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秘密
日時: 2020/07/02 17:37
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

ここは皆の秘密基地。

そこに響く彼女の歌声。

これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————

〜・目次・〜
序章
>>1->>3

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作者の言葉
>>401

作者の言葉 2020.7.2
>>656

*参照10000 有難うございます*

これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。

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Re: 秘密 ( No.402 )
日時: 2014/10/23 20:35
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

震えが止まらなかった。

母はいつも自分が存在しない空気のごとく振る舞っていた。

いても暴力をふるったり、ずっと無視したりするだけだった。

ある日、母は帰って来なかった。

けれどその方が安心できた。

殴られることも無視されることもない。

母は段々と家に戻らなくなった。

それに引き換え、窓から外に出て色んなところに行った。

母から遠くに。

ずっと遠くに。

けれど。

やっぱり戻ってしまう。

傍にいなくても。

恐怖としてずっと根付いている。

走って走ってたどり着いた先が秘密基地だった。

ひとけがなくて。

なんだか落ち着く。

母は相変わらずほとんど帰って来なかった。

時々帰ってきて食べ物をもって帰るだけだった。

けれど。

やはり母のことを考えてしまう。

自分勝手で。

どうしようもない母。

それでいて。

何処まで遠くに離れても。

忘れることが出来ない存在。

「…君もここにはよく来るの?」

ふと隣を見上げれば見知らぬ。

年もさほど変わらないであろう女の子が経っていた。

「…靴、あなたも家に忘れちゃったの?」

みれば女の子は裸足だった。

自分も靴など履かずに来た。

「君も…?」

彼女は何のためらいもなく隣に座った。

「うん。私もよくここに逃げてきちゃうんだ。」

照れ笑いの様な。

少し控え目な笑みを見せた。

みれば服はどれも高そうなのに引き換え、裸足で寒空の下コートすら着ていなかった。

ぎゅるる〜と場違いにも腹の虫が鳴った。

ははっ、と小さく笑うと女の子は持っていた箱を差し出した。

「家から持ってきたの。一緒に食べよう。」

弁当箱の様で開けると自分で詰めたのかぐちゃぐちゃになった米が入っていた。

鮭の切り身らしきものや昆布らしき物の残骸があった。

ぐちゃぐちゃながらお握りらしい。

既に冷えているのか米の匂いはそこまでしなかった。

けれどもう随分ご飯を食べていない。

冷蔵庫の人参やじゃが芋を生で齧ったこともあった。

けれど次第に減っていった食料。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

母は帰って来なかった。

女の子に促されるまま米をかきこんだ。

冷たくて。

固くて。

味気なかったけれど。

今までで一番おいしいご飯だった。

彼女は隣で笑っていた。

食べ終わると礼とともに謝罪をした。

すると彼女は笑って答えた。

「人といっしょに食べるのはひさしぶりで楽しかった!それにいつもよりご飯がおいしく感じられた!!」

同じだ。

家に居場所が無くて。

ずっと外に居場所を求めていた。

「また…たくさん練習するから…!…また食べてくれる…?」

そうやって2人は出会って。

次第に集う様になった。

それが後の4人の秘密基地になることも。

2人が恋人になることも。

2人はまだ知らなかった。

Re: 秘密 ( No.403 )
日時: 2016/04/20 01:19
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

母はいつも暴力をふるっていた。

父はいつもいなくて。

いるはずなのに。

まるでいないみたいで。

仕事が忙しいらしい、と言う事は幼い私にも理解ができた。

しごと、と言うのは嫌だな。

お母さんが泣くのは見たくないな。

そんなことを想っていた時もあったかもしれない。

でも今思い返せば。

辛くて。

苦しい。

地獄の様な日々だった。

私の命は母の心1つだった。

母はほとんど家から出なかった。

人に会いたくないらしい。

けれどそんな私にも安らぐ場所があった。

長い階段を上りきった先。

小さな小屋があった。

誰も使っている様子がなかった。

しかもその近くには小さいながら公園があった。

母の目を盗んではそこに行き、家で詰めてきた冷たくてまずいご飯をほおばっていた。

けれど行くと時々1人の少年が先にいた時があった。

何度も見かけるようになった。

声まではかけはしなかった。

とても人見知りだったのだ。

けれど彼はとても痩せきっていて、まるで骨と皮でしかできていないようで。

持っていた弁当を差し出したいと何度も思った。

ある日、野良猫と戯れていると少年が現れた。

慌てて小屋の中に隠れた。

幸い少年は気付かなかったみたいだ。

少年は公園のベンチに腰掛けると野良猫を手招きした。

膝の上に飛び乗った猫を抱いて彼は笑った。

表情がないと思っていた彼の表情が優しくなった。

愛しそうに。

猫を抱きしめていた。

そんな表情も出来るんだ。

やせ細った体。

寒々しい足。

何時も寂しそうにしていた彼の表情が和らいだ。

その表情は無邪気で、少年らしさを含んでいた。

結局その日は声をかけることはできなかった。

でも、次に会ったらきっと…

声をかけよう。

「…君もここにはよく来るの?」

きっとあの笑顔を見た時から。

きっと既に凛に救われていたんだ。

凛は私に笑いかけてくれた。

私のお弁当を食べてくれた。

大好きって気持ちを教えてくれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

母は家を出ていき、私は孤児院と連れて行かれた。

他の男と結婚したらしい、と風の噂で聞いた。

何度も私を殺しかけたのに。

あっという間にいなくなった。

父、と言うものは何の前触れもなく私孤児院に連れていった。

育てられない、と。

見捨てられた、と思った。

何もしてはくれなかった。

どんなに虐げられようと。

傷めつけられようとも。

見て見ぬふりをした。

母がずっと私に向けた、火のつくような激しい憎しみに満ちた眼差し。

私はそれに一人耐え続けた。

孤児院に連れていかれてケイに出会った。

ケイは優しくて思いやりが出来る少年だった。

色々と気があって彼なら基地に連れて行ってもいい、と思った。

ケイは何処からかアリスを連れてきた。

4人の基地となった。

けれど私はアリスが嫌いだった。

凛はアリスだけを見ていたから。

アリスは圭だけを見ていて。

圭はアリスだけを見ていた。

私なんて誰も見ていなかった。

でもやっぱり。

アリスのことも好きだった。

嫌いにはなれなかった。

しかし6年前3人は揃って遠く離れた町の孤児院へと移送された。

大人の事情、と言うものらしい。

今言うなら単なるたらい回しだった。

厄介な過去をもつ子供を誰も引き取りたがらなかった。

孤児院のことを隠していた私たち3人は何も言わず、アリスの前から消えた。

正式には、言えなかったのだ。

帰ると荷物がまとめられていて、そのまま連れて行かれた。

再会してからケイはアリスに嘘を吐いた。

初めて会った場所は病院ではない。

病弱であの町に行った訳でもない。

ただ、そんな昔の話を知られたくなかった。

孤児院で育ったと言えば、必ず事情話や話さなければならないから。

それは嫌だったから。

着いた嘘に嘘が被さった。

知られたくなかった。

けれどアリスがいなくなって少しだけ。

ほっとしてしまった。

それがずっと許せなくて。

そんなことをほんの少しでも思ってしまったことが恥ずかしくて。

・・・恋をしたら皆卑怯で汚くなるよ・・・

凛に打ち明けると彼はそう答えた。

その顔は笑っていた。

その言葉にまた、救われた。

どうやらその頃の凛は私がずっとケイを好きだったと思っていたらしい。

何処までも鈍感な奴だ。

でもそんなところも好きだと思ってしまうのだから、恋はすごい。

中学に上がるとようやく父は迎えに来た。

おぼろげにしか覚えていない、父という存在は母が死んだ事を告げた。

不思議と、嘘だと思った。

あの人が死ぬなんてあり得ない。

けれど、本当だったら。

私の事を憎みながら、怨みながら、死んだに違い無い。

孤児院から連れ出すと礼儀や作法を叩きこまれた。

ケイもお姉さん、と言う人が迎えに来て家に戻った。

けれど凛だけは。

誰も迎えに来なかった。

やがてリンも病院の院長のところの養子となり、3人で涼風に再び戻ってきた。

それからは長かったようで短かった。

アリスに救われ。

凛に救われ。

3人に救われ。

父と向かい合えた。

父は私を救うために母と別れたのだと、今更の様に気付かされた。

全てが上手くいっていた。

楽しかった。

春も。

夏も。

秋も。

冬も。

4人でいられたことが。

それなのに。

突然メールが来た。

会いたい、と。

どうして母は、私の希望を。

私の大切なものを。

ことごとく奪ってしまうのだろう。

Re: 秘密 ( No.404 )
日時: 2014/09/04 00:29
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

遅い。

リンとマリーが約束の時間を30分も回っているのに来ない。

あの気まじめな2人が遅刻とは珍しい。

30分前に来ていてもおかしくないというのに。

「…お待たせしました。」

遅い、と一言文句を言おうとした。

けれどマリーの表情を見てやめた。

紙の様な顔で笑っていたから。

ケイも同じことを想ったのか何も言わなかった。

「えっと今日は確か…場所決めからだっけ?」

リンもいつもと違って声のトーンが少し上がっている。

空元気、という単語を連想させた。

いらつく。

けれど以前の私もきっとこんな感じだったのだと思うと怒るに怒れない。

パチンッと指を鳴らす。

「予定は変更だ。」

こんな状態で遊んでも仕方がない。

楽しめないなら単なる金の無駄だ。

「圭、そっちは任せる。私はこっちをやる。」

「了解。」

流石。

分かっている。

「えっと…その…」

マリーの手を掴む。

「そんな顔で笑うな。笑えない時は笑わなくていい。」

マリーの手を引くととりあえずその場を離れた。

リンに関しては圭に任せて大丈夫だろう。

マリー達の力になりたい。

かつてマリーも同じように手を引いてくれた。

だから今度は私の番だ。

今度は私がマリーの手を引いてやる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

連れて来られたのは喫茶店だった。

訳が分からないまま連れて来られたので状況の整理が出来ない。

・・・そんな顔で笑うな。笑えない時は笑わなくていい。・・・

なんだかアリスらしい言葉だった。

私の手を引いたアリスの手には迷いとかそう言ったものはみじんも感じられなかった。

アリスにだって不安や迷いだってあるはずなのに。

私のことに関して全くない。

助けたい、その一心しかないのだろう。

そう言ったところが羨ましい。

「アリスは…凄いですね…」

「何が?」

ティーカップを口元に運びながらさらり、と答える。

「…私はそんなに簡単に全てをかなぐり捨てて人を助けることなんてできません。」

「怖いよ。」

何事もなかったように言って退けた。

聞き逃しかねないほど何気なく。

「私は何も持ってなかった。」

ことりっとティーカップをソーサーの上に戻す。

「きっと昔の私なら人を救う事に興味などなかっただろうし、失うものがないから何も怖くなかった。」

本当に何気なく。

穏やかに笑って。

アリスは答えた。

「けど、圭達と出会って初めて失う事が怖いって思ったんだ。」

私も。

リンと出会うまでは。

きっとなにも大事になど出来なかっただろう。

「だけどその怖いって思えるのも、3人のお陰だから。」

凛に貰ったもの。

ケイに貰ったもの。

アリスに貰ったもの。

「失う事にビクビクするより胸を張っていたいから。そう思えるのも3人のお陰だから。」

だから、とアリスは続けた。

「今度は私が皆に返したい。胸を張って誇れるように。」

やっぱり。

アリスには敵わない。

そう思わざるを得なかった。

だって私はアリスに何もしてない。

凛の視線を集めようと憎んだことだってあった。

「私も万里花みたいに。人の為に何かをしたいから。」

…けどやっぱり嫌いにはなれなかった。

やっぱりアリスも好きなんだ。

「…当然です。」

ずっと4人で笑っていたい。

それなのに私だけぐじぐじしていたらせっかくのアリスの想いが台無しだ。

「じゃあ聞いてもらいましょうかね…私と凛の昔話を。」

Re: 秘密 ( No.405 )
日時: 2014/09/06 17:43
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

〜・77章 わたしにできること・〜
話した。

何年も前の。

凛と私の話を。

アリスは黙って聞いていた。

アリスの表情を読むのは難しい。

時々何を考えているか分からない顔をする。

それでも。

色んな事を話して。

友の話。

恋の話。

そんなものを交わして。

些細な表情の変化は分かる様になった。

そんな私でも。

私の知らないアリスの顔がある。

「あんなに殺しかけたのに。…どうして母は私に会いたいんでしょう…?」

分からない。

自分の手で直接人を殺めたことも。

憎まれたこともないから。

敵意を浴びたこともないから。

「私は…マリーのお母さんを知らないから良く分からない。」

アリスは特別な事情があって。

少し変わっている。

だから。

分かるのかもしれない。

私には分からなくても。

アリスには。

「でも…万里花は…どうしたい…?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

敵意を浴びたことも。

憎まれたことも。

人を殺めたこともある。

どれもこれも心は痛まなかった。

心がなかったのだから。

でも今は違う。

今人を傷つければ私の心は痛む。

もうだれも殺めたくない。

そう思える。

でも。

マリーとリンの話を聞いて。

過去は清算されないと、思い知らされた。

私が傷つけた分だけ。

その人の奥深くまでその恐怖は根付き、離れることはない。

それはまるで2人の母親の様だった。

2人の恐れや憎みは。

彼らの母とともに。

私に向けられているような気がした。

「…私は…まだ…会いたくないです…」

それもそうだ。

会っては今の生活を崩されてしまう。

「そりゃそうだ。」

チリンとティーカップの端を指で弾く。

「…でも、心構えだけはしておきなよ。」

会いたい、と言うのだ。

いつ来ても大丈夫なようにしておかないと。

今この瞬間でも。

現れても可笑しくないのだから。

Re: 秘密 ( No.406 )
日時: 2014/09/13 18:03
名前: 雪 (ID: .KVwyjA1)

リンは昔から口数が少なくて。

自分のことを話したがらない。

表情が組めないところ。

物静かで。

聡明な所。

なんだか少しだけアリスに似ていた。

唯一親友、と言うべき相手だった。

相棒、と言ってもおかしくはない。

性格は違うけれど。

隣にいて、とても心地いい相手だった。

会ったのは偶然、孤児院で同室になったからだった。

体中に痣があったけれどそれについては何も言わなかった。

同室のマリーにも同様の痣が合った。

そして自分の首にも合った。

だからあえて何も聞かなかった。

嫌なことを思い出させたくなかった。

いや、自分のことについて触れられたくなかったからかもしれない。

ともあれ、事情はさほど詳しくない。

けれど。

雨の日を嫌う傾向。

アリスのお母さんの話をした時の顔。

マリーの父と対面した時の態度。

雨の日に、母親に関する何かがあったんだ。

そしてリンの父は何もしなかったんだ。

そう直感的に思った。

同じ。

3人は似た者同士だった。

一緒に過ごしていた。

3人を気味悪がって遠ざける大人たち。

けれど3人だからべつに怖くなどなかった。

そう思っていたような気もした。

アリスに出会った時も何時も1人だったから。

孤独を共感し合える相手だった。

3人が4人になった。

けれど毎日楽しくやっていた。

今思い返すと懐かしい、と思えるくらいに。

ずっとあの頃のままだったら、と思えるくらいに。

突然施設を変えることになったのだ。

帰ると既に部屋はなく、荷物だけが玄関先に捨てるように置かれていた。

アリスに別れを告げることも出来なかった。

再び3人に戻った。

元に戻っただけ。

けれど1人欠けた。

元々表立ってはいなかったが恋愛関係のギクシャクはあった。

それが丁度良かった、と思う一方やはりどこか寂しかった。

そこまでいたはずの奴がいない。

そんなことをきっと。

2人だって思っていたと思う。

それからは元の様に過ごした。

何かが欠けている。

それでも平穏を装って。

元の様になれる。

きっと。

だってもう誰も欠けない。

欠けた相手はもう二度と欠けないのだから。

それなのに。

差は明確に生まれてしまった。

ある日、姉と名乗る女性が迎えに来たのだ。

そしてマリーも同様に父から迎えが来た。

リンだけは。

誰も迎えに来なかった。

結局引き取られた先でも上手くはいかなかった。

マリーは父親に虐げられ。

自分も姉とそりが合わなかった。

けれどリンの前でその話をすると決まって寂しそうな笑みを浮かべる。

いつしか互いにその話題を出さなくなった。

中学校も同じ学校に進学したが、話す回数も次第に減っていった。

マリーとリンが付きあったというのにさほど驚きはない。

2人は何時だって一緒にいた。

同じ苦しみを受け。

それでも傍にいて、2人を支えあった。

アリスもアリスでリン達と正面から向き合った。

アリスに釣り合う相手になりたい。

そう願っていたはずだ。

「もう、逃げない。」

アリスの傷も。

マリーの傷も。

リンの傷も。

全てを知って。

苦しまないように支える。

それが簡単なことではないことは分かっている。

けど。

アリスはそういう事をさらっとやってしまう人だから。

隣に並びたいから。

「聞かせてくれ。」

10年たっての。

大きな一歩。

10年前に出会い。

6年前に別れた。

心と心。

迷わないで。

一歩を踏み出すよ。


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