神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-19


「よっし、じゃぁ行くか!!」

初めの時と同様、榊が立ち上がって戦闘は再開された。
勇は頭の中で作戦を何度も繰り返し、頭に叩き込む。


――まずは、ヴィータと真里谷以外の9人が、適当な部位を選んで1対1だ。


これは榊の言葉だ。
勇は解放されたコルピオスの周りを飛び跳ねながら、やがて空いていた右の中脚にヌンチャクを叩き込んだ。

全員が定位置に付く。先ほどとなんら変わらない戦闘だと、コイツは思っているだろう。
右には川島、左にはユーフェルが付いた形でヒット&アウェイを繰り返す。


――各部位にはいわゆる目のようなものが必ずついている。
  それぞれの普通の感覚はお互いの間で共有されることはない。ただ一つ同期されるのは――
  ――ターゲットの情報だ。


真里谷の言葉を思い出しながら、勇はガキンッと二本のヌンチャクを交差させるようにして足に叩きつける。
バシッと青白い火花が散るが、おそらく効いてはいないだろう。だが、今はダメージは重要ではない。

勇は反動のまま後ろに跳ねた。


――何処がどのターゲットを担当しているかは、リアルタイムで各部位間に伝わっている。
  だから、多少のターゲット変化はなんなく対応していけることになる。

  だが、それでも『多少』だ。

  全員がいっぺんに、息をそろえて持ち場を変えれば、向こうの情報共有は一気に混雑する。
  飽和した情報で本体が混乱に陥ればこっちのものだ。


「変われッ!!!」


榊が叫んだ瞬間、勇は左足を踏み込んで右に跳んだ。右の前足に持ち場を変えたことになる。
同じように左のユーフェルはさっきまで勇が担当していた中脚を。川島は右のハサミを受け持った。


それと同時に、コルピオスの身体は突然小刻みに揺れ動いた。
おそらく、どこが誰を攻撃すればよいか分からなくなっているのだろう。その様子はまるで道に迷った子供だ。


「今だっ!!」

今度は待機していた真里谷が叫んだ。同時に勇は後ろにバックする。
ヴィータが地面を蹴って宙を舞い、真里谷は地面に手を突いた。


「『隆起』ッ!!!!」


ゴゴゴゴゴッと地鳴りがして、グラウンドに亀裂が走る。そして――














      ど      っ     ・   ・   ・

















コルピオスは――――飛んだ――



見ている景色がスローモーションになる。
コルピオスは徐々に高度を上げて後ろに傾き出し、やがてヴィータに自分の裏側を見せるように90度回転した。


勇は力の限り叫んだ。

誰もが叫んだに違いない。けれど何を言っているのかは聞こえない。


ヴィータは鎌を思いっきり振り下ろし、その刃先はまっすぐコルピオスの裏面へと向かう。



『がっ――』


惜しくも後数センチ。鎌の峰の部分が虚しくコルピオスの裏面をかすった。

「おっしい!!!」
勇は叫んだ。


空を切ってコルピオスは落下する。裏返りそうになっていたが、何とか尻尾を器用に使って立ちなおした。
ヴィータもスタンと着地する。

「ダメだったね。僕の腕の長さあと少しだけ及ばなかったよ、すまない」
「いや、次があるさ」

反省の色もないヴィータに対し、榊は彼の背中をたたきながら言った。


しかし、その後二回目も三回目もうまく行かなかった。コルピオスの対応が早まったのだ。

単純なローテーションすぎたためか、四回目に至ってはほぼ完全にこちらの動きを読み切るようになった。
このままではいつまでたっても終わらない。

しかし、今からローテーションの方式を変えている時間はないし、
あんまり複雑すぎると逆にこちらの動きが鈍って意味がなくなる。


――くっそ、どうすれば……


勇は唇をかんで時計を見つめた。


制限時間は1時間。もうすでにその半分以上を使い切ってしまっていた――