に引き込まれて完全に瓦解している。
もっとも、この異常とも言える環境には、もう慣れてしまった。非常に遺憾であるが。
「《獰猛なる大地》を発動します! わたしのマナゾーンから《ティラノヴェノム》を出して、《ティラノヴェノム》の効果で《サソリス》をバトルゾーンに! 《ジュダイナ》を装備して、《ジュダイナ》の能力でマナゾーンから《ディグルピオン》をバトルゾーンに! マナを増やして、手札からも《ディグルピオン》ですっ!」
「やっば……これでドラゴンが三体……!」
「ターン終了する時に、《ジュダイナ》を《ザウルピオ》に龍解しますっ!」
「うわぁ、まずいまずい。とどめさせないじゃん、これじゃあ……」
慌てふためく暁。こっちの方も、もうすぐ終わりだな、と思いつつ、浬はふと思い出したことを口にする。
「そういえば、もうすぐ烏ヶ森との合同合宿か?」
「そうね。向こうでも色々トラブルがあったみたいだけど、この調子なら、無事開催できそうよ。剣埼さんの頑張りのお陰ね」
「烏ヶ森の部長か。リュン伝手で聞いた話では、あっちの部長も神話継承したんだったか。これで確認できてるだけで、六体だな」
暁のコルル、恋のキュプリス、浬のエリアス、沙弓のドライゼ、そして風水のアイナと一騎のテイン。
十二神話の語り手のうち、半数は神話継承したことになる。
「数は揃ってるけど、どうにも私たちの連携が悪いというか、バラバラになりがちだから、あんまり達成感がないわね。それとも、足りないのは一体感かしら?」
「全員を遊戯部に集めることができるわけでもないし、そこは仕方がないだろう。むしろ、この部だけで語り手が四体もいる方が僥倖だ」
「日向さんは毎回のようにこっちに来るから、実質五人みたいなものだけどね」
もはや執念というか、それに近いものを感じる。彼女の暁に対する思いの強さはそれほどということなのだろうか。
ちらりと、目線を脇に向ける。二人の対戦も、もう大詰めだった。
「《ザウルピオ》でTブレイク! 《サソリス》でダイレクトアタックですっ!」
「うー、《ザウルピオ》にやられたー……!」
悔しそうに呻く暁は、机に突っ伏して項垂れる。
そして、ぽつりと言った。
「……今日はリュン、来ないのかな?」
「あいつが毎日来るわけではないとはいえ、夏休みにわざわざ学校まで来て、なにもせずに帰るっていうのも癪だな」
「なら浬もデュエマしよーよ。私、浬と対戦したことないよ?」
「しない。それにいつもやってることだろ、それは」
「ちぇ、つれないの。まだ浬とは対戦したことないのに」
つまらなさそうに口を尖らせる暁。これもいつもと同じような流れだった。
そこに、ふと柚が思い出したように一石を投じる。
「あ、それなら、あきらちゃん」
「ん? なーに、ゆず?」
「明日、お買いものにいきませんか?」
「ショッピング? ゆずと?」
「はい。ちょっと、買いたいものがあるので」
「いいよー。うわー、久しぶりだなぁ、ゆずと買い物なんて。なに着てこうかな?」
パァッと顔が晴れる暁。先ほどの敗北も、浬に突っ撥ねられた対戦も、もはや微塵も気にしていないかのような明るい笑顔だった。
「いいわねぇ、華があって。うちの弟分はいつでも根暗だから、こういうのを見ると羨ましいわ」
「誰が根暗だ。文句があるなら出てけよ」
わいわいと楽しげにしている後輩たちを眺めて顔を綻ばせる沙弓と、女子特有の空気に嫌気が差してきたらしく、不機嫌そうな浬。
とその時、軽快な音楽が部室に流れた。音の発生源は、暁から。
「ん? 携帯……恋からだ」
制服のポケットから携帯を取り出すと、暁はそれを耳に当てる。
「もしもし? 恋? どしたの急に——え? な、なに? うん、うん……明日? 明日はちょっと……いや、違うって、別にそういうわけじゃないから! 恋のことも好きだよ、うん……でも……」
弱ったように、歯切れ悪く言う暁。ちらりと、目だけで柚を見る。
「わ、わたしは、べつに……ひゅうがさんのほうを、優先させてもいいですよ」
「そう? ごめんね、ゆず」
「いえ……」
暁は申し訳なさそうに通話に戻ると、一言二言返し、通話を切った。
「なんだったんだ?」
「明日、一緒に出かけようって。市内の方でなんかイベントやってるみたい」
「なんか前にもこんなことあったわね。夏休み前だったかしら。日向さんから電話が来て、暁が出て行って、みたいな」
「あー、あの時もゆずとの約束、破っちゃったんだよねぇ……本当、ごめんね、ゆず」
「あ、い、いえ、わたしは、その……だいじょうぶ、ですから」
弱々しく言う柚。しかし、伏せた眼はどことなく物憂げであった。
それを気遣ったのか、浬が話を少しだけ散らす。
「あいつからの連絡は、そんなによく来るのか?」
「けっこー来るよ? 出かける約束とかじゃなくても、電話かかってくることあるし。この前、朝五時に電話がかかってきたた時はおどろいたよ……」
「また凄い時間ね。なんの用だったの?」
「『マジコマ』の録画予約忘れたから、あとで見せてほしいって」
「は? そんなことでか?」
「うん。それだけだった」
「……マイペースな子ね」
やや呆れ気味に、沙弓は言う。
今まで彼女の言動はそれなりに見てきたが、見た目の大人しさに反して、思った以上に我が道を行く性格だ。意外と過激で強引なところがある。
暁も暁でそういったところがあるのだが、しかしいつも彼女には振り回されがちだった。それは今回も同じだ。
「じゃあ、先に帰ります。明日、早いみたいなんで」
「そう。まあリュンも来ないみたいだし、やることもないから、いいわよ」
「やっぱりやることないのかよ」
「んじゃ、お疲れさまでーす」
鞄を持って、暁は一人早くに遊戯部の部室を後にした。
「……あきらちゃん」
去りゆく暁の後姿を、柚は静かに見つめていた。
しばらくの間、部室に静寂が訪れる。暁がいなくなるだけで、日が落ちたように部室の空気からも明るさが失われたようだった。
ややあって、彼女の背に声がかけられる。
「気になる? 暁のこと」
「ふぇ……?」
沙弓だった。彼女は、気遣うような目で柚を見つめ、今度は浬の方に顔だけ向ける。
「カイ、市内のイベントって、たぶんあれよね」
「マジコマがどうこうとか言ってたし、十中八九そうじゃないか? あいつ、案外コアなファンだな」
「それをあなたが言うかしら。まあ、なんでもいいけどね。場所が分かるなら簡単よ」
「あ、あの、ぶちょーさん……なにを……?」
不安と疑念を抱いた顔で、柚は沙弓を見上げる。
再び柚に視線を定めた彼女の顔は、悪戯っぽく笑っていた。
「明日、暁たちの後をこっそりつけてみましょう」
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