神々の戦争記

作者/海底2m

第一章 第一話「神とか…いるわけねーじゃん」-2


「あぁくっそ、五十嵐!貴様何発弾無駄にする気だ!!」
「げっ」
勇の苦手分野の一つである射撃訓練の途中で、荒川の罵声が飛んだ。
射撃訓練は二列に背を向けるようにして並んで行い、教官達はその間を巡回する。
しかし、列が途方もなく長いため、一人一人の指導をしていては他の部員に目がいかない。
そのため、教官は訓練後に色々とアドバイスすることが多く、訓練中に声をかけることはない。のだが、
「お前もっと腕上げろ!当たってねぇのに乱射すんの止め!!」
荒川は勇の腕を乱暴なまでに握り、揺さぶった。
ちくしょー、このお節介教官は……
勇はちっ、と内心舌打ちした。
実際のところ、訓練用の武具はすべて旧式のものでコストを最大限に抑えている。
ゼンザスにはシピアを持たない人間、つまり非能力者も多く、
ネクレフ支部防衛課ではシピアと非シピアの割合が7:3ぐらいだ。
そういった防衛員は妖魔駆除を研究部開発の『シピア弾』を使った銃器で行うことが多い。
しかし、いちいち訓練でシピア弾を使っていてはあっという間に予算が底を尽きるので一般の弾を使う。
なぜわざわざシピア弾を使うのかというと、それは妖魔に物理的攻撃は全く効かないからだ。
シピアを妖魔にぶつけると、それを妖魔は、自分が持っているシピアで相殺する。
つまり、攻撃するたびに妖魔のシピアは減っていき、それが底を尽きる=妖魔の死となる。
しかし、シピアを持った防衛員も、それが全く効かない妖魔も存在するため、この訓練は必須である。
「発砲止め!屋内に戻れ!」
やっと終わった!
荒川の声で勇は銃を放り投げて飛び上がった。
その時である。屋外スピーカーに「ツ――ッ」と通電の音が入った。
『総務課より防衛課へ。
 アグニックス第四交番周辺でレベル4の妖魔を確認。
 各部隊長及び防衛課長は直ちに第5会議室にお集まりください』
支部屋内に向かう防衛員たちからざわめきが起こった。
「…行ってくる」
我らが第一部隊長は教官たちにそう告げると、駆け足で屋内に向かった。
「かっけぇなぁ、滝浦隊長」
そう言って勇のもとへ駆け寄ってきたのは、かの川島である。
滝浦玄助三等防衛佐官、20年以上もネクラフ支部に身を置き、第一部隊隊長としては5年も務めている。
「あぁ、ちょっと…ショートな事もあるけどな」
ショートというのは短気というのと行動が速いという二つの意味を兼ねているのを知ってか、
川島は苦笑した。

そうしてしばらくして、再び放送が入った。
『防衛課より第一部隊へ。
 荒川班、井上班所属の防衛員は直ちに第三作戦会議室へ出頭してください。
 繰り返します。荒川班、井上班所属の防衛員は第三会議室へ出頭してください』
二回繰り返すのは馬鹿な奴がいるから、と考えてのことだろう。
「何?どこだって?」
そのバカの一人である勇は川島へ聞いた。川島は眉間にしわを寄せる。
「第三会議室だよ、お前耳大丈夫?」
川島は片耳を人差し指でコンコンとたたいた。
「ちょっと聞きそびれただけだろ!」
勇がむきになって反発するのを見て川島は笑った。
「お前ちょっと荒川教官に似てるよなー」
「似てないッ!」
二人でやり合いながら会議室がある二階へと足を運んでいると、
「よっ、今回アンタらとだね」
階段の踊り場から聞こえた無邪気な声に、二人は顔を上に向けた。
「あぁ、そうだな」
「よろしく」
「ちょっ、何その無感情!」
抗議したのは桐山颯希二等防衛士である。有り余る元気が逆効果な印象だ。
「いいもん、アンタらの荒川二曹よりうちの井上二曹の方がいいもーん」
「…そうかもな」
勇はよだれの一件と射撃訓練の一件で荒川に対する不満は結構たまっていた。
それに対し、桐山の上官(本来は全下等防衛員の上官なのだが)の井上春樹二曹は温厚で有名だ。

三人は階段を上りきると、早歩きで廊下を歩いた。