神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-6


『総務部通信科より入電。西防壁エリア周辺に多数のキザラビスタを確認。
 防衛部長及び各部隊長は至急第三会議室に――』
食堂でその放送を聞きながら、昼食のカレーパンをかじる勇はため息をついた。

ここ一週間のキザラビスタ大量発生は一種の社会現象と化しており、支部内でも話題を膨らませている。
しかし、そのたびに教育期間中の二士以下は出動できないので、複雑である。

「どうした、その顔」
川島は和食で、煮魚を箸でつかみながら尋ねた。
隣の桐山はすでにデザートに進んでおり、パフェを器用に食べている。

「いや、なんか出番ねぇなー、って」
「なら試験勉強しろよ」
川島は一言で斬ると、再び自分の食に手を付け始めた。勇もガプッとパンをかじる。

桐山はパフェスプーンを口を抜き取ると口を開いた。
「でもさ、一士になったからって出番がドドスコやってくるわけじゃなくない?」
「…ドドスコ……?」

顔をしかめる川島を無視して勇が答える。
「確かにそうだけどさぁ… だってフェンリル以来任務ないんだぜ?」
「お前が暴走するからじゃねぇの?」

川島が言うと、勇は「だって……」と口ごもってしまった。桐山がその背中をバシンと叩く。
「そういやあんた、この後精密検査でしょー?頑張りなよ!」
「何をどう頑張ればいいのかが分かんねぇ」
勇がぼやくと、第一部隊全隊員呼び出しの放送がかかった。
三人は顔を見合わせる。

「…また赤石二佐ぁ?もうあの人やりにくいよぉ」
「ごちゃごちゃ言う前に行くぞ」
「へいへい」
川島の言葉で、三人は席を立ち、廊下へと駆けた。が――

「五十嵐君」
「!」
突然背中に声をかけられた。
振り返るとそこには、いつかすれ違った青木の姿があった。
全てを察したように、川島たちは頷き、そして別れる。

青木はほほ笑んだ。
「残念ですか」
「いや、別に……」
赤石の訓練は、荒川に比べたら相当楽だが、甘えるわけには行かない。
勇は青木と共に精密検査室へと向かった。


桐山と川島が正面玄関に行ったとき、すでにほとんどの隊員が列を成していた。
二人もスッとその間を縫って自分の立ち位置へと向かう。

しばらくして滝浦が演台の上に上がった。

「今回の任務は、これまでのものより規模が大きい。
 よって第一部隊全隊員を出動させる。各自上官の指示のもと準備にかかれ!」
「「「「了解!!」」」」

隊員たちの声が轟き、わせわせとした空気が流れる中、二人は顔を見合わせる。
しかし、川島はすぐにトラックに向かい、準備を進めた。

「……ごめん、五十嵐!」
桐山は研究棟に向かって両手を合わせて拝むと、準備に取り組んだ。