神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-31


「……残念だったな」
二人きりになった後、荒川は静かに言った。

「あそこであなたの横やりが入るとは思わなかった」
「素直に答えただけ誉めてやろう」
荒川は机にゆっくりと歩み寄ると、先ほど勇が触って針を突きつけられたガラス瓶を持ち上げた。
透明な容器の為、水色の液体が日光を受けてキラキラと輝いている。

「あれだけ苦しめといて1000ml20万は安すぎないか」
「……200万にしとく?」
氷雨は引き出しを漁ると、セピア色に変色した一枚の紙を取り出した。
レポートのような形の書式で、日付は3年前の今日になっている。

「……どっちにしても、融合液のこれ以上の入手は無理。
 あなたからは一生分のそれを抜き取ったし、五十嵐君もあれじゃ協力はしてくれない」
一生分の融合液――
それを提供する引き換えに、荒川が得た物は大きい。
荒川がポケットから大きめの薄茶色をした豆を一粒、取り出した。

「まだ持ってたの」
氷雨が意外そうな声を上げた。
「あぁ、鶴迫二佐からのお土産だしな」

当時三曹であった荒川は、あの日のことを未だに忘れない。
             、、、、
ネクラフに存在する、もう一人との契約を――


「融合液はシピアの種類は関係ないのか?」
荒川はコトン、とガラス瓶を机に置き直して氷雨に尋ねた。

「バーゼルシピアが引き寄せるシピアの種類は断定的。融合液はどの種類に対しても有効」
「なら、材料は後一人残ってるぞ」

氷雨はくいっと顔を持ち上げた。荒川はフッと笑ってドアに向かって歩き出す。

「予感がするぞ、奴がまた帰ってくると」
そういって荒川は部屋を出た。