神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-25


草原を駆け抜け、ゼンザスの権限で防壁を押し開くと、荒川はあたりを見回した。


  ――どこに消えた――?

その時、視界の傍に白いそれらしき物体が映った。

「そこか!!」
荒川はボッと拳に火をまとわせると無に向かって殴りかかる。しかし――


「!?」

あると思っていたらなかった最後の一段。それを踏み外したかのように、荒川はバランスを崩して着地し、前のめりに転んだ。
はっと後ろを振り返ると、無の姿は煙へと変わっていた。幻覚だ。

「くっそ!!」
荒川は誰にともなく叱咤すると、無線を手にそのダイヤルをいじって耳に当てた。

『はい、通信連絡課です』
「こちら第一部隊!すぐさま西防壁エリア内に地下避難警報を入れてくれ!」
『え、しかしレーダーにはシピア反応が確認されていませんが』
「馬鹿野郎! 事は一分一秒を争う、説明は後だ!」
『り、了解しました!』

それで無線機を壊れるほど握りしめると、再び荒川は走り出す。行先は――決まっていない。

「どこだ?……どこにいやがる!?」

もうしばらくすれば警報が鳴るはずだ。そうなれば近隣住民の安全は確保される。
ただ、短時間で見つからなければじわじわとこちらの精神力は削られていく……一刻も早くとらえなければ。


しかし――








               ――その時全てが決まった。











「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

東西南北防壁エリア内の中央に必ず設置されているレーダー塔――
そのてっぺんで、白銀のそれは凛々しく居座っていた。

『こちら通信連絡、只今通信機器の故障により警報が一時鳴らせない状態となって……――』
胸から聞こえてくる連絡も、荒川の耳には届いていない。

そびえたつ塔を、ただただ口をあけて見上げるだけ。

その時、キ――ンという高音が耳を突いた。即座に近くのメガホンに視線を移す。


――警報が鳴るか……?
しかし聞こえてきたのは低い男の声だった。




『――戦うものよ、空を見よ』


言われて荒川は空を見上げる。しかし、そこにはいつもと変わらぬ空が広がっているだけ。
放送は続く。



『世界は、お前たちを中心に回っているのではない』





















長い沈黙が続き、やがてふっと風が吹き、気づいた時には塔の上の無は消えていた。

しかしその瞬間、目の前を何かが高速で横切つのが目に入った。


「っ!待て!!」
荒川は叫んでその後を追う。すごいスピードではあったが、確実。あれは無だ。


住宅街の角を曲がり、坂道を下り、とある公園へとたどり着く。
無はジャングルジムを駆けのぼり、そこから壁を飛び越そうとしているらしかった。

「待て!!」

再度荒川は叫んだ。無は静かにこちらを振り返り、そして見下ろす。
荒川は乱れた呼吸を必死に押さえつけ、あくまで冷静に尋ねた。

「……何が目的だ」

しかし、無はグルルル、と唸っただけでヒョイと壁の向こうに消えてしまった。
荒川はそこを動かなかった。唯一無二の、人間が壁の向こうへ出られる門。ここから走っても間に合わない。

ちっ、と舌打ちをして、荒川は地面の石を蹴り上げた。