神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-16


「終わったようだな」
荒川がこちらにあるいて来て腕組みした。メンバーは見あげるようにして荒川を見つめる。

荒川は説明を始めた。
「では、訓練の詳細を説明する。諸君に討伐してもらうのはレベル5に相当する『コルピオス』。
 セリアム大陸に生息する為、諸君が相対したことはないはずだ。コアは地、火混じり。以上だ」
「え、それだけですか?せめて効果的なシピアとか……」

声を上げたのは峰だ。
確かに、初めて戦うのには情報が不十分過ぎる。周りのメンバーも同調するように頷いている。

しかし、荒川は斬った。

「未知の妖魔が住宅街で暴れてたら、お前はそう言って逃げるのか?」


……全員が息を飲む。

「作戦会議は3分だ。戦闘中に諸君は一度だけタイムを取ることが出来る。時間は同じく3分。諸君の健闘を祈る」

荒川はそのまま踵を返して宴台の方へと歩いて行った。

「これじゃゲームだな」
川島が苦々しい表情で言う。

「気にするな。とりあえずは倒すことを考えよう」

榊の言葉に、全員が頷いた。そのまま作戦会議へと移る。

「とりあえず、最初の15分は個々独立で攻撃していこう。
 その後タイムを取って作戦を練る、これでどうだ?」

誰も反論しない。
しかし、そんな中ヴィータが口を開いた。

「僕が15分内で倒してあげよう」
「出来るんなら助かるぜ」

しかし榊の口調はまんざらでもなさそうだ。そのまま榊は続ける。

「峰と御伽は二士トリオのサポートに回って」
「は、はいっ!」

二士トリオって俺らの事か、と、勇は内心苦笑する。


その時、遠くから空を突くような妖魔の鳴き声が聞こえてきた。
全員、声のした方を振り向く。もう既に向こうは準備万端のようだ。

「よっしゃ行くか!」

榊の一声で、メンバーは立ち上がって歩きだした。


ガショーンという金属音とともに、
普段特殊車両が入ってくる門から何本もの縄で繋がれた妖魔――『コルピオス』が姿を現した。

コルピオスは、名前の通りサソリ型の妖魔だった。
全長は大体10m。外骨格で覆われた体は、ちょっとやそっとで砕けそうな強度ではなさそうだ。

繋がれている縄の先は数人の隊員が持っているが、コルピオスは今にも引き千切って突進してきそうな形相で唸っている。
しかし、なんとかそれを食い止め、コルピオスと隊員たちは一種の綱引きをしているようにも見えた。


「これが、俺たちの遊び相手か」

榊が腰に手を当てて言うと、隣の真里谷が頷く。
「確かに、今まで見たことがないタイプの妖魔です」


その時、演台の上に立っていた荒川が無線を入れてきた。

『制限時間は1時間、諸君の好きなように倒せ。ただし、支部の損害が酷い場合は即刻中止とする。
 では……始めッ!』

その瞬間、繋がれていた縄がブチブチと切れ、解放されたコルピオスはグラウンドを砂埃上げながら突っ走る。

強靭な六本の脚、天を突く長い尾針、そして巨大なハサミ――


それらが器用に、しかし力強く動き、徐々にスピードを上げながら突進してきた。

「うおあっ!?」

一団の少し手前で右のハサミを大きく振り上げたコルピオスは、突進の勢いでそれを内側に引っ掻いた。
必然的にメンバー全員を襲う広範囲攻撃となり、勇は声を上げて左に飛んだ。

ざっとメンバーを見るが、どうやら全員回避できたらしい。

しかし安堵する余裕もなく、一番近くにあった脚の一本が人間でいうキックのように勇に襲いかかった。

「っ!!」

間一髪で後ろによけたが、後数十センチ前だったら顎から後頭部にかけて脚がグッサリ刺さっていただろう。
現にコルピオスの脚の先はそれぐらいの鋭利さを誇り、キックのスピードも半端じゃない。空を切る音が聞こえそうなほどだ。

しかし、そんな状況に陥っているのは勇だけではなかった。

コルピオスは六本の脚を器用に扱い、メンバーを自らの体に近づけまいとしているようだ。


「ちっくしょう、殴んなきゃ始まらねぇよな!」

勇は腰に差していたヌンチャクを引き抜くと、それを両手に構えて斜め前に思いっきり跳ねた。
コルピオスの胴体が眼下に入った時、電流を纏わせながら両腕を上から下に振るった。

両方のヌンチャクがガキンッと音を立てて胴体に直撃し、勇はその勢いで前に一回転する。

(――くっそ・・・金属みたいに堅ぇぞコレ)

宙で回りながらそんな事を思っていると、ふとあることに気づく。
このまま胴体を飛び越え、反対側に着地しようとすれば、必ずそっち側の脚が落ちる勇を捕らえるはずだ。

「!!――ヤベッ!」

しかし、飛んでいる勇は方向転換することもできない。
勇の高度は下がり、コルピオスの右後方の脚がギュッと縮んで今にもキックをかまし、勇を串刺しにしそうな時だった。


『ガ チッ』
「――!?」

コルピオスの脚先が、地面から離れることなく勇は着地した。

何があったのかと振り返ると、脚と地面が氷で固められていた。はっとしてあたりを見回すと、すぐそこに川島の姿があった。

「か、川し「いいから避けろ!持たねぇぞ!!」

その言葉の通り、脚の筋力に負けた氷は粉々に粉砕され、コルピオスは上からたたきつけるように脚を振りおろした。

しかし、勇は軽々とそれをよける。

ひと段落してから勇は川島に向かってニッと笑って見せた。


「ありがとな!」
「どういたしましてッ、だ!」

川島はコルピオスの叩きつけられる尻尾を避けて言った。

――まだまだ、これからだぜ……!


勇は再びヌンチャクに力を入れた。