コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 秘密
- 日時: 2020/07/02 17:37
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
ここは皆の秘密基地。
そこに響く彼女の歌声。
これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————
〜・目次・〜
序章
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138章
>>652->>655
作者の言葉
>>401
作者の言葉 2020.7.2
>>656
*参照10000 有難うございます*
これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。
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- Re: 秘密 ( No.632 )
- 日時: 2016/11/03 19:07
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
〜・133章 電話越しの叫び・〜
圭たちが涼風に戻るまで、あと数日。
携帯からはもう圭の連絡先を消去してしまった。
覚えているので、あまり意味はないけれど。
彼らが涼風に戻ってからは、連絡は取るつもりはない。
まだ雑用の雑用の雑用くらいしかさせてもらっていないけれど。
これからはもっと、仕事は増える一方だろう。
知ることをたくさん知って、やることをやらないといけない。
圭と言葉を伝えられるのは…あと少しだけなんだな。
母と別れた後、廊下でぶらぶらと歩いていた。
仕事に取り掛かろうと思ったけど、今日の分は終わってしまった。
それでもやることは多いけど、小休憩に余った茶菓子を取りに居間に行った。
クッキーを食べていても、甘くて嫌気がさしてきた。
胸になにかが突っかかっているみたい。
圭。
私は大好きだよ。
何時だって、頭に浮かんで胸が温かな気持ちで満たされる。
頭で分かってても、彼を求めてしまう。
けど、それだけでは駄目だと思ったから。
本当に好きだからこそ、離れて歩かないといけないと思ったんだ。
懐から、携帯電話を出す。
消去してしまったけれど、頭に残った番号を指で丁寧に押していく。
耳に当てると、不気味なくらい冷たかった。
「…圭」
- Re: 秘密 ( No.633 )
- 日時: 2016/11/06 20:14
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
部屋で眠っていた。
滞在するのも残り数日と言う所で、アリスのことを調べるのに忙しかった。
焦って、空回りして疲れてしまったのだろう。
携帯が控え目な音をたてていて、目が覚めた。
眠ったことにすら、気付かなかった。
アリスはこれ以上のことをこなしていると思うと、少し情けなくなった。
表示されていたアリスの名前に目を見張った。
最近はアリスとは距離が出来ていて、もう話すこともないと思っていたから。
『…圭』
電話越しに聞くアリスの声が、酷く懐かしい様な気がした。
本当は数日しか経っていないというのに。
「…アリス?」
『直接会うと…迷いそうだから…』
迷う。
その単語はいつものアリスにはあまり似合わなくて。
『でも、今伝えないと…もう話せない気がして…』
アリスも、迷ったりしているんだ。
そう思うと、少しアリスを身近に感じた。
やっぱり普通の女の子なんだと、再確認できたみたいで。
『圭とさ、出会えてとても嬉しかったんだ。それは嘘じゃないの。
エリスからずっと話は聞いていて、会えるのを楽しみにしていたんだよ。』
アリスはこちらの返事を待たず、言葉を続ける。
言葉にすることで自分自身に確認しているような。
噛み締める様に、ゆっくりと話す。
『圭に会えて…初めて私は変わることができた。優しくなれた気がするんだ。
圭を好きになって、良かったって心から思っている。でも…』
息を止め、吐き出すように告げた。
『やっぱり、私は圭の傍にはいられないよ。』
- Re: 秘密 ( No.634 )
- 日時: 2016/11/09 21:18
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「圭が大事だからこそ、私は圭に自分の汚い所や醜い所を隠していたい。
…いや、隠していたんだよ。気付かれたらどうしようってびくびくしながら。」
気付かれたら、傍にはいられない。
傍から離れていくのを、ずっと恐れていた。
距離をとることはあっても、それは心のどこかで彼らは私を見捨てないと信じていたから。
「私には圭しかいなかった。マリーやリンしか…3人しかいなかった。
3人が離れていくのは…本当に嫌だったんだよ。」
安らぎや癒しをくれた。
アニエスで生きていく息苦しさが、彼らの傍では何時も和らいだ。
「圭はさ…私にとって、創造主みたいなものなんだよ。
3人がいなかったら、私は今も…ううん、今なんて存在してなかった。
今の私は、間違いなく圭がいなければ存在していない。」
圭たちと出会う前は…本当に辛くて。
生きているのが、辛くてたまらなくて。
何処にいっても憎まれて。
蔑まれ、痛めつけられ、傷つけられた。
心を閉ざし、基地に逃げ、誰もいない所で。
覚えていない思い出を抱いて、歌った。
それでも耐えられない時何度も死のうとした。
生きる意味も理由もなかった。
そんな私にとって。
これから先1人になっても。
圭達と過ごした、何気ない日々は。
私に力をくれる。
「1人にならないためなら、例え圭が見ているのが昔の私でも構わないと思った。
それくらい、必死だったんだ。全身全霊と言っても良い。」
でも、次第にそれは苦しくなっていった。
段々それは私じゃない!と叫び出したくて堪らなくなった。
「圭が見ているのが…今の、醜い私じゃなくて良かった。」
圭の目には、神々しい女の子に映っていた。
慈愛に満ち、どこか危うげで投げやりながら、必死に誰かを守ろうとしていた。
そんな私はどこにもいないのに!
それでも…あの場所を失いたくなくて、必死で。
圭の傍にいられるだけで幸せだと、思いこもうとしていた。
「私は…アニエスで生きる上で、恋は命がけなんだよ。
命を掛けても相手を守ろう、愛そうって覚悟が必要なんだ。…エリスや、母みたいに」
母のように、一途に人を愛せるのが羨ましい。
相手のどんな過去や、どんなことをしっても…傍にいつづけて。
愛しつづけている。
「そうじゃないと、相手に危害が加わるから。生半可な覚悟では人は好きにならないの。
好きになっても、その想いを隠し続けて…伝えてからも、どちらだって命懸けだよ」
私が圭の傍を何度も離れようとしたのも、そういうことだ。
傷つけるのが、怖かったから。
「でも、圭にその覚悟を強制したくない。好きになったのは私なんだから。」
圭はまだ高校生だ。
私と違って、輝かしい未来がある。
可能性が無限大だ。
昔の私にばかり縛られて、今を見失ってほしくない。
そんなの、私も圭も救われない。
「こんなことに、命を懸けるなんて馬鹿げている。
圭の人生は長くて、まだまだ色んな事がある。私に付き合わせたくないんだ。
懸ける命は、私のだけで良い。圭と付き合って…気付いたんだ。
私は…、自分を偽って…苦しい想いをしてまで、圭の人生を狂わせたくない…っ!」
今の、ありのままの私を見せていないのに。
そんな私の為に人生を棒に振ってはいけない。
それほど無駄なことはない。
愚かで、無価値で、救われないことなど、ない。
「1人になるのが怖かったんだ。今まで付き合わせて、ごめんね。」
1人に戻るのが、怖くて。
でも、圭に隠しているのも辛くて。
八方ふさがりで。
それでアニエスに逃げた。
アニエスの為に生きたい、と思ったのも事実だったから。
丁度良かった。
『迷惑じゃ…なかったよ。アリスのこと、大好きだった。』
…圭達に去られるのが、どうしようもなく怖くて。
沢山嘘をついて、傍にひきとめてきた。
自分に嘘をつかせる圭のことを嫌いにもなったし、やはり愛しくもあった。
「圭と別れようって思ったのもさ、やっぱり甘えちゃうからだと思ったんだ。
何時だって欲しい言葉、優しい気持ちを分けてくれるから。」
私自身も気付かなかったような。
欲しい言葉も、気持ちも、温もりも。
全て分け与えてくれたから。
圭を想って、人を想うことの幸せさを身に沁みる様に感じた。
「本気で圭と一緒にいるなら、やっぱりアニエスから目を背けてはいけないと思ったんだ。
アニエスのことを本気で取り組むには、逃げようが向かい合おうが。
圭がいるのは、あまりにも不都合だった。」
初めは、記憶を消そうと思った。
アニエスの機密情報を宿した記憶を、私の中から消し去ったら。
私はもうアニエスにいる理由が無くなる。
そうでなくても、父が死んだらきっと逃げだせた。
けれど圭に別れを告げた後、家に投函されていた茶封筒。
その中には母からの手紙が入っていた。
手紙と言っても、まるで報告書の様な味気ない内容で。
父の辿ってきた足跡が、ただ淡々と綴られているだけだった。
それを読んでから、私は記憶を消して逃げ出す道を諦めた。
「父のことを知って、逃げてはいけないと思ったんだ。
アニエスにいる人は、みんないろんなものを切り捨てたり傷ついたりしながら。
それでも、本当に大事なものを失わない様にひたむきに頑張る優しい人ばかりだった。
私にはできることがある、私にしかできないことがある。」
それが、分かったから。
私が生きてきて、幸せを受け取り、悩み、苦しんだことが。
なにか意味を帯びてきた様な。
やっと使えるのだと、この為に使いたいと思えることに出逢えたから。
「1つ…聞きたいの。」
私にとって、とても大事なこと。
「圭にとって…圭が描く…私ってどんな女の子?」
- Re: 秘密 ( No.635 )
- 日時: 2016/11/14 20:01
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
『圭にとって…圭が描く…私ってどんな女の子?』
アリスはずっと、1人になるのが怖くて。
その為に全力で傍に引き留めようとしたことを詫びていた。
3人の存在が、どれほど大事だったか。
アリスの言葉からひしひしと伝わってくる。
そんなアリスを責める気など起きず、むしろ感謝することばかりだった。
それほどに大事に想ってくれる相手など、早々出会えない。
アリスの様な子に、二度と出会えない。
声が少し涙で湿っているような気がした。
「どこまでも他人思いで…優しくて…ちょっと意地悪で…
人見知りなところもあって、努力家で、いつも笑顔にしてくれる。
なにかあれば引っ張ってくれて、強気で、いつも一生懸命で…きりがないよ。」
『…私はそんなに立派な人間じゃない』
「えっ?」
ドスの利いたあまりにも低い声に、一瞬怯んでしまった。
『自分勝手だし、弱いし、他人を僻んでばっかりだし…そんなに立派な人間じゃないっ!』
突然発せられた大声に、耳を疑った。
あまりにも、いつものアリスと違ったから。
『圭には…私はそんな風に見えているんだ…』
そんな風に…?
『違うんだよ…私はそんなに凄い人間じゃないんだよっ!
私はもっと弱くて、醜くて、自分のことばっかり考えてて、周りを笑顔になんかできない!
もう頑張れない…頑張りたくない…もう私は…っ、笑えないんだよっ!』
あまりにも、痛々しい声。
辛くて、痛くて、我慢できないほど隠して、それでようやく吐きだした様な。
そんな声。
「…そんなことないよ。」
『そうなんだよっ!もうこれ以上隠していくのが、私は苦しいんだよっ!!』
吐きだされるアリスの言葉に、飲みこまれそうになる。
濁流の様に、もう止まらない。
今までずっとせきとめていた思いが、溢れだしていた。
『私は酷いこと、たくさんしてきたっ!それでも圭たちに嫌われたくなくて…
圭達の前では、圭たちが望む、強くて優しくて温かい…そんな私でいなければならなかったっ!
3人に嫌われるのだけは…それだけは嫌だったからっ!!』
アリスが必死に隠していたこと。
アリスと出会う前のこと。
それだけだと思っていた。
けど…アリスが隠さなければいけないことは、他にも合った。
そんなこと、思いもしなかった。
『スキースクールで…薬を飲み続けないと死ぬって告げられて…
私はそう言う体になったんだって、絶望したよ。でも、笑って誤魔化した。
圭は優しい言葉を…たくさん掛けてくれたよね…よく、覚えてる』
スキースクールの夜、屋根の上でアリスはそんなことを確かに話していた。
アリスはそれで良いの?と声を掛けると。
ボロボロと涙をこぼしながら、普通の生活に戻りたいと泣いていた。
『けど、いつ死ぬか分からない体になるのなんて怖くてたまらなかったっ!
薬を飲む度、死んじゃったらどうしようって…それでも、圭の前では笑って見せたっ!
圭の言葉は…本当に、嬉しかったし助かったよ…少し、軽くなったよ、確かにね。
けど、救われた後は何時だって笑っていなければいけなかったっ!!
何時だって何回も乗り越えられるほど、私は強くないっ!!』
アリスを助けたこと。
それを悔いたことはない。
アリスを救えなかったことを悔いたことは何度もあったけど。
『初めはまだ…耐えられた。圭たちがいれば、本当に救われたような気分になってた…
でも、どんどんエスカレートしていって…次第に駄目になった…
当たり前の様に立ち上がれるものだと思われて…でも、今更言い出せなかったっ!』
言葉を掛けて、傍にいて、支えればアリスは笑ってくれた。
それだけで、やって良かったと心から思えた。
けど、どこかでアリスのことを軽んじてはいなかっただろうか。
アリスなら、直ぐに乗り越えられる。
そういう強い女の子だとどこかで軽んじていなかったと、本当に言えるか?
『皆本当の私なんて見えていない…それでも、特に圭の傍にいるのは辛かった。』
急に、静かな口調になった。
吐きだす思いを吐きだし、半ばもう諦めたような…
疲れ切った口調だった。
『他の2人より…大事に想ってて…でもその分、嫌われたくないって想いが強かった…
圭はいつだって私のことを気にして…大事に想っててくれたから…
まだ辛い、これ以上助けて、なんて口が裂けても言えなかったっ!!』
血を吐く様な、痛々しい…
アリスの叫び。
『圭はよくやってくれた…私を救ってくれた…これ以上私の為に力を裂いてもらいたくなかった。
嫌いになって…もらいたくなかったから。圭が好きな私は、そんな私じゃなかった。』
そう言われて…なにも答えられない。
自分の中のアリスは…アニエスに縛られている弱い救わなければいけない、普通の女の子。
でも、なによりそこから足掻こうとする強い女の子。
きっと、なによりもそこに惹かれたのではないか?
『圭は…本当に凄い人だから…私が憧れる、強さと弱さを持っている人だから…
人の痛みに、どこまでも寄り添える人で…弱い所すら、愛おしかった…
私と一緒にいるだけで…楽しそうに笑って…それだけで幸せって顔をしてくれて…嬉しかった…』
だからこそ、アリスは抗いつづけなければいけなかった。
無理をしてまで、絞り出す様に、頑張り続けなければいけなかった。
癒しをくれる、大事な場所が…いつの間にか、苦しみを与える場所になっていた。
『黙って…から回って…逆恨み、こんな醜い自分を…隠しておきたかった…
でも、私はもうこれ以上頑張れないんだよ…私にはもう、なにもないんだよ…
これ以上、私からなにを奪っていくの…?そんなこと、言わせないで…っ!』
アリスは何時も頑張っている女の子だと思っていた。
自身が苦しんでも、他人が苦しんでいたら。
迷わず飛び込む様な。
その様子がとても危うげで時折心配になるけれど。
人の為に頑張れる子だった。
でも、その『頑張り』はアリスにとっては心を削る様な…痛みを伴っていたんだ。
『もう、本当の私なんて分からないっ!ただ、苦しくて辛くて…痛いだけっ!!
救いも安らぎも、どこにもないっ!!何が癒しなのかすら…私にはもう…っ!』
ずっと気付かなかった。
自分がアリスを想っていたのは。
アリスにとっては苦行でしかなかった。
『…ごめん、もうこれ以上言っても…嫌になるだけだから…もう、切るね』
大きく息を吸うと、震えた声でそう吐きだした。
返事を聞く前に、アリスはブツリッと電話を切った。
最後の最後まで…何も言い返せなかった。
- Re: 秘密 ( No.636 )
- 日時: 2016/11/23 21:12
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
〜・134章 今まで通りにはいられない・〜
電話を切った後も、ずっとアリスの声がリフレクションしていた。
アリスが放った言葉や、叫び。
それが時間が経つほど、胸の内で次第に膨らんでいった。
アリスは憎んでいたのだろうか。
気付かぬ間に理想ばかりを追い求め、押しつけ続けていた自分を。
それでも隠し続けなければいけなくて、黙って、痛みに耐え続けてきたのだろうか。
アリスは自分の本質を見てくれたのに。
母のことを調べ、母の最後に付き添ってくれた。
母と向き合うのが怖い自分に。
アリスは、弱くて迷って逃げてばかりいる自分を知っている。
だから、アリスには嘘はつけない。
アリスがいるだけで幸せそうな顔をしているって言うのは、本当だ。
どうしようもない安心感と、幸福感に満たされた。
でもそれと引き換えに…アリスは痛みや妬みが身体を蝕んでいった。
これから…アリスとどうやって接していけばいいのだろう。
傍にいても、傷つけるだけなのかもしれない。
そう思うと…やっぱり、今まで通りには笑えないのだろう。
知ったら、もう今まで通りに笑えない。
そのことも分かっていたから、アリスはずっと隠してきたのだろう。
だから、あんなに詫びていたのだろう。
1人になりたくない、そんな我が儘に付き合わせてしまったと。
別にそんなこと気にしないのに。
アリスが1人が恐ろしいというのなら、いくらでも傍にいるのに。
でも…それではきっと駄目なんだろうな。
傷つけあうことしかできないほど、自分たちは未熟だ。
好きになってもらわないと、息が出来ないから。
そんな想いが…いつだって、いつもアリスを追い詰めていた。
でも、これ以上アリスを縛り続けてはいけない。
そう少しでも思うのならば、もう…
コンコンッ
ノックの音が響き、返事を待たずにドアが開いた。
「なにしてるんですか?」
朝食を載せたであろう盆を持った、マリーだった。
活発さと、静かさを持ち合わせた女の子。
「…ちょっと…考え事」
「どうせアリスのことでしょう。ケイの頭は何時もそればかりですから。」
食事の席には、呼ばれて何度も行った。
けれど、食欲が湧かず結局残してしまった。
子供たちの為の玩具作りにも参加できなかった。
部屋に戻っても、眠気すら訪れなかった。
疲れ果てて、気付けば眠り、目が覚めて、数口だけの食事をし、また部屋に戻る。
そんな日が…もう何日続いただろう。
「そう…かもね」
でも、アリスのことは…なにも…見えていなかったな…
幸せだったのは、こちら側だけだったんだな。
アリスには、なにも与えられていないんだ。
「まあ、恋愛に迷いや衝突は避けられないですからね」
衝突、なんてものじゃない。
一方的に、吹っ飛んだようなものだ。
アリスが心をすり減らし、もう無理だというほど追いつめていた。
「でも、アニエスにいるのも残り少しですから。
アリスはここに残るそうですから、言いたいことはちゃんと話してくださいね。」
そう。
ようやく暇を得たアレクシスが同伴で、飛行機を飛ばしてもらえるのだ。
出席日数もあるし、自分たちが留まるべき場所に戻らなければならない。
アリスは自分の居場所を確認し、それは涼風ではないと決断したのだ。
早く…答えを出さなければいけない。
どこまでも幸せで…アニエスのことを片づけたら。
今度こそ幸せに生きていけるのだろうと信じて疑わなかった。
でも、アリスを苦しめていたのはアニエスではなく自分。
自分が強い女の子であるアリスに、憧れを抱いたから。
そんなアリスに惹かれたから。
アリスは頑張り続け、心をすり減らし、自分自身を嫌い、ぼろぼろになった。
1人にならない為に、アリスはどれだけの犠牲を払ったのだろう。
アニエスを除けば、アリスには3人いるあの場所しかなかったから。
その場所にしがみ続けるしかなかった。
アリスは、幼い頃はずっと牢で1人で育っていたという。
1人でいる辛さは、誰よりも知っていたのだろう。
「食欲はなくても、ご飯は食べてくださいね。思考力も、衰えますよ。」
パンッ、と目の前で掌を打ち合わせた。
その音に、一旦思考を途絶えさせられる。
「私にはきっと言えることはないから、せめて精一杯悩んでください。
応えてくれないことは…とても、辛いことですから。それは知ってますから。」
マリーは…長年、リンへ片想いをしていた。
それでも、想い続けとうとう実らせたのだから末恐ろしい。
リンがアリスを見つめている時も、傷付く覚悟で傍にいつづけた。
だからこそ、今があるのだと思う。
そういうマリーだからこそ、想っても想い返してもらえない辛さを知っているのだろう。
「後で、リンが食器を下げに来ますから。それまでに食べないと、口に突っ込みますよ。」
何時だってそうだな。
迷ってばかりいると、何時だって他の3人が励ましてくれる。
だから、ここはこんなにも居心地いいのだろうか。
でもそれは、とても美しいけれど、とても歪なようにも見える。
何時も他人がいて、困った時には支え合っている。
だから、なにかあると直ぐに弱ってしまうのだろうか。
1人で解決する力を、失ってしまうのだろうか。
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