神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-18


「――ッ!!」

右から片方のハサミを薙ぎ払われ、真里谷はそれを飛び越えるようにしてジャンプした。
すかさずコルピオスの顔に下から土塊で突き上げる。

だが、一瞬ひるんだだけで、コルピオスは再びハサミを振り下ろした。


(なんでだ……目をつぶせば勝ちかと思ったが……)

何度顔面に攻撃しても、攻撃対象を見違えることがない。もはや目以外の感覚で認識しているとしか考えられない。

(だとしたらその感覚器官は顔面にはないということか……)


そしてこの1対1の状況……

真里谷は攻撃を避けながら左隣を見た。隣では榊が右の方のハサミと格闘をしている。

(ここまで個々を別々に対処できるとなると、脳味噌いくつあって……)


「!!!」

真里谷はあることに気づき、コルピオスの胴体の右側に回った。
すかさずコルピオスもそちらを振り返り、執拗に左のハサミで真里谷をつつこうとする。

だが、少し経つとハサミは諦めたように榊の方へと戻っていった。


「おわっ!?」

いきなり二つのハサミを交差するようにして斬りつけられた榊は驚いたように後ろに跳ぶ。


(やっぱりか…… ならどこかに繋ぐ部位が……)


真里谷は飛び跳ねながらコルピオスの周囲を回るが、目的のものは見つからない。


(くそ、一か八か……)

ぐっと右腕に力を込めてコルピオスの下部分に意識を集中させる。しかし榊の言葉が頭をよぎった。


――まずは個々独立で――


「……了解」


真里谷はつぶやきながら腕を引っ込めた。

「タイム!!」

突然大声を上げる声が聞こえた。真里谷の声だ。
それと同時に、発砲音と共にコルピオスの身体は網に包まれた。捕獲用のネット弾である。

コルピオスはもがいていたが、何かの薬でも塗ってあるのか、しばらくすると大人しくなった。
裏鉄隊のメンバーはなんとなく榊のもとに集まる。


「なんか気づいたところ、あるか?」

榊が切り出した。すかさず誰かが手を上げる。

「堅い!」
「痛い!」
「倒せない!」

峰&桐山の三拍子がそろったところで、榊はため息をついた。

「そうだよな……今までの俺たちの攻撃はほとんどあの固い殻に弾かれてる」
「殻で覆われてないところはないんでしょうか?」

ファレンが言うと、榊含め一同は不思議そうな顔でファレンを見た。ファレンは慌てて顔の前で両手を振る。

「あ、いえっ! ただ、ザリガニとかだと節目の間が弱点だったりするので……」

榊はそれを聞いて考え込むようにうつむいた。そして顔を上げ、一同を見渡す。


「普通のサソリと、ザリガニの違いが何か分かるか?」

誰も手を上げない。
しかし、それを察したのか、真里谷が口を開いた。

「ザリガニは甲殻類です。一方サソリは鋏角類。体のつくりが違います」

おぉっ、と辺りがざわめく。榊もうなずいた。
「そうだ。だけど現に、あいつは固い殻を持っている。甲殻類のそれと同じっていうのは間違いない。
 つまり、あのサソリはどっちの能力も持ち合わせている。だから、甲殻類と鋏角類が分類される――」
「節足動物、ってことか?」

黒御影が榊を遮って口を開く。榊以外のメンバーは怪訝な表情になった。
しかし榊は満足そうにうなずいた。

「そう、つまり各々のパーツをつなぐ節がポイントになるってわけだ」

ここまで来て、勇が遠慮がちに手を上げた。榊が顎をしゃくって勇の方を示した。

「あんまり役に立たないかもしれませんけど……あいつ、足に目がついてませんか?
 こっちが裏に回ってるのに尻尾で叩かれたりするし……」
便乗するようにユーフェルも体を前に出した。

「私もそう思います。11人もいるのに一つの目だけで把握するなんて無理です」
「若干考えが違うんだが、体の各部位が独立した生き物になってないか?」

川島が言った。辺りがしんと静まる。しかしそこに真里谷が乗った。

「同感だ。脳から心臓から何まで、足の中かその付け根に収まっているはずだ。
 そしてそのパーツを一つの『サソリ』として繋ぐ、体を貫くように通っている部位がどこかにある」
「……なるほど。で、それはどこにある?」

真里谷の顔は榊の方を向いた。


「…おそらく体の裏側、まだ俺達に見せていないところです」