神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-8


「マギスさん、何度も言いますが今回の奇襲は全て――」
「あーもう分かったって。こっちは任せとけ」

耳に付けたワイヤレスイヤホンを押さえつけながら、マギスは後ろ髪をくしゃくしゃとむしった。
もちろん、マギスは常に帽子を被っているから、その下の方の部分だけだが。

今マギスがどこにいるのか、それは高度300m、飛行する妖魔の群れの一匹に乗っていた。
大量の黒い妖魔が飛び回っていることで、黒革ジャケットを着たマギスの姿は、地上からの肉眼では見えないだろう。


「そんじゃ、いっちょ行きますか!」
帽子のつばにコツン、と敬礼した手を当てると、マギスを載せた一匹以外のすべての妖魔が急降下を始めた。





                -*-



「と、言うわけだ。質問は!」
裏門演台の上で滝浦が声を荒げると、前防衛員が集った裏門前はしんと静まり返った。

しばらくすると放送が入った。
『た、只今妖魔群が肉眼で確認できる高度に下がっています!正面玄関前を焦点にして急降下の気配あり!
 防衛員は即刻戦闘準備を整えてください!』
「っしゃ行くぞお前らァ!!!」
「「「「「「了解ッ!!」」」」」」

滝浦が一発激を入れると、隊員たちはそれぞれの持ち場に散った。ここまでは作戦通り。

勇は腰につけたヌンチャクを抜き取ると、それを両手に持った。



    ――いよいよだ。



勇は気を引き締め、正面玄関の方へと駆けて行った。



「お、来たか」
勇が正面玄関の方に回ると川島が待っていた。

「見ろ、すげぇ事になってるぞ」
「……うわぉ」
勇は川島の指差した、落下してくる黒い影を見つめながら声を上げた。

正面玄関の前には塹壕はもちろん、身を隠す壁ひとつない。戦闘が行われるとしたら、完全に乱闘状態になる。
数が多ければ多いほど、こちらの被害は大きくなるし、屋内侵入がしやすくなる。


――「奴らが上空から屋内を狙うとしたら、一番に思いつくターゲットスポットは屋上だ。
   だが、支部の屋上から中に入る手段は人一人が通れるか通れないかの小さな小窓。しかも強化ガラスだ。

   裏門には訓練用の塹壕があるし、攻めづらい。東西はどちらも侵入ルートが狭い。
   となれば残るは正面玄関だ。入り口のドアはズラリと並ぶガラス製だし、まともに隠れる場所はない。
   敵が大勢いるならば絶対に攻めやすいし、侵入も脱出も楽だ。

   そしてどうすりゃここを守れるかだが…」


――「殴ります!」「蹴ります!」「皆殺しにします!」
――「馬鹿か。一番簡単なのは簡易バリケードを張ることだが……
   ここは2グループに分けるのが妥当だ。一つは外、もう一つは中だ。
   そして中の天井より低い位置にシピアを流し続けたネットを張る。つまりは天井を低くするってわけだ。
   万が一外が突破されて中に入るようなことがあっても、中のグループと挟み撃ちで潰す。
   敵は飛行能力で逃げようとするが、ネットがあって痛めつけられるだけ。と、こういうわけだ」


「まぁ、うまくいけばいいけどな」
「うまくいくに決まってんだろ、滝浦隊長の作戦だぜ??」

勇がそういっている間、妖魔群は急降下を始めていた。