二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.284 )
- 日時: 2015/11/15 01:23
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
Orfevreさん
後手に回りました、コメントありがとうございます。
風水は小学生です。モノクロは作中でも雑談でも大学生だなんて一言も言ってませんよ。
まあ、あえて黙っていたりもしましたが。
《トリアイナ》は確かにそうですね……神話継承のシステム上、あまりオリジナルに近すぎるのも問題なんですが、彼女には彼女の、語り手としての理由がありますからね……仕方ないところもあるのです。
ただ《エリクシール》はヘルメスに対する反骨精神から逆ベクトルの能力というコンセプトですし、《キュテレイア》もアンタップと疑似ブロッカーでは《ヴィーナス》との関連性を持たせているので、アレンジしまくりってほどでもないかなと思いますが……まあ、《キュテレイア》はちょっと微妙なところありますけど。
一騎とテインについては、乞うご期待です。もう形はほとんど決めていますが、少しずつ微調整しているところです。
風水はとにかくアグレッシヴにしています。多少は突き抜けるくらいしないと、モノクロの場合はキャラが埋もれそうなので。
それに、風水の家も家ですしね。性格的な要素も大きいですが、色々な要因が複合的に重なって、こうなっていると。
仰るような友達感覚というのもあるでしょうが、どっちかっていうと、貞操観念が薄いって感じでしょうかね。ゆってまだ小六ですし、危険なものを危険だとちゃんと認識できていないことも多々あるでしょうから。
本当はもっと突っ込んで返してもいいんですが、わりとネタバレになりかねないところがあるのでいまいち言いにくいです。長々とするのも、よろしくないでしょうし、モノクロらしからぬ短さで締めます。
ではでは。
- 90話「雀荘」 ( No.285 )
- 日時: 2015/11/16 23:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
浬の家からはやや離れているが、東鷲宮中学からはさほど離れていない、商店街から少し逸れたところにある一角。
『麻雀荘/北上』
そんな看板が掛けられた建物が、そこにあった。
「ここは……」
「あたしんちだよ。そっちは打ちにきた人の入口だから、あたしたちはこっちこっち」
と風水に手招きされて、建物の裏側に回り込む。表の広い入口よりも、小さく質素な扉がある。勝手口だ。
「家が雀荘なのか」
「そだよ。だから麻雀は幼稚園の頃から打ってる。うち四人兄妹だからさ、あんまりおもちゃとかゲームとか買ってもらえないんだよね。だから、昔からずっと麻雀で遊んでるの」
「……そうか」
今の時代、兄妹が四人となると、結構な大家族だ。それだけ子供が多いと、親も金銭的負担が大きいだろう。
だからそういう事情があることは理解できる。不思議なことはない。そういう家庭は、わりと普遍的に、数多く存在する。彼女も、その一人であっただけだろう。
ほんの少しだけ憂い気な表情を見せた風水だが、すぐさまニッと笑みを浮かべて、浬を見た。
「でもでもっ、今は友だちもいっぱいいるし、“これ”もあるから、楽しさはいっぱいだよっ!」
そう言って彼女が取り出したのは、プラスチックの箱。
デッキケース、だった。
確かに、彼女と一戦交えただけの浬だが、それでも彼女が楽しんでデュエマをしているだろうことは、彼女の仕草や様子から窺えた。それも彼女にとっての、新しい楽しみで、大切なものなのだろう。
同時に、浬の中でふと疑問が湧いた。
「……カード買うにも金がかかるだろう。あれだけのデッキを仕上げるのには、それなりの金を積む必要がある。“たまたま”自分のほしいカードを少ないパックから手に入れたのなら話は別だが……」
自分で言っていて気づいてしまった。
彼女は運気の流れが読めるのだ。自分や他人の運の良し悪しが分かる。そんな、摩訶不思議でオカルトチックな力がある。
浬はそんな非科学的なことは認めていないが、仮に運気の流れを読んで、自分の運がいい時にパックを開封したとしたら……とんでもないサーチ方法もあったものだ。
口には出さなかったが、浬の言わんとしたことに気づいたようで、風水はまた笑う。
「あははっ、そうだね。あたしは風が吹いてるときにしかパック買わないから、ほしいカードしかもってないよ。でも、それだけじゃないんだよね」
サラリと癪に障ることを言ってのける風水。欲しいカードがなかなか手に入らない体験を幾度としている身としては、なかなか聞き捨てならない発言だったが、言い返す前に風水が続ける。
「近所のおじいちゃんおばあちゃんと打ってトップ取れたら、おこづかいくれるんだよ」
「……ノーレートじゃなかったのか?」
「賭けじゃないもんっ。ただのおこづかいだよ。近所の人たち、やさしいから」
ニヤニヤと笑みを浮かべている風水。確かに賭けではない。一方的に老人から金銭を搾取しているだけだ。
だがしかし、祖父母が孫に小遣いを与える感覚だと考えれば、納得できなくもない。
ただし、風水がそれを分かっていて受け取っているようなので、彼女の小狡さを感じるが。
(もっと厳しい家庭環境かと思ったが、案外、甘やかされて育ったんだな……)
その分、他の兄妹が大変そうだな、と若干の同情混じりに息を吐く。
すると、細長い廊下に、誰かが出て来た。相手はこちらの存在に気付くと、一瞬硬直したように目を見開く。
「か、カザミ……」
「おにいちゃん。ただいま」
「お、おう、お帰り……」
明らかに狼狽している。まったく困惑を隠せていない。
中肉中背の少年だった。しかし、恐らく高校生くらい。浬よりは年上だろう男だ。
風水の言葉から察するに、彼が風水の兄、四兄妹の一人なのだろう。
風水兄は非常に狼狽えている。それもそうだろう。可愛いがっているのかどうかは知らないが、急に妹が男を家に上げているのだ。普通の家庭なら、家族は驚くに決まっている。浬も風水とは今日たまたま出会っただけなので、事前に話が通っているはずもない。さらに浬は外見的には高校生でも通る。小学生の彼女と、高校生に見える浬が一緒にいる。そして、風水兄から見たら、浬は妹と共に家に上がり込んでいる。
どう説明しすればいいのだろうと、浬は頭を抱えそうになる。
「おにいちゃん、どっかいくの?」
「あぁ、ちょっと友達とな……」
「おねえちゃんは?」
「姉貴なら大学だが……」
「フーロちゃんは?」
「まだ帰ってないから、学校じゃないか……?」
「ふーん、そっかー」
風水兄、そして浬がこれでもかというくらいに頭を悩ませているのに、その悩みの種を生み出している当人は、お気楽な様子だ。今の状況を、兄と浬の心理状況を微塵も察していない。
「おにいちゃんは出かけて、おねえちゃんとフーロちゃんはいないのかー。それじゃあ三麻も打てないね」
「麻雀するつもりだったのか……?」
「あ、もういいよ。いってらっしゃい、おにいちゃん」
「お、おぉ、行って来る……」
と、風水兄は最後まで妹と浬に困惑の眼差しを向けたまま、遅いとも速いとも言い難い、早くここから立ち去りたいような、ちゃんと妹と話をしたいような、絶妙な速度で歩を進めて、それでも立ち止まることはなく、やがて姿が見えなくなった。
「じゃあ、とりあえずあたしの部屋かな。こっちだよっ」
手招きされて入らされたのは、狭い一室だった。風水の言葉から、彼女の部屋のようだが、小さな机が三つ、椅子も三脚ある。クローゼットは、狭い部屋に対しては大きいものが一つ。その他、細々とした棚やカラーボックスがいくつかあった。
基本的には質素な部屋だが、明るい水色のカーテンや、机の上や床に散見される小物の類。そして、どこか甘いような、独特のにおいが、浬の中枢神経を刺激する。主に、危険信号を発信するために。
この部屋はまずいと、倫理観が告げている。
「せまいけど、テキトーにすわっていいよ。おねえちゃんもフーロちゃんも、あんまり気にしないから」
などと言われても、女のにおいしかしない部屋にどっかり座れるほど、浬の神経は図太くない。三つの机の中で、最も散らかっている机にランドセルを置く風水を、立って見ていた。
「ここ、あたしとおねえちゃんとフーロちゃんの三人部屋なんだよね。もともとは一つの部屋だから、すっごくせまくてさぁ」
「兄妹が多いと、そうだろうな」
「昔はおにいちゃんもいっしょの部屋だったんだけど、何年か前に出ていっちゃったんだよねぇ」
「……ちなみに、お前の兄貴の部屋は?」
「え? ないよ?」
さらりと言い放つ風水。
風水兄には同情した。彼は、この家だとあまり良い立場にはなさそうだ。
「メンツが足りないから麻雀はできないし、二人ならデュエマする?」
「ん、あぁ……?」
曖昧に頷く。
なにを思って彼女が浬を家に上げたのかは分からなかったが、どうやら友人を家に上げる感覚で招き入れただけのようだ。
そこで一つ疑問が解消されたわけだが、それと同時に、一つ思い出したことがあった。
彼女と対戦した時に、ずっと思っていたことだ。
「なぁ。お前」
「なーに?」
歯に衣着せず……というほどストレートでもないが、しかしかなり直接的に、言い放つ。
「お前、あのデッキで勝ててるのか?」
- 90話 「雀荘」 ( No.286 )
- 日時: 2015/11/18 07:45
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「え? なんで?」
風水はぽかんと口を開けて、そう問い返した。
そのように返すのも無理はない。誰だって、普通デッキは勝てるように組んでいるわけで、風水のデッキも一見すればファンデッキのようなそれではなく、普通に勝ちを目指すものだった。よって方向性が勝利に向いているはずなので、勝てないデッキをわざわざ組む道理はない。
さらに言えば、風水は浬と対戦した時に、浬をかなり追いつめている。最終的に勝ったのは浬でも、展開としてそれは風水のプレイングミスによるところが大きく、彼女のミスがなければ浬は負けていただろう。
一見すれば、あの対戦ではそのように映るかもしれない。
だがその一戦で、浬は風水のデッキの弱点を見抜いていた。
「あのデッキは色々と無理がある。俺と対戦した時はかなり上手く嵌っていたようだが、あれだけ相手依存のカードが多くては、何度も試行していれば、外れることの方が多いはずだ」
忘れもしない、先日のデュエル。ただ“運がいい”だけで、科学では説明のつかない、たった一つの、それだけの要因で、浬は追い詰められた。
浬としては風水の主張は微塵も許容できないのだが、ただ、仮定として彼女の言い分をとりあえず飲み込むとして、運の良さでこれまで風水が勝利を得てきたとしよう。ではその勝利は、どれほど続くのか。
具体的に言えば、運の悪い時、風水はどうしているのか。
運要素が強いだけに、浬はその点が気になっていた。
「風が吹かないときは、あんまデュエマしないけど……いい風が吹いてても、風向きが変わっちゃうことはあるし、いい風がこないまま負けちゃうこともあるかなぁ」
「わけのわからん言い方をされても意味不明なんだが……そうだな、さらに具体性を増して言えば、お前の切り札——《亜空艦 ダイスーシドラ》。こっちの地球にいる時は、語り手のカードは使えない。なら、そちらの切り札をメインとしているはずだが、あれはお前のデッキでまともに出せるのか?」
「……じつは、あんまり出せないんだよねぇ」
やや弱ったような表情を見せる風水。対して浬は、思った通りだ、と心中で呟く。「当然と言えば当然だな。《トンナンシャーペ》が《ダイスーシドラ》に龍解する条件は、相手の墓地にカードが十枚以上あること。《ファンパイ》を《トンナンシャーペ》にするだけなら五枚、こちらがなにも干渉しなくとも、大抵のデッキなら時間が経てばそのくらいのカードは墓地に溜まる。だが十枚ともなると、ある程度なにかしらの細工をしなければ容易に達成はできない」
《ファンパイ》や《トンナンシャーペ》には、自分のクリーチャーに相手の墓地を削るようなアタックトリガーを付加させる能力があるが、それをアテにするのでは、遅すぎる上に、アタックトリガーなので相手のシールドを割るリスクが付き纏う。
なにより、この二つで削られる山札は一枚。ちまちまと一枚ずつカードを落としていては、とても十枚ものカードを墓地に送り込むことはできない。まさか、十回も攻撃するだなんて非効率的なことをするわけにもいかず、なんらかの手段で一気に相手の墓地を増やすべきだ。
「でも、相手の墓地をふやすって、どうするの?」
「闇文明を足せばいい。相手の墓地を増やす一番手っ取り早い手段は、破壊とハンデスだ。水文明の主な除去はバウンス、破壊じゃない。タップキルをしようにも、光のように相手を能動的にタップするカードには乏しく、火のようにアンタップキラーも持たない。ハンデスに至っては、まともに使われるのは《パクリオ》くらいなものだな」
あれはあれで強力なんだが、と浬も最近になって多用し始めた《パクリオ》の強さについて解説しそうになるが、長くなりそうな上に話が逸れるので割愛する。
「破壊とハンデスが得意な文明は闇だ。墓地の扱いに長けているだけあって、相手のカードも直接墓地に送り込みやすい。だから、闇文明を追加すれば、《ダイスーシドラ》の龍解も狙いやすくなるだろう」
相手のバトルゾーンや手札のカードを墓地に落とす。そうすれば、相手の動きを妨害しつつ、こちらは《ダイスーシドラ》へと繋げることができる。理に適った思考、合理的な戦術だ。
しかし、風水はあまり良い顔をしていなかった。
「……不満か?」
「んー、浬くんのいってることは正しいんだろうけど、あたし、あんまりカード持ってないんだよね」
「カード資産の問題か。まあ、こればっかりは仕方ないな」
デュエル・マスターズというカードゲームに熱心で、それ一つにすべてを捧げているような人物なら、そんな問題もあまり抱えないのかもしれないが、好奇心旺盛な少年期において、一つのことだけに集中し、金をかけ続けるというのは、なかなか難しい。浬だって、本や雑誌を買って読んだり、ゲームを買ってプレイしたりもする。風水もそれは同じだろう。
だからこそ、カード資産の問題は、仕方ないと割り切って考えるしかない。話を聞くに、風水はそれほど長くデュエル・マスターズのプレイヤーをしていたわけではなさそうだ。どちらかと言えば新規に分類されるプレイヤーだろう。ゆえにカードの数や種類に難があり、デッキを組む際の障害となる。
「それに、できれば水文明だけで組みたいしさ」
「水だけで組みたい? 単色であることを生かすということか? 確かにお前の《チュレンテンホウ》は厄介だった。あいつをメインに据えるなら、そういう構築もありではあるが……」
「あー、違う違うっ。そうじゃなくて」
ぶんぶんと手を振って否定する風水。どうやら、彼女の考えと違う解釈をしたようだ。
しかし単色であることを生かす以外に、水文明のみで構築したい理由があるのだろうか。同じ水文明単色のコントロールデッキを使う浬でも、いまひとつピンとこない。
頭をひねって考え込んでいると、風水はにっこりと笑って、
「だって、浬くんのデッキも水だけでしょ? おそろいだもんっ、そのままにしたいよ」
そう言いのけた。
「…………」
対して浬は、閉口する。
そもそもの考え方が違った。彼女は自分の常識外のところにいて、自分の常識とは異なる思考を持っている。
今この時から、浬は風水に対して、そのように認識することにした。
「……まあ、水単色で組めないことも、ないわけではないが……」
それを踏まえて、とりあえず水単色で彼女のデッキが、《亜空艦 ダイスーシドラ》が生かせる構築ができるかどうかを考える。
結論自体はすぐに出た。相手のカードを墓地に送り込むという方法を考えれば、水単色でもそれは不可能ではない。
正確には、デッキを組む際に、水単色で組むならば、だが。
「とゆーかさ、そもそも相手の墓地をふやすなんて、そんなにむずかしくなくない?」
「相手のデッキによっては、自ら墓地を増やすデッキもあるが、そうでないデッキもある。たとえば速攻を始めとするビートダウンは、基本的にディスカードを嫌う。闇を含む墓地進化速攻などはまた別だが、それでも十枚も溜まらない」
「ビート……? ディス……?」
風水は首を傾げている。専門用語というほどでもないが、公式ではない俗称についての知識はないようだ。
「要するに、自分から墓地を増やさないデッキに対しては、龍解が難しいということだ」
「でも、《シャミセン》とか使えば、相手の墓地が三枚もふえるよ?」
「《シャミセン》の能力は任意だから、相手がカードを引かなければそれまでだ。特に超次元ゾーンは公開情報、《ダイスーシドラ》が見えているのに、易々と墓地を増やしてはくれない」
その超次元ゾーンを見落として、軽々しく手札を交換し、自分の墓地を増やして龍解を許してしまったのは紛れもない浬自身であるのだが、その時のことは反省している。同じ轍はもう踏まない。
それに、初見殺し、とまでは言わないが、初めて戦う相手ならば通用することでも、風水のスタイルを知ればまずカードを引いてくれない。相手依存すぎて、同じ手が同じ相手にはほとんど通用しないのだ。
「うーん、それで、結局どーやって相手の墓地をふやすの?」
「最初に言ったことを繰り返す。闇文明を足せばいい」
「え? でも、それはやだよ」
風水も、同じことを繰り返す。あくまで彼女は、水単色にこだわる。
だが浬もそれは理解している。
浬が言う闇文明の追加は、必ずしもデッキに闇文明を足すことと等号では結ばれない。
「相手の墓地を増やす。言い換えれば、相手のどこかのゾーンにあるカードを墓地に落とす。本来の目的も、裏を返せば違う見方になるものだ」
「?」
「詳しいことは歩きながら話す。とりあえず、行くぞ」
立ったままの浬は、踵を返した。開けっ放しになっていた部屋の入口を潜り抜け、廊下に出る。
「え? 外でるの?」
「どうせここにいても、やることはないんだろう。お前のデッキを改造するなら、いい場所がある」
本当はこの女々しい空間から出たかっただけで、風水のデッキの改造というのは口実でしかないのだが、当の風水は「浬くんとおでかけだっ! やった!」と嬉々とした表情を見せている。
その反応はいまいち釈然としないが、しかし風水の相手依存が過ぎるデッキの方がもやもやする。デッキとしての方向性や、根本が悪くないだけに、半端に完成度を下げてしまっている要因がどうしても気になる。だからそこを修正したい。そういう意味では、あながち部屋から出たいという口実だけではないかもしれなかった。
そして、二人は雀荘から出る。
雀荘を出て、そこから逆方向の商店街から逸れた裏道を通る。
薄暗く、道も狭い。やや怪しげな雰囲気を醸し出す路地裏だ。とても小学生の女子児童と二人でいるような場所ではないが、目的地に到達するためには、避けては通れない道なので、仕方ない。
(確か、ここまで来たらもう一本道だったはず……)
頭の中で、少し薄れかけている地図を描き、ルートを重い出しながら進んでいく。何度も行った場所というわけではないので、記憶が若干おぼろげだった。
しかしおぼろげだったことは確かでも、正確なルートかどうか不安に駆られていたのは結果的には浬の思い込みでしかなく、彼はおぼろげだろうがなんだろうが、きっちり正確なルートに沿って、その場所へと向かっていた。
入り組んだ裏道の、薄暗い一角。
ぽつんと一件だけ存在する、二階建ての小さな家屋。
玄関というには無防備な扉。ガラス戸からは、家の中が窺い知れるが、逆に言えば、そこは外から中が見えてもいい場所だという証明である。
ガラス戸の取っ手に手をかける。同時に、その横の看板が目に入った。
そこには、こう書かれていた。
『カードショップ 御舟屋』
- 91話 「良ツモ」 ( No.287 )
- 日時: 2015/11/20 00:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
カランカラン、と乾いた鈴の音が響く。
それほど大きくない、むしろ小さい店内には、人は一人しかいなかった。
「いらっしゃいです」
彼女は抑揚のない声で、事務的に言った。
「おや……珍しいお客さんですね」
だがこちらの存在を認識すると、今度は少し驚いたように言う。驚いたと言っても、その声に抑揚が加わったわけでも、彼女の表情が変わったわけでも、ましてや身振り手振りで驚きを表現したわけでもなく、単に言葉の意味を汲み取って、自分たちの来訪が予想外であると推測しただけに過ぎないが。
ガラスケースのカウンターにぽつんと座っている少女。外見的には明らかに自分よりも年下だが、座っている場所からして、店員なのだろう。
いや、実際に店員なのだ。なのだろう、だなんて推測したかのような言い方だが、彼女が「いらっしゃませ」と言おうが言うまいが、浬には彼女が店員であることが分かっている。
「確か……霧島君、でしたか」
「はい、お久し振りです。御舟、先輩」
少し言葉に詰まった。浬としては彼女——カードショップ『御舟屋』の店員である御舟汐と、特別親しいわけではない。暁や柚はそれなりに交流があるようだが、浬は以前一度、この店を訪れて、顔を見知っている程度。なので、ほぼ他人だ。
しかし、汐は浬も通う東鷲宮中学の三年生で、つまりは先輩だ。浬はそちらの方に重きを置いて、汐を先輩と呼称することにした。
浬に続いて、汐は風水に視線を向ける。
「そちらの方は、妹さん……では、ないですよね。彼女さんででしょうか」
「そう! そのとお——」
「違います」
パァッと顔を輝かせて、これみよがしに肯定しようとするが、先んじて浬がそれを制す。予想通りだ、分かりやすい。
「でしょうね。では、ご友人、といったところでしょうか」
「そうですね、そんなところです」
汐も自分の言葉が本気ではなく、あっさりと訂正する。もっとも、表情がまるで変わらず、なにを考えているかも分からないので、実は内心では本気だった可能性も否めないが。
「それで、本日はどのようなご用件ですか。兄さん——店長は今、席を外しているので、私が対応せざるを得ないですが、それでも構わないでしょうか」
「えぇ、まあ。ただカードを買いに来ただけなので、大丈夫です」
そもそも浬は彼女の兄を知らないので、店長がいなくとも店員がいればそれでいい。
「ねぇ、浬くん」
「なんだ?」
「カードって、ここくる間にいってたやつ?」
「そうだ」
「でもあれ、かなりレアカードなんだよね? だったら高いんじゃないの? あたし今、五百円しかないよ?」
「確かに封入率は低いな。封入率が変動する前のエキスパンションだから、当たる確率は低い」
だが、それはあくまで封入率が低いということでしかない。要するに、確率だ。
確率が低いことは、当たらない道理にはならない。彼女を信じているわけではないが、しかしできるものならやってみろ、と言いたくなるくらい理不尽な力ではある。
それは裏返せば信じてしまったことと同義でもあるのかもしれないが、現実のものとして証明できるか否か、彼女を試してみたいと思ったのだ。
「御船先輩。注文です」
「なんでしょう」
「『エピソード1 ダークサイド』は、ありますか?」
「『ダークサイド』ですか……はい、在庫が残っているはずです。いくつお買い上げですか」
「3箱、持ってきてください」
汐が眉をひそめる。
カードパックを3箱。いわゆる箱買いと呼ばれる購入の仕方だ。
カードパックというものは、基本的には一つの箱にまとめて封入されている。デュエル・マスターズでは1箱ごとに、ビクトリー、スーパーレア、ベリーレアなどの比率がほぼ一定になっている。そのため、1箱買えばスーパーレアやビクトリーのカードがほぼ確実に手に入るのだ。
だが勿論、箱買いにはリスク、もといコストがかかる。カードパックは1パック約150円。1箱における封入数はエキスパンションによって変化するが、『ダークサイド』であれば30パック封入されているので、金額にしておよそ4500円。これが3箱となれば、13500円。これに消費税も加えれば、さらに金額は上昇する。
一万を越える金額は、中学生にとってはあまりに高い。易々と手が出せる額ではないため、汐も顔をしかめた。鉄面皮の彼女の表情を、ほんの少しでも変えるくらいには、浬の発言は現実味に欠けたものだったのだ。
「……なにか狙っているカードがあるのなら、シングルというものもあるですよ」
あまりに浬が荒唐無稽で無茶苦茶なことを言ったためか、汐は単品(シングルカード)で買うことを提案する。一つのエキスパンションで、欲しいカードが数種類程度であれば、いくらレアリティごとの封入率が一定でも、結局は確率でしか手に入らない箱買いより、欲しいカード一枚を単品で買う方が、よっぽど財布に優しい。
「いいえ、3箱です」
しかし浬は、汐の提案を突っぱねた。あくまで箱にこだわる。
「……大丈夫、なんですか」
「はい。ただ、少しお願いしたいのですが——」
不安げに浬を見上げる汐。浬は首肯した。3箱のカードパックを購入する意志を見せる。
だが、浬は単に3箱分ものパックを買うつもりはなかった。カードを買うために『御船屋』を選んだ理由の一つだ。
浬は箱を持ってこようと背を向けた汐に、そのお願いを告げる。
「——3箱から1パックずつ、買わせてください」
- 91話 「良ツモ」 ( No.288 )
- 日時: 2015/11/20 02:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
レアリティの封入率はエキスパンションごとに違う、ということは既に述べたが、より具体的に言うなら、ビクトリーやスーパーレアは、1箱ごとに一枚前後入っている。そのため、1箱買えばビクトリーやスーパーレアがほぼ確実に手に入るのだ。
場合によっては二枚入っていたり、一枚も入っていないこともあり得るが、しかし基本的に、ビクトリーやスーパーレアは1箱に一枚だ。現在のエキスパンションではその封入率も変わってきているが、少なくとも『エピソード1』時点での、通常エキスパンションの封入率はそうだ。
1箱に一枚、ビクトリーが入っているという前提で考えるならば、最高効率でビクトリーを手に入れるためにかかるコストは、税抜き150円、1パック分の費用だ。
そして3箱から1パックずつ購入すれば、最大でビクトリーは三枚当たる。実際はどうであれ、非現実的なほどに低確率であれ、確率的にはあり得ないわけではない。
どこのカードショップでも、真面目にそんなことを考えているわけでもないだろうが、しかし同一種類の複数の箱から、少しずつパックを抜いて買うという購入方法は、基本的に嫌われる。というより、そんな買い方は許されない。お願いしても断られるだろう。運任せとはいえ、高レアリティの入ったパックだけを抜き取られるような行為はできるだけ避けたいだろう。それに、複数の箱が開封済みになっていると、保管も面倒だ。
だが汐は、訝しげな視線を向けるものの、「分かったですよ」と言って、3箱持ってきた。
普通のカードショップやデパートのカード売場では、このような買い方はできない。だからこそ、浬はここに来た。『御船屋』ならば融通が利く。知り合いであるということも関係しているが、『御船屋』は常識に囚われずにカードを販売するカードショップだ。このくらいの無理なら通せる道理がある。
とはいえ無理というなら、この3箱から、1パックずつ抜くだけで、ビクトリーを当てようとする方がよっぽど無理な話だが。
だがしかし、その無理を通して道理を引っ込めてしまう理不尽の存在がある。浬もつい最近、それを感じた。
彼女の言葉は信じられない。だが、流れでなんとなく聞いてみる。今日の風はどうなんだ、と。
彼女は返す。風が“ツキ”をとどけてくれてる、と。
やはりわけが分からなかったので、適当に解釈して流す。
目の前には、差し出されたカードパックの箱が三つある。どれも開封済みで、好きに抜いて良いとのことだ。
500円玉がガラスケースのカウンターに置かれ、小さくも活力に溢れる手が、流れるような動作で箱から1パックずつ、3箱すべてから抜き取った。
少し間があった。だが、本当にこれでよいと、自らの感覚に確認すると、彼女はパックの切れ目に手をかける。
ピリッ、と小気味良い音が鳴り、包装からはみ出たカードの面のフォイルが、光を反射する——
「やったー! ビクトリーカード三枚ゲット! いやー、今日もいい風っ!」
風水は三枚のカード——どれもすべて同じカードを持って、満面の笑みを浮かべている。
正直、博打だと思って提案してみたが、本当に当たるとは、と浬も少なからず驚いているが、それ以上に驚愕しているのは、カウンターの向こうにいる先輩だった。
確率的には可能性があると認めてはいても、まさか本当にビクトリーカードを3箱から一枚ずつ引き当てるとは思わなかったのだろう。表情こそ変わらないが、汐は絶句している。
「……なんなんですか、彼女。変な素振りは見られなかったですし、サーチしたわけではないでしょうが……」
しばらくして、やっと汐が口を開く。しかしまだ驚きが隠せていなかった。表情は無そのものだが、感情自体は案外豊かなのかもしれない。
「世の中にはああいう人間もいるんですよ、理不尽なことに」
認めたくないが、観測し、正確にその力を判断するまでは、否定することはできない。理不尽を理不尽なものとして理不尽だと思いつつ、浬は風水の引き運を飲み込む。
「あぁ、ついでに『ファースト・コンタクト』の方もお願いできますか?」
「……これ以上、うちから価値のあるカードを大特価で放出させないでくださいね」
「大丈夫です。そっちは俺が買うので」
そう言うと安心したように、汐はもう一つ箱を持ってくる。代金を支払い、その分のパックを箱から抜き取った。
「ねぇねぇ、浬くんっ」
「……なんだ?」
「それで、当たったこれはどーするの?」
小首を傾げると同時に、サイドテールが引っ張られるように揺れた。その動作は小動物のようで愛くるしいが、浬からすれば、いちいち動きが煩わしい奴だな、とにべもない感想が生まれる。
浬は溜息を吐きながら、パックの包装を剥く。
「そいつの使い道は道中で言ったはずなんだがな。カードの効果をよく読んで、自分で考えてみろ」
「んー? んー……あっ、そっか!」
気づいたようだ。もしくは、浬が言ったことを思い出したのだろう。
風水が考え込んでいる間に、すべてのパックを剥き終えた浬は、その中のカードに視線を落とす。派手なカードはない。数パック程度でスーパーレアやビクトリーを引き当てる運気は浬にはなかった。
だが、それでも目当てのカードはあった。それも、思った以上の枚数が。それらのカードをまとめてつかむと、風水に押しつけた。代価はあとで適当に見繕う。
これで必要なパーツは揃った。浬に言わせてもらえば、式は組み上がったのだ。風水ならば、手役ができあがった、と言うのだろうが。
「えーっと、それじゃあ……これと、これと、これも抜いちゃおっ」
狭い『御船屋』の一角で、風水は早速、引き当てたカードを使ってデッキを組み直していた。
しばらくして、彼女は立ち上がる。
「できたよっ、浬くんっ!」
「あぁ」
待ってました、と言うほど待ってはいないし、そんな期待していたみたいに思われるのも癪なので、素っ気ない言葉で返す。
立ち上がって、デッキケースを取り出した。
まだ、やるべきことは残っている。
「なら、最後の仕上げだな」
狭いカードショップにも、対戦スペースはある。
そこにはたった一つの、年季の入ったデュエマ・テーブルだけがあった。
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