二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 継承する語り手編 目次 ( No.369 )
- 日時: 2016/04/20 02:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
『継承する語り手編』
Another Mythology 本編
59話「あらゆる思惑」
>>214
60話「『popple』」
>>218 >>219 >>220
61話「確立途中」
>>222 >>223 >>224
62話「合同合宿会議」
>>226 >>227 >>228
63話「アイドル」
>>230 >>231 >>232
64話「アカシック・∞」
>>233 >>234 >>235 >>236
65話「知識欲」
>>237
66話「浬vsヘルメス」
>>238 >>239 >>240 >>241
67話「賢愚神智」
>>242
68話「主従のままに変わりたる」
>>243
69話 「強欲街道」
>>246 >>247
70話 「冥界の語り手」
>>248
71話 「暴食横町」
>>249 >>250
72話 「『死神』」
>>251 >>252
73話 「憤怒紛争地帯」
>>255 >>256 >>257
74話 「過ち」
>>258
75話 「ラストダンジョン」
>>259 >>260 >>261 >>262 >>263
76話 「月影神銃」
>>264
77話 「部長」
>>265
78話 「浮沈」
>>266
79話 「青洞門」
>>267 >>268
80話 「押し引き」
>>272 >>273
81話 「対局開始」
>>274
82話 「九蓮天和」
>>275
83話 「緑一色」
>>276
84話 「大四喜」
>>277
85話 「海洋神槍」
>>278
86話 「対局終了」
>>279
87話 「逃げ切り」
>>280
88話 「西入」
>>281
89話 「西場」
>>282
90話 「雀荘」
>>285 >>286
91話 「良ツモ」
>>287 >>288
92話 「二局目」
>>289
93話 「嶺上開花」
>>291
94話 「オーラス」
>>293
95話 「流局」
>>294
96話「暗号」
>>300 >>301
97話「デウス・エクス・マキナ」
>>302 >>303
98話「ボルメテウス・リターンズ」
>>304 >>305 >>306
99話「悔恨」
>>307
100話「侵略」
>>308 >>309 >>310 >>311 >>312
101話「柚の憂い——部室にて」
>>313
102話「柚の憂い——市内にて」
>>314
103話「柚の憂い——屋敷にて」
>>315
104話「譲れないもの」
>>316
105話「柚vs恋」
>>317 >>318
106話「霞の子」
>>319
107話「春陽」
>>320
108話「萌芽神花」
>>321
109話「仲間と友」
>>322 >>323
110話「欲」
>>324 >>325
111話「欲望——知識欲」
>>326
112話「欲望——殺人欲」
>>327 >>328
113話「欲望——戦闘欲」
>>329 >>330 >>331 >>332
114話「欲望——愛欲」
>>333 >>334 >>335 >>336
115話「欲望——強欲」
>>356 >>357 >>359 >>360
116話「2人の3D」
>>361
117話「太陽と萌芽」
>>362 >>363
118話「『蜂』」
>>364
119話「語り手の足音」
>>365 >>366
- 121話「十二新話」 ( No.370 )
- 日時: 2016/04/24 19:00
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
「どうしたの? なんか、ずいぶんとやつれてるけど」
「来るのが遅いわよ。もうこっちは合宿まで終わっちゃったっていうのに」
「ごめんよ。ちょっと、色々あってね……」
リュンは体を起こしながら言う。その言葉には、やはり覇気が感じられない。疲れているようだ。
なぜ彼はここまで疲弊しているのか。そのことと共に、彼には聞きたいことがあった。
「リュン、なにがあったの? 色々って、なんなの?」
「俺たちには言えないことなのか?」
「……そんなことはないよ。むしろ、言わなければならないことだ。それを言うために僕は、追っ手を振り切ってここまで来たんだから」
「追っ手、ですか……?」
「そういえばこの前も、切羽詰った様子で戻ってきたあなたは、そんなこと言ってたわね。連中が追ってくる前に逃げるとかなんとか」
追っ手、連中。
不穏な響きだ。彼はいったい、なにに狙われているのか。
「とにかく話すよ。僕らの新たな脅威となるだろう集団——【十二新話】について」
「【十二新話】……?」
「まず、君たちが無意識に抱いているだろう常識を覆すよ」
そう前置きして、リュンは語り始めた。
「かつて十二神話と呼ばれる偉大なクリーチャーたちが、この世界を治めていたことは知っているよね。その十二神話たちの正統後継者が、君たちの有する《語り手》のクリーチャーであることも」
「えぇ。断片的にだけど、それについては、多少は理解しているわ」
「この世界は、十二神話たちによって秩序が保たれていた。だから、神話と言えば、十二神話のことを指す場合が多いんだけど、神話と呼ばれるクリーチャーは十二体だけじゃない」
「どういうことだ?」
「僕らの世界では、神のような存在として、説話の中で語られるような強大な力を持つクリーチャー——書いて字の如く、神話の如き力を持つクリーチャーのことを、神話のクリーチャーと呼ぶ。そして、そういった神話のクリーチャーは、多く存在していた。多くと言っても、唯一無二の存在であることは変わりないし、他のクリーチャーと比べれば、単一個体の数は一体だけと、少数だったけど」
通常のクリーチャーよりもさらに強大な力を持つクリーチャー。神話の中で語られるかのような力を持つ、神話のクリーチャー。
それが彼らの世界の根幹を成す存在だ。
「えっと……つまり、神話のクリーチャーっていうのは、十二体だけじゃなかった、ってことですか……?」
「そういうこと。数ある神話の中でも、この世界を統治するに相応しいとされ、選ばれた十二体のクリーチャーが、十二神話と呼ばれる存在だ。他のクリーチャーは、強いことには強いけど、世界を統治するには向いてなかったってこと」
力があることと、他者を操ることは別物だ。
統治、統率。そういった、他者に働きかけ、行動する方向を示すことは、一種の才気も要する。単純に力があるだけでは務まらない。
だからこそ、十二神話と、そうでない神話に分かたれたのだろう。
「神話のクリーチャーは、様々な理由でもう僕らの世界にはいないわけなんだけど、神話のクリーチャーの存在が完全消滅したわけじゃない。彼らの遺産とも言うべきものが残っている」
「? どういうこと?」
「語り手よ、暁」
沙弓が答えた。リュンも頷いている。
神話のクリーチャーはもうあの世界にはいない。しかし、彼らが残した、彼らの遺志を継ぐ後継者が残っている。
コルルやテインなどの、語り手のクリーチャーがそうだ。彼らがいる限り、神話の存在は完全に消えたとは言えない。
「前置きが長くなったけど、ここからが本題だ。【十二新話】はクロノスというクリーチャーを頭にした語り手の集団。かつての十二神話というシステムそのものを利用しながら、十二神話の席を総入れ替えしようとしている」
「席を、入れ替える……? どういうこと?」
「十二神話は、ゼロを含む各文明二名ずつ、男神六柱、女神六柱、合計十二の神々から成り立っている。ゼロ文明からは《支配神話》と《生誕神話》、光文明からは《慈愛神話》と《守護神話》、水文明からは《海洋神話》と《賢愚神話》、闇文明からは《冥界神話》と月光——《月影神話》、火文明からは《太陽神話》と《焦土神話》、そして自然文明からは《豊穣神話》と《萌芽神話》。以上十二の神話が、十二神話と呼ばれるクリーチャーたちだよ」
「ほとんどは知っているが、《支配神話》《生誕神話》《守護神話》《豊穣神話》は初めて聞くな」
「そこはまだ僕らも存在を把握していないからね……問題はそこじゃないんだけど。【十二新話】は、これら十二名の神話の席をすべて総とっかえして、自分たちがそこに座ろうとしている」
「え、ってことは、コルルたちはクビってこと?」
「彼らとしては、そういうことになるんだろうね。過去の十二神話の語り手も否定する存在だった。ゆえに、【十二新話】と呼ぶんだろうね」
新たな十二神話を創り出し、新たな統治と調和をもたらさんとする集団、【十二新話】。
旧来の十二神話の力をそのまま継承している語り手を有する暁たちとは、真っ向から衝突するような相手だ。
語り手の敵は語り手。知らなかったからだが、予想もしていない構図だった。
「でも、分からないわね。私たちの語り手は、十二神話の後継者って話だけど、それはつまり、リュンたちの世界にもう一度秩序を取り戻すための存在ということ。だけど、私が神話のクリーチャー——アルテミスと対面して、ドライゼと交わす言葉を聞いて、思ったわ。ドライゼたち語り手は、自分たちの主人について語り継ぐだけじゃない。ただ、かつての神話を継承して、もう一度秩序を取り戻すだけの存在じゃなかったんだって」
「それは俺も感じたな。あいつらはただのシステムじゃない。意志と人格を持った生き物だ。今でこそ、主人の力を語り継ぐという使命があるようだが、それ以前からの思いや交流はあったみたいだ」
「だから、とりわけ神話と深い関係にあった配下のクリーチャーが、語り手に“近い”存在であったと、推理することはできるわ。これはどの神話でも言える話。だけど、語り手が秩序を再構築するための機能っていうのは、十二神話たちがこの世界を去った時に、彼らに与えた使命なんじゃないのかしら。《語り手》という名前も、その使命に沿って付けられたと考えられる。だから、その使命を背負っていない神話の配下のクリーチャーは、語り手とは呼べないと思うの」
十二神話という世界の秩序を背負うクリーチャーだったからこそ、彼らには後継者である語り手が必要であった。
しかし十二神話に属していない神話は、統治という役目がなかったはず。にもかかわらず、語り手が存在しているのは、些か不自然に思えた。
そもそも語り手は、外界からの力がなくては目覚めることがない。まさか、他の自分たちのような人間が、あと十二名もいるとでも言うのだろうか。
その疑問にリュンは、首を振りつつも、肯定する。
「沙弓さんの推理は概ね当たってるよ。だけど、君らの考える語り手と、連中の語り手はまた違うんだ。」
「語り手が、違う……?」
「多くの神話は、なんらかの形で自分の存在を、その断片を、世界に残している。十二神話は語り手や神話継承という形でその断片を残したわけだけど、その形を取っているクリーチャーは多いんだ」
「十二神話でなくても?」
「十二神話でなくても、だ。自分の子孫を残したいという思いは、どんな生き物にでもある。クリーチャーだろうと、神話だろうと、それは同じ。自分の宝物、技術、意志などを、誰かに継がせたいと思うのは、知性ある生き物なら当然のことだ。だから、十二神話の語り手とは生まれた経緯も、与えられた使命も、本質的なものもまるで違うけれど、十二神話でない神話のクリーチャーにも、その神話の後継者となり得る語り手が存在するんだよ。ただし、これは沙弓さんの言った通り、連中は統治のための語り手ではないから、元から封じられていない。単に、十二神話の遺志を継いでいるだけだ」
役割や本質は違えど、十二神話の語り手も、十二神話でない語り手も、どちらも語り手として存在している。
そして十二神話ではない語り手は、十二神話の語り手とは違うがゆえに、単独でも行動できる。封印という手順を踏んでいない。
「まとめると、《時空の語り手 クロノス》を筆頭に、十二神話以外の語り手で構成された十二名の語り手集団が、【十二新話】だ。その目的は、かつて十二神話であった神話の語り手を排除して、自分たちが新しい十二神話となること」
今の語り手を否定し、新しい語り手の十二神話を構築する。
その意味を本当の意味で理解できている暁たちではなかったが、それでも、【十二新話】が新しい脅威となることだけは分かった。
そんな彼女らに、リュンは付け足すように言った。
「あと、これは僕も驚いたんだけど……【十二新話】の一人として、ウルカさんがいたんだ」
「え? ウルカが!? なんで?」
「それは僕にも分からない。【十二新話】の組織としての目的は、十二神話のシステムをそのままに、新たな十二神話を配置して新しい秩序を創るってことだけど、彼女がそんなことに興味を示すとは思えない」
ピースタウンの工房で機械を弄ったり服を仕立てたり、そんな生活をずっと続けていて、この世界のこともリュンらに丸投げしていたような人物だ。
とても、新たな秩序のために協力するような人柄ではない。
「僕の予想では、【十二新話】は一枚岩じゃない。たぶん、それぞれの語り手に思惑がある。クロノスは、そこに付け込んで語り手たちを集めたんだろう」
つまり、ウルカもなにか個人としての目的があるのだ。もしくは、弱みを握られてクロノスに利用されている。
それがリュンの考えだった。
今まで対立的に話を進めていたところで、おずおずと柚が手を上げた。
「あ、あの。でも、同じ語り手さんたちなら、仲間になれるんじゃ……」
「無理だね」
柚の意見を、リュンは一瞬で斬り捨てた。
十二神話とそうでない神話。立場こそ違うが、どちらも同じ神話で、同じクリーチャーだ。手を取り合えることもあるはずだと、柚はそう言いたかったようだが、リュンからすれば、それはあり得なかった。
「クロノスは従来の十二神話と、その語り手たちを信用していない。僕の考えとは真っ向から衝突している」
一度は手を組むことも提案されたが、それはリュンの方から断っている。相手がどうこう以前に、リュンの方針として、彼らとは相容れない。
「十二神話は、世界を治めるために選ばれたクリーチャーたちだ。その語り手たちも、彼らの意志を受け継いでいる。逆に言えば、十二神話以外の神話とその語り手に、この世界を治めるだけの力量と器はないと言える」
「流石に暴論じゃないか? どうやって十二神話とやらが選ばれたのかは知らないが、適正に近い神話もいたようにも思えるが」
「それは否定しないけど、そうとも言い切れないよ。実際に彼らに会えば分るさ。連中は頭のネジが何本も飛んでる連中だからね。僕も集団リンチされたうえにいつまでも追い回されたし、まともに会話できるだけでいい方さ」
「確かにあの時のリュン、ボロボロだったよね……」
かなり急いで転送されたので、詳細には思い出せないが、それでもかなり汚れて傷ついていたことは思い出せる。
あそこまで酷く手傷を負うとなると、話が通じないというのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
それも、十二神話と違い、この世界の秩序を再構築するために選出された語り手ではないからだろう。
「新たな敵……ね。この前の『蜂』といい、リュンの言う【十二新話】といい、穏やかじゃないわね」
独自の調和を創りだそうとしている、【神劇の秘団】。
従来までの統治を侵略し、革命を起こす、【鳳】と【フィストブロウ】。
この世界のあらゆる生命を滅し、秩序すらも壊す、【蜂群崩壊症候群】。
そして、十二神話ならざる語り手たちによって過去の機能をなぞろうとする、【十二新話】。
この短期間で、様々な勢力が一気に姿を現した。
とても、穏やかでいられる状況ではない。
「それで、今日はどうするの?」
「【十二新話】を叩く。僕一人じゃどうしても多勢に無勢だけど、君らなら連中を打破しうる力があるからね。君らの有する十二神話の語り手は、ぽっと出の語り手に負けるほどやわじゃない。そして彼らを使役する君らは、己を使役する者がいない連中にはない力がある」
「最近やたらめったら褒めそやすけど、褒めてもなにも出ないわよ?」
しかし、自分たちと【十二新話】で決定的に違う点は、クリーチャーとして使役する者がいるか否かだ。
その違いが吉と出るか凶と出るかは自分たち次第だが、【十二新話】との差をつけるならば、それを生かすことは必須と言えるだろう。
「僕の話は以上だ。連中の狙いは最初から僕らに固定されている。他の集団よりも、危険度も優先度も上だ。だから、早急に迎え撃つ必要がある」
「いきなり大事になったな。お前のすることはいつだって唐突だったが」
「もう今更ね。仕方ないから付き合ってあげるわ。ドライゼたち以外の語り手っていうのにも、少し興味があるし」
「私はウルカが気になる。ウルカはコルルたちのことは知ってたんだよね? なのに、なんで私たちと戦うようなことをするんだろう……」
「わ、わたしも、気になります……」
皆、それぞれの思い、考えを秘めている。
それらを確かめるためにも、彼ら彼女らは、何度だって行かなければならない。
クリーチャーたちの住まう、超獣世界へ。
「じゃあ、転送するよ。恋さんには詳しい話はしてないけど、氷麗さんを通して話は行ってるはずだから、転送時に合流して、君らが会うのは向こうになると思う」
「やっぱりあいつも来るんだな……」
「あと一騎君も今回は来るって」
「え!? 一騎さんも!? やったぁ!」
「なんか緊張感ないわね。そこがいいんだけど」
リュンは端末を操作する。
たった一瞬だ。体感ではほんの一瞬のうちに、転送は終わる。
次に目を開けた時、そこにはいつもの見慣れた面々がいるはずだ。
だから、祈ることも、願うこともなく、特別なことなどなにもなく、いつものように、身を任せる。
しかし、忘れてはならない。
いつだって、“いつものようになる”とは、限らないことを。
たった一瞬、されど一瞬。
刹那の時でありながら、悠久の時とも感じられる時の流れを経て、いつものように仲間と共にあるのか。
次に目を開いた時、そこには誰もいない。
そんなことだって、起こりうるのだ。
そして、それが今だということも、あり得るのだ——
- 122話「離散」 ( No.371 )
- 日時: 2016/04/25 01:21
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
「やーっとできたよ」
ウルカはキャスケット帽をかぶったまま、額の汗を拭う。
彼女の目の前には、巨大な大砲が鎮座していた。大量のコートがその大砲に繋がれており、なにかの機械と接続している。
そこに、クロノスが現れた。
「遂にか。今まではこちらに来たところを追跡し、攻撃していたが、それがあればこちらに来たと同時に迎撃できるのだな?」
「理屈上はそうだね」
手にしたスパナを放り投げて、ウルカは地べたにそのまま、仰向けになる。
「一週間かけた甲斐あって、精度は期待していいよ。寸分違わず、正確かつ確実に、転送タイミングに合わせて射撃できる」
「威力はどうだ?」
「……どーだろ」
曖昧に答えるウルカ。その返答が気に食わなかったのか、クロノスは鋭い視線で彼女を睨む。
ウルカはあっけらかんとしていたが、しかし自己弁護するように言った。
「わかんないかなー。こういうのって、単純な攻撃力とかの問題じゃないんだよね。ダメージ計算なんだよ、要するに」
「ダメージ計算? どういうことだ」
「超簡単に言うとね、相手に与えられるダメージは、自分の攻撃力と相手の防御力を計算に組み込んで、その結果として算出されるわけ。つまり、あたしは超兵器を作っていくらでも攻撃力を上げられるけど、相手の防御力次第では、ノーダメもあり得るってこと」
「それは、この砲に効果はない、ということか?」
「ノーダメってのは極端な例だけど、もしかしたらダメージ薄いかもね。まあでも、みんなのリンチは結構効いてたみたいだし、手負いの今なら、致命傷を与えることも可能な気はするけど」
どこか他人事のように言うウルカ。今だけではない。ずっとこうだ。
そんな、他人事の調子のまま、彼女は続ける。
「あいつの力って、あたしもよく知んないからさ。とにかくすごい奴ってのはなんとなく分かってるけど、数値化できてないし、まだなにか隠してるっぽいし。温存された力を使われたりしたら、この『ウルカバズーカ試作1号』も、ただの玩具になるかも」
「……まあいい。奴は本来の力を解放していないようだが、温存しているようには見えなかった。私の見立てでは、なんらかの理由で使えないと見た。気にするほどのことではないだろう」
「ふーん……あ」
「どうした?」
「反応めっけ。十分後に大気圏突入、その一分十三秒後には射程圏内突入だよ」
どこからか取り出した端末と、クロノスの吊り下げている懐中時計を見比べて言うウルカ。
それを聞いたクロノスは、ローブを翻して、兵に出撃命令を下す指揮官のように踵を返した。
「今までは逃げられてばかりだったが、今度こそは仕留めてみせる。古び腐った十二神話の語り手どもも抹殺対象だが、連中を導く奴は真っ先に消さねばならない。ウルカ、総員に伝達せよ」
「白いのと緑のはたぶん動かないよ? 特に酒乱ジジィは偉ぶって、酒と一緒に発酵してるよ」
「なら出れる者だけで構わん。お前はその砲の準備に取り掛かれ。それが終わり次第、チオ、レブンゲ、パンデルム、シコメ、ラグナ——そしてウルカ。お前たち六名で出動せよ」
名指しで呼ばれた。
ご指名に預かり光栄の至り——とは思わない。ウルカは、自分が前線に立つようなタイプだとは思っていないし、後ろで機械を弄ってる方がよっぽど性に合う。
しかしそれでも、出なくてはならない。
それが、“彼”のためになるのならば。
燃え上がる使命感と、慣れないことへの惰性から、ウルカはやや気の抜けた返事を返した。
「……はーい」
そして彼女は、自作の大砲に向かい合い、調整を開始する。
「あーん……?」
「どう致しましたか、主」
「見ろよガジュマル、あれあれ」
「……あの光は……」
ガジュマルは、肩から這い出ている自分の主——『蜂』と自称し、そう呼称される異形のクリーチャー——の指し示す方角を見遣る。
そこには、一筋の光が天に向かって伸びていた。
その光はしばし柱のように立っていたが、やがて消える。そして、光の破片が、四方八方に散った。
「砲撃、のようですが」
「あぁ、やけに大掛かりだなぁ。俺らの蜂の巣からも見えるとか、派手すぎて笑うしかないな」
「あの砲撃の意味は一体……」
「さーなー? どっかの馬鹿共が騒いでんじゃね?」
適当に返す『蜂』。自分から話題を振っておきながら、もう興味が冷めたようだ。
「それよりも、今日も動くとしようかね」
「……彼女ですか?」
「おうおう、その通りよ。もう俺、あの子に惚れちまったわ。寝る時も喰う時もあの子の身体が忘れられん。なにがなんでも欲しいのよ」
羽音が一段と大きくなる。興奮しているのだ。
「最近まったく音沙汰なかったけど、そろそろ会えないかねぇ。数少ない【蜂群】の面子を総動員して、頑張っちまおうか」
『蜂』はカチカチと顎を鳴らすと、羽音をさらに大きくして、さらに大声で叫んだ。
「おーい! ファイ! ちょっと来いや!」
「はちさん、どうしたの?」
「うおっ、意外と近くにいたんか」
ぬっと闇の中から出て来たのは、少年だった。
さらさらの金髪に、エメラルドグリーンの瞳。背丈は低く、幼げな雰囲気を醸し出しているが、顔立ちは整っている。
ファイと呼ばれた少年は、『蜂』の異形に臆することもなく、彼を見つめては小首を傾げている。
「今日もおしごと?」
「おうよ。お前にも頑張ってもらうかんな。頼むぜぇー?」
『蜂』がカチカチと顎を鳴らす。
それを聞くと、ファイは目を輝かせて、
「はちさんのお願いなら、ぼく、がんばるよっ」
「その意気その意気。ファイはいい子だ。よしよししてやろう」
「えへへ……」
細長い足をガジュマルの肩口から伸ばし、ファイの頭を掻き回すように撫でる『蜂』。どう見ても刺々しい足が食い込んで痛いはずだが、ファイは気持ち良さそうに目を細めている。
そんな様子を見て、ガジュマルは唸る。
「むぅ……」
「なんだガジュマル、お前もしてほしいか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ガジュマルさんも、頭なでなでしてほしいの?」
「違う」
巨大な蜂が少年の頭を撫でるというシュールな光景に困惑していただけだ、と内心でも反論しておく。
「さて、お遊びはこの辺にしとくか」
「おしごと、行くの?」
「そうだ。お前には期待してる、頑張れよ、ファイ」
「うんっ、がんばる」
ファイはエメラルドの瞳を輝かして、子供っぽい無邪気な笑みを浮かべる。
それは世界の滅亡だとか、新たな統治だとか、そんなこととはまるで関係のない、純真無垢な心からの笑み。
その動機も、マクロなものではない。素朴で、純朴で、小さなものだ。
「はちさんの——“ともだち”のために」
「……?」
暗い森の中を歩く、一人の男がいた。
男は脚を止め、木々の切れ間から覗く空を見上げ、顔をしかめる。
「なんだ、あの光は……?」
天に昇る光の柱はやがて消えたが、同時に、違う光がいたるところへと飛び散った。
そのうちのいくつかは、この森の方へと落ちていく。
「【鳳】か……? いや、連中があんな大掛かりな兵器を使うとは思えねぇ。だったら、ミリンさんが言ってた、なんとかって組織の仕業か……?」
しばし考え込む男だが、すぐに思考を放り投げた。
こんなことは考えても仕方ないことだ。あの光がなんなのかも分からない。何者の仕業なのかも分からない。分からないことを考えても仕方ない。
あれが【鳳】の仕業なのならば一考の価値はあるものの、その可能性は低いと結論付けた。可能性が低いということは、その可能性は切り捨てたということとほぼ同義だ。
それよりも今は、その『鳳』に追われている仲間たちのことの方が、優先事項だ。
こんなところで立ち止まっている暇はない。一刻も早く、仲間たちの安否を確認しなければならない。
男は止めた足を再び動かし、暗い森の中を進んでいく。
衝撃が走った——気がする。
たった一瞬の出来事、刹那の内に行われることであるがゆえに、今までがそうであり、今もそう思っているからこそ、この感覚は奇妙だった。気がする、だなんて曖昧な表現も、そのためだ。
本当に衝撃が走ったのかどうかも分からない。それでも、そんな気がしたのだ。
仲間たちの声が聞こえてくる。
——なんだ!? なにが起こってる——
——なんか、ヤバそうね——
——はわわわ……あ、あきらちゃん——
——……変な感じ、する……身体が、揺れて……——
——どこかに、吹き飛ばされる——
なにが起こっているのかは分からないが、今が非常に危険な状態にあることだけは分かった。
踏ん張っていなければ、身体がどこかに飛んで行ってしまいそうだ。
身体にかかる力はどんどん大きくなり、踏ん張るのも辛くなってきた。もう、限界だ。
——なにかが直撃して……まずい、安定しないし、保存状態を維持できない……飛び散るぞ——
誰かが叫ぶ声が聞こえた。
すべては一瞬の出来事。
その刹那の間に、仲間たちは皆——バラバラになった。
- 122話「離散」 ( No.372 )
- 日時: 2016/04/25 01:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
「——うぅ」
「暁! 起きたか!」
「うんぅ……コルル……?」
こちらを覗き込む顔が飛び込んでくる。コルルだ。
いつもの彼がそこにいることに安心しつつ、暁は体を起こす。
「う、うーん……ここは……?」
「よく分かんないけど、火文明の領地みたいだ」
「あぁ、うん……」
「大丈夫か、暁? ボーっとしてるぞ? ずと気絶してたし、どこか打ったのか?」
「気絶……?」
そうか、自分は気絶していたのか。
「なんか最近、気絶すること多いな、私……って、そんなことよりも!」
ハッと思い出す。そして、辺りを見回した。
そこには、誰もいない。岩肌が剥き出しの地形だけが広がっている。
「みんなは!? 柚、恋! 部長、浬!」
「……暁が気絶してる間に少し見て回ったけど、誰もいなかったぞ」
「そ、そんな……」
仲間がいない。
いつもはいるはずも皆が、いない。
「なんで……どうして、みんないないの……?」
「転送中に、トラブルがあったんだと思う。ほら、めちゃくちゃ揺れただろ?」
「揺れたなんてもんじゃないよ。っていうかコルル、あの時いたの? いやそもそも、なんで今いるの?」
「なんでって、リュンがこっちに暁たちを送ってくるのと同時に、オレたちはデッキに入るようになってるんだ」
「あ、そうなんだ……いつも気付いたらいるから、どうなってるのかと思ったよ」
一つ謎が解けた。
しかし、解きたい謎ではなく、むしろどうでもいい謎が解けてしまったので、まったく嬉しくない。いや、仲間が一人でも増えたということに関しては喜ばしいことなのだが。
「よく分かんないけど、あの時の揺れ? が原因なのかな?」
「たぶんあれ、外から攻撃を受けたんだ。転送の仕組みはオレには分からないけど、あの時の衝撃は、そんな感じだった」
「攻撃を……それでみんな、バラバラになっちゃったの?」
「たぶんな」
あくまで予想でしかない。真実は分からない。
他の要素も合わせてより詳細に考えることもできそうだったが、暁にそれができるだけの頭はなかった。
それになによりも、今ここにいない仲間たちのことが気にかかる。
「みんな、大丈夫かな……」
沙弓と浬、そして一騎は心配いらないが、柚が特に心配だ。恋も放っておくと危なっかしいところがあるので、気にかかる。
もっとも、皆から一番心配されているのは、暁本人なのだろうが。
「……暁!」
「え、なにコルル? 急に大声なんて出して」
「なにか来るぞ! 遠くから、なんかやかましい音が聞こえないか!?」
「音? んー……」
コルルに言われて耳を澄ます。
すると確かに、ずっと遠くの方からなにか聞こえてくる。
空気を震わせるような、振動音。地を空を伝って、それは暁の耳に届く。
「なんだろ、この音。車? いや、違う、もっと激しい……バイク?」
バイク。
そのワードで、暁はハッとした。
脳裏によぎる赤い機体。
轟くような爆音を響かせ、音速を超える速さで駆け抜ける、侵略者の姿を想起する。
嫌な予感がした。しかしもう、逃げることはできない。
音が停止する。
音源は少し小高い崖の上だ。
眩しい太陽を背に、燃えるような赤いバイクと、ライダースーツの人物が、立っていた。
「——軽いツーリング気分で流してただけなんだが、まさか、また会うことになるとはな」
バイクを止め、フルフェイスのヘルメットを付けたまま、崖を滑り降りる。
「久し振り、というほどでもねーな」
くぐもった声が届く。しかしその姿から、とめどない威圧感が迸っていた。
「【フィストブロウ】の残党を狩るついでにしては、デカいボーナスだ」
「残党……? なに、どういうこと?」
「てめーにゃ関係ねーよ。他人の心配する前に、てめーの心配でもしてろ」
ザッ、と。
こちらに一歩、歩み寄ってくる。
「前に言ったこと、覚えてるか?」
「忘れた……けど、私をスカウトするとかなんとか……」
「覚えてんじゃねーか。その通りだ」
また一歩、近づきながら、言葉が放たれた。
「【鳳】として、音速隊のヘッドとして、お前の力には興味がある。語り手とやらもそうだが、お前自身のその眼は悪くない。前よりも、よりギラギラしてやがる。本質的な力を求めてるみてーにな。力や欲望の権化を目の当たりにでもしたか?」
「関係、ないよ……」
「ふんっ。まあ、お前が今までなにを経験してきたかなんて興味ねーがな。力は奪い取る、そのための力だ。そのための——侵略だ」
その瞬間だ。
じわりじわりと暁に突き刺さっていた威圧感が、一気に解き放たれる。
「う、ぐ……!」
なにもされていないはずなのに、体に痛みが走ったように、熱い。
思わず後ろに下がってしまう。本能が恐怖を刺激する。
暁がたじろいでいる間にも、向こうは少しずつ距離を詰めてくる。敵対心をまざまざと見せつけ、戦い、奪い取ることを表明するように、威圧感を放っている。
そっとデッキケースに触れる。しかし、安堵は訪れない。
(恋を3ターンで倒した相手……私に、勝てるのかな……)
超高速、超火力に特化した能力、侵略。
あの恋の防御網すらをも振り切って、3ターンで決着をつけてしまった力だ。
速さでも勝てない。防御力は恋と比べるべくもない。
それでも、戦わなければならないのか。
「おい、ボケッとしてんじゃねーぞ!」
「暁!」
「っ……!」
一歩一歩詰めてきた距離が、一気に縮まる。
その瞬間だ。
スピードに支配された神話空間が、開かれた。
「さぁ、侵略開始だ——!」
「《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚!」
始まってしまったデュエル。
ハンディキャップと称して暁は先攻を取ったが、1ターン目にできることなどない。相手は《ブレイズ・クロー》を早くも呼び出し、3ターンキルのための一歩を踏み出した。
「私のターン……マナチャージして、ターン終了だよ」
2ターン目。このターンも暁は、マナチャージだけで終える。
「ドロー——二週目! 《一撃奪取 トップギア》を召喚!」
「う、まずいよ……」
《ブレイズ・クロー》に続き、2ターン目の《トップギア》が呼び出され、順調に3ターンキルのルートを辿っている。
迫り来る脅威はもう目の前まで迫っているというのに、暁はまだ、なにもできていない。
「《ブレイズ・クロー》でシールドブレイクだ!」
「トリガーは……なしだよ」
「ターン終了だ」
シールドが一枚、削り取られた。
たった一枚、されど一枚。
この一枚のシールドの重みは、いつものシールド以上に重い。手札補充感覚で喰らう一撃とはまるで違う。
「マナチャージして、《コッコ・ルピア》を召喚するよ。ターン終了」
暁は3マナ溜まると、《コッコ・ルピア》を呼び出す。
手札には《ボルシャック・NEX》がいるので、次のターンには二体の《コッコ・ルピア》と《ボルシャック・NEX》で、質の高い攻撃と大量展開が見込める。
もっともそれは、次のターンがあればの話だが。
「ドロー——三週目!」
来たる3ターン目。
侵略者たちが、暴走する時が来た。
「さぁ、ファイナルラップだ——点火!」
マナにカードが置かれる。それは、走るためのガソリンだ。
《トップギア》が力を行使する。それは、駆動のためのオイルだ。
火の力を吸収し、轟速の彼方より、赤き侵略者がやって来る。
「ハンドルを握れ! クラッチを回せ! エンジンに火を点けろ! 《轟速 ザ・レッド》、発進!」
赤い機体に跨った、轟速の侵略者が、戦場へと現れた。
彼らにとっては、走るためのサーキットという、戦場に。
「しっかり味わってけよ。最高速度、最大出力! 伝説に名を連ねる赤き轟速の侵略者! これが、【鳳】の頂点に君臨する侵略だ——加速!」
《ザ・レッド》は爆走する。限界を超えてもなお、加速をやめない。
スピードの先にある伝説を求め、走り続ける。
「メーターを振り切れ! 限界を超えろ! 赤き領域よ、轟け! そして——侵略せよ!」
ギュンッ、と。
一段と《ザ・レッド》が加速する。音を張り裂き、風を切り裂き、危険域をも超えて、駆け抜ける。
そして彼は、到達した。
赤い轟速の伝説へと。
「突入——《轟く侵略 レッドゾーン》!」
- 123話「略奪」 ( No.373 )
- 日時: 2016/04/25 22:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
轟々と燃え盛る炎の中から——その炎を纏いながら、赤き機体が飛び出す。
《ザ・レッド》は己のバイクと一体化、巨大化し、赤き伝説として走る。
「で、出た……!」
暴走した侵略者、《レッドゾーン》。
恋との対戦でも、コノクリーチャーがいたからこそ、3ターンキルなどという荒業をやってのけた。
超高速にして超火力。スピードを突きつめた破壊力が、暁にも襲い掛かる。
「《レッドゾーン》がバトルゾーンに出た時、相手の最もパワーが高いクリーチャーをすべて破壊する! 《コッコ・ルピア》を破壊!」
「《コッコ・ルピア》が……!」
瞬く間に、爆走する《レッドゾーン》に轢かれ、《コッコ・ルピア》は無残な姿で散っていった。
これでは、次のターンに《ボルシャック・NEX》を出すことができない。
いや、それ以前の問題だ。
「周回遅れを待つつもりはない。このまま走り切るぞ……《レッドゾーン》でTブレイク!」
拳で一撃、脚部で二撃。一気に三枚のシールドが削り取られた。
「《トップギア》で最後のシールドをブレイク!」
続く《トップギア》の放つ弓矢が、残った一枚のシールドを撃ち抜く。
シールドゼロ。まだ相手の場には《ブレイズ・クロー》が残っている。
このままでは、恋と同じように、3ターンで終わらされてしまう。
「う、く……まだ、だ!」
「あん?」
「S・トリガー! 《熱血龍 バトクロス・バトル》召喚! 《ブレイズ・クロー》とバトル!」
《トップギア》に砕かれたシールドから、龍が飛び出す。
《バトクロス・バトル》は燃え盛る拳を振りかざすと、《ブレイズ・クロー》を殴り飛ばした。
「《ブレイズ・クロー》は破壊だよ!」
「……はんっ、3ターンキルは免れたか」
どこか不貞腐れたように吐き捨てる。
宣言はしていなかったが、3ターンで決まるルートを辿っていながら、それが達成できなかった。S・トリガーという不確定要素による妨害とはいえ、最後の最後で決まり切らなかったことに不満があるのだろう。
「さらに! 私の火のドラゴンがバトルに勝ったから、《太陽の語り手 コルル》をバトルゾーンに!」
《バトクロス・バトル》の勝利によって、暁の手札から《コルル》が飛び出す。
暁たちにとっての、希望の星となる、語り手のクリーチャー。
しかし、
「これでターン終了だが……もうレースは終了だな」
「…………」
「《トップギア》を殴り返すところまでは行けるだろうが、今のお前では《レッドゾーン》までは届かない。諦めろ」
「……くぅ」
『暁……』
小さく唸る暁。
確かに、その通りだ。
《コルル》を出したものの、今のマナは4マナ。《コーヴァス》どころか、ドラゴン一体だって出せない。
「……呪文《ネクスト・チャージャー》を使って、手札を入れ替えるよ! チャージャーはマナへ!」
シールドブレイクで増えた手札を、山札の下に送り込む。そしてカードをドロー。
「《コルル》で《トップギア》を攻撃!」
続けて、《コルル》に指示を飛ばす。《コルル》は飛翔し、隙だらけの《トップギア》を殴り倒した。
しかし、そこまでだ。
「……ターン、終了……!」
「終わりだな」
そう静かに告げると、スピードを落とすかのように、声のトーンが下がる。
今までの荒々しい走行とは違う。確実にこちらを潰す。そんな、殺気が伝わってくる。
「特別だ、追加でもう一周だけ走ってやる。《音速 ニトロフラグ》を召喚」
《レッドゾーン》の走るサーキットに、新たな侵略者が立つ。
そしてその侵略者は、《コルル》に向かって駆け出した。
「《ニトロフラグ》で《語り手》を攻撃、《ニトロフラグ》はパワーアタッカー+2000、攻撃中のパワーは5000だ。《語り手》を破壊!」
『くっ、ぐぁぁ!』
「あぁ! コルル!」
破壊され、墓地に落とされる《コルル》。
これで、この盤面は完全に侵略されてしまった。
シールドも、クリーチャーもいない。
暁は赤き侵略者たちに、成す術なく侵略されてしまったのだ。
サーキットの向こうから、燃え上がる機体が駆けて来る。
暁にとどめを刺すために。
完全に、完璧に、完膚なきまで、侵略を果たすために。
赤き轟速の伝説が、最後の一撃を放つ。
「《轟く侵略 レッドゾーン》で、ダイレクトアタック——!」
神話空間が閉じられる。
全身に硬い地面の感触が伝わってくる。気を失ってはいない。意識はある。しかし、体は動かない。地に伏せたまま、動かせない。
「とりあえず、力でねじ伏せた。どうだ? 侵略の力は。てめーの理想に近いか?」
「…………」
「だんまりかよ。まあいい」
ザッザッと地面を踏み締める音が、地中を通して聞こえる。
こちらに近づいているのだ。逃げようにも逃げられない。
体は動かない。よしんば動けたとしても、とても逃げ切れる気がしない。相手はクリーチャー、自分は生身の人間だ。肉体的な差が大きすぎる。
「お前は見込みはある。人間とはいえ、強くなろうとする意気込み自体は悪かねぇ。ちっとばかし調教は必要だろうが、その辺はインペイにでも任せるか」
ザッ、と音が止まった。
足を止めたのだろう。心なしか、影がかかったように暗い気もする。
首と眼球を精一杯動かして、見遣る。
そこには、暁に手をかけようとする、侵略者の姿があった。
「……侵略完了——」
抵抗する力も残っていない。このまま自分は、侵略者に飲まれてしまうのか。
侵略されて、しまうのか。
その時だ。
「やめるんだ!」
張り上げるような声が響く。
聞き覚えのある声だ。
確か、前にもこんなことがあったような気がする。
なんとか首を回そうとするが、上手く体が動かない。声の主が見えない。
しかし、ヘルメットの向こうにある吃驚で揺れた眼差しは、しっかりと見えた。
「……なんでてめーがいるんだ?」
ぽつりと、ガソリンが漏れ出るように、呟いた。
それほどに驚愕することが起こっているのか。
暁は体を動かす。寝返りを打つようにして、仰向けになる。
そして、遂にその姿を見た。
同時に、侵略者もその名を呼んだ。
「生きてたのかよ——メラリヴレイム」
ザザッと、侵略者と同じように崖から滑り降りるのは、メラリヴレイム——メラリーだった。
「てめーは轢き殺したと思ったんだがな。なんで生きてんだ?」
「さて、どうしてだろうね」
高圧的な言葉にも臆することなく、メラリーは飄々と返す。
だが、ふっ、とその眼が鋭くなる。
「私のことなんてどうでもいい。その子になにをするつもりだ」
「なにを? てめーがそれを知ってどうするっていうんだよ」
「止めるさ。そのためにここにいる」
暁を挟んで、二人は睨み合う。
全身から放たれる覇気、殺気は、暁に向けたもの以上だ。近くにいるだけで、息苦しくなる。
「今更のこのこ出てきやがって……一度轢き殺されたことを、もう忘れたみてーだな」
「本当は君たちの前に姿を現すつもりはなかったんだけどね。けれど、これを見て見ぬ振りはできない。彼女は、私も目を付けていたからね」
「あん……?」
訝しむような声を上げる。
——私も目を付けていたからね——
確かに、メラリーはそう言った。
その言葉の真意がつかめない。ハッタリで適当なことを言っている……風にも見えない。
なにか怪しい。今更こうして再び現れたことといい、生きていながら今まで姿を見せなかったことといい。
確実になにか企んでいる。
「……ごちゃごちゃ考えて動くのは性に合わねーし、てめーに恐れをなしたみてーで気に食わねーが、仕方ねぇ。ここは素直に身を退く——」
少しずつ、放たれていた気迫が収まっていく。緊張した空気が徐々に緩和していく。
と、思われたが、
「——わけねーだろうが!」
緊張が張り裂けた。
収めかけていた気迫が一気に飛び出し、同時に暁の首根っこを掴み取る。
「うぐ……っ」
「やめろ! その子を離せ!」
メラリーも飛び出す。肉薄する寸前で、掴んでいた手を離し、暁は宙に放られる。地面に落とされる前に、メラリーが抱きとめた。
「大丈夫かい?」
「う、うん……」
少し首が絞まったが、大したことはない。
しかし、それ以上に大切なものが、失われていた。
「今だけだ。そいつは一旦諦めてやるよ」
崖の上から声がする。見上げると、既にバイクに跨っていた。
そしてその手には、二つのものが握られている。
「ただし、こいつらはもらっていくがな!」
「! 私のデッキ……それに、コルル!」
力尽きたようにぐったりとしているコルル。それを無理やりデッキケースに押し込んでカードとして詰め込むと、乱雑に仕舞い込んだ。
「勘だが、お前とはまた合い見える時が来るだろうからな。駆け引きなんてガラじゃねーが、これは次のレースのために取っておいてやる」
「な、なに言ってんのさ! 返してよ!」
「返せと言われて返したら、【鳳】の名折れだ。返すわきゃねーだろうが」
吐き捨てるように言うと、イグニッションキーを回し、アクセルを踏み込む。
「じゃーな。次会う時を楽しみにしてるぜ、人間。それと——メラリヴレイム」
「…………」
最後にそう言い残して、赤いバイクは走り去ってしまう。
暁のデッキと、彼女の相棒たる語り手を奪って。
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