二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

129話「奇襲」 ( No.399 )
日時: 2016/05/28 13:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 神話空間が閉じる。
 一部始終、事の成り行きを見ていた沙弓は、慌てて一騎の下に駆けた。
「一騎君!」
「沙弓ちゃん……なんでいるの……逃げてって言ったのに」
「そんな話は聞いてないわ」
 意識が朦朧としかけている一騎を寝かせる。テインはカードに戻り、そちらも動けないようだった。
「口ほどにもなかたtでありますな」
 壁のように立ちはだかる男の声が響く。
「単純な軍力で言えば、それほど遜色はなかったように感じたであります。彼の従える火と自然の戦士たちは、自分の目から見ても優秀な兵でありましたが、如何せん指揮が悪い。指揮官がこれでは、どれほど兵隊が優秀であろうとも雑兵に成り下がるでありますよ」
 見下すように一騎を酷評する。事実、一騎は男に負けている。その評価を今ここで覆すだけの反駁の言葉は、誰も持ち合わせていなかった。
 だが、それはそれだ。
 沙弓の中には、別の感情が渦巻いていた。
 後輩の前で格好つけようとする自分はいない。ただ一人の自分としての本心が、ここにあるだけ。
 後輩の前ではない。だから格好つける必要はない。だからこそ、部長でもなんでもない自分として、友人のために戦う。
 まだ地に伏したままのドライゼを、横目で見た。「う……」と微かな呻き声が聞こえる。
「……ドライゼ。もう十分休んだでしょう。いつまでも寝てないで起きなさい」
「寝てねぇし……どうやってあいつのドタマぶち抜くか考えてただけだ」
「ならそれを実践してもらわないとね」
 どうやら相方は十分元気なようだ。安心した。
 起き上がったドライゼにカードにならせて、手元に引き寄せる。
 それを見ていた男の視線は、沙弓に向けられていた。
「次はあなたがたでありますか」
 淡々と、しかしどこか呆れを感じさせる声で、男は言う。
「次から次へと、よくもそう無謀なことができるでありますね。奇々殿でもそのような賭け方はしないでありますよ。まあ、これが余裕を失くしたものの辿る末路と考えるのであれば、得心いかなくもないでありますが」
「戦う前から勝った気でいるのね」
「戦わずとも力量差は知れているでありますからな」
「測り違えということもあるでしょう?」
「誤差、不測の事態等々も見越して高く見積もったとしても、あなたがたは我らが獣軍隊には敵わないと言っているのでありますよ」
 はっきりと、断定する。
 それがただの自信過剰ではなく、実際の実力に基づいているから、というだけでもなく。
 本当にすべてを見透かしているからこその言葉であることは、感じられた。
 それでも勝算がないわけではない。
「さっきの戦いは見てたわ。情報は最大の武器……あなたの戦略は見切ったわ」
「……ほぅ」
 と、そこで、男はまた妙な微笑を見せる。
 不敵な笑み。どこか楽しそうにしているが、同時にこちらを貶すような嘲笑。
 その笑みは、沙弓の意識の外にあることを暗に知らせているかのようでもあった。
「自分の戦略を見切ったとな。それはまた、随分な大言壮語でありますね。そこまで申すなら、試してみるでありますよ」
 挑発を受けたのに、挑発するかのような物言い。言動のペースが絶妙に乱れて捉えきれない。
 一騎との対戦では、終始彼をかき乱していた。
 だが今も、沙弓は心の中まで攪乱されているようだった。
 戦争でも論争でも、なにかが隠され、なにかが見えず、どこからか現れては、どこかに消え、なにも読めない、厳格な兵士。
 男は、沙弓を煽るように、言い放った。

「本当に自分の軍略のすべてを、見切ることができたのかどうか——」

 そして、神話空間が開かれる。



 沙弓と男のデュエル。
 沙弓の場には、なにもない。《特攻人形ジェニー》を一発撃ち込んだのみだ。
 対する男の場には《冒険妖精ポレゴン》と《一撃奪取 ケラサス》が一体ずつ。しかし、まだシールドは割っていない。
「私のターン……できることはないわね。マナチャージだけするわ」
 このターンはなにもできずにターンを終える沙弓。しかし手札には《ホネンビー》に《リバイヴ・ホール》《魔狼月下城の咆哮》まで揃っている。もう少しターンが進めば、除去やハンデスを連打し、相手を妨害してコントロールしていくことができる。
 同時に沙弓は、相手の場を見た。
(《ポレゴン》に《ケレサス》……1コストクリーチャーがいて、しかもマナ加速が得意な自然で、わざわざコスト軽減の《ケラサス》を使っている……間違いなく速攻に近いビートダウンね)
 デッキタイプは概ね確定できた。ならば、あとはその穴を突くだけだ。
 手札を攻め、息切れさせる。次に場を攻め、戦場を壊滅させる。最後は大型クリーチャーで場を制圧し、とどめを刺すだけだ。引きは決して悪くないため、ハンデスにしろ除去にしろ、スムーズに行えるだろう。
 だが、不安要素もある。
(相手のデッキ、一騎君と戦った時のものとは違うように見えるのよねぇ……デッキを変えてきたのかしら?)
 マナには《ランキー》や《ランボンバー》なども見えているが、ここまでの動きがワンテンポ速い。
 しかしデッキカラーは同じで、どちらにせよビートダウンであることに違いはないのだ。ならば、今の考えで進めて正解のはず。
「ターン終了よ」
 そんな風に相手を分析しながら、今後の戦略を組み立てていく沙弓。
 だが、そのような彼女に、男は一言、告げる。
「……遅い。遅すぎるでありますよ」
「え……?」
「そんなに遅くては、自分の連撃に対応できないでありますよ。自分の侵略作戦は、もう始まっているのであります」
 言って、男はカードを引く。
 さらに、マナチャージ。
 そして、
「《獣軍隊 フォック》を召喚!」



獣軍隊 フォック 自然文明 (4)
クリーチャー:ゲリラ・コマンド/侵略者 4000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、そのターン、自分のクリーチャーすべての種族にゲリラ・コマンドを追加する。



 シュタッ、と戦場に立ったのは、白銀の毛皮に覆われた、狐のようなクリーチャー。
 どこか機械的ながらもファンタジーっぽい杖を持ち、共に戦場に立つ仲間たちを見つめている。
「このクリーチャーは……?」
「今回の作戦の肝となる、重役でありますよ。《獣軍隊 フォック》。その能力は、自分のクリーチャーすべての種族に、ゲリラ・コマンドを追加することであります」
「種族に、コマンドを……? ……っ!」
 沙弓は理解した。しかし、理解しても、もう遅い。
 《フォック》は杖を一振りする。そうして放たれた光の粒子を、他のクリーチャーは浴びる。
 刹那、男の場にいたすべてのクリーチャーの空気が、一変した。
 鋭いナイフのように研ぎ澄まされ、銃を握る手のように静かな殺気を持つ。
 その姿はまるで兵隊。森の中で潜み、狙い、戦う軍人の如きだった。
「全軍はコマンドとなった。これで作戦準備は完了であります……あとは、攻めるのみ」
 ギラリと。
 男の眼が、鋭く光る。
「《冒険妖精ポレゴン》で攻撃……する時に、侵略発動!」
 いつもは陽気に冒険を楽しむ《ポレゴン》だが、今の彼は己の任務を全うすることに全身全霊をかける一兵卒。
 冒険心を忘れ、ただただ、作戦遂行のために、その身を捧げる。
「包囲作戦発令。ここは我らが戦場、全軍は並び立ち、連撃せよ! そして——侵略であります!」
 兵隊となった《ポレゴン》は、進化し、侵略する。
 司るは吃驚。操るは意表。突くべきは空虚。
 作戦内容は包囲と連撃。彼
 徴兵された兵隊たちを駒として、十全に動かし、息を持つかせぬ絶え間ない攻撃を繰り出す。
 まずは一撃。俊敏に舞い、獰猛に射殺す。
 隠されてきた切りワイルドカードの出番が来る。作戦開始の指令は放たれた。
 あとはただ、一網打尽にするのみ。
 白銀の統率者が、得物を握り、森を駆ける。

「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」

129話「奇襲」 ( No.400 )
日時: 2016/05/29 10:28
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

超獣軍隊 フォックスリー 自然文明 (5)
進化クリーチャー:ゲリラ・コマンド/侵略者 9000
進化−自分の自然のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—自然のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーの攻撃の後、このクリーチャーの一番上のカードをバトルゾーンから自分の手札に戻してもよい。


 兵士となった《ポレゴン》が侵略し、現れたのは、白銀の毛並を持つ、狐のようなクリーチャー。
 胸に走る刺青と、迷彩色の軍服。羽織った上衣の肩章には、征服を示す【鳳】のシンボルが煌めく。
 そしてなによりも、長大なおおゆみが目を引いた。
 青紫色の配色。近代的なフォルム。姫反から小反にかけての胴の部分には、エネルギーを充填しつつある砲が取り付けられている。
 《フォックスリー》はエネルギー状に構築された三本の矢をまとめて引き、一気に解き放つ。
「《ポレゴン》を、《フォックスリー》に侵略! Wブレイクであります!」
「っ、!」
 《フォックスリー》の放つ矢が、沙弓のシールドを二枚撃ち抜く。一瞬の出来事だった。
 《ポレゴン》は本来、種族にコマンドを持たないが、《フォック》の能力によってゲリラ・コマンドを得たため、このターンに限り自然のコマンドとして扱われる。
 つまり、侵略の元となるのだ。
「でも、Wブレイク一回程度なら、まだ立て直せる……」
「なに甘いことを考えているでありますか。戦場では常に最悪を想定すべきでありますよ。そんなぬるい幻想は捨て去る方があなたのためであります」
 鋭く厳しい言葉を浴びせ、男はさらに動く。
 《フォック》で自軍をコマンド化し、侵略する。それ自体はなにもおかしくはない。コスト4の《フォック》に繋ぐため、《ケラサス》を用意していたことも頷ける。
 しかし、ならばなぜ、わざわざ《ポレゴン》から並べたのか。小型クリーチャーを二体も並べる必要があったのか。
 その理由を、沙弓は身をもって知ることとなる。
「さぁ、ここからが作戦の本番であります。《フォックスリー》の攻撃後、《フォックスリー》の能力発動! 侵略した《フォックスリー》のみが手札に戻るでありますよ」
 侵略元となった《ポレゴン》はそのままに、《フォックスリー》だけが剥がされ、手札に舞い戻る。
 手札には自然のコマンドの攻撃で侵略する《フォックスリー》、場には《フォック》によってコマンド化した《ケラサス》が残っている。
 この二つの事実は、なにを意味するか。
「っ、まさか……!」
「気づいたでありますか。まあ、気づいたところで時すでに遅し……いや、気づこうが気づかまいが、あなたの敗北は確定事項だったのでありますよ。《ケラサス》で攻撃——」
 する時に、
「——侵略発動!」
 徴兵された《ケラサス》の攻撃に呼応して、獣軍隊の兵士が、再び侵略を始める。
「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」
 白銀の毛を散らして、《フォックスリー》は弩を引く。
 風を切る速度で矢が放たれ、さらに沙弓のシールドを二枚、撃ち抜いた。
「侵略進化した《フォックスリー》で、シールドをWブレイクであります! さらにこの攻撃後に、《フォックスリー》を手札へ戻すでありますよ」
「く、う……!」
 確かに、気づいた時には遅かった。それに、気づいたとしても、手札に手の打ちようはなかった。
 序盤から小型クリーチャーを並べていたのは、《フォックスリー》による“連続侵略”の布石。攻撃後に《フォックスリー》は手札に戻る。その能力を利用し、男はクリーチャーを並べ、《フォック》でクリーチャーすべてをコマンド化させたうえで、《フォックスリー》へと連続侵略し、沙弓のシールドを一気に叩き割った。
 速攻気味な構築のわりに《ポレゴン》で攻撃しなかったのも、この連撃を見据えて、手札に戻ることを嫌ったからだろう。
 多数のクリーチャーで包囲して、進化と退化を繰り返し、連撃を繰り出す。これもまた、ゲリラ・コマンドの得意とする特異な戦い方だ。
 なんにせよ、この連撃で沙弓のシールドは一枚になってしまった。たった3ターン目で、もう窮地に立たされてしまったのだ。
「わ、私のターン。《白骨の守護者ホネンビー》を召喚! 二体目の《ホネンビー》を手札に加えて、ターン終了……!」
 沙弓はブロッカーを一体出すだけで、ターンを終える。
 マナが足りないため、《魔狼月下城の咆哮》で除去することもできない。ここでクリーチャーを一体に減らせていれば、まだ耐えられた。
 しかし、今はそれができない。
「それだけでありますか。ならば、これで終わりでありますな。《ポレゴン》を《超獣軍隊 フォックスリー》に進化!」
 今度は侵略ではなく普通に進化させる。
 また連続侵略によって、包囲した沙弓を攻め落とすつもりなのだ。
「《ケラサス》でシールドをブレイクであります!」
「う……《ホネンビー》でブロック!」
「《フォックスリー》でシールドをブレイクであります!」
 《ケラサス》の攻撃が止められようとも、後に続く兵士がいる。《ホネンビー》が《ケラサス》の前に立ち塞がるそばから、《フォックスリー》が飛び越え、沙弓へと駆ける。
 弩を構え、素早く矢を飛ばし、最後のシールドを撃ち抜く《フォックスリー》。砕かれたシールドの破片が飛び散る中、《フォックスリー》は再び、瞬く間に手札へと戻ってしまった。
「攻撃後、《フォックスリー》は手札へ」
 ヒット&アウェイ。それを防御ではなく、攻撃に転用する。これもまた、一つの奇襲の形だ。
 最後のシールドにも、トリガーはなかった。
「それでは、これで終わりでありますよ」
 男は、淡々と宣言した。
 最後の最後まで、油断することなく、気を緩めず、最大の攻撃を放つ。
「《獣軍隊 フォック》で攻撃する時、侵略発動であります」
 《フォック》が攻撃に出る。その瞬間、化けるかのように、《フォック》は侵略する。
 今作戦における重役、そして最後に出撃する兵士として。

「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」

 素早くボウガンが引かれ、空を穿つかのように矢が放たれる。
 それが、包囲作戦による連撃の、最後の一撃だった。

「《超獣軍隊 フォックスリー》で、ダイレクトアタック——」



「取るに足らない相手でありましたね」
 二度に渡って開かれた神話空間。その二度目が閉じられると、男はなんでもないように言い放った。
 しかしそう言われても仕方ない。それほどに、一騎も沙弓も、男には歯が立たなかった。手も足も出なかった。還付なきまでに、叩きのめされた。
 意識はまだ少しある。だが、先ほどのダメージで体は動かない。よしんば動けたとしても、立ち向かうことはおろか、逃げることもできないだろう。
「妙な足掻きをされても面倒でありますし、早く処理してしまった方が、得策でありますか」
 そう言って男は、再びサバイバルナイフを取り出す。木漏れ日に照らされた光が当たり、鈍い銀色が怪しく反射する。
 男はまず、一騎へと近寄る。比較的力が強い男だからなのか、単なる偶然なのか、他の意図があるのかは分からない。どちらにせよ、同じことだが。
 男は足で蹴り飛ばすように乱暴に一騎の体を転がし、仰向けにする。ナイフを逆手に握ると、軽く振りかぶって構え、狙いを定めた。
 射殺すような眼孔が見据えるのは、心の臓。男が人間の体の構造を知っているのか、クリーチャーと人間の構造に違いはあるのか、そもそも自分たちを人間と認識しているのか。そんなどうでもいいことが頭をよぎったが、本当にどうでもよかった。
 男はそこが急所だと判断した。ただそれだけであり、腕を刺されようが足を斬られようが、あの刃渡りでは致命傷だ。
 どこを狙おうが、彼の目的はただ一つ。
 本気で殺す気なのだ。
「それでは、さようなら」
 銀色の刃が、暗い森で鈍い煌めきを放ちながら、風を切き、空を裂く。
 そして、その兇器は、皮を、肉を突き破って。
 一騎の心臓を、刺し貫いた——

130話「死の意志」 ( No.401 )
日時: 2016/05/31 03:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「——!?」

 ——と、思われた。
 しかし直前で、一騎の衣服を貫き、皮を破り、肉に触れたところで、男の手は止まった。
 俊敏な動きで振り返ると、慌てたようにナイフを構え直し、暗い森の奥へと鋭い眼光を向ける。
「この気配……! まさか……」
 もはや自分が殺そうとしていた相手のことなど、眼中にないとでも言うかのように、意識を集中させている。
 凄まじいまでの、強烈な気配。
 その気配は、ただの気配ではない。刺す、斬る、貫く、殴る、潰す、吊る、絞める——あらゆる破壊の意志を孕んだそれは、そう、“殺気”だ。
 痛いほど肌で感じる殺意。隠す気がないのか、隠しきれていないのか、その殺気は沙弓たちでも分かるほどに漏れ出ていた。
 やがて、森の奥の闇から、這い出るように、何者かが姿を現す——

「——よぅ」

 悪魔の言葉を聞いた気がした。
 低く唸るような声色。言葉の一つ一つから感じる。相手を消し去ろうとする、純然たる殺意。
 見ているだけで、近くにいるだけで、全身に刃物を突きつけられるような緊張感が纏う。
 悪魔は、なんでもない調子で、しかしそれでいて確かな殺気を孕ませ、空気を震わせ、声を発する。
「久しぶりじゃねぇか」
「……ラーザキダルク、やはりあなたでありましたか」
 男はその人物を、ラーザキダルクと呼んだ。
 声だけでなく、その風貌も、悪魔のようだった。
 鋭すぎる眼孔は、血走ったように筋が浮き出た目玉は、魔眼として埋め込まれている。口元から覗くのは、八重歯というには禍々しすぎる牙。両手が少し不自然に大きく、指先から伸びる爪も、ナイフのように鋭い。
 一見すると人間のような姿をしているが、明らかに人間にはない特徴が見て取れる。
 だからこそ、だろうか。彼を悪魔のようだと感じるのは。
 彼は沙弓たちにとって、幸運の存在となるのか、それとも不幸をもたらすのか。
 ラーザキダルクは尖った歯を見せつけるように、口を開いた。
「なんかドンパチしてるみてぇだから、【フィストブロウ】か【鳳】かと思って来てみたが……とんだ大物が見つかったもんだ。なぁ、隠兵王」
「……覚えていたのでありますか、自分の名前」
「おいおい、【鳳】の重鎮の一人がなに言ってんだ? いくら俺がてめぇらに興味ねぇつっても、その程度のリサーチはしてんに決まってんだろ。てめぇらんとこのリーダーと、奇々姫、そして隠兵王……【鳳】幹部の重役三人じゃねぇか。それともなんだ? てめぇは自分が隠れる存在だからつって、自分の知名度も低いと思ってのか?」
「……まさか。あなたが我々の名前を憶えていたことが、少々意外だっただけでありますよ」
 男——隠兵王は、ナイフを構えたまま、一切の油断も隙も見せず、ラーザキダルクと対面する。
 先ほどまで、一騎や沙弓と相対していた時とは、警戒の仕方がかなり違う。それほどに彼にとって、ラーザキダルクは脅威となり得る存在ということだろうか。
「しかし、【フィストブロウ】は各地に散っていると聞き及んでいるのでありますがな。あなたも仲間探しをしているのでは? その最中に、自分のような者に構う余裕があるのでありますか?」
「余裕もクソもねぇよ。てめぇ自身が、俺の目的でもある。だからなにも問題はない。むしろ、適当にほっつき歩いてただけでてめぇみてぇな大物が出てきたんだ。殺したいほどに嬉しいぜ」
「殺したい、とな。はて、自分があなたになにかしたでありましたか?」
「まあな」
 ラーザキダルクは、三白眼の鋭い眼光を、さらに鋭くして、隠兵王を睨みつける。
「ここで、てめぇにうたれた恨みを晴らしてやる」
「……もしや、あの時のことをまだ根に持っているのでありますか?」
 心当たりがあった様子の隠兵王。その瞬間、彼は呆れたように、しかしどこかラーザキダルクを嘲るように、息を吐いた。
「随分と了見の狭い。狭量でありますな。自分の撃った足も、もう完治しているでありますよ。それをいまだ引きずるのは、少々みっともないかと」
「あん? てめぇ、なにか勘違いしてねぇか?」
 隠兵王の言葉に、ラーザキダルクは殺意のこもった視線を向けながら、口元では危険な笑みを浮かべる。
「俺が晴らす恨みは、俺が撃たれた恨みじゃねぇ……てめぇらに討たれ死んでいった、俺の仲間たちの恨みだよ」
「……メラリヴレイムでありますか」
「あの馬鹿のことなんざ知らねぇよ。どっかで馬鹿みてぇに生きてんだろ、どうせ」
 吐き捨てるラーザキダルク。途端、露骨に不機嫌そうな表情を見せる。
「んなこたどうでもいい。それよりも、【フィストブロウ】狩りとか言ったか。はんっ、ふざけやがって」
「我々はただ、我々のリーダーの意向に従っているにすぎないでありますよ。それに、メラリヴレイムのいない“今”が【フィストブロウ】を壊滅させる好機であります。そんなに自分たちの集団を大事にしたければ、リーダーを捜してくればよろしいかと」
「興味ねぇな」
 その一言で、ラーザキダルクは切り捨てる。
 隠兵王は、ほんの少しだけ、傍目には分からないくらいに、眉根を動かした。
 ここまでで、会話の噛み合わなさを感じる。自分たちが想定していた【フィストブロウ】の動き、考え、スタンス——そういったものが、ラーザキダルクの前では適用されない。こちらの読みがまるで通用しない。
 彼の目的が、見えてこないのだ。
 そんな隠兵王の心中を察したわけではないだろうが、ラーザキダルクは隠兵王が引っかかっていたことを口にした。
「他の連中……特にルミスはメラリーのことを随分と気にしていたが、勝手に死んだことになるリーダーなんざ放っておけばいいんだよ。そんなのはルミスとかミリンさんとかウッディとか、ぬるい奴らに任せときゃいい。勘違いしてるみてぇだから教えてやるが、今の俺の目的は二つ。その一つが……てめぇら【鳳】をぶっ殺すことだ」
「我々を殺す、でありますか……」
「【フィストブロウ】狩りとかふざけたことやってるみてぇだからな。なら俺は、【鳳】狩りをしてやろうってこった。壊滅すんのはてめぇらだ」
 追い込む側が、逆に追い込まれる。戦場では多々あることだ。想定外の事態、無意識の油断、そういった隙となる要素が、反撃を許し、反逆を引き起こす。
「鼠美殿ではありませぬが、窮鼠猫を噛む、でありますか」
 油断していると足元をすくわれかねない。しかもその相手がラーザキダルク。
 少しでも隙を見せれば、即刻“死”に繋がるほどに、危険な相手だ。
 隠兵王はラーザキダルクに意識を向けたまま、横目で沙弓たちを見る。
「……寿命が伸びたでありますな。【フィストブロウ】の悪鬼羅刹、ラーザキダルクが相手では、さしもの自分でも片手間に戦うことはできないであります」
「よそ見すんなよ」
 その一言で、隠兵王が周囲にも向けていた意識は完全に遮断され、目の前の男だけに集中する。
 ラーザキダルクに対抗するように、負けずとも劣らない殺気を放つ隠兵王。一触即発の剣呑な空気が、二人の間に張り巡らされた。
「ここは森……てめぇの戦場に合わせて戦うのは、愚策だな」
 よそ見をするなと言っておきながら、ラーザキダルクは目線どころか、首をぐるぐる回して周囲を確認して言った。
 対して隠兵王は、反論するように返した。
「如何なる場所であっても獣軍隊の戦場は変わらないでありますよ。戦場はすべて自分たちのものであります」
「はぁん。ま、そんな建前知ったこっちゃねぇがな」
 しかし明らかな相手の土俵で戦うつもりはない。
 ゆえにラーザキダルクが選ぶ戦場、そして戦争は、“これ”だった。
「あんまやったことねぇけど、なんとかなるだろ」
 刹那。
 ラーザキダルクと隠兵王を包む空気が変質し始める。
「さぁ、最期の戦争と行こうぜ、隠兵王」
「えぇ。あなたの最期の勇姿、見届けるでありますよ」
 互いに言いながら、神話空間に飲まれていく。
 二人の戦場が、作られていく。

「それでは。侵略作戦、開始であります——!」

130話「死の意志」 ( No.402 )
日時: 2016/06/01 00:29
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……一騎君、起きてる?」
「うん……一応」
 神話空間が開かれ、二人が飲み込まれていくところを確認し、二人は起き上がる。
 意識は朦朧としかけていたが、強烈な殺気に叩き起こされた。突き刺すようなあの気配のせいで、いまだに目が冴えている。
 ラーザキダルクと隠兵王が対話している最中、二人は覚醒していたが、あえて起きなかった。どの程度の効果が見込めるかは分かったものではないが、あそこでしゃしゃり出ても危険なだけだと判断したからだ。
「とりあえず、俺たちはあの……ラーザキダルク、さん? に助けられたのかな」
「助けた、って感じじゃないけどね。結果的には助かったわけだけど」
 それは、ラーザキダルクの意図ではない。
 だからこそ、悩ましいのだ。
「どうしましょうか。このまま逃げる、っていう手もあるけど」
「その方が安全かもしれないけど。でも……」
 このまま、この場を去っていいものなのか。
 ラーザキダルクが隠兵王に勝つ保証など、どこにもない。それに彼は、こちらに好意的ではなさそうだった。だから今のうちに、危険なこの場所から去るべきだ。
 それが、正しい選択のはずなのだが、
「……もう少し、様子を見よう」
「そうね。私たちだけで動いても、アテもなにもないし」
 情報源としては、役に立つかもしれない。
 そんな打算的な考え。
 しかしそれだけではない。
 胸の奥でざわつく嫌な予感。
 その正体を確かめたいがために、二人は革命軍と侵略者の戦いを、見届けるのだった——



 ラーザキダルクと隠兵王の対戦。
 ラーザキダルクのシールドは四枚。隠兵王のシールドは五枚。
 場にはザキの《一撃奪取 ブラッドレイン》と、隠兵王の《成長の面 ナム=アウェイキ》《青銅の面 ナム=ダエッド》。
「《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地に送り……《ブラッドレイン》を回収。そのまま《ブラッドレイン》を召喚だ」
 既に攻撃を開始している隠兵王に対してラーザキダルクは、攻撃的な口振りとは対照的に、静かな展開を見せていた。
 《ブラッドレイン》を並べ、《ボーンおどり・チャージャー》で墓地とマナを増やし、次に備えている。
「ターン終了だ」
「では、自分のターンであります」
 隠兵王のターン。マナチャージして、6マナ。
 彼は自分の手札を数秒見つめ、その中から一枚のカードを抜き取り、戦場へと放った。
「《獣軍隊 フォック》を召喚。全軍コマンドとなれ!」
 白銀の毛を散らしながら、杖を持った獣軍隊の侵略者、《フォック》が現れる。
 《フォック》は登場と同時に杖を振るい、光の粒子を味方のクリーチャーに振りかける。
 すると、《ナム=アウェイキ》と《ナム=ダエッド》は、研ぎ澄まされた刃物のような鋭い気迫を発する、兵士となった。
「自軍をコマンド化するクリーチャーか……ってことは」
「えぇ、お察しの通りであります! 《ナム=アウェイキ》で攻撃する時、まずはマナを追加! そして——」
 《ナム=アウェイキ》は駆け出すと、マナを肥やす。だが、それだけではない。
「——侵略発動!」
 兵隊となった《ナム=アウェイキ》は、侵略の糧となる。
 今回発令される作戦は、誘導。
「誘導作戦発令。ここは我らの戦場、敵を誘い込み、迎撃せよ! そして——侵略であります!」
 《フォック》の徴兵を受け、《ナム=アウェイキ》の攻撃を引き金に、獣軍隊の統率者が進軍する。

「作戦開始——《超獣軍隊 ゲリランチャー》!」

 《ナム=アウェイキ》が侵略し、ミサイルランチャーを担ぎ、【鳳】の軍旗を携えた、《ゲリランチャー》が戦場に立つ。
 《ゲリランチャー》はミサイルランチャーの標準を定めると、トリガーを引いた。
「シールドをWブレイク!」
 その瞬間、何発ものミサイルが放たれ、ラーザキダルクのシールドが爆撃される。
 ラーザキダルクのシールドは木端微塵に粉砕され、残り二枚だ。
 それでも彼は、臆することなく、なんでもないようにカードを引いて自分のターンを進める。まるで今の攻撃を気にしていない。マイペースな所作だった。
 もっとも、自分の調子を保ち続けるなどということを、獣軍隊が許そうはずもないが。
 《ゲリランチャー》が登場した時点で、この場は彼らの戦場なのだ。
「俺のターン。二体の《ブラッドレイン》でコストを下げ、2マナで《暗黒鎧 ヴェイダー》を召喚だ。さらに1マナで《葬送の守護者 ドルルン》、2マナで《ブラッドレイン》も召喚。ターン終——」
「おっと、まだ終わらせないでありますよ。《ゲリランチャー》の能力で、相手は1ターンに一度、必ず《ゲリランチャー》を攻撃しなければならないのであります」
「あん?」
 見れば、周囲を《ゲリランチャー》たちに包囲されている。
 退路はない。無理やり逃げるなら、誰かを《ゲリランチャー》に特攻させ、隙を作るしかない。
 選択肢は存在しなかった。
「ちっ……《ブラッドレイン》で攻撃だ」
 舌打ちして、ラーザキダルクは仕方なく《ブラッドレイン》を突撃させる。
 しかし、それも上手くはいかなかった。
 特攻する《ブラッドレイン》の前に、《ナム=ダエッド》が立ち塞がる。
「《ナム=ダエッド》のガードマン能力発動であります! 《ゲリランチャー》への攻撃を誘導!」
 そして、《ナム=ダエッド》は《ブラッドレイン》を殴り飛ばした。《ブラッドレイン》のパワーは1000、《ナム=ダエッド》は3000あるので、《ナム=ダエッド》の勝ちだ。
 しかしラーザキダルクは疑問符を浮かべていた。《ゲリランチャー》のパワーは11000、ガードマンで守らずとも、返り討ちにできたはずだ。
 にも関わらず、なぜわざわざ《ナム=ダエッド》のガードマン能力を使ったのか。
「よく分かんねぇな……ターン終——」
「待つであります」
 ターンを終えようとするラーザキダルクに、再びストップがかかった。
「まだあなたは、“《ゲリランチャー》に攻撃していない”でありますよ」
「あ? ……あぁ」
 一瞬、なにを言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。
「成程な。ガードマンは“攻撃の対象を移し替える”。つまり、攻撃したという判定をずらすことができる。そうやって《ゲリランチャー》の攻撃誘導回数を稼ぐ寸法か。小賢しいな」
「小賢しくて結構であります。それで勝利を得られるのであれば」
 《ナム=ダエッド》との連携によって、ラーザキダルクはまだ、《ゲリランチャー》の戦場から抜け出せない。
 誘導は継続中。もう一体、誰かを犠牲にしなければ、この戦場から逃れることはできない。
「さぁ、《ゲリランチャー》への攻撃はまだ完了していないでありますよ。残る《ブラッドレイン》は、まだ未攻撃でありますな」
「……《ブラッドレイン》で攻撃だ」
 もう一体の《ブラッドレイン》も、《ゲリランチャー》へと特攻する。それを邪魔する者はいないが、邪魔しようがしまいが、《ブラッドレイン》は散る。
 《ゲリランチャー》の爆撃を受け、《ブラッドレイン》も墓地へと吹き飛ばされた。
「今度こそ、ターン終了だ。その時、《ヴェイダー》の能力で山札の上を墓地に置く。それがクリーチャーなら、ドローだ」
 墓地に落ちたのは、《革命の悪魔龍 ガビュート》。クリーチャーなので、ラーザキダルクはカードを引く。墓地と手札を同時に増やしたが、しかしその程度では、このターンのディスアドバンテージは返せない。
 自分のターンにもかかわらず、特に大きな行動を起こしていないはずなのに、クリーチャーを二体も潰された。
 獣軍隊長、隠兵王。
 様々な戦略、軍略、知略、策略、謀略、機略を巡らせ、攪乱し、欺き、惑わすように戦う、隠れた兵士。
 やはり、一筋縄でいく相手ではない。
「……終戦の時、見えたであります」
 そして彼は、宣戦布告するかのように、静かに宣言した。

130話「死の意志」 ( No.403 )
日時: 2016/06/01 10:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「そろそろ決めるでありますよ。《ジラホン軍曹》を召喚!」
 隠兵王のターン。
 次に戦場に立ったのは、侵略者ではないが、ゲリラ・コマンドの兵士だ。
 二足歩行で、迷彩柄の軍服を着たキリンのような姿。その手には、カラクリを施した星球武器モルゲンシュテルンが握られている。
「《ジラホン軍曹》のマナ武装3。自分のクリーチャーは、そのクリーチャーよりパワーの低い相手クリーチャーにブロックされないでありますよ」
「ブロックをすり抜けるのかよ……!」
 《ホネンビー》《ヴェイダー》《ドルルン》と、小型ブロッカーを並べ続けていたラーザキダルクにとっては、あまり嬉しいクリーチャーではない。どころか、致命傷になりかねない一手だった。
 《ジラホン》の支援を受け、隠兵王のクリーチャーたちは、ラーザキダルクの守りをすり抜ける。
 まずは、《ゲリランチャー》がミサイルランチャーを構えた。
「《ゲリランチャー》で攻撃! シールドをWブレイクであります!」
 再び、シールドを爆撃された。《ゲリランチャー》のパワーは11000。一度はブロックせずに通したが、二度目はブロックできずに通す。これで、ラーザキダルクのシールドはすべて失われた。
 だが代わりに、爆撃されたシールドのうち一枚が、光の束となり、収束する。
「……S・トリガー《インフェルノ・サイン》」
 煉獄の印が結ばれた。
 地獄の門扉が開かれ、死者を戦場へと呼び戻す道が出来上がる。
「…………」
 ラーザキダルクは自身の墓地をジッと見つめ、考え込むように目を閉じた。
 ややあって、墓場から一枚のカードをすくいあげる。
「……《暗黒鎧 キラード・アイ》を復活。能力で、山札の上から四枚を墓地へ」
 蘇ったのは、刺々しい鎧を纏った暗黒騎士。胸には邪悪な魔眼が埋め込まれている。
 《キラード・アイ》は手にした刀剣を一振りし、山札から四枚を墓地へと落とした。
「それだけでありますか。ならば追撃であります! 《獣軍隊 フォック》で攻撃!」
「《フォック》のパワーは4000。なら、同じパワーの《ヴェイダー》でブロック——」
「させないでありますよ」
 ラーザキダルクが《ヴェイダー》に手を伸ばそうとしたその時、隠兵王はまた彼の行動にストップをかける。
 このタイミングで隠兵王がなにかを仕掛けるとしたら、することは一つしかない。
 戦場を駆ける《フォック》の眼光がギラリと光り、その身を侵略者の衝動に委ねる。
「《フォック》が攻撃する時、侵略発動であります!」
 このターンも隠兵王は侵略を行う。
 そのような策を弄そうと、それらすべての軍略は勝利のためにある。
 勝利に必要なもの。それは、突き詰めれば攻めること。
 誘導し迎撃するのも、包囲し連撃するのも、侵攻し侵略するのも、すべては敵を攻め落とすため。
 変幻自在で多種多様。されども、彼も侵略者。
 ゆえに、攻撃的に、進軍を続ける。

「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」

 このターンにも、隠兵王は侵略する。
 銀色の毛並は《フォック》の時よりも勇ましく輝き、機械的な杖は近代的な弩へと変質する。
 《ゲリランチャー》に続き、《フォックスリー》までもが戦場へと駆けつけてしまった。
「《フォックスリー》のパワーは9000! その辺に転がっているブロッカー程度では、止められないでありますよ!」
 今は《ジラホン》がいるため、ラーザキダルクはチャンプブロックができない。
 しかし、《フォック》は《フォックスリー》に侵略してしまったため、《ヴェイダー》でも止められない状態だ。
 黒い守りを突き抜けて、《フォックスリー》の矢が放たれる。
 それはつまり、ラーザキダルクの敗北を意味していた。

「《超獣軍隊 フォックスリー》で、ダイレクトアタックであります——!」

 とどめの一撃が迫る。確実に、明確に、完全に、対象を殺すことを目的とした、弩の矢。
 一本でも致命傷の矢が、束ねられて三本。これを受ければラーザキダルクもただでは済まず、またこの矢を防ぐ盾もない。
 だが、しかし、
「……ちっ、かったりぃことしやがって」
 今まさに、自分を射抜く弓矢が飛来するという時に、ラーザキダルクは気だるげに息を吐いた。
 この絶望的な状況でも、絶望を感じていない。
 いや、そもそも、彼にとってこの状況は、絶望ではないのか。
「本当は、もっと最後までとっておくつもりだったんだがな。だがまあ、こうなってしまった以上は、使わざるを得ねぇか」
 ピッ、と。
 ラーザキダルクは手札から一枚のカードを放つ。

「——革命0トリガー発動」

 《フォックスリー》の矢がラーザキダルクを射抜く直前。
 彼は、宣言した。
「呪文——《革命の裁門》」



革命の裁門 R 闇文明 (4)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドが1枚もなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から1枚目を見せる。それが闇のクリーチャーなら、相手のクリーチャーを1体破壊する。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに自分の山札に加えてシャッフルする。



「っ!? それは……!」
「てめぇらに見せたことはなかったか? まぁ、なんでもいいか」
 再び、地獄へと続く門扉が現れる。
 ただし、この門扉は地獄のものを現世へと呼び戻すための道ではない。
 現世の生者を地獄に突き落とすための道だ。
「革命0トリガーは死ぬ直前に使える最後の防衛線。《革命の裁門》の場合、デッキの一番上を捲り、それが闇のクリーチャーであれば——」
 言いながら、ラーザキダルクは山札を捲る。
 捲られたのは、《暗黒鎧 キラード・アイ》。
 闇のクリーチャーだ。
「——相手クリーチャーを破壊する。《フォックスリー》を破壊だ」
 《キラード・アイ》が執行人となり、裁きの門が開かれる。
 放たれた矢は門の奥に広がる闇へと飲み込まれ、消えていく。
 その中に消えるのは、矢だけではない。その矢を放った本人——《フォックスリー》も、飲み込まれる。
 逃げることはできない。地獄の底から湧き上がる闇が《フォックスリー》の全身を包み込み、門の中へと引き摺り込む。
 そして獣軍隊の兵士は、死に絶えた。
「《フォックスリー》が……!」
「てめぇのクリーチャーはぶっ殺したぜ。《ナム=ダエッド》はどうすんだ? 殴るか?」
「……いや。ターン終了であります」
 《ヴェイダー》がいる以上、《ナム=ダエッド》で攻撃する意味はない。ここは大人しくターンを終えるしかなかった。
「俺のターン……そろそろ、てめぇに俺の革命を見せてやる」
 そう呟いて、ラーザキダルクはカードを引く。
 その言葉で、隠兵王の表情は険しくなる。
(【フィストブロウ】の有する“革命”の力。自分でも、その力の全貌は詳しく知らないであります……)
 常に前衛として、幾度と前線に立ってきた【鳳】と違い、【フィストブロウ】はそもそも戦うことが少ない。仮に戦うとしても、実際に革命と呼ばれる力を行使することはほとんどない。
 意図的に隠しているのか、偶然そういう場面がないだけなのかは分からないが、それゆえに、【鳳】は【フィストブロウ】の力の正体を知らないのだ。
(聞くところによると、窮地を脱し、戦況を逆転させるほどの大きな力を持つとのことでありますが、果たしてその力は如何なものなのか……)
 そして、その窮地は、“今”なのか。
「行くぜ。《キラード・アイ》の能力発動だ」



暗黒鎧 キラード・アイ R 闇文明 (5)
クリーチャー:ダーク・ナイトメア/革命軍 4000
このクリーチャーがバトルゾーン出た時、自分の山札の上から4枚を墓地に置いてもよい。
闇の進化クリーチャーを自分の墓地から召喚してもよい。



 《キラード・アイ》の胸に埋め込まれた魔眼が、ギョロリと大きく見開いた。
「《キラード・アイ》の能力で、俺は墓地から闇の進化クリーチャーを召喚できる。よって、墓地からこいつを召喚だ」
「!」
 ゾッ、と。
 悪寒が走り抜ける。
 悍ましい声が聞こえた気がした。
 恐ろしい咆哮が聞こえた気がした。
 死者が叫んでいる。亡者が唸っている。
 そして、魔眼が自分を見つめている。
 そんな感覚に囚われながら、隠兵王の目の前に、深い闇が広がっていく。
「《暗黒鎧 キラード・アイ》を進化」
 ボゴッ、と胸の魔眼が盛り上がる。
 胸だけではない。腕が、脚が、胴が膨張し、さらに刺々しい鱗を形成する。
 背中からは、闇夜よりも暗く、白夜を塗り潰すような、悪魔であり天使の翼が開く。
「目覚めろ、殺戮の魔王。生に胡坐をかいた者どもに、俺たちの死に様を見せつけろ——さぁ今こそ、革命を起こせ!」
 よりいっそう、大きく魔眼が見開かれる。
 すべての生を、死を、生者を、死者を見続けてきた、禍々しき魔眼。
 右手の甲には明の拳、左手の甲には暗の拳。それぞれ紋章が浮かび上がり、《キラード・アイ》だったクリーチャーは、邪悪な雄叫びをあげる。
 それは、死を司る革命軍の王であるという、証だ。
「死の意志を掲げろ——」
 生を死を貪り、統べる王。

「——《革命魔王 キラー・ザ・キル》!」


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