二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て16」 ( No.460 )
日時: 2016/09/03 13:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

ガルベリアス・ドラゴン 火文明 (6)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 7000
スピードアタッカー
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手の自然のクリーチャーがあれば、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
相手の水のクリーチャーがあれば、このクリーチャーはブロックされない。
相手の闇のクリーチャーがあれば、このクリーチャーに「スレイヤー」を与える。
相手の光のクリーチャーがあれば、自分のターンの終わりに、このクリーチャーをアンタップする。
※使用禁止カード



 《インフェルノ・サイン》から呼び出されたのは、裏面の赤いドラゴン、《ガルベリアス・ドラゴン》だ。
 使用禁止カードという、殿堂ゼロでも使えない規制を受けている数少ないクリーチャーだが、その理由は当然、裏面にある。裏面が赤い。その理由は、このカードは元々はゲームの付録であり、あくまでおまけとしてデザインされていたからなのだが、、最近ではジョークエキスパンションにて、裏面が普通のものが登場している。そちらは通常通りのレギュレーションでも使用可能だ。
「《ガルベリアス・ドラゴン》がバトルゾーンに出た時、相手の場に自然のクリーチャーがいるっすから、マナを一枚追加っすね」
「というか、カイの場には全部の文明が揃ってるわね」
「《アンドゥ・トロワ》の展開が仇になりましたかー。夢谷君もやりますねー」
 《ガルベリアス・ドラゴン》は、相手の場にいるクリーチャーの文明に応じて、その文明に応じた能力が付与される。
 自然ならマナ加速、水ならアンブロッカブル、闇ならスレイヤー、光ならターン終了時にアンタップ——浬の場には《ジルコン》と《ルキア・レックス》がおり、これだけで水、闇、光、自然とすべての文明が揃っている。
 つまり今の《ガルベリアス・ドラゴン》は、全能力を得て、フルパワーだ。
「まだっすよ! 3マナで《アクア操縦士 ニュートン》を召喚っす! マナ武装3で一枚ドローっすよ」
「こんな滅茶苦茶なマナでも、マナ武装3程度なら使えるんだな……」
「《ガルベリアス・ドラゴン》で攻撃! ブロックされないっすよ!」
 ブロック不能なWブレイクが、浬のシールドを叩き割る。肝心のブロッカーである《ジルコン》自身のせいで、《ガルベリアス》の攻撃が防げない。
「トリガーもないか……」
「ターン終了っす。光のクリーチャーがいるから、《ガルベリアス・ドラゴン》はアンタップするっすよ」
 アンタップし、殴り返しすらさせない《ガルベリアス》。攻防共に隙がない。
「まずいな、このままだと殴り切られる……!」
 浬の場に並んでいるのは小型クリーチャーばかり。数が多くても、相手の巨大な《ガルベリアス・ドラゴン》には太刀打ちできない。
 小さな雑兵は、巨大な一騎当千の兵には為す術がない。このまま、その大きさで叩き潰されるだけだ。
「とりあえず、《アルティメット・フォース》をチャージだ。2マナで《ソーラー・レイ》! 《ニュートン》をタップ! さらに《天真妖精オチャッピィ》を召喚! 墓地の《13》をマナに戻すぞ。そして《ルキア・レックス》で《ニュートン》を攻撃! 《ルキア・レックス》のパワーは、パワーアタッカーで攻撃中は4500だ。どうする?」
「うーん、《アンドゥ・トロワ》もいるっすし、その攻撃はブロックしないっす」
「なら《ニュートン》は破壊だ」
 浬の残りシールドは二枚。ブロックされないクリーチャーが二体もいると、S・トリガーが出ない限りとどめを刺されてしまう。
 《ガルベリアス》はどうにもならないが、せめて《ニュートン》だけでも破壊しておく。
 そして問題は、この後だ。
 残るクリーチャーは殴るべきか、殴らないべきか。
(どうする……互いにハンドはゼロ。《ガルベリアス》を除去できるカードを引くことに賭けて、殴らず安全運転で行くか。それとも、殴り切れる可能性を信じて、ここで全力で殴っておくか……)
 八の場にブロッカーは、《ルナ・ヘドウィック》が一体。こちらの残りアタッカーは、一度殴ったら終了する《ブルース・ガー》、死んでもマナになる《シャーマン・ブロッコリー》、《ヘドウィック》をギリギリ超えるパワーの《アンドゥ・トロワ》。
 戦力的には、非常に心もとなかった。
(なら、殴るべきではないか? 確率的に考えても、ここは殴らない方がいいはずだ。次に《ガルベリアス》を除去できるカードが来ることを願うしかない)
 どの道、次のターンには《ガルベリアス》にシールドをすべて持って行かれるのだ。猶予は残り1ターンのみ。ここで下手に戦力を削ぐよりも、一撃に賭けた方が良いという判断だ。八の手札を増やすのも怖い。
「ターン終了」
 そうして、浬はターンを終える。
「自分のターン! 7マナで《ツインキャノン・ワイバーン》を召喚っす! 《ガルベリアス・ドラゴン》でWブレイクっすよ!」
「一枚目……トリガーはなしか。二枚目……」
 浬はブレイクされた二枚目のシールドを捲る。
「! S・トリガー……」
 かなり追い込まれたこの状況においてS・トリガーは、かなり嬉しい。しかしそのカードを見た瞬間、浬の手が一瞬だけ止まった。
 S・トリガーとてたくさんの種類がある。《フェアリー・ライフ》のようなマナを増やすだけのカード、場に出るだけで他に能力のない準バニラクリーチャーなど、対してアドバンテージにならなかったり、局面を動かさないS・トリガーは多い。
 ならば浬が引いたのはそういったトリガーなのか。答えは、否。
 浬が手を止めたのは、そのカードが使えないからではない。
「……まさか、このカードを使う時が来るとはな」
 そのカードが——強すぎたからだ。

「呪文——《母なる大地》」



母なる大地 R 自然文明 (3)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主のマナゾーンに置いてもよい。そうした場合、そのマナゾーンにあるカードの枚数とコストが同じかそれ以下の、進化クリーチャーではないクリーチャーを1体、そのマナゾーンから選ぶ。そのプレイヤーはそのクリーチャーをバトルゾーンに出す。
※プレミアム殿堂



 最後のトリガーから捲られたのは、プレミアム殿堂呪文、《母なる大地》。
 《母なる》《大地》、二つの名前を冠する呪文の始祖であり、最も早くに殿堂の印を押されたカード。それゆえ、このカードも非常に強力な効果を秘めている。
「ここで母なる大地とは……この対戦、プレミアム殿堂の応酬ね」
「《母なる大地》は強力なカードだけど、効果は主に踏み倒し……踏み倒し先が強力でこそ、真価を発揮する」
 簡単に言えば、《母なる大地》は場のクリーチャーとマナのクリーチャーを入れ替える効果だ。登場時期的に本来なら逆だが、《父なる大地》を味方にも撃てるようになった呪文である。踏み倒しとして見るなら、《母なる星域》の踏み倒し対象が非進化クリーチャーになったようなものだ。
 この呪文がプレミアム殿堂になった由縁は、その軽さ、S・トリガーなどの特典に加えて、用意にマナからクリーチャーを踏み倒せること。マナからの踏み倒しの強さは、《獰猛なる大地》が殿堂入りしていることからも、理解できるはずだ。他にも、S・トリガーと相手対象効果を取り払って進化クリーチャーも出せるようにした《母なる紋章》があるが、こちらもプレミアム殿堂。調整したカードですらこの様なのだ。それだけ、《母なる大地》は元祖の呪文として凶悪だった。
 その凶悪さは、踏み倒すクリーチャーがいてこそなのだが、浬のマナゾーンには、この対戦を決するほどの大型クリーチャーが眠っていた。
 それを今、引きずり出す。
「墓地利用封じと、マナ回収できたら儲けもの、くらいにしか考えてなかったんだが、この選択は正解だったようだ。《ブルース・ガー》をマナに置き、マナゾーンから《偽りの名 13》をバトルゾーンに!」



偽りの名(コードネーム) 13(サーティーン) R 自然文明 (10)
クリーチャー:アンノウン 24000
ワールド・ブレイカー



 《ブルース・ガー》と引き換えにマナから引きずり出されたのは、アンノウン。
 アンノウンは巨大であることが特徴の一つだが、その中でも《13》は、一際巨大だ。というより、それ以外の特徴がない。
 ただただデカい。コストも、パワーも、ブレイク数も、なにもかもがビッグサイズ。その巨大さのみが取り柄のクリーチャーである。
 デュエル・マスターズでは通常、パワーよりも能力の優秀さが求められる。いくら巨大でも、普通に出すのは燃費が悪い。ただの脳筋と言われても反論はできない。
 しかしそれもケースバイケースで、一枚一枚のカードパワーが高くないこの対戦なら、これほどの巨大なクリーチャーは脅威となり得る。
 浬の数という答えに対して八が出した答えを、今度は浬が返した結果だ。
「むぅ……でも、まだやれるっす! 《ツインキャノン》でとどめっすよ!」
「《ジルコン》でブロックだ!」
 ダイレクトアタックを《ジルコン》で防ぐ。これで水のクリーチャーが消えたので、《ガルベリアス》もアンブロッカブルではなくなったが、浬のブロッカーもいなくなった。
 しかし、ブロッカーはもう関係ない。《13》さえいれば、あとは力ずくでねじ伏せるだけだ。
「《13》は強いっすけど、でも、こっちには《ルナ・ヘドウィック》がいるっす。ブロックすれば、ワールド・ブレイカーも怖くないっすよ!」
「そうか。だがブロッカーは、タップすれば怖くないな。3マナで《エレメンタル・トラップ》、《ヘドウィック》をタップだ」
 水では珍しいタップ呪文。光のそれと比べるとコストパフォーマンスはすこぶる悪いが、ブロッカー一体を寝かせるためなら、多少の燃費の悪さは関係ない。
 《ヘドウィック》はタップされた。これで《13》が通る道は開けた。
「う、まずいっす……!」
「念のためだ。ついでにこっちも唱えておくか。5マナで《シヴィル・バインド》! 文明を一つ指定して、その文明の呪文を、相手は次の自分のターンの終わりまで唱えられない」



シヴィル・バインド R 光文明 (5)
呪文
S・トリガー
文明を1つ選ぶ。相手は、自分自身の次のターンの終わりまで、その文明の呪文を唱えることができない。



「指定する文明は……スパーク呪文が怖いところだから、光にしておくか」
 《13》の一撃さえ決まれば、あとは一体でもクリーチャーが残っていればいい。浬のクリーチャーは多数生き残っているので、恐れるべきトリガーは、複数のクリーチャーを無力化するトリガー。その多くは《スパーク》と名のつく、全クリーチャーをタップさせる呪文だ。
 一枚は浬が既に捲っているが、《スーパー・スパーク》や《バリアント・スパーク》がないとも限らない。それらを警戒して、光の呪文を封じ込める。
「さぁ、決めるぞ! 《13》でシールドをワールド・ブレイク!」
「っ……!」
 《13》が持つ唯一の能力、ワールド・ブレイカー。
 たった一撃で、すべてのシールドが吹き飛ぶ、最上級のブレイカーだ。
「S・トリガー《ワンショット・フレーム》っす! アンタップされているパワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊っすよ!」
「っ、いきなりか……!」
 一枚目のシールドから、早速S・トリガーが飛び出す。火の呪文、《ワンショット・フレーム》。全体火力を放つ呪文で、浬の小型クリーチャーがほとんど一掃されてしまった。
 残ったのは、ギリギリ素のパワーが3000を超えていた、《アンドク・トロワ》のみ。
「二枚目はなし……三枚目……S・トリガーX! 《インフェルノ・シザース》をジェネレート! そして《ガルベリアス・ドラゴン》にクロスっす!」
「そんなものは関係ない! 残りのシールドをブレイクだ!」
「四枚目……《預言者リク》! シールドを追加するっすよ!」
「それも関係ないな、すべて吹き飛ばす!」
 ワールド・ブレイクはすべてのシールドをブレイクする。ブレイク途中のトリガーでシールドが増えようと、問答無用だ。止まることはない。
 次のシールドも打ち砕かれる。
「五枚目もトリガーっすよ。《ポジトロン・サイン》——」
「《シヴィル・バインド》の効果で、光の呪文は唱えさせない」
「そ、そうだったっす。じゃあ、これが最後っすね……」
 トリガー呪文を山札から唱える《ポジトロン・サイン》。しかし、その可能性すらも封殺し、浬は最後のシールドをブレイクする。
「……S・トリガー」
「! 最後もか、運がいいな。なにが来る……?」
 六枚中五枚がS・トリガー。防御にならないカードや、運任せなカードもあったが、プレミアム殿堂カードを引き当てた浬以上に運がいいことは確かだ。
 恐らく、この最後のトリガーが、この勝負を決定つけるだろう。
 その、トリガーとは、

「……《希望の守り手ペッパー》っす」

 最後のトリガーは、S・トリガーしか能力を持たない、《希望の守り手ペッパー》。
 アタッカーがすべて除去されることもなく、ブロッカーも立っていない。あとはシノビがなければ、終わりだ。
 浬は残ったクリーチャーに手をかけ、横に倒す。

「《暗黒皇女アンドゥ・トロワ》で、ダイレクトアタック——!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て17」 ( No.461 )
日時: 2016/09/04 00:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 対戦が終わり、巨大なワンデッキは片付けられる。
「くぅー、負けたっす! 流石、浬さんさんっすね!」
 敗北したものの、八はにこやかだ。モノポリーの順位としても下位なので、ここでの敗北は痛いはずなのだが、笑っている。
 対照的に、勝利した浬はぐったりしていた。
「……疲れた」
「あらカイ、情けないわね。たった一回の対戦でお疲れ? まだまだ先は長いわよ?」
「マイナーカードが多すぎんだよ、このゲーム……見覚えのないカードや、効果を把握していないカードが出るたびに、テキスト確認して、そこから推察される展開と相手の手札、数ターン先の盤面影響にフィニッシュまでの道程を考慮すると、普段使わない脳に加えて普段使う脳も普段の何倍も——」
「あー、はいはい。わかったわ。あ、次は柚ちゃんね。よろしくー」
「は、はひ」
「聞けよ」
 浬のことは無視して、沙弓は柚に手番を促す。
 そして柚がルーレットを回して、マスを進むと
「あ……対戦マスです。前方の一番近い人、ですね……」
「柚の前で一番近いのって」
「僕ですねー」
 空護だった。
「珍しい対戦カードね。レギュレーションはなにかしら? 早く引いて」
「せ、急かさないでくださいよぅ……えっと、レギュレーションは……『ハイランダー限定構築戦』です……」
「あぁ、面白くないやつね……」
「あんたの面白いの基準はなんなんだ?」
 さっきまで生き生きとしていたのが、一転して項垂れる沙弓。テンションのアップダウンがウザいほど激しい。
 沙弓は面白くないと言うが、このレギュレーションは、浬らにも理解でき、ありがたいレギュレーションだと言える。暁、柚、八は疑問符を浮かべているが。
「ハイランダーって、なんですか?」
「最初の方に一回やっただろ……もう忘れたのか」
「仕方ないから、もう一度説明するわ。ハイランダーっていうのは、すべてのカードを一積みにするってことよ。同じ名前のカードは一枚しかデッキに入れられない。それ以外は普通のレギュレーションやルールを順守するわ」
 デッキに同じ名前のカードは一枚しか入れられない。すべてのカードが殿堂入りしたようなものだ。ただし、プレミアム殿堂カードは使用不可能。
 ゲーム進行に関するルールには干渉しない。あくまで、構築段階での規制をかけるレギュレーションだ。
「うーん、これは少し困ったものですねー……」
 そのレギュレーションを見て、唸る空護。
 空護のデッキは、浬が組んだ青緑バニラビート。《アクア・ティーチャー》と《駱駝の御輿》によるバニラサポートを受けて殴るデッキの基本形なのだが、このレギュレーションは好ましくない。
 ビートダウンに限った話ではないが、序盤の動きを安定させるために、《フェアリー・ライフ》など一番最初に使う予定のカード——いわゆる初動と呼ばれるカードは、最初の五枚の手札にあってほしいため、最大数の四枚フルで積むのが鉄則だ。それがデッキにおける核、キーカードであれば尚更である。
 バニラビートの核は、バニラを出すたびにドローする《アクア・ティーチャー》と、バニラの召喚コストを下げる《駱駝の御輿》。これらのカードが場に出なければ、その強みを十分に生かすことができない。しかしデッキにそれらのカードが一枚しか入らないとなると、初期手札で引ける可能性は著しく落ちる。サーチカードである程度は補強できるかもしれないが、ワンテンポ遅れるし、そもそもそんな都合よくサーチカードが今の資産にあるわけでもない。
(確か霞さんのデッキは、僕の組んだナイトコンでしたねー。四積みが多いですけど、ハイランダーならコントロールの方が比較的有利ですし、キーカードに頼った僕がかなり不利ですかねー)
 空護は柚のデッキ内容を把握していることがアドバンテージと言えるが、レギュレーションの関係で確実に内容は弄られる。使われるカードの種類がある程度絞れるくらいだ。それほど大きなアドバンテージでもない。
「……焔君、大丈夫? 考え込んでるけど」
「ゆず……がんばれ……」
「えぇ、まあ。できるだけやりますよー」
「はひ……わたしも、がんばります……」
 他の人がルーレットを回している間に、デッキを素早く組み替える二人。短時間でデッキを組むという技能も、このモノポリーでは重要だ。
「あ、僕の番ですかー。えーっと、数字は2……ショップマスですね、ちょうどいい。500万デュ円ほど使って、カード資産を整えますか」
 空護の番が回ってくる。空護は一旦デッキを組む手を止めてルーレットを回し、ショップマスでカードを購入。サッと購入したカードを眺める。
(うーん……やっぱりレギュレーションそのものがアレなんで、どうしようもなさそうですけど……一応、別パターンを作っておきましょうかねー)
 特別おかしなレギュレーションというわけでもないが、構築の段階から既にかなり悩まされる。
「それじゃあ、二人とも対戦開始ね。頑張って」
「なんかやる気ないな、部長。もっとしゃっきりしろよ……」
「レギュがつまらないのがいけないのよ」
 順番が一巡して、対戦の時が来た。
 柚と空護の『ハイランダー限定構築戦』、開始だ。

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て18」 ( No.462 )
日時: 2016/09/04 01:28
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 柚と空護による、『ハイランダー限定構築戦』。すべてのカードが一積みのこの対戦を制するのはどちらか。
「それじゃあ、始めますか——」
「あ、対戦する前に、ちょっといいですか……?」
「? なんですかー?」
「超次元ゾーンを、先に確認したくて……」
「あぁ、そういうことですか。僕はありませんよー」
 というより、今まで何戦も見て来たが、サイキックやドラグハートを使っている人はほとんどいなかった。唯一、恋の寄せ集めデッキの中にたまたま入っていたドラグハートを、浬が使えたくらいだ。ここまで超次元にカードが見えないとなると、そもそも入手可能なカードに超次元が絡むカードが存在しないと思っていたが、
「わ、わたしのは、これです」



超次元ゾーン(柚)
《熱血剣 グリージー・ホーン》
《ギル・ポリマのペンチ》
《マシュマロ人形ザビ・ポリマ》



 柚の超次元ゾーンが開示される。枚数も少ないし、とりたてて目立つカードはないが、超次元ゾーンにカードがあるというだけで、驚きだった。
「超次元ゾーン、あるんですねー……了解ですー」
 サイキック・クリーチャーと、それに対応する超次元呪文やクリーチャー。ドラグハートと、それに対応するドラグナー。超次元ゾーンに置かれるカードはすべて、メインデッキにそれを呼び出す対応カードがないといけないため、両方揃えなくては意味がない。カード資産が限られているうえに、入手するカードは膨大な種類のカードの中からランダムというこのゲームだ。その点でも、超次元ゾーンは使いにくくなっている。
 ゆえに、柚は超次元ゾーンに干渉できるだけで、他の人よりも優位に立っていると言える。
(まあ、無理に入れていたとしたら、ただ使いにくいだけですけどー……それに、ブラフって可能性もありますしねー)
 超次元ゾーンを用いないデッキなどでは、超次元ゾーンに違うデッキタイプのカードを入れ、相手に自分のデッキタイプを悟らせないテクニックは確かに存在する。このブラフは、カードの寄せ集めになりやすいこのゲームにおいてはそれなりに機能するだろうが、果たして柚の超次元はブラフなのかどうか。
(仮にブラフでなかったとしても、警戒するほどじゃないですけどー……いや、そうでもないですかね? 《グリージー・ホーン》は龍解されたら面倒ですし、サイキックも、ただの準バニラとはいえ覚醒リンクのパーツが揃ってる。覚醒リンクされると、僕のデッキじゃ対処手段が限られますし、それなりに警戒する必要はありそうですねー)
 相手の超次元ゾーンのカードは、単純なスペックでしかないが、そもそもサイキックやドラグハートは普通のカードと比べて、カードパワーが高い。単純な力の勝負になれば、空護には勝ち目がない。そうならないよう、常に慎重に立ち回り、考える必要が出て来た。
「それじゃあ、はじめます。わたしのターンからですね。《鎧亜戦隊ディス・キューピット》をマナにおいて、終了です」
「なら僕は……《調和と繁栄の罠》をチャージ。終了です」
「わたしのターン。《デュアル・ザンジバル》をマナに置いて、2マナで《ゴースト・タッチ》ですっ! 手札を一枚墓地へ!」
「おっと……」
「さらにG・ゼロです、《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》を召喚しますっ! ターン終了です」
 2ターン目のハンデスから、G・ゼロでブロッカーを展開する柚。早くもビートダウンを止める構えだ。
「さて僕のターン……いいカードを引けました。《蒼狼アクア・ブレイド》をチャージ。2マナで呪文《バニラ・ゾーン》ですよー」



バニラ・ゾーン 水/自然文明 (2)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
自分の山札の上から2枚を表向きにする。その中から、能力が書かれていないカードをすべてマナゾーンに置き、その後、残りを墓地に置く。



 《メンデルスゾーン》のバニラ版とも言える呪文、《バニラ・ゾーン》。本来なら《駱駝の御輿》でコスト軽減ができ、過剰にマナブーストする必要のないバニラビートだが、この対戦はハイランダー構築。《駱駝の御輿》の代わりとしては心もとないが、まだ採用できる範囲だろう。
 空護が捲った二枚は、《3月》と《フェアリー・ライフ》。
「《3月》をマナゾーンへ、《フェアリー・ライフ》は墓地ですねー」
「そんなカレンダー入れてるのかお前……」
「色合わせですよー、色合わせ。一応バニラですしねー」
 このモノポリーの順番決めにも使われた、2016カレンダーの種族を持つクリーチャー、《3月》。テキストにはフレーバーテキストの代わりにカレンダーとなっている、ジョーク的な意味が強い変わったクリーチャーだ。
 テキストがカレンダーでも、能力なしのクリーチャーとして扱われるため、一応、空護のデッキには合う。
「わたしのターン。《レジェンダリー・ヴァンガード》をマナにおいて……《エナジー・ライト》を唱えます。二枚引いて、ターン終了です」
 ハンデス、ブロッカー、に続き、今度は減った手札をしっかり補充する。コントロールデッキのお手本のような流れだ。
「霞さん、コントロールデッキをちゃんと扱えてるね」
「空城さんよりは上手いわね」
「……いつものあきらなら、《ヴァンガード》残して、殴ること考えてたと思う……」
「そ、そんなことは……ないとも言えないけどさ」
 普段の柚は自然単色のデッキを使用しているため、あまりコントロールデッキのイメージがなかったが、いざその手のデッキを握ると、しっかりと扱えていた。
「柚ちゃんは臆病だからね。臆病な方がコントロールには向いてるのよ」
「ぶちょーさんっ、それはどういう意味ですかっ?」
「褒めてるのよ」
「そ、そうですか……?」
 訝しげな視線を向けるも、今が対戦中ということもあり、柚は引き下がった。
「……まあ、臆病すぎると、足元をすくわれるんだけどね。柚ちゃんは、どう転ぶかしら……」
 そんな彼女を見つつ、沙弓は目を細める。
「そろそろ、攻めないとですねー。僕のターン、《スカイソード》をチャージ。3マナで《白銀の牙》を召喚、ターン終了ですー」
 遂に空護の場にバニラが並んだ。《アクア・ティーチャー》も《駱駝の御輿》もいないので、過剰な展開もなく、単純に出して殴るだけになるのだろうが、空護がなにも考えていないとも思えない。
 恐らく、なにかを隠している。
「それなら……《シルバー卿》をマナにおきます。4マナで呪文《魔弾バレット・バイス》ですっ! わたしの場にはナイトの《ブラッディ・シャドウ》がいるので、手札を二枚、捨ててくださいっ!」
「ん? ハンデスですかー? わかりましたー……では、これを捨てましょうか」



アクア提督 ザ・ミスター UC 水文明 (5)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃 5000
相手の呪文の効果または相手のクリーチャーの能力によって、このクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりに自分のバトルゾーンに置いてもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中から、カードに能力が書かれていないクリーチャーをすべて自分の手札に加え、残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。



 空護の手から零れ落ちる二枚のカード。一枚は墓地へと落ちたが、もう一枚はバトルゾーンに落ちた。
「《ザ・ミスター》の能力発動! こいつは相手の呪文やクリーチャーの能力で手札から捨てられる時、代わりにバトルゾーンに出るマッドネス能力を持つクリーチャー! なので、そのままバトルゾーンに出ますよー!」
「あぅ……」
「もう一つ、《ザ・ミスター》の能力! 《ザ・ミスター》がバトルゾーンに出た時、山札の上から三枚を公開して、その中のバニラをすべて手札に加えますよー」
 空護は山札の上から三枚を捲る。捲られたのは《4月》《アクア船長 イソロック》《未来設計図》。
「《未来設計図》だけ山札の下に戻して、残りは手札へ」
「はうぅ、手札破壊のつもりが、クリーチャーがふえちゃいました……ターン終了です……」
 マッドネスによって場数が増え、手札も補充されてしまった。柚にとっては、少し苦しい展開だろう。
「僕のターン。《スーパー・スパーク》をチャージ。《4月》を召喚し、《白銀の牙》でシールドを攻撃ですー」
「え、えっと……《ブラッディ・シャドウ》でブロックですっ。こっちはパワー4500なのでバトルに勝ちますが、能力でバトルに勝っても破壊されちゃいます……」
「なら、《ザ・ミスター》で追撃ですよー、シールドをブレイク!」
 《ザ・ミスター》が柚の一枚目のシールドを割る。柚の場にクリーチャーはおらず、空護の場にはアタッカーが二体。一転して、今度は空護が流れを引き寄せた。
「うぅ……《ドラム・トレボール》をマナに置いて、《蒼狼スペルギア・ファントム》を召喚します……ターン終了です」
「《スペルギア・ファントム》? 珍しいカードですねー」
 確か、攻撃時に山札を捲り、呪文化クロスギアを参照してバウンスを行うクリーチャーだったはず。
 なかなか見ないクリーチャーに警戒を向けながらも、空護は引いたカードに注視する。
「おっと、悪くないカードですねー。1マナで《番長大号令》を唱えますよー。山札を五枚見ますねー」
 引いたのは《番長大号令》。たった1コストでハンターを呼べる呪文だ。
 空護のデッキにハンターは少ないが、《アクア・ティーチャー》や《駱駝の御輿》を持ってこれる可能性があるカードとして、投入している。一積みなのでなかなか当たらないが、はずれたらはずれたで、トップに引きあがるものとして考えればよかった。1コストしかかからないので、失敗してもあまり損失もない。
「……残念、はずれです。3マナで《イソロック》を召喚して、《ザ・ミスター》でシールドをブレイク」
 などと考えていると、本当にはずれてしまった。しかし攻め手は緩めない。次のアタッカーを並べ、《ザ・ミスター》でさらにシールドを割るが、
「あ、S・トリガー! 《スパイラル・ゲート》ですっ! 《4月》を手札に戻しますっ!」
「ふむ、ならターン終了ですー」
 トリガーで《4月》をバウンスされ、追撃を防がれてしまった。
 しかしここまでは悪くない流れだ。柚のシールドは残り三枚。徐々に押している。
 このまま押し切れれば良いが、柚とて黙って殴られてばかりではない。
 そろそろ、反撃が来るはずだ。

「……わたしのターン」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て19」 ( No.463 )
日時: 2016/09/04 06:07
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「うーん……《マクシミリアン公》をマナにおきます。3マナで《氷牙フランツⅠ世》を召喚です。《フランツ》でコストを下げて、3マナで《知識と衰弱のアシスト》を唱えます」
 少し考えてから、柚は《フランツ》を出し、呪文を唱える。
 呪文がメインとなるナイトコントロールにおいて、呪文のコストを下げる《フランツ》は厄介だ。なんとか対処したいが、そもそもこのデッキに除去カードはほとんどない。殴り返すしかないが、そもそも《フランツ》が殴ってくるとは到底思えなかった。
 それに厄介なのは《フランツ》だけではなく、《フランツ》でコストの下がる呪文の方もだ。
「《知識と衰弱のアシスト》の効果で、《ザ・ミスター》のパワーを2000下げますね。それから一枚ドロー」
 《ザ・ミスター》のパワーのパワーを下げつつ、キャントリップで手札を取り戻す。《アシスト》と名のつく多色呪文は、決して強力な効果はないが、堅実で扱いやすい。地味ながらも、着実に小さなアドバンテージを取っていく。
「続けて《スペルギア・ファントム》で《ザ・ミスター》を攻撃します。そのとき、《スペルギア・ファントム》の能力発動ですっ」



蒼狼スペルギア・ファントム VR 水文明 (5)
クリーチャー:ポセイディア・ドラゴン/ナイト/サムライ 5000
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から3枚を表向きにする。その中に呪文があれば、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んで持ち主の手札に戻し、その後、表向きにした呪文のうち1枚を自分の手札に加えてもよい。表向きにした3枚の中にクロスギアがあれば、カードを1枚相手のマナゾーンから選んで持ち主の手札に戻し、その後、表向きにしたクロスギアのうち1枚を自分の手札に加えてもよい。その後、残りのカードを好きな順序で山札の一番上に置く。



 《スペルギア・ファントム》は攻撃時、山札を三枚捲って、その中にあるカードを参照する。
 クリーチャーには反応しないが、呪文であればクリーチャーを、クロスギアであればマナを、それぞれバウンスできる。同時にそれらのカードも手札に加えられる、ナイトとサムライ、両方の性質を兼ね備えたクリーチャーだ。
 柚のデッキはナイトコントロール。呪文が多いデッキなので、呪文を手札に加えつつ、クリーチャーを除去していくのが目的だろう。バニラばかりの空護のデッキでは、バウンスは普通のデッキよりも単純にテンポを奪われる。能力の使い回しなんてできるはずもない。能力がないのだから。
 そして、柚が捲った三枚は、《魔弾オープン・ブレイン》《暗黒鎧 ディオスター》《至宝 オール・イエス》。
「! 《オール・イエス》、クロスギア……!」
「やりました! 呪文があるので、《イソロック》を手札に戻して、《オープン・ブレイン》を手札に。クロスギアがあるので、マナの《調和と繁栄の罠》を手札にもどして、《オール・イエス》を手札に加えますっ!」
 一度に二枚のカードを手にしつつ、空護の《イソロック》を除去。さらにランデスまで仕掛けてきた。
 呪文は捲れるだろうと思っていたが、まさかクロスギア、それもサムライのカードがあるとは思ってもみなかった。
「では、《スペルギア・ファントム》と《ザ・ミスター》でバトルですっ! こちらのパワーは5000ですよっ」
「《ザ・ミスター》も5000ですけど、《知識と衰弱のアシスト》でパワーを下げられて3000……負けですねー」
「ターン終了ですっ」
 S・トリガー、アタックトリガーに、殴り返し。前の自分のターンには三体いた空護のクリーチャーも、次の自分のターンには全滅していた。地味にランデスも痛い。
 しかし、
「こちらのドローも悪くはないようで。《調和と繁栄の罠》をチャージ。1マナで《アクア・ティーチャー》を召喚!」
「やっと出たか、バニラビートのメインエンジン」
「1ターン待てば《番長大号令》で手に入れられたけどね」
「それは言わないお約束ですよー」
 なにはともあれ、エンジンの片方だけでも場に出れば、空護も立て直しができる。
 ここから、途切れぬバニラを連打して、数で圧倒するしかない。
「残った3マナで《イソロック》を召喚! 《アクア・ティーチャー》の能力でドロー! ターン終了です」
「えぇっと……《エリザベス》をマナにおいて、2マナで《オール・イエス》をジェネレート。4マナで《龍覇 ドクロスカル》を召喚して、《熱血剣 グリージー・ホーン》を装備しますっ」
「む……ドラグハートですかー」
 とりあえず、ドラグハートはブラフではないようだ。しかも、きっちりファンキー・“ナイト”メアの《ドクロスカル》。ナイトという種族は崩していない。
 文明が合わないので、パンプアップは受けられないが、少々厄介だ。
「ちょっと面倒くさそうなことになってきましたねー。とりあえず僕のターン。ここは、《マスター・スパーク》をマナに置いて、《4月》を召喚。《アクア・ティーチャー》の能力でドローして、終わりですね。ターン終了ですー」
「《フランツ》でコストを下げて、4マナで《魔弾オープン・ブレイン》です! 二枚引いてから、ナイト・マジックでさらに二枚引きますね。それから3マナで、《超次元の手ホワイト・ブラックホール》を唱えます」
「超次元呪文……そっちもあるんですねー」
 ドラグハートに続きサイキック。柚は連続で超次元ゾーンに干渉してくる。
 どれほどのドラグナー、超次元呪文が入っているかは分からないが、この分だと覚醒リンクも狙っていそうだ。
「まず、《ホワイト・ブラックホール》の効果で、わたしのシールドを一枚見ますね……これは墓地において、山札の一番上をシールドへ。それから、《ギル・ポリマのペンチ》をバトルゾーンに出します」


ギル・ポリマのペンチ UC 火文明 (3)
サイキック・クリーチャー:ゼノパーツ/エイリアン 3000



 出て来たのは、火のサイキック・クリーチャー。
 サイキックの中でも逆に珍しい、バニラのサイキック・クリーチャーだ。なにも能力がないので、一応バニラサポートも受けられる。柚のデッキでは関係ないだろうが。
「《アクア・ティーチャー》の能力は相手のバニラにも反応するけど、召喚じゃないと反応しないから、カードは引けないわね」
「あれ? そうなの?」
「一応、そういうことになっているな。まあ、使う機会なんてなかなかないだろうが」
 つまり単純に場数が増えただけ。特に脅威でもないクリーチャーだ。警戒するとしたら、覚醒リンクくらいだが。
(でもこれ、サイキック・セルも5コスト超次元呪文でまとめて出せるんですよねー)
 それをわざわざ4コストの超次元呪文で出したということは、手札に5コストの超次元呪文がないというより、4コストの超次元呪文しかないのだと思われる。
「《グリージー・ホーン》は装備したクリーチャーを、アンタップしているクリーチャーにも攻撃できるようにします。なので、《ドクロスカル》で《アクア・ティーチャー》を攻撃ですっ」
「防げないですねー……《アクア・ティーチャー》はパワー1000しかないので、パワー2000の《ドクロスカル》には敵いません」
「じゃあ、これでわたしのターンは終了しますけど、《グリージー・ホーン》を装備した《ドクロスカル》がタップされているので、龍解条件成立ですっ!」
 もう一つ、厄介なものがある。サイキック・セルなんかよりも、よほど面倒なクリーチャーが。
 ターン終了時にタップしているという条件を満たし、《グリージー・ホーン》が龍解する。

「龍解っ、《熱血龍 リトルビッグホーン》!」

「パワー5000のアンタップキラー……単純だけど、色々まずいんですよねー、そういうの」
 単純だが、だからこそ強いカードもある。特に今回の空護は、不完全なバニラビート。能力のないクリーチャーで殴るという単純なことしかできないので、単純な強さで返されるのは厳しい。
 これで毎ターン、空護はパワー5000未満のクリーチャーを殴られて殺される。パワーの高いクリーチャーで牽制したいが、バニラにパワー5000を超えるクリーチャーは少ない。パワーが6000以上あれば、大抵はWブレイカーを持っているのだから。
「でも、今は並べるしかできないんですよねー。《鬼面城》をチャージ。《A・ザラシー》と《模龍の伝道師 ドルーラー》を召喚して、ターン終了ですよー」
 手札がない現状、《海底鬼面城》はドローソースとして貴重だが、相手にも手札を与えてしまう。このまま短い時間で殴り切れる気もしないので、ビートダウンとしては好ましくないが、一旦待ちに入る。
「《ジェラシー・シャン》をマナにおいて、4マナで《魔光王機デ・バウラ伯》を召喚です。墓地の《エナジー・ライト》を手札に加えて、3マナで《超次元ブラックブルー・ホール》を唱えます!」
「! 来ましたかー……」
 二枚目の超次元呪文。コスト4なので一体しか出てこないが、残る一体は決まっている。
「《マシュマロ人形ザビ・ポリマ》をバトルゾーンに出しますっ!」



マシュマロ人形ザビ・ポリマ UC 闇文明 (2)
サイキック・クリーチャー:デスパペット/エイリアン 2000
覚醒リンク—自分のターンのはじめに、バトルゾーンに自分の《ギル・ポリマのペンチ》があれば、そのクリーチャーとこのクリーチャーを裏返しリンクさせる。



 覚醒リンクしか能力を持たない、準バニラのサイキック・クリーチャー。単体では特に脅威ではないが、一応、覚醒リンクを持っている。
 次のターンの始めに覚醒リンクすれば、それなりのサイズのクリーチャーが出て来る。小型を並べて殴るバニラビートで、大型の処理は厳しい。できれば、覚醒リンクは防ぎたいところだが、都合よく除去できるわけではない。少なくとも今の手札に除去札はなかった。
「えっと、闇のクリーチャーがバトルゾーンに出たので、《ブラックブルー・ホール》の効果発動ですっ。相手クリーチャーは、次のターン可能なら必ず攻撃しなければなりませんっ」
「強制攻撃……ブロッカーを出された直後だと、これはこれで面倒ですねー」
 これでは待ちに入った意味がなくなる。《スペルギア・ファントム》の時から、柚は空護のペースを乱していた。
「《リトルビッグホーン》はアンタップされているクリーチャーも攻撃できるので、で《4月》を攻撃ですっ!」
「《4月》はパワー4000……ま、勝てませんねー」
 普通に殴り倒されてアタッカーを減らされる。盤面はほぼ、柚に制されてしまった。
「とりあえず、いいカードがないか探ってみますかねー。3マナで呪文《ヘブンズ・キューブ》。山札から呪文を一枚サーチしますよー」
 盤面だけではない。空護は手札も切れている。マナも十分とは言えず、リソース面でもかなり不利だ。
 そんな状況で、苦し紛れのように呪文をサーチする。ハイランダーにおいては、特定のカードをサーチでkるというのは非常に重要な意味を持つが、この状況ではその意味も無意味になりかねなかった。流石に苦しすぎる。
 しかし、そんな様子を微塵も見せず、デッキからカードを探す空護。
「……成程。では、《スパイラル・スライダー》を手札に加えますねー。そのまま2マナで《スパイラル・スライダー》を唱えて……《リトルビッグホーン》をバウンス」
「サイキック・クリーチャーじゃなくて、いいんですか……?」
「悩むんですけどねー、そこは。まあ、毎ターンアタッカー潰される方が困るかな、と。じゃあ、強制攻撃でしたねー。《イソロック》で攻撃ですー」
「《バウラ伯》でブロックしますっ。こちらの勝ちです!」
「続けて《A・ザラシー》でも攻撃、シールドブレイクですよー」
「S・トリガー、《狼牙獣銃拳》ですっ。《ドルーラー》のパワーを6000下げて破壊します!」
 先に《ホワイト・ブラックホール》で入れ替えたシールドを狙ったが、S・トリガーだったようだ。アタッカーがまた減らされた。
 残ったのは《A・ザラシー》のみ。しかも、《ザビ・ポリマ》と《ギル・ポリマのペンチ》の二体を場に残したまま、柚のターンが回ってきてしまった。
「じゃあ、このターンの始めに、わたしの場に《マシュマロ人形ザビ・ポリマ》と《ギル・ポリマのペンチ》がいるので、覚醒リンクですっ!」
 二体のサイキック・セルが覚醒し、リンクする——

「——《幻惑の魔手ドン・マシュマロ》!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て20」 ( No.464 )
日時: 2016/09/04 13:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

幻惑の魔手ドン・マシュマロ 闇/火文明 (9)
サイキック・スーパー・クリーチャー:デスパペット/ゼノパーツ/エイリアン 6000
W・ブレイカー
リンク解除



 二体のサイキック・セルがリンクし、《ドン・マシュマロ》へと覚醒する。
 リンク解除を持っているとはいえ、たかだがパワー6000のWブレイカーという、準バニラ甚だしいクリーチャーだが、この程度のサイズでもバニラビートにとっては厄介な存在だ。Wブレイカー以上のパワーというだけで、処理手段が限られてしまうのだから。
「そもそも、本来は殴り返しとか考えず、ただただ殴るだけなんですけどねー……」
 それができるのも、《アクア・ティーチャー》と《駱駝の御輿》のサポートあってこそなのだが、ハイランダーのせいでそのサポートも不十分だ。
 正直、デッキチョイスを誤ったとしか言いようがない。手持ちのカード資産にバニラが多くとも、無理やりハイランダーでバニラビートにする必要はなかったはずだ。
「《ダンゴ・スポポン》をマナにおいて、6マナで《魔光神レオパルドⅡ世》を召喚ですっ! 山札から《ルドヴィカⅡ世》を手札に加えますっ」
 加えて今度はゴッドまで現れる。《レオパルド》が相方の《ルドヴィカ》をサーチし、こちらもリンクする準備を整えていた。
「2マナで《オール・イエス》を《ドン・マシュマロ》にクロス。《スペルギア・ファントム》で《A・ザラシー》を攻撃! 能力で山札を捲ります」
 捲られたのは《氷牙レオポルディーネ公》《パイレーツ・チャージャー》《聖騎士ブリュンヒルデ》。
 柚は迷いなく《パイレーツ・チャージャー》を手札に加えた。
「《パイレーツ・チャージャー》を手札に加えます」
「じゃあ、《A・ザラシー》はバウンスですねー」
「え……あ……は、はい……攻撃先のクリーチャーがいなくなったので、攻撃は中止です。ターン終了です……」
 失敗した、と言うように暗い表情を見せる柚。大きな失敗というわけではないが、ちょっとしたミスだ。
 《スペルギア・ファントム》は呪文を手札に加えることで、相手クリーチャーをバウンスする。この時、呪文を手札に加えなければバウンスできないのは当然だが、逆に、呪文を手札に加えたならば、絶対にバウンスしなければならないのだ。
 その点を、彼女は失念していたようだ。
 どちらにせよ空護のクリーチャーは一掃されてしまったわけだが。
「……もうちょっと早く来てれば、また違ったのかもしれないんですけどねー……《A・ザラシー》をチャージして、《ノウメン》を召喚。ターン終了」
 手札もなく、場も空。空護にできることは、手札のクリーチャーを場に置くだけ。
 バニラの中でも特にパワーの高いクリーチャー、《ノウメン》。確かにもっと早く来ていれば、殴り返しが楽になったかもしれないが、今更そんなことを言っても意味はない。
「わたしのターンっ。《ドクロスカル》を進化! 《黒騎士ザールフェルドⅡ世》!」
「おぉぅ、そのクリーチャーですかー……」
 ウエポンがなくなり、パワー2000の貧弱なバニラと化していた《ドクロスカル》が、いきなり《ザールフェルド》へと進化する。《ザールフェルド》はナイト進化ゆえに、ファンキー・ナイトメアの《ドクロスカル》も進化元になる。
 この時点で柚の場には、《スペルギア・ファントム》《フランツ》《ドン・マシュマロ》《レオパルド》《ザールフェルド》。合計七打点。とどめを刺すには十分な戦力だが、
(……ダイレクトアタックはできますけど、S・トリガーがありそうです……手札には《ルドヴィカ》もいますし……)
 柚は七打点では、少々不安なようだった。ジャストの打点よりも少し上回っている程度だと、捲れるトリガーの順番次第では、一枚でも耐えられかねない。
 盤面は既に制圧している。ブロッカーもいて、手札にはカードも揃っている。
 ならばと、柚は手札のカードを一枚取った。
「《爆熱 BAGOOON ミサイル》を唱えます。多色クリーチャーはいますけど、使う効果は一つだけです。《ノウメン》をタップします。《ザールフェルドⅡ世》で《ノウメン》を攻撃です」
 バウンスはせず、タップキルで《ノウメン》を破壊する柚。
 そして、
「ターン終了です」
 ターンを終えた。
「攻撃しなくていいんですねー?」
「は、はい」
「じゃあ、僕のターン」
 盤面の制圧だけで柚はターンを終えた。柚はより確実に倒すために時間を置いたわけだが、空護からすれば1ターンの余裕ができたとも言える。
 とはいえ手札もなにもない空護が、この1ターンでできることなど、たかが知れているが。
 ただただ、トップのカードを投げつけるだけだ。それも、ほとんどがバニラ。
「……ま、ナイスタイミング、ということで」
 ただし。
 投げつけられるカードは、一枚のバニラとは限らない。
「マナチャージなし、7マナタップ」
 バニラビートの強さは、圧倒的物量にある。一体一体はただの打点でしかなくとも、相手が対応しきれないほどの数を並べることで、人海戦術で押し潰すのだ。
 それは本来《アクア・ティーチャー》による手札補充、《駱駝の御輿》によるコスト軽減、この二つによって実現される。尽きないリソースから低燃費で射出するためのサポートが必須。
 しかしそれは、浬の考えた正規ルート。
 それとは別の裏ルートを、空護は作っていた。
 《アクア・ティーチャー》も《駱駝の御輿》もいらない。たった一枚で、バニラビートが目指すものが完成する。
 代わりに、祈りが必要だ。
 烏合の衆であろうと、雑兵の軍であろうと、仲間を集めるための、祈りが——

「——《神聖祈 パーロック》」


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