二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

138話「死生観」 ( No.536 )
日時: 2017/01/02 13:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「一騎。僕には、どうしてもわからない」
 ふと、テインが一気に呼びかけた。
 先ほど、沙弓がラーザキダルクと共に神話空間へと消えていった。その間、残された一騎とテインは、二人の戦いが終わるのを待っていた。
「どういうことだい、テイン」
「僕には、沙弓の考えが理解できないんだ」
 だけど、ラーザキダルクの考えは理解できるし、共感できる。
 テインは言った。
「仲間が殺された悲しみ、憎しみ、怒り。それを敵にぶつけることを、僕は否定しない」
「……復讐って、虚しいだけだよ。なにも生み出さない。非生産的だ。むしろその逆ベクトルにすら進むことだよ」
「それは頭で考えた、ただの理屈だよ、一騎。僕たちは聖人じゃないし、機械でもない。意思を持った命なんだ。いくら復讐が無意味なものだったとしても、心が意味を与えるんだ。自分の中で渦巻く黒い感情と向き合うため、負の思念を払拭するための所業だ。そのように、心が求めるんだよ。だから、仲間を殺されて黙っているなんて、できない」
 それもまた、頭で考えて理解することはできる。
 ただしそれは、理解だ。
 共感ではない。
「僕も今まで、たくさんの仲間が死ぬところを見てきた。戦いの最中に、何度も、何人も……敵に討たれて殺される様を見てきた。だから彼の言葉の重みも、彼の感じる重責も、彼の背負う悲しみも、すべて伝わってくる」
 だから、テインはラーザキダルクの意志を、真の意味で理解できる。
 逆に、ラーザキダルクの意志を否定する沙弓は、理解できない。
「負の感情だってわかってる。だけど、どす黒い心は大きなエネルギーを生み出すんだ。負のエネルギーは強い、どんどん肥大化していく。僕たちが心を保つためにも、必要なことだ。それがこの世界の理だよ」
 強大な負の思念は、やがて制御の利かない力となる。
 負の思念のよって生み出され、制御の利かなくなった大きな力の脅威は、身に染みてわかっている。《ガイグレン》に取り込まれ、共に暴走した一騎も、それは肌で感じた。そのために戦友へ剣を向けたテインも、十分に理解している。
 しかし。
 それでも一騎は、沙弓の味方でありたかった。
 それは同じ人間だからとか、そんな陳腐な理由ではない。
 テインがラーザキダルクの意志に共感したように。
 一騎も、彼女の真の意志に、共感したからだ。
「……テインは、死、ってなんだと思う?」
「? どうしたんだい、急に……」
「一般的に死っていうのは喪失なんだろうね。そこにあったものが消えてしまうことだ」
「うん……そうだね。僕もその通りだと思う」
「だけど、喪失には色んな形があってね……俺も両親がどっちもいなくなっちゃったけど、親をちゃんと親だと認識する前に、知らないうちにこの世を去ってたから、失ったという感じはあんまりなかった」
 元々存在しなかったものが、本当に存在しないと理解しただけ。自分を産み、天に召された両親には申し訳ないが、一騎の実感としてその程度だった。
「でもそれは、俺の死に対する観念だ。君や、クリーチャーの彼が、それぞれの死に対する観念を持つように、沙弓ちゃんも、彼女自身の死に対する考えがある」
「……僕には、それが理解できないよ」
「ちょっと人間贔屓をするね。クリーチャーと人間の生死観には大きな差があると思うんだ。君たちはある程度、復活、蘇生。そんなことができるみたいだけど、俺たち人間はそれがまったくできない。人間は死んだら本当に終わりだ。俺たち人間にとって、死という概念は、最上級に大きなものなんだよ」
「程度の話かい?」
「結局、個人の思いの丈の違いでしかないからね、これは。究極的にはそうなる」
 ただ、本当にただの程度の話で終わるようなものではない。
「俺は沙弓ちゃんの昔の話をちょっと聞いたんだけど……正直、ゾッとしたよ。もしも俺が同じ状況に遭ったら、今の彼女みたいに飄々としてられない。暁さんたちと出会う前の恋よりも、酷いことになってたかもしれない」
「……彼女になにがあったんだい?」
「それは言えない。彼女の大事なところだ。俺の口から言うのは、筋が通ってないよ」
 ただそれでも一つだけ言えるなら、と一騎は独り言のように、口から言葉を零れ落とす。
「俺には絶対に耐えられない——」
 それは、己のことではない。
 しかし、己のことのように。
 苦痛に顔を歪ませ、悲哀に瞳を揺らし、悔恨に唇を噛んだ。

「——目の前で大事な人が消えていく様を、目に焼きつけるだなんて」



 沙弓とラーザキダルクの対戦。
 互いにシールドは五枚のまま。
 沙弓は《特攻人形ジェニー》でハンデス、《ボーンおどり・チャージャー》で墓地とマナを増やしている。
 対するラーザキダルクは、《一撃奪取 ブラッドレイン》《暗黒鎧 ヴェイダー》と繋ぎ、場数を増やしながら墓地と手札を蓄えていた。
(さっきの対戦を見るに、相手のデッキは革命という能力を軸とした闇単色のコントロールデッキ。そして革命は、シールドが二枚以下という危機的状況で、強力な能力を発生させる能力と見たわ)
 革命という力そのものは始めてみたが、隠兵王との対戦の様子から、その性質は推察できる。
 革命はシールドの枚数が二枚以下の時に発動していた。つまり、窮地に陥った時、追いつめられた時に真価を発揮する能力であり、能力自体は受け身なものだ。能動的でないだけあって、その能力は強力だ。特に強烈なのは、全体除去とリアニメイト能力を有する《革命魔王 キラ−・ザ・キル》。もしこのクリーチャーの革命能力が発動すれば。沙弓でも危ういだろう。
(シールド枚数の減少が能力の条件になってるなら、軽々にシールドは割れない。だけど、私のデッキはサイキックを絡めた闇単色のコントロールデッキ。シールドを割るのは盤面制圧後。革命能力の発動は許さない)
 窮地を脱する革命だが、窮地とは、必ずしもシールド枚数と等号では結ばれない。ゆえに、強力であっても穴はある。
(お互いに闇単色のコントロールデッキだから、どっちが制圧できるかの勝負。私には闇文明相手には効果が薄いカードがあるけど、それもお互い様。むしろ、革命狙いでシールドを調節することが目的の向こうは、ブロッカーや自分にアドを稼ぐカードで受け身に戦ってくる……相手に干渉する手段の多い私の方が有利ね)
 そんな風に決め打って、沙弓はカードを切る。
「私のターン。場の掃除をしましょうか。呪文《魔狼月下城の咆哮》」
「ち……っ」
「《ブラッドレイン》のパワーを3000下げて破壊、続けてマナ武装5で《ヴェイダー》も破壊よ」
 一枚の呪文で、一時的とはいえ盤面を制する沙弓。これは大きなアドバンテージだ。
「《白骨の守護者ホネンビー》を召喚! 山札の上三枚を墓地に送り……墓地から《キラード・アイ》を回収だ」
「呪文《超次元リバイヴ・ホール》! 墓地の《ジェニー》を回収して、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに!」
「クソッ、今度はタップインかよ! しゃらくせぇな!」
「あなたの好きなようにはさせないわ。ターン終了よ」
 《キラード・アイ》はラーザキダルクの切り札を呼び起こす、彼のデッキのキーカード。
 場に出てから墓地の進化クリーチャーを召喚するまでタイムラグがあるが、必要な時にすぐに除去できる保証はない。できるだけ登場を遅らせて、相手の動きを停滞させる。
 その隙に、場を制するのだ。
「ちっ、鬱陶しい……だが、そいつには死んでもらうぜ! 呪文《革命の裁門》!」
「ここで革命0トリガーを……?」
「なにも死ぬときにだけ使えるわけじゃねぇんだよ、このカードはな。《革命の裁門》の効果で山札を捲り——」
 捲られたのは、《暗黒鎧 ギラン》。闇のクリーチャーだ。
「闇のクリーチャーだから、相手クリーチャーを破壊する。《勝利のリュウセイ・カイザー》を破壊だ!」
「もう処理された……!」
 革命0トリガーは、ダイレクトアタックを受ける時に発動できる、緊急防御札。しかし、それ以前に呪文なのだ。
 マナさえ払えば、普通に手札から唱えられるし、条件を満たせば、効果も発動できる。
 マナを縛って動きを鈍らせるつもりが、すぐにその拘束も解かれてしまう。やはり、一筋縄ではいかない。
 ラーザキダルクは《ヴェイダー》や《ホネンビー》で手札を切らさず展開していたため、先に沙弓が息切れし始める。そろそろ、なにか強いカードがなくては厳しいところだが、
「! いいところで来たわね。マナチャージして7マナ! 《超次元ロマノフ・ホール》!」
 ここで沙弓は、盤面を取り返すことのできるカードを引いた。
 超次元呪文、《ロマノフ・ホール》。バトルゾーンに超次元の穴が空き、漆黒の魔弾が放たれる。
「相手クリーチャーを一体破壊! そして、超次元ゾーンからコスト10以下の闇のサイキック・クリーチャーをバトルゾーンへ!」
 虚空に空いた風穴は、魔弾だけでなく、破壊の悪魔をも解き放つ。
 現れるのは、コスト10の闇のサイキック・クリーチャー。
「出すのはこれよ。《時空の悪魔龍 ディアボロス ΖΖ》!」
「クソがっ、また鬱陶しいやつを……!」
 パワー9000、クリーチャーの効果では選ばれない大型ブロッカーだ。クリーチャーがメインのラーザキダルクのデッキでは、対処は簡単ではない。
 しかし早く除去しなければならない存在だ。もたもたしているうちに覚醒され、より強力な面が現れてしまえば、一気に形勢が不利になる。
「ちっ、面倒くせぇのが出しやがって……処理はできねぇが、俺もやっとこいつを出せるぜ」
 手札に除去できるカードはなかったようで、憎々しげな表情を見せるが、彼もまた、自身の力の鍵となるクリーチャーを、戦場に送り出す。
「《暗黒鎧 キラード・アイ》を召喚!

138話「死生観」 ( No.537 )
日時: 2017/01/21 14:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「《キラード・アイ》の能力発動! 山札の上から四枚を墓地へ!」
 胸で見開く巨大な魔眼。死の意思という名の悪夢を見せる闇の騎士。《キラード・アイ》。
 墓地から闇の進化クリーチャーを召喚可能にするシステムクリーチャーだ。
 ラーザキダルクの墓地には、あの《キラー・ザ・キル》が見えている。こちらも、相手の場を警戒しなくてはならない。
「ターン終了だ」
「私のターン」
 ラーザキダルクのターンが終わり、沙弓にターンが渡される。
 山札に手は置くが、視線は山札でも手札でもなく、マナにある。
(さて……どうしましょうかね)
 沙弓は悩んでいた。《ディアボロス》を覚醒させるかどうか。
(ここで肝要なのは《ディアボロス》の覚醒タイミング……すぐに覚醒もできるけど、手札も場もない私がマナまで減らしたら、下手すればジリ貧になりかねない)
 覚醒すれば《ディアボロス》は除去性能を失う。解除こそあるが、何度も覚醒してマナがなくなれば、相手からの反撃を耐えることもできなくなってしまう。
 今ここで覚醒すれば、このターンから強力な《デビル・ディアボロス》で殴りかかれるが、果たして殴るタイミングは今でいいのか。
(今の私の場にアタッカーはいない。覚醒した《デビル・ディアボロス》のみ。すぐに殴り切れる目処は立っていない。そんな状況で私に殴るメリットがあるとすれば、《デビル・ディアボロス》のアタックトリガーよね)
 攻撃時、各文明のクリーチャーを一体ずつ破壊する《デビル・ディアボロス》。ラーザキダルクは闇単色なので効果は薄いが、それでも確実に一体は破壊できる。
(破壊したいクリーチャー筆頭は、当然ながら《キラード・アイ》だけど……警戒こそすれど、正直あんまり怖くないのよねぇ)
 理由は、《キラード・アイ》から呼び出されるクリーチャーだ。
 墓地から出て来るのは《キラー・ザ・キル》のみ。しかし、互いに闇単色デッキである以上、全体除去は効果がない。シールドも一枚も減っていないので、革命能力で一斉リアニメイトもない。そして、まだ呼び出すマナも足りていない。
 これらの理由から、現時点で《キラード・アイ》は脅威に値するクリーチャーではない。一応、墓地になにが落ちるか分からないので警戒は怠らないが、躍起になってすぐに破壊するようなクリーチャーでもないのだ。
(マナを減らして手札も与えるデメリットと、盤面を取りつつシールドも一気に四枚吹き飛ばすメリット……さて、どっちがいいかしらね)
 しばらく考えた後、沙弓は山札に置いた手に力を入れる。
 指を動かしてカードを掴み、カードを引いた。
 覚醒は、しなかった。
(まだ冒険はしない。ここは様子見、安全運転。《ディアボロス》はクリーチャーで選ばれないし、呪文が少なそうな相手のデッキなら、放置してても生き残る可能性は高いはず)
 そう見立てをつけて、沙弓は覚醒を見送った。
「ドロー。4マナで《ホネンビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地に置いて……うーん、《グレイブモット》を回収するわ」
 墓地に落ちるカードがいまいちだ。
 呪文の比率も高い沙弓のデッキは、たまにこういうことがある。あまり有用なカードが墓地に落ちず、回収するカードがいまいちなのだ。
 とりあえず、さらなる墓地肥やしも見込んで《グレイブモット》を回収し、ターンを終える沙弓。様子見と言っても、あまり悠長にはしていられない。
「俺のターン……ふんっ」
 ラーザキダルクはカードを引くと、鼻で笑った。
 笑った、のだ。
「てめぇに悪夢を返却してやる。呪文《魔狼月下城の咆哮》!」
「! やば……」
「まずは《ホネンビー》のパワーを3000下げて破壊! 次にマナ武装5で《ディアボロス》を破壊だ!」
 除去呪文を引かれてしまった。
 枚数は少なくとも、入って入るだろうと思ってはいたが、予想以上に早く引かれてしまった。
「これは、とっとと覚醒するべきだったのかしらね……」
 しかしそれでも、マナが大きく削られる。再覚醒する余裕があったかはわからない。
 場は一掃されてしまったが、マナを温存できたと、前向きに考えることにした。
「私のターン。《ボーンおどり・チャージャー》を唱えて、山札を二枚削り、チャージャーをマナへ。さらに《墓標の悪魔龍 グレイブモット》を召喚して、さらに山札を二枚墓地へ。ターン終了よ」
「俺のターン、《ヴェイダー》を召喚だ。ターン終了時、山札を一枚墓地へ置き、クリーチャーなので一枚ドローする」
「ドローして、私のターンね……うーん。とりあえず《特攻人形ジェニー》を召喚よ。即破壊して、手札を墓地へ」
 これで、沙弓もラーザキダルクも手札が切れた。お互いにハンドレスな状態だ。
 一見するとイーブンな状況だが、実際には沙弓がかなり不利だ。というのも、
(トップ勝負になっちゃったわね……しかも、《ヴェイダー》を立てられた状態で)
 ラーザキダルクの場には、《ヴェイダー》がいる。
 毎ターン、墓地を肥やしながら手札を補充してくるので、どちらも同じく手札がない状態なら、ドローソースがあるラーザキダルクの方が圧倒的に優位だ。
(でも、革命はシールドが二枚以下じゃないと発動しない。盤面を制圧されるのは怖いけど、小型が多い相手のデッキなら、一枚の破壊力で上回る私に有利が付くはず。トップ解決でも、盤面をひっくり返せる可能性が——)
「おい」
 沙弓が現状を分析しつつ、自分を鼓舞するように逆転の可能性を考えていると、不意にラーザキダルクが呼びかけた。
 ハッとするように顔を上げると、そこには鋭い眼光で睨みつけて来る悪鬼がいる。
 彼は射殺すような眼差しで睨むと、吐き捨てるように言った
「てめぇまさか、自分から殴らなきゃ革命が使えないとでも思ってんのか?」
「!」
 虚を突かれた気分だ。
 こちらの考えを見透かされている。しかし、その通りのはずで、それがわかったところでどうということもない。
 そう、沙弓の考えでは、どうということもないのだ。
「甘ぇなぁ……ムカつくほどに甘ぇ」
 怒気が混じっているが、呆れたように息を吐くラーザキダルク。
 彼はキッと沙弓を見据えると、カードを引いた。
「自分の窮地を自在にコントロールしてこその【フィストブロウ】——そして、闇の革命だ!」
 刹那、ラーザキダルクの全身から、凄まじい覇気が放たれる。
「俺のターン! 3マナで呪文詠唱!」
 彼は大地のエネルギーを元に、悪魔との漆黒の契約を交わす。
 その闇の呪文こそが、

「——《デビル・ドレーン》!」

「っ!? そのカードは……!」
 吃驚の表情を見せる沙弓。
 闇より這い寄る悪魔との契約。それは、命と知識の取引だ。
 ラーザキダルクは己の命を削る。知識を得るために。そして、革命を起こすために。
「《デビル・ドレーン》の効果で、俺は任意の枚数、シールドを手札にできる! 回収枚数は三枚だ!」
 闇がラーザキダルクのシールドを吸収し、知識へと変換した。それにより、ラーザキダルクは手札が三枚増えた代わりに、シールドは二枚へと減ってしまう。
 しかし、それこそが彼の狙いだ。
「このタイミングで《デビル・ドレーン》だなんて……私としたことが、見落としていたわ……!」
 《デビル・ドレーン》はシールドを手札に変換する呪文。手札を一気に増やすことができる反面、生命線たるシールドを削るので、ハイリスクハイリターンなカードだ。
 しかし、互いに場を制し合っているこの状況。革命が起こり得ないこの状況で放つことで、ラーザキダルクは自ら、無理やり革命能力を発動させようとしている。
 能動的にシールドを減らし、革命を起こす。これもまた、革命軍の流儀だ。
 手札は十分。革命を起こす状態は整い、一転して沙弓は危機に立たされてしまう。
「残ったマナで《暗黒鎧 ギラン》を召喚! ターン終了だ!」
「私のターン……こんな時に除去が引けない……《ジェニー》を召喚して破壊! 手札を一枚墓地へ!」
「今更んなもん効くかよ」
 どうにか《キラード・アイ》を倒したかったが、トップから引いたカードでは処理できない。ここで、《ディアボロス》を覚醒しなかったツケが回ってきた。
 もたもたしているうちに、ラーザキダルクは完全な体勢に入ってしまう。
「俺のターン……マナチャージして、これで8マナだ」
 切り札を呼び出す、最高の状態へと。
「《キラード・アイ》の能力起動! 俺の墓地から、闇の進化クリーチャーを召喚する。その能力により、8マナすべて支払い、《ヴェイダー》を進化!」
 墓場で眠る革命の王。巨大な死が囁く時、その王は大いなる意志を持って目覚める。
 遥か彼方の奈落から、邪悪な魔眼に導かれ、革命の王が蘇った。

「死の意志を掲げろ! 《革命魔王 キラー・ザ・キル》!」

138話「死生観」 ( No.538 )
日時: 2017/02/02 13:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 遂に出てきてしまった、《革命魔王 キラー・ザ・キル》。
 その力は、場に死と生を振りまくこと。ただしどちらにも制約があり、振りまかれる死は、闇のクリーチャーには効かない。
 ゆえに沙弓は生の力を恐れていた。恐れていたために、その力の発動条件であるシールドを減らさないよう務めていたというのに、《デビル・ドレーン》でその思惑も瓦解する。
 革命の魔王が咆哮する。
「てめぇらの生を死を味わい尽くせ。見ろ——これが亡き同胞たちの骸だ」
 それと同時に、墓場が蠢く。
「革命2——発動!」
 そして、闇の屍が蘇った。
 《ブラッドレイン》が三体、《マガンド》が一体、《ヴェイダー》が二体、《ホネンビー》が三体、《キラード・アイ》が一体、《デス・ハンズ》が一体、《ガビュート》が三体。
 合計十三体の闇のクリーチャーが、ラーザキダルクの前に立ち並ぶ。
「っ……!」
「さぁ、死の時間だ……《革命龍 ガビュート》三体の能力で、てめぇのシールドを三枚、まとめて墓地送りだ!」
 《キラー・ザ・キル》の革命の力で復活したクリーチャーたち。まずは《ガビュート》が、沙弓のシールドを焼き払う。三体いるので、三枚ものシールドが墓地に送り込まれた。これで沙弓のシールドは、ラーザキダルクと同数。
「さらに《デス・ハンズ》の能力で《グレイブモット》を破壊! 《ホネンビー》と《キラード・アイ》の能力は使わねぇ」
 山札切れを考慮してか、《ホネンビー》と《キラード・アイ》の能力は使わなかったが、ブロッカーもアタッカーも、今はそこにいるだけで重圧となる。
 シールドは残り二枚。ブロッカーも破壊された。
 一瞬で場を制した革命の魔王が、魔爪を振りかざす。
「こいつで終いだ。《キラー・ザ・キル》でシールドをWブレイク!」
 振り下ろされた《キラー・ザ・キル》の爪。鋭利で禍々しいそれは、沙弓のシールドを二枚、容易く引き裂いた。
「! S・トリガーよ! 《インフェルノ・サイン》!」
「ちっ、引かれたか……!」
 最後二枚のシールドのうち一枚から、S・トリガーが捲られる。
 しかも引いたのは《インフェルノ・サイン》。ラーザキダルクの場で、このターンに攻撃できるクリーチャーは残り一体だけなので、このターンは防ぎ切れる。
「……墓地から《呪英雄 ウラミハデス》をバトルゾーンへ! 《ウラミハデス》のマナ武装7で、墓地から《凶殺皇 デス・ハンズ》を復活よ。《デス・ハンズ》の能力で《キラード・アイ》を破壊!」
 《インフェルノ・サイン》で《ウラミハデス》を復活、そこから《デス・ハンズ》も合わせて復活させ、《キラード・アイ》を破壊してとどめを防ぐ沙弓。
 ギリギリではあるが、なんとかこのターンは凌ぐことができた。
 ただし、それでも破壊できたクリーチャーは一体のみ。ラーザキダルクの場には、アタッカーもブロッカーも、無数のクリーチャーが並んでいる。
「首の皮一枚で生き残ったみてぇだが、屍の行進は止められねぇぜ……ターン終了時、《ヴェイダー》の能力でトップ一枚を墓地へ。二体いるから二枚分……どちらもクリーチャーなので、合わせて二枚ドローだ」
 最後に手札を整えて、ラーザキダルクのターンは終わる。
 場には大量の闇の軍団。
 シールドの数は残り二枚とはいえ、ブロッカーが多すぎる。《ウラミハデス》と《デス・ハンズ》だけで突破できるはずもなかった。
「……なんのための《ウラミハデス》なのかしらね」
「あ?」
 唐突に、沙弓は呟くように言った。
「あなたのクリーチャーを止めるだけなら、《デス・ハンズ》だけでよかったのよ」
「……普通に場数が増えた方が、利得が多いからだろ。一体や二体増えた程度じゃ、俺には関係ねぇがな」
「確かにその通りね。じゃあ、もう一歩進めて考えてみなさいな。場数が増えると、なにができるのかを」
「……?」
 沙弓の言葉の意味がわからない、と言うように首をかしげるラーザキダルク。
 彼女は一体、なにを言っているのか。
 わけがわからず黙っていると、沙弓はカードを引いた。
「はい、時間切れ。私のターン……さ、答え合わせよ」
 沙弓のバトルゾーンには、《ウラミハデス》と《デス・ハンズ》。合わせて二体のクリーチャー。
 《デス・ハンズ》だけではできず、《ウラミハデス》がいることが成せること。
 その意味が今、明らかになる。
「待たせたわね。あなたの出番よ! 行きなさい!」
 沙弓はマナゾーンのカードを八枚タップ。
 そして、場のクリーチャーに呼びかける。
「私の場には、ダークロードの《デス・ハンズ》がいる……そして、《デス・ハンズ》を含む闇のクリーチャーのコスト合計は14! よって、条件クリア!」
 呼びかけられた《ウラミハデス》と《デス・ハンズ》の力を借り、その力は発現する。
 それは、仲間と呼応する、受け継がれた神話の力。
「進化! メソロギィ・ゼロ!」
 その力が今、解き放たれる。

「——《月影神銃 ドラグノフ》!」

「っ!? 進化元なしで、進化だと……!?」
「これがメソロギィ・ゼロよ。条件を満たせば、進化元なしで場に出せる……そして、登場時に《ドラグノフ》の能力発動! あなたの手札を一枚、撃ち抜くわ」
「っ……!」
 公開されたラーザキダルクの手札。そこから、《キラード・アイ》を撃ち抜き、墓地に落とす。
「……トリガーちょっと怖いし、進化速攻はないと見たわ。どっちみち賭けになるけど、二段射撃で行こうかしらね。《ドラグノフ》! 死んでも文句はなしよ」
『死なねぇから安心しろ』
「ならよし。《ドラグノフ》で《キラー・ザ・キル》を攻撃!」
「!? 《キラー・ザ・キル》のパワーは11000! そいつじゃ勝てねヶだろ!」
「今のままなら、ね!」
 《ドラグノフ》が攻撃の構えを取る。弾を装填するためにレバーを引くと同時に、沙弓の山札が捲られた。
「《ドラグノフ》の攻撃時、山札の上から三枚を墓地へ送る! その後、コスト7以下の呪文を唱える!」
 墓地に落としたカードは三枚。落ちたのは、《超次元ミカド・ホール》《特攻人形ジェニー》《凶英雄 ツミトバツ》。
「よしっ、来たわ。墓地から唱える呪文は《インフェルノ・サイン》! コスト7以下のクリーチャーを復活させるわ」
 ここで復活させるクリーチャーは、決まり切っている。
 一つの命を殺めるだけなら、罪の刃で十分だ。
 では、千もの命を散らすなら、どのような刃が適切か。
 その答えが、戦場に呼び戻される。

「——《凶英雄 ツミトバツ》!」

 それは、英雄の刃だ。
「《凶英雄 ツミトバツ》のマナ武装7、発動!」
 《ツミトバツ》は武装する。
 百万もの英雄の刃を。千もの命を切り刻む、大罪の刃を。
 そしてその刃は、罪は、戦場の命へと向けられる。
 たとえ一度死んでも、再び蘇っても、新たな死が平等に降り注ぐ。
「相手クリーチャーのパワーはすべて−7000よ!」
「っ、んだと……!?」
 《ツミトバツ》が放った無数の刃が、ラーザキダルクのクリーチャーを切り刻む。
 ほとんどの命は、一瞬で命が散っていく。巨大な積みの刃に耐え切れず、命が潰える。
 蘇った革命の軍団は、罪と罰の英雄の前で、一瞬にして壊滅したのだった。
『いくら生ける死者の軍団を築いても、千人殺しの英雄の刃の前では、ただの死体でしかねーってことだ』
「さぁ、そのまま《キラー・ザ・キル》を攻撃よ!」
 唯一生き残った革命の魔王、《キラー・ザ・キル》も、数多の刃を受けて満身創痍だ。
 《ドラグノフ》は、標準を定め、トリガーを引く。
 本来ならばその弾丸では、力で上回るはずの《キラー・ザ・キル》を斃すことはできない。しかし、《ツミトバツ》の力で疲弊している今は、その限りではない。
 《ドラグノフ》の弾丸が、《キラー・ザ・キル》の額を撃ち抜き——革命軍は、全滅した。
「これ以上の攻撃はしないわ。ターン終了よ」
「クソッ……《ヴェイダー》と《ギラン》を召喚! ターン終了時に山札トップを捨て、クリーチャーだから一枚ドローだ!」
 ブロッカーを並べ、なんとか凌ごうとするラーザキダルク。
 しかし、場は完全に逆転している。
「私のターン。《超次元ロマノフ・ホール》を唱えて、ブロッカーを破壊。そして超次元ゾーンから《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
 沙弓は《ロマノフ・ホール》を詠唱。《ギラン》を処理しつつ、さらにアタッカーを増やす。
「《ドラグノフ》で攻撃する時、山札を捨てて、再び《ロマノフ・ホール》を唱えるわ! 《ヴェイダー》も破壊して、《デビル・ディアボロス ZZ》をバトルゾーンに!」
 再び《ドラグノフ》の魔銃が火を噴く。
 虚空に開かれた超次元の穴が、魔弾と共に漆黒の悪魔龍を吐き出した。
 ラーザキダルクのブロッカーはいなくなり、そのまま《ドラグノフ》の弾丸がシールドを貫く。
「ちぃ、S・トリガー発動! 《Rev.ギロチン》! 《デス・ハンズ》のパワーを−2000! さらに革命2で《勝利のガイアール・カイザー》のパワーを−6000! どっちも破壊だ!」
「それだけじゃ止まらないわよ。もう一枚もブレイク!」
「こっちだって終わらねぇよ! もう一枚S・トリガー! 二枚目の《Rev.ギロチン》だ! 《ウラミハデス》のパワーを−2000、革命2でさらに−6000! 総計−8000で破壊!」
 二枚のS・トリガーを引き当て、一気に沙弓のアタッカーを三体吹き飛ばすラーザキダルク。パワー低下で破壊されてしまえば、どうしたって防ぎようがない。
 しかし、それだけの破壊を生み出してもなお、沙弓の攻撃は止まらない。
「《ツミトバツ》でとどめよ!」
「まだだ! 革命0トリガー——《革命の裁門》!」
 シールドを失ったラーザキダルクに、数多の刃が突きつけられる。
 しかし、彼の前にそびえ立つ裁きの門が、刃の侵入を許さない。
 ラーザキダルクは山札のトップを捲る。捲られたのは、《凶殺皇 デス・ハンズ》。
 闇のクリーチャーだ。よって、
「条件クリア……《ツミトバツ》を破壊だ!」
 革命の拳が刻まれた門は、ゆっくりと開き、黒き死を呼び起こす。刃を砕き、英雄を殺すために。
 暗き瘴気が闇の《ツミトバツ》を飲み込み、かの英雄が戦場で為したことと同じように、幾戦もの死を与えようとする——しかし、

『——させねぇっての』

 ガコン、と鈍い音が響く。
 その直後、刹那の内に、銃声が轟いた。
 その発生源は、継承神話の魔銃——《ドラグノフ》からだ。
「私のクリーチャーが破壊される時、《ドラグノフ》の能力発動! 墓地にある《ツミトバツ》と同コストのカード、《ウラミハデス》を山札に戻して、《ツミトバツ》は破壊を免れるわ!」
「んだと……っ!?」
 《キラー・ザ・キル》は、戦場に生死を振りまく。
 黒ならざる者に死を、革命の使徒に生を与える。
 《ドラグノフ》も同じだ。
 仲間の生を脅かす者に死の魔弾を撃ち込み、死に瀕した仲間に生の魔弾を撃つ。
 《ツミトバツ》は《ドラグノフ》から生の弾を受け、死が蔓延る裁きの門を潜り抜けた。
 突きつけられた刃は、砕けることなく、ラーザキダルクへと向けられた。

「《凶英雄 ツミトバツ》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じる。
 事の成り行きを見守っていた一騎とテイン。彼らの表情には、少なくない驚きと、安堵が見て取れた。
 そして、勝者たる沙弓と、敗者たるラーザキダルクが、向かい合っている。
「私の勝ちね」
「っ……!」
 勝ち誇る沙弓に対し、ラーザキダルクは憎々しい眼光——眼力が物理的な力を持っていれば、沙弓を八つ裂きにするほどの鋭さ——を向けている。
 敗者は勝者に搾取される。それがこの世の定めであり、自然の摂理だ。
 弱肉強食の根本的なルールを理解していないラーザキダルクではない。そして、自分が敗者であることを自覚できないほど、彼は腐っていなかった。
「……なにが望みだ」
 低く、唸るような声で問う、ラーザキダルク。
 この対戦に際して、沙弓が定めた“ゲーム”のルール。それは、敗者が勝者の要求を飲むというもの。
 ラーザキダルクとしてはどうでもいいルールだったが、沙弓が勝者になった以上、彼女の定めるルールに従わなければならない。
「大したことは望まないわ。そうね、大きく分けて二つ。一つは、最低限、私たちの目のつくところでの殺害行為は控えてもらおうかしら」
「ふん……それで? 二つ目はなんだ」
 面白くなさそうに鼻を鳴らすラーザキダルク。
 彼は無差別に虐殺行為に走ったり、理由なく誰かを殺害するような猟奇的な人物ではない。
 しかし、殺す理由があり、殺す意思があれば、躊躇わずに殺す無情さは持っていた。
 それは彼の自由な意志であり、力の断片。それを抑え込まれるのは、気分がいいものではないだろう。
「二つ目は……まあこっちも大したことではないんだけどね」
 そう言って沙弓は、言葉を紡いでいく。
 彼女が求めるもののために。

139話 同行 ( No.539 )
日時: 2017/02/06 23:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 復讐者を退け、恋はクルミスリィトと共に束の間の休息を取っていた。
 そこに現れた一台の車。そこから降りて来たのは、【鳳】の奇天烈隊長、奇々姫を破ったノミリンクゥアと、彼女に助けられた浬だった。
 恋と浬は、お互いに顔を見合わせる。そして、
「……なんでメガネ……最悪……」
「知るかよ。俺だってお前と会いたいと思っていたわけじゃない」
「あきらがよかった……メガネの馬鹿野郎……」
「俺は悪くないだろうが。責任を押し付けんな」
 互いに罵り始めた。
 どことなく漂う剣呑な空気に、ルミスがおどおどと尋ねる。
「え、えーっと……恋さんと、浬さん? お二人は、その、お仲間、なんですよね……?」
「一応な。部ぐるみではそうなっている」
 しかしそれはあくまで、団体単位で、ということでしかない。個々人の間での仲の良さは保障されていない。
 実際のところ、浬と恋は仲が悪い。犬猿の仲というほど険悪ではないにしろ、反りも馬も合わず、対立しがちではある。
 元々、恋自身が人間関係を本人の好き嫌いではっきり構築するきらいがあるため、恋が仲間であると認めない相手は、とことん冷たくなる。特に、暁に対する風当たりの強い浬には、恋からも当たりが強くなる。
 対する浬も、一種の選民主義的な思想を持っており、簡単に言うと馬鹿を嫌う。そうでなくとも、頑固で意地っ張りなところもあるので、攻撃的になりがちな恋のような人間を相手にすると、反発するのだ。
 合宿でも色々あり、そのことも関係しているのかもしれないが、それを差し引いても、二人の相性は悪い。
 すると、ミリンが笑いを零す。
「ふふっ、面白い二人だね」
「なにがだ」
「浬君からは青い水文明の波動が検知されている。一方、恋君の波動は、白い光文明の波動だ。水と光は本来、友好的な文明なのだが、君たちは真反対だ」
 光と水。白と青。本来ならば友好で結ばれる文明であるはずだが、恋と浬は対立している。
 友好ではなく対抗。その構図を、ミリンは面白いと評した。
「ヘルメスもそうだった。彼の場合はどの神話からも嫌われていたが、慈悲と愛情を重んじる慈愛神話、規律と規則を重んじる守護神話からは、特に疎まれていたな。逆に冥界神話とは妙に馬が合っていたようだが……月光神話は、まあ、兄のことがなければ、それなりに仲良くやっていたかもしれないな」
 過去を回想し、思い出に浸るように語るミリン。
 浬としては、自分があの変態神話と似ていると言われているようで、面白くなかった。
「それよりミリンさん。ミリンさんは、今までどうしていたんですか?」
「私はやり残した研究のため、砂漠の研究所に身を隠していたよ。研究と開発が終了したから地上に出て来たんだ。浬君とも研究所で出会ってね……彼には研究を手伝ってもらったんだが、素晴らしいサンプルだった」
「…………」
 思い出したくもない恥辱の黒歴史だった。
「ということは、他の皆さんは……」
「悪いが、まだ未発見だ。君が初めてだね、ルミス」
「そうですか……でも、ミリンさんと出会えただけで、一歩前進ですね」
「そうだな。私も君がいれば心強い。なにせ頭脳労働専門なもので、戦闘は苦手だからね」
「私も決して得意ではありませんが……」
 話し込んでいるルミスとミリン。
 仲間がどうこうと話している。察してはいたが、彼女らが、それぞれの言っていた仲間なのだろう。
 恋と浬が出会ったように、ルミスとミリンも、同じ組織の仲間として、こうして出会えたということなのだろう。
「とりあえず乗りたまえ。マナの出力が低下している、疲れているのだろう? ザキやウッディたちについては、じっくり探そうじゃないか」
「はい、そうですね……恋さんは、大丈夫ですか?」
「メガネと……」
「露骨に嫌そうな顔すんな。今は非常事態だろ」
「メガネの言う通りに動くのは癪……だけど、ルミスが言うなら、別に……」
「この野郎……!」
 あからさまに浬に敵意を向け、嫌悪感を隠そうともしない恋。その露骨な悪意に苛立ちを覚える浬。
 その対立構造を楽しむミリンのことも含め、この面子で大丈夫なのかと、ルミスの不安が募りながら、ミリンの車は四人を乗せて発進した。



 森の中を歩む三つの影
 一つは女。背が高めで、細身の少女だ。
 一つは男。特に特徴のない、ごく普通の少年だ。
 もう一つも男。この面子の中で最も異形で目を引く、悪魔のような姿の男だ。
 悪魔のような男が先導し、残り二人の少年少女が後に続くという形。三人は無言のまま森を進んでいたが、男が耐え切れなくなったのか、舌打ちをする。
「ちっ、なんで俺がこんなことを……」
「私とのゲームに負けたからね。敗者は勝者の僕よ」
「俺がこんなガキに負けるってのが、腹立たしい限りだ。俺も、てめぇも、てめぇらも、全部ムカつく」
「ムカついてもいいけど、役目はしっかりね。あなたが頼りなんだから、頼んだわよ、ザキ」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ」
 ザキと呼ばれた男——ラーザキダルクは、不愉快そうに顔を歪める。
 後ろに続く少女、沙弓は、そんなザキをにやにやとした笑みで見ているが、もう一人の少年、一騎は心配そうに彼らのやり取りを見ていた。
「くそったれ。てめぇらがメラリーの名前を出さなきゃ、俺はガキの面倒なんて見なかったんだがな……」
 少し前に行われた、沙弓とザキの“ゲーム”。
 賭けの内容として、勝者が敗者に、自分の要求を飲ませるというものだったが、ザキが素直に沙弓の要求を飲むかと言われると、少々怪しいものがあった。
 なので沙弓は、そのための予防線を張った。
 出会って数時間と経っていないザキだが、彼が仲間を重んじる性分だということ、彼らが仲間と散り散りになっていること、仲間とは【フィストブロウ】の面々のこと。それだけは、沙弓にもわかった。
 そこで沙弓は、以前出会ったことがある(と言っても、沙弓は顔を見た程度だが)メラリヴレイムの名前を出し、ザキを抑えたのだ。
 自分たちに手を出すと、仲間を見つけるための手掛かりがひとつ消える、と。
 その説明をする際には多分に脚色を交えたりもしたが、要するに駆け引きだ。
 ザキは沙弓の嘘八百がどこまで虚言でどこまで事実か、見極める。
 沙弓はザキに肝心な嘘が見抜かれるまで彼の庇護下に入り、その間に仲間と合流する。
 そんな駆け引きだ。
「……日が落ちて来たな」
 ぼそりと、ザキが呟く。
「俺は闇夜の森でも関係ねぇが……」
「私たちには厳しいかも」
「……けっ。しゃらくせぇ」
 毒づくザキ。
 自分が沙弓に負けたという事実。その結果、彼女にいいように言いくるめられ、利用されているという現在。
 すべてが気に食わない。なにもかもが鬱陶しい。
 そんな憤慨を心中に溜め込みつつ、今夜はこの森で、彼女らと一晩明かすことにする。
 それもまた気に入らず、舌打ちした。

140話 「森の中の研究所」 ( No.540 )
日時: 2017/02/22 15:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 恋とルミス。浬とミリン。友好関係を結ぶ両グループが合流したことで、少なくとも、表向きは、良い方向へと流れが向いている遊戯部一行と【フィストブロウ】。
 順風満帆、と言うには程遠い状態ではあるが、風向き自体は良いと言えた。
 風向き。その言葉には、浬個人としてはあまり良い思い出を想起させるものとは言えず、なんとも言い難い苦い表情を見せたものだ。
 そしてその苦い思い出は、更新された。
「はてさて、困ったね。少々研究に没頭しすぎて、メンテナンスを怠っていたよ」
「おい」
「ミリンさんったら……昔から自分の興味に目が行くと、他のこと忘れちゃうんですから」
「おっと、その指摘は正確性を欠くな。単に車のメンテが他のあらゆる物事よりも優先度が低かっただけだよ。もっとも、その優先度は車の状態を把握しておかなかった理解状況でつけたものだがね」
「……使えない」
 火文明領から自然文明領へ続く渓谷の途中。ミリンが運転する車が停車した。
 正確には、止まったのは車のエンジンなのだが、要するに故障だ。
 それによって四人の動きも、完全に停止してしまったのだった。
「大丈夫なのかよ。その車、とんでもない技術の塊だって聞いたが」
「技術を寄せ集めるからこそ故障するのだよ。原始的な道具は“有意義”であるか“無意味”であるかの完全二択だ。あぁ、一応“再利用”“再生利用”の二つも付け加えておこうか」
「そんな話はいい。直るのか?」
「技術的には問題ない」
 “技術的には”。
 ミリンはそう言った。つまり、別のところに問題があるということだ。
「部品と道具が足りないな。オイルや冷却水は問題なさそうだ。接続部のコードと、バッテリープラグの欠損。なによりエンジンへのアクセス機構が破損している。部品の交換が必要だ」
「スペアタイヤみたいな、代わりの部品とかは積んでないのか?」
「四次元トランクといえども積載量には限界がある。残念ながら、最大限の食料と、最低限の研究資料しか積んでいないのだよ」
 ミリンの口から放たれる言葉は、いくらか意味不明なワードが散見されたが、要するにすぐには直せないということだった。
 部品交換しなくてはいけないので、直すためにはその部品が必要らしい。
「そんなにすぐ手に入る部品なのか?」
「多少専用パーツはあるけど、汎用パーツも使っているから、まあどっこいどっこいかな」
「なにがどっこいどっこいなんだ」
「なに、部品製造に関しては問題ないさ」
 と、ミリンは浬——の横に常に侍る、エリアスに視線を向けて言う。
「それらしい金属塊とその他諸々があれば、錬成できるよ。エリアスがいればね」
「わ、私ですかっ?」
「あぁ。君はヘルメスが製造した錬金生物ホムンクルスでありながら、錬金術師アルケミストだ。君の物質の変換能力は極めて高い。私もかつてはヘルメスの一部下だったことがあるから君の体構造、性能設計等々についてはそれなりに知っているんだが、ヘルメスが作ったというだけあって高水準、高性能、高効率、さらには高品質という創造性を持っていて——」
「——おい」
 と、滔々と語るミリンに、浬の視線が突き刺さった。
 眼鏡越しでも分かる、鋭い視線が。
 彼女を睨みながら、威圧的に、短く発する。
「む……すまない。君の有能さを、事実を元に述べただけのつもりだったが、気を悪くしたか。まあ、あの変態のことを引き合いに出されたのだから、気持ちは分からないでもない。謝罪するよ」
「私は別に……」
「なんにせよ、エリアス。君には協力してほしい。君の能力があれば、材料を元にパーツを錬成できるからね」
「それは構いませんが……錬成方法がわかりませんよ?」
「そこは私がサポートしよう。単純な作業だ、手順通りに行えば問題ない」
「話はまとまったようですね」
 車が動かなくては、四人の機動力は格段に落ちる。ルミスは自力で飛べるが、三人も抱えて飛行は不可能だ。浬としてもそれは避けたかった。
 なにより、四次元トランクとやらに積まれている食料等々が、特に大事だ。この車は彼らの生命線でもある。
 そのため、車の修理をしなくてはならない。そのために、部品交換が必要。その部品はミリンとエリアスが製作し、そのための材料を手に入れなくてはならない。
 必要となるものはすべて理解した。残る問題は、ただ一つ。
「……それで、その材料は、どこで……?」
「そこが最大の問題だな」
「おい」
 ということだ。
 修理に必要な部品交換、交換に必要な部品の錬成、錬成に必要な材料集め。
 すべての根源は材料にあるが、肝心の材料をどこで収集するか。それが最大の問題だった。
「それなら、私が周辺を見て回ってきましょうか?」
 そこで、ルミスが材料の探索を買って出る。
「そうだな。ここはまだ火文明領だ。もしかしたら、近くに鉱脈や工場などがあるかもしれない。頼めるか、ルミス」
「お任せください。行って参ります!」
 バサァッ、と天使のような純白の大翼を広げて、ルミスは瞬く間に飛び去っていった。
「ルミス……」
「大丈夫なのか? あんたら、追われてるって聞いたが……」
「ルミスは我々のサブリーダーだ。少々感情的なところはあるが、この程度のことなら、なにも問題はないだろう」
 ミリンはそう言うものの、【鳳】に見つかれば、ルミスと言えどもタダでは済まないはず。
 その危険を冒してまで彼女は飛び、ミリンはそんな彼女を信じて送り出した。
 なんということもない風なやり取りではあったが、彼女らの、【フィストブロウ】の結束の固さが、ほんの少しでも垣間見えた気がした。
「さて、私は今のうちに修復できるところを直しておこうかね。ルミスがいつ戻るかはわからないが、時間はそれなりにかかるだろう。君たちは車内で休んでいたまえ」
 ミリンに促されるまま、恋と浬は車内に入る。
 大嫌いな相手と顔を突き合わせ、気まずいまま、ルミスの帰りを待つのだった。



「——ミリンさん!」
 空から真っ白な羽と共に、女性の声が落ちて来る。
 見上げると、ルミスが戻ってきたようだ。しかし、どこか慌てている様子だ。
「む、ルミス。戻ってくるのが早かったな」
「ミリンさん、まずいです。近くに【鳳】の拠点があります」
「なんだって?」
 ルミスの言葉に、顔をしかめるミリン。
 【鳳】の拠点が近くにある。それは、彼女たちにとっては非常に大きな意味を持っていた。
「どこにあった?」
「ここから東の方です。拠点と言っても、工場……というより、研究所のようなところでしたが」
「研究所? 本当か?」
「わかりませんが、そんな雰囲気はありましたよ。少なくとも、重要な設備だと思われます。白い建物で、大きさはそこまで大きくなかったんですが、周辺に警備ロボットが配備されていました」
「警備ロボット?」
「はい。青いステレオタイプのロボットで、四方に二台ずつ、入口にも二台、合計六台配備されていました」
 ルミスが、ミリンに発見した拠点について説明している。
 その説明を聞くにつれて、ミリンの表情が険しくなっていく。
「…………」
「ミリンさん? どうしました? あそこが【鳳】の拠点なら、ここも危険です。早く移動した方がいいですよ。足がなくなるのは惜しいですが、いざとなれば私が運びますから——」
「いや、その必要はないよ、ルミス」
 ルミスの言を否定して、ミリンは車を置いてスタスタと歩を進めていく。
 そんな彼女を、ルミスが慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっとミリンさん!? どこに行くんですか!?」
「その研究所とやらだ」
「え、えぇ!? 私の話、聞いてました!? 【鳳】がすぐそこに迫ってるんですよ! 今は恋さんや浬さんもいますし、ここは衝突を避けるべきですって!」
「すまないな、ルミス。私にも譲れないものがあるのだよ。それに、そこなら必要なパーツが確実に手に入る」
 ルミスの言葉に聞く耳を持たない様子のミリン。
 ややマイペースな強引さがあるものの、思慮深く、常に物事を実利的に考えることのできる人物だ。
 だというのに、このあまりに強情な態度。彼女らしからぬ行動だ。
 一体、どうしたというのだろうか。
「ミリンさん! あぁ、まったくもう……っ! 恋さん、浬さん! 離れると危険なので、来てください!」
「……どうやら、そうするしかないみたいだな」
「面倒くさい……」
 口々にそんなことを言いながら、ルミスを先頭に、三人はミリンの後を追う。
 彼女がなにをしようとしているのか、なにを目指しているのか。その実態が掴めぬままに——


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