神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-8
「ていうか、なんでお前がそんな本読んでんだよ」
川島は机の前に座ってこっちを振り返った。勇はベラリと重い一枚をめくると頬杖をついて答える。
「なーんかカラスの事知りたいんだけどさー……」
索引に載ってないんだよ、カラス。と言ったところで、川島にチョップを食らった。
「なんでカラスが載ってんだよ。さっきのページ開いてみろ」
「さっきの……??」
明らかに不満そうな口調で勇が言ったが、渋々日本語じゃない(かもしれない)言語で書かれているページを開いた。
というか、この本自体日本語じゃなさそうである。
川島は椅子から降りて座布団に座りなおし、真剣な眼差しでその文面を見つめた。
勇も顔をのぞかせて聞いてみる。
「お前、何かわかる?」
「いや」
「なんだよ、役立たずだなぁ」
「あ?見てやってんのに喧嘩売ってんのか?四発目いくぞ」
などと言い合っていると、川島が不意に真面目に口を開いた。
「関係ないとは思うんだが、この『守護副神の召喚』って何だ?」
「俺が分かるわけないだろ!バカにしてんのか!」
「いや、バカにしなくてもお前はバカだし」
プンスカと煙を出すと、何の戸惑いもなく川島は言い返してきた。その言葉に勇はしょぼんと萎える。
「いいから早くページページ」
川島にせかされて、勇は渋々次のページにめくった。
[守護副神]
守護副神の召喚は古代より、バーゼルシピアーのみ使用することのできる術であった。
そういう意味では、バーゼルシピアーの特殊性は、古くから認識されていたことになる。
そもそも、守護副神がどういった存在なのかということに関しては、現在も明らかになっていない。
ただ、副神を召喚した一人の話によると、副神自身が『神の意志を継ぐ者』として自己紹介したと証言している。
神の存在については、現在も様々な憶測と議論が交わされているが、
少なくとも神、もしくはそれに近い何かが存在していたのは確かである。
守護副神は各シピアに一人ずつ存在しており、現在明らかになっている者は
・水――ヘテリーユセルク(Hette-Leayhselc)
・雷――オルグマヴォセトラ(Org-Mavchocetla)
・炎――ヘルクルゥド(Helle-Cruode)
・地――ザドエハクギード(Zadoer-Hackgeade)
の四名である。氷、幻、志については現在も確認されておらず、これらの守護副神は存在しないとする説もある。
しかし、召喚の特性から、同シピアに二人以上のバーゼルシピアーは存在しないと考えられる。
本来、守護副神はバーゼルシピアーに仕える身となっているが、近年では人間の寿命が副神のそれと比べて著しく短く、
副神はいちいち仕える者が変わり、記憶を刻み込まねばならないため、ストレスが溜まっていったと考えられる。
これが原因で春闘7年(西暦1402)に、召喚されたマヴォセトラが暴走するという事故が起きた。
のちに語り継がれる『春闘大反乱』である。
死者100名以上、重軽傷者2千名という大事件であったが、当時は守護副神の存在が明らかになっていなかったので
結局『火山が噴火した』という公表で、あやふやなまま事件は終わってしまった。
これ以降、バーゼルシピアーが守護副神を召喚する行為は禁じられた術と恐れられ、廃れた技術となった。
しかし、バーゼルシピアーが任意で召喚が可能であることに変わりはなく、その場合、副神は任に就かなければならない。

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