コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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秘密
日時: 2020/07/02 17:37
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

ここは皆の秘密基地。

そこに響く彼女の歌声。

これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————

〜・目次・〜
序章
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138章
>>652->>655

作者の言葉
>>401

作者の言葉 2020.7.2
>>656

*参照10000 有難うございます*

これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。

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Re: 秘密 ( No.407 )
日時: 2014/09/14 14:08
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

私に出来ることはないだろうか。

そう思った。

これは本人たちの問題、と言いきってしまえば早い。

けれどその問題に苦しんでいるのなら。

私を助けてくれた彼らが困っているのなら。

助けたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リンの話に驚きと同時に納得をした。

今まで心に引っかかっていた疑問が解けた。

似たような境遇。

でも。

リンにはもう血のつながりがない。

母親は知らぬが、心通じ合う家族がいない。

助けたいな。

けれどどうすればいいか分からない。

幸い母には理由もあった。

けれど。

許せるか、と言われると良く分かられない。

きっとそう言ったものは簡単には決められないのだろう。

でも。

リンの母親がそう言ったものかは知らない。

それでも。

「飯、食いに行くか。」

母に怯えている姿はまるで昔の自分の様に映った。

自分はアリスに救われた。

ただ暴力と恐怖の化身だった。

そんな母も。

一人の母だった。

何もせずに死んでいくことを選んだ。

そんな最低な女だった。

でも。

振り返れば優しく。

恋をする一人の女だった。

「ラーメンでも奢ってやるよ」

とりあえず今は怯えないように。

傍にいてやることしかできない。

ははっ、と小さく。

珍しく笑った。

良く笑う様になった。

…マリーのお陰だな。

きっと母も。

父も。

こんな風に恋をする男女だったのだろう。

「…俺的にはたこ焼きが良いな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「んぐ?」

アツアツのたこ焼きをほおばる。

「マリーがたこ焼きなんて…珍しいね。」

歯に海苔が付く、とか色々言いそうだ。

「だからこそですよ。リンがいるところでなんか食べられませんからね。」

「…けどそのリンはそこにいるぞ。」

指を指す方にはケイとリンの姿がある。

丁度マリーの後ろだったので見えなかったのだろう。

振り返って2人の姿に気付くと慌てて食べかけのたこ焼きを食べる。

「…凛!」

そして何事もなかったように凛に笑いかけた。

2人の心は今不安に襲われている。

それなのに。

互いに支え合っている。

そんな関係は羨ましい。

でも。

「アリス」

今の私には圭がいる。

どんな不安に襲われても。

互いを支えあえる。

そんな仲。

そんな相手が。

私にもいる。

Re: 秘密 ( No.408 )
日時: 2014/09/19 16:36
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

「今日は、家で夕食でも食べていかないか?」

不安定なまま家に帰すのには少し気が引けた。

だからきっとそんな提案したんだろう。

何時もの別宅に連れて行く。

沢山の部屋が合って、その割にどの部屋も片付いていた。

生活では雑な所もあるのに、こう言った面では几帳面だ。

ご飯を食べるとテラスに出る。

何故だかテラスを出ると落ち着く。

それはアリスも思っているようで、何時も行くと先にいる。

それとも無意識のうちにアリスを追っているのだろうか。

「…少し抜けないか?」

その声に導かれ、連れていかれたのはアリスと出会ったあの屋敷。

アリスはそこを思い出の屋敷、と呼んでいた。

幼い頃の思い出の欠片が。

節々に見え隠れしているから、と少し照れたように笑った。

ぎぃっと重たい音をさせながら開いた扉は相変わらず少し硬かった。

けれどアリスは直す気はないらしい。

お金とか時間とかそういう問題ではなく、あの時のままにさせておきたいという趣向らしい。

けれど手入れだけは少しずつしているようで。

本は相変わらず散らばっているので実感はわきづらいが。

アリスを連れて来た時に比べれば少し空気が綺麗な気がした。

塗装もとりあえずはこのままにしておきたい、何時かはここの本も全て読みたいなど。

たわいのない話を。

実に楽しそうに話していた。

ここで全てが始まった。

アリスはここで母親との初めての対面をした。

そういった。

特別な場所。

階段を上って最上階。

大きなテラスを出ると夜の風が吹いた。

温かくて少しじめっとして。

少しだけ春の匂いがした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

開け放ったテラス。

そこへ足をいれると圭も後についてきた。

圭は嘘吐きだ。

圭を迎えに行ったあの家も祖母の家ではなく姉の家。

病院育ちでなく、孤児院育ち。

病弱ではなくただのたらい回し。

何時もなら見破れるであろう事実も。

過去のことなら記憶があいまいだ。

実際、3人がいなくなった日のことを覚えていない。

でも圭が付いた嘘って言うのはどれもあの2人を守るためのもの。

姉の話に触れれば、自然とリンもマリーも昔のことを思い出すから。

孤児院育ちもたらい回しも。

隠していたのはすべて2人が昔のことを思い出さないようにだ。

そう圭の口から聞いた時。

嘘吐きだ、と思ったと同時に。

優しい奴だとも思った。

「圭」

背後に立っている圭にもたれかかる。

それを圭は何も言わずに静かに抱きとめた。

圭は私に。

安らぎと安心を与えてくれる。

優しくて。

人の為になにかをすることが出来る。

何かをしたいと自然に思える人。

「絶対に…2人を助けよう」

うん、と小さく頷く圭の声。

愛しくて。

温かくて。

私に力をくれる。

「…不思議だな」

あんなに何も感じなかった世界が。

輝いて見える。

あの圭達が見せてくれた光の為なら。

どんな闇にだって立ち向かえる。

そんな気がした。

「昔は…星が…こんなに輝いてるなんて…思えなかったな。」

今だから。

きっと。

星は輝いて見えるのだろうな。

指輪をそっと撫でる。

母がくれた。

指輪。

それに圭のぬくもりがある。

「これからもっと輝くよ。」

そう答えた圭に。

うん、と小さく返した。

Re: 秘密 ( No.409 )
日時: 2014/09/26 19:33
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

〜・78章 凛・〜

雪白凛。

その名前は今の引き取り先の名字。

白雪は彼の母親の名字。

彼は学校では雪白を使っているようだが、時々白雪と言う名字を使う。

そこには彼が昔のことを忘れないように。

戒めとして名乗っているような気がした。

そんな凛に恋をした。

そのことに後悔はしなかった。

私も似たような境遇だった。

それに何時も強がっているけれど、本当は寂しがりやで自分に自信がない、人間らしい一面も持っている。

何もかもを1人で出来るけど。

時折見せる人間らしい弱さや儚さ、そしてそれでも持っている強さや優しさに惹かれた。

凛に見合う人になりたいと一生懸命足掻いた。

凛が私と恋人になれて良かった、と思わせたかった。

何時も傍にいて。

その声が聞こえる場所にいて。

凛と一緒に生きていたかった。

それが叶わないことが辛いことはとっくの昔から知っている。

凛の為に何かをしたい。

私は凛の恋人として。

でも…

私がやってはいけないのだろう。

私は凛の背を押すだけ。

そうでなければまた何度でも繰り返してしまう。

私は凛の恩人になりたい訳じゃない。

凛を救いたい。

だから背を押すだけにとどめる。

それ以上のことをしてはいけない。

けど、どうやって解決すれば良いかの検討もつかない。

どんな時にどんなふうに背を押せばいいのか。

私には分からない。

そんな自分に嫌気がさした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

母親の身元を割り出すのは難しくない。

けれどわざわざ呼び出して、それで何をしようと言う。

理由があるにしても、それを知って本当にリンの傷は癒えるだろうか。

けれど放っておく訳にも行かない。

忘れかけていた過去を揺さぶられ、不安定だ。

金色の髪をいじりながら、ポツリとこぼす。

「…詰まったな」

こう言う話はとても危うい。

きっと完璧な正解などない。

だからこそ難しい。

実力行使…というのも無茶だ。

腐っても母親だ。

独断専行でそこまでやるほど人の心の機微に疎い訳ではない。

リンは母とどうなりたいか。

それが最も優先すべき基準点だ。

殺したい、などと言われると単純だが。

そうきっぱりと答えられはしないだろう。

人の心と言うのは面倒なものだ。

外野として見ている分にはもどかしくて鬱陶しい代物だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アリスは人の機微に鋭そうな感じをもっているが実はそうでもない。

まだ感情も心も知って1年だ。

朝霧の件の様にいじめグループを壊滅に追いやっても、何も抱かない。

きっとリンが母を殺したい程憎んでいると知っていれば。

きっと殺してしまう。

それほどに不確かで危ういものなのだ。

Re: 秘密 ( No.410 )
日時: 2014/10/31 20:11
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

考えて考えて考えた。

でもやはりよく分からない。

過去のトラウマとか。

母による虐待とか。

そう言ったものを考えても。

その気持ちを私は理解できない。

私はもう昔のことを覚えていないからかな。

圭達にはアニエスの技術で過去のことを忘れていると思われているだろう。

けれど違う。

朝霧のことを覚えていて、圭達のことを覚えていない。

つまり3人と一緒にいた時に、忘れるにたる記憶があるという事だ。

圭達のことは資料で目を通し、覚えた。

エリスは4人で遊んでいたことを知っていたようだった。

だからこそわざわざ資料を集めてきたらしい。

だけど会った時。

不思議と懐かしい気持ちに襲われた。

その気持ちに従って傍にいると。

次第に惹かれていった。

だからこそ力になりたいと思った。

分からないことを理解しようと。

知らぬことを知ろうと。

頑張ってきた。

でも。

やっぱり知ろうとするだけで。

完璧に知ることはできない。

もっと知りたい。

知って。

何の変哲もない女子高生になりたい。

凛と万里花の友で圭の恋人。

ただそれだけの存在に。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

またなにか悩んでいる。

アリスはよく考える。

今の場所にいようと、頑張っているのだろう。

必死に考えて。

必死に悩んでいるのだろう。

「アリス」

ん?と小さな声を挙げながら顔を挙げる。

「…ああ、圭か」

「考え事?」

ん〜、と伸びをしながらアリスは答えた。

「まあな。」

何を考えているかなんて決まっている。

口を出来る限りださないように、と思っていた。

出来ることがあったら言ってね、と声をかけようと思った。

「圭…文理選択どうする?」

「へっ?」

文理選択。

文系か、理系。

「えっとね…文系かな。得意科目とか好きな教科を考えて。」

「私も文系にした。」

へぇ、と思わず声を漏らしてしまった。

知っている限りアリスはどの教科にも単元としてしか興味は示さなかった。

どの科目が好きだとか、そう言ったのは聞いたことがなかった。

「将来、心理学について学ぼうと思ってる。」

心理学に興味があるなんてこれっぽっちも知らなかった。

そして。

アリスが将来の話をするのも。

初めてだった。

「将来…か…」

考えたこともなかった。

文理選択も得意な科目、苦手な科目を踏まえて決めただけ。

「ゆっくり考えればいい。今の内に悩めるものは悩んでおいたほうが良い。」

なりたいものなんて特にない。

卒業しても普通に就職して普通に働けると思っていた。

やりたいこと…か…

「いざとなったら私がお嫁さんになって養ってあげる、ってのもありだね♪」

ボッと体温が跳ね上がる。

「ちょっ…!」

「耳まで赤くなって…冗談だよ。半分。」

半分は本気ってことじゃん。

全く…

くすくすと笑いながら平然と言ってのける。

こちらがどんな気持ちになるのかも知らずに…

将来。

アリスはちゃんと隣で笑っていてくれる。

そう思わせてくれる。

アリスの将来はまだ分からないのに。

明るい様に想わせてくれる。

「まっ、考えて悪いことはない。」

アリスがどれほどの覚悟で将来のことを口にするか。

何も深く考えていないのかもしれない。

考えたうえで口にしたのかもしれない。

訪れないかもしれない未来を。

アリスが未来とちゃんと向き合うなら。

逃げる訳にはいかない。

ちゃんと向き合おう。

「リン達はきっと…理系だろうね」

確かに。

リンは医者のせがれだし、マリーも金銭をいじるなら理系の方が都合が良いだろう。

でも今のままじゃ…

「あの2人も…こんな風に未来について語り合ったのかな。」

きっと語り合っただろう。

2人は何時だって一緒にいた。

きっとアリスと交わした言葉の何倍も語っただろう。

「ちゃんと向き合わないとな…」

「一緒に頑張ろう、アリス」

1人じゃない。

1人で頑張る必要なんてない。

「…ああ!」

2人の未来の為に。

4人の未来の為に。

Re: 秘密 ( No.411 )
日時: 2016/04/20 01:36
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

「万里花」

自分の名を呼ぶのは己の恋人。

軽く見上げた位置に顔がある。

いつもと同じような。

でも。

何時もより暗い顔で。

口にした。

「連いてきてほしいところがあるんだ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

情けない、と思った。

手紙1つで。

ここまで周りに心配をかけてしまう事が。

「ここだ」

因縁深い。

何度も悪夢の様に頭にこびり付いた。

全てが始まった場所。

「ここは…」

うん、と小さく頷く。

「母と暮らしていたアパートだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もう蔦がアパートの壁のあちこちに張り巡らされている。

もう随分放置されているのか窓も使えないくらい蔦が這っている。

今はもう誰も住んでいないらしい。

近くに民家もない。

今にも崩壊すれすれって感じがする。

ここで…

ギシギシと嫌な音がする階段を上り、一番隅の部屋の前に凛は立ち止った。

「…ここだ」

ここからじゃ凛の顔まで見えない。

でも声は。

少しだけ。

震えていた。

ドアノブを掴む。

その手も。

震えている様に見えた。

いや。

震えようとしているのを我慢しているような。

そんな風に。

私の眼に映った。

そっと手を添える。

大丈夫。

傍にいる。

今の凛には私がいる。

どんな凛にだって付き添い続ける。

例え凛に。

どんな過去があっても。

どんな辛い目に遭っていたとしても。

「私は凛の傍にいると…決めたのです。」

どんなことがあっても。

隣で。

「凛と…一生を寄り添って行きたいと…思った時から。」

幼い。

あの頃から。

ずっと。

「そしてそれは、今も変わりません。」

ドアノブが回り。

何年も開けられなかったであろうドアが。

開いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドアを開け放った。

そこには。

何もなかった。

拍子抜けするくらいに。

何も思わなかった。

一歩部屋に入る。

分厚く積もったほこり。

敷かれているボロボロのカーペット。

それらは。

記憶の中にあったものと符合する。

けれど。

何も感じなかった。

ここにいた。

そうはっきりと思えた。

ここで死にかけて。

ここで死んだ。

少なくとも。

精神的に、は。

「あは、は…」

不気味な笑いが己の口から洩れる。

「なにもなかったんだ」

もう、ここには…

なにもなかった。

人も。

物も。

想いさえも。

なにもなく。

空っぽだ。

「…全く」

唇の端を歪ませて。

醜く笑った。

「相応しい死に場所だよ。」


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