神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第一章 第三話 「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-12
勇は静かに立ち上がった。
血で染まった白い制服から、ボタボタと赤が緑に垂れてゆく。
が、それもいつしか止まり、勇は袖で口元を拭った。
気付いた時にはヴィータも立ち上がっており、背を見せている。風がその後ろ髪を揺らした。
「いい技だ」
こちらを振り向かず、ヴィータは言った。
「え?今のは技だったのか???」
とぼけた口調の勇に対し、ヴィータはふっと笑ってこちらを向き、鎌を構えた。
しかし、攻撃を仕掛けてくる気配はない。
「?……攻撃しないのかよ」
勇は言った。ヴィータは微動だにせず、その唇を動かす。
「吾輩の名目は貴様の足止めだ。戦う理由はない」
ちっ、と勇は舌打ちすると、バリッと稲妻を走らせた。
脚で地面を強く蹴りだし、体の後ろで稲妻を結ばせながら勇は走る。
「ていやっ!」
ヴィータの手前で大きくジャンプした勇は、その頭上を飛び越える。
しかし、稲妻はその長さを伸ばし、縄跳びのようにヴィータの腰のあたりに引っかかってくる。
「うおぉりゃあぁッ!」
勇がヴィータの後ろに着地し、腕をクロスさせて電撃を引っ張った。
ヴィータは稲妻の輪の中に閉じ込められ、締め付けられる。
8の字状になった稲妻は白い火花を散らしながらのた打ち回るが、
それに絡まれるヴィータはうめくことも、体をよじらせることもなく、スッと鎌を持ち上げ、振った。
『バチィヤアァッ!!!』
「ぬおっ!?」
鎌はヴィータの背後で振り下ろされ、ブッチンと稲妻が切れた。
慣性の法則で勇は後ろにぶっ倒れる。
「くっそー…… なんで痺れねぇんだぁ?」
勇は手をついて起き上がり、ヌンチャクを両手に構えてパチパチと静電気を散らした。
ヴィータは鎌を地面につけて腕を下ろすと口を開いた。
「それは、吾輩が貴様よりも強力であるからだ」
「うわ、うっぜー」
ヴィータはこちらを向いた。
「終わらせよう」
そして消える――
「んな?!」
勇は周囲を見回すが、どこにもその姿はない。
――と突如、後ろから気配を感じた。
「!」
反射で距離を取ろうとするが、時はすでに遅かった。
ヴィータは鎌の峰の部分を勇に向け、横から思いっきり振る。
勇は暗闇に投げ飛ばされた。

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