神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-16
-土壊竜-
「わぁお」
勇のつぶやきは、意外にも当たりに響き渡った。
土埃から顔をのぞかせたその妖魔は、全身が岩石質の甲殻で覆われており、全体的に太り気味だ。
尻尾の表面には、これも岩石様のトゲ状のものが無数についている。
息を荒げているわけでもなく、これまた穏やかな目つきだ。とてもこの堅い岩盤を突き破ってきたとは思えない。
『…イディオゴン、別名土壊竜』
滝浦の無線が入った。とうに応援要請をしてはいるがまだ到着の報告はない。
辺りには沈黙が流れる。
『一見穏やかに見えるが、「イディオットの守り神」とまで謳われる妖魔だ。
低く見積もってもレベル5、もしくはそれ以上だ。こっちからは攻撃を仕掛けるな、そのうち横槍が入る』
イディオットの守り神…
勇は心の中でつぶやいた。なるほど、そういわれてみればそんな顔立ちだ。
しかし低くてレベル5。心して掛からなくては敵うものではない。しかし横槍とはなんなのか。
と、考えを張り巡らせた瞬間、
『ギヤァァァアッ!!』
「「「!!」」」」
ふと横を見やると、吹っ飛ばされた氷獣たちが怒りをあらわにしてイディオゴンに威嚇していた。
残っている個体は目算で10体。それぞれがイディオゴンを囲むようにしてその場を動かない。
『ギャアアア!!』
一匹が叫ぶと、それを合図に氷獣たちは一斉にイディオゴンにとびかかった。が――
ポテッという音と共に、氷獣たちは分厚い甲殻に頭をぶつけ、そのまま気絶したように次々と地面に倒れた。
再び沈黙が流れる。と、
『ドシュッ!!』
倒れていた一匹の氷獣の下から、ドリル状の土が地面を突き破って現れた。
その勢いで、氷獣は空高く舞い上がり、次落ちてきたときには虫の息だった。
「まずいな…」
川島が後ろでつぶやく。
チャッとライフル型シピア銃を構え、イディオゴンに向ける。
『ドッ』
「うわぁぁあ!」
「なっ!!」
一人の隊員足元から、同じような土塊が出てくると、その衝撃で隊員が横に吹っ飛ばされた。
が、着地点からさらに同じ攻撃が繰り出され、隊員は土壊の上に落ちると、ズザザっと落ちてきた。
『攻撃開始ッ!』
滝浦の怒鳴るような声と共に、一斉に銃撃音が響き渡った。
『銃撃やめ!敵は厚い甲殻に覆われている!
どうにかしてひっくり返して腹部に集中攻撃しろ!死んでもこの先に行かせるな!!』
死んでも、というのは比喩か本気か。そんなことはどうでもいい。
勇は鉄棒にバチッと電気を流すとイディオゴンに突進した。
「とっとと転べぇえ!!!」

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