コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 秘密
- 日時: 2020/07/02 17:37
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
ここは皆の秘密基地。
そこに響く彼女の歌声。
これは彼女と彼女を取り巻く皆の物語———————
〜・目次・〜
序章
>>1->>3
1章
>>4->>6->>9->>14->>21->>22
行間
>>23
2章
>>28->>35
3章
>>42->>52
行間
>>53->>55
4章
>>56->>62
5章
>>92->>96
6章
>>97->>100
行間
>>101->>102
7章
>>103->>107
8章
>>108->>112
9章
>>113->>117
10章
>>118->>122
11章
>>123->>127
12章
>>128->>132
13章
>>133->>137
14章
>>138->>142
15章
>>143->>145
16章
>>146->>149
行間
>>150
17章
>>151->>154
18章
>>155->>159
19章
>>160->>163
20章
>>164->>168
21章
>>169->>172
22章
>>173->>176
23章
>>177->>180
24章
>>181->>185
25章
>>186->>189
26章
>>190->>193
27章
>>194->>197
28章
>>198->>202
29章
>>203->>206
30章
>>207->>210
31章
>>211->>214
32章
>>215->>218
33章
>>219->>223
行間
>>224
34章
>>225->>228
35章
>>229->>232
36章
>>234->>237
37章
>>238->>241
38章
>>242->>245
39章
>>246->>249
40章
>>250->>254
41章
>>255->>258
42章
>>259->>262
43章
>>263->>266
44章
>>267->>270
45章
>>271->>274
46章
>>275->>278
47章
>>279->>282
48章
>>283->>286
49章
>>287->>290
50章
>>291->>294
51章
>>295->>299
52章
>>300->>303
53章
>>304->>307
54章
>>308->>313
55章
>>314->>317
56章
>>318->>322
57章
>>323->>326
58章
>>327->>330
59章
>>331->>334
60章
>>335->>338
61章
>>339->>342
62章
>>343->>346
63章
>>347->>350
64章
>>351->>354
65章
>>355->>358
66章
>>359->>362
67章
>>363->>366
68章
>>367->>371
69章
>>372->>375
70章
>>376->>379
71章
>>380->>383
72章
>>384->>387
73章
>>388->>391
74章
>>392->>395
75章
>>396->>399
76章
>>400->>404
77章
>>405->>408
78章
>>409->>413
79章
>>414->>417
80章
>>418->>421
81章
>>422->>425
82章
>>426->>429
83章
>>430->>433
84章
>>434->>437
85章
>>438->>441
86章
>>442->>445
87章
>>446->>449
88章
>>450->>453
89章
>>454->>459
90章
>>460->>463
91章
>>464->>467
92章
>>468->>471
93章
>>472->>475
94章
>>476->>479
95章
>>480->>483
96章
>>484->>487
97章
>>488->>491
98章
>>492->>495
99章
>>496->>499
100章
>>500->>503
101章
>>504->>507
102章
>>508->>511
103章
>>512->>515
104章
>>516->>519
105章
>>520->>523
106章
>>524->>527
107章
>>528->>531
108章
>>532->>535
109章
>>536->>539
110章
>>540->>543
111章
>>544->>547
112章
>>548->>551
113章
>>552->>555
114章
>>556->>559
115章
>>560->>563
116章
>>564->>567
117章
>>568->>571
118章
>>572->>575
119章
>>576->>579
120章
>>580->>583
121章
>>584->>587
122章
>>588->>591
123章
>>592->>595
124章
>>596->>599
125章
>>600->>603
126章
>>604->>607
127章
>>608->>611
128章
>>612->>615
129章
>>616->>619
130章
>>620->>623
131章
>>624->>627
132章
>>628->>631
133章
>>632->>635
134章
>>636->>639
135章
>>640->>643
136章
>>644->>647
137章
>>648->>651
138章
>>652->>655
作者の言葉
>>401
作者の言葉 2020.7.2
>>656
*参照10000 有難うございます*
これは自分の案を組み合わせて作ったオリジナルストーリーです。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124
- Re: 秘密 ( No.517 )
- 日時: 2015/04/29 17:01
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「なるほど…ね」
やけに多彩な表情を浮かべると思った。
エリスの常に笑顔と少し似ている。
世界そのものを笑っているような。
平和な世界を嘲笑する様な。
どこか大人びている。
彼女は私を憎んでいるのだろうか。
私の代わりに。
アリスと言った名を名乗らされ。
父にとっては。
彼女はただの代用品でしかない。
代用品を準備する準備周到さは、実に父らしい。
けど。
アリスは1人でいい。
私の代わりなんていらない。
私は瞬間記憶能力と、完全記憶能力を兼ね備えている。
そしてこれは、後天的な学習は出来ない。
どちらにしろ生まれ持った能力だからだ。
彼女には私の持っていないものを持っている。
そう言った点では私の方が劣っている。
けれど、直ぐに奪ってやる。
どんなものでも、見ただけで奪える。
それは私の長所だ。
ただ、覚えるだけじゃない。
見た物の要点をすぐに抑え、それの実行を早める。
勿論出来ないことだってある。
でも、頭の中で反芻し続ければ。
常人より早く習得できる。
実際に出来なくても、知識として吸収して弱点を見破る。
それだけの圧倒的な経験がある。
覚えるだけでは絶対に出来ない。
この頭の回転の速さは母譲りだろうか。
これから、父と話す機会が増える。
元の生活には、もう戻れないだろう。
解散すべきなのかもしれない。
部活も、ItemMemberも。
学校すらも、退学した方がいいかもしれない。
日常に、戻れるかさえ。
私には分からない。
「私には、やるべきことがある。」
何度も、言い聞かせるように繰り返す。
今、投げ出すわけにはいかない。
色恋に囚われている暇はない。
「私の日常なんてどうでもいい。」
何時もの様な。
迷い等含まない。
純粋な気持ち。
どうしても、知りたいことがある。
それなら、圭たちとの日常がどうでもいい。
そう思えるんだ。
「…圭達も」
否、…少し違うか
圭たちとの未来を考えるために、どうしても知りたいんだ。
決別するか、一緒にいるか。
私はいつもそこで迷う。
そこで圭の弱さにつけ上がってしまう。
自分の弱さに挫けてしまう。
初めての気持ちだったから。
私には簡単には答えも出せなかった。
恋愛感情なんて、私はまだ早かったのだろうか。
化け物だってことを、圭の前では忘れていた。
今の圭とは距離を置きたい。
もう迷わないために。
「なにもかも」
私はもともと、真っすぐだ。
圭たちと出会う前は、何の覚悟もなく。
ただ、言われるがままに行動した。
人を傷つけ、ただ淡々と殺めた。
でも、いざ好きに考えていいと言われると。
何をしていいか分からない。
何がしたくて。
何が好きで。
何のために生きるのか。
分からなかった。
なにも出来なかった。
今はただ、知りたいことがある。
これからやりたいことを見つけるために。
前は、自分の世界を守るだけで必死だった。
圭たちだけしか目に映っていなかった。
「…どうでもいいって思えるんだ」
でも、今はそれ以外にも目に映る。
遥や朝霧はそのいい例えだろう。
今は、父やアニエスも視野に入る。
私の世界がいかに小さいか、思い出させる。
圭たちだけの世界。
なら、もし圭がいなくなったら…?
死だけじゃない。
ただ、圭が私への想いが無くなったら。
途絶えたら。
私は、なにも無くなってしまう。
以前は必死に守ろうとしていた。
でも、他にも守らなければならないものがある。
やらなくちゃいけないことが、私にはまだある。
私は圭に向き合った。
でも、圭はまだ本当の意味で私と向き合ってはいない。
なにがあっても。
圭達への想いは消えない。
彼らは弱くない。
私がいないくらいで崩れるほど、脆くはない。
「これって進歩?それとも退化かな?」
だから、なんだって犠牲に出来る。
あれだけ嫌だったアニエスへの帰省も。
軽く、許容できるし。
圭たちを置き去りにしたことも、全く気にも止まらない。
これだけ離れても、私は彼らの無事を祈れるほど強くなった。
瞼を閉じれば、すぐに脳裏に浮かぶ。
彼らを置き去りにしたことに、何の罪悪感もない。
探し回って、心配しているだろう。
携帯だって着信が入っているだろう。
でも、これで彼らを傷つけてでも。
彼らが壊れないと分かっているから。
だからこそ、私は彼らを傷つけられる。
彼らは優しいから。
私がいなくなったら、きっと悲しむ。
彼らは人間すぎるほど人間らしい。
「…どうだろ」
進歩であろうと、退化であろうと。
私はもう戻れない。
優柔不断は私の欠点だ。
世間知らずで初めての気持ちにあっちこっち、曲がってばかりだ。
けど、もう迷わない。
突き進むよ。
父に刃を向けるのは、私しかいないのだから。
- Re: 秘密 ( No.518 )
- 日時: 2016/05/08 06:34
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
その頃、涼風では。
何時もと何かが違う。
違和感がある。
校門を過ぎたくらいから、そんな違和感を感じていた。
ポンッと肩に手を置かれる。
何時も通りアリスだと思って振り返った。
けれど…
「おはようございます、圭先輩」
「幽ちゃんか…」
軽音部の後輩。
赤いリボンが印象的で、とても見目麗しい少女だ。
足も腕もスラリっとしているし、綺麗に整えられている。
マリーやアリスに並ぶほどの、美貌だ。
マリーは洗練された物腰、綺麗に長く伸ばされた栗色の髪。
道を歩けば誰もが振りむく、華やかさと明るさを持った少女。
アリスも髪をちゃんと梳かせば、もっと綺麗になると思う。
金髪が目を引く、氷のようなスッキリした綺麗な顔立ち。
幽は黒髪の、大和撫子といった感じだ。
人見知りをしそうな、穏やかな雰囲気を纏う少女だ。
「幽でいいですよ!…2人きりの時はアリスでもいいですよ?」
小さく背伸びをして、囁いてくる。
行動の1つ1つが危なっかしい。
「大丈夫だよ、アリスはアリスしかいないから」
ムスッと表情を曇らせる。
アリスも、これほど人間味が溢れていたらいいな。
いや、溢れさせてみせる。
「ご一緒しても構いませんか?」
幽は自分に気があると言ったが、何処まで本当か。
答える前に、もうすでに隣に並び始めている。
そう言った強引さは軽音部の女子特有のものなのだろうか?
「アリス先輩は?」
「それが、まだ来てないみたいで…寝坊かな?」
電話をかけるが、コール音ばかりが帰ってくる。
念の為にもう1度掛けて見るが、結果は一緒だ。
「…変だな」
「忌引きでしょうか?」
そんなはずはないと思うのだが…
事情を知らない幽にすれば、そう考えるしかできない。
けれど、アリスを知っている人間なら。
誰もが1つの発想を抱く。
嫌な考えの1つでも、思い出させる。
「…どうかしましたか?」
眼前に幽の顔が現れる。
覗きこんでいる様だ。
肩のところで切り揃えられている黒髪が、揺れた。
「ちょっと、家に行ってくる」
また、家に火を付けられた?
それともアニエスに向かった?
エリスの姿も見えない。
アレクシスも、最近は姿を現していない。
アリスが薬によって命を繋ぎとめていることを、知っている。
定期的に薬を飲み続けないと死んでしまう。
そう言う体に改造されていることは、スキースクールの時から分かっていた。
アリスの重要性を考えれば、殺しはしないとアリスは言った。
けれど、薬がなにかの間違いで切らしてしまったら?
今、動けないまま倒れ伏しているかもしれない。
「えっ…」
鬱陶しい。
鞄をその場に置いて、走り出す。
彼女とは今、恋人でもなんでもない。
けれど、その名前を聞けば体が動く。
「待ってください、圭先輩!」
前に即座に回り込んで、通せんぼをした。
急いで足を止めた。
見かけによらず、足はかなり早い様だ。
自分でも少し早い自信はあったのだが。
「…私が確認をしておきます。だから、圭先輩は教室に向かってください。」
「…けど」
事情を知らない彼女を巻き込むことには抵抗がある。
けれど、彼女は先の答えを封じる様に口早に答えた。
「圭先輩はアリス先輩の恋人ではないのでしょう?
もし寝坊だったとしたら男の人が突然家に行ったら、驚いてしまいます。」
恋人ではない。
その言葉がグサッと胸に刺さる。
彼女としては無意識だったのだろう。
「…だから、同性である私が行きます。」
「それでも…!」
やっぱり巻き込みたくないという思いはある。
初めてできた後輩だ。
こっち側に踏み込ませたくない。
アリスが抱いている想いって言うのは、こういうものだったのかな。
ふと、そんなことを思った。
「差し出がましい様ですが!!」
大きな声が、幽の口から投げ出された。
予想外の声に思わず、黙ってしまう。
「…すいません」
と小さく答えた。
「今から、礼を欠く様なことを言います。でも、本音です」
どうにも読めない少女だ。
普段は大人しく、名前の通りに幽霊の様に無口だ。
話をしていても、声は落ち着いている。
大声を張り上げる様な少女だとは思えない。
聞き上手と言うのだろうか。
誰かの好みに合わせるのが上手なようだ。
「…圭先輩、おかしいですよ」
そういうと有無を言わせない様に、校門を出ていった。
何も言えなかった。
けれど、少なからず少女は核心を突いていた。
おかしい。
昨日アリスが言っていたことを思い出した。
・・・圭の優しさ以外も見てみたい・・・
優しさ以外?
彼女は、どんな思いでその言葉を口にしたのだろう。
優しさ、以外。
そんなもの、出す必要がなかった。
けど、幽が言っている様に。
きっとこれは、おかしいことなのだ。
アリスの気持ちを知りたい。
どうしてそう思ったのか。
どうして、それに気付かなかったんだ。
・・・私達のしていることって、本当に恋愛なのかな?・・・
分かんないよ。
分からない。
どうしてアリスに惹かれたのだろう。
アリスは温もりを分けてくれた。
彼女の為なら何でもしたいと思う。
そう思うこと自体が、何か歪んでいるのだろう。
難しい。
恋愛って言うものをするには。
僕たちは。
俺たちは。
あまりにも特殊な状況にいた。
あまりに無知だった。
人と温もりを分け合う方法。
苦しみを分かち合う術。
なにも。
知らなかった。
- Re: 秘密 ( No.519 )
- 日時: 2015/05/04 15:51
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「圭先輩。」
教室に訪れたのは昼休みが始まってすぐだった。
「…幽」
何をそんなに疲れ切った顔をしているんだか。
いなくなってたったの1日じゃないか。
苛々する。
「朝は失礼なことを言ってすいません。
少し、お話をしたいのですが…何時も通り屋上でお食事をしましょう。」
何時も、彼らが屋上で食事をしていることを知っている。
何度かその食事の席に、呼ばれたこともある。
だから、知っていてもおかしくはない。
屋上に呼び寄せたはいいものだが、どうやって切り出そう。
まっ、本題から行くのが一番良さそうだ。
「…心配しないでください。アリス先輩は無事ですよ。
ただ、少し悪性の風邪を引いてしまった様で病院に向かうようです。」
「…そっか」
どこか変化がない。
安心したようでも、疑っている訳でもなさそうだ。
「朝のことは本当に申し訳なく思っているのです。」
「…気にしなくていいよ。図星かな、って思ったし。」
私は表情を作ることを得意としている。
本物のアリスは大抵のことには優れているが、人間味に欠ける。
運動も出来ず、自ら得た知識を。
エリスに授けている。
アリスの知識はあくまで知識どまりだ。
いくら頭が切れて、応用性があっても。
例えピッキングの知識があっても。
それをエリスにやらせている。
私は実地でも知識でも得ている。
そこは、本物のアリスには無い。
「…聞きたいことがあるんだ。」
アリスは得た知識を人に授け、間接的に殺めた。
エリスはその知識で人を殺めた。
私は自ら知識を得、そして自ら磨いた技術で殺めた。
私はアリスとエリスを重ね合わせた様な。
エリスを体力や力があり。
アリスは知識がある。
私は体力も力も知識も、人間味だってある。
オールマイティ、というのだろうか。
「…なんでしょう?」
私は彼女より優れている。
なのに、何故彼女ばかりが優遇されている。
私は代理品だ。
それでも構わない。
そう言った覚悟で、テオドールの下についた。
ただ、腑に落ちない。
「…俺の、なにがおかしかった?」
そう言う話か。
「変だな、とは思っていたんだ。でも具体的には分からないんだ。」
どう答えるべきかな。
素直に答えるべきか、はぐらかすか。
「圭先輩とアリス先輩はお付き合いをされていたそうですね。」
風の噂で聞きました、と小さく微笑む。
「今の圭先輩の方が、私は好きですよ。人間らしいです。」
何かこう思い悩んでいる様な顔の方が、人間らしい。
こいつの生い立ちは知っている。
「アリス先輩の考えが分かるというほど、私は自惚れてはいません。」
卵焼きが甘い。
味付けに失敗しただろうか。
「ですから、あくまで私の見解です。そこのところをお忘れなく。」
少し大人びた喋り方に過ぎたな。
高校生って言うのは難しいな。
学校と言ったものには、何度か潜入したことがある。
同世代と話をするのは確かに初めてな気がする。
キャラクターがつかめない。
「そうですね…圭先輩は優し過ぎます」
- Re: 秘密 ( No.520 )
- 日時: 2015/05/22 19:21
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
〜・105章 人間としての強さ・〜
「優しい…?」
「どんな時でも、笑っている。誰かを気遣ってばかりいる。
私がアリス先輩でしたら、笑ってばかりの良い所だけは見たくありません。」
アリスもそんなことを言った。
でも、アリスの様に苦しそうな顔をする必要はない。
アリスが泣いたり叫んだりできないのに。
自分が泣くなんておこがましい。
アリスほどのものを、背負ってはいない。
「どうせ圭のことですから、誰かを気遣ってばかりでしょう?
物わかりのいい顔をして。私と先輩は知りあったばかりですけれど。」
気遣って…?
「悲しい時くらい、泣いてください。怒りは押さえずに怒ってください。
圭は、ちゃんとした人間なんですから。誰かを気遣う必要なんてないです。」
その言葉を。
聞いたことがある。
「人間でいられることを、誇ってください。圭までも、人間であることをやめないで。」
幽の声で読み上げられている言葉が。
「醜く、薄汚く、傷つけ、傷つけられることもある。
けれど、憎まれても、人を愛し、慈しむことが出来る優しさを。
どんなに、たとえ心を砕かれても、涙を流した後には前を向けるその強さを」
自分の頭には、別の人間の声に聞こえた。
今ここにはいないけれど。
今、頭の片隅で想い浮かべている。
金髪の少し小柄な少女。
意地っ張りで、こどもっぽくって、でも時々寂しげな顔をして
妙に放っておけなくて、賭けをするときにはゾクッとする様な笑みを浮かべて
日常では、花の様に微笑んでいる。
優しくて、どこか危うい、大好きな少女の鈴の様な声。
「そんな人間としての強さを、精一杯誇ってください。
それは私には決して手に入れられない強さなのですから。」
きっと、これが最初の言葉。
いつの間にか、幽の手には手紙が握られていた。
真っ白で、無機質な便箋。
「どうか君が君であることを、誇ってください。」
途中で気付くべきだった。
先輩、ではなく圭と呼んでいたことに。
そこには見慣れた字で、「圭へ」と記されている。
「アリスこと、三田村こよみより」
10年前。
その言葉を聞いた時。
それは。
アリスに恋に落ちた瞬間だった。
- Re: 秘密 ( No.521 )
- 日時: 2015/06/02 18:44
- 名前: 雪 (ID: Id9gihKa)
「三田村先輩からの伝言です。」
全く、律義な奴だ。
家にわざわざ手紙を残しておくなんて。
自分じゃ伝えられないからって、人に頼むなよ。
「…後はお2人で話してください。これは、差し上げます。」
手紙を残して、代わりに伝えてくれ、なんて。
私は恋のキューピッドじゃないっての。
「失礼します」
しかし…
不思議な顔をしている。
泣きそうな。
怒りそうな。
梅干を食べたみたいな。
変な顔。
「続きもありますけど、でもきっと私が代弁すべきものではないと思うので。」
変な顔。
「ここからは私の意見です。圭先輩はもっと強くなってください。
今のあなたはとても危うい。アリス先輩を失っただけで崩れ落ちそうなくらいに。」
表情を作るからには、表情についての勉強もしている。
敵意や悪意なら、たとえどんな些細な変化でも分かる。
でも、それ以外の感情は。
純粋な気持ちは。
時々読めない。
「人間としての強さっていうのは、きっとそう言うことなんじゃないんですか?」
まっ、私には分からないけど。
人間としての強さとか。
だって私は生まれ持っての化け物だもの。
人の気持ちなんて知る訳がない。
上っ面だけの演技で生きてきた。
きっとこれかれからも。
テオドールの下にいられるうちは、まだ良い。
彼は恩人だ。
どれだけ極悪非道とささやかれていても。
私を救ってくれた。
でも、何時までそれが続くか。
アニエスに私が必要とされる以上、消えはしない。
アレクシスあたりがテオドールの跡を継ぐ。
けれど、その時にはもうテオドールはいないのだ。
「…前に進む、強さ」
楽しさも、悲しみも。
私には分からない。
それが人間固有のものだとすれば。
確かに私は人間じゃないのかもしれない。
私を動かすのは、テオドールへの報い。
テオドールだけが私を動かせた。
彼だけが、私を受け入れてくれた。
私の本質を知って、それでいて必要としてくれた。
例えただの使い捨ての駒だとしても。
それでも構わなかった。
けど、テオドールがいなくなれば。
私は前に進めない。
進む必要もない。
私には人の心は分からない。
だからこそ、私は人のまねが誰よりもうまい。
出て行こうとした私の手首をパシッと掴まれた。
「幽ちゃん、答えて」
ああ、これはもう知ってしまった顔だな。
私は直感的にそう思った。
「アリスは何処?」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124
この掲示板は過去ログ化されています。