神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-9


こちらにゆっくりと近づいてくるキザラビスタの大群を前に、川島はごくりと唾を飲んだ。
『氷撃隊、雷撃隊は戦闘態勢を整えろ。くれぐれも突出した行動にでるな』
耳元で唸った滝浦の声と、迫りくる群れの両方の情報をキャッチし、川島は息をひそめる。

「大丈夫ですか」
今回も同じ行動をとることになったファレンが隣でささやいた。
「はい、問題ありません」
川島は袖で額の汗を拭いながら答える。

作戦や攻撃パターンなどは作戦会議で耳にタコができるほど聞いた。
間違っても失敗することはない。

息をひそめ、そっと手を塹壕の縁にかける。そして――

『行け!』
「っ!!!」
滝浦の合図で身を乗り出すと、目の前にいたキザラビスタの顔に氷をかぶせた。

『ぐあっ!?』
敵は完全によろめき、足元をぐらつかせる。そこに、隊員たちの雷と吹雪が打ち付けられた。
川島は上蔵のブリーフィングを思い返す。

    まず、俺たちは敵を囲うような形の弧状の塹壕を重ねて二つ設置する。

    第一幕には雷、氷撃隊の両方がスタンバイ、その後ろの第二幕には他シピアが入る。

    敵が群れであるからには必ず「リーダー」がいる。

    こちら側に敵を引きつければ、9割9分9厘、リーダーが先頭になってやってくるはずだ。

    第一陣はそこを狙ってまずはリーダーを倒せ。

第一陣から視界を覆い尽くすほどの(弾じゃないが)弾幕が張り巡らされると、無線に一時休止の命令が入った。
こちらの攻撃は止んだがしかし、静寂が訪れることはなく、敵の猛反発が始まった。
次々に金属光沢を光らせるキザラビスタが襲い掛かってくるが、その中にリーダーはいない。

    リーダーを潰せば群れは崩壊する。

    群れは怒りと解放でがむしゃらに攻撃をしてくるはずだ。

    だがここで怯んだら負けだ。塹壕から出て接近、いや、密着戦になる。

    敵は刃物という一見恐ろしい武器を持っているように見えるが弱点は多い。

    たとえば腕が金属に変化している場合は肩から背中にかけて一撃食らわせるだけで敵はひるむ。

    これは支える側の身体の危険信号による一種の条件反射だ。

    敵の変化部位と動きを読んで、一撃一撃確実に決めていけ。

川島は塹壕から飛び出すと、氷で作った太い氷柱を両手に二本握りしめた。
一匹のキザラビスタが金属になった腕を思いっきり振り下ろしに来る。

川島はそれをすっとかわすと、背後を見せたキザラビスタの背中を見て振りかぶった。敵の肩は白い。
  アイシクル
「『氷柱』ッ!」
川島は両腕を振り下ろすと、氷柱をキザラビスタの両肩に投げつけた。

『ドドッ!』
氷柱は敵の体に深々と突き刺さる。
キザラビスタは悲鳴を上げ、一瞬にして腕が白い毛におおわれた。
川島はキザラビスタの手首をガッとつかみ、力を込めた。キザラビスタの腕が徐々に凍っていく。

 フリーズハボック
「『凍破』!!」
川島はそのまま大きく横に薙ぎ払った。
つかんでいたキザラビスタの腕がボキッと嫌な音を立てて折れると、体の方は塹壕に激突した。


「……まずは一匹」

川島は凍った腕をポイッと投げると再び両手に氷柱を持った。