神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第一章 第三話 「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-23
「さてと……どうする?これから」
「どうするって……戻るだろう、本隊に」
荒川は気絶した勇を左肩に担ぐと無線のスイッチを入れた。ダイヤルは滝浦。
「こちら荒川二曹。先ほど無の討伐に成功、只今より帰隊します」
しかし返ってきたのは罵声だった。
『馬鹿野郎!!こっちは群れが暴走して歯止めが効かねぇ!とにかくさっさと戻ってこい!!』
それを聞くと、荒川は井上に視線を移して声を上げた。
「急ぐぞ!」
「ちょっと待って、これはこのままでいいのか?」
今にもぽっかりと空いた穴から外に出ようとする荒川を、井上は無を目で示して制止した。
荒川はめんどうくさそうに頭をボリボリとかく。
「どうせ死んでるんだろ、今は本隊の危機だ、いくぞ!」
「「了解」」
真里谷と井上の二人を先に行かせると、荒川はぐったりしている勇を立たせて頬を平手で殴った。
乾いた音が響き、勇は目をパッチリオープンさせる。
「――?!あれ?班長?なんd――」
勇が目覚めるのを確認するや否や、荒川はポイッと勇を投げ捨てた。そして穴をくぐって走り去る。
「え!ちょっと!?班長待って!!」
多分、ついてきている。と思う。
荒川はそう信じて全力で走った。迷子になられては困る。
もうすぐで着く、というところで今度は上蔵から連絡が入った。
『こちら上蔵。よく分からないがキザラビスタが一斉に壁の方に向かっている。
方向的にはそっちの方だから、本隊が追い付くまでには何とか食い止めろ』
「……了解。三人…………と一匹しかいませんが食い止めて見せます」
荒川は言い終えると後ろを振り向き、三人に向かって叫んだ。
「群れがこっちに向かってる!一人一人相手してたら持たねぇ!
俺と真里谷で大方潰すから、井上と五十嵐はこぼれたやつを叩け!」
「「了解ッ!」」
「え、ちょっと待って何すんの?え、ええええ!?!?」
一人だけ場違いな状況にもかかわらず、見る間にキザラビスタの群れがこちらに向かってくるのが見える。
群れは少しずつ、着々と距離を詰めている。そして――
『地割れ!!』
真里谷が叫ぶと、地面が大きく揺れ、目の前を横にはしって地が裂けていく。
群れは無視して突進してくるが、先頭集団は次々にその谷へと落ちていく。
しかし、それを踏み台にしてまだ無数のキザラビスタが襲い掛かってくる。
『流星群ッ!!!』
今度は荒川が両腕を振り上げ、それを群れに向かって投げつけた。
空に浮かんでいた火の玉が、次々と群れに落ちていく。
「五十嵐、行くよ」
「え、あ、はい!」
とりあえず、ぶっ飛ばせばいいんですよね。と勇がつぶやくが、井上には聞こえていない。
しかし、勇は前を向き、ニッと口の端を持ち上げた。
「見よ!俺の新技を!!『サンダードライブ』ッ!!!」
勇はヌンチャクを胸の前で交差させると、両腕を力の限り薙ぎ払った。
ヌンチャクの間から閃光がはじけると、それは草原を突き走って一匹のキザラビスタに命中した。
金属は電気を伝える。その隣の、そのまた隣のキザラビスタもそれに感電し、バタバタと倒れていく。
勇はニシシッと笑った。
「おもしろっ!」

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