神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-6


               *

「次、21108番。入りなさい」
「はい」
勇は廊下に用意されていたパイプ椅子から腰を上げた。
隣に座っている川島が一個席をずらし立ち上がった勇を見上げる。
「がんばれよ」
「おぅ」
勇は『検査室』と掲げられたドアの前で一つ深呼吸してノックした。
「失礼します」
「どうぞ」
部屋の中は学校の少し広めの保健室のようになっていて、検査器具が手前に配置され、
そのわきで研究員と思われる若い男性がコンピュータをいじっていた。
部屋の奥には事務机が二つあり記録係3人が鉛筆を片手にこちらを見つめている。
そのうちの一人だけは鉛筆を持っておらず、座っている椅子も周りのそれより少々良質だ。

『ストップストップ』
川島が回想を中断させた。
「なんだよ、いいとこだったのに」
勇が口をとがらせると川島は呆れたように言った。
「3人も記録係が必要かよ。記録と監督と特別出席、鉛筆持ってないのが青木一佐だ」
「でも二人は鉛筆持ってたぞ?」
「もう一人は研究員の仕事ぶりを見てんの。アー ユー オーケー!?」
馬鹿にすんなッ!と怒鳴りそうになったが、飲み込んで回想を再開させた。

コンピューターを触っていた研究員がこちらを振り返り、勇はベッドに仰向けになるよう指示された。
心電図のようなクリップを体のあちこちに挟まれると、やがて『ピーッ』という音声と共に、機械が紙を吐き出した。
それを研究員は慣れた手つきでビリッと破り取って目をやった瞬間、硬直した。
「どうしましたか?」
低い男性の声が向こうから響いた。
「いえ、なんでもありません。――性雷シピア、――は――。容量はおよそ4200。それで……―――が微反応ありです」

『ちょっと待てコラ』
「なんだよ」
「なんだよ、じゃねぇよ。ここらへん千切れ千切れじゃねぇか」
勇は思わず笑った。
「仕方ねぇだろ、さっき>>34で『記憶の断片を』って言ってたぞ」
「ナレーターがアホなんだ。一番肝心なとこが分からねぇじゃねぇか。もういい、やめだ。」
川島は吐き捨てると、寮へと歩き出した。仕方がないので勇もそれを追う。しかし――
「お、思い出したぞ!」
勇は歓声を上げた。宝の地図を見つけたかのように。
川島は顔を喜の一色に染めて振り返った。
「あの人最後にバーなんとかって言ってた!!」
「思い出せてねェ―――――――!!!」
勇は川島に一発はたかれると、寮に連行されていった。