神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-20


……やっぱりおかしい。
と、塹壕の中で鈴原は考えた。

さっきから尋常ではない落ち着きのなさが続き、頭のどこかで悪い予感が絶えずささやいている。


――ここは一度支部に戻るべきか?
しかし、班長が二人不在であるこの状況において、これ以上の負担は――

葛藤が続き、しばらくして鈴原は塹壕から飛び出す。
そしてトラックの方に駆けながら鈴原は無線の送信ボタンを押す。

「川島、俺支部に戻るから後は任せた!」
『え、ちょっ、士長!?』

雑音の向こうで川島の声が響きも、鈴原はトラックの中に転がりこんだ。
中には通信部隊の下っ端が一人。鈴原の気配に気づき、顔を上げた。

「俺のバイクはどこかなぁ?」
鈴原が聞くと思い出したように下っ端が口を開けた。
「あ、それでしたら4号車の方に……って鈴原さん!?」

鈴原は下っ端の言葉を最後まで待たずに、トラックを飛び降り、言われた方に走った。


――時間がない――

          鈴原はひたすらに走った。



-*-


「はふぅ、大分走ったな!――って何じゃこりゃ――――っ?!」
ふと足を止めた勇の前に立ちはだかっていたのは、巨大な木。

「く、首がもげる~~~!!」
その通り。巨大すぎるその大木は、見上げても葉が見えないほどなのだ――とその時。


『ドゴオォォン』
「!?」
何やら木の向こう側から破壊音が聞こえた。
勇は見上げていた首を元に戻して木の向こう側に回ろうとグルグルグル。しかし――

「……あれ?」
一周してしまったのか、勇の方向感覚が完全に失われた。しかも手掛かりはなし。

「ちくしょー、どうなって……」
勇がポンと木の幹に手をかけたその時。明らかに樹皮とは違う感触が勇の指を伝ってきた。
さらっとその指先を閉じて、つまんだものを目の前に持ってくる。

「――――砂……?…………」
つまり。

大木だと思っていたこれは土でできた円柱状の塊。
となれば破壊音が聞こえてきたのは――

「この、中???」

勇はもう一度上を見上げて口をぽかんとあけた。しかし、すぐにキリッとした顔をすると腰に手を当てる。


「五十嵐二士!只今よりロッククライミングします!!――――よいしょ。」
敬礼した勇は土の壁に手をかけた。が――


「わおっ!」
あっという間に手が離れ、勇は草の上に投げ飛ばされた。

上りきるのはまだ遠い。