神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-17
同じ頃、鈴原兄妹は支部へと向かう閑散とした道を歩いていた。
あたりに建物らしき建物はなく、左右には収穫を待つ穀物が並ぶ畑が広がっている。
ここからしばらくした所に支部直行のバスが停車しているバス停がある。本来はそこまでバスで行ける所なのだが……
「どう?久しぶりの散歩は」
鈴原は向こうの空を見つめながら聞いた。視界に入っていない氷雨がつぶやく。
「別に」
一見するとツンツンしているように聞こえるが、そうではないということを鈴原は知っている。
鈴原は苦笑して口を開いた。
「部屋にこもるのもいいけどさぁ~、たまには外出てみろよー。お前見てると母さんを思い出す」
「…………」
氷雨は何も答えず、黙り込む。それを見て、鈴原は聞こえない溜息をついた。
――氷雨は、『親』という存在を知らない。
父親は、氷雨が生まれる前に、母親が元夫と作った事実上姉に当たる時雨に殺された。
その母親も、物心ついた頃には、帰らぬ人となっていたのだ。
両親について、鈴原はまだすべてを氷雨に語りつくせてはいない。
もちろん、時雨の存在は知っている。が、それ以上は知らない。
今もどこかで息を潜めている時雨――
彼女の真の目的がなんなのか、それは15年たった今でも明らかにはなっていない。
そして何より。
殺し屋である『元』父親――
鈴原はついこの間、何気なく手にした電話を思い出した。
『よう』
機械変換された不自然な声。探りを入れるような口調。
のんきに紅茶を飲んでいた鈴原はとっさに警戒態勢に入った。
『お前が、鈴原遼か』
鈴原が声を発する前に、男は聞いた。鈴原は平然を装い、口を開く。
「そうですが」
普段との口調が恐ろしく違うことに鈴原自身驚いた。しかし、そんなことを知らない相手は、なお探りを入れてくる。
『俺が誰だか知っているか』
「さぁ、知りませんねー」
『知らないなら教えてやる。お前の父親だ』
実の父親はもう生きてはいない。と、すれば残る父親は――
殺人鬼、時雨の父である。
「あぁー、あんたですか、どうも初めまして」
徐々にオリジナルを取り戻してきたところで、男は笑った。
『大した精神力だな。お前を殺さないで本当によかったよ』
(お前を殺さないで……???
コイツ、時雨にうちの親を殺すように指示を……)
鈴原は噴火しそうな怒りを抑えつけながら聞いた。
「何が目的?」
男は一呼吸置くと一気に話し始めた。
『よく聞け。お前に妹がいるはずだ。とんでもなく頭のいい妹が。
そいつに言うんだ。『雫は霞ヶ丘に滴り落ちん』、いいか、必ず伝えろ。期限はお前らの母親の葬式まで。
その日までに伝えなかったら、お前もお前の妹も、きっと殺すぞ』
それだけ言って電話は切れた。

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