神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-12


「うぉ……」
正面玄関まで戻ってきた後、勇は絶句した。
今まで山の中にいたためわからなかったものの、降りてみるとその山頂から
黒い影が雪崩のように降りてくるのが見えた。
――妖魔の群れだ。
「各自持ち場につけ!フォーメーションについては各組の高階級の者に委ねる。
 ただし!接近して攻撃を行う場合は必ず周りを見ろ!以上!」
ルティアが命令したのち、滝浦は何やらレシーバーを取り出した。
きっと上蔵に応援要請をしているのだろう。
「来るぞ…」
川島はつぶやいた。まるで、誰もいないトンネルに反響する風のような地鳴りが聞こえる。
「川島さん、五十嵐さん、行きましょう」
「「了解!」」
ファレンの呼びかけに応えると、三人は地面に一直線に溝のようにできた塹壕にこもった。
静かな風が吹いた。
「僕と川島さんで左右を守ります。五十嵐さんは前へ行ってください」
「了解です」
資金の問題でシピア弾を大量に使用するわけには行かないため、弾幕を張るなどという作戦は不可能だ。
よって一発一発正確に狙う狙撃手と、前線で妖魔を薙ぎ払う近接型が必要になる。
今回は五十嵐が後者を担当する。
「五十嵐」
塹壕からヒョイと前に飛び出した時、隣の荒川が何かを投げてきた。
慌てふためいてそれを受け取ると、ただの鉄の棒が二本。50cmほどの長さのそれは、冷たく、重い。
「何もないよりはましだ。首より上を狙え。一撃で仕留めるつもりにはなるな。追い返せ」
困惑した表情を読み取ったのか、荒川はそれだけ言うと前を見据えた。
いつの間にか地鳴りは強くなっていた。風と共に舞う砂埃、低い振動音。そして――

「さぁて、お出ましだぜ」
川島のライフルが後ろの塹壕から顔をのぞかせた。


                     *

『グルルアァァアアッ!!』
初めに突進してきたのは黒いウサギの集団だ。
脚力が尋常ではなく、一度跳ねただけで数メートルは余裕で飛んでくる。
しかし、勇の志が揺らぐことはなかった。
「バ カ め!俺は参照137を記念して今必殺技を考えたぜェ!!」
「理由が理由になってねぇ。てか数字微妙すぎだろ」
という川島のツッコミは放っておき、勇は両手に鉄棒を握りしめ、黒ウサギ軍団に突撃した。
「必殺!サンダートルネーーッド!!」
「そのネーミングセンスのなさは万博に出せるな」
「ば、万博!?ッ、じゃぁ、サンダーミキサー!!」
「…もういい」
「ヌゥアアァァァア!!」
勇は両腕を肩の高さまで水平に持ってくると、ダブル○リアットの要領でブンブンと鉄棒を振り回す。が、
「五十嵐お前こぼれてんぞ!!」
「えッ!?」
荒川の罵声にビクッと跳ねあがって後ろを振り返ると、ピョンピョコウサギがかけていた。
「肩の位置でぶん回してウサギにあたるかこのアホウ!!」
「サーセンッ!!!」
勇は叫ぶと、腰を落として、かけてくるウサギの頭を片っ端から叩いていった。
外してすり抜けた物は後ろのファレンと川島が丁寧に拾う。
身をかがめ、二本の鉄棒を持ってウサギをひたすらに叩くその様子は、もはや変態モグラたたきマンにしか見えない。
しかし、その甲斐もあり、見事第一群の黒ウサギを全滅させた。