神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-12


一個、完全にぶち抜かれているドアがあった。おそらく彼がやったものであろう。
マギスはフッと滑り込むようにして入ると、地下へと続く階段が続いていた。
さっさと下って身を潜める。駐車場のようだ。身をひそめる先で警備役のような二人組が何やら話をしている。

「どうする?あのガキ」
「どうせ防衛部だろ、放っておけって」


やっぱりここから行ったか――


マギスは二人の間をすり抜けるように通ると、後ろを振り返った。


――さっきまで話していた二人組は血だまりの中に倒れている。

(手応えゼロだなぁ……)
マギスは鉄の鉤爪へと変化した両手を見つめ、右手の指先をペロリと舐めた。

あとは……

マギスはくるりと周囲に目を配らせると、何かをしきりに呼び立てている影が見えた。
するりと足を忍ばせて、マギスは彼に近づいた。


      -*-


勇を追って駐車場へと降りた川島は、その姿が見えず苦労していた。
確かにこっちへと来たはずだが……

「おい、五十嵐ー?」

声を上げて呼んでみるが、答えはない。
川島は後頭部をボリボリと掻いた。


「ったくあの野郎、どこ行って――――」






背中に焼けるような痛みが走ると、叫ぶ間もなく川島は前のめりに倒れた。


『ヒュッ――』
「おわっち!?」

消えていたはずの刃が突如右肩を狙って飛んできた。ギリギリで左にかわして床に転げる。

「くっそ消えるの反則だぞテメェ!」

勇は空に向かって吠えるとバチバチと火花を散らした。
ふっと背後に気配を覚え、すかさずバックステップで距離を取る。無が姿を現していた。

『さっきは見えていなくても位置が分かったろう。どうした、怖気ついたか?』
「うるせぇ!『ドライブ』!!」

勇はヌンチャクを×を描くようにして振り払うと、稲妻が無に向かって走り出す。
しかし、稲妻は無の身体を突きぬけて、冷たいコンクリートの壁に虚しく弾かれた。

「ッ、また消えやがって……」

辺りを見回すが、何もない。男たちはすでに撤退しており、血だまりだけが残っている。


(――――クソ…………)


勇は歯を噛み締めた。また自分の無力さが人を傷つけた。自分のせいで――


「ちくしょおッ!!!!!!」


勇は無我夢中でヌンチャクを振り回した。細く短い矢のようになった稲妻が無数に飛び交う。
そのうち一発が無の身体に当たり、姿を現させた。

それを見逃さず、勇は助走をつけると無の手前で跳ね上がり、ヌンチャクを振り上げ、そして下ろす――


『雷鎚ッ!!!!』


ボギッ、と嫌な音がして、無の身体が青白い光におおわれた。無の身体が縮こまる。


よし、このまま叩き続けりゃ――と勢いづいたその時。








「――――――――――――――――――――――――――――――――!???????」

















体が宙を舞っていた。





天地がひっくり返り、背中に鋭い感覚を感じながら、勇はスローモーションのように飛ぶ。そして――



『ド ゴ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ン ! ! ! !』



派手な破壊音と共にどこかにたたきつけられ、体中に刺さるような痛みが走り、目の前が見えなくなった。




「うッ……」

何秒、いや何分、もしくは何時間がたっただろう。
勇は体にのしかかっている重い何かを懸命にどかしながら、ようやくよろよろと立ち上がった。
コンクリートの砂煙で視界がくすんでいる。


「立ち上がるか……やっぱり君は期待通りだな」
目を細めた勇の耳に、不敵な笑い声が聞こえた。徐々に視界が開け、声の主の影が見え始める。



茶髪の若い男だった。帽子を深くかぶっていて目元が見えない。
黒ジャケットにポケットを突っ込んだその姿から想定するに、20代前半あたりだろうか。

男はニッと笑って手を上げた。



「いよっす初めまして!黒雲の化け烏ことブラックロウ、戦闘長のマギス・エリエスでーす」