神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-34
――そして今に至る、というわけだ。
会議の全貌を聞いていた勇達は、隊長荒川がいない中、勝手に作戦会議的なものを始めてしまっている。
「なぜ黒鴉は氷雨さんを人質として要求してるんでしょうか?」
ユーフェルが首をかしげて言った。ファレンが続けて氷雨に聞く。
「氷雨さんが、何か重要な事を知ってるとか?」
確かに、その可能性もあると勇もうなずいた。
氷雨しか知らないことがあって、それを教えないのならば支部を強襲して情報を奪取する。十分あり得そうだ。
「特にない」
氷雨はそういうものの、勇は何か怪しい気がしてならなかった。しかし、氷雨の口からは驚くべき言葉が発せられる。
「多分、彼らは私が欲しいんじゃない」
「え???」
桐山が目を見開いて聞いた。氷雨がじっと見つめる画面には、「No Input」の文字が赤く表示されている。
氷雨が欲しくないとしたら、一体――
「彼らが求めているのは――私の、父親」
「なっ――」
勇は言葉を失った。氷雨の父親?確か氷雨がまだ生まれてない時に何者かに殺されたって――いや。
、、、、、、、、、、、
――父親は、もう一人いる。
「私の実の父はもう死んでる。けど、もう一人の父親は依然消息不明。もしかしたら黒鴉と何か関係が」
「……なるほど」
後ろで立ってパソコンを見下ろしていたヴィータが腕を組みながら頷いた。
「なるほど、って……何か分かったのか?」
榊が聞く。ヴィータは少し微笑んで窓の方に視線を移した。
「簡単な事さ。原点に戻って考えてみればどうだい?」
「原…点……?」
ヴィータは続ける。
「なぜ、彼が君の両親を殺したのかだ。いや、失礼な物言いだけど許してくれよ」
なぜ殺した?確かに一体何のために……
「僕の考えはこうだ。その当時から、すでに黒鴉は永久平和計画を企てていた。そして、君の実の父上はその仲間…」
「ちょっと待て。一体どういう――」
榊が話を止めると、ヴィータは榊を見下した。
「僕たちの任は事件の解決だよ。個人的な事情を考慮していたらきりがない。そうだろう?」
その言葉に、榊も黙って引き下がる。しかし、その表情は歪んでいた。
「話を続けよう。もしそうだったとして、彼が重要な情報…つまり志の神について何か知っていたら?
黒鴉は彼からそれを聞き出そうとするだろう。しかし、彼は断った。そして――」
「殺されたとでもいうのか?んなバカな話があるか」
「さ、榊さん落ち着いて……」
ファレンが榊をなだめる。だが、ヴィータは首を横に振った。
「違うよ、殺したら意味がないじゃないか。殺したのはその情報が知られたら困る人物、それが――」
「前夫である、弥生恭造だ」
「「「「!?」」」」
ドアの方からの突然の声に、一同は驚いて後ろを振り向いた。――荒川だ。
荒川はこちらに歩み寄ると手にしていた書類の束をバサッとちゃぶ台に放った。部屋の中に沈黙が流れる。
「弥生、恭造…?」
勇は思わずつぶやいた。それが、氷雨たちのもう一人の父親――
「あぁ。鈴原防衛士長から事情は聴いた。弥生恭造の名で間違いない。現在は娘と共に行方不明になっている」
「娘…って……」
桐山が絶句した。勇も彼女から聞いた話を思い出す。
そう。氷雨の両親を殺したのは弥生恭造ではない。彼の娘、『時雨』だ。
「弥生時雨。彼女が全てを解明するカギになっている」
「ちょ、ちょっと待ってください…もう一回、確認したいんですけど、なんでその時雨さん?は氷雨さんのご両親を…」
峰が聞いた。荒川は目線を落として言う。
「鈴原の父親は火のバーゼルシピアーだった。それが、俺達が踏み込んでいいぎりぎりのラインだ。
これ以上踏み込めば、もう後には戻れない」
「二曹っ!!」
声を張り上げたのは川島だった。その目は強い意志を持っていた。
久々に聞いた呼び名に、荒川も少し戸惑っている。
「俺たちは、この事件を完全に解決する義務があるんですよね?」
その言葉に、荒川はふっと笑った。
「……そうだな」

小説大会受賞作品
スポンサード リンク