神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-15


   西暦3138  夏 (16年前)    西防壁エリア

井上は西の出身で、二十歳になるまでそこで過ごしていた。
井上の16年前の姿は今とさほど変わらない、人当たりもよく、物事の善悪を見極める少年であった。
そんな井上に、ある時転機が訪れる。

「……あれ?」
誰もいない小さな公園、太陽が輝く下で、井上の目にふと引っ掛かるものが映った。

――段ボールの箱だ。小さな小さな滑り台の下に、小さな冷蔵庫程の大きさだが、ふと違和感を憶えさせる。
井上は小走りでその段ボールに走って行った。
中身を知っていたのか、それともただの好奇心か。おそらく後者に違いない。

上からそれを見下ろすと、ふたは閉じていた。
ガムテープの跡があるが、ふたを固定しているテープはどこにもない。

井上はあたりを見回し、ふたに手をかけた。が、一旦手を止め、今度はしゃがみ込む。
そして、段ボールの側面に手を掛け、ゆっくりと押してみた。

「重いなぁ」
力を入れれば動きそうだが、持ち上げることはできないようだ。
井上は立ち上がり、意を決して、今度こそふたをパカッと開けた。


「うわっ!!」
井上は飛び上がり、尻餅をついた。条件反射で声が出ない。
                  、、
だが、その中に入っていたモノはしっかりと見た。


――人だ。


生きているのか、否か。
それは井上の恐怖をあおり、井上は一歩、また一歩と後ずさった。しかし――


『ヒョコン』
「――――っ!!?」

人、いや、少女がはこの中から顔をだし、こちらを見つめている。
井上はわなわなと目を回している。

「……よいしょっと」
「※?☆!#%$&~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

あろうことか、少女は両手をふちに掛け、箱の中から出てきたのである。

井上が失神しかけた時、目の前に影が現れた。
少女は井上の前でトスンと膝を落とし、顔を上げた。

年は小学三年生である井上と同じくらいだろうか。
水色のTシャツの上に、フードつきのパーカーを羽織っている。
デニムのスカートをはいているが、靴はなく、裸足だ。
全体的に茶色く汚れており、黒髪のショートヘアはボサボサだ。

「あんた、名前は?」
「……え?」
段ボールから這い出してきたとは思えない口調で少女は言った。

戸惑っている井上に、少女はもう一度追い打ちをかけた。
「名前は何って聞いてんの」
「あ、春樹…だけど、き――」

君は? と言おうとして口を開きかけたところで、胸に重みがかかった。
とっさで体重に耐えきれず、井上は後ろにごろんと倒れる。

「――弥生」
「え、やゆよ?え?」

自分の胸に顔をうずめている少女は小刻みに首を振った。


「やーよーい、だってば」


セミの声が、遠くで聞こえる。