神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-22
しばらくして11人全員が土壁の後ろに隠れこんだ。
立ち尽くして汗を拭く者、腰を下ろして息をついている者――みんな疲れ切った様子だ。
「……駄目だ、収まる気配がしない」
真里谷が壁際に背中をつけ、向こう側をのぞき見ながら言った。
榊も様子を見るようにして真里谷の頭の上から向こうを覗く。
「尻尾で地面と繋ぎながらエネルギー弾を放って、その反動を利用して空中に留まってるってところか……」
榊はメンバーの方を振り返った。
「どうせもうタイムはとれない。作戦を練るぞ」
榊の言葉に全員頷いてはみたものの、何も案が浮かばない。
川島は舌打ちして地面を見つめた。
――今なら腹部はガラ空き、だが弾幕が邪魔で手が出せない……
「俺が、上まであがって一発殴る」
「「「「「はぁ!?」」」」」
勇の、いくらなんでも無茶すぎる発言に、一同は思わず声を上げた。
「作戦になってないじゃん!ていうかあんたそこまで行けないでしょーが!」
「うるせぇ!行けるさ!見てろ――……」
桐山に言われて声を荒げた勇が壁から飛び出しそうになるのを、榊のゲンコツがそれを止めた。
「桐山の言うとおりだ。リスクが大きすぎるし、何より決定的なダメージが与えられない」
「遠距離からアウェイで攻撃するのはどうですか???それなら安全ですし……」
峰の提案に、今度は真里谷が首を振った。
「アウェイだとどうしても威力が出ない。中途半端に攻撃したら、敵を警戒させるだけだ」
「そ、そうですよね。。。」
峰はうつむいて口を閉ざしてしまった。
川島は睨みつけるようにして地面を見つめ続ける。
――駄目だ。直接腹部はどの方法を取っても確実じゃない……それがダメなら関節……
「!!」
川島はふと思いついたように顔を上げた。
「どうした?」
と、榊がそれに気づいて声をかける。
川島は榊の方を向いて、口を開いた。
「……確実ではありませんが、勝機はあります」
「よっし、やってみるかその作戦!」
依然マシンガンが放たれる中、榊は大声で言いながら川島の背中をたたいた。
川島自身、不安が残る作戦だが、今はこれしかない。
ヴィータは大鎌をガシャリと担ぐと、ほほ笑んだ。
「命令されるのは好きじゃないけど、僕ほどの能力者しか敵わないというのなら喜んで引き受けるよ」
「あぁ、頼んだぜ」
榊は笑いながらヴィータの背中を強く押した。と、同時に、みしりという嫌な音と共に壁から砂埃が落ちる。
そろそろ真里谷も限界だ。川島は強くうなずき、ヴィータは壁から飛び出した。
メンバー一同、壁から顔をのぞかせて様子を伺う。
ヴィータは壁から出てすぐ垂直に跳ね上がって、コルピオスと同じ高さまで上昇した。
白球は斜め下に向かって発射されているため、同じ高さまで上がれば被弾の確率はほとんどない。
ヴィータは振りかぶった。しかし、コルピオスまでの距離が遠すぎて、ここからでは鎌の攻撃は届かない。
しかし、攻撃範囲は問題ではない。なぜなら――――それがフェイクだからだ。
それは一瞬だった。
コルピオスの攻撃がほんの1秒、いや0.5秒だけ止まった。ヴィータを警戒したのだ。
――今だ。
川島はヴィータが出た方向とは逆側の壁際から飛び出すと、全速力で地面を蹴った。
シピアを使えば100m4秒を切る。同期の中でも足はかなり速い方だ。
一歩、二歩、三歩目に足が着いた時には、もうコルピオスの裏側に回り込んでいた。
ズザザッとブレーキをかけると、右手に短剣状の氷を作り出す。
そしてそれを地面に突き刺さっている鉤状の尾の先端、いや、その曲がった関節の間に――
突き刺した。
ぶしゃぁっと黒い体液が飛び散り、川島は思わず目を瞑った。耳をつんざくようなコルピオスの悲鳴が響く。
地面とのリンクが切断されたコルピオスは、バランスを崩してそのまま落下した。
しかし、コルピオスの身体はぎりぎりで仰向けにはならず、腹部は隠れてしまう。
――計算の内。
「峰ッ!!」
「はいっ!!!」
いつの間に追いついていたのか、川島が叫ぶとすぐ隣で峰が返事をした。
峰は両腕から茨を伸ばすと、コルピオスの上を飛び越えさせて、反対側の脚の一本に強く巻き付けた。
そしてそれを思いっきり引く。
その勢いでコルピオスを裏返そうとするが、コルピオスは懸命に脚を地面に突き立てて離すまいとしている。
峰は歯を食いしばって茨を引っ張るが、力があと一歩足りない。が――
「――!?五十嵐ッ!」
「えっ――」
峰の隣に、勇がいた。
勇は伸びる二本の茨を右腕に巻きつけると、峰と共に思いっきり引っ張った。
峰は顔をしかめ、勇の腕にはバチバチッと青白い火花が散る。そして――
ゴ キ ッ ・ ・ ・
コルピオスは、くるりと半回転して、背を地面に打ち付けた。巨体が地面を揺らし、砂埃が舞う。
「いっけぇええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
あらわになったコルピオスの腹に、青い焔を上げる刀が一本、空から落ちて、突き刺さった。
突き刺さった刀から激しい炎が上がり、コルピオスの身体は蒼に包まれる。
そして、その後に続いた榊の炎の拳が、とどめを刺した。

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