神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-17


迂闊に近づけば串団子にされるため、ギリギリな距離を保ち、蹴られた脚を叩く戦法に勇は切り替えた。
しかし、もちろん脚も外骨格でガッチガチに覆われているため、全くダメージを受けている様子はない。

「ていやっ!」

勇の左で声を上げたのは峰だ。
腕から針のついた茨を出し、それをコルピオスの脚の一本に巻きつかせる。

(ははーん、川島と同じ感じか)

しかし――「きゃぁっ!」――強度が足りないようだ。

コルピオスは脚を持ち上げて巻きついた茨をなんなく引き千切り、そのまま脚を振りおろそうとする。

「ッ!あぶね!」

勇は思わず左にダイブし、ヌンチャクを交差させて振り下ろされた脚をはじき返した。

『ガキンッ』とまた金属音が鳴り響き、脚は反動で仰け反る。

しかし、勇が相手していた右側の方の脚が容赦なくこちらに突き刺さろうとした。

「――ッ!!」

勇は峰を片手で脇から抱えると、そのままバックステップで右の脚も避けた。


それと同時に、どこからともなくヴィータと川島が姿を見せた。
川島は氷で作った短剣を脚の付け根に投げ刺し、ヴィータはどこから持ってきたのか、あの巨大な鎌で脚を切り上げた。

そしてこちらを振り返る。

「女性は優しくもてなすものだよ、五十嵐君」
「なっ……!」

しかしヴィータは鎌をガチャリと肩に担ぎ、どこかへと飛んで行った。
川島は依然、脚との攻防を繰り広げている。

「あ、あの……」
「へ?」

腕の中の峰が言いにくそうに口を開いた。そして気づく。

「あっ、わ、悪りぃ」
慌てて峰を下ろして、再び立ち上がった。遠目で見てもそうだが、近づくと峰はかなり小柄だ。

「助けていただいてありがとうございました!先輩」
峰は笑顔で言った。『先輩』という言葉にかなり抵抗を覚えたが、それと同時に自分にも一握りの後輩がいることに気付く。

「いや、怪我なかった?乱暴に引っ張っちゃったから…」
「全然大丈夫です!私、これでも体育は5でしたから」

そう言って峰は再び笑顔を作った。つられて勇も笑う。

しかし、肝心なコルピオスは依然、攻略の糸口が見つからない。
何か弱点見たいのがあればいいんだけど……と、勇は遠くからコルピオスを眺めたが、結局何も分からなかった。

そもそも、こっちは11人いるって言うのに、こんなにも攻められないのはなぜか。
簡単だ、脚が六本と尻尾が一本。さらに主力のハサミが二個。全部で9つの攻撃手段を持つ。
戦艦ヤマトには大小合わせて25基の兵装があったっけ、と勇は自室のプラモデルを思い出した。

つまり、全体で一匹だとしても11人相手にまともに戦える兵力があるのだ。

(でもな~んか妙な気がするんだよなぁ……)


体は完全にあっちを向いているのにもかかわらず、
まるで脚に目でも付いているんじゃないかと思うぐらい正確に一人一人を突いてくる。


勇はちらりと棟舎に掲げられている時計に目をやった。開始から13分――そろそろタイムの時間だ。