神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-13


滝浦は少々大地が盛り上がり、辺り一面が見渡せるところで立っていた。

「クソったれ、いくらやっても数減る気配がねぇ」
滝浦は腕組みをして唸った。隊員たちは今もなお、キザラビスタの大群と戦闘を繰り広げている。

「これじゃ埒が明かねぇ、上蔵!」
滝浦が後ろのトラックに向かって怒鳴ると、中から上蔵が出てきた。
今回、上蔵はフォーメーション等の現行作戦の担当に回っている。

「お呼びでしょうか」
「N作戦に変更だ、塹壕設置部隊と各指揮官に通達しろ」

上蔵は敬礼し、声を張り上げた。
「了解!」


上蔵が隊員たちに通達を終えると、その瞬間から特殊応答が入った。
了解合図の他に、通達事項がある場合に隊員が用いる特別な応答方法だ。

「どうした」
上蔵がトラック内のマイクに向かって口を開いた。激しいノイズと共に応答が返ってくる。
『こちら塹壕設置部隊!只今主要隊員が数名欠員しています!このままでは設置に支障が』
「一人や二人で騒ぐな。自分たちでなんとかしろ」

通信を終えて、ふうっと息をつき、座っていた椅子にもたれた上蔵のもとに、再び無線が入る。
今度はなんだ、と半分イライラしながら送信スイッチを押す。

「なんだ、どうした」
『こちら鈴原一士。只今荒川・井上両班長が不在、指揮系統に乱れが生じ、下等隊員の一部が混乱しています』

なんだと……?

上蔵はピクリと眉をひそめた。
「わかった、連絡を入れてみる」


       *


「ん」
「どうした?」

作戦区域から随分と外れたところで、荒川の声に気付いた井上は尋ねた。
荒川は耳に手をあてながら「作戦長だ」と言って、送信ボタンを押す。

「こちら荒川二曹ですが」
『ですがじゃない。お前たち今どこにいる?』

荒川は送信ボタンを押す前に井上を見た。
「居場所を聞かれてる」

隣にいた真里谷も井上を見つめる。

「隊長に言った通りに」
井上が言うと、荒川もうなずいてボタンを押した。

「二、三匹キザラビスタが逃走したので、その掃討をしています」
『作戦変更の通達は行ったはずだ。すぐ戻れ』
荒川はちらりと井上の方に視線を向けた。

「しかし隊長許可が下りています」
『ふざけるな。現作戦指揮長は俺だ、いいからすぐ戻れ』

珍しく荒れた口調の上蔵に、今度こそボタンを離し、荒川は顔を上げた。井上に二人の視線が集まる。
井上は一息つくと顎をしゃくった。
荒川は一つ頷き、ゆっくりと送信ボタンを押した。


「……『無』が出現しています。かなりレベルが高く、一人や二人で討伐できるものではありません」


応答はない。おそらく絶句しているのだろう。

『……今戦闘しているのか』
「いえ、待機中です。が、近いと思われます」

しばらく間をおいて、上蔵の声が返ってきた。

『分かった、確認次第すぐに連絡を入れろ』
「りょうか……」

そこまで言って荒川は声を失った。
息を吸い込み、再び声を出す。


「……確認、しました」