コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 秘密
- 日時: 2020/07/02 17:37
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
ここは皆の秘密基地。
そこに響く彼女の歌声。
これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————
〜・目次・〜
序章
>>1->>3
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137章
>>648->>651
138章
>>652->>655
作者の言葉
>>401
作者の言葉 2020.7.2
>>656
*参照10000 有難うございます*
これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。
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- Re: 秘密 ( No.542 )
- 日時: 2015/09/25 17:39
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
トントン
定期的なノックの音で、作業の手を止める。
「ごめん、用事が出来ちゃった。」
作業の途中の編み棒をマリーに託す。
顔を出さないようにしたのは、あいつらしい。
人の気持ちには、見た目に寄らず聡い。
部屋を出て行こうとした時、3人が心配そうな目を向けた。
「大丈夫。もう前みたいなことにはならないよ。安心して。」
父の所に行って、入院沙汰になったのだ。
そこで心配する気遣いは、実に彼ららしい。
「あの…アリス…っ!」
呼び止めたのは圭だ。
はあ、とわざとらしく溜め息をつく。
「なに?」
「行かない…で、欲しい…」
違う。
間違ってる。
これは、私が好きな圭じゃない。
私は圭の全てが好きだ。
いまさら、嫌いになれないということを私はどこかで気付いている。
でも、違う。
このままだと圭は…
私の意思のままにしか動かなくなる、操り人形だ。
「圭、少し来て。話したいことがある。」
部屋から連れ出すと、ひとけがない所まで連れてきた。
部屋を出る時に扉の前には誰もいなかったことから、きっとノックをしてすぐに立ち去ったのだろう。
私が直ぐ行くことが分かっていたから。
刃向かわないことを、分かっていたから。
「私は今圭の恋人ではない。ここには私がすべきこと、出来ることがある。」
「やっぱり心配…っ!」
圭の言葉を黙らせるように、口に人差し指を添える。
圭は驚きに満ちた視線を向けた。
…分かりやすい
そんな圭も、好きだよ。
「私がやらなくてはいけないことを、見つけたの。」
この国に、留まる理由を見つけた。
誰かの意思ではなく、自分の意思で。
この国を変えたいと、願った。
「そして、それはここでしかできないこと。だから私はここに来たの。」
この地を守っていくこと。
アリアの様な子どもたちを、守っていくこと。
「私が好きになった圭は、温かくて優しくて、人間らしい弱さと強さを持っていた。」
圭の当たり前すぎる人間らしさに、圧倒されて、惹かれていった。
何処に行っても。
何時だって迎えに来てくれたし、そのことに救われもした。
圭が掛けた言葉に、胸の内が穏やかで温かい気持ちで満たされた。
大好きだった。
その気持ちも、伴う痛みも、圭が教えてくれた。
私の言葉に救われたって、言ってくれたことは本当にうれしかった。
私にも人を救えるんだって、飛び上がりそうなくらい嬉しかったんだよ。
でも、私はいつまでも弱いままじゃない。
圭に会って、人としても成長した。
圭を好きになって、変わったんだ。
「私はもう弱くない。圭にはもう沢山救ってもらった。だから、もう心配しなくていいんだよ?」
圭の中の私はまだ弱いまま。
そして、弱い私に恋をして、依存している。
私はもう、父のことを恐れていない。
アニエスに戻ることに怯えてもいない。
圭たちと離れ離れになっても、また会うことができると信じられる。
「圭、自分のやりたいことを見つけて。私だけを糧にしないで。」
- Re: 秘密 ( No.543 )
- 日時: 2015/11/19 17:45
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
アリスを救いたい、救わないと。
そんな小さな世界に圭を閉じ込めるのは、あまりにも勿体ない。
圭は強くて、カッコ良くて、忍耐力もあって。
悲しいことが合っても、人の為に笑う様な性格で。
損な性格をしているのに、それを恥じずに貫いている。
それが凄く心配だけど、なによりの武器でもある。
誰にも平等に、分け隔てなく接することが出来て。
何より、優しくて温かい。
誰よりも素敵な人。
だから。
私を守ることだけを誇りにしないで。
圭は世界の広さや希望を見せたいと言ってくれた。
圭も、もっと広い世界を見て。
私がアニエスのことを向き合った様に。
圭も、自分の未来と向き合って。
このままじゃいけない。
一生圭の手を握っていたかった。
その気になれば、きっとそれは実現できたかもしれない。
けれど、そうすることは圭の為にはならないと気付いたのだ。
圭と一緒にいる喜びよりも、圭に輝かしい未来を与えたい。
私がいることに安堵し、自分の力で歩きだすことを拒絶してしまう。
私といることで、彼の未来を閉ざす。
それに気付いてしまった。
圭の涙を拭っているだけでは、圭は弱くなる。
大丈夫。
「もう、沢山の希望を見せてくれた。」
圭のことを、きっと私はまだ好きだ。
やっぱり愛おしい。
「私は私のところでやることを見つけた。圭も、圭の場所で頑張って。」
もう弱くない。
圭のことを思えば、傍にいられなくても強くいられる。
私は圭のことが好き。大好き。
でも、圭は違う。
圭は、私の強くて綺麗な所ばかり見ている。
「圭は、私の意思を尊重してくれる。私の為に色々なことをしてくれる。
でも、自分の為には何もしない。それが私は嫌。」
目の前に映っている圭の世界が、私だけみたい。
以前の私ならそれを、微笑ましく嬉しくすら感じただろう。
もう、何処にも行かないと喜んでいたかもしれない。
私はもう1人で歩ける。
その強さを、くれたのは圭。
圭の両頬に手を添えて、目を真っ直ぐと見据える。
「圭、もっと私を見て。私はもう弱くない。強い。
それに、私の美しい所だけを見ないで。勝手に美化しないで。醜い所も見て。」
しっかりと私を見て。
圭に見せる面だけで判断しないで。
「それを受け入れて。そうなって初めて圭は私を好きになってるんだよ。」
綺麗な所だけ見て、好きなんて都合が良すぎる。
私が抱える問題を、もっと見て。
「それを踏まえて自分の為に何か行動をして。
それが、圭の好きの証になるはずだから。今の圭はそうじゃない。」
ぱっ、と手を離す。
「私達は、付きあうのに早計過ぎた。」
強い自分も、醜い自分も、見せて来なかった私も。
やっぱりどこか幼かったのだろう。
圭が離れていくことに、怯えていた。
「自分の気持ちと向き合って。ちゃんと相手をよく見て。そして自分の為に行動して。」
醜い部分を見せて、圭が離れて行っても。
私は、圭を好きになれて良かったと笑いたい。
思い出をくれてありがとう、と。
圭は私を救ってくれたのに、救えなくてごめんねと。
「私は私の場所で頑張れることを見つけた。圭も、自分の場所でやりたいことをやって。」
そう言う恋をしたんだ。
だからこそ、多少辛辣なことを言ってでも。
圭を変えたいと願うの。
「…だから、今の圭は…あんまり好きじゃない。」
- Re: 秘密 ( No.544 )
- 日時: 2015/10/11 16:10
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
〜・111章 エリスの叫び・〜
私達は、どこか相手ばかりを想っていた恋をしていた。
圭を危険な目に合わせたくない。
アリスを守りたい。
そんな思いばかりを交わしていた。
お互いの本質を、見ることを忘れてまで。
互いが美化し合い、醜さや相手の気持ちを無視してきた。
私はもう助けはいらない。
「…ごめんね」
圭が見せてくれた世界は、キラキラしていた。
世界が光り輝いていて、些細なことでも心が躍った。
誰かと一緒の帰り道や、心配されることが嬉しいことだと初めて知った。
「私は圭が、大好きだったよ。けど私の気持ちよりも、自身の気持ちを尊重して。
私は自分の意思でここにいたいの。ここにいる未来を描きたいの。」
圭がくれたものは、眩しくて私の胸をいっぱいにしてくれた。
その光を、この場所で。
誰かと分かち合いたい。
「…圭のすべきことは、私を追うことじゃないよ」
私は圭の背中を見つめて、追いつきたいと願っていた。
でも、なにも圭と同じ道を歩く必要はないのだ。
別々の道を歩いても、道は何時か交わるのだから。
「夕食には戻るね」
どんなに暗い道でも。
これが私の選んだ道。
こんな道でも。
圭と道が交わることを、夢見ることが出来る。
- Re: 秘密 ( No.545 )
- 日時: 2015/10/16 16:50
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「…不快?」
圭と別れた後、私は来た道を引き返した。
角をまがった所には、腕を組みながら壁にもたれかかったエリスが待っていた。
エリスのことも、調べた。
昔の私なら何も思わなかった。
今の私は違う。
「…別に」
軽く唇をかむ様な仕草。
これはエリスの稀に垣間見える癖だ。
そして、昔絶った筈の癖。
「…私には、関係ないことだしね」
エリスは…辛いことを経験してきた。
この国にいる人は皆そう。
アレクシスも、トールも、エリスも…父も、アリアも…
崖の先には病が流行り、そこをまた崖によって隔離されている。
こんな狭い国で、それだけで生きていくのは大変なことだ。
城を出て、エリスと隣を並びながら歩く。
「橋がそろそろ下りる時間だよ。」
崖を越えるには、一番楽に行く手口は橋を下ろすことだ。
それが一番手っ取り早い。
「私は、のぼるから。気にしてない。」
崖をのぼって出ていくことも出来る。
決して、楽な道筋ではないけど。
それが一番、アニエスからの脱出に使われる手段だ。
エリスはトレーニングの為に、といって崖をのぼって行くのはもう何時ものこと。
崖の先では、病人と貧しい人しかいない。
誰かが餓えていたり、寝込んでいたり、道端に倒れている。
それが、日常。
「今日は、美味しいご飯を持ってきたぞ。」
数日に何回か、食事を持って来て体を洗ったりしている。
病を隔離するために王都には近づかせることはできないけど。
心苦しいが毎日は無理なので、数日に1度の食事。
死んでほしい訳ではないのだ。
「今日は日本名物、天麩羅だよー☆」
崖をのぼってきたくせに、エリスの息には乱れがない。
普段からやっていて、慣れているのだ。
「それに、お浸しにみそ漬け、味噌汁、お握り!山菜のフルコース!!」
山菜は意外にそこらに生えている。
分別や、川の汚れなどに注意を払わないといけない。
けれど、その気になれば歩いてでも取りに行ける。
初心者は無闇に取ってはいけないけど、その点は心配ない。
魚や海藻も分別が出来る。
ちゃんとした野菜や肉を食べさせられないのは、心苦しい。
けれど、食べられるだけマシだ。
「やっぱり、人出は多いに限るね。」
人数が多いので、食料を配り体を拭いたり、薬草を配布したり。
何時も少人数で立ちまわるから、1人増えただけでも助かるのだ。
病人を担いだりすることはできないけど、自分の知識で人を救える。
「知っていますか?空が青いのは…」
診察や食事を配布しながら、薀蓄をこぼす。
そうすることで、少しでも意識を痛みから逸らせるように。
輪になっている真ん中に立ち、様々な話題を振る。
「何か聞きたいことはありますか?」
毎回真ん中に立つと、周りに質問を仰ぐ。
分からなければ、次回までの宿題。
何も質問がなければ、知っている本を読みあげる。
「『牛肉なんて久しぶりだな。豪勢だ。』『いや、残り物で済まないな』」
話のジャンルはバラバラ。
ファンタジーも恋愛ものも、友情ものも、バトルものも。
正確に読みあげる。
1冊も読み切るのには時間が掛かる。
大抵は1章辺りで切り上げて、次回への持ち越しとする。
こう言う時、この記憶能力を持っていて良かったと思う。
物語は好きだけど。
それを余すところなく、存分に振る舞うことが出来る。
「撤収、終わったよ」
「ん、後13分くらいで終わるよ。薬草でも集めてて。」
時間配分も正確に済ませられる。
この能力のお陰だ。
私の力で、存分に人を笑わせられる。
「南に暫く行った所にまだ沢山ある。少し残しつつ、採集して。」
お金がなくても、知恵と工夫と乗り越える。
土地が乾き、作物を作りづらい。
けれど、それでも育つ植物は育つのだ。
食料を節約した分、国事に回す。
飢え死にする、と言うほどでもないが食料は大事にしないといけない。
贅沢をすることはできないのだ。
「では、明後日。また聞きたい話、考えておいてください。」
お年寄りも割と多い。
色々な話を聞いたりするのも、為になる。
お祖母ちゃんやお祖父ちゃんってこんなかんじなのかな、と思う。
色んな話を聞かせてくれて、それがとても斬新だ。
「また、話を聞かせてください!」
毎回こうやって、手を振りながら橋を戻って行く。
初めは侮蔑の表情もあったそうだが、食べ物の配布をすることで少しは信頼関係を得られてきた。
私が今まで怠ってきたこと。
見ることを忘れたこと。
少しでも、追いつきたい。
私の理想に少しでも近づきたい。
トールやエリスは、もうとっくの前に打ち融け合っている。
彼らは、何時も誰とでも仲良くなれる。
それは決して、良いことばかりではないといのに。
それが本当に、彼らの意思でやっているのだろうか。
本当に、楽しくて笑っているのだろうか。
- Re: 秘密 ( No.546 )
- 日時: 2015/10/21 17:15
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
夕食を嗜んだ後、部屋にも戻らずにふらふらと歩きまわった。
圭とは顔を合わせたくない。
リンやマリー達がここにいることは、少し居心地が悪い。
少しずつ頼ろうと思っていたけど、いざそのチャンスが回ると。
声をあげて、逃げたしたくなる。
もっとも。
私は今ここでは仕事がない。
正式に王を継ぐ訳でもなく、帰れない。
父とは早くその話をしないといけないのに、まだ顔を合わせてはいない。
いつ部屋に行っても、いないのだ。
考え事をしながら、歩いていると廊下の真ん中にエリスが立っていた。
どこかに出かけるのか、何時もより着飾っていた。
「アリス、なにが必要だと思う?」
廊下の隅に置かれていた、植木鉢を指差した。
廊下には色々な種類の植木鉢がぎっしりと並べられている。
花の道を連想させる。
葉だけのものがあれば、花が咲いているものもあれば、実を付けているものもある。
名前を書いていないから、何がどの種類か分からないようにしてある。
「…アデニウムかな。」
少し離れた植木鉢を指差す。
艶やかで美しい花を指差す。
毒を含む花で、呼吸系の機能を麻痺させる。
煮詰めて武器に塗れば、使える。
「煮詰めておくよ。そろそろ無くなりそうだっただろう。
まだいくらか在庫はあったと思う。出掛けるなら、そっちを持っていけ。」
台所で、水や鍋を借りないとな。
仕事がないのだから、こう言う所では役に立ちたい。
いくつか花を摘み、腕に抱え込む。
台所へと歩を進めると、途中で見慣れた髪飾りを見掛けた。
貸した寝巻のワンピースに身を包み、ルームシューズを履いていた。
長い髪が綺麗で、出逢った時から付けている花の飾りが髪を彩っている。
植木鉢に触れようとしたマリーの手を抑える。
「これは…ミクラフギ。綺麗だけど、毒があるよ。」
ヘタに触れて、何かの拍子に口にしてしまっては取り返しがつかない。
「正体はケルベリンというアルカロイドの配糖体で、食べるとすぐに作用する。
胃が少し痛むなと思った後、静かに昏睡し、心臓は動きを停める。それ全て含めて3時間以内。」
城内にはこう言った有毒植物を育てている。
何時でも使えるように、ちゃんと手入れもされてある。
「ここにあるものには下手に触れない方が良いよ。」
山菜やお茶になる葉もあるが、圧倒的に毒が多い。
その他にも、薬草を植えている。
自然の力は偉大だ。
「食用、薬用、暗殺用、毒殺用、拷問用、その他もろもろあるからね♪」
エリスの口からさらり、と物騒な単語が零れてきた。
こう言う所では、オブラートには包まない。
「殺っ…」
「エリス」
声に圧をかけて、放つ。
マリーの前で、そんな話をしてほしくない。
冗談にしても質が悪い。
悪質だ。
「この程度のこと、隠してどうするの?そんなんだから、アリスは弱いんだよ。」
「何が言いたいの?」
エリスの視線がいつもと違い、鋭くこちらを真っ直ぐと見つめていた。
いつもなら、こちらを見ているようで見ていない。
そんな目をしていたのに。
「言葉の通り。大事なものを作るのはご立派だけど、過保護すぎ。
あんたが犠牲になるのではなく、彼らも成長すべきでしょ。」
「分かってるよ。」
苛々する。
私だって、何時までも自分を犠牲にしたくはない。
自己犠牲しか知らなかったあのころとは違って。
私だって、少しは彼らを頼ることを知った。
「なら、この現状は何?今でも彼らだけ安全な場所にいるのに?」
「彼らにはまだ早い。でも、少しずつは彼らにも…!」
元々日常にいたのだ。
それをいきなり、こちらの世界に引きずり込むのは危ない。
それでも、少しずつ…
重荷を分け与えようと、アニエスにも滞在させている。
「少しずつじゃだめなんだよ!あんたには時間がないの!!
これ以上のんびりしている暇は一秒たりともないんだよ!!」
突然発せられた、大声。
それに私は一瞬思考回路が途絶える。
私の中にいるエリスとは、あまりにも違うから。
「分かってんの?あんたはこのまま、あいつ等と同じ末路を辿りたいの!?
あんたに残された時間は決して長くないの!!」
その言葉を聞いた瞬間。
プチン、と私の中の何かが切れた。
「エリス!!!!!!」
腕に抱え込んでいた花が、バラバラと滑り落ちて床に転がる。
鮮やかで美しくて可憐な花。
でも、その内面には毒を抱えている。
歌っている時でも、こんなに大きな声を出したことがない。
喉の調子を慮らない、叫び方。
「…それは言わない約束でしょ」
胃に残っていた全ての酸素を吐きだしたような。
息が出来なくて、それでも精一杯声を絞り出した。
彼らのことを、そんな風に引き合いに出して欲しくなかった。
どんなに愚かと罵られようと、彼らを侮辱するのは許さない。
エリスにとって、大事な人達だから。
トール、アレクシス、私よりもずっと。
ずっとエリスの中では大きい存在だ。
「…ごめん」
ふう、と息を吐く。
自分の気持ちを落ち着くように、と。
「…私こそ、大声出してごめん。」
気付けば、圭とリンもいる。
大声を出したから、聞こえてしまったのだろう。
何処から聞いていたのだろう。
「…煮詰めておくから、…早く、行け」
ああ、気分が悪い。
それはきっと彼らに、聞こえてしまったから。
やっぱり、こちら側のことは知られたくない。
そう、思ってしまったことに。
これ以上一緒にいたら、何をしでかすか分からない。
「…話は今度だ。」
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