神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-25


翌日からは平常通りの訓練が行われた。当たり前の、いつも通りの風景。
だが、勇は違った。
ドジを踏むこともなく、うっかり、などと言って銃を乱射することもない。
もっとも、それは性格での問題であって、実力は何も変わらない。

「どうしちゃったんだろ」
川島が一人で昼食に向かおうとした時、桐山が隣にやってきた。
「さぁな、昨日のフェンリルでピリピリしてるんじゃないか。なにせ親を殺した奴だからな」
川島は上の方を見上げて言った。桐山は肩をすくませる。

食堂に入ると、勇の姿はなかった。仕方がないので二人で向かいの席に座る。

「隣いいか~?」
しばらくして鈴原がポリポリと頭をかきながらやってきた。おそろしい隈が目に留まる。
「どうしたんですか、その目」
「あぁ、これ?そうそう昨日ネトゲーで、ってそんなことを話しに来たんじゃないんだなー」
かすめた新事実を隠しつつ、鈴原は身を乗り出した。

「昨日の五十嵐さー、何だかわかるか?」
鈴原が目をキラキラ――させてはいないが、聞いてきた。
「あの暴走ですか?」
桐山が首をかしげた。鈴原は小さくうなずく。
「何かあったんですか?」
川島は手を止めて聞いた。鈴原はすっ、と身を引いて椅子にもたれかかった。
ポケットから携帯ゲーム機を取り出し、ピコピコと操作を始めた。
軽快な、あの旅する赤いヒゲおじさんの音楽が流れ始める。

「あれなー、野生だよ」
鈴原はさほど熱中していないのか、半ばうわの空でゲーム機を操作する。
が、しばらくしてお決まりの死亡サウンドと共に、鈴原の表情は苦痛に満ちた。よくわからない人である。
「野生、ってどういう意味ですか?」
桐山は長いスプーンを器用に操り、パフェを一口、口に入れた。

鈴原はコトッとゲーム機をテーブルの上に乗せた。画面には「GAME OVER」の文字が表示されたままだ。
「普通雷シピアってー遠距離攻撃に不向きだ。わざわざ電線銃使うくらいだし」
「……空気の電気抵抗があるからですよね?」
川島が念のため確認する。

目の前のパフェ女に目を戻すと、完全に話から離脱していた。
川島には分かる。この女は下手すると勇以上に馬鹿なのだ。先輩に対する敬意のかけらも見当たらない。
もっとも、鈴原がそんなことを気にする人間ではないのは分かっているのだが。

「ぴーんぽーん。結局導線使うことが多い。…でも昨日の見ただろ?」
ズイっと鈴原が身を乗り出してきた。
少しだけ顔を遠ざけると、引かず、鈴原は顔を覗き込んできた。

「あの電撃」
川島もよく覚えている。というか、昨日のことなのだから当たり前だ。
視界が覆い尽くされるほどの閃光と共に、勇の両手から一直線に電撃が発射された。

「なんでだと思う?」
正真正銘、目と鼻の先の鈴原の問いただしに、川島は小刻みに首を振った。


そして鈴原の言葉に、川島は絶句する。
口をぽかんとあけて長いスプーンを取り落す桐山が視界の端に映った。