二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

45話「霞家」 ( No.174 )
日時: 2015/06/03 01:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 ラヴァーのことは、一騎たちに任せる。
 そして、自分たちはいざというときのためのサポートということで決定した、次の作戦。
 リュンの準備が完了するまで、各自は待機。休息を取ることとなった。
 そして暁たちも、部活動と称した今日の活動を終え、四人揃って帰路へとついていた。
「……なんだか、大変なことになっちゃいましたね……」
 しばらくの間、沈黙を保っていた遊技部の一同だったが、その静寂に耐えかねたのか、柚が控えめな声で、その沈黙を破った。
 そして、この沈黙に居心地の悪さを感じていたのは柚だけではなかったのか、すぐに応答が返ってくる。
「そうね、まさかあの子の身内が、この世界に来るだなんて……しかもリュンがその手引きをしていただなんて、予想外だったわ」
 ある意味では都合がよいといえばよい。彼女については、自分たちは知らないことが多すぎる。一騎が日向恋と呼ぶ彼女のことを、自分たちはラヴァーという超獣世界の人物としてしか知らないのだ。
 だからこそ、彼女の今を形成する根幹に関わっている——そうでなくとも、なにかを知っているであろう一騎に今回の案件を託すのは、間違ったことではないと思う。
 それとは別に、柚は少し悲しそうな顔をしていた。
「……あの人も、家庭があって、両親がいて……ふつうの生活を送っていたはずなのに、どうして、こんなことになってしまったんでしょうか……」
「普通じゃなかったんだろ」
 柚の言葉を否定して、浬が口を挟む。
「普通の家庭で、普通の生活を送っていたなら、あんなことにはならない……なにか、あいつを変えるような出来事があったんだろう」
 それは、自分たちには知る由もないこと。
 そのことが分からない以上は、彼女の抱えるなにか、その奥まで踏み入ることはできない。
 永遠に、すれ違うままだ。
 それは柚にも分かっている。分かっているが、彼女は食い下がる。
「それでも、わたしたちは同じ人間です……プルさんたちのような語り手のクリーチャーと一緒にいて、デュエマをやって……分かりあって、手を取りあえるはずなんです」
「だが、現に俺たちとあいつは敵対している。そんな表層的な共通項だけでは、あいつを説得するのは無理だ」
「そんなことはありませんっ。だって、わたしも、あきらちゃんに——」
 どこか必死な柚。彼女は暁を引き合いに出して、パッと彼女の方へ向くが、
「……あきらちゃん?」
「へ? あ、なに? ゆず?」
 呼びかけられても気づかず、ワンテンポ遅れて、暁の返事が返ってきた。
「あきらちゃん、どうしたんですか? 元気、ないみたいですけど……」
「そ、そうかな? 私は普通だよ? いつもどおり元気だよ?」
「そうかしらね。なんだかずっと、考えごとでもしてるみたいにぼーっとしてたけど。なにか思うところでもあるの?」
「いや、その……」
 思うところ。
 それはきっとあるのだろう。暁の心中になにかが蟠り、渦巻いている。それは、はっきりと感じられた。
 しかしその感覚がなんなのか、それは分からない。
 分からないから、それを口にすることは、暁にはできなかった。
「……なんでもないですよ」
「そ、そうですか……でも、むりしないで、つらかったら言ってくださいね」
「あ、うん。ありがとう」
「そうね、私たちも作戦の主ではないけど、もしもの時のために、いつでも動けるようにしておかなくちゃ。リュンから連絡があるまで、ゆっくり休みなさい」
 今日はいろいろあった。一度に多くの真実を告げられ、暁も困惑しているのだろう。それは暁だけではなく、柚や沙弓、浬だってそうだ。
「……だが、もしもの時になって、俺たちが役立たずではまずいな。休むのも大事だが、デッキを少しいじっておくか……」
 浬は何気なしにデッキケースに触れながら、呟くように言った。
「そ、そうですね。わたしは、みなさんと比べてぜんぜん強くないので、しっかりとデッキを組まないと……」
「柚ちゃんはこの短期間でかなり強くなったと思うけどね。暁でも、もう圧勝できないくらいには」
 さりげなく自分をその中に含めなかった沙弓だったが、それはさておくとして、確かに柚の成長はめざましいものがある。
 元々、暁に付き添って多くの対戦を見てきたということもあるのだろうが、対戦を始めておよそ一月。勝率は部内最低とはいえ、暁相手でも、実力が拮抗してみるほどのプレイングは見せるようになった。
 しかし、柚はそれに満足していないようで、
「いえ、まだまだです。このデッキだって、ぶちょーさんやかいりくんに手伝ってもらったデッキですし、自分でちゃんと組めるようにならないとです」
「え、なに? ゆずのデッキって部長と浬が作ってたの? 私そんなこと全然知らないよ?」
「あ、いえ、その……あきらちゃんと対戦するときのためにと、思って……ぶちょーさんやかいりくんには、まだまだ勝てないんですけど……でも、あきらちゃんと対等に対戦できるように、わたし、がんばりますっ」
(デッキ内容が分かってたから割合楽に勝てただなんて言えないな……)
 柚の言葉に浬が少々の後ろめたさを感じながら、柚はデッキを手にして、意気込んでいる。
 その時だ。
 ドンッ
 と、曲がり角で、彼女は誰かとぶつかった。
「ひゃぅっ」
 ぶつかっていったのは柚の方だが、小柄な彼女は相手に押し返されるようによろめいて、尻餅をついてしまう。
 同時に、手にしたデッキケースから、カードが散らばった。
 柚はそれらのカードを拾おうとするが、その目にはたと気づいたように顔を上げ、
「ご、ごめんなさ——」
 そして、絶句した。
 柚を見下ろしていたのは、一人の男。
 少々長めの黒髪。そこそこ背が高く、それなりに体格がよいが、普通の男性に見える。
 相手を射殺すような鋭く黒い眼と、右頬に走る大きな傷さえなければ、の話だが。
 一見して浬や沙弓は、この男はヤバいと、直感で悟った。外見もそうだが、彼の纏う空気、彼から発せられる覇気のようなものが、あからさまに自分たちの危険信号を刺激している。
 だが、柚が言葉を失ったのは、男に恐怖したからではない。彼女の目には確かに恐れが感じられるが、しかしそれ以上に、驚愕したように目を見開いていた。
 しばらく絶句していた柚だが、やがて、絞り出すように、声が漏れる。

「……おにい、さん……」

「……え?」
「あー……」
 警戒心を高めていた浬と沙弓は、途端に混乱の色を見せ、呆けたように口が開いたままだ。一方、暁は失敗したというように、額に手をやる。
 男は身動き一つせずに見上げる柚を、ジッと不動のまま見下ろしていたが、やがて手を伸ばし、散らばった柚のカードを一枚、手に取った。
 そして、カードを射抜くような眼差しで見つめる。
「……来い」
「あ……っ」
 そのカードを手放すと男は、今度は柚の腕を引き、強引に立たせる。
 さらには、彼女を引き寄せるようにして、どこかへと連れていくようだった。
 そこでハッと我に返った浬は、慌てたように柚の腕を引く男に手を伸ばす。
「っ、おい、お前——」
 が、しかし、
「…………」
「っ……!」
 スッと振り返った男が一睨みするだけで浬は気圧されてしまい、伸ばした手もすぐに引っ込んでしまった。
 そして、浬が身動きの取れなくなった間に、男は瞬く間に柚を連れ去ってしまった。
「……な、なんだったのかしら、今のは……」
「分からないが……まずくないか、これは……」
「あー、うーん……確かにまずいかも……」
 いまだ困惑しているが、浬と沙弓には危機感のようなものが顔に浮かんでいた。
 しかし一方で暁は、本当に困ったような表情だ。
「それと、柚ちゃん。あの子さっき、おにいさん、って言ってなかった?」
「……そうなのか? 俺にはよく聞き取れなかったが……そうしたらあの男は……」
「うん、そだよ」
 二人が予測する男の人物像を、暁が続けた。
 そしてその像は、二人の想像通りに、ぴたりとあてはまる。
「私もほとんど会ったことはないんだけど、顔は全然変わってない……あれ、ゆずのお兄ちゃんだ」

45話「霞家」 ( No.175 )
日時: 2015/06/07 13:26
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 柚が兄に連れ去られた翌日。
 中学生という身分である以上、暁たちは学校に行かなければならず、授業が終わると真っ先に部室に集まった。
 いつもなら、ここでクリーチャー世界について、なにか意見を交わすことだろう。しかし、今日ばかりは違う。
「……で、柚ちゃんは結局、学校にも来なかったのね」
「うん。電話しても出ないし、メールも返ってこないよ……」
「大丈夫なのか? いくら兄妹とはいえ、学校にも行かせないなんて、普通じゃないぞ」
「でもゆずんちだし、それに、カード見られちゃったし……」
 言いながら、暁は拾い集めた柚のデッキに目を落とす。
「そういえば、霞は元々、家族からデュエマを禁止されてたんだったか」
「ゆずはそう言いますけど、本当はゆずのお兄ちゃんから禁止されてたんですよ」
「ということは、本人に見つかったのか……やはりそのことが関係しているのか?」
 浬がそう言うと、暁はたぶん、と頷いた。
 あの男は柚とぶつかって、彼女がカードを散らばしてしまった際に、そのカードの一枚を手に取って確認していた。
 そこから考えると、やはり、柚が隠れてデュエマを始めていたことが関係しているのだろう。
「柚ちゃんが隠れてデュエマをやるってことになった時から、家族に見つかった場合にトラブルになるんじゃないかとは思っていたけど、タイミングが悪いわね」
 そうだ。今、暁たちは大事な時期に差し掛かっている。
 リュンからの連絡がいつ来るのかは分からないが、しかしそう遠くはないはず。例の作戦が始まる時に、柚がいないとなれば、問題だ。
 とにかくタイミングが悪い。このまま柚が家から出られなくなったら、クリーチャー世界での活動にも支障をきたす。
「だからこの問題は、一刻も早く解決したいけど……」
「なら、行ってみます? 柚の家」
「え? そんなあっさり?」
 家族ぐるみ——実際には兄からだが——で禁止されているとなると、なにか家庭にあるのではないかと思い、軽々に家に行くなどということはできないと思ったが、暁は事もなげに言った。
 これは暁が配慮に欠けていて、特に深く考えずに、思いつきでそんなことを言った——というわけではなく、暁なりにちゃんと考えた結論であった。
 そして、暁なりの算段もある答えだったのだ。
「ゆずんちは昔から何度か行ってますし、たぶん私なら通してくれるじゃないかと思います。私もゆずが心配だし、今から行きましょうよ!」



 霞宅は東鷲宮中学からは、少し遠いところにあった。それでも、学区的には東鷲宮が一番近いのだろうが。
 そこへ到着した瞬間、浬と沙弓は絶句する。
 まず真っ先に目を引くのは、その門構え。がっしりとした、重厚そうな木製の門扉。今は閉じられているが、その威厳たるや、とても中に入れる気がしない。
 次に目線を逸らそうとすると、飛び込んでくるのが、表札だ。樫の木で出来たそれには、『霞』の一文字が、非常に味のある達筆で彫り込まれていた。
 そしてなによりも、門の前で直立不動している、スキンヘッドでサングラスをかけた黒スーツの男。昨日の柚の兄だという男ほどではないが、この男の存在が浬と沙弓の危険信号を発させている。
 見るからにヤバい家、というのが二人の率直な感想だった。まだ門だけなら、古風な良家なのだろう、くらいに思っただろうが、門の前で立ちふさがる男を見た瞬間、霞柚という少女の家庭が理解できてしまった。
「そうか、霞って、あの霞だったのね……」
「……霞家、か……」
 浬や沙弓も、同じ町に住んでいるため、聞いたことくらいはある。
 霞家。それは、この町では有名な家系だ。
 言うなれば、極道の家系である。
 御幣を恐れず、より分かりやすく呼称するなら、ヤクザ、暴力団といったところか。
 とはいえ、霞家という呼び方からも察せられるように、一般的なそれらとは一線を画すのが、ここの家系である。
 霞家というだけあって、この集団は家系による繋がりが強く、歴史も由緒もある一族らしい。そういうこともあってか、ヤクザや暴力団と言うよりも、極道という言葉の原義に近い行いをしてきた。
 事実、この一族は表立って問題を起こしたりはしていない。とはいえ、裏ではなにをしているのか、分かったものではないが。
 そして、そんな歴史や由緒や事実があろうとも、周辺住民はこの一族とは関わりたがらない。当然と言えば当然だ、誰だって自ら火に飛び込むようなことはしない。下手に首を突っ込んで、面倒事に巻き込まれたくはないものだ。
 だからこそ、暁が直後に取った行動に、二人はらしくもなく吃驚することになるのだった。
「あ、テツさんだ。こんちわー」
「ちょっ……暁!?」
「お前……!」
 暁はどこからどう見てもカタギではないサングラスの男に近づいては、まるで友人とでも接するかようにひらひらと手を振っている。
 相手はあの霞家。いくら表では問題を起こしていないとはいえ、そんな馴れ馴れしく、気安く近づくものではない。
 そんなことを思った二人だったが、
「お、暁さんじゃないですかい。ども、久方ぶりです! 相変わらずお元気そうで」
「本当に久しぶりですよー、最後にここ来たのって、いつだっけ?」
「自分が覚えてる中では、たぶん二年前かと。お嬢が小学校から帰る時に体を壊して、暁さんが付き添ってくださったのをよく覚えてます。あの時は本当に世話になりやした」
「あったなー、そんなこと。ゆずも無理しないで、体育を休めばよかったのに」
「…………」
「…………」
 絶句、というより黙り込む。
 なにやら、楽しげに会話を繰り広げる二人。ドスの利いた声で門前払いでも喰らうのかと思ったが、サングラスの男もなにやら気さくな風で、二人のイメージからはかけ離れた対応だった。
 とそこで、男は二人の存在に気付いたようで、
「おや? そちらは暁さんのご友人ですかい?」
「あ、そうですよ。私と柚と同じ部活仲間なんです」
「おぉ、お嬢の……自分は霞家の家系ではないんですが、この一家に従事している、哲朗と申しやす。以後、お見知りおきを」
 そう言って男——哲朗は、恭しく頭を下げた。
 それにつられて、二人も名前だけは名乗った。しかしいまだこの状況には慣れず、困惑したままだが。
 自己紹介も軽く済ませたところで、暁は本題を切りだす。
「それでテツさん。お願いがあるんですけど……」
「……お嬢のことですかい」
 暁の言おうとしていることは、哲朗も分かっていたようだ。いや、哲朗も同じことを思っていたのだ。
「若頭が昨日、おっかない顔でお嬢と帰ってきやしたが……まさか、あの誠実なお嬢が隠れて禁を破っていただなんて思いやせんでした」
「で、でも、ダイさんだって酷いよ! 別にデュエマくらいやったって……」
「いや、暁さん。自分も暁さんと同じです。暁さんの仰ることも分かりやす。自分も、若頭がお嬢に課した禁令はやりすぎなんじゃないかと思っていやした。ですが、若頭はその件でかなり憤慨していたようで……今日も、お嬢は学校へは行かせてもらえなかったようですし、自分としても心配しているんです」
 そう言って哲朗は暁に背を向ける。そして、その大きな門扉をゆっくりと押し開けた。
「だから、お通りください。お嬢のことも心配ですし、暁さんがいれば、なにかが変わると自分は思いやす。あの時だってそうでした。なに、ここを通したことが問題になったら、全責任は自分が負いやす。なので、どうぞ気兼ねなく。中に入ったら、巡回しているはずの適当な野郎を捕まえてください。暁さん相手なら対応するはずですぜ」
「テツさん……ありがとう! さ、行こう。部長、浬!」
 哲朗によって開かれた門扉を、暁は駆けるようにして潜り抜ける。
 浬と沙弓も、その後に続くが、その途中でふっと呟いた。
「……ゆみ姉、大丈夫か?」
「全然……」
「俺もだ……」
 柚の家庭にはかなり驚かされたが、それ以上に驚くべきことが、ここにあった。
 物怖じしないだけならただの性格上の問題だ。だが、相手の対応が丁寧なだけではなく、ほぼ顔パス状態。あの霞家の者から厚遇されていること。
 ここに来て、二人は彼女への謎までもが深まるのだった。
「暁……あなた一体、何者なのよ……」



 門を潜り、日本庭園のような敷地をしばらく歩くと、母屋が見えてきた。
 そして、そこには一人の男が仁王立ちしていた。
 見る者を射殺すような黒き眼光、右頬を駆ける大きな傷跡。この二つが彼の存在を特徴づける、昨日の男だ。
 ただし今日は、黒と灰色の紋付羽織袴を着ており、両袖に手を突っ込んで、非常に“らしい”出で立ちをしている。
「……来たか」
「あ……ダイさん……」
「もしやとは思っていた。空城暁、お前は昔から騒がしい娘だったからな。昨日の今日、お前がここに来ることは予想できていた」
 そう言うと、男はスッと母屋の戸を引き、一歩、足を踏み入れる。
 それから、袖に手を入れ、目線を彼女たちに戻す。
「入れ。あいつも、お前たちを待っている」



 外観に違わず、霞家の中も和風な造りで、相当立派な建築がなされているようだった。
 板張りの長い廊下を、男に先導されながら歩いて行く。しばらく歩くと、男は足を止めた。
 そこは、他の部屋からは切り離された一室のようで、どうやら広間ではなく個室のようだった。男はその部屋の戸に手をかけると、一息で引く。
 そしてその中には、一人の少女がいた。
 栗毛の髪に、白いリボンを左右で結っている。桜色の着物を身に着けた、小柄な少女。
 その人物こそが、暁たちの目的とも言える彼女——霞柚その人だった。
「……ゆず」
「あきらちゃん……」
 暁の声を聴き、こちらに気付いたようだ。彼女は少し驚いたように、目をぱちくりさせている。
「ぶちょーさんに、かいりくんも……あ」
 そして、ハッと思い出したように、自分自身に目を落とし、体を隠すように、腕で自身をつかむ。
「す、すいませんっ、部屋着姿で……お恥ずかしいです……」
「それ、部屋着なの……流石というべきなのかしらね……」
 しかし様にはなっている。超獣世界での袴姿もそうだったので、案外、和装が似合うのかもしれない。
 柚は本当に恥ずかしそうにしていたが、すぐに男——自分の兄の方へと、目を向けた。
「おにいさん……」
「お前の客だ。本来ならばお前と一対一で話をつけるべき案件なのだろうが、お前と俺がサシでは、お前が委縮するだけだからな。特別だ、こいつらの同席を許す」
 話、というのは、柚に課された禁令。それを柚が破ったことだろう。
 あからさまに柚を軽んじた言葉であったが、傍から見ても、柚が委縮してしまいそうだと思うのはもっともだ。それに、暁たちとしても、柚の成り行きは気になるところである。
 柚としても、暁たちがいるのであれば心強い。お互いに、それぞれの思うところは承知していた。
 なので、遊戯部一同の意見を代表するかのように、柚は、口を開く。
「……はい。お願いします」

45話「霞家」 ( No.176 )
日時: 2015/06/07 13:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 次に連れてこられたのは、霞家の客間だという一室。他にもそれらしい部屋はあったが、しかしそれぞれ用途が違うのかどうか、暁たちには判別がつかなかった。
 ただ、とりあえずどの部屋も何畳あるのか分からないほどに広い部屋であったことは確かな事実。遊戯部の部室の何倍もの広さの部屋がゴロゴロあるというのだから、ある意味恐ろしい家だ。
「まず、俺のことを知らない奴もいることだろう。先に名乗っておくぞ。霞家次期頭首、霞橙だ」
 男——橙は、傲岸不遜な、それでいて威厳を感じる態度で、そう名乗った。
 そして彼が申告する己の位は、次期頭首。概ね察してはいたが、やはり大物だ。
 さてこれに対し浬や沙弓は、自分たちも名乗るべきかと悩むが、そんな暇など与えずに暁が身を乗り出して、率先して橙に噛み付く。
「ダイさん、前からずっと気になってたことだけど、なんでゆずにデュエマをさせてくれないの?」
「お前には関係のないことだ」
「でも! そんなの絶対おかしいよ! デュエマくらいいいじゃん!」
「うちにはうちの事情があるということだ」
 家の事情。
 ただの一般家庭が口にするのと、霞家という名前を背負っている橙が口にするのとでは、その重みはまるで違った。
 それを分かっているのかいないのか、さらに暁は噛み付きにかかろうとするが、彼女の弁はいくらなんでもお粗末すぎてみていられなかったので、彼女を制して、沙弓が口を開いた。
「……しかし、橙さん。こう言ってはなんですが、たかだかカードゲームですよ? 言うなれば子供の遊びです。 柚ちゃんが大事なのは分かりますが、そこまで神経質になることではないと思いますが?」
「お前たちにとってはたかだかカードゲームなのだろう。それなら切り捨てようが切り離されようが関係あるまい」
「橙さんは次期頭首と仰っていましたね? ならば家の規則、しきたりなどもあるでしょうが、柚ちゃんまでもそれで縛り上げなければいけないのですか?」
「家のことを事細かにお前たちに言うつもりはない」
「あなたのやっていることは、霞家全体の本意なのですか? 家ぐるみで柚ちゃんを束縛しなければならない理由があるのですか?」
「それを言う義理はない」
 沙弓は様々な角度から立て続けに攻めるが、橙はまったく動じない。沙弓の攻めをすべていなし、受けきってしまう。
 そして、刀で切り返すかのように、沙弓の言葉が止まったところで、橙は言葉を返した。
「お前たちはたかだかカードゲームだと言うがな、あのような紙切れでも、高額の値が付く場合もある。カード一枚のために争いが起こり、事件が起こり、危険が生まれる。確かに次期頭首は俺だが、柚は霞家本家の一人娘。あまり俗世間の荒事に巻き込ませたくはない」
 さらに、橙は声のトーンを変えずに続けた。
「所詮、ただのカードゲームと侮っていると、どこで痛い目を見るかも分からんしな。最近はそういういざこざもよく起こる。ただの“ゲーム”では済まされないことも出て来るやもしれん」
「…………」
 沙弓は橙の主張を聞き、黙った。
 しかしそれは相手の意見に納得したから黙ったのではない。反論できないからでもない。
 どこか、相手の言葉に違和感を感じたのだ。妙に“ゲーム”という単語を強調したようにも聞こえるし、それ以前にデュエル・マスターズについてやたらと気に賭けている。
 これは、デュエル・マスターズに関わることについて、なにかを隠しているかのようだった。
 そしてその中で、沙弓の中で一つの仮説が立つ。
(……この人、もしかして……クリーチャー世界について知ってる……?)
 確証はない。ただの憶測だ。
 だが、この霞橙という男が、妙に柚をデュエル・マスターズから遠ざけるということは、それについてなにかあるということだろう。確かにカードに関わるトラブルは存在するが、まさか本当にそんな理由だけでデュエル・マスターズだけを禁止しているわけではあるまい。
 必ずなにか隠している。沙弓はそう思っうのだった。
 そして思ったら、即座に行動に出る。
「確かに最近のカードゲームは、カードの取り扱いについては危険ですよね。しかし我が部に関しては、私が責任を持って管理、監督しているので、問題ないですよ。柚ちゃんは外部では対戦などはしていませんしね。ですから、私たちの中で対戦する分には、なんら問題ありません。それに、まさか——」
 沙弓は声のトーンも、表情さえも変えずに、ごくごく自然な形で、軽口を叩くかのように、言った。
「カードのクリーチャーが実際に出て来るわけでもあるまいし、部内で活動する分には、安全ではないでしょうか?」
「…………」
 ぴくり、と橙の眉が動く。
 それを沙弓は見逃さなかった。いやむしろ、彼の返答よりも、彼の反応だけを追っていたのだから、見逃すはずもなかった。
(反応した……!)
 橙の眉がほんの少しだが動いた、沙弓がその目で確認しているので、これは揺るがない事実だ。
 だがしかし、その反応が本当に沙弓の思っているのかどうかまでは、分からなかった。露骨に動揺したわけではなく、あくまで反応しただけだ。
 単純に沙弓の軽口が気に入らなかったから気分を害しただけかもしれない。
 さてここからどうしよう、と沙弓が考えていると、その間に橙から声が飛ぶ。
「……確かに、お前の弁論の中では、柚の安全は保障されているようなものだな」
 だが、と橙は逆接して、続けた。
「お前の言葉をどこまで信用できるかという点が問題だな。はっきり言って、俺はお前たちのことは知らない。よって、お前たちのことを信用もしていな——」
「信用してください」
 と、そこで。
 今までずっと黙っていた柚が、珍しくはっきりとした、通る声で橙の言葉を遮った。
 まっすぐに、彼を見て。
「この人たちは、わたしの大切な人たちです。信用できます」
「……お前が信用していても、俺が信用できないと言っているのだがな」
「じゃあ、おにいさんは、わたしを信用してくれないんですか?」
 彼女にしては、狡い言い方だった。
 この言い分については、さしもの橙も言葉に詰まる。そしてその隙を狙い澄ましたかのように、
「おにいさん」
 柚は、彼の名前を呼ぶ。
 自分の、兄の名前を。
 そして、懇願する。
「お願いします。わたしを、遊戯部に戻らせてください」
 それは懇願というにはあまりにもまっすぐな言葉だった。
 怯えた様子も、不安がる様子もない。ただひたすらに、自分の思いを届けるように、彼女は言葉を紡ぐ。
「遊戯部は、わたしの大切な居場所なんです。あきらちゃんだけじゃありません、ぶちょーさんや、かいりくんと出会えたのも、遊戯部あってのことです。それに——」
 なにかを、誰かを、思うように目を瞑る柚。
 彼女の瞼の裏に浮かんでいるものは、橙以外の、遊戯部の面々には分かる。自分たちと一緒に、共に出会った仲間。
 そして、共に戦う、語り手と呼ばれた、彼らの姿。
「デュエマもそうです。あれが、わたしとあきらちゃん、そしてみなさんとわたしたちを、つなげてくれた、大切なものです」
 最初はただ見ているだけだった。自分は少しカードを触るだけで、戦いには身を投じなかった。だから、ずっと憧れていた。
 ひたすら突き進む暁に、あらゆる可能性を導く浬に、なにものも恐れぬ沙弓に。
 そして、仲間を助けるためにデッキを握り、手札を持ち、シールドを前にした時、はっきりと感じたのだ。
 楽しい。嬉しい。そして、共にありたいと。
 それは柚にとっての譲れないもの。相手がたとえ兄であろうと、柚は決して退くことはない。
「だから、おにいさん。お願いします……わたしの大切なものを、奪わないでください」
 柚は、橙の眼を見て、はっきりと告げた。
 その言葉はやはり懇願だったが、しかし貫くように橙へと到達する。
 しばらく沈黙が訪れる。橙も目を瞑って、なにか思案するように口を開かなかったが、やがて、
「……分かった」
 短く言葉を切り上げて、彼は音もなく立ち上がる。
「お前がそこまで言うのであれば、提案してやろう」
 提案、という言葉に首を傾げる柚。
 要は条件をつけようということなのだろう。彼はその条件を口にする。
「お前が求めるものは、お前が求めるもので、掴み取る。命を取るなら命を賭けよ、心を取るなら心を寄せよ——霞家の家訓だ。求めるものがあるのなら、それと同等で、同様のものを用いるべきである、というのがこの家の流儀だ」
「え、えっと……それは、どういうこと、でしょうか……?」
 柚が家訓を知らなかったわけではないだろうが、彼女には橙の言いたいことが、その意図がいまいち読み取れない。
 橙も焦らすつもりもなにもないようで、彼女の不理解を解すると、即座に言い換えた。
 つまりだ、と前置いて、
「お前がそこまで執心するデュエマで、ケリをつけてやろうと言っている」
「……ふぇ?」
 一瞬、柚は彼がなにを言っているのか理解できなかった。
 しかし彼女の頭の回転は決して悪くない。すぐに彼の言葉を理解し、そして吃驚する。
「お、おにいさん……デュエマ、できたんですか……!?」
「あぁ。悪いか?」
「い、いえ……」
 気づけば、橙の手には渋い木箱が握られていた。まさか常備したとは考えづらいが、こうなることを想定して持っていたのだろうか。
「ほへぇー……ダイさん、自分ではあんなこと言っておいて、デュエマするんだ……」
「…………」
 暁はどことなく不満げにそんなことを言っていた。そして沙弓は、さらに彼への疑念を増幅させていた。
 柚にはデュエマを禁じて、その理由は保護者的なもっともらしいもの。にもかかわらず、自分は危険だと主張するデュエマをやっている。これは明らかに不自然で不審だ。
 やはり、橙にはなにかあるのだろうと沙弓は考えるが、確たる証拠がない。
 クリーチャー世界と関わっているなら、リュンか氷麗が一枚噛んでいるはずだが、ラヴァーのような例もある。今はまだ、根拠のある証拠がない。
 そのため沙弓はなにも言わなかった。
「これは単なる兄妹喧嘩のようなもの、霞家のしきたりで縛るつもりはない。が、霞家として問題を扱うならば、これは決闘だ。それになぞらえて言えば、敗者は勝者に従属する者となる」
 要するに、敗者は勝者の言い分を飲まなければならない、ということだろう。自分の主張を通したいなら——遊戯部に戻りたいというのであれば、勝負に勝て、という単純明快な話だ。
 だが、しかし、
「あ……でも、わたし、デッキがないです……」
 そういえば橙に連行された日、橙とぶつかってカードを散らばしてしまい、そのまま放置して連れて行かれてしまったのだ。
 なので現在、柚のデッキはない。即席でなにかは作れるだろうが、そんな即席デッキで、実力未知数の橙に勝てるとも思えない。自ら決闘のようなものをけしかけたのだ、未知数とはいえ、それなりの強者であることは間違いないはずである。
 そうでなくても、相手は自分の兄だ。それを相手に、適当なデッキを使うというのは失礼である。柚はそう考えていた。
 だからどうしようと困ってしまったのだが、その心配もすぐになくなる。
「ゆず、だいじょーぶだよ! はい!」
「あ、あきらちゃん……これは」
 暁から手渡されたのは、一つのデッキケース。柚がいつも使用しているもので、しっかりと重みを感じる。
「柚ちゃんのデッキよ。まあ、道端に散らばしておくわけにもいかないし、ちゃんと拾い集めたわ」
「枚数も数えた、過不足はないはずだぞ」
「ぶちょーさん、かいりくん……ありがとうございますっ」
 柚はぺこりと、暁や沙弓、浬たちに一礼する。
 そして、デッキケースを携え、振り返って橙へと相対した。
 そんな彼女の眼には、彼女らしからず、それでいて彼女らしい、火が灯っている。
「……やりましょう、おにいさん」

46話「柚vs橙」 ( No.177 )
日時: 2015/06/10 22:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 柚と橙のデュエル。
 そのフィールドになったのは、客間だという何畳あるのか分からないくらい広々とした、畳敷きの部屋だった。先ほどまでいた客間とは違うらしいが、なにが違うのか、暁たちにはさっぱりわからない。
 そこで、紋付羽織袴の橙は、威風堂々とした姿勢であぐらをかいている。
 対する柚は、小さな身体は小さいまま、静かに、控えめに、正座で兄と相対する。
 そして両者とも、その手にはしっかりとデッキが握られていた。
「……よろしくおねがいします」
「あぁ」
 柚は丁寧に、一挙一動が流れるような動作で、お辞儀をする。
「……なんか、いつもと雰囲気、違うね……」
「えぇ……」
「……随分と厳かなデュエマだな」
 いつもは「ゆずー、デュエマしよー! 私先攻ねー!」みたいなノリでやっていただけに、このような空気はどうにも慣れない。
 もっとも柚も、こんな状況でデュエマをすることなど、生まれて初めてだろうが。
「先攻はくれてやる」
「は、はいっ。ありがとうございます……」
 シールドを展開し、手札を伏せたままにして、橙は柚に先攻を譲る。
 デュエル・マスターズは、基本的には先攻有利のゲーム。ターン初めのドロー不可という制限こそあれど、相手より一足先に行動できることに違いはない。
 それが分かっていない橙ではないだろう。ということは、それなりの自信があると見受けられる。
「じゃあ、わたしの先攻で……マナを一枚チャージして……ターン、終了です」
「……ターン終了だ」
「では、わたしのターン……《フェアリー・ライフ》を唱えます。マナを一枚追加です」
「《霞み妖精ジャスミン》を召喚。即破壊し、マナを増やす。ターン終了」
 どちらも自然文明がメインカラー。まずはマナを溜め、着実に準備を進めていく。
(だけど、柚ちゃんが自然単色のデッキなのに対して、お兄さんの方は見たところ水、火、自然のチューターカラー……継続力も速攻性も、単色の柚ちゃんより高いでしょうね……)
 各文明にはそれぞれ特色があり、得意な分野もあれば苦手な分野もある。単色デッキは色事故を起こさず、その得意分野を伸ばすことに特化しているが、その分、ほかの方面が脆いため、対応力に欠ける。
 一方、複数の文明を混ぜたデッキは、序盤に使いたいカードを使うための色が出せず、走り出しが遅れる可能性があるが、各文明の長所を取り込んでいるため、単色デッキと比べてできることが多く、対応力が高い。
 この対戦の焦点は、柚が単色の強みをどこまで引き出せるか、というところにかかっているだろうと沙弓は分析する。
「わたしのターンです。《龍鳥の面 ピーア》を召喚!」
 コマンド・ドラゴンの召喚コストを下げつつ、その登場に呼応してマナを増やす《ピーア》。
 柚はこのクリーチャーをエンジンにして、次々とドラゴンを展開するつもりなのだ。
「……俺のターン。再び《ジャスミン》を召喚。破壊し、マナを追加。さらに」
 橙は残った3マナを支払い、
「《地掘類蛇蠍目 ディグルピオン》を召喚」



地掘類蛇蝎目 ディグルピオン 自然文明 (3)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンに自分の他のドラゴンがあれば、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。自分のドラゴンが他に1体もなければ、このクリーチャーをマナゾーンに置く。
W・ブレイカー



 たった3マナでパワー6000のWブレイカー。しかも登場時にマナを増やす能力もあり、《青銅の鎧》も驚愕する破格のスペックを持つ古代龍、《ディグルピオン》。
 しかしそんな彼も、万能ではない。穴は存在する。
「《ディグルピオン》の能力で、《ディグルピオン》をマナへ」
「え……召喚したのに、マナへ行っちゃうんですか……?」
「ドラゴンがいないからね」
 《ディグルピオン》は非常に高いスペックを持つが、しかし登場時、他のドラゴンがいなければマナに還ってしまう。
 高打点のクリーチャーを残されなくてホッとする柚だが、橙のマナは一気に2マナも増えている。
「えっと、じゃあ、わたしのターンです。《養卵類 エッグザウラー》を召喚です。《ピーア》の能力でマナを増やして、《霞み妖精ジャスミン》も召喚。さらにマナを増やします」
 対する柚は、手札を潤す《エッグザウラー》をスタンバイさせ、マナも増やし、大量展開の準備を整える。
 だが、ここで橙も動く。
「呪文《ストリーミング・チューター》」
 初めて、橙は自然以外のカードを使用する。
 《ストリーミング・チューター》。橙の使用する水、火、自然の組み合わせがチューターカラーと呼ばれる由縁のカード。
 ひとたび唱えると、山札の上から五枚をめくり、その中の火と自然のカードをすべて手に入れる呪文。運が絡むとはいえ、5マナで最大五枚のカードを手に入れられるため、場合によっては膨大なアドバンテージを得ることができる。
 橙は静かに山札から五枚を取る。
 そして、
「……大当たりだ」
 そう言って、橙はめくった五枚を公開した。
 めくられたのは《爆砕面 ジョニーウォーカー》《フェアリー・ギフト》《無双竜鬼ミツルギブースト》《爆速 ココッチ》《節食類怪集目 アラクネザウラ》の五枚。すべて火、自然のカードだ。
「これらのカードをすべて手札に加え、余ったマナで《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚。すぐさま破壊し、マナを追加。ターン終了だ」
「たくさん手札を補充されてしまいましたけど、まだ大丈夫です……わたしのターン」
 確かに橙は大きなアドバンテージを得たが、場数自体は増えていない。
 それに、大きくアドバンテージを取るのであれば、こちらも負けていなかった。
「《増強類 エバン=ナム=ダエッド》を召喚! そしてこの《エバン=ナム=ダエッド》を進化!」
 丁寧ながらも力強い手つきで、《エバン=ナム=ダエッド》の上に、さらなるカードが重ねられた。
「四倍速の番長さんですっ! 《四牙類 クアトロドン》!」



四牙類 クアトロドン 自然文明 (7)
進化クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 9000
進化—自分の自然のドラゴン1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはこのクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から2枚をマナゾーンに置いてもよい。
W・ブレイカー



 《エバン=ナム=ダエッド》が進化したのは、先の時代で大番長と呼ばれたクリーチャーの祖先たる種。恐ろしい姿へ龍化したクリーチャーであった。
 四つの牙を持ち、通常のクリーチャーの四倍の速度でマナを生成することから、彼には四牙類という分類が与えられ、名を《クアトロドン》と命名された。
「《クアトロドン》の能力で、マナを二枚増やします! さらに《ピーア》の能力で一枚、《クアトロドン》はパワー5000以上なので、《エッグザウラー》の能力で手札を一枚増やしますっ」
「…………」
「さらに、ここは攻めますよっ! 《クアトロドン》で攻撃! その時、さらにマナを二枚追加! Wブレイクです!」
 《クアトロドン》の能力によって、柚は大量のマナを生み出しつつ、橙を攻める。
 橙は柚の攻撃を、黙って受け止めた。
「さらに、《エッグザウラー》でもシールドをブレイクですっ!」
「……S・トリガーだ」
 さらに攻める柚。《エッグザウラー》の攻撃で、橙のシールドは残り二枚となるが、そこで橙は、割られたシールドのカードを、場に晒す。
「《ドンドン吸い込むナウ》……《ジョニーウォーカー》を手札に加え、《クアトロドン》を手札へ」
「あぅ……でも、シールドの枚数なら、わたしが勝ってます。まだ、だいじょうぶ……ターン終了です」
 トリガーを踏んだとはいえ、《クアトロドン》は手札にある。マナは十分にあるので、即座に進化し、一気に決めることも不可能ではない。
 と思ったが、橙も甘くはなかった。
「……《無双竜鬼ミツルギブースト》《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚。それぞれマナと墓地へ送り、《エッグザウラー》と《ピーア》破壊だ」
「あ……!」
「さらに《爆速 ココッチ》を召喚。ターン終了」
 柚のクリーチャーが、あっという間にすべて除去されてしまった。
 これでは、《クアトロドン》を呼び出してから、即座に決めることができない。
「で、でも、わたしが有利なことに変わりはありませんっ。《エバン=ナム=ダエッド》を召喚して、そのまま《クアトロドン》に進化! シールドをWブレイクですっ!」
 これ以上の加速は必要ないと思ったのか、柚はマナを増やさずに、単なる打点として《クアトロドン》で殴りにかかる。
 これで橙のシールドはゼロ。場のクリーチャーもいないため、一見すると柚が優勢に見える。
 しかし橙も、今まで一方的にやられてばかりというわけではない。これは彼の準備だ。
 彼の切り札を——仁義すらも飲み込むほどに強大な、古代龍を解き放つための。
「呪文《フェアリー・ギフト》。次に召喚するクリーチャーのコストを3軽減する。《ココッチ》の能力も合わせ、2マナで《節食類怪集目 アラクネザウラ》を召喚」
 スッと、静かにカードを出し、橙は柚へと目を向ける。
「柚」
「は、はいっ」
 そして、呼びかけた。
「お前はこの家で、多くのことを教えられたはずだ。俺もこの家に来てから、お前と同じことを学んだ。そして、お前以上のことを学び、お前以上の修羅場を潜ってきた。そして一つ、分かったことがある」
 それはどこか回想めいていて、霞家という枠すらも飛び出しているかのようにも感じる語り口だった。
「本当の危機が迫り、修羅の道が開かれ、神話の中の戦争の如き凄惨な遊戯に嵌った時は、仁義も大義も必要ない。最後に必要となるのは——力だ」
 そう言って、橙の手に力がこもる。
 今からそれを証明する、とでも言わんばかりに、ゆっくりと、それでいて漲るような覇気を迸らせて、カードを操る。
「そしてこいつが、俺の見つけた、力の完成系の一つ——」
 橙は——己の力と称するものを、叩きつけた。

「——来い! 《仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ》!」

46話「柚vs橙」 ( No.178 )
日時: 2015/06/11 01:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 《アラクネザウラ》に続き、橙が呼び出したさらなる古代龍——《仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ》。
 見るからに強大な力を持つだろうクリーチャーだ。
「《ココッチ》の能力で俺のコマンド・ドラゴンはすべてスピードアタッカーだ。《ブラキオヤイバ》で《クアトロドン》を攻撃、そして能力発動」
 《ブラキオヤイバ》が《クアトロドン》の首をかっ切る、その直前。
 橙の古代龍が、その力を発揮する。
「《ブラキオヤイバ》は攻撃時、手札から非進化の自然クリーチャーをタダで呼び出す」
「え、そ、そんなすごい能力——」
「だが、俺は《ブラキオヤイバ》の能力を使う前に、先に《アラクネザウラ》の能力を発動させる」
「え……?」



仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ 自然文明 (8)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーが攻撃する時、進化ではない自然のクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
相手のクリーチャーが攻撃する時、そのクリーチャーは可能であればこのクリーチャーを攻撃する。
T・ブレイカー


節食類怪集目 アラクネザウラ 自然文明 (6)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 6000
自分のドラゴンが攻撃する時、クリーチャーを1体、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。そうした場合、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
W・ブレイカー



 《アラクネザウラ》は、味方のドラゴンの攻撃に反応して、マナ回収をしつつ、失ったマナを補填する能力を持つ。
「《ブラキオヤイバ》の攻撃によって、《アラクネザウラ》の能力が誘発する。この能力で俺は、マナゾーンから《母なる緑鬼龍ダイチノカイザー》を回収する」
「……ん? 待って、つまりこれって……」
「そうね、これは……」
 この挙動で、暁も橙の目的を感づいた。沙弓や浬もそれを理解し、旋律を覚える。
 そして柚も、橙のコンボに気づいた。
「……マナゾーンから、好きなクリーチャーを呼べるコンボ、ですか……!?」
 非進化、自然クリーチャーのみという制約はあるが、《ブラキオヤイバ》と《アラクネザウラ》を組み合わせることで、橙はマナゾーンから《ブラキオヤイバ》で踏み倒すクリーチャーを回収し、踏み倒している。
 《アラクネザウラ》の能力でクリーチャーを回収した後は、《ブラキオヤイバ》の踏み倒しだ。橙の手札から、回収されたクリーチャーが飛び出す。
「《ダイチノカイザー》をバトルゾーンへ! そして《ブラキオヤイバ》の攻撃で、《クアトロドン》を破壊!」
「あ……《クアトロドン》が……」
 柚はクリーチャーを潰され、橙へのあと一撃が、遠のいてしまう。
 いや、遠のくどころではなかった。
「《ダイチノカイザー》はグリーン・コマンド・ドラゴン。よって《ココッチ》の能力で、こいつもスピードアタッカーだ! 《ダイチノカイザー》で攻撃、能力発動!」



母なる緑鬼龍(りょっきりゅう)ダイチノカイザー 自然文明 (7)
クリーチャー:グリーン・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 7000
このクリーチャーが攻撃する時、相手とガチンコ・ジャッジする。自分が勝ったら、自分のマナゾーンにあるカードの枚数以下のコストを持つ、進化ではないドラゴンを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー



 《ダイチノカイザー》は、ガチンコ・ジャッジで勝敗を決め、勝利した場合にまなぞーんからドラゴンを踏み倒す能力がある。
 柚と橙は、それぞれ山札をめくる。
「あぅ……コスト2の、《霞み妖精ジャスミン》です……」
「俺はコスト5の《ガイアール・ベイビー》だ。つまりガチンコ・ジャッジは俺の勝利。よって、《ダイチノカイザー》の能力で、マナゾーンからドラゴンを呼び出す。出てこい、《永遠のリュウセイ・カイザー》!」
 《ダイチノカイザー》の能力でマナゾーンから飛び出すのは、《リュウセイ・カイザー》。
 これで橙の場に残るアタッカーは、現在攻撃中の《ダイチノカイザー》に加え、《ココッチ》《アラクネザウラ》そして《リュウセイ・カイザー》。柚にとどめを刺すだけの打点が揃ってしまった。
「《ダイチノカイザー》でWブレイク! 続けて、《リュウセイ・カイザー》でWブレイク!」
 橙は《アラクネザウラ》の能力で手札を増やしつつ、次々と柚のシールドを砕いていく。
 一枚、二枚、三枚四枚と、あっという間に柚のシールドは残り一枚に。
「ト、トリガーは……っ」
 割られたシールドに、S・トリガーを持つカードはない。
 橙は一呼吸おき、柚がシールドの確認を終えてから、《ココッチ》をタップする。
「《ココッチ》で最後のシールドをブレイク! そして、《アラクネザウラ》で——」
「あ、ま、待ってくださいっ! S・トリガーです!」
 橙が《アラクネザウラ》へと手をかけた直後、柚から声がかかった。
「S・トリガー《古龍遺跡エウル=ブッカ》ですっ! アンタップ状態の《アラクネザウラ》をマナゾーンへ! さらにマナ武装5で、《リュウセイ・カイザー》もマナゾーンに送りますっ!」
「……九死に一生を得たか。ターン終了だ」
 なんとか橙の猛攻を止め、このターンは生き延びることのできた柚。
 柚の場にクリーチャーはいない。シールドもないが、それは橙も同じ。
 つまり、このターンで勝負を決められれば、勝ち目はある。
(わたしの手札には、おにいさんが割ったシールドからきた《クアトロドン》がいます……今のマナなら、進化元のドラゴンを出して、すぐに進化して、そのまま攻撃が——)
「先に言っておくが」
「っ!」
 まるで柚の心中を読んで、それを先読みしたかのように、橙は鋭い一言を放つ。
「《ブラキオヤイバ》のもう一つの能力……お前は攻撃する時、可能であれば《ブラキオヤイバ》を攻撃しなくてはならない」
「え……そ、そんな……」
 つまり、柚の攻撃はすべて、《ブラキオヤイバ》に標的変更されてしまうのだ。
 《クアトロドン》のパワーは9000、パワー12000の《ブラキオヤイバ》には勝てない。それ以前に、通したい一撃を《ブラキオヤイバ》に向けられてしまったら、返しの橙のターンにやられてしまう。
 一気に八方塞がりとなる柚。橙は《アラクネザウラ》の能力で、マナからスピードアタッカーを回収している。このターン、仮に橙のクリーチャーを先滅したとしても、意味がない。
 柚の勝利条件は、《ブラキオヤイバ》を除去しつつ、《クアトロドン》の一撃を通すか、どうにかしかして負けないようにしながら、《ブラキオヤイバ》の壁を潜り抜けるしかない。
 現実味があるのは、ほぼ前者だが、
(でも、わたしの手札に除去カードはありません……どうすれば——)
 と、その時。
「ゆず!」
 すぐそこから、叱咤するような、それでいて応援するような、心が温まるような、心地の良い、聞き慣れた彼女の声がする。
「諦めちゃダメだよ! いつも言ってるでしょ! だいじょーぶ、ゆずならこっから逆転できるって!」
「あきらちゃん……」
 顔を上げると、そこにはなぜか笑顔の暁が視界に飛び込む。
 なにを根拠に大丈夫と言っているのか、どのような計画を持って逆転手があると言い張れるのか。
 彼女の言い分はいつだって、根拠がない。いや、そうではない。
 彼女は、柚への信頼を根拠に、そう言うのだ。
 柚には、それがすぐに理解できた。そして、
「……そうでした。わたしは、いっつもあきらめちゃうくせがあるから、直さないと……」
 そう言って、気持ちを切り替える。
 とはいえ、場の状態が変わったわけでもなく、状況が絶望的なのは変わりない。
 だから柚は手札を見る。ここから逆転に繋がる一手を探すべく。
「……あ、もしかしたら、これで……」
 そこで柚は一枚のカードを見つけた。
 一瞬、躊躇う。このカードを使っても、勝てる可能性を引き寄せることができるかどうかは分からない。
 しかし可能性がそこにしかないのであれば、今はこのカードに頼るしかなかった。そう思った瞬間、彼女の躊躇いは消える。
 マナゾーンのカードを一枚、横向きに倒し、柚はそのカードを場に出した。
「呪文《トレジャー・マップ》ですっ!」



トレジャー・マップ R 自然文明 (1)
呪文
自分の山札の上から5枚を見る。その中から自然のクリーチャーを1体選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。



 山札の上から五枚をめくり、その中の自然クリーチャーを手札に入れる呪文。
 本来なら、序盤の動きをスムーズにするために数枚投入しているカードだが、今この状況は、切り札を引き当てるための鍵だ。
 地図を広げ、柚は、勝利を導く宝物を探し出すべく、一枚ずつカードをめくっていく。
「山札を、めくります……っ」
 一枚目、《連鎖類転生目 ブロントヴェノム》
 二枚目、《緑罠類有毒目 トラップトプス》
 三枚目、《古龍遺跡エウル=ブッカ》
 四枚目、《霞み妖精ジャスミン》
 五枚目——《帝王類増殖目 トリプレックス》
「……! きました! 《トリプレックス》を手札に加えますっ!」
 パァッと柚の顔が明るくなり、彼女は切り札を、手札に引き込む。
 そして即座に、その命を吹き込む。

「増殖します、帝王様——《帝王類増殖目 トリプレックス》!」

 現れたのは、古代の帝王。
 三位一体を体現するかの如く、眠る同類の命を呼び覚ますものだ。 
「《トリプレックス》の能力で、マナゾーンからコスト7以下になるように、自然のクリーチャーを二体までバトルゾーンに出します! 出すのは、《連鎖庇護類 ジュラピ》! そして、《龍覇 サソリス》ですっ!」
 《トリプレックス》の咆哮は、古代の命を、太古の化石に眠る魂を呼び覚ます。
 古代の王者による雄叫びによって、地中から小さな庇護される古龍《ジュラピ》と、古龍たちと心通わすシャーマン《サソリス》が現れた。
 この時、《サソリス》の能力が発動する。
「超次元ゾーンから《始原塊 ジュダイナ》を呼び出して、《サソリス》に装備ですっ!」
 超次元の彼方にある、龍の魂が封じられた武器——ドラグハート・ウエポン。
 新たな古代龍を生む、大地の鉄槌、《ジュダイナ》。
 それが、《サソリス》へと装備された。
「《ジュダイナ》の能力で、わたしのターンに一度だけ、マナゾーンからドラゴンを召喚しますっ! マナゾーンから《双撃目 アロサウロ》を召喚!」
 クリーチャーを一気に展開する柚。だがこのターン召喚したクリーチャーはすべて、召喚酔い。このターンに決めることはできない。
 だが、それでいいのだ。
 クリーチャーを展開すること、より正確に言えば——“ドラゴンを三体揃えること”が、柚の目的なのだから。
「ターン終了——する時に」
 柚は、《サソリス》に装備された《ジュダイナ》に、手をかける。
「わたしのバトルゾーンには、ドラゴンが三体います。なので、《ジュダイナ》の龍解条件成立です……っ」
「なに……!」
 柚のバトルゾーンには、《トリプレックス》《ジュラピ》《アロサウロ》の三体。
 《ジュダイナ》が龍解するための条件を、満たしていた。

「《始原塊 ジュダイナ》、龍解——《古代王 ザウルピオ》!」

 《ジュダイナ》は裏返り、その真の姿——ドラグハート・クリーチャーとしての姿を現す。
「龍解、完了です……っ」
「く……っ!」
 歯噛みする橙。それもそうだろう、このタイミングで《ザウルピオ》は、都合が悪すぎる。
「《ザウルピオ》がいる限り、柚ちゃんはとどめを刺されない」
「このターンに、《ザウルピオ》さえ除去されなければ、だな……」
 柚のシールドはゼロ。よって《ザウルピオ》の能力が発動し、柚は今現在、攻撃されない状態にある。
 ゆえに橙が柚にとどめを刺したければ、どうにかして《ザウルピオ》を退かすしかないのだが、
「……《ボルシャック・クロス・NEX》を召喚……ターン終了だ……!」
 橙はクリーチャーを出すだけだ。
 柚自身へのダイレクトアタックは勿論、タップクリーチャーがいないのでクリーチャーへの攻撃もできない。
 なので《ブラキオヤイバ》をタップさせることすらできず、橙はターンを終える。
 そして、これで決まりだった。
 今の橙には、柚の一撃を止める手だてがない。シールドの盾も、《ブラキオヤイバ》の壁もない。彼を守るものは、なにもなかった。
 橙に、古代王の鉄槌が、降り下ろされる——

「《古代王 ザウルピオ》で、ダイレクトアタックです——!」


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