神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-23


後片付けをしている最中、勇はふと違和感を覚えた。
「おい、なんか今変な感じしなかったか」
川島は土塊を埋めていたスコップをザクッと地面に突き刺し、手を止めた。

「そうか?気のせいじゃないのか。てかお前も手伝えよ」
「あ、あぁ……」

そういわれて岩を運び始めては見たものの、やはり違和感は消えない。
勇はどうしても作業に集中することができなかった。



「!!!!!!」
不意に襲いかかった悪寒に、荒川は目を見開き、上を見上げた。

「どうした?」
察しの早い井上が聞く。
荒川は点を見据えたまま目を閉じた。この感覚を体感するのは人生で二度目。一回目は荒川がまだ中学生のころだ。

「奴だ……舞い戻ってきやがった」

それで井上はすべてを悟った様に、静かに目を閉じた。
荒川はゆっくりと無線機の周波数を調節し始めた。

「どうしたー?なんだか重い空気が伝わってくるんだが」
ガッハッハと滝浦は笑いながら応答した。
その時までは、滝浦は荒川からの報告がそれほどまでに重大なものだとは思っていなかった。

『あるお知らせが』
「どうした、言ってみろ」
滝浦の声もさすがに重みを含んだ。ここまで荒川がシリアスなのは……いつものことなのだがなんだかおかしい。


そして、滝浦は絶句した。

「やっぱおかしい、なんか来るって絶対」
「まだいってんのかよ。分かったから運べ。日が暮れちまうぞ」
川島は聞く耳も持たずにせっせと土塊を崩していく。

「…………」
勇は遠くを見据えた。
黒い森はざわざわと木々を揺らし、気持ちの良い風が通り抜ける。

と、その時。


「な、なんだあれは!?」
一人の隊員が声を張り上げ、遠方の山を指差した。
勇と川島、それにファレンは瞬時にその指の指す方向を凝視した。

「……妖魔…か……?」
川島が目を細めながらつぶやいた。
勇も揺れる山にポツンと一点だけ黒くなっている個所を発見し、小さくうなずく。

と、黒い点は一気に飛び上がった。
垂直に跳ね上がる点を目で追いかけていくとやがて輪郭がはっきりと大きくなっていき、そして――


『スタンッ』



それは数十メートル先の地面の上に着地した。


近くで見てみると、それは明らかに狼だった。しかも巨大な。
体長約5mはあろう、漆黒の毛におおわれた狼の瞳は、するどく、とがっている。
心なしか歳をとっているように感じるのは気のせいだろうか。

「来たか」
荒川は手に赤く燃え上がる火をまとった。
むきになるなよ、という井上の呟きは、もう荒川の耳には届かない。

沈黙を破ったのは滝浦だった。
「よう」
滝浦は一歩前に出ると、野太い声で狼に呼びかけた。

「ひっさしぶりだなぁ、フェンリル。また暴れにでも来たのか?」
滝浦の声に辺りにざわめきが起こった。

「フェンリル……」
静かに、そしてマイペースに呟く鈴原に、荒川が答えた。






「そうだ、ザーダ・N・フェンリル。

 東の大惨事を引き起こした張本人だ」