神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-30


「……おい五十嵐、時間だぞ」

4時限目の講義終了後、川島は日課となっている「五十嵐起こし」をすると、まだムニャムニャ言っている勇を置いて講堂を後にした。

「えっ!?あっちょ!川島待てこのっ!!」
置き去りにされた勇は机の鞄をひったくって川島を追う。

追いついてから桐山がいないことに気が付いた。
「あれ、桐山は?」
「さぁな、教官に用があるとかじゃねぇの」

適当にあしらう川島の足取りは重い。
それはそうだ。この後に待っているのは昼食。なんと
「今日のメニューがレバーだからとかいう理由じゃねぇぞアホ」
「え!気づかれてた!?」

勇の周りには、時々エスパーを使う奴がいるから本当に困る。

「一回部屋に戻ってから食堂に行くか」
川島が腕時計を見ながら言った。
時刻は11時半。招集は正午だから、昼食は早めに切り上げなければならない。

しかし、勇は申し訳なさそうに口を開いた。
「その前にちょっとトイレn「勝手にしろ」


     -*-


「へー、第七会議室なんてのがあったの」
講義の後すぐさま寮に戻った桐山は、郵便受けに入っていた紙切れを見て驚きの声を上げた。

招集場所は通称「会議廊」と呼ばれる会議室が並ぶ本棟二階のさらに上、三階にあるらしい第七会議室だった。
会議廊以外で会議室なるものを見たことがない桐山にとって、結構なカルチャーショックである。

「『今後、当会議室は裏鉄隊作戦本部として利用、一般隊員の入室を禁ずる』、だってさ。こわこわー」

しかし、その下に書かれている一文を見て、桐山は固まった。


  『なお、上記の情報は全て内部機密とする。これにより知得した内部機密を漏らした者は、第二級の刑罰に処する』


「だ、第二級って何だっけ……失職と免許没収と寮外退去と……こわっ!まじこわっ!」
桐山は身震いした後キョロキョロと辺りを見回して紙切れをポケットに突っ込む。

「と、とりあえずご飯食べよう!」
桐山は全速力で食堂へと向かった。


勇は、もはや壁にかかっている時計をガン見していた。
秒針が動く一つ一つの音が室内に響き渡る。

そして、ついに長針が短針と重なった。同時に勇は室内にいる人数を目で数える。


「12人、いるな」
部屋の前に掛けられているホワイトボードに寄りかかっていた荒川は、立ち上がりながら言った。

正午。裏鉄隊の仮メンバーは、全員集合場所である第七会議室に集っていた。つまり――

「全員入隊、以降この事実が覆ることはない。分かってるな?」
荒川は全員を見回しながらそう言った。誰も、何も言わない。


「一つ言い忘れたことがあった。全員英語は話せるか」
「へ?」
一人意味不明な顔をする勇をよそに、他のメンバーは頷く。

ちょ、ちょっとまて一体どどどどういう……

「いや、ちょっとした確認だ。大した問題じゃない。では今から裏鉄隊作戦本部室に移動する」
「え?ここがその本部室じゃないんですか?」

ユーフェルが驚いたように口を開いた。荒川は首を振って歩き始める。

メンバー一同はぞろぞろとその後を追う。
しかし、荒川はドアの方へとは向かわず、部屋の奥の方にと歩みを進めていた。

一体どこに、と思った時、突然荒川は立ち止まった。
事務机が正方形を作るように置かれている、その後ろである。特に何もないし、ここから何が――

「少し下がれ」

荒川はそういうと、壁際に寄って照明のスイッチに手を添えた。
そして上下に並んだ、左右にカチカチやるタイプのスイッチの上の一つに指を載せ、右にカチンと押した。

しかし蛍光灯には灯りが灯らない。メンバー全員が首をかしげた。

今度はその下のスイッチに指を移し、再び右に押す。やはり電気はつかない。一体何が起こるというのか。
と突然、荒川は一見無造作とも思える手つきでパチパチとスイッチをいじり始めた。
十秒ほどカチカチカチカチと無機質な音が響き、そしてついに荒川はその手を止めた。


……何も起こっていない。


しかし、そう思ったのは一瞬だった。
突如として低いモーター音が響き渡る。

どこから聞こえるのか、メンバーが周囲を見渡していると……

「あ」
峰が口をあけて天井を指差した。つられてその指の先を見る。

「――あっ!」

思わず勇も声を上げた。天井の一部が、正方形を切り抜くように開いていた。
正確には、蝶番が正方形の一辺に設置されていて、上からモーターを利用して引き上げているのだろう。
見る見るうちに正方形は開かれ、そしてついに天井には穴が開いた。

しばらくして、今度は細かいモーター音と共に穴から梯子が下りてきた。
メンバーは皆、あっけにとられている。


そしてようやく、梯子が床に着き、モーター音が止んだ。どうやら終わったらしい。

再びしんとした空気の中、荒川は梯子の方に歩き、手近な踏桟に手をかけてこういった。


「ようこそ、裏鉄隊作戦本部へ」