二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 115話「欲望——強欲」 ( No.359 )
- 日時: 2016/04/12 23:32
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「《青銅の面 ナム=ダエッド》を召喚です。マナ武装3で、山札の上から一枚目をマナにおきます」
「《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚! すぐに破壊してマナを増やすよ! 続けて呪文《フェアリーの火の子祭》! 山札の上から二枚を見て、《ジョニーウォーカー》をマナに置くよ。そして《フェアリーの火の子祭》を手札に!」
「《ベニジシ・スパイダー》を召喚です。山札の上から一枚目をマナに置きます」
「《フェアリーの火の小祭》! 《ミツルギブースト》をマナに置いて、《火の子祭》を手札に! さらにもう一度、《フェアリーの火の子祭》! 《バトクロス・バトル》をマナに置いて、《火の子祭》を手札に戻すよ!」
暁と柚のデュエル。
お互い、シールドは五枚。
ゆっくりと場にクリーチャーを揃え、マナを伸ばしていく柚に対し、《フェアリーの火の子祭》を連打して、爆加速する暁。
しかし、《ナム=ダエッド》《ベニジシ・スパイダー》の流れを作った柚は、これで7マナ溜まる。
7マナ。それは、彼女の邪悪さが滲み出る時だ。
「わたしのターンです……《牙英雄 オトマ=クット》を召喚」
「っ、来た……!」
すべての自然のマナを吸収し、太古の英雄が呼び出された。
「《オトマ=クット》のマナ武装7、発動です。わたしのマナゾーンのカードを七枚アンタップします。さらにこの7マナを使って——」
自然のマナを武装して、《オトマ=クット》は原生林を繁茂させる。それにより、使われた柚のマナが、再び力を取り戻した。
そして、
「——《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚です」
欲望に目覚めしドラグナーが、現れる。
「《イメン=ブーゴ》の効果発動です、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートをバトルゾーンに。きてください——《邪帝斧 ボロアックス》」
ザクリ、と大地に邪悪な戦斧が突き刺さる。
それを引き抜くと、《イメン=ブーゴ》は衝動のままに斧を振り下ろし、大地を割り、地中に眠る命を引きずり起こす。
「《ボアロアックス》を《イメン=ブーゴ》に装備します。そして《ボアロアックス》の効果で、マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンへ。《ベニジシ・スパイダー》の効果でマナを一枚ふやしますね」
「やっぱり、そう来るよね……!」
ぞわりと背筋に悪寒が走るのを感じる。
邪悪な欲望が、さらなる力を得て、形を変える。その波動を、直で感じる。
柚の場のクリーチャーのコスト合計は、3+5+7+7+5。合計27。
合計コストは20を超えている。つまり、《ボアロアックス》の龍解条件を満たしている。
「これで見せるのは、二度目ですね、あきらちゃん……わたしのターンは終了。そのとき、《邪帝斧 ボアロアックス》の龍解条件が満たされます——2D龍解」
《イメン=ブーゴ》は《ボアロアックス》を地面に叩きつけ、埋め込んだ。
数多のクリーチャーの力を貪欲に吸い込み、取り込んで、《ボアロアックス》は姿を変える。
「——《邪帝遺跡 ボアロパゴス》」
邪悪な戦斧は、邪悪な遺跡へと姿を変える。
滾々と流れ落ちるマナの滝。すべての文明を吸い上げ、解き放つ、禍々しき太古の要塞。
それが、暁の前にそびえ立つ。
「2D龍解は防げなかったか……でも、3D龍解はさせない! 私のターン! 《無双竜鬼ミツルギブースト》を召喚! 《ミツルギブースト》をマナに送って、《ベニジシ・スパイダー》を破壊するよ!」
暁の呼び出した《ミツルギブースト》は、登場と同時に、すぐさまマナへと変換される。
その時に発生した炎が刃となり、弾け飛ぶ。飛散する刃は柚の《ベニジシ・スパイダー》を燃やし、切り裂いた。
「さらに呪文《フェアリーの火の子祭》でマナを増やして、ターン終了!」
「わたしのターン……うーん、どうしましょうか」
《ベニジシ・スパイダー》がやられたため、柚の場のクリーチャーの合計コストは22に減らされてしまった。《ボアロパゴス》が龍解するには、あと8コスト必要だ。
柚のデッキは、マナカーブの維持と、《ボアロアックス》《ボアロパゴス》の効果でクリーチャーを出しやすくするために、多くが3、5、7コストのカードで構成されている。コスト8のクリーチャーは、デッキに入っているかすら怪しい。
「手札もありませんし……このドローに、おまかせします」
クリーチャーを多く展開したツケだ。テンポよくクリーチャーを展開できたのはよかったものの、手札補充を怠っていた柚は、もう手札がない。
一方《フェアリーの火の子祭》を何度も使い回していた暁は、まだ手札が残っている。このハンドアドバンテージの差は、決して小さくはない。
しかし、柚には手札がなくともクリーチャーを生み出す術がある。
一体のクリーチャーで龍解条件を満たすコストを埋められないならば、二体でコストを増せばいいだけの話。今の柚には、それができる。
「……《ナム=ダエッド》を召喚です。マナ武装3で、マナをふやします」
柚が引いてきたのは《ナム=ダエッド》。強力なクリーチャーでもなく、これだけでは《ボアロパゴス》の龍解には届かない。
だが、それだけではなかった。
「《ボアロパゴス》の効果発動です。マナゾーンから《鳴動するギガ・ホーン》をバトルゾーンにだします」
クリーチャーを手札から召喚すれば、《ボアロパゴス》の効果が発動する。
大地にその身を捧げたクリーチャーは、邪悪なる遺跡の力によって、マナの力を肉体へと再構築され、地中深くより目覚めさせられ、引きずり起こされる。
遺跡の中より、マナとして安息の眠りを得ていた《ギガ・ホーン》が目覚めた。その咆哮が、さらなる仲間を呼ぶ。
「山札から《ドミティウス》を手札に加えて、ターン終了です」
「まずい、あのカードは……早く決着つけないと……」
《邪帝類五龍目 ドミティウス》。一度に最大五体、各文明のクリーチャーを一体ずつバトルゾーンに呼び出す、大型ジュラシック・コマンド・ドラゴン。
このクリーチャーの凶悪さは、暁自身、身を持って体感している。あのクリーチャーを呼ばれると、一気に戦況が柚へと傾くことは目に見えていた。どうにかしてあのクリーチャーの召喚を封じるか、その前に勝負をつけなくてはならない。
選択肢は二つ。しかし、暁が選ぶのは、後者しかあり得なかった。
「《爆熱血 ロイヤル・アイラ》を召喚! マナ武装3で手札を一枚捨てて、二枚ドロー!」
しかし、今の手札ではこのターンに決着をつけることはできない。逆転に繋がる一手が必要だ。なので、まずは《ロイヤル・アイラ》で手札を蓄える。
マナのカードが赤く光り、捨てた手札を種火に新たな手札が引き寄せられた。
そのカードを見て暁は、口元を緩ませる。
「来たよ、これで決める! 《龍覇 グレンモルト「爆」》を召喚! 効果でコスト5以下の火のドラグハートを呼ぶよ!」
かくして暁は、一気に決着をつけるだけの手段を手に入れた。
《ロイヤル・アイラ》から繋いだ《グレンモルト「爆」》。彼は超次元に熱血の闘志を注ぎ込み、爆ぜるように熱い、龍の城を呼び出す。
「来て——《爆熱天守 バトライ閣》!」
超次元の裂け目から、それは現れる。
《グレンモルト「爆」》の導きによって、法螺貝の音が鳴り響き、《バトライ閣》が築城された。
砦は完成した。戦士も揃っている。あとは、攻めるだけだ。
「《グレンモルト「爆」》で攻撃! そしてこの時、《バトライ閣》の効果発動! 山札を捲って、ドラゴンかヒューマノイドならバトルゾーンに出すよ!」
このターン、暁はまだドラゴンを召喚していないので、ここでドラゴンが捲れても、《バトライ閣》を龍解させることはできない。
だが、《バトライ閣》で捲ったカード次第では——具体的に言えば、スピードアタッカーが捲れれば、そのまま連続攻撃でドラゴンを呼び出し、龍解条件を満たせる可能性がある。
そうでなくても、上手く連続してスピードアタッカーのドラゴンやヒューマノイドを引き続けることができれば、強引に押し切ってしまうことすら可能だ。
そして、暁は山札に手をかけた。
《バトライ閣》から鳴り響く法螺貝の音色が援軍を呼び、その勢いに乗って、新たな戦士が戦場へと現れる。
「よしっ! 最高の一枚だよ。《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》をバトルゾーンに!」
悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス 火/自然文明 (8)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スピードアタッカー
W・ブレイカー
相手がコストを支払わずにクリーチャーをバトルゾーンに出した時、そのクリーチャーを持ち主のマナゾーンに置く。
このクリーチャーがどこからでも自分の墓地に置かれる時、かわりにこのクリーチャーと自分の墓地を山札に加えてシャッフルする。
現れたのは、ハンターとエイリアンの姫君。従者たる流星の龍の力も合わせ、悠久の時を統べる者となった、永久のクリーチャー、《フォーエバー・プリンセス》。
単体でいくつかの能力を持ち合わせている《フォーエバー・プリンセス》だが、とりあえず彼女は暁が望んでいたスピードアタッカーだ。なのでこのターン、即座に攻撃し、再び《バトライ閣》の能力を使うことができる。
「攻めるよ! 《グレンモルト「爆」》で、シールドをWブレイク!」
《グレンモルト「爆」》が振るう剣が、爆ぜるような勢いで柚のシールドを叩き斬る。
二枚のシールドが破片となって飛び散り、柚の身にも降りかかった。
だが、
「……S・トリガーですよ、あきらちゃん」
砕かれたシールドの一枚は、光の束として収束した。
直後、法螺貝の音を打ち消すかの如く、騒々しくも熱気溢れる、大歓声のような爆音が轟いた。
「呪文《チャケの応援》。このターン、プレイヤーへの攻撃は、もうできません」
チャケの応援(ケチャ) 自然文明 (3)
呪文
S・トリガー
このターン、クリーチャーはプレイヤーを攻撃できない。
このターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャーすべてのパワーは+2000される。
仮面を付けた大量の獣人が戦場へと駆けつけると、摩訶不思議な歓声と踊りによって、クリーチャーの攻撃を妨げる。
その歓楽的で騒がしい様子とは正反対に、柚は静かに、その光景を見つめていた。
「止められちゃった……まずい」
運任せとはいえ、暁としては、《バトライ閣》でドラゴンを連続で呼び出して押し切る手しかなく、またそれだけのことができるという自信もあった。この局面なら仲間たちも来てくれるという信頼もあった。
だが、それはすべて止められてしまったのだ。
このターンに決着をつけられなかった。それは、暁に二つの不幸をもたらす。
一つは、先ほど手に入れた《ドミティウス》の存在。
もう一つは、
「わたしのターン……このわたしのターンのはじめに、《ボアロパゴス》の龍解条件、成立です」
バトルゾーンにある柚のクリーチャーのコスト合計は、3+5+7+7+3+5=30。
《ボアロパゴス》の龍解に必要なコスト30を、ちょうど満たしている。
「わたしの欲望がうずまいて……わたしの牙にひれ伏して……邪悪なわたしはここにいます」
ゴゴゴゴゴ、と《ボアロパゴス》が揺れ動く。大地とアクセスし、眠ったクリーチャーを呼び覚ますため、ではない。
遺跡自身、その内部——心臓部に眠る、秘められた邪悪な龍の魂を、解放するためだ。
「《邪帝遺跡 ボアロパゴス》——3D龍解」
そして今、自我の欲望を満たすべく、すべてを力でねじ臥せ、邪悪なる牙を突き立てる、古代龍が解き放たれる。
力という力を突き詰めた、原始的な“欲望”の姿が、そこにはあった。
「あなたのすべてを、わたしにください——《我臥牙 ヴェロキボアロス》」
- 115話「欲望——強欲」 ( No.360 )
- 日時: 2016/04/13 23:55
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
邪悪な遺跡が揺れ動く。
遺跡の内部に秘められた、白、青、黒、赤、緑の五色——光、水、闇、火、自然の五文明のマナが、欲望を解き放つため、遺跡の核に働きかける。
五つの力の根源が蠢動し、混ざり合い、混濁し、混沌となり、純粋にして邪な、原始的な欲望として、一体の怪物を生み出す。
屹立し、湾曲する、緑色の長大な角。
すべての文明の色に染まる、虹色で濁色の戦斧。
あらゆる欲望を秘め、それらを解放した、“欲”の化身。
それ即ち——《我臥牙 ヴェロキボアロス》が、顕現した。
「あ……ぅ……」
出てしまった。出て来てしまった。
呻き声をあげることしかできない暁。
失敗した。このクリーチャーだけは呼び出させてはいけなかった。このクリーチャーの龍解だけは、なんとしてでも防ぐべきだった。
悔やんでも仕方ないが、しかし攻め急いでしまったのかもしれないと思う。クリーチャーの除去を考えず、早く決着をつけようとしたばかりに、この邪悪な古代龍の登場を許してしまった。
《ヴェロキボアロス》は、ギラギラと光る眼光で、こちらを睨みつけている。その瞳には、すべてを奪いたい、奪い尽くしたいという、力を求めるだけの、野蛮で原始的な欲のみが渦巻いていた。
その恐ろしさに、身が竦みそうになる。
「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」
だが、恐ろしいのは《ヴェロキボアロス》だけではない。
《ヴェロキボアロス》に続き、柚はさらに邪悪な龍を呼び出す。
蜘蛛のように地を這いずり回り、五つの文明を取り込み、支配する古代龍、《ドミティウス》。彼は、山札を掘り起こし、取り込んだ文明の力を解放する。
「《ドミティウス》の効果で、山札の上から五枚をめくりますね。そして、その中にある光、水、闇、火、自然のコスト7以下のクリーチャーをそれぞれ一体ずつ、バトルゾーンにだします」
刹那。
柚の周囲から、五色の光が噴き出す。
白、青、黒、赤、緑。
彼女の髪をなびかせて、それぞれの光は花の姿を形成する。
そして、一輪ずつ、丁寧に、穏やかに、嫋やかに、柚はそれを摘み取っていく。
「光は蒲公英、真の恋——《護英雄 シール・ド・レイユ》」
白い花を摘み、聖域へと放る。
それは聖歌の祈りを纏う、白き龍となった。
「水は紫陽花、冷たい智——《理英雄 デカルトQ》」
青い花を摘み、源泉へと放る。
それは知識と真理を纏う、青き龍となった。
「闇は黒百合、呪われた愛——《凶英雄 ツミトバツ》」
黒い花を摘み、墓場へと放る。
それは終わりなき殺意を纏う、黒き龍となった。
「火は鳳仙花、燃えるような心——《撃英雄 ガイゲンスイ》」
赤い花を摘み、戦場へと放る。
それは燃え滾る闘志を纏う、赤き龍となった。
「自然は茉莉花、しとやかな温和——《牙英雄 オトマ=クット》」
緑の花を摘み、大地へと放る。
それは原始からの命を纏う、緑の龍となった。
五輪の花が咲き誇り、五文明の英雄が、出揃った。
彼女の、そして自分たちの、力の象徴が、そこにある。
「っ……! で、でも、《フォーエバー・プリンセス》の効果発動だよ! 相手がコストを支払わずにクリーチャーを出したから、全部マナゾーンに!」
「はい、マナにかえっちゃいますね……でも」
咲き乱れた花はすべて、土へと還される。
だが、しっかりと根を張って、そこに咲いたという事実は存在すれば、それが咲いた影響は、残るのだ。
つまり、いくら暁の場に《フォーエバー・プリンセス》が存在しようとも——
「——それよりも先に、“わたしの”クリーチャーの効果が発動します」
五つの光が迸る。
マナゾーンを彩る光。それぞれの英雄が武装する光。そして、柚の周囲に噴き出る、五輪の花の光。
それらがすべて、暁へと放たれる。
「《護英雄 シール・ド・レイユ》の、白いマナ武装7——《グレンモルト「爆」》と《フォーエバー・プリンセス》を、シールドに閉じこめます」
《シール・ド・レイユ》は白く武装する。聖歌の光は、暁のクリーチャーを盾の中に封じる。
「《理英雄 デカルトQ》の、青いマナ武装7——カードを五枚、ドローします」
《デカルトQ》は青く武装する。真理の水は、柚に潤沢な知識を授ける。
「《凶英雄 ツミトバツ》の、黒いマナ武装7——相手クリーチャーのパワーを、すべて−7000します」
《ツミトバツ》は黒く武装する。殺意の闇は、暁のクリーチャーに殺戮の業を為す。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》の、赤いマナ武装7——わたしのクリーチャーのパワーをすべて+7000、さらにシールドを一枚多くブレイクします」
《ガイゲンスイ》は赤く武装する。熱血の火は、柚のクリーチャーにさらなる力を与える。
「《牙英雄 オトマ=クット》の、緑のマナ武装7——わたしのマナゾーンのカードを七枚、アンタップします」
《オトマ=クット》は緑に武装する。原始の自然は、柚の有するマナに再び活力を取り戻す。
《フォーエバー・プリンセス》が除去されても、英雄たちがバトルゾーンに出た時の効果は既にトリガーしているため、先にそちらの効果が解決される。《フォーエバー・プリンセス》の効果は置換効果ではないため、相手の登場時の効果をトリガーさせてしまうのだ。
その後、《フォーエバー・プリンセス》の効果が解決され、英雄たちはマナへと送り込まれていった。
彼らはその力は遺憾なく発揮していった。柚は潤沢な手札とマナ、そして強大な戦力を残し、暁の場は完全に不毛の地となってしまっている。
「さらに、《ヴェロキボアロス》の効果発動です……わたしが、手札からクリーチャーをだしたので、マナゾーンから自然の好きなクリーチャーを呼び出します。《天真妖精オチャッピィ》をバトルゾーンに。さらに手札からも《オチャッピィ》を召喚。そして」
結果的に《ドミティウス》を召喚しただけの柚は、英雄たちがマナゾーンに送られたのを見届けると、《ヴェロキボアロス》に目を向ける。
一体目の《オチャッピィ》で、墓地のクリーチャーをマナに還元。二体目の《オチャッピィ》も同様に、マナにクリーチャーを送る。
そして《ヴェロキボアロス》は、《オチャッピィ》の存在に反応した。二振りの戦斧で大地を割り、その中から一体のクリーチャーを引きずり出す。
役目を終え、大地に眠ろうとする、英雄を。
「赤い英雄さん、でてきてください——《撃英雄 ガイゲンスイ》」
「《ガイゲンスイ》……!」
《フォーエバー・プリンセス》でマナゾーンに還したはずの《ガイゲンスイ》が、戻ってきてしまった。
「また《ガイゲンスイ》が場にでたので、もう一度、マナ武装7が発動します」
「ってことは、これでゆずのクリーチャーは全部、パワー+14000で、シールドを二枚追加でブレイクできる、ってこと……!?」
元々は自分のカード、彼の力は、暁もよく理解している。
だが、マナゾーンを介して出し入れし、その効果を重ねがけるというプレイングは、とても真似できない。《フォーエバー・プリンセス》を利用された形だが、これは柚だからこそできた芸当だろう。
いや、そもそも、普段の柚は、このような戦い方はしない。暁のカードをこれ見よがしに繰り出すような真似はしない。
目の前にいる柚は、いつもの彼女ではない。
そのことを、再び、はっきりと認識させられる。
これは“今”の彼女であるがゆえの、行いであると。
「まだ、終わりませんよ。わたしの手札は、《デカルトQ》のおかげでたくさんあるんです。《ナム=ダエッド》を召喚です。マナをふやして、《ヴェロキボアロス》の効果発動」
また、《ヴェロキボアロス》が雄叫びをあげ、大地を割る。
次に引きずり出されたのも、英雄だった。
「白い英雄さん、でてきてください——《護英雄 シール・ド・レイユ》」
「今度は恋の……!」
「暁ちゃんの場にクリーチャーはいないので、出すだけですけどね。ねんのために、守りをかためさせてもらいます。さらに《鳴動するギガ・ホーン》を召喚。そしてまた、《ヴェロキボアロス》の効果を使います」
またも大地を割り、新たな英雄が這い出てくる。
「緑の英雄さん、でてきてください——《牙英雄 オトマ=クット》」
《オトマ=クット》が現れると、マナゾーンが三度活力を取り戻す。
何度も何度も、搾り取られるたびに次々と新しい力を注がれた大地は、酷使され続ける。不毛の地となることなく、死という安息すらも得ることができず、大地はマナを生むことを強要される。
「《オトマ=クット》のマナ武装7で、マナを七枚アンタップです。さらに《ベニジシ・スパイダー》を召喚です……《ヴェロキボアロス》」
柚が呼びかける。
それにより、《ヴェロキボアロス》の力が行使される。
大地を割って現れるのは、やはり英雄。
「青い英雄さん、でてきてください——《理英雄 デカルトQ》」
「今度は浬のか……!」
「カードを引いて、シールドも交換しましょう。守りも、もっとかためちゃいます。続けて《有毒類罠顎目 ドクゲーター》を召喚。そして」
《ヴェロキボアロス》が、大地から英雄を引きずり出す。
「黒い英雄さん、でてきてください——《凶英雄 ツミトバツ》」
「最後は部長の……まずいよ」
《フォーエバー・プリンセス》で戻した英雄が、すべて戻ってきてしまった。
暁は、結果として《ドミティウス》を止めることもできていない。ただ、自分の場を壊滅させられただけだ。
さらに、柚の場に並んだ、夥しい数のクリーチャー。このターン攻撃できるクリーチャーの数はさておいても、この圧倒的すぎる物量は、絶望を通り越して、虚無の心すら生み出す。
むしろ、ここまでの軍勢を築き上げる存在を、崇拝すべきなのかもしれない。
それほどに、今の戦力差は開きすぎている。
《シール・ド・レイユ》によって、暁のシールドは七枚ある。だが、二枚増えた程度では、この物量に耐えられる気はしなかった。
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》で攻撃……マナゾーンから《ナム=ダエッド》を場に出します。そして——」
《ガイゲンスイ》の能力を重ね掛けした《ヴェロキボアロス》の破壊力は、言葉では表現できないほどに凄まじい。
「——シールドブレイクです」
一撃で、五枚のシールドがまとめて吹き飛んだ。
「うぁ……っ!」
割られたシールドのうち二枚は、《グレンモルト「爆」》と《フォーエバー・プリンセス》。トリガーでないことが確定しているシールドだ。
残り三枚のシールド。
柚の場でこのターン攻撃可能なアタッカーは、《ヴェロキボアロス》を除いて七体。
《ナム=ダエッド》が二体、《ベニジシ・スパイダー》《ギガ・ホーン》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》がそれぞれ一体ずつ。そして、スピードアタッカーの《ガイゲンスイ》だ。
それらほぼすべてが《ガイゲンスイ》のマナ武装を重ねがけされ、Tブレイカー以上の打点を持っているため、《ヴェロキボアロス》と合わせて、たった二回の攻撃でシールドは壊滅する。
トリガーが期待できるシールドは、七枚中五枚。
そこには、まだ暁が諦めないだけの、希望が残っていた。
「S・トリガー! 《英雄奥義 バーニング・銀河》!」
その一枚目。
燃え盛る銀河の炎。英雄の力を凝縮した、彼らの奥義が解き放たれる。
(一騎さん、みんな、力を貸して……!)
呪文として残されたその力が、暁のマナの力をも取り込み、行使された。
「まずは、コスト5の《ベニジシ・スパイダー》を破壊! さらに、マナ武装7、発動! コスト12以下の《イメン=ブーゴ》も破壊!」
二つの銀河が、《ベニジシ・スパイダー》と《イメン=ブーゴ》を炎で包み込み、灰も残さず燃やし尽くす。
「もう一枚、S・トリガー! 《めった切り・スクラッパー》発動だよ! 《ナム=ダエッド》二体を破壊!」
二枚目のシールドも、暁の命を繋ぐトリガーとなる。
鋸のような刃が、ニ体の《ナム=ダエッド》をまとめて切り裂き、切断する。
さらに三枚目のシールド。
「まだ終わらないよ! S・トリガー《イフリート・ハンド》! コスト9以下の《オトマ=クット》を破壊!」
灼熱の魔手が《オトマ=クット》を握り潰し、燃やし尽くす。
これで残るアタッカーは三体。
「……《ベニジシ・スパイダー》で、シールドブレイクです」
《ベニジシ・スパイダー》が残った二枚のシールドを砕く。巨大な蜘蛛の一撃は、凄まじい重量を伴って、抉るように盾を粉砕した。
「……トリガーなしか」
一枚目のシールドに、S・トリガーはない。
残る一枚のシールドから、二体のアタッカーを処理しなくては、暁の負けだ。
「お願い、来て……!」
最後のシールドが砕かれる。
シールドゼロ。もう後がない。
ここで引かなければやられるだけだ。
正体の掴めない、邪悪な欲に。
「絶対に、負けたくない……!」
暁には敵の正体なんて分からない。そんなものがあるのかどうかすら不明だし、それを推理するだけの力もない。
分かっていることは、自分の親友は、仲間を傷つけるような真似は絶対にしないという、信頼だけ。
しかし、暁はなにもかも失われた。戦友も、仲間たちも、そして、信頼する親友も、すべて。
だが意気消沈している暇はない。諦めるわけにはいかない。
引っ込み思案だった彼女に代わって、自分が我儘を通すのだ。
なにがなんでも通したい思い。どれほど無理であろうとも、その道理を燃やし尽くしてでも、押し通す。
それはある種、強欲とさえ言えた。
我を通す強き思い。己を曲げない猛き意志。
失われたものを取り戻すために、暁は手を伸ばす。
「S・トリガー——」
指先が熱い。しかし、力強く、そして頼もしい熱さだ。
燃え滾る炎は、果てしない銀河の如き熱を込め、解放される。
「——《英雄奥義 バーニング・銀河》!」
そして、再び英雄の技が炸裂する。
「一発目! コスト5以下の《鳴動するギガ・ホーン》を破壊!」
最後のトリガー。《ガイラオウ》が放つ、燃え盛る火球が銀河の如く連なり、爆ぜる。
《ギガ・ホーン》を焼き払い、銀河はさらなる薪を放り込まれ、燃焼する。赤いマナを得て、さらに轟々と燃える。
熱血の根源すらも飲み込むほどに、大きく、熱くなる。
「さらに、マナ武装7、発動! 二発目! コスト12以下のクリーチャーを破壊する!」
《ガイギンガ》は放つ火球が、さらなる銀河として膨張し、爆発する。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》を——破壊!」
その爆炎は、赤き英雄すらも飲み込んだ。
「私のクリーチャー、返してもらうよ……!」
これで、このターン柚の攻撃できるクリーチャーはいなくなった。
柚の猛攻を、耐え凌いだのだ。
「……ターン、終了です」
少しばかり不服そうにターンを終える柚。
攻撃を耐えたと言っても、盤面は圧倒的に暁が不利なまま。一戦目の時と、ほとんど同じだ。
しかし、あの時とは決定的に違う点が一つだけある。
「……《バトライ閣》、頼んだよ」
暁は、物言わぬ城に語りかける。
自陣にそびえ立つ城、《バトライ閣》。
この龍の城が、暁に勝利を呼び込む光となる。
「もう一度お願い! 《フォーエバー・プリンセス》を召喚! そして、そのまま《フォーエバー・プリンセス》で攻撃! その時——《バトライ閣》、起動!」
《フォーエバー・プリンセス》は火のドラゴン。そのため、彼女の攻撃に呼応して、《バトライ閣》が咆える。
法螺貝の音が轟き、熱き城から、爆ぜるように、燃え盛る龍が飛び出す。
「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」
《バトライ閣》の魂の権化とも言うべき龍が、戦場へと現れる。
《バトライオウ》。スピードアタッカーも持たず、パワーも8000と、柚の従えるクリーチャーたちと渡り合うには力不足に見えるドラゴン。
しかし暁にとっては、“ドラゴンをバトルゾーンに出すこと”が重要だった。
「これでこのターン、私がバトルゾーンに出したドラゴンは二体目! 《バトライ閣》の龍解条件成立だよ!」
「っ……!」
《バトライ閣》の龍解条件は、ターン中に二体以上のドラゴンをバトルゾーンに出すこと。
一体目は、手札から召喚された《フォーエバー・プリンセス》。
二体目は、《バトライ閣》によって呼ばれた《バトライオウ》。
戦場に立つ二体のドラゴンから力を受け取り、《バトライ閣》は、その真の姿を現す。
「暁の先に——3D龍解!」
城壁は鎧となる。天守は刃となる。
爆ぜるほどに熱い血と魂を持って、かの龍は戦場を駆け抜ける。
「勝利と共に、私たちの思い出を刻んで——」
失われたものを取り戻すために、彼は己が刀で勝利を刻み付ける。
戦場に立つ勇ましい姿、長大な刀を携える果敢な立ち振る舞い、そして、仲間たちの先頭に立つ輝かしい存在。
その姿は龍であり、武神であった——
「——《爆熱DX バトライ武神》!」
- 116話「2人の3D」 ( No.361 )
- 日時: 2016/04/16 00:52
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
勝利を刻む龍の天守がそびえる城が、揺れ動く。
ひたすらに熱い闘志を滾らせ、戦場の集う数多の戦友の思いを背負い、その城は姿を変える。
武器から要塞へ。要塞から龍へ。
暁を始めとする、数多くの仲間たちの声を聴き、《バトライ武神》は戦場へと降り立った。
「3D龍解……されて、しまいました……」
今まで余裕を見せていた柚だが、彼女の表情が途端に険しくなる。
《爆熱DX バトライ武神》。柚の《ヴェロキボアロス》と同じ、3D龍解、最終形態のドラゴン。
《バトライオウ》の魂を《グレンモルト》が引き継ぎ、仲間たちの支えを受けて初めてその姿を現す、火文明最高位のドラグハートの一体。
戦場で向かい合う《バトライ武神》と《ヴェロキボアロス》。どちらも格は同じクリーチャーだ。ならば、柚の《ヴェロキボアロス》が場を蹂躙したように、暁の《バトライ武神》も、それと同等の力を解き放つ。
「まずは行って! 《フォーエバー・プリンセス》! 《ベニジシ・スパイダー》を破壊!」
柚のクリーチャーを破壊したが、この程度は些細なことだ。柚が展開したクリーチャーの大群から、一匹を取り除いたに過ぎない。
しかし、
「こっからが本番だよ、ゆず! 私の攻撃、凌げるものなら凌いでみなよ!」
「あきらちゃん……」
暁の炎は爆ぜる。
轟々と燃え盛る、太陽のように。
「《バトライ武神》で攻撃!」
その時、《バトライ武神》の力が解放された。
山札の上から三枚が吹き飛ばされ、その中からすべてのヒューマノイドとドラゴンが呼び出される。
「暁の先に、龍の歴史を——《龍世界 ドラゴ大王》! 《勝利天帝 Gメビウス》! そして——」
龍にのみ生存権が与えられる世界の王。歴史に名を残す勝利の天帝。
二体の大型ドラゴンが呼び出される。だが、これだけでは終わらない。
「進化——メソロギィ・ゼロ!」
《ドラゴ大王》と《Gメビウス》に続き、黒翼の太陽が、黒羽を散らして、大空を翔け抜ける。
「——《太陽神翼 コーヴァス》!」
黒き翼に抱かれた、継承せし太陽が、天に席巻する。
暁の場には、アーマード・ドラゴンの《バトライオウ》がいる。その上で、場の火のカードのコスト合計は12以上。仲間の助けを受け、メソロギィ・ゼロの条件を満たした《コーヴァス》は、《コルル》を介さずに存在することができる。。
加えて《コーヴァス》はバトルゾーン以外のゾーンにいる時は、進化でないクリーチャーとしても扱われる。《バトライ武神》は非進化クリーチャーのみを呼び出すが、《コーヴァス》は自身の能力によってその制約を掻い潜り、戦場へと駆けつけたのだった。
《コーヴァス》は黒羽を舞い落として羽ばたく。その瞳の先には、柚がいた。
『柚の嬢ちゃん、やっぱ変だが……暁、いいのか?』
「いいよ。分からず屋のゆずなんかに容赦はしない。《コーヴァス》! 思いっきりぶん殴れ!」
『……あぁ! 行くぜ!』
主の言葉に従い、《コーヴァス》は空を舞う。
「《コーヴァス》の効果発動! 《コーヴァス》がバトルゾーンに出た時、あいてクリーチャー一体とバトルする! 《シール・ド・レイユ》とバトル!」
超高速で突貫し、《シール・ド・レイユ》へと迫る《コーヴァス》。同じく空を領域とする光文明の《シール・ド・レイユ》でも、彼のスピードにはついてこれない。
瞬く間に、《コーヴァス》の接近を許してしまう。
『はぁっ! 散れっ!』
燃え盛る拳の一突きで、《シール・ド・レイユ》の身は木端微塵に爆散した。
「まずは恋のクリーチャーから!」
「ブロッカーが……!」
「まだまだ! これで終わりじゃないからね! 《コーヴァス》がバトルに勝ったから、山札の上から三枚をめくって、ファイアー・バードかドラゴンを出せる! 《バトラッシュ・ナックル》をバトルゾーンに!」
《コーヴァス》の翼の羽ばたきが追い風となり、新たな仲間を呼ぶ新風となる。
その風に誘われて、《バトラッシュ・ナックル》が現れた。
「次は部長のクリーチャーだよ! 《バトラッシュ・ナックル》の効果で、《ツミトバツ》とバトル!」
「パワーは《ツミトバツ》のほうが上ですよっ!」
「そんなこと知るか! 《バトライオウ》!」
『おうよ!』
《バトラッシュ・ナックル》に代わり、《バトライオウ》が《ツミトバツ》へと刃を向ける。
数多の凶刃を放つ《ツミトバツ》でも、数多の戦場を駆ける《バトライオウ》を殺すことはできず、彼の刃によって切り裂かれた。
「また……」
「どんどん行くよ! 最後は浬! 《ドラゴ大王》の効果で、《コーヴァス》と《デカルトQ》をバトル!」
『王権を行使する! カラクリの龍は破棄だ! 《コーヴァス》、貴様にその命を課す!』
『オーケー! 了解したぜ、《大王》!』
《シール・ド・レイユ》を殴り倒した《コーヴァス》は、《ドラゴ大王》の命令を受け、すぐさま滑空し、《デカルトQ》へと肉薄する。
龍素を充填し、その真理に近づいた結晶龍でさえも、彼の拳の前にはただの機械と水の集合体でしかない。
側面に現れた《コーヴァス》の熱源を感知し、《デカルトQ》は身体をグインと捻ろうとするが、
『遅いっ! ぶっ壊れな!』
彼の動きを捉えることもままならず、一瞬にして《デカルトQ》のボディも粉々に吹き飛んだ。
直後、黒い羽を伴う大風が吹き、《コーヴァス》の効果で《爆竜 GENJI・XX》が現れる。
《バーニング・銀河》に続き、《コーヴァス》の力によって、暁、恋、沙弓、浬——皆の英雄は、柚の下から消えていった。
「みんなのクリーチャー……返してもらうよ!」
「…………」
「それと、本当のゆずもね! 《バトライ武神》でTブレイク!」
最後に、《バトライ武神》の刃が、柚へと向けられる。
彼女の場にブロッカーはいない。三枚の盾のみが、彼女を守る術だ。
叩き潰すような斬撃。一撃ですべてのシールドが砕け散る。
だが、砕かれたシールドは、罠となり、暁に牙を剥く。
一枚目と二枚目のシールドが、光った。
「っ……S・トリガー! 《古龍遺跡 エウル=ブッカ》です! 《フォーエバー・プリンセス》と《ドラゴ大王》をマナゾーンへ! さらにマナ武装5でS・トリガーを得た《緑罠類有毒目 トラップトプス》も召喚! S・トリガーも手札からの召喚なので、《ヴェロキボアロス》の効果発動! マナゾーンから、わたしも《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》をバトルゾーンに! もうクリーチャーは出させませんよ!」
「関係ないね! 残りのシールドもブレイク!」
《ドラゴ大王》の支配を潜り抜け、柚の場に《トラップトプス》と《フォーエバー・プリンセス》が並ぶが、暁の場には《トラップトプス》で除去されるクリーチャーはおらず、今更《フォーエバー・プリンセス》で踏み倒しを規制しても、展開した後なので遅い。
そのまま、《バトライ武神》の刃が、最後のシールドまで叩き割る。
「……!」
「覚悟しなよ、ゆず! このまま《コーヴァス》でとどめまで——」
「まってください、あきらちゃん。S・トリガー……発動です」
最後に砕かれたシールド。それは、収束する光の束となる。
しかし、収束した光は、すぐさま解き放たれた。
滅亡と、終焉の、光となって——
「——《アポカリプス・デイ》!」
——光が、瞬いた。
「すべてのクリーチャーを——破壊ですっ!」
次の瞬間には、戦場は荒野と化していた。
生きとし生きる者はすべては根絶やしにされた。空にも、大地にも、なにも残っていない。
《ヴェロキボアロス》によって展開した柚のクリーチャーだけではない。《バトライ武神》と《コーヴァス》の連携によって呼び出された、暁のドラゴンもだ。
すべてが滅され、虚無の世界だけが広がっている。
「みんな、いなくなりましたよ……あきらちゃん」
「……そうだね」
互いにシールドはゼロ。ハンドアドバンテージにも、マナアドバンテージにも、大差はない。
だが、暁には、一つだけ大きな優位があった。
「でもね、ゆず」
柚にはなくて、暁にはあるもの。
それは、すべてを失っても、決して絶えない、不屈の闘志だ。
「《バトライ武神》は、龍回避でフォートレス側に戻るよ!」
滅亡の光の中で、崩れ落ちる《ヴェロキボアロス》と《バトライ武神》。肉体すべてが消滅した《ヴェロキボアロス》に対し、《バトライ武神》は、その身を再構築する。
《バトライ武神》は完全に落城することなく、《バトライ閣》として再び築城され、フォートレスとしてその身を保っていた。
お互いに場がリセットされたが、暁は《バトライ閣》を残したことで、再び龍解のチャンスを得た。《ヴェロキボアロス》に龍回避はない。これは、暁だけの優位だった。
「っ……! いえ……でも、これで、終わらせます……っ」
柚のターン。
すべての命が消えても、荒野に敵の城だけが立っていても。
それでも彼女は、欲望によって得た力を、手放さなかった。
「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》!」
- 117話「太陽と萌芽」 ( No.362 )
- 日時: 2016/04/17 01:30
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
邪悪な龍が、再び現れる。
数多の文明を飲み込み、支配する邪な龍が。
「《ドミティウス》の効果で、山札から五枚をめくります。そしてその五枚の中から、スピードアタッカーを……《ガイゲンスイ》を引ければ、わたしの勝ちです」
「引けるものなら、引いてみなよ。《ガイゲンスイ》は、応えてくれる」
確信を持った眼で、暁は柚と向き合う。
柚は《フォーエバー・プリンセス》が墓地に送られたことで、元から墓地にあったカードも、破壊されて墓地に行ったカードも、すべて山札に戻されている。
そのため、《ドミティウス》で《ガイゲンスイ》が引ける可能性は、十分にある。
それでも暁は、信じていた。
自分の英雄を。
《ガイゲンスイ》を。
「……おねがいします、《ドミティウス》!」
柚の呼びかけに対して、《ドミティウス》が咆える。
その雄叫びは、柚の山札を掘り起し、すべての文明を吸い尽くすように、クリーチャーを解き放つ。
「…………」
捲られた五枚を眺める柚。しかし、そこには、淫靡な笑みを浮かべる彼女はいない。
いつもの彼女でも、繕われたような彼女でもない。
化けの皮を剥がされたように、空虚で混沌とした眼差しをしていた。
柚は捲られたカードのうち四枚を掴み取ると、投げやりに放り投げる。
「……《音感の精霊龍 エメラルーダ》《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》《龍神ヘヴィ》《牙英雄 オトマ=クット》。この四体をバトルゾーンへだします」
捲れたカードから現れたのは、四文明のクリーチャーたち。ほぼ自然単色のようなデッキ構築に見えたが、まさかそんなクリーチャーを隠しているとは思わなかった、と言いたくなるようなラインナップだ。
しかし、そのなかにスピードアタッカーを持つ火文明のクリーチャーはいない。
柚はこのターンで暁にとどめを刺すことはできないのだ。
「ほらね。《ガイゲンスイ》の熱さは、ゆずには似合わないんだよ」
「…………」
「《ガイゲンスイ》だけじゃない。《シール・ド・レイユ》は恋に、《ツミトバツ》は部長に、《デカルトQ》は浬に、……みんな、それぞれの持ち主と一緒にあるのが、一番似合うよ。 無理やりマナゾーンを五文明にして、武装を装うなんて、そんな偽物は通用しないよ!」
「でも、まだ終わりじゃありません。《イメン=ブーゴ》がいなくとも、《オトマ=クット》のマナ武装は発動します。マナゾーンのカードを七枚アンタップ。そしてこの7マナで、《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚です!」
諭すように語りかける暁の言葉を払い除け、柚は欲望のままに、力を求め続ける。
《イメン=ブーゴ》が現れたことで、超次元から一振りの武器が飛来する。
「きてくださいっ! 《邪帝斧 ボアロアックス》!」
ザクリ、と大地に突き刺さった邪悪な戦斧を引き抜く《イメン=ブーゴ》。
その斧で大地を割り、新たなクリーチャーを呼び起こす。
「《ボアロアックス》の能力で、マナゾーンから《次元流の豪力》をバトルゾーンに。さらに《次元流の豪力》の能力で、超次元ゾーンから《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》をバトルゾーンに!」
大地から這い上がる《次元流の豪力》は、再び超次元の門扉をこじ開け、覚醒した《ユリア・マティーナ》を引っ張り出す。
「ターン終了……する時に、《ボアロアックス》は龍解しますっ」
柚の場には、《エメラルーダ》《クローチェ・フオーコ》《ヘヴィ》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》《次元流の豪力》《ユリア・マティーナ》、七体のクリーチャーがいる。
その合計コストは、5+5+5+7+5+6=33。
「2D龍解っ! 《邪帝遺跡 ボアロパゴス》!」
邪悪な斧は遺跡へと姿を変え、柚の陣地へと鎮座する。
「これで次のターンには、《ヴェロキボアロス》に龍解します。そのときが、わたしの勝ちです」
「なら、その前に決めるだけだよ!」
確かに盤面をすべてリセットされた直後にこれだけのクリーチャーを展開されてしまえば、流石に処理しきれない。
しかし、こんなギリギリの状況だからこそ、暁の炎は明るく燃えるのだ。
「私のターン!」
カードを引く暁。場に残っているのは《バトライ閣》一つ。
その残された力を行使するために、彼は戻ってきた。
「……ゆずには応えてくれなかったみたいだけど、私には応えてくれたよ」
そう言って暁は、7マナをタップする。
炎を揺らめかせて。
「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」
七つの火のマナを吸収し、それを身に纏い、武装する。
敵陣から自陣へと帰還した、勝利を司る戦闘龍の元帥にして、英雄。
《撃英雄 ガイゲンスイ》が、出陣した。
《ガイゲンスイ》は地に立つと、刀を抜かず、思い吹けるように呟いた。
『……長く、悪い夢を見ていたような気分だ』
「大丈夫? 《ガイゲンスイ》」
『無論だ。だが、あの娘……儂を取り込んだ者と、だいぶ毛色が違うようだが』
「? どういうこと?」
『儂にも分からん。だが、あの娘が、禍々しい邪悪な闇を孕んでいることは確かだ。儂も一度は取り込まれた身、無関係ではない。かの闇を斬り捨てるぞ!』
「うん。頼んだよ、《ガイゲンスイ》!」
燃え盛る炎を武装して、《ガイゲンスイ》は地面を蹴る。その勢いのまま抜刀し、刀の切っ先を柚へと向けた。
「《ガイゲンスイ》で攻撃! そして、《バトライ閣》の能力、発動!」
《ゲイゲンスイ》の攻撃に合わせて、 《バトライ閣》から法螺貝の音が響き渡る。
新たな仲間を呼ぶ声。一度は己の魂の権化を呼び戻した。
そして今度は、さらなる力を得た自分自身の魂が、解放される。
「暁の先に、勝利を刻み込め——《熱血逆転 バトライオウDX》!」
そして、このドラゴンの登場により、再び《バトライ閣》が揺れ動いた。
内に秘めた龍の魂が鳴動し、解放される。
「暁の先に、3D龍解——《爆熱DX バトライ武神》!」
再び《バトライ閣》が《バトライ武神》へと龍解する。
一度は先んじられた3D龍解。しかし、リセットされた後は、フォートレスを残した暁が先に再龍解を決めた。
《ボアロパゴス》を囲むように並ぶ各文明のクリーチャーたち。暁たちは《バトライ武神》を先頭に、彼女の布陣へと斬り込んでいく。
「《ガイゲンスイ》の攻撃続け! シールドブレイク!」
まだ《ガイゲンスイ》の攻撃は続いている。《ガイゲンスイ》は抜いた刀を振るい、柚の一枚だけ増えたシールドを真っ二つに切り裂く。
だがそれは、《エメラルーダ》で手札から置かれたシールドだ。
罠が仕掛けられていないはずがなかった。
「S・トリガー……《瞬撃の大地 ザンヴァッカ》を召喚! 手札からクリーチャーを召喚したので、《ボアロパゴス》の効果発動! マナゾーンから《ナム=ダエッド》をバトルゾーンへ!」
切り裂かれたシールドから、甲虫のような大地の化身、《ザンヴァッカ》が飛び出す。
身を伏せて、《ザンヴァッカ》は暁の攻撃を誘導する。同時に《ボアロパゴス》も起動し、クリーチャーも増えた。
「《ザンヴァッカ》の効果で、あきらちゃんは《ザンヴァッカ》にしか攻撃できませんよ」
「だったら先に倒すだけだよ! 《バトライ武神》で攻撃!」
そして再び、武神の力が解き放たれる。
《バトライ武神》の刀の一振りで、爆風が巻き起こり、新たな仲間を呼ぶ。
まだ小さな、二人の語り手を。
「任せたよ、二人とも——《太陽の語り手 コルル》! 《萌芽の語り手 プル》!」
「おう! 行くぜ、プル!」
「ルールー!」
《バトライ武神》の応援に駆け付けたのは、語り手の二人だった。
《コーヴァス》がやられても、今度は《コルル》として。神話継承していなくとも、今は《プル》という一人の戦士として。二人は戦場へと現れる。
「ついでにもういっちょ! 《真実の皇帝 アドレナリン・マックス》もバトルゾーンに! ドラゴンが三体出たから、みんなスピードアタッカーだよ! 《バトライ武神》でダイレクトアタック!」
「《ユリア・マティーナ》でブロックです! 《ユリア・マティーナ》がブロックしたことで、シールドを追加します!」
《バトライ武神》の攻撃を、捨て身で防ぐ《ユリア・マティーナ》。彼女の亡骸はそのまま、柚の身を守る盾となる。
「まだまだ! 終わるまで止まらないよ! 《バトライオウDX》と《コルル》で《ザンヴァッカ》を攻撃!」
「《ナム=ダエッド》のガードマンで防御、《クローチェ・フオーコ》でブロックっ! 《コルル》さんには破壊されてもらいますっ!」
「させないよ! 《コルル》のバトルは《バトライオウDX》が引き受ける!」
《クローチェ・フオーコ》に攻撃を阻まれた《コルル》だが、そのバトルは《バトライオウDX》が肩代わりし、《クローチェ・フオーコ》を斬り捨てる。
「続けて《アドレナリン・マックス》で攻撃! 初めて《アドレナリン・マックス》がタップしたから、私のドラゴンを全部アンタップ!」
《アドレナリン・マックス》が、疲弊した仲間たちに力を注ぎ込む。
まだ終わらない、最後まで成し遂げる。そういった強い思いが暁のクリーチャーすべてに伝わり、身体を起こす。そして、再び攻撃の意志を見せつける。
力を注ぐと、《アドレナリン・マックス》が《ザンヴァッカ》へと飛び掛かる。
「《光牙忍ハヤブサマル》を召喚です! 《次元流の豪力》をブロッカーに! ニンジャ・ストライクも召喚なので、《ボアロパゴス》の能力発動! 《イメン=ブーゴ》ですべての文明となった、マナゾーンの《音感の精霊龍 エメラルーダ》をバトルゾーンに! 手札を一枚シールドに置いて、《次元流の豪力》でブロック!」
《次元流の豪力》が《ザンヴァッカ》を《アドレナリン・マックス》から身を挺して守る。
《ザンヴァッカ》を盾に、柚は暁の攻撃を必死で凌いでいた。
残るはシールド二枚と、《ザンヴァッカ》に《エメラルーダ》二体。
「もう一度《バトライ武神》で攻撃! 山札を三枚捲るよ!」
三度、刀を振るう《バトライ武神》。
一度、二度とその斬撃を柚に耐え凌がれてきた暁だが、三度目の正直となるのか。
剣を振るう圧力が暴風となり、爆ぜるように新風を巻き起こす。
「さぁ来て! 《ミツルギブースト》《バトクロス・バトル》をバトルゾーンに! 《ミツルギブースト》をマナに置いて、《ザンヴァッカ》を破壊! さらに《バトクロス・バトル》で《イメン=ブーゴ》とバトル! そして——」
《ミツルギブースト》がマナに還り、炎の刃を飛ばして遂に《ザンヴァッカ》を破壊する。《バトクロス・バトル》は《バトライオウDX》と入れ替わり、《イメン=ブーゴ》を殴り倒す。
そして、それら二体の龍に続き、彼女がやって来る。
爆風と共に散る桜吹雪を背景にして——
「——《プル》を進化!」
《萌芽の語り手 プル》が進化し、神話の力を継承する。
「暁の先に、咲き誇れ——」
彼女の力を手に、暁は、花々を育む陽光として、輝きを放つ。
そして、花は開いた。
「——《萌芽神花 メイプル》!」
- 117話「太陽と萌芽」 ( No.363 )
- 日時: 2016/04/17 16:15
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
明るい太陽の光を受け、桜色の蕾が花開く。
太陽によってもたらされた、神話と継承の萌芽の光に包まれて、《プル》は《メイプル》となる。
《コーヴァス》同様、彼女も自身の力で、《バトライ武神》の制約を抜けて戦場へと現れたのだった。
「Loo……」
蕾から目覚めた《メイプル》は、花弁のような羽を伸ばし、小さく声を発する。
そして、柚へと、静かに目を向けた。
「《メイプル》さん……」
「分かってるよね、ゆず。これは、君のクリーチャーだよ」
「…………」
姿を現す《メイプル》を、彼女の眼を見て、柚は口をつぐんだ。
そんな柚に、暁は畳み掛けるように、さらにまくしたてる。
「私はゆずが好き。友達だから。今までずっと一緒だった、親友だから」
小学校の頃、初めて出会い、話した時。
それから今までずっと一緒だった。
遊ぶ時も、帰る時も、勉強する時も、戦う時も、なにもかも。
「ゆずと友達になるまで、私はずっと男の子とばっかり遊んでたけど、ゆずがいてくれたから、女の子のいいところも分かるようになったし、ゆずみたいなおとなしい子も、いいなって思えるようになった。私の世界はゆずのおかげで、確かに広がったんだよ。そんなことがあったから、ゆずがいてくれて、本当によかったと思ってる」
暁が柚の閉鎖された扉をを開いたように、柚も、暁の世界をさらに広げていた。
お互いが、お互いにとって、かけがえない大事な存在だった。
一人のことは他人事ではない。彼女に起こったことは、自分に起こったことと同義。それが二人の関係だ。
一心二体。互いに通じ合い、通い合い、繋がっている。
二人は密接な関係だ。それゆえに、暁は、怒声を放つ。
「でも、だから。だからこそ! 私は君を許せない!」
「許せない……?」
「そうだよ! 浬も、部長も、恋も、みんなを傷つけるようなことをして、自分がだれかも分かってないみたいになってて、そんなのゆずじゃない!」
虚ろな眼の柚に向かって、暁は叫ぶ。
「何度も言ってますよ。わたしは、わたしです」
「いいや、違うね! 君はゆずじゃない!」
「……わたしが、わたしでないのに、わたしを許せないんですか? それは、矛盾、ですよね?」
「そんな難しい言葉は分かんないけど、それも違うよ! 私が許せないのはゆずじゃない、君だよ!」
そう言って暁は、びしりと柚を指差す。
いや、彼女からすれば、柚ではない柚へと、指差したのだろう。
暁には、もう分かっていた。勿論、頭ではない。感覚として、直感的に分かった。
自分が戦っている相手は、柚であり、柚でないことに。
「待ってて、ゆず。今、助けてあげるから……《メイプル》!」
『承知している』
短く、《メイプル》は答えた。
そして、続ける。
『柚……私がついていながら、そのような目に遭わせてしまったことを、詫びなければならないな……だが』
悔いるように、《メイプル》は胸を押さえて、悲しそうな声を発する。
しかし、ふっと顔を上げた。彼女の二つの瞳は、確かな光が灯っていた。
『それよりも先に、私たちには為すべきことがある』
「そうだよ。ゆずを元に戻さないで、謝るとかないしね!」
『その通りだ。では行こうか、暁!』
「任せてよ! 《ザンヴァッカ》がいなくなったから《バトライ武神》の攻撃はこれで中止だけど、《アドレナリン・マックス》で攻撃だよ!」
攻撃目標を失った《バトライ武神》の攻撃は終わってしまう。《ミツルギブースト》が《ザンヴァッカ》を破壊したからだが、これ以上《ザンヴァッカ》を守られて攻撃先を固定されると困る。
逆に言えばこれで、柚を守るものはブロッカーとシールドだけになったのだ。
そのシールドを突き破るために、《アドレナリン・マックス》が突貫する。
しかし暁たちの攻撃の前には、ブロッカーたちが立ちはだかる。
「《エメラルーダ》でブロックです!」
「次! 《バトライオウDX》でWブレイク!」
「それも、もう一体の《エメラルーダ》でブロック!」
「だったら、《ガイゲンスイ》でWブレイク!」
《アドレナリン・マックス》と《バトライオウ》が二体の《エメラルーダ》を蹴散らし、守り手がいなくなったところを《ガイゲンスイ》が一閃、二枚のシールドを叩き斬る。
だが、そのシールドは光の束となり、収束していく。
「S・トリガー! 《網斧の天秤》! パワー5000以下の《コルル》さんをマナゾーンへ送りますっ!」
『ぐ……っ!』
「コルル!」
柚の割られたシールドから、一振りの斧が飛来し、《コルル》の身を切り裂く。
緑の戦斧に傷つけられた《コルル》は、大自然の意志に導かれ、マナへと還ってしまった。
「コルルがやられちゃった……でも、私にはまだ《メイプル》がいるよ!」
「それでも……S・バック発動です! 《ナム=ダエッド》を捨てて、《天真妖精オチャッピィ》を召喚!」
最後に割られたシールドを捨て、柚は《オチャッピィ》を繰り出す。
死の間際で呼び出したそのクリーチャーには、柚の身を守る力はない。しかし、クリーチャーが召喚されること、それこそが柚にとっては大きな意味を持つ。
そう、《ボアロパゴス》だ。
欲望の遺跡が、動き始める。
「まだ、終わりません……! 《オチャッピィ》の効果で、墓地の《エメラルーダ》を——」
と、そこで柚の動きが止まる。
《オチャッピィ》の効果で《エメラルーダ》をマナに戻そうとしたところで、彼女は自分の場に視線を向ける。その後、指先は別のものを掴んだ。
「——《次元流の豪力》をマナゾーンへ戻します」
「私だって、少しくらいは考えてるんだから。その《オチャッピィ》は読めてるよ」
得意げに言う暁。
前の《バトクロス・バトル》で、ブロッカーではなく《イメン=ブーゴ》を破壊したことが生きてきた。《イメン=ブーゴ》が残っていると、マナのカードもすべての文明となるため、《エメラルーダ》でもなんでも、コスト5以下ならどんなクリーチャーも《ボアロパゴス》で引っ張り出されてしまう。
柚は《デカルトQ》で潤沢な手札がある。S・トリガーを複数抱えていても不思議はない。暁は《イメン=ブーゴ》を事前に破壊することで、それを差し止めたのだった。
「ですが、関係ありません。《オチャッピィ》を手札から召喚したので、《ボアロパゴス》の効果で、マナゾーンから《次元流の豪力》をバトルゾーンへ! きてください、《ユリア・マティーナ》!」
暁がこの状況を想定して《イメン=ブーゴ》を破壊したのと同じく、柚も保険をかけていたのだ。《ハヤブサマル》でブロッカー化し、ブロックして破壊させ、墓地に置いておいた《次元流の豪力》が、マナゾーンを介して蘇る。
またしても、《ユリア・マティーナ》を引き連れて。
「《ユリア・マティーナ》もブロッカーで、シールドを増やすことができます。あきらちゃんの攻撃は、もうとどきませんよ」
「それはどうかな。《メイプル》!」
『承った!』
暁の指示を受け、《メイプル》が飛ぶ。
薄桃色の花弁を散らしながら。
「これでとどめ! 《メイプル》で攻撃!」
「《ユリア・マティーナ》でブロック——」
『させんよ』
《メイプル》が、柚のブロック宣言を遮る。
攻撃進路には《ユリア・マティーナ》が待ち構えている。彼女に攻撃を止められてしまえば、それは柚の盾にもなってしまい、攻撃手が足りなくなってしまう。
しかし、柚は《メイプル》の攻撃を防ぐことはできない。
《ユリア・マティーナ》の足元から、蔦が伸びる。しゅるしゅると、その蔦は《ユリア・マティーナ》に絡み付き、縛り付ける。
「忘れたとは言わせないよ。《メイプル》が攻撃する時、相手クリーチャーを一体選んで——」
『——マナゾーンに送る。大地へと還り、超次元の彼方に戻れ、異次元の覚醒者よ!』
そんな《メイプル》の一声で、《ユリア・マティーナ》は大地に飲み込まれ、そのまま超次元の彼方へと飛ばされてしまった。
シールドも、ブロッカーも、守るものがすべてなくなった柚へと、《メイプル》が迫る。
「……まずい」
一瞬。眼を鋭く細め、小さく呟く。
華々しく戦場を飛び、駆け抜ける《メイプル》。
彼女は敵陣へと到達すると、両腕を大きく広げた。
『待たせたな、柚。もう……大丈夫だ』
優しく呼びかけるように、《メイプル》は包み込む。
小さな柚の身体を、静かに抱きしめる。
「あ……」
なにかが入り込んでくるような感覚。
同時に、ふっ、となにかが抜けていく。
身体の中で蠢いていたなにかが縮こまり、代わりに、暖かなもので満たされる。
とても、心地よかった。
その心地よさに浸りながら、彼女の声が聞こえてくる。
世界で一番安心できる、親友の声が。
「《萌芽神花 メイプル》で、ダイレクトアタック——」
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