神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-5
「はーぁ」
川島と二人して帰寮しているとき、勇は大きくため息をついた。
「一発殴られたぐらいでどこまでへこんでんだよ。
お前荒川二曹のこと嫌ってる割にはそういうとこデリケートなんだよなぁ」
で、デリケートって!
勇は突っ込みたくなったが、そういう空気ではないので胸の内に収めておく。
桐山はなんと井上に送還された挙句、川島はなんとも言われず勇は荒川だ。実害があるのは勇だけである。
「あ」
不意に川島が声を上げた。何事かと勇も垂れていた頭を上に持ち上げる。
廊下の向こう側から一人の男性が歩いてきていた。
「誰、あれ?」
「お前忘れたのかよ!?」
川島が無声音で声を荒げた。忘れた、ということはどこかで会っているのか。
と、首をかしげると、川島がご丁寧に説明し始めた。
「こないだの容量検査の時にいた青木一佐だよ!」
一佐とは大層な防衛員なのにもかかわらず、スーツを着ていることに違和感を覚え、再び首をかしげた。
「バカ、総務課だよ!」
あぁ、そっち。
と、川島の無声音と勇の心中で会話していると、青木がこちらに気づいた。
青木は勇の顔を見るや否や、パッと顔色を輝かせ、敬礼した。
「!?」
いきなり敬礼され、勇はたじろいだ。しかし、
「五十嵐二士だね?今度の防衛戦、期待しているよ」
青木はそれだけ伝えると、スタスタと向こうに歩いて行ってしまった。
しばらく二人とも佇んでいたが、川島が口を開いた。今度は無声音ではなく。
「おまっ!次期支部長ともいわれる青木一佐に名前覚えられてるってどういうことだよッ!?」
現支部長である小田原信夫特等佐官はすでに還暦を迎えており、そろそろ交代が必要だという噂は聞いたことがある。
「知らねぇよ!一佐なんだからみんなの顔と名前ぐらい覚えてんじゃねーの?」
「バカか、一体何人検査したと思ってんだよ。相当印象深くなかったら覚えらんねぇって」
勇は必死に脳内の回路を修復し、記憶の断片をたどった。

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