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- 秘密
- 日時: 2020/07/02 17:37
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
ここは皆の秘密基地。
そこに響く彼女の歌声。
これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————
〜・目次・〜
序章
>>1->>3
1章
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137章
>>648->>651
138章
>>652->>655
作者の言葉
>>401
作者の言葉 2020.7.2
>>656
*参照10000 有難うございます*
これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。
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- Re: 秘密 ( No.587 )
- 日時: 2016/04/24 23:44
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「遠出で疲れたよね。明日は橋の向こうまで行くから、ゆっくり休んでね。」
にこり、と笑った。
気付けば、もう夜も遅い。
かなりの時間がたっていたらしい。
「そそ、ゆっくり休め。若人よ。」
エリスは、また作った様な笑い方をしている。
エリスにとって、アイザック達だけが絶対なのだろう。
優しくて、温かくて、儚かった彼ら。
笑い合ったあの日が、永遠なのかもしれない。
それはもしかすると、一生揺らぐことがないかもしれない。
狭い世界。
でも、それがエリスの全て。
決して帰って来ない、過去に囚われている。
それが悪い、なんて私には断じられない。
彼らがいた日々は、それだけ素晴らしいものだったのだ。
それ以外の全てが、どうでもいいと思えるくらいに。
そんなことを彼らは望んでいない。
そんな月並みの言葉を、掛けることはきっと彼らに対する侮辱だ。
彼らはもう何も語らない。
彼らの意思を知るすべは、もう存在していない。
それを代弁することは、きっと誰であろうと彼らへの冒涜になる。
彼らはエリスの中に、ずっと存在し続ける。
もう、いなくても。
心には彼らと紡いだ物語がある。
だから、願う。
いつかエリスに、アイザックと同じくらいに大事に想える人が出来ることを。
アイザックを忘れる訳じゃない。
彼らのことを知って、それを受け入れてくれる人を。
それでもエリスを想っていてくれる人を。
人生って言うのは、長いんだ。
今日とは違う明日が、必ずやってくる。
苦しくても、辛くても。
生きていれば、必ず変化は訪れる。
だから今の私に。
エリスに掛けられる言葉は、ない。
「エリス、生きろよ。」
エリスが、いつか本当に笑えたら。
無理矢理でも、作ったものでもない。
本当の笑顔を。
「…死ぬわけには、いかないじゃん」
私はただ。
それを、願うだけ。
エリスがアイザックから貰ったアイリスの花に込められた意味を。
守ってくれることを、祈るだけ。
- Re: 秘密 ( No.588 )
- 日時: 2016/04/26 23:52
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
〜・122章 狭い世界と敵・〜
「圭、夕食を食べたら私の部屋に来て。勿論1人で。」
そう声を掛けられたのは、エリスとアリスが部屋を出ようとした時だった。
ふと、思い立ったように振り返って告げてきた。
笑ってはいたけれど、少し寂しそうだった。
「…分かった。」
空腹だったはずなのに、夕食は酷く味気なく感じた。
エリスの話を聞いたからだろうか。
アリスの呼び出しが胸に引っ掛かったからだろうか。
それとも、これから先のことを案じたからだろうか。
アリスは本気で言っている。
それを阻害することに対して、迷いが生まれたからだろうか。
なんとなく食べていると、夕食は終わった。
各々が与えられた部屋に戻った。
「…アリス?」
アリスの部屋に入ると、直ぐに何かを踏みつけた感触がした。
部屋は暗い。
出掛けているのだろうか。
廊下の灯りを頼りに、足元に落ちていた物を拾い上げた。
何かの資料だ。
グラフや難しい漢字がびっしりと並んでいる。
『アニエスの財政 その5』
アリスのことだ。
きっと、毎晩資料を読み耽っているのだろう。
他にも孤児院に持って行こうとしているのか、布や綿も散らばっていた。
失敗作であろう、歪なライオンのぬいぐるみも転がっている。
灯りを付けると、部屋の全貌が曝け出される。
とても散らかっている。
「夜這い?」
「ちょっ…!?」
背中越しに顔をのぞかせたのは、勿論アリスだ。
楽しそうに笑っている。
「冗談冗談。でも、こんなに早く食事が終わるとは思わなかった。」
いつの間にか着替えたのか、寝巻であろうワンピースに身を包んでいる。
「アリス…食事は…?」
「後で食べる。今はあんまり食欲なくて。」
笑顔は崩さない。
アリスとは、長いことずっと傍にいた。
けれど、何時からだろう。
アリスが作り笑いを浮かべる様になったのは。
「それで、呼んだ用件なんだけどね。」
そっと、アリスは自らの耳に触れた。
そこにはずっと前にアリスに贈ったイヤリングが輝いていた。
プレゼントした日から、アリスはずっと律義に付けていた。
毎日。
1日も欠かさずに。
それを、目の前で外した。
「これ、返したくて。」
手のひらにきゅっと握らせてきた。
このイヤリングは、2人だけの思い出の結晶の様なものだと思っていた。
アリスを想っている、印の様なものだと。
それを、アリスは今自分の掌に置いた。
「それと、これもかな。」
アリスが重ねて手のひらに乗せてきた。
夏休みに、海の家で互いに交換し合ったブレスレット。
まだ、アリスのことを全然知らなかった頃に贈ったもの。
「クリスマスプレゼントのぬいぐるみは…ごめん、今は持ってないや。」
「なん、で…?」
目の前で起こっていることを、理解できなかった。
アリスが自ら、2人の思い出となるものを掌に置いてきた。
「…持っていても、辛いから。」
アリスの瞳が、こちらをじっと見つめてきた。
少しだけ、潤んでいる。
「前の私は、なにをするにも躊躇いはなかった。」
再会したばかり…否、出逢ったばかりのアリスは。
楽しそうに笑っていても、どこか遠くを見つめているようだった。
どこか浮かない様な顔をした。
それが不思議で。
アニエスのことを知ってから、合点が行った。
アリスは誰であろうと売られた喧嘩は買った。
柳親子であれ、マリーの父親であれ、朝霧であれ。
喧嘩や賭けをすることに、何のためらいもなかった。
相手が危害を加えるなら躊躇しなかった。
「だから、大切な気持ちをくれた圭を大事だと想っているし、感謝だってしてる。」
何もしていない。
アリスは、自分に出逢ったことで救われたと思っている。
でも、それは自分にとってもそれで救われていたから。
アリスの隣が心地よかったから。
「でも、今は何をするにも痛みを覚える。出逢う前には覚えなかった痛みが。」
だから、辛い。
そう訴える様に、アリスは言葉に力を込めている。
「…圭には、自分の道を歩いていて欲しい。私は、圭が歩む道を阻害する。」
勿論私の道も、と小さく困った様に笑った。
アリスは、揺らがない。
それほどの意思と覚悟を持っている。
そんなこと…ずっと前から分かっていたのに。
「アニエスと言う存在は私を圭たちだけの世界から出してくれた。」
それから、ずっと目を逸らしてきた。
「圭は恩人だ。でも、私に痛みを与える敵でもあるんだ。」
キッパリと、断じる様に。
これが私の答えだ、と言わんばかりに。
「だから、もうそれはいらない。」
まるで、今まで積み重ねてきた思い出までも。
掌にいらないと、置いた。
目の前では、今までに見たことないアリスの笑顔が合った。
「互いの為にも、別れよう。」
- Re: 秘密 ( No.589 )
- 日時: 2016/04/27 22:49
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「呼び出してごめん。用件はそれだけ。じゃあねっ、圭。」
キッパリと言えた。
言ってやった。
「恩人で敵でも、これからも友達として付き合ってくれると嬉しいな」
イヤリングをしていた耳が、軽い。
思い出を1つ1つ剥いで捨てていったみたい。
痛いけど、身がとても軽い。
私は上手く笑えたか。
上手に切り捨てられたか。
「明日は、橋を越えるから。体調を整えとかないとね。」
きっと大丈夫。
私は変わった。
知ることは、変わるきっかけになった。
アニエスのことも、父のことも、知って良かったと思える。
なら、きっと大丈夫。
- Re: 秘密 ( No.590 )
- 日時: 2016/05/02 23:41
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「今日はカレー?朝から重たそう。」
でも、香ばしい匂い。
恐らくレトルトであろうが、レトルト文化は偉大だ。
「今日は珍しいですね。朝食を一緒にとるなんて。私は嬉しいですけど。」
3食きちんととる様に、と何時も万里花は言っていたからね。
席についたアリスがただ食事をするだけで、とても嬉しそうに笑っていた。
「いつもなら、そんなにお腹空かないんだけどね。橋の向こう行く時は食べる様にしてる。
それでも基本部屋に運んでもらうんだけどね。今日は特別。」
アリスは今日は楽しそうだ。
少なくとも、見ただけならそんな感じがする。
いつもは別々に食事をするのに、そこにアリスがいるだけで不思議な気分になる。
「たまに外で食べるのも悪くないですよね。」
万里花が言う通り、食事は基本何時も城でしている。
アリス曰く孤児院や橋の向こうでは、貧しい人がいて食べづらいんだそうだ。
確かに以前訪れた孤児院の子供たちは痩せていて、申し訳ない気分になる。
こんなレトルト食品でも、城にいるからこそ食べられるのだろう。
来客などが無ければ、基本的に食事はいつも質素で簡単なものらしい。
「それは言えてる。」
黙々と食べていた凛が同意する。
確かに、日中ずっと城にいる。
城で孤児院の子供向けのおもちゃや防寒具、絵本を作って過ごしている。
その作業自体は慣れてくれば、面白くなってくるし退屈はあまりしない。
エリスやアレクシスも出払っていたり、仕事をすることが多い。
どの道3人だけでは、外に出ても右も左も分からない。
「じゃあ、今日は遠征が終わったら外でお弁当食べよっか。
孤児院や橋の向こうは無理でも、王都や孤児院の手前の森でなら大丈夫。
王都からの声が聞こえて少し賑やかだけど、それはそれで美味しいと思うよ?」
朝食を食べると、アリスはいくつかの薬を飲んだ。
1月上旬のスキースクールから、アリスは薬を常備する様になった。
定期的に呑まないと、直ぐに体調を崩し最悪命を落とす可能性すらある。
そう言う体なのだ、と以前話していた。
副作用で眠くなったり、身体の節々が痛んだりすることもあるらしいが…
アリスはその素振りすら見せない。
1時間後、大きな弁当箱を持ったアリスと一緒に城を出た。
橋は孤児院の少し先の崖にある。
城から離れれば離れるほど、貧しくなっていく。
橋を越えれば景色が変わる、と聞いていた。
孤児院と訓練場にいる子供と遊んでいると、橋の準備が整ったと声が掛かった。
重い音を立てて、降りた橋を渡ると確かに景色が変わった。
ボロボロの家。
道端で倒れこむ人。
異臭が鼻を刺激し、王都に引き戻したい衝動に駆られる。
とても静かで、賑やかな王都とはまるで違う。
土地が全体的に乾いているのだろう。
植物があまり生えていない。
殺風景だ。
「水を引いて、畑を作ってる。あと少しで完成なの。」
エリス達が持っている大きな鍋や皿で、沢山の人に食事を配っている。
手慣れている様だ。
全体的に枯れた土地だと思っていたが、歩き周っていると少し離れた所に森もあるようだった。
「あの森には有毒植物も多いから。お腹が空いても食べちゃダメだよ。」
視線に気付いたのか、アリスが声を掛ける。
空腹で、有毒植物を口にした人がいたのだろうか。
有毒植物は、城に持ち帰り繁殖させようとしているらしい。
森で有毒植物は見かける度に、摘んでいるが流石に撲滅とまではいかない。
全部、アリスが事前情報として話してくれた。
けれど、実際に目にしてみると立ちすくんでしまう。
それでもエリスたちは躊躇うことなく、仕事に取り掛かる。
アリスとエリスで配膳、男手達は畑仕事。
配り終わると、エリスとアリスでそれぞれ町の人に話しかけた。
話は他愛もないことも多いが、話している人も楽しそう。
エリスはお手玉を4つも使って芸を見せていた。
アリスは知識を使って楽しそうに話していた。
2人と話しているおばあちゃんやおじいちゃんも、表情が柔らかい。
子供をあまり見かけないのは、子供たちは孤児院に移しているのでいないらしい。
ここにいるのは病人と、老人。
王都で暮らす財が無い人もいるが、この国を出ていく人も、少なくない。
兵になれば衣食住は保障されるが、こんな危うい国に残る人はいないだろう。
「『ケイタ…?』けれど、なにか違う。違和感が拭えない」
やがて、小説の一節だろうか。
なにかを読み上げ始めた。
アリスが読み上げ始めると、エリスはその場を他の人に任せて離れた。
「おーい、手が止まってるぞ少年」
長い金髪、中性的な顔立ち、細い体。
トールだ。
「…すいません」
バレンタイン以来の顔合わせだ。
後頭部にいきなり蹴りを食らったのは、今でも記憶に新しい。
「まあ、慣れないよな。でも、そろそろ出来そうなんだよ。
この種類の穀物は水が少なくても出来るし、保存もきくから。植えちまえばこっちのもんだよ」
けれど、それを異にも返さず躊躇いもなく話し掛けてきた。
苦手意識はあるが、人と話すのに躊躇いがない様でもあった。
トールの言った通り。
確かに、畑らしくなっている。
今なら、普通の野菜とかも育てられそうだ。
「仕事が不定期だし、来れるうちにやった方が良いじゃん?」
偶然にも今は人出が多くて、畑作りが想像以上に捗っているらしい。
普段はもっと少人数で、頻度も少ないらしい。
「畑が出来れば、もう大丈夫だ。何年も掛かったけど、やっとひと段落つく。」
畑と同時進行で水を畑まで引こうとしているらしい。
それももうそろそろ終わりだ。
「やっとこれで橋を降ろせるんだ。」
王都とここを隔てているのは、崖。
故に橋を使うしか出入りは出来ない。
飛行機などを使うか、橋を使い崖を越えなければアニエスからは出られない。
しかし、崖以上に貧困と病が橋を渡ることを憚らせる。
けれどもう大丈夫だ。
熱心な看病や、畑づくり、食料の配布。
何年も絶えず続けてきたからこそ。
やっと、橋を下ろすことが出来るのだろう。
彼らの手には肉刺が出来ている。
何度もつぶれた跡がある。
エリスは見た目が大事な仕事が多いので、パッと見怪我は無さそうだ。
けれど夜会や外征の後は決まってぐったりしている。
それでも笑っているのが、彼ららしい。
たかが数週間。
1月も経っていない。
けれど。
それでも彼らを知るには充分な時間だった。
彼らも、優しく微笑むことを知った。
決して楽に生きていける場所じゃない。
けれど、それでも毎日を精一杯生きている。
じゃあ、自分は?
トールも、アレクシスも、エリスも、アリスも。
ここで精一杯生きているのに。
覚悟を持って、生きているというのに。
- Re: 秘密 ( No.591 )
- 日時: 2016/05/03 00:29
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
城に戻ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
久々に外で食事をしたが、やはり外で食べるご飯は格別だ。
食事中はエリスやトールや幽も含めて、なかなかに面白かった。
彼らのする話には、聞いたこともない様な面白さと驚きが備わっていた。
見ている世界が違うのだと、痛いほどに痛感した。
アリスはアニエスに来てからはずっと部屋に籠っていた。
ここでしか読めない資料があるらしい。
早く、今までの分を取り返せるように毎日夜遅くまで起きている。
「よっ、八神圭くん」
廊下ですれ違った時、アリスは笑いながらそう挨拶した。
また何か作るのだろう。
赤い彼岸花を抱えていた。
避けられている。
あからさまに。
それほどに。
気付かぬ間に、それだけアリスを傷つけていたのか。
“痛みを覚える”“敵”
アリスは自分を憎んでいたのか。
アリスはアニエスと言う国も、父親も、もう憎んではいない。
逆に、祖国や父親の為に生きようとしている。
それを自分と言う存在が阻害している。
みるみる膨らむ、焦りと罪悪感。
アリスに問い質されてから、ずっと迷っていた。
アリスが自分にとって、どのような存在であるか。
恩人と言う気持ちを、錯覚しているのではないかと。
アリス以外に、拠り所になるものがない。
だから必死にしがみついていただけなのではないのか。
そう思うと、分からなくなった。
アリスに対する好き、は。
ただの依存だったのか。
アリスに自分の理想ばかりを重ねていたのか。
そしてもしかすると、その理想が彼女を苦しめたのか。
自分の理想が、アリスをありもしない少女に仕立てていたのだろうか。
10年前、なにも持っていなかった自分に。
人間らしさと言う、誇れるものがあることを教えてくれた。
あの頃から、ずっとアリスは特別な存在。
歌っているアリスは、とても生き生きしていた。
アニエスのことに迷い、苦しみながらも前を向いていた。
その姿があまりにも強烈で、目を閉じても鮮やかに浮かび上がってくる。
辛くても、必死に前に進もうと足掻く姿に魅せられた。
泣くこともあったけれど、すぐに涙を拭いて立ち上がる様な子だった。
そんなか弱く、それでも強くあろうとした姿に惹かれた。
今のアリスとは、違う。
ここでのアリスは、自分の役職を全うしようとしていた。
苦しみしか見いだせなかったものに、やっと光を見つけた様な。
アニエスから逃げて光ある平凡な世界で暮らすことだけを考え、生きていたのに。
今はまるで真逆。
アリスはもう、過酷な運命に翻弄されたか弱い少女ではない。
自分の意思で未来を決め、その為の道を迷わず突き進む。
嵐の様に強く激しい少女だった。
きっかけは、恐らく彼女の父だ。
アリスが、父の優しさに気付いたのは何時だったのだろうか。
父が、自分を苦しめた末に何を得ようとしたのか。
それを知ったのは。
そこから、アリスは祖国の為に生きる準備をしていた。
父の、不器用で残酷な優しさに。
アリスは何時頃から、気付いていたのだろうか。
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