神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-11


「もう少しです、支部長」
「……っ、あぁ、分かっておる……」

支部長は、両脇から若い男性二人に抱えられるようにして薄暗い階段を下りていた。
このままでは危険と判断され、支部長のみ、支部外撤退することとなったのだ。

階段を下りると、冷たいコンクリートで固められた長い廊下が続いている。
地下二階、このまま進めば極秘駐車場へと繋がっているはずだ。もっとも、利用する機会はほとんどない。

しかしその時、脇から抱えていた男性はあることに気づいた。


――左手から温かい感触が伝わってくる。


「!!!」
「……? おい、どうした」
動揺する気配に気づいたのか、反対側の男性が声をかけた。

その時、抱えていた腕の重みが急に増し、それに耐えられず支部長はどさりと前に倒れこんだ。


「ッ、支部長!!」
未だ何が起きたのか気づいていない男性は支部長のそばへと跪く。


「おい、お前――」
跪いた男性が応援を呼ぶよう、もう一人の男性に声をかける。しかし――


呆然と立ち尽くす男性は、朱に染まる自分の手を見て絶句していた。
「――お前!?」

跪いていた男性もさっと立ち上がり、上から支部長を見下ろす。






――支部長は、赤い海の中に沈んでいた。



「な、何がどうなって――」

その時、廊下の向こうの駐車場に続く扉が、音を立てて開いた。


「おっしゃ開いた――って、なっ!!!」

扉を蹴り飛ばした勇はその光景を見て唖然とした。



――遅かった。



勇は歯を食いしばって辺りを見回す。逃げ道はない、必ずこの中にいるはずだ。


何も見えない。が、気配は感じる――

どこだ―――

さっさと出て来いこの――――


「そこかぁぁぁああああああ!!!!!!!」

勇は右手に持っていた片方のヌンチャクを力の限り投げ飛ばした。
空を切ったかに見えたヌンチャクは、何もない所で鈍い音を立てて落下した。

その瞬間、そこから白い物体がみるみる広がると、どさっと落下した。


「――っは!見たか俺の力を!!」

勇は残ったヌンチャクをペン回しの要領でクルクルと回すと、びしっと指を突きつけた。


白く巨大な物体は、よろよろと起き上がり、やがてこちらを見据えた。


『……小僧、なぜ分かった』
「なんとなくだよ、このデカメタル白モフモフ」

デカメタル白モフモフ――こと、キザラビスタ(無)は、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。


「勝手な事してくれてんじゃねぇよ」
勇は無を睨みつけると、隙を見てもう片方のヌンチャクを拾い上げた。


『ならば、ここでケリをつけさせてもらおう』
「やれるもんならな。お前なんか一発で黒焦げだぜ」

勇はベェッと舌を出すと、ヌンチャクに電気をほとばしらせた。




      -*-



カラスに乗ってのんびりとくつろいでいたマギスに、突然無線が入った。

「あ、もしもしマギスだけど」
『なんだその気の抜けた応答は!こっちで幻影が消えた、本体が叩かれた可能性がある!!』
「嘘マジか!」

マギスはそういいながらニタリとほほ笑んだ。


――やってくれると信じてたぜ、暴走野郎――――


「待ってろ、瞬殺してくる」
『馬鹿!殺すなよ!!』


分かってらぁ――






――じっくり熟させてからおいしく頂くぜ――――


興奮を押さえつけ、マギスはカラスから飛び降りた。