二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 136話「サバイバー進化論」 ( No.531 )
- 日時: 2016/11/09 12:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
シェル・ファクトリーγ(ガンマ) R 自然文明 (6)
クリーチャー:コロニー・ビートル[サバイバー] 2000
SV—このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札を見る。その中からサバイバーを1体選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。
サバイバー
現れたのは、山のように巨大な岩。本当に山に見えるが、違う。それは虫だ。
六対の脚で大地に根付き、頑強な身体で仲間のための砦となる。
さらに、《シェル・ファクトリーγ》は仲間を呼ぶ。砦から、次なる仲間を生み出し、増殖させる。
「《シェル・ファクトリーγ》の能力で、登場時に山札からサバイバーである《アマリンα》を手札に加えるよ! さらに《オービスγ》の能力を共有してるから、《燃えるメラッチ》をタップ!」
「サバイバーが手札に……しかもクリーチャーまで止められた……!」
《シェル・ファクトリーγ》が仲間を生み出し、それと同時に《オービスγ》の光が《燃えるメラッチ》を停止させる。
ここからが、サバイバー軍団の本領発揮だった。
「次に《アマリンα》を召喚だよ! 《シェル・ファクトリーγ》と《オービスγ》の能力を共有して、山札から《モリノオウジャダケα》を手札に加えて、《ハート・メラッチ》をタップ!」
「またサバイバーが……!」
「《モリノオウジャダケα》を召喚! 山札から《ラッセルズβ》を手札に加えるよ!」
この1ターンで理解した。《シェル・ファクトリーγ》が、ファイのデッキの、サバイバー軍団の核だ。
《シェル・ファクトリーγ》が存在し続ける限り、ファイは途切れることなくサバイバーを展開することができる。マナも十分にあるため、物量に任せてアドバンテージを奪い取り、場を制圧するのも難くない。
仲間を増殖させ、大群を築き上げる砦。それが《シェル・ファクトリーγ》。
このクリーチャーを早急にどうにかしなければ、暁の勝ち目は薄いだろう。
「《オービスγ》で《ハート・メラッチ》を攻撃! ターン終了だよ」
「まずいよ、これ……」
《ハート・メラッチ》も《オービスγ》に破壊される。《燃えるメラッチ》はフリーズされて動けない。
さらに暁は手札もかなり切れてしまっている。この状況に対応できるかどうかは、ほとんど山札次第だ。
「ん……呪文《勇愛の天秤》! 手札はないから、二枚ドロー!」
暁は引いてきた《勇愛の天秤》で、手札を増やす一手に出た。
《勇愛の天秤》は、手札を一枚捨てて二枚ドローする火の呪文。普通に見れば、《エマージェンシー・タイフーン》などのような手札交換と同じ役割しか持たないが、この呪文の特徴は、ドローにコストを要しないこと。
手札を捨てる効果とドロー効果は別物であり、手札を捨てなければドローできない、というわけではない。
ゆえに暁は、純粋に2ドローの呪文として《勇愛の天秤》を唱える。そして、引いて来たのは。
「! これだ! 《メガ・マグマ・ドラゴン》召喚!」
メガ・マグマ・ドラゴン SR 火文明 (8)
クリーチャー:メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍 8000
このクリーチャーの召喚コストを、バトルゾーンにある相手のクリーチャー1体につき1少なくする。ただし、コストは0以下にならない。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊する。
「《メガ・マグマ・ドラゴン》は相手クリーチャーの数だけコストを下げることができる! そっちの場にクリーチャーは五体! だから3マナで召喚するよ」
ファイの場には《オービスγ》《プロメテウス》《シェル・ファクトリーγ》《アマリンα》《モリノオウジャダケα》、計五体のクリーチャーが並び、大群を形成しようとしている。
しかしそれらの群れは、一瞬で灰と化す。
「さらに! 《メガ・マグマ・ドラゴン》がバトルゾーンに出た時、パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊するよ!」
「えぇ!?」
ファイの目が見開かれた。
一体一体は弱小でも、群れれば脅威となるのがサバイバー。
しかし脅威となるというのは、必ずしも強大になるという意味ではない。単体の力の弱さが、根本的に解消されているとは言い難かった。
《メガ・マグマ・ドラゴン》が咆えると、地中深くよりマグマが吹き出し、脆弱で惰弱なクリーチャーをすべて燃やし尽くす。
「あぁ! ぼくのともだちが……!」
ファイが展開したクリーチャーは、一瞬で消え去り、残るは《オービスγ》のみ。
暁も《燃えるメラッチ》を破壊することとなってしまったが、相手の場を一掃するためなので仕方ない。それに、《メガ・マグマ・ドラゴン》の登場で、場はかなりイーブンに近い状態となった。
「続けて3マナで《ゴーゴー・ジゴッチ》を召喚。山札の上から五枚を見て、《ドラッケン》を手札に加えるよ」
そうしてターン終了する暁。
砦を潰され、仲間を燃やされ、盤面を返されたファイ。
しかし、サバイバーとは生き残る者だ。
過酷な環境であっても生き抜く生命力を持つ漂流者。
彼らは、その存在が絶えることはあり得ないと言ってもいいほどの生命力を持っている。
「……《シェル・ファクトリーγ》を召喚」
「げ、また?」
ファイのターン。彼は再び《シェル・ファクトリーγ》を呼び出し、仲間を増殖させる砦を築く。
「山札から《トリトーンβ》を手札に加えるよ。さらに《宣凶師ラッセルズβ》を召喚! 山札から《モクレンβ》を手札に!」
また新しいサバイバーが現れ、そして、サバイバーはそれぞれ能力を共有し合う。
「この二体は《オービスγ》の能力も共有してるから、《メガ・マグマ・ドラゴン》と《ゴーゴー・ジゴッチ》をタップだよ! 《オービスγ》で《ゴーゴー・ジゴッチ》を攻撃!」
タップキルで地道にクリーチャーを破壊していくファイ。《オービスγ》では《メガ・マグマ・ドラゴン》のパワーにはギリギリ届かないが、フリーズされているため殴り返しの心配はない。
だが、その考えは些か浅慮だ。
たとえ場のクリーチャーが動けなくとも、殴り返す手段は存在する。
「よーし! 次はこれだ! 《ラブ・ドラッチ》召喚! そして、《ラブ・ドラッチ》を進化!」
手札から飛び出し羽ばたく一羽の小鳥。両手にサイリウム、顔にはゴーグルを付け、次に続く仲間を応援する火の鳥だ。
その応援歌に導かれ、次の革命龍が顕現する。
「頼んだよ、《革命龍 ドラッケン》!」
《ドラッチ》から進化したのは、《ドラッチ》の意匠を引き継いだ革命軍の龍。額にはゴーグル、両手にはサイリウムを思わせるビームサーベル。
その両腕には、《ドギラゴン》のように鎖が巻かれていたが、得物を振るう分には問題はなさそうだ。
「《ドラッケン》でシールドを攻撃! その時、山札をめくって火のドラゴンならバトルゾーンへ!」
《ドラッケン》が咆える。《ドラッチ》はその応援で仲間を呼び、《ドラッケン》はその咆哮で援軍を呼ぶ。
共に戦場に立つ戦士を迎える雄叫びが轟き、新たな革命の龍が現れた。
「よしきた! 《メガ・ブレード・ドラゴン》をバトルゾーンへ! このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手ブロッカーを全部破壊する! 《オービスγ》を破壊!」
「させないよ! 《シェル・ファクトリーγ》をウルトラ・セイバーで身代わりに!」
《メガ・ブレード・ドラゴン》の炎が《オービスγ》を焼き尽くしたかに思えたが、《オービスγ》は生き残り、代わりに《シェル・ファクトリーγ》が墓地へと送られた。
「え、でも《シェル・ファクトリーγ》は……あ」
「そう、《ラッセルズβ》の能力はウルトラ・セイバーでサバイバーを守ること! それは全部のサバイバーに共有されるから、《シェル・ファクトリーγ》でも守れるよ!」
《ラッセルズβ》の宝玉が怪しく光る。このクリーチャーが存在する限り、暁は除去するクリーチャーの選択権限を、ファイに奪われることとなる。破壊したい肝心なクリーチャーが破壊できなくなってしまう。
ウルトラ・セイバーを共有させる《ラッセルズβ》自身も、共有させたウルトラ・セイバーで守られるため、除去は困難。サバイバーは次々と増殖し、このままでは手に負えなくなってしまう。
「うぅ、でもシールドはWブレイクだよ! ターン終了!」
「ぼくのターン! 《トリトーンβ》を召喚! さらに、マナゾーンからこのクリーチャーを召喚!」
《トリトーンβ》が出て来る。その後、ファイのマナが八枚タップされた。
地面が揺れ動く。巨大ななにかが、地中から這い出ようとしている。
「苦しい世界を生き延びるために、辛い世界で生き残るために、ぼくらは掲げる! ぼくたちのための、ぼくたちの進化論を!」
ファイは証明する、彼らの進化の証を。
一時的で、突発的で、場当たり的な、本質を取り違えた進化ではない。
進化の本質とは、即ち環境に適応する力。
過酷な環境で生き延びるために、辛苦の世界で生き残るために、疎外された星の中で自分たちの存在を証明するために導き出された、本当の進化。
成長と変化の果てにあるそれは、ひとつの論証として提唱される。
そう、進化論として。
漂流者たちが生き延びるために、己の生存を賭けた進化論だ。
「最強の漂流者をここに——《オメガ・ゴライアスδ》!」
- 136話「サバイバー進化論」 ( No.532 )
- 日時: 2016/11/15 00:15
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
現れたのは、巨大な虫。
あらゆるものを引き千切る長大な顎。
全身を覆う鋼のような甲殻。
不気味に揺れる赤い翅。
そして、他のサバイバーと共鳴する宝玉。
単体では弱くとも、群れることで圧倒的脅威となるサバイバー。その終着点に辿り着いたものに与えられし《オメガ》の名。
それが、《オメガ・ゴライアスδ》だ。
生きるために漂流者たちが紐解いた進化論。その力の本領が今、解き放たれる。
「それじゃあ、みんな、いくよっ! まずは《オービスγ》で《ドラッケン》を攻撃! 《トリトーンβ》の能力を共有して一枚ドロー!」
「《ドラッケン》のパワーは11000、パワー7500の《オービスγ》じゃ倒せないよ……?」
「ううん、違うよ。《オメガ・ゴライアスδ》の能力で、《オメガ・ゴライアスδ》はパワーが+5000されて、Wブレイカーを得るんだよ!」
オメガ・ゴライアスδ 自然文明 (8)
クリーチャー:ジャイアント・インセクト[サバイバー] 5000+
このクリーチャーを自分のマナゾーンから召喚してもよい。
SV—このクリーチャーのパワーを+5000し、「W・ブレイカー」を与える。
サバイバー
「自分のパワーを上げて、Wブレイカーを与える能力……?」
妙な言い回しだ。パワーアタッカーやバトル時のパンプアップではなく、常在型能力として、自身を強化する能力。
普通のクリーチャーであれば、ブレイカー能力はただ持っているもので、自分に与えるとすれば、なにかしらの条件を満たした時。パンプアップも同じだ。もしくは、全体に影響を及ぼす時ぐらいだが、
「ん? 全体を強化するとき、って……」
「そう! 《オメガ・ゴライアスδ》は自分を強くする! そして、それをサバイバーみんなで共有する!」
つまり、
「《オービスγ》は《オメガ・ゴライアスδ》の能力を共有して、パワー+5000! だから今のパワーは12500! 《ドラッケン》を破壊だよ!」
《オメガ・ゴライアスδ》と共鳴し、力を増幅させた《オービスγ》が、今までよりも一際大きな光球を放ち、《ドラッケン》を破壊する。
《オービスγ》で動きを封じられ、《ラッセルズβ》で除去耐性をつけられたところに、《オメガ・ゴライアスδ》で一斉強化。この一手は、この上なく強烈だ。
「やっば……!」
「まだまだ! 《ラッセルズβ》で攻撃する時に、一枚引いて、《メガ・マグマ・ドラゴン》とバトル!」
「パワーが上がっても、どっちも8000! あ、相打ちだよ!」
「でも《ラッセルズβ》のウルトラ・セイバーを共有した《トリトーンβ》を代わりに破壊して、《ラッセルズβ》は生き残るよ! これでぼくのターンは終了!」
場を一掃し終え、ファイのターンが終わる。そして暁のターンが訪れるが、
「……《燃えるメラッチ》を召喚、ターン終了……」
なにもできなかった。
ただクリーチャーを出すだけで、終わってしまう。
「よーし、それじゃあ決めちゃうよっ! 二体目の《オービスγ》を召喚! さらに《モクレンβ》も召喚だよ!」
またサバイバーが増える。《燃えるメラッチ》がフリーズされただけでなく、《ラッセルズβ》のウルトラ・セイバーで身代わりにするためのクリーチャーも増え、S・トリガーで防ぐのも厳しい状況となってしまった。
それでも暁は、このシールドに賭けるしかないのだが。
「《ラッセルズβ》でWブレイク!」
「……S・トリガー、《メガ・ブレード・ドラゴン》! 相手ブロッカーをすべて破壊するよ! 二体の《オービスγ》を破壊!」
「ん……このターンに出した《オービスγ》はいいけど、こっちの《オービスγ》は《モクレンβ》を代わりに破壊するよ! 続けて、守った《オービスγ》でWブレイク!」
「もう一回、S・トリガー! 《英雄奥義 バーニング・銀河》! 《ラッセルズβ》を破壊!」
「攻撃した《オービスγ》を代わりに破壊するよ!」
「まだまだ! マナ武装7、発動! 《オメガ・ゴライアスδ》を破壊!」
「《ラッセルズβ》のウルトラ・セイバーで、身代わりに!」
連続で繰り出されたS・トリガーで、ファイの場をほぼ壊滅状態まで追い込む暁。しかし、もう一歩足りない。破壊しきれない。
「……これまで、だね」
ファイの場にはまだ、《オメガ・ゴライアスδ》が残っている。
「とどめだよ」
巨大な虫が、地面を揺るがしながら進む。
大顎が開かれ、暁を噛み砕かんと迫る。
「《オメガ・ゴライアスδ》で、ダイレクトアタック——」
「——革命0トリガー!」
刹那。
暁の手札から、熱い光が迸る。
「呪文——《革命の鉄拳》!」
革命の鉄拳 R 火文明 (3)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドが1枚もなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から4枚を見せ、その中から火のクリーチャーを1体選ぶ。そのクリーチャー以下のパワーを持つ相手のクリーチャーを1体破壊する。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに自分の山札に加えてシャッフルする。
「え、なに? 革命……?」
「革命0トリガー。私のシールドがゼロの時に私が攻撃されたら、手札からタダで唱えられる呪文だよ」
窮地を凌ぐ、一発逆転への布石。
暁の遥か頭上に、巨大な鋼鉄の拳が浮かび上がる。その腕には、束縛の鎖が巻かれていた。
「唱えるのは《革命の鉄拳》! 山札の上から四枚を見せて、その中にある火のクリーチャー以下のパワーの相手クリーチャーを破壊するよ!」
ファイの場に残っているアタッカーは、パワー10000の《オメガ・ゴライアスδ》のみ。
つまり、パワー10000以上のクリーチャーが捲れれば、暁はこのターンを生き延びることができる。
「デッキの中にパワー10000以上のクリーチャーって、どのくらい残ってるかなぁ……浬だったらこういうの、すぐに計算できるんだろうけど……」
残念ながら暁には、確率計算する能力もカードカウンティングの技術もない。
ただし、信じることはできる。
生き残るための一枚を引く、その可能性を。
「お願い……来て……!」
暁は祈りながら、一枚ずつカードを捲っていく。
一枚目、《ラブ・ドラッチ》
二枚目、《メガ・ブレード・ドラゴン》
三枚目、《メガ・マグマ・ドラゴン》
「っ……これで、最後……!」
四枚目——《革命龍 ドラッケン》
「よし来た! 選ぶのは《ドラッケン》! パワーは11000だから、《オメガ・ゴライアスδ》を破壊!」
「そ、そんな……《オメガ・ゴライアスδ》が……ぼくの、ともだちが……!」
天に構えられた鋼鉄の拳が、縛りを解き放って振り下ろされる。
《ドラッケン》の力を吸収した鉄拳は、《オメガ・ゴライアスδ》を粉砕した。
これでファイの攻撃は、暁まで届かない。
「ターン終了だよ……」
「よーし、私のターン! 《ストライク・アメッチ》と《ラブ・ドラッチ》を召喚するよ!」
「う、うぅ……ぼくのターン! 《キング・ムーγ》を召喚! 能力で《ストライク・アメッチ》を手札に! さらに《トリトーンβ》を召喚! 《キング・ムーγ》と能力を共有して、《燃えるメラッチ》を手札に! 《アマリンα》を召喚して、《ラブ・ドラッチ》も手札に!」
「1ターンで全部戻すんだ……でも、まだだよ! 《勇愛の天秤》を唱えるよ。手札の《燃えるメラッチ》を捨てて、二枚ドロー!」
シールドがない暁には、この数のクリーチャーを並べられるだけで脅威だ。一撃でも貰えば負ける。
とはいえ、限られた手札でこれらのクリーチャーを倒すことも、とどめを刺しに行くことも難しい。
しかし、勇気と愛情を天秤にかけて手に入れたカードから、暁は勝機を見出す。
「ん、きった! 《ラブ・ドラッチ》と《ビシット・アメッチ》召喚! そんでもって、《ラブ・ドラッチ》の能力で、私のファイアー・バードの数だけ、革命軍の進化クリーチャーの召喚コストを1下げる! 私の場にファイアー・バードは二体だから、コストは2軽くなる!」
《ラブ・ドラッチ》の応援は、仲間が増えるほど大きく、華々しくなる。最初は一人だけの応援だったが、今は友である《ビシット・アメッチ》がいる。一羽の応援は、仲間によって二倍になり、より素早く次の仲間を呼ぶ。
そう、次々と、仲間を、戦士を、友を、呼ぶのだ。
「4マナで、《ラブ・ドラッチ》を進化! 《革命龍 ドラッケン》!」
《ラブ・ドラッチ》を進化元にして現れるのは、《ドラッケン》。
仲間の応援が仲間を呼び、その仲間が仲間を呼ぶ。
どんどん仲間を増やして強大な群れとなるのは、なにもサバイバーの専売特許ではないのだ。
戦場を駆け、《ドラッケン》が咆える。
「《ドラッケン》で攻撃! その時——」
その刹那、彼の両腕を縛る鎖が、砕け散った。
「——革命2、発動!」
革命龍 ドラッケン SR 火文明 (6)
進化クリーチャー:メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍 11000
進化—自分の火のクリーチャー1体の上に置く。
W・ブレイカー
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を表向きにする。それが火のドラゴンなら、バトルゾーンに出してもよい。
革命2—このクリーチャーが攻撃する時、自分のシールドが2つ以下なら、自分の山札の上から2枚を表向きにする。その中から火のドラゴンを1体、バトルゾーンに出してもよい。残りを好きな順序で山札の一番下に置く。
砕かれた鎖の破片を振り払い、《ドラッケン》はビームサーベルを振るう。その光は、暁のデッキへと向けられた。
「山札の上から二枚をめくって、その中から火のドラゴンをバトルゾーンに出すよ!」
「え、でもそのクリーチャーって、攻撃した時に山札からドラゴンを……あれ?」
「そうだよ! 《ドラッケン》は革命2と、普通の能力で、“二回”山札だからドラゴンを出すチャンスがある! まずは一回目!」
《ドラッケン》の能力は、仲間を呼ぶこと。窮地に立たされた時、《ドラッケン》は革命の力によって、さらに多くの仲間を呼び寄せる。
道を照らし、《ドラッケン》は戦場を知らせる号砲を放つ。
「さぁ来て、《メガ・ブレード・ドラゴン》! 火のドラゴンだからバトルゾーンへ! 次、二回目!」
一度目の咆哮によって、《メガ・ブレード・ドラゴン》が現れる。
そして次は、二度目の咆哮だ。
暁は、山札を捲る。
「……ついてるね。でてきて! さっき出した《メガ・ブレード・ドラゴン》から進化!」
サバイバーは、長い年月をかけて、過酷な環境でも生き残るために、独自の進化論を導き出し、紐解いた。
ならば革命軍は、刹那のうちに訪れた逆境に抗うため、瞬間的に、爆発的な進化を遂げる。
進化の光が暁の空に輝き、
「暁の先に、革命を起こせ!」
この世界に、燃える革命を起こす。
「燃え上がれ——《燃える革命 ドギラゴン》!」
- 136話「サバイバー進化論」 ( No.533 )
- 日時: 2016/11/16 00:18
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
再び、革命の龍がその姿を現す。
その瞬間。
パキン、と。
《ドギラゴン》の身体を縛る鎖がひとつ、砕かれた。
「攻撃を続けるよ! 《ドラッケン》でシールドをWブレイク!」
《ドラッケン》の呼び声が《ドギラゴン》を呼び、そのまま《ドラッケン》は突貫する。
両手に携えたビームサーベルで、ファイのシールドを二枚、切り裂いた。
「っ……S・トリガー! 《モリノオウジャダケα》を召喚!」
「トリガーしか能力のないサバイバーだよね、それ。でも、ここでサバイバーって……」
「うんっ! 《モリノオウジャダケα》は《キング・ムーγ》の能力を共有するから、《ドギラゴン》を手札に戻すよ!」
《モリノオウジャダケα》はS・トリガーしか能力のない準バニラ。単体では弱いクリーチャーだが、何度も言うように、サバイバーは群れることで真価を発揮する種族だ。
サバイバーの群れにおいては、その軽さが武器になる《モリノオウジャダケα》だが、このクリーチャーの能力である潜伏力は、時として盾となる。
サバイブによって共有される能力を、《モリノオウジャダケα》を行使できる。つまり、バトルゾーンにいる《キング・ムーγ》の能力を共有し、放てるのだ。
S・トリガーしか持たない矮小なクリーチャーが、仲間との連携によって敵を跳ねのける激流となる。これがサバイバーの力だが、
「残念だったね。《ビシット・アメッチ》のウルトラ・セイバー発動! 代わりに《ビシット・アメッチ》を破壊するよ!」
「う、ウルトラ・セイバー……!?」
「えへへ、さっきまでのお返し、だよ」
《ドギラゴン》を飲み込む激流は、《ビシット・アメッチ》によって妨げられる。水飛沫すらも届かず、《ドギラゴン》は無傷だ。
「どんどん行くよ! 《メガ・ブレード・ドラゴン》で最後のシールドをブレイク!」
そして、最後のシールドが打ち砕かれる。
すると、
「! S・トリガーだよ! 《反撃のサイレント・スパーク》で、相手クリーチャーを全部タップ!」
「っ!」
最後のシールドから、閃光が放たれる。
閃光は暁のクリーチャーを縛り付け、動きを封じた。これでもう、暁は攻撃を続行できない。
どころか、ファイのクリーチャーが返しのターンで襲ってくる。文字通り、反撃のための一手だ。
「……ターン終了」
「危なかったぁ……でも、これでぼくの勝ちだよっ! ハチさんとの約束、これで守れるねっ!」
ファイのターン。
増殖する群体に、共有される能力。
群れることがそのまま力となる彼らは、その力を剣に盾に自在に変化させ、適応し、生き残る。
生き残った末に、彼らは己の勝利を見る。
「これで……終わりだよ」
泥臭く、粘り強く、しぶとく生き延びて戦い続け、彼らはその先にある未来へと手を伸ばす。
埋め込まれたオーブが発光し、《モリノオウジャダケα》の触手が、暁へと伸びる。
「《モリノオウジャダケα》で、ダイレクトアタック——」
漂流者の魔手が暁を貫く——その、刹那。
「——させないよ」
伸長する触手が、暁の身体に触れる直前に、弾かれた。
「え……っ!? なに、なんで……!?」
いくら《モリノオウジャダケα》が触手を伸ばしても、それは暁には届かない。見えない壁のようなものに阻まれている。
最初は見えなかった不思議な壁。しかしだんだんと、その全貌が、揺らめく陽炎のように浮かび上がってきた。
「《燃える革命 ドギラゴン》……革命2、発動!」
その瞬間、陽炎は燃え上がり、巨大な盾を構築した。
燃える革命 ドギラゴン L 火文明 (7)
進化クリーチャー:メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍 15000
進化—自分の火のクリーチャー1体の上に置く。
T・ブレイカー
革命2—このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分のシールドが2つ以下なら、次の自分のターンのはじめまで、自分はゲームに負けず、相手はゲームに勝たない。
■■■—■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■。
「た、盾……!?」
「そう、盾。《ドギラゴン》の一つ目の革命能力で作った、絶対防御の盾だよ」
本当に必要なときのみ解放される、《ドギラゴン》の革命能力。その一つ目は、革命2。
「私のシールドが二枚以下の時に《ドギラゴン》がバトルゾーンに出れば、次の私のターンが来るまで——私は負けない」
「ま、負けないって……攻撃が効かないってこと?」
「そうだよ。君の攻撃はこのターン、私には届かない」
すべての攻撃は、《ドギラゴン》の盾が防いでくれる。
短い間とはいえ、あらゆる攻撃をシャットアウトし、無敵の防御壁を構築する《ドギラゴン》の革命能力。
これが《ドギラギン》の第一の革命。絶対無敵の防御壁、完全防御革命だ。
「どうしたって君はこのターンに私を倒せないよ。さぁ、どうする?」
「攻撃が効かないんじゃ、なにもできないよ……ターン、終了だよ……」
「なら、これで決まりだね!」
どれだけ群れようと、どれほど能力を共有しようと、どこまでも強くなろうと。
革命によってもたらされる変革は絶対だ。その領域は、簡単には超えられない。
過酷な環境に耐え、順応する漂流者であろうとも、急激な変化を起こす革命には届かないのだった。
《ドギラゴン》の正面に構築された盾が砕け散り、消滅する。時間切れだ。
しかし、もう防御は必要ない。目の前の盾が消えたのは、これから攻撃へと移行するためだ。
ドラゴンを超えたドラゴンは飛翔する。燃え上がる革命の龍として。
「《燃える革命 ドギラゴン》で、ダイレクトアタック——!」
- 137話「蜂群と侵略者」 ( No.534 )
- 日時: 2016/11/28 20:07
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「……負けちゃった」
神話空間が閉じる。それと同時に、飛翔する龍も、群れる漂流者も姿を消し、暁とファイの二人だけが渓谷の洞穴に残った。
「ふぅ……コルルたちいなくても、なんとかなったよ……」
息を切らせ、額に伝う汗を拭う暁。
初めて使うカードも多かったが、なんとか勝てた。窮地の時に力を発揮する革命の力。性能はピーキーだが、一度その力が発動した時の爆発力は、凄まじかった。
まだまだ使いこなせているとは到底言えないが、メラリーから授かった力は暁の大きな力になっている。
「ごめんなさい、はちさん……約束、守れなかったよ……」
しょんぼりと、今にも泣き出しそうな面持ちで項垂れるファイ。ここまで悲しそうな顔をされると、胸が多少なりとも痛む。
「……ぼく、帰るよ。ともだちもみんな、もう戦えないし……」
落ち込んだ声で言って、背中を見せるファイ。
クリーチャ−とはいえ、人間の少年と変わらぬ容姿。幼い声、言葉遣い。
立場が違えば、彼の望みも叶えられたかもしれない。そう思うと、暁は声をかけずにはいられなかった。
「あのさ、聞いてもいい?」
「……? なに?」
「君はどうしてあいつと……『蜂』と友達やってんの?」
それは彼女の、素直で、率直な、疑問だった。
「あいつと友達なら知ってると思うけど、あいつはこの世界を滅ぼそうとしてるんだよ? この世界のクリーチャーを、全部……君も、君の友達も。それなのに、なんで?」
「……恩があるからだよ」
ファイは、小さく答えた。
「ぼくは、ぼくたちは、はちさんに助けてもらった。ぼくたちだけじゃ、この世界では生き残れなかったけど、はちさんが助けてくれたから、ぼくたちは生き残ることができた。それだけだよ」
「でも、あいつの目的が果たされたら、みんな死んじゃうんだよ? 助けられて生き残った君も」
「いいよ。はちさんのためなら」
ファイは即答した。
「生きることができるのは今だけ……クリーチャーだって、いつかみんな死んじゃうんだ。ぼくたちは周りの環境に合わせて適応する力があるけど、生命活動には絶対に限界がある。だから、いつかは死んじゃうんだよ」
「だからって……」
「でもね。なにもせずに、なにもできずに死んじゃうくらいなら、なにかをやって、誰かのためになって、生きた意味を残して死にたいよ。無意味に死ぬのはイヤなんだ。ぼくたちは、生きる意味がほしい……そんなときに、はちさんは、ぼくたちにその意味をくれたんだ」
すべての命は、いずれ死に向かう。死に向かう生の中で、彼らは生きる意味を求める。
死に向かって生き、生きる目的を死とする。生きるための糧が、死の概念。そんな矛盾した、不条理な意味。
しかし矛盾であろうと、不条理であろうと、その目的は誰かの生きる意味となる。
「だからぼくは、はちさんと、ともだちになったんだよ」
「……わけわかんないよ。生きたいと、思わないの?」
「思うよ。だからはちさんのために、ぼくはがんばる」
たとえそれが、死に繋がっていようとも。
生きるために死を求める矛盾が、暁には理解できない。柚や恋、浬や沙弓、一騎らでも、それを受け入れることはないかもしれない。
それっきり、ファイは口を閉ざして、どこかへと消えてしまった。
ただ一人、渓谷に取り残された暁は、しばらくの間、彼の言葉を反芻し、呆然とすることしかできなかった。
「ごめんね、はちさん。約束を守れなくて……」
渓谷からやや離れた森の中で、ファイはひとり呟く。
それは誰かに向けた言葉のようであったが、周りには誰もいない。誰かがいる気配も、微塵も感じない。
しかし、
「気にすんなって。お前にゃちょっと荷が重いとは思ってたし、あの嬢ちゃんも、見慣れねぇ力を持ってたしな」
声が、聞こえた。
その声は森の中から聞こえるものではない。さらに言えば、この声はファイ以外には聞こえていない。
ファイの言葉に答えた声は、他でもないファイ自身から発せられている声だ。
「はちさん……でてきてもいいよ?」
「ん? そうか? いいんか?」
「うん。ぼくも、ちゃんとはちさんの顔を見てお話したい」
「そっか。んじゃ、ちょっと待ってな。今出る」
ミシミシッ
殻が割れるような 不快な音が小さく響く。
「ん……ぅ……っ」
「痛いか?」
「ううん、だいじょうぶ……ちょっと、お腹の下の方がキュッとするけど……」
ファイの小さな背中を割り開いて、異形の『蜂』が姿を現す。
パックリと、ファイの背中は割られているが、血は一滴も流れておらず、その奥底に見えるものも、深淵だけだ。
「今まではちさんに寄生されたことってなかったけど、こんな感じなんだね……なんか、変な感じ」
「麻酔打ってるから痛みはねーが、基本的には不快だと思うぜ? 元々は宿主の身体を内部からを食い荒らすための力だかんなぁ。俺としちゃ、生きる手段であり、制約だがな」
「ぼくのカラダはどう? はちさん」
「悪くねーな。適正はあるぜ、お前」
「えへへ、やったぁ」
「まあ、ガジュマルやゆずちゃんほどじゃないがな。やっぱ語り手の力ってすげーわ」
カチカチ、と顎を鳴らす『蜂』。虫の表情の変化などわかるはずもないが、愉快そうなその動作は、笑っているのかもしれない。
「さて、こっちはいまいち上手くいかなかったが……ガジュマルの奴はどうかねぇ。交渉が成功してるといいんだが」
「ガジュマルさんなら、だいじょうぶだと思うよ?」
「あいつの能力の高さは俺も認めるが、交渉っちゅーのは自分が強けりゃそれでいいってもんとは違うのよ」
「そうなの?」
「そうだ」
カチッ、と一度だけまた顎を鳴らすと、『蜂』はずるずるとファイの背中の深淵へと飲まれていく。
その最中に、ファイにも聞こえないような声で小さく言った。
「特に連中は、一癖も二癖もある……一筋縄じゃいかねぇだろうなぁ——」
- 137話「蜂群と侵略者」 ( No.535 )
- 日時: 2016/11/29 23:16
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
爆ぜるようなエンジン音が、火文明の渓谷の中で轟く。
決して足場が良いとは言えない、でこぼこした岩肌をものともせずに、縦列に並んだホイールは回転し、直線の軌道を描き続ける。
轟音をまき散らしているのは、一つのバイクだった。燃えるように赤いフレームが特徴的なバイク。
バイクはひたすらに一本道の警告を突き進み、やがて自然文明領との境界まで進むと、進路を変えた。あまりにも荒々しく、その動作は軌道を曲げたと言うよりも、進む空間を自分に合わせて捻じ曲げたと言うような豪快さと豪放さがあった。あくまでも自分自身が軸であると主張するかのように。この燃える彗星の如き機体の前では、道という空間すらも屈服する。そんな強大な力を感じさせた。
そうしてその彗星は、一つの大きな建物の前で停止する。ここで初めて、激しすぎる自己主張を止めた。そして、人影がバイクから下り、その建物へとずかずかと侵入していく。
建物の中は、白かった。正確には少々灰色っぽい白で、事務的な空間を演出している。小奇麗に整頓されてはいるが、壁には光が点灯や点滅している無数の機械、数多の針が揺れ動く数々のメーター、なにかを表示し続けているディスプレイ、天井を覆い尽くす大量のコード。それらのものは、ここがなにかしらの研究、実験、開発などを行っていることを証明している。
入口を潜ると、静かな、それでいてはっきりと耳に残る力強い声を発する。
「開発部長はいるか!」
その返事は、存外すぐに返ってきた。
「はいはい、ここにいますよ」
すぐに返事が来たのは、すぐ傍にいたから。入口からほど近いが、ひときわ高くなっているところに、小柄な白衣の男が立っていた。
男は来客の姿を見るなり、憂鬱で面倒くさいと言わんばかりの溜息を、意外という感情でもって目を見開くと共に吐き出す。
来客を見下ろしたまま、白衣の男は言った。
「これはこれは、実戦部隊長殿。まさかこんな辺鄙なところにおいでなさるとは思わなんだ。一体なんの用ですかな? ご存じとは思いますがこんなとこなので、なにもおもてなしはできませんが、とりあえず座りますか? ここに椅子はないので、僕の研究室にでも——」
「いらん」
見かけとはいえ男の厚意を一蹴する。
しかしさほど気にした風もなく、男は続けた。
「ま、そうですよね。なんの用と聞きはしましたが、あなたがわざわざ僕の下を訪れるということは、概ね見当はつく。新型レッドゾーンについてでしょう」
「……あぁ。進捗はどうだ」
「てんでダメですね」
男は即答した。
指先をちょいちょいと揺らしてこちらに来るようにジェスチャーすると、ディスプレイに向かう。それに対して、床を蹴り飛ばし、その勢いで跳躍して、柵を掴み、高くなっているその場所へとよじ登る。どう考えても正規の移動方法ではないが、男は気にせずに続ける。
「オリジナルのコアを基にして色々弄ってみましたが、ほとんどの外的効力を受け付けない。いや、受け付けないってよりは、レッドゾーンのスペックが高すぎて、元々レッドゾーンが保有しない異物をすべて殺してしまう。だから改造しようにも、改造させてくれないんですよ。元々が強すぎるがゆえの弊害、っていうんですかね」
「ターボ3、SAーW、マッハ55、同じ音速の力でもか?」
「えぇ。正に規格外ですよ」
伝説と呼ばれるだけのことはある、と男は言った。
「ただ、弄り続けた甲斐あって、コピーは作れました。オリジナルほどの特殊性と独自性はありませんが、基本性能はオリジナルと比べても遜色のないものに仕上がってると思います。こっちだけでも、とりあえず渡しておきますね」
男が手元のキーボードらしきものをカタカタと操作すると、そのすぐ横からなにかが飛び出した。それはカードだ。全部で三枚ある。
それら三枚をすべて引き抜き、手渡す。
受け取りながら、先ほど感じた疑問をぶつける。
「それで、新型レッドゾーンは作れそうなのか?」
「今のままでは無理ですね。新型もなにも、このままじゃどう弄ったって改悪にしかなりません。現段階では、改造するためのパーツがない。レッドゾーンの破格の圧力に耐えうる、強力なパーツが必要です」
「強力なパーツか……」
三枚のカードを仕舞いつつ、考え込む仕草を見せると、ふと思いついたように自らの服の内をまさぐる。
「こっちは別件のつもりだったが、思いのほか、役に立つかもな」
「? レッドゾーン以外のことで、なにか用があったんですか?」
「とある敵からあるものを鹵獲した。柄じゃないのはわかってるが、駆け引きと誘導のために持ってきたが……あいつを誘き出す前に、お前にデータをくれてやる」
「ははぁ、そうですか。で、鹵獲品は?」
無言で取り出されたのは、やはり一枚のカード。
しかしそれを見るなり、男は心底驚いて目を見開いた。
「これは……確か、太陽の語り手……! これをどこで……!?」
「ほんの数時間前。語り手の所有者と交戦し、その時に鹵獲した」
「凄いサンプルだ……やはりあなたは最高ですね。一軍を率いる長としては申し分ない力だ。で、これを……」
「あぁ。征服の【鳳】。それと同じ意匠の、漆黒の大鳥。語り手とはいえ、かの神話の後継者だ。レッドゾーンの馬鹿力にも耐えられるやもしれん」
「改造パーツとしてはうってつけってわけですか……いいでしょう。では、語り手の力を解析し、それを抽出してレッドゾーンに注ぎ込んでみますか」
その前にこの語り手の力を封じておかなくては、と男はカードを置いて、言いながら別の作業に移る。
「神話の語り手というパーツであれば、あなたの言う通りレッドゾーンの圧力にもクラッシュしないかもしれない。なにより、僕としても語り手の力は興味深い。いい研究材料を提供してくれましたね、実戦部隊長殿」
「ただし、見返りというわけではないが、新型レッドゾーンの開発、研究を優先しろよ」
「わかってますって。ところで語り手の解析とマナの抽出にはもう少し時間がかかりますけど、少し待っていてもらえませんか?」
「断る。すぐに出る」
待つことがそれほど苦痛なのか、男の要求をにべもなく切り捨てる。
しかしその返事は半ば想定内だったのか、男は呆れたように溜息を吐いた。
「こんな辺鄙なラボに置いとくには危険です。ちゃんとメインラボで保管しないと」
「転送装置はどうした?」
「語り手クラスのクリーチャーを転送するとなると、不具合が生じる恐れがあって危険ですね。そしてなにより、前にキキちゃんが遊びに来た時に、壊しちゃって使えないんですよ、今」
「……わかった。ならそれは本部基地に持ち帰る。どのくらいかかる?」
「わかりませんねぇ。思ったより解析が難航しそうなので、結構かかっちゃうかも。数時間は見てもらわらないと」
「遅い。かかりすぎだ」
「あなたにはわからないと思いますけどね、データ解析ってそんなもんなんですよ。バイクレースの基準で考えないでください」
そんなやり取りをしていると、ふと男が思い出したように、
「そういえば、キキちゃんから連絡がありましたよ。あの子のことですから、先にあなたの方に連絡がいってると思いますが、またこっちに来るそうです」
「らしいな」
「あなたがすぐに出るなら、キキちゃんに持たせましょう。あの子の方があなたと接触しやすいでしょうし、あなたもあの子になら任せられるのでは?」
「キキには運び屋は向いてないと思うんだがな」
「じゃあしばらく待ってくださいよ」
「断る」
短く一方的に要求を突き付ける。じゃあ……と男はまた反論しようとしたが、そう切り出す頃には、もう階下へと飛び降りていた。
最後まで言うことなく、突然の来客は出ていき、エンジン音と共にあっという間に消えていく。
轟音を聞きながら、また深い溜息を吐く。
「……強いし、僕も認めるくらいに凄い人なんだけど……勝手だよなぁ」
愚痴るように零すと、それっきりなにも言わずに男はディスプレイに向かった。
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