神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-3


カラスの一件のせいか、その夜勇は全く眠れなかった。
カラスの頭をなでる。


――エリート


荒川の言葉が、胸からこみ上げる。

なぜ自分なのか。ほかにも適任は山ほどいる。
自分が招集された理由? しらねぇよそんなもん。

何をすればいいのかも、何をしなければならないのかも分からない。結局、裏鉄隊とは何なのか?

第一部隊、第二部隊と、部隊が三つあるが、それと同じようなクラスで裏鉄隊?
いや、人数が少なすぎる。

――ブラックロウ、って言ってたな。

勇は、荒川の話と同時に、あの男の姿を思い浮かべた。
その時、ふっと流れるように何かが頭に入りこんできた。





「マギス…………エリエス……」




それが、その男の名――
その瞬間、勇の背中に言葉にならない激痛が走った。

「ッ―――――――――――――!!!!!!!!」

思わず丸まって背中を抑える。


――退院したばっかりだ。ゆっくり休めよ。




川島の言葉を思い出し、勇はぎこちなく布団の中にもぐりこんだ。

とりあえず今できることは――























――寝ることだ。


「いよいよ裏鉄隊を招集したか」
ロッドは新聞から目を上げ、それをパサリとテーブルの上に投げた。

階上通路のつきあたりでパソコンに向かっていたリシアは頷いた。

「私たちの事もリサーチ済みのようです」
「だが、招集したばかりでは連携がうまくいっていないはずだ。今の内にこちらから……」

ロッドの提案に、リシアは首を横に振った。

「駄目です。これ以上動いては情報を明け渡すだけです。
 マギスさんが想定外の行動をとったことからも、今は落ち着いて支部の動きをみるべきでしょう」
「そうだな。そういえば、マギスの野郎どこに行きやがった?」

ロッドは頷いてから顔をしかめ、あたりを見回した。
リシアは上を見上げ、つぶやくように答えた。

「屋上でしょうか」
「……あの野郎…」

ロッドがいら立つように歯を立てる。しかし、だからと言ってわざわざ呼び戻すようなたちでもない。
しかしその時、ゴンという鈍い音とともに、天井からホコリが降ってきた。


「……何を…………」
ロッドが上を見上げた瞬間――


『バギァッドッゴガンッ!!!』

轟音とともに、何かがテーブルに落ちて――否、墜落してきた。

「!!」
ロッドが慌ててテーブルから飛び退く。図体はでかいが、身のこなしは軽い。

砂煙をあげるテーブルから現れたのは、マギスだった。
深くかぶった帽子をくいっと持ち上げ、キョロキョロとあたりを見回す。

「あれ?もしかして俺落ちた?」
「落ちたも何もねぇだろうが!貴様一体何してくれた!?」

ロッドが大声を張り上げた。マギスはニヤッと笑って手を横に振る。

「わりーわりー、ちっと手が滑った」
「てめ……!」

しかし、マギスがこれ以上どうしようもない奴だと分かっているので、ロッドもさっさと諦めを付ける。

「座れ、作戦会議だ」
「会議って三人しかいねーじゃん」

マギスは言いながらも、一瞬でホコリをかぶってしまったソファに腰を下ろした。


「そういや、次期支部長はどうなった?」
ロッドがリシアに尋ねる。

リシアは複数のクリックでパソコンを操作すると、口を開いた。
「現支部長の体調悪化に伴って議論が行われているようです。
 有力なのは作戦通り彼ですが、まだ何とも言えない状況です」

「んなもんどーでもいいだろ。さっさとまたあいつとやりてぇな」
マギスは足を組んで首をコキコキと鳴らした。

ロッドは睨むようにしてマギスを見つめ、口を開く。
「まぁ、もうしばらくすれば向こうも仕掛けてくるはずだ。それを待って反撃としたもんだろう」

「そうですね。とりあえず、今は戦闘に備えてのエネルギーを貯蔵するべきでしょう。
 こちらでもエサを増やせるよう努力します」

リシアの言葉に、ロッドは顔をしかめた。

「あまりやりすぎるなよ。ばれたら終わりだ」
「了解しました」

リシアは無表情のまま言って、席を立った。

「お前もちっとは真面目に――って……またどっか行きやがった…」


ロッドはマギスのほうを振り向いたつもりであったが、もうそこには誰もいなかった。